黒薔薇仄聞―壊れた心満ちる絵師の故郷―
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:6人
冒険期間:12月14日〜12月29日
リプレイ公開日:2004年12月22日
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●オープニング
休憩代わりの薬一瓶、夢や娯楽は時の無駄。
その少年は貧しい身なりをしていた。
キャメロットより西へ185kmほど進んだ先にバースという町があるが、その町からさらに北のバース北方領土、東北の山岳地帯の麓にひっそりと点在する無数の村の一つから此処まで歩いてきたという。
年の頃は十五程度だろうか。来る途中追い剥ぎやモンスターに襲われ、身ぐるみは剥がれて残ったのはその身一つ。少年は床に頭をすりつけんばかりの勢いで懇願した。
「お願いです。確かに今は何もありません。王都キャメロットのギルドに頼めるような身分でないことも承知です。お望みならこの身を売ってきます! ですから、どうか、どうかラスカ村を助けてください、僕だけじゃ駄目なんです」
凛とした切実な願いだった。ここまで言い切って金がないから駄目です、なんて言ったら人道的に拙い、非難が絶えない。とはいえ完全な無報酬。村に行くのも帰るのも、期間的に大幅な時間がかかる。出費のほうが大きく、実際得る物も少ないだろう。経験や報酬目当ての冒険者にとっては端にも棒にもかからない話だ。当然、聞かなかったフリを決め込む者は多かった。触らぬ神にたたりなし。
ギルドのおっちゃんは少年の頭をあげさせて一室に連れて行くことにした。くるりと静かな場所を振り向き、知らないふりを決め込む冒険者達に一声投げる。
「報酬も無し。出費もかさむし労力ばかり使うかもしれんが、助けてやろうと粋な考えのある奴ぁ日が沈んでからで良い、こいつの部屋にいってやんな」
そして少なからず少年の声が何人かに届いたらしい。話ぐらいは聞いてやろうという者も居ただろう。少年に一体ラスカ村とやらで何が起こっているのか訪ねた。
「一人の錬金術師を名乗る薬師が、薬を売り出したことから始まりました」
ラスカリタ伯爵家が統治する領地の片隅にあるラスカ村は静かな村だった。慎ましくも心豊かで、それこそ絵に描いたような平穏な暮らしをしていた。
ところがある日、一人の錬金術師を名乗る薬師が現れたという。
その薬師はラスカ村の平穏を問題視して一つの薬を与えた。その薬は『眠らなくても済む薬』であり、眠ることなく二、三日は動き続けるという画期的な薬だったが、世の中そう上手くいくはずもない。二週間、三週間と経つ内に過労死する者が現れた。
「ラスカ村は長閑な村でしたが、薬師の演説を聞いていると不思議と飲まなければならないという脅迫概念に駆られるんです。僕も一度、飲みました」
まさしく雲の上を飛ぶような清々しい気分になれたと言った。ただし薬の効果が切れた二日後に無理をした影響がでて、一晩苦しみ、一週間ほど寝込んだという。しかし効果が切れる前に薬を飲めば、痛みも疲れも感じない、感覚が麻痺した状態になり村人は大抵其れを続けた。
そして、村は崩壊を始めた。
「薬師は村人が皆薬を飲むようになった頃に何の前触れもなく消えました。ラスカ村で最も裕福だった小さな商家がかなりの数を買い込んでそれでおしまい。村人は飲み忘れて苦しんだ者を見ていますから、どうせ死ぬなら痛みも疲れも感じないほうがいいと」
残された薬を奪い合うようになった。
村の消滅までカウントダウンが始まっている。すでに村人の五分の一は薬で過労死しており、ほぼ全員が中毒者といっても過言ではない。また自ら薬に手を出した愚かな小さな村など知らぬと言う風情で伯爵家は見向きもせず、薬の恐ろしさを知らないからか、その内静かになるだろう程度の認識しか無いそうだ。何度門前で叫べど喚けど、耳を貸さず。
考え抜いた少年はギルドに救いを求めた。
「薬を抜くには苦しむしか方法がない。でも暴動になりかけていたくらいです。僕が此処まで来るのに、途中でトラブルがあったので一週間かかりました。帰るのに五日から六日、今も誰か死んだり苦しんでると思うと」
顔を覆った。絶望的な顔をしている。
「分かった、分かったよ。力になってやる」
販売されていた瓶には二種類があるらしい。少年が自分が飲んだという瓶を冒険者達に差し出した。中身は空。それぞれ黒薔薇の絵が記され、下に奇妙な絵文字が書かれているという。もし古代魔法語を学んでいる者がいたならば、文字の意味が読みとれたかもしれない。
きなくさい話が舞い込んだものだ。
「君、名前は? きみとか、あんたとか、呼びにくいだろ」
「ラスカ村出身ですからパステル・ラスカとでも。名前はパステルといいます」
平民に姓はない。それが故、出身の村の名前をつけて名乗るのが常である。
パステルは溢れんばかりの笑顔で感謝した。
●リプレイ本文
そこはキャメロットでも、問題の村でもない。
「なかなかいい具合に壊れたようね」
「民衆をあおるには、もう少し時間が必要だ。まだ足りない」
「あらでも。ラスカ村を壊せたのは重要な事。あの子は扱いが上手い。さすが北の担当といったところかしら」
何処かの闇の中で、くすくすと笑う声が聞こえた。
村は死の気配で溢れていた。すでに多くの者が亡くなっているが、人々には弔う余裕もないらしい。次は自分だと認識してだろうか。道端に放置された遺体の数々は腐敗臭を漂わせているものもあるし、干からびて干し肉のようになっているものもいた。
パステルの手引きで村に入った冒険者達は、計画を立てて迅速に動いてゆく。内、ガディス・ロイ・ルシエール(ea8789)だけは自分がハーフエルフと言うことも考慮してかパステルの家で問題の二種類の瓶にある古代魔法語について調べることに専念した。
「これが、話にあった瓶ですね‥‥では少し拝見して」
瓶は比較的新しい物だった。古い年代を予想していたにもかかわらず、瓶はごく最近のもので、文字は人が読めないようにワザと古代魔法語で書かれているらしい。
「天秤‥‥角石、これは、まさか犠牲者を出す為に」
じっと目を凝らすと大凡の意味が見て取れた。完全に解読できたわけではないが、文字は次のような言葉が書かれていた。
――この薬は×を選×せし天秤なり。
この薬を飲みて死界へ歩む者、汝ら大地の命が柱とならん。
汝ら命の×となれ。汝ら大地の角石となれ。
汝らの村が創造されし真の××を果たせ。
やがて定めの時来たる。
××の園は枯れ、血で汚れた×の園は血で清め、真の×きを導かん――。
今回の依頼に報酬はない。冒険者達は無報酬を覚悟で人助けに力を貸した。
冒険者の鏡とも言えるわけだが、御蔵忠司(ea0904)に至っては高価な備品を金にかえ、なんと可能な限り解毒剤を購入して持ち込んだという。病の症状をパステルから医者に伝え、おそらく何かしらの植物からとった毒だろうと言う判断があってだ。そして彼の行動は実を結ぶ。解毒剤は効果を発揮した。忠司はただ死を待つだけの女子供から先に集めて解毒剤を渡し、協力してもらえるように手配した。もうすでに死にかけた者にも薬を渡した。
「心配しないでください。俺達は可能な限り手を尽くして村を救えるように頑張りますから。皆さん、少しでも働こうとしたんですよね、分かってますから、安心して」
否定するのではなく、肯定することから。忠司は心荒んだ者の鎮め方を心得ていた。
忠司達が手持ちの解毒剤で解毒して回っていた頃、ジェームス・モンド(ea3731)が問題の商人の家に赴いて村人の説得を試みた。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。苦しみから逃れる為に、人生を台無しにしても良いのか?」
ジェームスは延々熱く語ったが、村人の心は頑なだった。当然だ。彼らは死に行く者を見ている、目の前で、つい数時間前までしゃべっていた友や家族が苦しみ悶えてのたうちまわり、物言わぬ肉の塊になった光景を目にしている。それが数週間続いてきたのだ。あまりに悲惨な体験に、極限状態に追いやられていた村人達は全く耳を貸さなかった。
二十人前後の解毒を行った冒険者達は、あの後、窓から商家に潜入して薬を強奪した。カノ・ジヨ(ea6914)の協力者により、侵入はスムーズに行われた。倉庫にいた商人に、カノはこう聞いた。
『ご商売なのも判りますが、お客さんが争う今の状況を見て見ぬフリするんですか?』
『商売もあるがね、儂だって飲んでしまったんだ、そうやすやすと』
『では助けて差し上げましょうか?』
忠司が見せたのは重病者用に残していた残り六つの解毒剤の一つだった。解毒剤と引き替えに薬を全て手に入れた冒険者達は、薬を割り、あるいは燃やした。
『今炎の中に消えていくこれが、まさしく人の弱さってやつだな』
『皮肉っている場合ではありません。ジェームスさん、これからが正念場です』
果たしてショウゴ・クレナイ(ea8247)の発言は的を射ていた。薬は消えた、解毒剤には定められた優先順位があり数に限りがある。残りの村人には副作用に耐え抜いてもらうしか道は残されていなかった。何故か。
残念ながら解毒剤の生成とアンチトードはできなかった。毒草に関して知識の長けている者が居なかったのだ。セツィーナが植物の専門的な知識があったが、それはあくまで一般的な植物に関してであり、毒草と薬草の見分けがつく程度で毒草の詳しい判別や活用には至らない。セレス・ブリッジ(ea4471)を含め何人かが錬金術に長けていたが、材料が見つからないのではどうしようもなかった。
「明峰君、女性とお子さん達に食事を。アクア君は症状の落ち着いた方の世話に」
忠司の指示に仲間が頷いて動く。
女性や子供は助けられた。比較的症状の軽かった者が多かった事と、皆が持ちよった解毒剤の成果である。けれど『全て』と言うわけには行かない。救える命には限りがある。
「いけません、そっちを押さえて!」
あちこちから声が飛ぶ。セレスの指示に何人かが暴れる者を押さえ込んだ。
「お願いです、お願いだから頑張って、あきらめたら駄目です」
カノの声は涙に濡れていた。全身をロープで拘束し、舌をかまないように猿轡をはめられた村人。涙と鼻水を流し呻きながら床の上でのたうち回る様は壮絶すぎた。薬の副作用は凄まじく、一人、また一人と苦しみ悶えながら死んでゆく。瞳から光が消え、全身が痙攣を続けていた。全てを救えるのは神ぐらい。無力さを痛感する者もいたかもしれない。
「またひとり‥‥どうして。自分にできることをしなければと思うのに、歯がゆい」
セレスが舌をかむ。材料さえ分かれば、薬を生成することも出来たかもしれないのにと。何故自分は見守ることしかできないのかと拳を握りしめた。顔をしかめたケンイチがセレスの肩を抱く。目を伏せる者が多い中でカノは声を上げた。レゥフォーシアとフェルシーニアの所へ飛んでゆく。
「酷すぎるです、レゥさぁん」
「カノさま」
死が蔓延していた。薬の副作用に耐えぬける者も居たが、耐えられない者も多い。こと薬を多用しすぎた者と老人や老婆に関しては手の施しようがなかった。ただ死を待つだけ。
「僕たちには出来ることをやるしかありません。あ、ガディスさん」
「‥‥どうも、瓶の件でお話が」
ハーフエルフ特有の耳や髪を隠しており、ショウゴ達の所へ解読結果を記した羊皮紙を手渡しに向かった。と、その時、ガディスの瞳が視界の片隅をとらえた。
「何やってるんです!」
注意がそれていたからだろう。今にも舌をかみちぎらんばかりの男が映った。
「い、いけません、おちついて、きゃ!」
「セレス!」
女性の力では弾かれる。舌打ち一つして飛びかかり、腕を押し込んで止めた。ガディスの腕から血が滴り落ちた。かぶり物の布で猿轡の代わりにし、ショウゴとジェームスが男をロープで再び縛り上げた。傷を負ったガディスの腕をフェルシーニアが魔法で癒す。
「だ、大丈夫ですか、い、いたそうです」
心配するカノに大丈夫ですと言葉を返す。
「食いちぎられてはいませ」「――ハーフエルフだ」
今さっきまで男の側にいた少女がぽつりと漏らす。エルフと並んだ場合、その差は歴然としていた。ショウゴはフォローしなければと思い立った時すでに遅し。ざわざわと波紋が広がるものの、冒険者達にすがるしかない村人達には迫害を行う余裕はなかった。それでも白い目は矢のように飛ぶ。ガディスが苦笑して「見ておいてください」と言い残すと、別の部屋へ身を潜めていった。
それから数日間、冒険者達は地道な作業に追われた。死者は出たが村の半分近くを救うことが出来たのだ。
「忠司さん、皆さん見送りに来てくれたです」
カノの後ろには村人達がいた。短い間だったが、村人達は冒険者達に本当に世話になったのだ。何の見返りも期待せず、人助けをしてくれる者はそうそういない。
「ありがとうございました。ご恩は必ず」
「いえ、がんばってくださいパステル君」
「よいか、希望を捨ててはいかんぞ。まだまだこれからだ」
ジェームス達の励ましの言葉に、生き残った村人達は何度も頭を下げた。悲しんでいる暇もないほど、これから忙しくなるのだろう。ふと、一人の少女が周りをきょろきょろしながらも、意を決したように去りゆく冒険者達へ走り寄る。一人の服の裾を掴んだ。
「キミは」
「‥‥パパ、助けてくれて‥‥ありがとう」
少女はガディスにそれだけ言うと、人目を気にしながらも見送りの村人の中へ戻っていった。
「早く帰ってギルドに結果を提出しないとですね」
とんでもない薬がばらまかれたものだと帰り道に冒険者達は語り合った。例の薬の瓶について話し合う中で、村で見つけたもう一つの瓶には次のような事が書かれていたという。
――計画を阻む者現れり。
耳のある者は聞け。口のある者は伝えよ。
紅蓮の星は×を率いて大地を汚す。
心を束ねし人の子らよ、肝に銘じよ。
×の×話が語る真の一つ。
子殺しが起こるのは、王の×生を示すという言葉の通りに――。
「どういう意味ですか」
忠司が問うてもガディスは首を横に振る。
「わかりません。あきらかに一本目とは意味が異なります。多分、なんらかの情報を伝える手段かもしれません。古代魔法語を用いていますが、瓶も文字もごく最近のものです」
そして、どちらの瓶にも同じ一文が最後に添えられていた。
『これら古き言葉を読み解く者、汝、我らが同士にして北が『×の門番』の資格者なり』