芸術家の苦悩―許しを乞う羽―
 |
■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月27日〜02月01日
リプレイ公開日:2005年02月05日
|
●オープニング
「息抜きに天使が描きたいわ。そう、純粋無垢で真っ白な天使よ」
絵師は笑ってモデルの募集をギルドに頼んだ。
幻想画家と呼ばれる女性がキャメロットにいる。名をマレア・ラスカといい、六年ほど前に王都に現れしがない絵師を続けていたが、数ヶ月前フォルシア家の依頼を受けて天使画を描いたことから一気に名声を手に入れた女性である。現在一部の貴族達に根強いファンがいる。彼女はある日、貴族の青年に呼び出されて、その後雨にぬれながら帰ってきた。驚いた自称執事のワトソン君が訪ねるとマレアは笑った。
「さよならって言われちゃったわ。やな男ね」
マレアを呼び出したのは昔馴染みの友人だった。恋人同士というわけではない。ただマレアは好意を寄せていたらしいが、付き合う以前の問題だった。昔馴染みの友人は、ごろつきからある日突然貴族になった。所謂隠し子と言うやつだった。かたやしがない絵師、方や将来有望な次期当主。
さようなら、と言われたからには何かあったのだろうがマレアは笑うだけだ。
「ねえワトソン君」
「なんでしょうミスマレア」
「あんたもミッチェルも私に何か隠してるわね? それも沢山」
忠実なジャイアントは黙っていた。どこか悲しげな顔で、沈黙を保った。
マレアはふっと微笑むと相手の肩を軽くたたく。
「意地悪してごめんなさい。いいわ、どうせ答えてくれないものね」
「申し訳ありまセン」
その数日後。
マレアはワトソン君にモデル募集をギルドでしてもらうよう依頼書を手渡した。
「お願いがあるのワトソン君。息抜きに天使が描きたいわ。そう、純粋無垢で真っ白な天使よ。許しを乞うような‥‥例の絵の資料の為にも天使たちのデザインが沢山必要なの。使徒はもう少し考えないと駄目ね。だから息抜きと資料集めかねて。ギルドに行ってきてちょうだい」
今、彼女の元に大きな仕事が舞い込んできていた。壁画の依頼である。しかし引き受けたものの一向に作業が進んでいない。猶予はたっぷりあるのだが。
「じゃ、お願いね。さーて、ミッチェルの様子みてきましょうか」
仕事とは別に、彼女はよく天使を好んで描いた。何故描くのかワトソンは知っていた。
受け取った依頼書を手にギルドへ向かう。家を振り返って一度だけ、頭を下げた。何故頭を下げてしまったのか。ワトソンはよくわかっていた。後ろめたい事を自覚していた。
「‥‥許してください。ミスマレア」
涙交じりの謝罪の言葉。
そんな様々な思惑が交錯する中、ギルドに募集はかけられた。
三食昼寝つきで天使のモデルはいかがざんしょ?
●リプレイ本文
「さあ! お描きください!」
「お、お、女の子は体冷やしちゃ」
ガチガチガチ。歯がかみ合ってない様に慌てる絵師マレア。ここで一句。
『芸術の、為なら体も、張ってやる』、――双海涼(ea0850)。
キャメロットはまだ寒い季節を過ぎていない。絵師マレアが天使を描きたいと例によって例のごとくギルドでモデルの募集をかけると、モデルは集まってくれた。
顔なじみのフローラ・エリクセン(ea0110)と双海涼に加えて、美声で歌を奏でるバードのリューン・シグルムント(ea4432)。何故かチャームコンテストのオトコと名の知れた(?)ヒックス・シアラー(ea5430)に、ヒックスと顔なじみらしいサクラ・キドウ(ea6159)、そして凛々しい姿が戦乙女を連想させるフランシスカ・エリフィア(ea8366)の六人だ。まずは時間によって光景が全く変わってしまう外をメインに構図を考えた者から描いているわけだが‥‥えらい体張った娘がいたものだ。
「マレアさん。早く描いてあげるのがやさしさですよ」
ヒックスが肩をたたく。リューンを始めとした皆もうなづいた。涼は寒さで唇が真っ青通り越して白かった。胸から下を白い布です巻きにし、水に腰まで浸ったのだ。リアルさを醸し出す為どこぞの鳥から毟り取って来た羽を水面にばら撒き、左手を胸に右手は大きな白い風きり羽を軽く持って蒼穹を見上げる『羽が折れ、還れない天使』がコンセプト。
「早くあがってください、早くあがってください」
マレアが猛スピードでスケッチを取るとフローラがワトソン君が用意した毛布を片手に涼を呼ぶ。女の子は体を冷やしてはいけません。とか色々説教されつつも任務を成し遂げたとばかりに誇らしげである。リューンがうーんと考えた。
「さっきヒックスさんがやりましたし、次はサクラさんかしら」
「私‥‥木漏れ日の下が‥‥いい」
昼間のほうが暖かくて気持ちがよさそうだし、とサクラはのんびり答えた。はっきり言って朝は寒いし、水辺は冷えている。それなら少しでも暖かい日差しの場所でのんびりやったほうが自然体というものだろう。フランシスカも腕を組んで考える。
「悩みますね。場所や希望はお任せということですし」
「フランシスカさんは、何か決めてらっしゃるんですか?」
「前々から変わった依頼があると噂は聞いていて、描かれてみたいとは思っていましたが‥‥いざとなると、一体どうしていればいいのか。いえ、肩の力を抜きましょうか」
涼をワトソン君に任せたフローラが戻ってきた。涼曰く二度の不覚は取るものか、とモデル後はとりあえずあったまり、夜にしっかり毛布に包まってあったかくして、水分摂った後で自分に春花の術をかけてぐっすり眠れば、翌朝にはすっきり回復。だそうだ。
「冷静に考えると真冬に天使のモデルって風邪引くよなぁ」
「そうよ。だから外に出るとき本気って聞いたのに」
と言いつつヒックスもイメージは古代ギリシャ人というさっむい格好で外に出た。筋金入りのモデル達に「はふぅ」とため息を漏らすマレアの脇で、サクラが意外そうに言う。
「ヒックスさんが‥‥そんなことを‥‥気にするなんて」
「それどういう意味かな、サクラさん」
「ヒックスさん‥‥チャーム依頼はどうしたんですか」
ぴく。ヒックスの耳が動く。
「女性ばかりのところに来たということは‥‥。ヒックスさんがそういう人だったとは」
「うわー! 誤解だ! 確かに褌一丁のボディイペイントでよく出場し‥‥ああっ!」
サクラがヒックスを甚振ってる間に「さぁーていこうか美人のお嬢さん方」とフローラとリューン、フランシスカの三人を連れたマレア達の姿は小指よりも小さくなっていた。
昼頃、サクラは希望通りの木漏れ日の中でモデルになった。大きな切り株の上で、剣を抱いて屈み、全身に白い布を巻きつけて。涼と同じく酷く寒そうなのでジャイアントのワトソン君がヒックスと共に周囲に焚き火を用意した。すると、サクラはコテンと横になる。
『あら?』
『‥‥日向ぼっこ、気持ち‥‥いい‥‥ふぁ―‥』
『くっくっく、そのままじゃ風引くわよー、ワトソン君ー運んでー!』
『猫みたいだなぁサクラさん』
フランシスカは凛々しい戦乙女のイメージが拭えない為、いっそそのままいこうという事になった。無理にアレンジするのではなく、フランシスカのイメージを前面に出せたらよいという思いが合ったらしい。下手にあれこれ武装するのではなく剣を持ち、なよなよした様は微塵もなく、凛とした張り詰めた表情で遠方をながむる天使。今まさしく大きく羽ばたこうとしているようなそんな感じだ。
『たってるだけで退屈じゃない? 疲れたかしら』
『それほど軟弱ではありません。必要とあらば夜までこのままでいてかまいませんよ』
『まっさかぁ。はい、終わり。ゆっくりしてちょうだいな』
『そう、します。従騎士時代は従騎士時代で苦労がありましたが、冒険者になってからは、また冒険者としての苦労がありましてね。私は少し頭が固いのか、いい機会ですから、久しぶりにゆったりと過ごさせてもらいます』
家に戻ってみると涼は仮眠を取っていた。起こさないようにしつつ、残るフローラとリューンのスケッチに望む。フローラに関しては全裸に近くなるのでヒックスは部屋から閉め出された。オトコとは切ないものである。
「許されない恋だとわかってます、でも」
白い布纏っただけのフローラ。危うく布が絹のごとき滑らかな肌を滑り落ちるところだった。いやはやキワドイ光景ではあるが、芸術家には裸の人というより美術品くらいにしか目に映らないらしい。フローラのスケッチも完成すれば背に翼が生えることだろう。
リューンは慈愛の天使をテーマとした。竪琴を奏で音を操り聞く者を楽しませながらも、その姿は天使というより母なる女神を思わせる穏やかさをたたえている。窓辺に腰掛け小さな湖の見える森を一望できる窓は、絵画の額のような役割を果たしていた。
「抜け出てくるような、そんな感じですね」
「ほーんとほんと」
フローラの言葉に上機嫌で答えた依頼人。リューンは竪琴の弦から指を離すと、口元に笑みをたたえて上品に微笑んだ。
「お褒めに預かり光栄でございますわ。わたくしごとき恐れ多いことですけれど。バードであるわたくしに天使のモデル、ああ、何か天啓を感じます。是非――」
「マレアさーん、おわりましたー?」
ばーん、と扉から現れたのはサクラと涼だった。後ろにワトソン君にこき使われるミッチェルとヒックスの姿がある。女性にこき使われるオトコの性はやけにむなしい。さておき歓喜に打ち震えていたらしいリューンの視線が冷たくみえるのは気のせいだろうか。
「んもう、涼様。もう少しタイミングを考えてくださいませ。折角バードの糧ともなり得そうな絵画のお話やら芸術のお話へ持っていこうと思いましたのに」
くすん、と恨みがましいリューンの目。
「そうは言っても晩御飯です。聞いてください、私、兄になんか食べさせたこともないくらい色々作ったんですよ! 見てください見てください!」
リューンとフローラ、そしてマレアが向かった先には何やら皿の前で硬直しているフランシスカの姿があった。何か口に入れたらしいが、サクラが声をかけても全く反応がない。
「フランシスカ‥‥さん? フランシスカさーん?」
「‥‥涼さん、一つ聞いていいでしょうか」
何か心当たりを見つけたらしいフローラが涼に恐る恐る尋ねる。
「昔、どんな料理作ったことありますか?」
「鍋でしょうか。ああ、鍋というのは野菜とかを煮込んだりするもので‥‥そうですね、昔モンスター倒しに言った時なんか保存食を放り込んでみたことがありますね」
一同は再び机を見た。異国料理もあり見た目はものすごく美味しそうである。
ちょっと視線をずらしてみた。フランシスカがまだ現実に帰ってこない。
ヒックスが何かよく分からない物体を食べてみた。フランシスカと同じく固まった。
残る一同は再び涼を見た。
とてもとても、滅多に見せないかすかな笑顔で輝いていた。
そんなこんなでモデルをこなしながら日々は過ぎていった。
概ね毎回と同じく、モデルをし、スケッチをとり、宴会で騒ぎながら時を過ごす。
やがて期間を終えて彼らは自分の生活へ戻っていった。
その前日の夜になる。
『綺麗ですねー、月見酒っていうのもいいもんです』
『ヒックスさん‥‥‥裸で踊らないんですね』
『だから、サクラさんはどうしてそう』
『色々見せていただいてありがとうございます。わたくしの歌で噂は国をまたぐかもしれませんわよ?』
『じゃあ私は絵で先に貴方達を広められるか勝負しようかしらね』
『リューンさん、演奏‥‥綺麗でした。‥‥そうだ、マレアさん‥‥モデルはなさらないんですか?』
『私は芸術家だから描くだけでいいのよー。フランシスカちゃんのは部屋に飾ろうかなぁ』
『ちゃ、‥‥私はそんな年では』
『女の子は美しくなくっちゃね。というより、生かすべし? 細かいことは気にしない気にしない』
『マレアさん、何かあったら、絶対お力になりますから! 兄も義兄も残念ながらほっといたって死にはしませんけど、マレアさんはお嬢さんなんですから。色々思うところもありますし、とにかく、心配なんです』
『ありがとう。心配しなくたって、きっと、どうにかなるもんよ』
のんびり月夜を見上げて酒を飲む。
家の外にいても耳に届く賑やかな声。
いつまでも続くようにと祈りを込めた人間がいたことは、誰も知らない。