集え!チャームな同志達!―麗しの愉快犯―

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:12人

サポート参加人数:6人

冒険期間:02月02日〜02月05日

リプレイ公開日:2005年02月09日

●オープニング

 誰かが言った。
 類は友を呼ぶ。チャームはチャームを呼ぶ。
 尚、相手が正常かどうかは保障せずっと。

 さて美形の男というと年頃のお嬢さんたちが胸をときめかす。たまーに乙女の群集に『爺』が混じってることがあるが、そこは理性の踏ん張りどころ。見なかったことにするというのが利口な方法だ。人は「私は何も見なかった」と爽やかに問題を視界から排除する器用な必殺技を本能的に会得している。皆さんも身に覚えはなかろうか。王都キャメロットには変わった趣味の方々がいらっしゃる。ちょっと変わった高尚な趣味と記して角が立たないように配慮するのがその道のプロである。それはさておき。
 皆さんは『チャーム』のつくコンテストをご存知だろうか。
 本来美しい男達を選定するために開催されたものだったらしいのだが、何故か『主催者の企みとひゃくはちじゅーど』道が変わってしまったコンテストであるらしい。本来肉体を磨き、美貌を磨き、技を磨き、男の美とチャームを最大限にアピールするはずのコンテストはチャームコンテストに相応しい出場者に交えて『ひと癖もふた癖もある出場者』を集めるようになってしまった。
 もはやそこに男女の垣根はない。
 いやまぁご婦人達は楽しんでるし、出場者は命より大切なものまで捧げ出すしと他に類を見ない盛況振りで結果オーライということにしよう。
 ともかくチャームのつく大会は様々な伝説を残すに至った。
 爺に大切なものを捧げたとか、全裸に絵を描いて現れたとか、薔薇にまみれて気障を通したとか、裸で剣のジャグリングした人とか、檻につかまった人がいるとか、優勝かけて頭丸坊主にしたとか、仲間を応援しながら引きずり落としたとか、仁義なき兄妹現るとか、美しさに命を懸けて川に身を投げたとか‥‥もはや語りきれない伝説の数々。まともな人もいたはずなのに奇妙な噂ばかりが一人歩きしている。

 そしてそんな伝説に魅かれちゃう馬鹿、いや奇特な、いえちょっと変わった方まで現れるんだからコンテストの行く末はわからない。
「麗しき勇者達はいずこだい?」
 キャメロット付近に現れたのは背中に花しょった『濃い』男だった。なんてゆーか派手だった。登場して街中かまわず悦に入ると、何処からともなくお抱え合唱団とダンサー達が規則正しい動きで彼の周りを取り囲み、更なる華やかさを演出する。何故か彼の周囲は太陽を背にしたかのように光り輝いていた。芸が細かい。
 傍迷惑も甚だしい、もはや視界の冒涜である。
「あああ、麗しき戦士達よ。燃え滾るその雄姿を見るためにはるばる来た僕。君達に出会うにはどうすればいいんだろう」
 その道のプロの村に行け。
 と言い放てる勇気ある通行人はいなかった。
「む、ちょっとそこの君。そうそう、茶色の髪したそばかすのお嬢さん。そう君だよ」
「ひゃひゃひゃひゃぁい!?」
 びしっと指を指されたお嬢さんは固まった。硬直した。とりあえずオウジーザスと心で神に叫んだ。
 男はというと。
「そう。やはりこの手しか思い浮かばない」
「へ?」
「黙って私に、さらわれてくれたまえっっ!」
「ぎやぁぁぁぁぁぁ!」

 ってなわけで怪しい人に娘さんはさらわれましたとさ、ちゃんちゃん。

 じゃあ王都キャメロットのギルドの名が廃る。
 相手がどんなに可笑しかろうが誘拐犯だ。冒険者達よ、冒険者が冒険者たるゆえんにのっとり君達には哀れな娘さんを救出しなければならない。敵はなんとキャメロット近郊に態々舞台を用意した。旅一座でも買い取ったのか立派な舞台に盛り上げ役がついている。
 わけがわからないが敵の要望がシフール便にて届けられた。
 彼はチャームを生で見て、優勝者とチャームで戦いたいという。君達は舞台の上で『チャーム』を競い合い、輝いて勝たねばならない! 勇者達に神の加護があることを願う。
 (どうしょもない)戦に借り出された君達に一言だけ相応しい言葉を贈ろう。

 グッドラック。
 無責任な言葉を投げる私を許してくれ。

●今回の参加者

 ea0127 ルカ・レッドロウ(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1314 シスイ・レイヤード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

フローラ・エリクセン(ea0110)/ ロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)/ マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)/ ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)/ アルス・マグナ(ea1736)/ マルト・ミシェ(ea7511

●リプレイ本文

 冒険者達は今、集合場所の宿の前で感動の別れを、出立を味わっていた。マルトが双海涼(ea0850)の手を握り帰ってくる頃には立派になっているであろう涼を励ました。
「双海の嬢ちゃん、大舞台に出るんだってねぇ。頑張るんだよ。ほら、お弁当。胸はって、ばーんとお行き! あんたなら大丈夫」
「頑張ります。蹴落とす楽しさ、勝利の悦び。それが(チャームな)世界の約束!」
 何やら非常に物騒極まりない発言を小耳に挟んだ気がするが、世の中知らない方が幸せという言葉もある。涼の言葉を聞いた人は取りあえず聞かないふりをするか、警戒した。
 一方、ケヴァリムが着飾ったシスイを眺めて嬉しそうにしていた。『最強プリンセス』あるいは新『二丁目のママ』の称号を関したシスイ・レイヤード(ea1314)の見送りに来ていたのだ。数々の舞台で完璧な女装を披露しているが‥‥たまーに性別を問いたい方も。
「シスイさんはいつ見ても綺麗なんだな。もっともっと輝くんだな」
「ありがとう‥‥がんばってくるよ」
 これは少女救出依頼のはずだ。救出依頼のはずだが‥‥もはや誰もつっこまない。
「みんな遅れてごめんー、フローラが放してくれなかったんや」
 最後の一人シーン・オーサカ(ea3777)が宿から現れる。顔やら首筋にキスマークの痕が見える。ついでに後ろのフローラが顔をこれでもかとばかりに赤くしていた。
「シーンさん、わたし、私、信じてますから!」
「フローラ、ちゃんと無事に帰ってくるって。命の危険はおこさへんよ」
 ちょっと荒いパフォーマンスは入るかもしれへんけどな、と心の中で呟きながら、何かあったら堪忍や、とフローラの額にキスを送る。いやはや何処に出かけるんだみんな。
「よーし揃ったな。クックック、これからが俺の時代! 行くぞ強敵(とも)達よ!」
 アラン・ハリファックス(ea4295)が拳を青空に向かって振り上げる。総勢十二人。
「ヤル人は精一杯ガンバってください! そうでない人はまだ、まだ! 間に合いますよ? 一緒に酒場でゆっくりお話でもして待ちましょ? ね?」
 見送りに来たマルティナがアランの目を真摯な瞳で見つめた。帰ってきてと言う目。
「許せマルティナ、俺には、俺には引き返せない!」
「アランさん‥‥い、逝って‥‥らっしゃい‥‥っ」
 ぐすぐすと泣くマルティナ。しかし「行ってらっしゃい」が「逝ってらっしゃい」と修正指定が入ったあたりマルティナも相当あれである。いや、理解を示しているに違いない。
「わぁ、どきどきするなぁ。舞台の上で、エルのあんなトコとかこんなトコとか全てを赤裸々に‥‥きゃーっもう!」
「せ、赤裸々。一体何を‥‥いや、今に始まったことじゃないよなこのコンテスト。あぁぁ俺どうしよう。万が一の時は‥‥クィー、許してくれ」
 と気恥ずかしそうに頬を染めるエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)もまたやる気満々だ。ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)は今居ぬ彼女に向かって懺悔を始めた。
「さあチャームだ。諸君この逆境を楽しもう。ロソ子さん、見送りに来てくれたんですね」
 ヒックス・シアラー(ea5430)が見送りに来たロソギヌスを発見して少々照れた。するとロソギヌスは屋根の上からヒックスに手を振っている。
「ヒックスさ〜ん、いってらっしゃい。万一の場合、骨は私が責任もって拾いますから〜」
 が、途端屋根から落下しかけて持ち前のドジッ子を披露した。照れていたヒックスは「ツキが落ちます」と一抹の不安とともに照れくささを邪険に現すことで隠した。一方ルカ・レッドロウ(ea0127)とクリス・シュナイツァー(ea0966)の二人は見送りに来た二丁目の皆さんを前に、両者好戦的ににらみ合っていた。
「ハンサムなクリスの兄ちゃんと俺のいい男同士ってコトで一つ、戦いを挑んじゃおうか」
「チャーム歴戦の兵のルカさんとの対決ですか‥‥よ、よろしくお願いします」
 様々な感動(?)の見送りのなかで、レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)は愛する妹の無体な仕打ちに背中に風が吹いていた。ちょっと近づいてみると「妹よ、そんなに兄が嫌いか?」とブツブツ小声が聞こえる。お兄ちゃんというものは大変なのかもしれない。
「娘さんを助けるためなら、俺は全てを捨てる! 依頼後‥‥俺は変わるんだろうか」
 ロット・グレナム(ea0923)は凛々しい決意を固めつつ、やはり不安に駆られる。
「おのれアルス、思いっきり『チャームな』依頼ではないか! 俺は攫われた少女奪還ときいて引き受けたんだぞーっ!」
「んー? 俺は嘘は言ってないぞ〜? 浚われた女性を助ける依頼なのは間違いない。だから、胸を張ってナンパしてこい」
 地の底から響くような恨み声を上げながら風霧健武(ea0403)は見送りを後にした。


『レディィスアンドジェーントルメェン、ウェルカムツゥーザマイステージへ!』
 誘拐犯こと愉快犯は金髪をなびかせ、でっかいステージに立っていた。
 ざわめく見物客、舞台の脇に控える救急隊らしき露出の高いおねーちゃん達と、警護らしい褌一枚姿の油で肌がテカテカ光っているマッスルボディの兄ちゃん集団と、毎回チャームで危険人物の誘導捕獲を担当している『美少年を囲む会』の美少年の皆様と、毎度毎度の審査員の方々が待機。
 一体何処から連れてきたのか、神にも知る由はない。
『さあ諸君! 好きなモノを纏い賜え! チャームを輝かせるのだ』
 突如マッシブメン達が目の前に各国衣装(主に女物)を並べた。準備が良すぎる。
 勝ち抜いた者は愉快犯との対決が許される栄光が待っている!
 え、欲しくない?
『その道のプロの村より出稼ぎに参りました私、司会。思う存分、声たからかに表現し、お伝えいたします! 一回戦第一試合は薔薇の君こと風霧健武と、魅惑の幼女エルシュナーヴ・メーベルナッハ!』
 歓声に紛れて現れたのはエルシュナーヴと健武である。一番手の健武は強固なまでの武装を解き、寒空の中で薄着一枚纏って舞台に上がった。「おお寒そうだ、これはいけない」と主催者の指示で美少年を囲む会の皆さん達が焚き火を数カ所で決行する。さて。
 健武は寒くても気力で耐えた。どっから貰ってきたのか氷漬けの保存された果物を手に、「この甘酸っぱい果実のような一時を共に過ごしましょう」と囁きはじめた。
『おぉっと風霧健武! しょっぱなから誘惑を始めたぞーっ! むしろまだ寒い時期にそんなもの持ち出してみんな不思議に思わないのは何故だチャーム! 続きまして竪琴での歌を披露ですがっ、ておぉっ!?』
 エルシュナーヴは男性の礼服を着て現れた。
 幼い顔立ちに丸みを帯び始めた肢体を隠すようにして男物を着こなしている。普段結い上げていたツインテールもおろし、今は淫らに風が弄ぶまま空に散る。隠しきれない少女の色香。凛とした佇まいと憂いの表情に、会場はほうっと見とれ、波すらない水面のように静かになった。
「二番、エルシュナーヴ・メーベルナッハ。アナイン・シーの愛を歌います」
 以前とある絵師の神話の個展が開かれた際に披露された歌だ。心持ち低い声音が風に紛れて天に舞う。
「我は奏でる蒼月の下。我は歌う宵闇の詩。静謐たる夜、求めるはただ‥‥胸に染みゆく愛の調べ」
 幼い指先が弦を弾く。意図的に低くした声音は歌に聴き入る者の耳を打った。
「詩に生きる人の子よ、その指で、その口で、奏でて見せよ、愛の詩。我が心に響いたならば、我は与えん。神域至る詩歌の才と、我が身の全てを尽くした愛を‥‥」
 やがて歌い終えて司会は打ち震えた。
『す、素晴らしい。なんと全く違う系統同士での戦いです! 高得点が予想されます。一番手。やはり奥様と変わったご趣味の紳士の方の点が高い! 芸術性を求める紳士方々の点数は低いようです。二番手! んん!? ご婦人達の点数が横並びなのはともかく何故芸術性に厳しい方々まで低いのでしょう。一言どうぞ』
『歌声は素晴らしいものであった。しかし儂は例の個展で今の歌を聴いておるのだよ。欲を言うなれば全く新しい歌声を聞いてみたかったな』
 と言うわけで風霧健武準決勝進出。
「ちょっと残念だったなぁ。最初からかっとばせばよかったかな?」
 きっと新しい歌でアピール且つ審査員に妙な紳士が居なければエルシュナーヴに軍配があがったことだろう。
 だがしかし。こういうコンテストは決まってこんな事が起こる。
「知ってますかクリスさん」
「なんでしょうヒックスさん」
「こう言うところは負けても勝っても色んな所からスカウトがくるんですよ」
 何処か遠くを眺めたヒックスの目の前で、エルシュナーヴはお抱えバードにならないかと一部の方々に追いかけられた。
『というわけで参ります二回戦ジョーイ・ジョルディーノとアラン・ハリファックス』
「さァJJ! 互いのチャームを高め合い、悔い無き決着を!」
 アランがやる気満々で舞台に上がったが、肝心のジョーイが現れない。ざわざわとざわめき始めた会場。敵前逃亡でもしたのかと司会が対戦表を眺め。
『えー、ジョーイさんが現れないのでアランさんは不戦しょ』
 と言い始めた途端会場から声が飛んだ。
「あんた達『彼』を待ってるんでしょ?」
『ああまぁ。あなたは?』
「私は謎の美女ジュリア・ジャスティーヌ。安心して、『彼』は逃げたりしないわ。ヤる事は必ずヤる人だもの」
 自分で謎の美女と公言するのもどうかと思うが、謎の美女ジュリアは「そう」と自分の頭に手を伸ばし‥‥ヅラと上着を脱ぎ捨てた!
「俺なら、ここにいるさッ!」
 バァーン! という効果音が欲しい。ジョーイは女装して観客に紛れ込んでいた。ふ、決まった、とばかりに恍惚の表情で胸を張っている。
『えーでは舞台へどうぞジョーイさん』
「ふふふ、会場のみんな、またせたな」
 しかしここでジョーイの演目は終わっていた。どんなアピールだかよくわからない。
 アランは剣や素手を交えて異種剣舞で真面目票を狙う! が、ラストは連続ステップから大剣を素早く拾い上げ、審査のご婦人へ切っ先を向け囁くように言った。
「貴女の綺麗な心に、俺の鋼の舞はジャックポッドしたかい?」
 当然真面目票を狙ったアランが準決勝進出。ジョーイはくぅっと打ちひしがれていたが、面と向かって彼女に謝らなくて済んだのを喜べばいいのか複雑そうな表情をしていた。
『第三回戦は我が司会の強敵ヒックス・シアラー! そしてシーン・オーサカだー!』
 ヒックスは季節はずれのサンタクロースという格好をしながら意気揚々と舞台に上がる。
 何かが、何かが間違っている!
 しかしヒックスは愉悦すら感じさせる表情で囚われの娘さん(実は少し離れたところにいました)の側まで歩み寄り、騎士に恥じぬ優雅な立ち振る舞い且つサンタで剣を捧げるという面白おかし‥‥(咳払い)‥‥否、本来なら見ほれるべき行為に及ぶ。
「貴方を必ず助け出して見せます。待っていてください」
 ヒックスは娘さんの前から優雅に去ってゆく。
 しかしどんなに見栄えよくキメていようが扮装はサンタクロースだ。
『何故サンタ姿だ、ヒックス・シアラー!』
「ふ。勝った、その言葉をどれほど待ったか」
 ヒックスがキラリと司会を見つめる。一瞬呆気にとられた司会は「うおぉぉぉ完敗だ」と何故か地面に崩れ落ちた。ヒックス曰く、姿をつっこませたらボクの勝ち、だという。
 いつから対戦相手が司会になったんだヒックス・シアラーっ!
『は、敗北感を味わいながら参ります! 六番目!』
 と此処でなんとシーンが準決勝に勝ち上がる。というのも騎士風の男装で現れたシーンは舞台上にぐるりと炎の輪を作らせて自分にレジストファイヤーをかけ、炎の中の歌声を披露したのだ。これには審査員含めて会場は驚愕に包まれた。刻一刻と空気が薄くなっていく中で、歌い終えてウォーターボムで鎮火する。頭がくらくらしながら微笑みでごまかす根性は拍手を生んだ。
「ボクが! この僕が一回戦でまけるなんて!」
「あーそや、お願いがあるんよ。準決勝で手伝ってくれへん?」
 この時のシーンの発言が後々とんでも無いパフォーマンスを披露することになる。
 続いて現れたる四回戦の選手は、爺に唇を捧げ、頭髪をチャームに捧げ、股間を凶悪生物にかまれ、と、毎回とんでも無いパフォーマンスでチャームの観客を楽しませてくれる驚異の(不死身の)男ルカ・レッドロウと、チャームの惨劇初体験(ん?)のクリス・シュナイツァーの二人だ。
 初戦から驚異の行動で観客をわかせるかと思いきや、ルカは至って真面目だった。ルカは「ちょいと其処のご婦人、俺の手伝いをお願いできないかなァ」と1人の娘を誘いだし、懐から一枚の白い布を取り出すと視界を覆う。
 そして女性に発泡酒を舞台の何処かに置いてくれと指示した。マッシブボディのおにーちゃん達が開封した発泡酒の樽を用意して遠くに置く。するとルカは樽を日本刀で切り裂いたのだ。
 優れた嗅覚で探知したらしい。
 何故か、何故か今回真面目だぞルカ・レッドロウ!
「――って、この布俺の褌じゃねェかよ!」
 目隠しは褌だった。必ずオチをつける君の精神に乾杯だ。
『八番手のクリス・シュナイツァー、んん? 何やら女装で現れたぞ!』
「冒険者とはどんな依頼でも全力をつくす! それが漢の債務です!」
 果たして素晴らしいと誉めればいいのか、其処まで体張らなくてもいいよと言ってやればいいのか複雑である。クリスは愉快犯主催のチャームコンテストを晴れ舞台と定め、コンテストで勝ち抜くために二丁目の酒場に短期弟子入りならぬ半日ただ働きをしてきたらしい。手っ取り早いのかもしれないが、いやはや、忘れてはならないのが出場者に二丁目の非常勤務ママが数名混じっていることだ。そう、ルカとかシスイとか。
「チャームは男であっても女だと言い張る事が出来る魅力が必要だと聞きました!」
 誰だ、そんな妖しげな文句を教えた奴は。
「ならば女装で逝くしかない! 僕は悩みました、だがしかし、勝つためには手段は選べない! ママさんたちに報いるためにも!」
 えらい熱く語っているのだが、訴え方向が妙な方向にずれている。
「僕は負けない。屈しない。魅力とはいかなる場面においても発揮されるもの!」
 とかなんとか論説を続けて一時間経過。
 熱意は感心するが魅力に結びつかなかった為、ルカが準決勝進出となる。続く五回戦は仁義なき驚異の兄妹の片割れ、狂気的な夢見る乙女の双海涼と、数々の女装でその名をキャメロットに轟かせてきたシスイ・レイヤードの対決なのだが、ちょっと問題が起きた。
「む。しまった」
「どうかしましたか、シスイさん」
 クリスと入れ替わる刹那、シスイが周辺を見回し、そしてあきらめたように首を振る。どうやら第一種目の準備を忘れたらしい。一体何をするつもりだったのかはさっぱり分からないが、急遽、シスイは二回戦でする予定だったネタを初戦で使用することにした。だが、まずは涼の演技だ。
「目を覆っても隙間から見たくなる、スリルとしなやかな動きをご覧下さい」
 舞台上から縄梯子を垂らして、その上で演技。クライミングは慣れている。クライマックスは足だけで一気に逆さまに、そして足を減らして片足でぶら下がり、その状態でピタリとポーズを決める。
 涼は真面目票を狙ったようだ。おぉーと拍手が起こる。そのままサーカスに勧誘されそうな勢いだ。
『続きましては女性よりも女性らしい女装王! シスイ・レイヤー‥‥ぉぉおぉっ!?』
 司会の声が裏返る、第二回戦で扮装予定の着物(借り物)でシスイは現れた。貰った簪を結い上げた髪に挿し、花飾の帯留めで着物を飾り、というか着崩れているのがまた白い素肌に色香を見いだせる。胸元とかナマ足とか。
「暇なの楽しませてもらうわよ?」
 シスイは突如ダガーを抜き放つと、刃先を舌で舐めつつ対戦相手の足下を容赦なく狙った。涼は猫のようなしなやかな動きで身を捻って回避する。かと思えばシスイはウインドスラッシュを放って涼の服を狙い、涼はダーツで狙いを定めた。
「あら? 手元が狂ったわ‥‥ごめんなさいね?」
 艶然と微笑みながらも、ダーツが指先をかすめて滴る血を舐めるシスイ。
「痛みで破れる、かりそめのチャームに、屈するわけにはいきません」
 服の一部を破かれながらも不敵に微笑む涼。
 オォォォォ!
 って感じに二人の背中に『妖気』が‥‥否、『闘気』が燃え上がる!
『容赦なき狂気的夢見る乙女の涼! 女装王として数々の称号を持つシスイ! 果たしてそれは女(?)同士の熱い戦いか!? 今回ダークプリンセス的な涼に加えて、シスイは男として何かに目覚めたか!? 兎にも角にも危険な舞台だーっ!』
 準決勝には真面目票を狙った涼が進出。シスイは三回戦用の準備を眺め、ああ此処で負けて正解だったかもしれない、と独白。なにしろ彼の三回目のテーマはまさしく『女王様』状態だった。詳細は言わぬが花としよう。兄の趣味がうつったのか、はたまた本気でそちらに目覚めたのか。赤の他人に知る由はない。
 さてついに六回戦となった。
 対戦者はロット・グレナムとレーヴェ・フェァリーレン。レーヴェは前回優勝者だ。
 ロットは高い場所から如何にも「悪の魔法使いドゥェス」って感じの格好しながら高笑いとともに落下。あやうく地面とキスしそうになった所で、ほんの数十センチという場所でふわりと浮き上がった。地味だがかなりスリリングだ。
「どうかな? この程度はまだ序の口。続きは準決勝でお目にかけよう!」
 ぶぁさっ! とローブを翻して去っていく。気障だ、気障すぎる! だがそんなものは驚きの内に入らなかった。司会がレーヴェを呼べど現れない。
 はて逃げ帰ったかと思った刹那。
 ‥‥ドンッ。
『はへ?』
 司会がぐるりと音のした壁の方向を眺めてみた。誰もいない。だが。
 ‥‥ドンッ。
 観客の目が一点に集中する。ナンだ。一体何が起きている!? と思うまもなく。
 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!
 壁が!
 木を組んだだけの板の壁がドンドンぶっ壊されている音がする!
『な、なんだ、一体誰が!』
 ドォンッ!!
 一際派手な音がして壁が突き破られた。ほの暗い破壊の向こうから現れたのは。
「‥‥『天井を貫く男』改め『壁を壊す男』推参」
『でた、でたぁああ! オーラショットで仲間も突き破る驚異の男! レーヴェ・ふ』
「違う。おれは『ジェントル仮面』! ミステリアスを愛する謎の男だ!」
 やはり持論は健在だ。
 真顔で言う、真面目に語る、それがレーヴェ。
 例え正体バレバレでも意志を貫く。
「見たか魔王よ。ここに集った11人の勇者達のチャーム力を。彼らは必ずや貴様を倒し攫われた姫君を奪い返してくれることだろう。だがしかし、姫君にも選ぶ権利はある筈。そこで決勝戦の審査に彼女を加えることを提案する。受けるか、それとも臆したか」
「よかろう! では君は此方へ来たまえ!」
 愉快犯はレーヴェの説得を鵜呑みにした。娘さんは縄で自由を奪われているが、賞品席の鎖から解かれて審査員席に移動する。そしてレーヴェはと言うと。
 がちゃっと動きを止められた。
「では君に賞品になって貰おう。仲間も囚われなら彼らも燃えるはず!」
 一瞬会場が静かになった。
「おおお! 帰せー! ここから帰せー!」
 冒険者達よ! 奪還ブツは『娘さん』から『娘さん(+レーヴェ)』に変更されたぞ!
 というわけで、そのままコンテスト続行。
 そこ、酷いとか言わない。
 準決勝第一チームはアランと健武だ。健武は着物を着崩して現れた。アランは胸丸見え黒コートにマスカレードを装備し、耽美でダークな雰囲気を醸し出して歌い出す。
「そこの綺麗なご婦人。貴女を歪んだ愛の世界へ」
 きゃぁ〜! と黄色い声が飛んだ。歌を歌いながら愉悦に包まれたアラン。勝った、二番煎じなど敵ではない、アランは自信に満ちあふれて次なる演技披露の健武をみやる。
 健武は顔が蒼白だった。なにか思い詰めた顔でカタカタと震えている。緊張か、プレッシャーか、あるいは着崩しネタは駄目と判断したか!
 しかしその心配は見当違いだった。
「お、おぉぉぉぉぉぉ?!!」
 健武はきゅっと唇をかみしめ、何かを決心すると、アランに近寄りソッと腕に触れたかと思いきや。
 ‥‥‥‥なんとそのまま押し倒す。
 さて、ここでちょっと我に返ろう。
 アラン・ハリファックスは身長193cm、体重93kgの筋肉質肉体美系。風霧健武は身長170cm、体重63kgのすらっとした好青年系。二人が並ぶと丁度アランの肩に健武の頭がくる計算。ついでに客観的に見て体格差が如実に現れる。
 つまり絶妙なコンボだった。
 なにがってーと、奥様達『女性陣のアブナイ妄想』をかき立てるのに。
「お、おぃ健武! 正気に戻れ!」
「男に二言はない。任務である以上やり遂げるのがプロだ。いざ!」
 哀れ健武。
 生真面目といらぬプライドが立場をどん底に落としている事に気づいてない。
『任務の為なら我が身を犠牲にする事もいとわぬ風霧健武! なんと対戦選手アランに色香で迫り始めたァーっ! 奥様が、奥様達の目が猛禽の目になっている!』
 アランは現在崖っぷちにいた。
 奥様達が恍惚とした表情でギンッと凝視しているなか、コレは任務と頭に刷り込んだマジの服半脱ぎ健武に迫られている。そこで我に返った。このまま狼狽えてはクールビューティーを掲げる自分の立場が無い。ならば同じく色香には色香で迎えうつべし!
 その選択は、悪化を辿る。
『舞台が、舞台が妖しい空気になりつつあります! 噂に違わぬ激しい戦い?! 気圧されていたアランも負けじと仕掛け始めた今! 危険な色香で迫る健武! 猛々しい鬼畜な色香で迎え撃つアラン! 奥様達が抱かれたいアーンド愛でたい男は一体どっち!?』
 お子さまの目には毒なので年齢制限を設けたい舞台だ。
 人生捨てた男達の勝敗の行方はいかに。
『決勝進出はー風霧・健・武ぅーっ! 年上鬼畜票と年下受け票が強い、強い、強すぎる! 狙ってるのか二人とも!? 奥様生唾戦は僅差で年下票が強かったぁっー!』
 わぁぁぁぁ! と盛り上がる場内の隅で。
「健武」
「なんだ」
「悟れ、そうすれば怖くない」
「‥‥う、う、う。腹を切りたい。消え去りたい。故郷に帰りたい」
 会場は出場者おいてけぼりで盛り上がる。きわどい格好で向かい合ったままの二人。男泣きの健武の頭を、息子を見るような気持ちでポンポンと慰めに軽く叩く。
「泣くな。俺も泣きたい。灰になって煙になりそうだ」
「俺は大事なものをどこかに忘れ去ってしまった」
 絵になる美男子達というのは、時として女性陣の妄想の中で弄ばれる事がある。耐えろ、耐え抜け男達! 娘さん(+レーヴェ)を救い出すという栄光を勝ち取るためにも!
 第二回戦はルカとシーンだ。
 シーンはヒックスを連れて現れた。かと思えばシーンはヒックスをアイスコフィンで凍結! 問答無用だ。フライングブルームに結び付け上空へ舞い上がる!
「挨拶を受けて頂こう。ワンハンドレッド・インパクト!」
 と叫び、準決勝の相手の手前に最高速で降下させる! 凄まじい! 確かにアイスコフィンの強度は空恐ろしいモノがあるが、凍結されたヒックスは微妙に不憫だ。シーンは目だけで氷中の人に謝罪し、無事を確認後に氷柩魔法解除する。しかし観客に冷たい表情で不敵に微笑むと、鋭い視線を向けたまま我が身を凍結して演技を終えた。
 拍手が、喝采がわき起こる。だが、裏方ではマッシブ達が鍋でシーンを煮ながら凍結に励んでいたことは知る由もない。
 先ほどから凄まじいアクロバットな演技で観客を魅了しているシーン。その後にルカが現れる。ルカは暗い面もちでいつしか涙を流していた。
「ルカです‥‥思えば鉄のハンマーに股間をぶっ叩かれ悶絶するに始まり、ついには先日鰐にまでブチ噛まれた」
 ルカさん、ルカよ、諸事情からいきさつまでを目の当たりにした者達は不憫すぎてもらい泣きしている。ルカは涙ながらに語りながらおもむろに服を脱ぎ始め。
「数々の苦難を共に乗り越えてきた俺の相棒、とうとう星になっちゃいました」
 全裸か――と思いきや、股間はクリスマスにかかせないラッキスターで隠されていた!
「どうだい。輝いてるだろ?」
 誇らしげに仁王立ちするが、それは誇って良いのかルカよ。
 変態発見した時の如き絹を引き裂く悲鳴が響く。けど一部の方々は指の隙間から目が見える。微妙だ、非常に微妙だ。素朴な疑問、彼は『スター男』と呼ばれるのか?
「む、いけない! マイレディーあんどマッシブメン! 彼を捕獲せよ!」
 ルカは猥褻行為で捕まった。そしてそのままレーヴェの真横に簀巻きで転がされた。
 準決勝三チーム目は涼とロットだ。涼に至ってはきっちり回収済みのダーツを扇を広げるかのように指の間に出した後、ダーツの腕前を披露しはじめた。
『おおっと狂気的夢見る乙女! 今回は真面目にあくろば‥‥ん?』
 司会が何かに気づいた。涼が独り言をブツブツ言っている。気づかれないよう近づくと『お兄さま、逝ってください』と恐ろしい呪いの言葉が響いてきた。
 司会は聞かない振りをした。あくまでもダーツの司会進行を行っていた。切ないほど。
 続いては勝ち上がったロットである。
 ロットは仮面を「ちょっとだけよ、チラリ」ってな感じで クールに微笑む。仮面の下は別の顔、真夜中は別の顔、まさしくそんな演出にくらっとこない婦人はいない。
 ロットは最初に会場周辺におかれた松明を一本失敬し、スクロールでファイヤーコントロールを発動させた。「炎よ踊れ!」と叫びながら激しく燃え上がらせる。やがて松明を捨てるとライトニングサンダーボルトを早口に唱えた。
「雷鳴よ輝け!」
 掌から発される雷の射程距離およそ百メートル。とはいえ確実に魔法は使いこなせても投げはなって宙から落下する松明なんて小さいモノにだけ当てられるほど高等なコントロールというわけにはいかず、雷は彼の腕の向くまま一直線上に飛んでゆく。
「‥‥あ」
 ライトニングサンダーボルトは松明を燃やしていた娘さんに当たった。娘さんがショックで倒れた。気まずい沈黙とともに「其れでは決勝で!」と必殺『俺は何も見なかった』というワザを披露した。

 字数が足りないので決勝については大まかに記しておこう。
 勝ち上がった健武はチャームについてひたすら解いた。論説大会である。
「今日、数々の男前が敗れ去った。しかしこれは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ! キャメロット総人口に比べ、我らチャームな男を目指す者達は144分の1以下! だが今日まで男を磨いてこられたのは何故か? 諸君! 我らチャームな男達の目指す先に栄光があるからだ。これは諸君らが一番知っている」
 一体何時からチャームマニアになったんだと言うほど健武はチャームを語る。そこに理性はもはやない。最後の最後に「チャーム万歳」と叫びながら裏方では「母に合わせる顔がない、このまま散ってやる」と大騒ぎを起こしていた。
 シーンはシーンで対戦者に友よ、降参してくれ、とばかりに愛を投げかけたが皆さん此処までたどり着いて引けるわけがない。いや、引き下がれなかった。何故か決勝に勝ち残ったロットは「囚われの娘さんを助けるためなら、俺は全てを捨てる!」と女装姿を披露した。
 もはや誰も止めなかった。三つどもえの同士討ちが始まろうとした刹那、愉快犯の主催は「君達のチャーム精神は真のモノ!」と声高らかに叫び、僕とチームを組まないか! などとわけわからん発言を放った。
 そこで皆の何かが切れた。
「人騒がせなことをして。元々なんで僕たちがこんな目に。さて覚悟はよろしいか?」
「ヒックスの言うとおりだな。泥棒の神髄を叩き込んでくれる」
「まぁまぁジョーイさん。彼を捕まえてギルドでゆっくり、ええ」
「いいよな一回戦どまりは。クールビューティのはずの俺をかえせ!」
 とかいいながらアランは体を妖しげに縛っている。詳しくは解説しない。本人のために。
「まぁ‥‥やりすぎない‥‥ようにな?」
 ずもぉん、と怨念の篭もった目が複数。
 さて愉快犯を皆がノしている間、『レーヴェ』は『娘さん』に助け出されていた。エルシュナーヴと涼も側にいる。高見見物と愉快犯を袋叩きにし出した皆を眺めていた。
「‥‥俺は天の掲示でイヒ・リーヴェン・ズィーと言おうとしていた」
「は? いひ?」
「何でもない。忘れろ。全て忘れろ。犬にかまれたと思って。俺はそうする」
 どうやら「Ich lieben sie」と囁くつもりだったらしい。要するに「私は貴方を愛している」と直球ラブコールなわけだが、果たしてその発言の相手は観客の女性か、今居ぬ妹か。
 何にせよ普段が真面目顔のレーヴェ。たとえ冗談のつもりで愛の言葉を囁こうが、一対一で言われたらおそらくマジ告白になるだろう。例え言われた相手が女でも男でも。
「あれ賞金は?」
 主催者が連行された後に誰かが言った。

 皆、出場者は何かを見つけ、そして何かを花のように散らしてゆく。
 イギリスの片隅で、何故か定期的に起こるザ・キング・オブ・ザ・チャーム決定戦。
 その実体は、あまりにもチャームの魔の手に魅入られ一体何が『チャーム』なのか判別不能になっている人々の血と汗と涙と、羞恥と後悔と憎悪の交錯する底なしの沼であった。