ローンの休日

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜03月30日

リプレイ公開日:2005年04月04日

●オープニング

 さてここに困った男がいた。貴族でもなんでもない平民のおっちゃんである。
 やはりどこでも聞くように。
 酒におぼれ女におぼれギャンブルにおぼれ。
 できた借金は天地がひっくり返ってもよっぽど働かないと返せない額に到達した。これで旦那がきちんと働くように説得してくれと奥さんに頼まれたとか、金が返せないなら体で払えと娘を連れて行かれたとか、或いは借金取りから金を取り戻すように言われたとか言うならまだ常人の常識レベルであったことだろう。
 この困ったおっちゃん、ちょっと頭が飛んでいた。
 ある日奥さんは台所で一枚の書置きを見つける。羊皮紙も高価なので何度も書きに書きまくり真っ黒になった羊皮紙。一種新しい文字を見つけ出すのは暗号がごとき文字への慣れしかない。奥さんはじぃっと目を凝らすと新しい文字を発見した。

『拝啓、ドけちだけど愛する奥様。
 私、貴方の夫はこの度の度重なる所業について深く反省の念を表すとともに多額に膨れ上がりました借金についてこの度より真面目に汗水たらして働きにいそしんでも到底返せないという判断を行いました。
 そんな時辞める時も健やかなる時も、苦しみと喜びを共に分かち合うとウン十年前に貴方と誓ったことを思い出し、これからは苦しみも喜びも共に分かち合っていこうと決意したしだいであります。夫婦遠く離れても心の絆は結ばれたまま。貴方を慕い、想いながらも遠く離れた地で一発逆転を狙い当分の間家を留守にすることにいたしました。
 つきましては、私が遠く離れて苦しみに絶えながら一発逆転を起こすまでの短い期間ではありますが、これまでの多額の借金を一時的に肩代わりしていただきたくお願い申し上げます。尚、貴方の手を煩わせるのも申し訳ないと考えた心優しい私めは、借金をしている方々には既に同じ文面を届けております。
 心配をかけるかもしれませんが行く先は告げません。男に二言はございません。
 どうぞ心配なさらず日々仕事にいそしみ、私がひとまわり、ふたまわりも成長して大金を持って帰るその時を、暖かな眼差しで待っていてください。貴方の夫より』

 奥さんはしばらく硬直して真っ白になった。
 文面の言葉の使い回しがおかしい以前に文面の意味が絶対的におかしい。
 心意気は間違ってないはずだが、やってることは馬鹿丸出しだ。さすがにこれには借金取りの皆さんも奥さんに同情した。烈火のごとく怒りまくる奥さんに誰も手がつけられない状態に陥った。多分旦那さんがそこにいたら首絞められて殺されかねない。
 そしてきっと『誰も止めない』。
「わーかーれーてーやーるーぅぅぅぅっっ!」
 ああ悲しきかな、ジーザス教に離婚の文字はない。
 さてさてギルドに依頼が舞い込んだ。
 どうしょもない夫を『説得』するのではなく『こらしめてくれ』だそうだ。

 懲らしめてくれ、と書いて『復讐』と読む。

 説得したところでまともに戻るような男ではないと判断した奥さんは、夫をギャンブル嫌いにさせてほしいと言った。嫌いになればしなくなるに違いない。だが大負けさせるような生ぬるい手ではだめだ。相手はきっと悔しさに燃えてさらに使い込むに違いない。
 奥さんに同情した借金取りの皆さんの協力により、旦那さんの居場所が発覚した。
 どうやら再び賭博に入り浸っているようだ。そこの主人にも協力を願い、今回冒険者たちは従業員、あるいは客に扮して入ることもできる。いかにギャンブル嫌いにさせるかは冒険者たちの手腕による。
「あれをぎったぎたにしてちょうだい」

 一方その頃。

「ひゃっほー!」
 ギャンブルで浪費生活を送る男の寿命が尽きるまで、あと数日。

●今回の参加者

 ea0668 アリシア・ハウゼン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5884 セレス・ハイゼンベルク(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6640 ゼザ・ウィンシード(36歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8600 カルヴァン・マーベリック(38歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8936 メロディ・ブルー(22歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

「儚い一夜の夢物語。せいぜい楽しんでいただくとしましょう。ね、皆さん。うふふふ」
 月夜の下で銀糸の髪をはためかせ、艶めいた微笑を浮かべる美女一名。アリシア・ハウゼン(ea0668)は賭博上場へ近づく男を見るなり、その男達が見ほれそうな微笑を奥に潜め、背を丸めておどおどとした雰囲気がにじみ出す。男がアリシアに声をかけた。
「どうしたんだぁ、お嬢さん」
「父がこの賭場で借金を重ねてしまって。代わりに私はこの店で働かされているんです」
 アリシアはもう何度もこの言葉を繰り返している。男もまた、そりゃ大変だなぁとおきまりな台詞の末に店内へ入場。アリシアの口元が蛇のようにつり上がった。標的入場。
 ここから地獄のギャンブルが始まる。

「いらっしゃいませ!」
 元気いっぱいの笑顔で迎え入れたのはフィーナ・ウィンスレット(ea5556)である。薄暗い如何にもと言った賭博場に不似合いな元気いっぱいなフィーナに、男の鼻の下はでれっと伸びた「さぁさぁこちらへどうぞ」とテーブルの一つに案内すると、再び扉が開く。現れたのは着飾ったアデリーナ・ホワイト(ea5635)とカルヴァン・マーベリック(ea8600)であった。「おほほ」と声を上げながら奥の部屋までゆくアデリーナをエスコートしたカルヴァンは、再び一般の席へ現れて適当に遊びはじめた。男がフィーナを見上げる。
「なんだあの華美なおねーちゃんは」
「まあ! なんと! ご存じない!? あのホワイト夫人を!?」
 フィーナが驚愕に満ちた表情で大声を上げたので、男が「え? え?」と慌てる。
「お客さん、ここはあまり来られないですか? 良いでしょうご教授致します。一度しか言いませんからね? 今奥の特別席へ行かれた御方はこの辺じゃ名の通ったご夫人なんです。アデリーナ・ホワイト様といいましてね、ディーラーが舌を巻くほどのこれがまた凄腕なんです。あの方に勝てた方なんて私は知りません。横におられるのは金貸し屋のカルヴァン・マーベリック様。彼のお墨付きを私も得たいほど。あのお二人は最強ですよ」
 へぇぇ、と男が羨望に満ちた眼差しで消えたアデリーナと戻ってきたカルヴァンを見やる。フィーナの口元が蛇のようにつり上がったのを男は見れなかった。すり込み完了。
「フィーナ殿、ホワイト様がいらっしゃられたのは本当ですか?」
「あ、はい。そうです。連絡が出来ず申し訳ありません。奥の部屋でお待ちです」
 フィーナに声をかけてきたのは年若い青年ディーラー‥‥の格好をしたバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)である。バーゼリオはそうですか、と声を返すと、急がないと、と奥の特別室へ向かってゆく。男がフィーナに耳打ちした。
「ねぇちゃん、ねぇちゃん、あの人も特別な人だったりするのかい?」
「はい。うちのナンバーワンディーラーです。彼が相手をするのは特別室へ入れた方々だけです。なにせ、腕前や話術が超一級であの容姿でしょ? 憧れの的なんですよ」
 なんだかんだ言いながらフィーナによる更なる刷り込み作業は進む。メロディ・ブルー(ea8936)が一般室での男の接待を行った。「よろしく、お客さん。お手柔らかにね」と笑顔のメロディー。フィーナによって「彼女も此処では五本の指に入ります。でもえり好みが激しくて。お客さんラッキーですよ」と刷り込まれた。しかし時が進むに連れてメロディーの表情は豹変していった。メロディーの惨敗が続いたのである。勿論天秤の要領で男は勝ちが続いた。男も唖然としているが、かなり興奮気味のようである。そこへ。
「先ほどから大勝している御仁がいると伺ったのだが、どのような命運をお持ちなのか興味がある。是非占わせてはくれないか? もちろん、お代は結構。いかがかな?」
 高名な占い師で霊媒師と自称するセレス・ハイゼンベルク(ea5884)が現れた。「ふみゅ〜、はにゃはにゃ‥‥にゃーん!」と猫みたいな声を上げながらしばし踊る。やがて。
「おぉぉ、稀に見る強運の持ち主だ! 最近不運な事がつづいていなかったか? 実は今日が転機のようだ、今の勝ちがよい証拠だ!」
 えらぃ誉めて回る。人間おだてられれば良い気分になるのは当然。男は俺の時代が来たかと大喜びしている。悔しげに項垂れていたメロディーがきっと顔を上げた。
「惨敗を認める。お客様、ついてるおられるようですね。よろしければ、より大きい金額でそのツキを活かしてみませんか? フィーナ、どうかな? 僕のプライドもかけて」
「負け続きなのにですか? ま、いいでしょう。特別室へ招待します。特別室へ行くには推薦が必要です。ただし金貸し屋のどなたかにも推薦を頂かないといけない決まりで」
「ではその推薦役、私が買って出ましょう。ここまで大勝する方は珍しい」
 高名な金貸し屋となっているカルヴァンが立ち上がった。フィーナに刷り込み受けている分、男の顔は興奮に包まれる。男はメロディー達とともに特別室へ案内された。部屋にはバーゼリオとアデリーナがいた。「あら、先ほどの」と優雅に微笑むアデリーナ。
 しかし奇妙な事に部屋の隅に灰色をしたぼろぼろの長い服を着て、顔色も青白くボサボサの髪の男がいた。ゼザ・ウィンシード(ea6640)である。幽霊役なのだが、どういうことを実際に行うかというと。
「なぁ、なんだあの場違いな男は?」
 ゼザをゴキブリでも見るような目で見ながら聞いた。
 しかし。
「は? 何をいっておられるんです?」
「男の人? バーゼリオじゃなくて?」
「疲れておられるのかな?」
 フィーナもメロディーもカルヴァンも疑問符を投げかける。男はもう一度壁を見た。みすぼらしい男がじっと此方を見ている。すぃっと男の背筋に冷たいものが走った。勿論皆が確信犯だが、男はそんなことは欠片も知らない。男はアデリーナとバーゼリオにも聞いてみたが「ほほほ、あらいやだ。壁しかないではありませんか」とか「ご気分でも?」と心配されるだけ。男は何も見なかったことにして席に座った。勿論ゼザは男を見続ける。
「さて特別席初見のお客様ですから簡単な物で行きましょうか。よろしいですねホワイト夫人? では初見のお客様、きちんと覚えてくださいませ」
 バーゼリオがルールの説明を始めた。
「まずサイコロを二個振る。出目が七なら勝ちです。七がでなかったら次に右隣の人が振る。七がでるまで続け、サイコロを振るのはお客様です。サイコロを振るメンバーは誰かが一投ごとに賭け金をだす。七がでるまで賭け金溜まっていく。ただしぞろ目が出た時に罰ゲームがあり、一と六のぞろ目は罰ゲーム二つ。罰ゲームをやりたくない時は賭け金の十倍払う。仕組みです。ハイリスクハイリターン、燃えるでしょう?」
 このゲームにはメロディーとカルヴァンも参加する。掛け金はメロディーが一G、カルヴァンが一G、ではホワイト夫人の掛け金はいかが致しますか、とバーゼリオが問いかけると、アデリーナは高笑いしながら「十Gですわ」とにっこり笑う。桁が違った。
 勿論これらの掛け金は店から今回の依頼への協力ということで借りているだけで、冒険者達の懐は痛まない。
 男がたまげている間にメロディーがフィーナに「ぼ、僕が勝ったら‥‥自由になれるんだよね」と急に気弱な声を出した、男はこいつも何か訳有りで働いているのかと考える。其れを見過ごし、フィーナの凍てついた微笑がメロディーに返った。怯えるメロディー。
「し、失礼します。アデリーナ様にお飲物をお持ちしました」
 店の前で待機していたアリシアだった。男があっと声をかけようとするも、アリシアは『わざと』躓いてアデリーナの服に飲み物をぶちまける。蒼白になるアリシア、眉間に皺が刻まれるアデリーナ、氷の微笑を浮かべるフィーナ、無関心なカルヴァンと見ていられずに顔を覆うメロディー。バーゼリオが溜息を吐く。
「全くまた君か。借金返すつもりで働いてるかもしれないけど、とんだ厄介者です。フィーナ殿、いっそ彼女を娼館にでも売った方が手っ取り早いんじゃないですか?」
「そうかもしれませんねぇ。お痛はいけませんね、アリシアさん?」
「そ、それだけはお許し下さい! もっと働きます! がんばりますから! お慈悲を!」
 とりあえず勘違いしないように書いておく。
 これは『演技』だ。
 みんな演技力抜群だ。泣きわめきながらアリシアは男達に引きずられていった。ターゲットに救いを求めるアリシアは、さながら理不尽な目に合わされる薄幸の美女である。
「アデリーナ様、隣の部屋でお着替え下さい。お戻りになりましたら始めましょう」
「ええ、そうしましょうか」
 バーゼリオの申し訳なさそうな声に、アデリーナが扉の向こうへ消える。男の顔がだんだん青くなってきているのを皆は見逃さなかった。まだ始まったばかりである。

 賭博は始まった。しかし途中まで大勝を続けた男は次第に負け始める。計画通りに進んでいた。男の資金が底をつくと、店のシステムだ、ということでカルヴァンから金を借りる。一度目は「明日中に金を返せない場合は家財道具を全て引き渡す」だった。二度目は「妻を売ります」で、三度目は「私自身を売ります」である。しかも全部借用書に署名している。逃げればいいと思っているようだが、そうはいかない。
「助けて、許して、やだ! 僕嫌だよぉ! 助けてっ!」
 さらにメロディーが大敗した後だった。男に助けを乞いながら、メロディーは男達に連れ去られる。負けるディーラーは必要ないとの発言だ。さらに壁際に立っていたゼザが一歩一歩男に近づいてくる。恐怖に駆られた男は先ほどの霊媒師(セレス)を呼んだ。
「過去にも同じような人を何人も見てきたなあ。残念だがお前は呪われたんだろう」
「な、何をわけのわからない」
「あなたの強運にも陰りが見える。このままでは彼らと同じ道を歩むことになるだろう。ほら、ギャンブルに溺れ地獄へと堕ちていった人たちの怨念が、あなたをも同じ場所へと引きずり込もうと、すぐそこに!」
 皆には見えない事になっているゼザを指さす。男は思いっきり震え上がった。
 ゼザが近づく。ぺたり、ぺたり。指さしても皆は無反応。
「さあ、お前もこっちに‥‥おいで。‥‥仲間だろう? くくく‥‥」
 生暖かい吐息。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」

 逃げだそうとした所、金貸し屋のカルヴァンに捕まった。借用書と共に翌日奥さんの所に強制送還された。その後、再び叫び声が聞こえてきたそうだが、男がどうなったのかは誰も知らない。
 よきかなよきかな。

●ピンナップ

セレス・ハイゼンベルク(ea5884


PCツインピンナップ
Illusted by 和