【バースの戦乱】エレネシア家の夜
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月23日〜02月28日
リプレイ公開日:2005年03月06日
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●オープニング
「民衆が反旗を翻しただと!?」
城の片隅でラスカリタ伯爵家の領主代行、サンカッセラが驚愕に満ちた声を上げた。
キャメロットの西185km先にバースという地域がある。エイヴォン川の河畔にある街『バース』の北、俗にバース北方領土と呼ばれる地域は現在領主代行が掲げる霞のような理想論によって統治され、ジワジワと破滅の道を歩んでいた。
虐げられた民衆は叫んでいる。
新たな領主を迎えよう、民草の事を理解せぬ非道な領主代行をうち倒せ。
民衆達には希望の光があった。死んだと思われていた第一夫人の娘が現れたのだ。
よって民は新たな『王』を求める。
「自ら妖しい薬に手を出して自滅した莫迦者共めが。今この北方領土がいかに危険な均衡の上にいるのか欠片も理解していないと見える。大体民衆達が新たな領主にと掲げる者は」
‥‥一部の貴族だけが知っていた。
民衆の掲げる新領主の候補者が六年前にバースを恐怖に陥れた大盗賊の頭領であることを。そして正当な後継者であることも。
民も、領主も、助けの手を求めた。
暴動を起こした愚かな民衆を鎮圧せよ、慈悲すらたれぬ領主をうち倒す手伝いをと。領土に住まう多くの若者が、騎士が、魔法使いが始まろうとしている内乱のために招集された。強力なモンスターの徘徊していた北の森からは警備が消え、モンスターや盗賊達が村や町へあふれ出す。
かくして戦は始まる。
自堕落や失態を棚に上げて都合の良いときに助けを求める虐げられた民衆と。
物事に厳正過ぎるあまり人として慈悲に欠けた誠実な領主の間で。
●リプレイ本文
夜枝月奏(ea4319)は会場へ向かいたい思いを殺しながら、来場者の相手をしていた。人には雰囲気というものがある。隠しきれない我というものだ。奏はずっとそう言った者を探していた。そして見つけた。気配も何もかもただ漏れの貴族達に混じって、気配の読めない、何処か隙のない威圧感を感じさせる相手を。友人だと傍らの貴族は言っていた。
「みんな、‥‥気づいてくれ」
身内だけのささやかなパーティとはいえ、貴族の舌が肥えてるのは至極当然。
よって会場に並ぶ料理の数も其れ相応というものだ。これは従業員の食事も期待できるかもしれない。要はまかない、というやつだ。少しでも失敗して表に出せない料理は従業員達の腹に収まる。給仕の女性として働いているサフィア・ラトグリフ(ea4600)が忙しい合間もちらちらと料理を盗み見ていた。
「‥‥さすが。貴族のパーティ料理だけあって使ってるモノもいいし、料理も手が込んでるよなあ。作り方はまあ準備は大変そうだけど、今度家で作ろうかな」
「なぁに、サフィア。お腹でもすいたの?」
見ない見ないと心がけつつも、じぃっと食事の虜になっていたサフィアの傍らに、同じく給仕として働いていたサーシャ・クライン(ea5021)が顔を覗き込んできた。我に返ったサフィアが頬をカッと赤らめて弁解を試みる。妙にかわいげがあるのは気のせいか。
「違う違う、俺はいっぱしの料理人として勉強をだなぁ」
「はーい、はい。忙しいんだから後でね。あんまり大声出すとばれるわよ?」
サーシャはにやりと意味有り気な視線をサフィアに投げる。そう、もう一度言うがサフィアは現在『給仕の女性』として働いている。ロングスカートにフリルのエプロン、金の髪に貰った簪。酒場『二丁目』で鍛えた腕は伊達じゃない! いや、女装ではあるのだが。
「うわーん、サーシャ! あんた絶対面白がってるだろ!」
「意地悪といいなさい意地悪と。私だって料理好きなのよー、真面目に仕事しなさい。そういえば二人足りないような。ま、すぐ戻ってくるでしょうし。行くわよサフィア」
会場の給仕をしていた人物にもう一人、エルドリエル・エヴァンス(ea5892)がいる。他は別に雇われた者だ。エルドリエルが何処に行ったのかというと主催者の元である。
「この前はご迷惑をかけたみたいで御免なさい。いい案だと思ったんだけど」
声が聞こえた。傍らにジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)の姿もある。昔、灰の教団というカルト教団討伐事件でギルドと一悶着起こした彼女は、久々に会うエレネシア家当主にばつが悪そうな顔で頭を垂れていた。エレネシア家の夫人セイラに「ハッピーバースデー」と声をかけに来たジョーイとも遭遇し、今は夫人抜きでひそひそ話していた。
「まぁ済んだ事は仕方あるまい。今後、ギルドに喧嘩を売るような非常識な真似さえしなければ何も起こらぬだろうしかまわん。儂の家もよく君達冒険者に世話をかけておるしな」
「なぁ爺さん。今日の招待客は知った顔ばかりって話だけど、本当に平気なのか? 色々黒い噂もきいちまったし。爺さんが領地を構えてる近隣で内乱が起きたって話も」
ジョーイが真剣な顔で聞いた。孫息子デルタの教育に始まり、彼は何度もこの子爵家と関わってきている。他人事と思えないのかもしれない、彼がどう思っているかは知らないが、事実エレネシア家の人間が彼に対して友人か家族に近い親近感を抱いている。
「ふむ。噂は広まっているのか。先ほど護衛の者をねぎらいに行って話も聞こえたしの」
ヴァルナルドが話しているのはルシフェル・クライム(ea0673)の事だ。ギルドに魔物や盗賊の討伐における人材募集を行っていた事もあるだろう。内乱が起きている話自体は多くの冒険者の間に囁かれているようだ。エルドリエルやジョーイが内乱の元凶である伯爵家とエレネシア家が灰の教団事件以来繋がっている事、領地が近い事などをパーティー準備の合間に話していた時、ルシフェルが眉間に皺を寄せていたりした。
『バース地方で内乱の最中に、関係する貴族の誕生パーティーか。敵対する者達にとっては絶好の機会となり得るな。知人のリュウガに色々調べさせてはいるが、警戒は必要。皆、大事にならぬように全力を尽くそう』
「ルシフェル達は今巡回しているはずだ。爺さん、危険そうな相手に心当たりはないか」
「そう言われるとありすぎて困るな。ただ、しいて言えば」
ヴァルナルドが重い表情で廊下の奥を見やった。つられるようにエルドリエル達が視線を向けると、其処には先日ジョーイを含めた数名が密かに護送した、内乱の起きているラスカリタ伯爵家の三女が歩いてくるのが見えた。顔はヴェールで隠している。
傍らには侍女の役をかって出たエリス・ローエル(ea3468)の姿がある。姉と異なり醜悪な顔をした三女、コンプレックスが故に性格も相当歪んでいるのをジョーイは知っている。ヴァルナルドが「姫君、ご気分はいかがですかな」と声を投げても、無視する始末。
「おぃエリス、あんた」
「だいじょーぶ。なじられてばかりですが、何かあれば我が身を盾にしてでも守り通してみせます。今回の戦乱、早く治まってくれればよいのですが‥‥今は、出来ることを」
ジョーイがエリスの肩をひいたが、エリスは明るい表情で答えた。やはり三女に散々ねちねちと嫌みか何か言われたようだが、その誇り高い精神には恐れ入る。小言で囁き、エリスは三女の侍女ひいては護衛の役目に戻った。目を離して何が起こるか分からない。
「護衛の方は大丈夫なのかしら。私も会場に戻るわ、連絡係がきえちゃあね」
片目でウィンク一つして、エルドリエルは会場へ戻ってゆく。
「色々と苦労をかける。なんというか、面倒事を任せてしまって申し訳ない気分だ」
「めげるなよ爺さん。またさ、ぱーっと騒ぎたいじゃないか。昔みたいにさ」
先方はあっさりとやってきた。夫人の希望で『月の滴』というゲームが行われたのだ。男女がランプを持って女性が暗闇の中に隠れ、男性が相手を探し出すという遊び。
この時、いつのまにか会場にいたサーシャの魔法が使えなくなっていた。一人給仕に紛れ込んでいたらしい。同系統の魔法使いであるサーシャにはサイレンスの効果と分かる。文面で気をつけてとエルドリエルに伝え、彼女は会場にまだ残っていた者達を避難しにかかる。その頃‥‥
「守り通します! この身砕かれようとも!」
エリスの声が暗闇に響き渡る。対峙しているのはサーシャを襲った相手ではない。暗殺者として送り込まれたBlackRozen十二の薔薇を冠する神聖騎士レアリテ。動体視力の優れたエリスに相手の動きは把握できるが、技量と力では劣性。互いに手にした壁に飾られていた剣の武器。全身に傷を負い、追いつめられていた。その時二人の人影が走り込む。
「エリス! おのれ不審者が、我が刃をうけるがいい!」
「エリス君受け取れ!」
来る途中荷物を置いた部屋からクルスソード等の武器を持ち出したルシフェルと奏だ。奏が日本刀をエリスに投げる。エルドリエルとサフィア、ジョーイも合流した。
「おぉぉぉぉっ!」
抜刀、一閃。闇夜の中で白刃が煌めく。ルシフェルと刃を交えた。ルシフェルが相手の攻撃手段を奪った間に奏とサフィア、エリスが反撃を行う。
「てめーを逃がすわけにはいきません。俺の焔の牙、とくと味わえ!」
フェイントアタック。相手の利き腕を焼いた。男の表情が苦痛に歪む。
「悪いけど、これも仕事のうちってね」
「爺の立場を悪くはさせないぜ」
「先ほどのお返し、させていただきます」
交戦が続く。敵は一人だというのに思うようにいかない。様子を見守りながらエルドリエルが廊下で周囲を警戒する。
「まだ一人風のウィザードが――な、まずい! エリィィスっ!」
エルドリエルの悲鳴。知らぬ間に後ろ壁から一人の娘がせり出し手を伸ばす。風が――
「がはっ」
首にウインドスラッシュの一撃。ジョーイとエルドリエルには覚えのある癖だ。鮮血が三女の首から吹き上がる。致命傷だ。
「貴様ぁぁぁぁっ!」
エリスが身を引っ込めようとしていた娘に日本刀の切っ先をむけた。ずぶりと嫌な感触がして胸に深く突き刺さる。壁から引きずり出された少女は、エルドリエル達と給仕の仕事をしていたパールという娘だった。気を取られた刹那、ルシフェルと奏、ジョーイとサフィアが各々の武器で敵を刺し貫いた。
重傷、と言えるだろう。敵は皆を振りきって闇夜に舞ったが、あの傷ではおそらく保たない。
「く、かくなる上は」
パールを捕虜にしようとしたが、すでに虫の息。
「‥ュラス‥‥にぃ、さ‥。やっと――」
――側に行ける。敵の少女が事切れた。名を聞いたエルドリエルとジョーイが、かつて散々手を煩わせた風のウィザードを思い浮かべ、そして唇をかんだ。沈黙がおりた。
『これは、パーティの給仕として護衛として働いてくれた報酬だ。せめて受け取ってくれ』
受け取った金は血の代償にはあまりにも少ない。
強い者は世にいる。やがて彼らと再び会う時もあるかもしれない。
「‥‥私は人生をかけてやり遂げたい事がある。悪しきものは全て倒す。それはモンスターも人も同じ。きりのない話だが、私は諦めない」
今回に限った話ではない。ルシフェルは一人、そんなことを呟く。
強くなろう。もっと、もっと自分の手で救える命を増やしていきたい。
翌日。冒険者達は空を見上げた。青く澄んだ空にそれぞれが誓ったことは何だっただろうか?