君のためなら死ねる!−三昧の境地−

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月30日〜04月04日

リプレイ公開日:2005年04月07日

●オープニング

「僕は死にましぇん!」
 そんな伝説な台詞を叫びながら。
 町中を軽快に走り抜ける馬車の『ど真ん前ストライク』に立ちはだかる事『103』回。
「ジャパン人から教わった! 色即是空、空即是色、我は無我の境地にいたりゲフあ!」
 若者、馬に轢かれる。
「おわあああ! 人が! 人が馬車にとびこんだぞー!」


 無謀な行動に走るその若者は、生き生きとした瞳で向かい来る馬車に立ちはだかり、これでもかと言うほどはねられ続けている。正直な話、打撲とか骨折とかで済むような怪我の具合ではない。大抵が幸福そうな顔をしながら重傷を追い、教会へ担ぎ込まれる。
 そんな若者の見目麗しい弟‥‥様々なイベントで誘惑役にかり出される『美少年を囲む会』のリーダーを勤める美少年は、自分の兄貴の落ちぶれ具合に涙した。
 何故この若者(兄貴)が奇怪な行動に走り出したかというと。


「結婚してくれ! 愛してるんだ!」
「ふん。言葉で言ってないで態度で示して頂戴。商人の息子は珍しい物を毎日かかさず持ってきてくれるし、仕立屋のお兄さんは綺麗なドレスを作ってくれるの。頭がかったい角の兄さんはお父さんの仕事を手伝ってくれて大成功させてくれた。この前別れた冒険者はモンスターから守り通してくれたわ。かあっこよかった〜〜」
 ずらずらと続く内容に一般人はひくこと間違いなし。
 しかしながら恋は盲目。
「じゃあどうすれば結婚してくれるんだ!」
「自分で考えなさいよ〜〜、私は頼りがいのあって素敵な人としか付き合わないわ」


 以上、回想。

「兄さん。いい加減にあきらめなよー、というかろくな女じゃないよ〜〜」
「莫迦を言うな。それにみろ! これだけ大怪我してもあきらめずに立ち向かう俺の根性! 彼女は、彼女は、絶対打たれ強くなった俺に惚れるに違いない!」

 いや、迎え撃つ相手がモンスターだったら惚れたかもしれないけどさ。

 というわけで、弟君はギルドに依頼を出した。
 うちの兄さんの目をさまさせてと。

●今回の参加者

 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1706 トオヤ・サカキ(31歳・♂・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea1759 シルビィア・マクガーレン(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

双海 涼(ea0850)/ レイリー・ロンド(ea3982)/ マリー・プラウム(ea7842

●リプレイ本文

 とりあえず『教育』というのは皆さん方向性が異なるものである。
 話し合いの末に順番が決まった。
 まず一番手にゆくは孤高の泥棒ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)だが、男の方を応援するようだ。惚れた女のために体を張るのは悪くない、らしい。男を引き連れてジョーイは語る。
「なぁ兄さん、裏切りは女の特権。それを許す数だけ、男の勲章は輝くもの。そうだろ?」
 太陽を背にした男の微笑。言ってることは格好いい、格好いいのだが‥‥これからやろうとしている行動は不安要素『大』である。ジョーイは遠方に一台の馬車を発見した。
「いいか兄さん、あんたに本物ってやつを見せてやるよ。俺は死にに行く訳じゃない。今から俺が、本当に生きてるかどうか‥‥確かめに行くのさ!」
 何やってるんですかぁぁぁ! というアルテス・リアレイ(ea5898)の悲鳴が聞こえたが、見ざる聞かざるサスカッチ。ジョーイは馬車に全力で向かって行く。馬車にはねられるかと思いきや、観衆の目は釘付けになった。誇るべき身のこなしによって馬の背を蹴り、御者台を飛び越え、馬車の上を数回くるりと回転して着地した。
「さあ、兄さん、あんたも此処まで来て魅せろ! レッツトライ!」
 尚お兄さんは真に受けてつっこんだが、ジョーイの回避力に並ぶわけもなく馬にはねとばされる。ジョーイの教育失敗。
 お次は狂闇沙耶(ea0734)だ。沙耶はかぶり物をして兄弟の前に現れた。何故か弟も含めて女性の好みを聞き出す沙耶。しかし好みは好み、好きな人は運命だから、とかわけのわからん持論を展開する兄貴に「うーん、困った勘違い兄貴じゃのう」と零しながらかぶり物をとる。したから覗いた可憐な顔にぽけっと見ほれる男達。
「まぁよい。折角じゃ、わしを好いたおなごに見立て、ここは予行練習とゆこうではないか。わしか? 仮面の少女・まじかる★しすたー・さっちんと申す。では参ろうか」
 その手に持つ鈍器は果たして何に使う気か。ともかく買い出しに連れてゆかれる兄弟。
「よいか、頼りになる者というのは、ちゃんとした考えを持ち、その人の為になる事をする者を言うんじゃ。例えば戦士というのは人を護るからこそ頼りになると言うじゃろ?」
 買い物をしながら沙耶のアドバイスあーんどお説教は続く。沙耶にシバカレながら兄弟は『女性の好む物』を教え込まれたわけだが、果たして我が儘女に通用するかは不明だ。
 ところかわって此方は『金品巻き上げ系の彼女』がおわす、お家前。
 男の教育中の皆さんと異なり、シルビィア・マクガーレン(ea1759)と希龍出雲(ea3109)の二人に関しては女性の方の教育に走るようだ。どんな結果が出るかは神のみぞ知る。
「私はシルビィアと申す者。失礼だがお嬢さんはおられるか」
 扉の向こうから顔を出したのは噂の『金品巻き上げ系』のお嬢さんその人である。依頼人のお兄ちゃんは馬車に突っ込んでははねられる迷惑千万な人物だ。その辺の御者の皆様には『あの男を見たら危険だ! 突っ込んでくるぞ!』と噂になっていたりするわけで、被害にあった馬車の方々から依頼できたのだとシルビィアは身を偽る。
 立ち話の末。どうやらこのねーちゃん全く持って加害者意識ゼロの人だった。つまり男は財布、と考えるだけの類らしい。シルビィアは内心溜息をはきながらも頭を垂れる。
「すまないが、彼にあなたを諦めさす為、あの者と一日程度で構わぬから、デートをしてくれないだろうか? 後は、彼のものに他の仲間がそれを見せる故」
 あの者、というのは出雲だった。家の前に待機してひらひら手を振っている。
「よ、べっぴんさん。デートしながら話でもしようや」
 シルビィアの疑わしげな視線を感じ、出雲はこそっと「わりぃ。迷惑をかけてしまうが、よろしく頼む」と囁いた。零れる溜息。町中に出るとシルビィアは彼女の噂を聞き込みに向かう。出雲はぶちぶち言いながら初対面で品をねだるオネーちゃんを軽くかわしながら。
「なぁ、君の言う『頼りになる』ってのはお金持ちや力持ちのことなのか」
「もっちろーん、あったりまえじゃなーい。女が家で家事労働に従事するなら、女の分も働いて稼ぐのが旦那でショー? ほらぁ、結婚してから変わる男って多いしぃ、ジーザス教は離婚なんてできないじゃなーい、今の内からきちぃぃぃっと男を見とかないとネェー」
「まあ、なんつーかな。そいつが身を削っている事だから、頼れるってのには変わりがないが‥‥余りおっぴらにやれば、身を焼くぜ。たぶん」
 この後、出雲は延々彼女に引きずり回されることになる。
 三番手は魅惑の踊り手トオヤ・サカキ(ea1706)。ジョーイ戦で馬車に轢かれかけ、沙耶戦で疲れ果て、時は既に夕方である。四番手のチャームな人気を誇るアルテスと共に説得という手段に挑む。
「そんなことをしても一生振り向いてもらえませんよっ!?」
 必死に説得するアルテス。しかしこれで説得できたら百三回、いやすでに百四回となった馬車への飛び込みなんてしないだろう。アルテスも聞き入れないだろうとは踏んでいる。
 そこへトオヤが言い方を少々変えて畳みかけるように言ってみた。
「飛び出すのやめなよ。打たれ強い云々以前にお兄さんじゃ無理だよ。てかいつか死ぬってば。死んだら彼女も口説けないんだよ? 結婚もできやしない。少し考え直そうよ」
 ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)も椅子に腰掛けたまま静かに問う。
「あのさ。真面目に聞くよ。確かに肉体的な逞しさも『頼れる男』には必要だとは思う。だけどそれだけで迫っている今の状態は今相手の娘から見れば、どうだろうね?」
 そこでちょっと男が躊躇った。トオヤの双眸がぎらりと光る。獲物を狙う狩人の眼光。
「そんなに相手は美人なのかな? 恋は盲目、アバタもえくぼ、美人は三日で見飽きる、色々言葉があるね。熱が冷めたら実はつまらない人だったと言うのも良くある話だし」
「違う! 彼女は美人なんだ、優しいんだ、最高なんだ! 前なんか熱を出した俺の為に家に見舞いに来てくれて、大丈夫? って言ってくれたんだぞ! しかも早く元気になってお買い物連れてってね、楽しみにしてるからと励ましてくれたんだぞ!」
 其れ絶対騙されてるよ、と皆の目が呆れを語る。
 アルテスの何かが『ぶちぃ』と切れた。
 人は其れを『理性の糸』とか『堪忍袋の尾』と呼ぶ。
「あなたの行動は人様に迷惑かけてることは変わりないんです! この際修道院に行きましょう! 主は我らと共にあり! 教えにしたがって精神を一から鍛えなおしてもら‥」
「うわーっ! アルテスさん、アルテスさん、ストップぅぅっ! と、ともかくだお兄さん。よーく、考えよう。本当に彼女は貴方にとってなくてはならない人か? いいかい即決はだめだ、じっくりじっくり考えるんだ。君の目指す頼れる男とはなんなのか」
 アルテスを羽交い締めにしながらトオヤが諭す。
 は、失礼しました、とアルテスが我に返る頃「頼れる男には精神的なもの、要は心も必要なんじゃないかな。一度その事を踏まえてみた上でもう一度『頼れる男』とはどんなものか考えてみてはどうかな?」と提案したのがウェントスだ。「ならいい場所があるぞ」とほくそ笑んだのが台所の覇者マルト・ミシェ(ea7511)。なんだか双眸が輝いている。
「おぃおぃあそこに行く気かばーちゃん」
 不吉な記憶を思い浮かべて顔が青ざめた者達(ジョーイとアルテス)と首を傾げる者達。
 そしてステージは最終段階へ。
 やってきました此処は『二丁目』。ジャパン人の虎夢さんが経営する魅惑の酒場。昼間はダンディ且つ素敵な男性の皆様が、わざわざ夜の蝶となってお客様をもてなす究極のエンターテイナーが在籍します。
 ちなみに国教に挑戦挑むくらいギリギリな酒場である。
 この依頼を受けたその日。ウェントスに品物を届けに来たレイリーやマリーも二丁目の話を聞いたらしく。
「あそこのバーテンやママさんとは知り合いだが、きっと目が覚めるさ」
 色んな意味で、という注意書きは必須だ。
「本当に恋は盲目よね、でも二丁目のママさん達に合えば変わるかも」
 色んな意味で、という心構えは忘れてはいけない。尚、道案内をした涼も。
「ご指名するなら蘇芳ママをプッシュします、かなりの美人さんなんですよね」
 というわけで、お兄ちゃんは一日体験入店という形でママさん達にしごかれることになった。その間冒険者達はやることがない。魅惑の酒場でお兄さんを監査留する事になった。
 濃度の濃い夜が過ぎてゆく。
「何故ここへくることに。あれ? マルトがいない。おかしいな」
 ウェントスがキョロキョロ店内を見回す。人がごった返す薄暗い店内は美しく着飾り化粧をした店員さん(九割男性)がテーブルを行き交う。すると探し人の声が遠方から。
「噂に聞くママさん達は流石。料理は板長ママじゃったか? 今日のオススメとかないかのぅ。御指名は蘇芳ママでよろしく。嬢ちゃんから蘇芳ママが良いと聞いてのぅ。ほほほ」
 凄腕の人気ママを侍らすマルトの姿が。傍らには沙耶もいる。
「マルト‥‥沙耶まで。おーい?」
「うむ格別。ほっほ、はっ!」
「‥‥決して、来る事自体が本命だったわけではないからの」
 ウェントスの視線の先に依頼そっちのけで遊び倒しているナイス女性陣の姿が映った。

 美少年を囲む会のリーダーのお兄さんは、『金品巻き上げ系』のオネーさんは卒業したらしい。ただし妖しい道ならぬ魅惑の道に目覚めたとか、目覚めなかったとか。
「恋路って、大変なんですね‥‥。僕はこれでも四十三年生きてるのに。恋なんて」
「駄目だろうアルテス。あんなのとキミを一緒にしちゃ駄目だ。あれは特殊と考えろ」
「ウェントスさん‥‥皆‥‥そうですね」
 人は誰も共通の必殺技を心得ている。
 秘技。

『私は何も見なかった』。