【海を越えて】黄昏の姫・葬送の蒼

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2005年04月27日

●オープニング

「ふふふ、では船旅に行って来るよセイラ」
 大皿が飛ぶ。ひょいっと其れをよけるヴァーナさんことヴァルナルド・エレネシア。かつてパーティでは大皿で撃墜されたというのに、逃げ足に磨きが掛かっているのは錯覚ではあるまい。この色呆け爺さん、仕事がある程度片づいてきたというので六日間ほど旅行にいってくると言い出した。しかもご丁寧に『船の上で男を磨け! いざ集まれ魅力的な男達!』とかなんとか言いながら募集をかけてきたらしい。
 懲りない爺さんだ。
「護衛云々はいかがなさるおつもりですか」
「ディルス坊がやってくれるじゃろ」
「貴方は一人で海の上を優雅に楽しもうというのですか!?」
「ほっほっほっほ」
 皿の割れる音がする。
 凄腕爺と色呆け爺、どちらがこの爺さんの本性だと問われたら、多分両方だと答えねばなるまい。

 ‥‥‥‥。

 茨の冠、と名付けられた船がある。もうじきドレスタッドへ向けて旅立つ船だ。
 この大きな船の持ち主はプリスタン家及びエレネシア家の当主達で、馴染みの商家の為に作った船であるそうだが実際の所はどうなのかは分からない。ギルドでプリスタン家による『茨の冠』の護衛を発見して、申し込んだ者達がいる。
「ねーさま、大丈夫かなぁ。ちょっと心配。ねー、ミュエラおねーちゃん」
「心配とかいって。実は寂しいだけなんでしょーユエナちゃん」
「ちがうもん! ユエナはぁ、これから世界をまたいでみせるんだからぁ」
 銀糸の髪の娘が、幼い少女を見下ろして意地悪そうに微笑む。ミュエラはケンブリッジで魔法を勉強していた見習いである。ユエナはミュエラの妹ではなく、彼女の親友エルザ・アリエストの妹だ。この度、彼女はアリエスト家の現当主から一つ頼み事を受けた。三女のユエナを連れて逃げて欲しい、との不吉な内容。何があったのか、アリエスト家の当主は語らなかった。
「ミュエラおねーちゃん、ドレスタッド、って楽しい?」
「どうだろう人による。ワイルドな町だよ。育った町はケンブリッジだけど、生まれはドレスタッドなんだ。にー様達元気かな」
「そういえば、この船面白い見せ物が見れるってレモンドさん達が話してたよ」

「メイガース。遅すぎるぞ」
「へぃへぃサンジェルマン様は気性がお荒い」
 船の一室でふんぞり返った少年がいる。年の頃は十歳程度だろうか。部屋に入ってきた男はどこからみても『ならず者』といった姿である。媚びるような眼差しと、下卑た笑い声。メイガースと呼ばれた男に、少年は金の詰まった袋を投げて渡す。にぃっとメイガースははを見せて笑って見せた。小さな袋を宙に放り上げてキャッチし、懐に収める。
「さすが、よくご存じでいらっしゃる」
「中に50Gある。暁の星との連絡はついているんだろうな。灰の教団分裂後探すのに苦労した。きちんと金の分は働いてもらうぞ」
「おぉ怖い。なぁにレヴィは心待ちにしておいでです。コヴンの首領たる私めが保証しましょう。ところで‥‥旦那も純粋に子供のふりをしていれば可愛いんですけどねぇ」
 おどけたような発言に、サンジェルマンの眉間は縦に皺が出来た。
「お前と話すと気分が悪くなるな」
「光栄なお言葉感謝します。ところで、先ほど名付け子のユエナ姫は甲板で拝見しましたが、ミゼリ姫は一緒ではありませんので?」
「余計な事に口を挟むな。愛し君は時を見て連れ去るかどうか決める。今でなくてもいい。爺も老い先長いわけではない」
 メイガースの双眸がすぃっと細くなった。
「知ってます。少しずつ体が動かなくなってゆく短命のお家のご当主殿。相当苦労されておられる。ミゼリ姫も幼いのに可哀想なことだ。しかし愛しの君に気を配ってばかりでは『ウロボロスの栄光』は探せますまい‥‥おっと、出過ぎた発言失礼。そうそう旦那、出発してから面白い催しをするそうですぜ、気晴らしに見に行きませんか?」

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3449 風歌 星奈(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3524 リーベ・フェァリーレン(28歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4756 朱 華玉(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「この薬を飲んでください。少しは気分が安らぎます」
 人は苦しんでいる時、助けてくれない人を七代まで祟りたくなるが、助けてくれる人は神様か天使に見えるという。
 船酔いになった人々を始め、アルテス・リアレイ(ea5898)は船旅を楽しむ前に看病に当たっていた。全く持って人の良い青年である。何人かに崇められ始めた頃、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)がアルテスから離れた所に知り合いを発見した。
「顔見知りを発見したから、ちょっと挨拶してくるよ」
「いってらっしゃい。もう少しすると、例のコンテスト始まりますよ」
 アルテスに送り出されたヒースクリフの視線の先には、以前ケンブリッジで出会った人間がいた。ユエナ・アリエストとミュエラ・ルィ。風歌星奈(ea3449)がユエナにかまっていたところだった。
「じゃあ、星奈おねーちゃんは、ねーさまのお友達?」
「そうよー、名簿で名前があったし、姉妹だからすぐに分かったわ、と。ん?」
 二人も声を上げた。おぉこれはこれはと声をかけたヒースクリフ。彼は何を思ったか恭しく跪き、芝居が勝った台詞を披露し始めた。
「その妙なる後姿‥‥確かに見覚えが有ると思ったら、ケンブリッジの姫君達では御座いませんか。キャメロットの騎士、ヒースクリフです。久方振りにこうしてお目通り適いました事、恐悦至極に存じます‥‥‥‥お久し振り。私を覚えておいでかな?」
 果たしてサービス精神旺盛なのか、遊んでいるのか、ノリがいいのか、彼の我なのか。
 ぽけーっと見入るユエナとミュエラ、星奈は何かに耐えている。うんうん頷く二人に二言、三言。言葉を交わし、チャームに出場するので応援宜しく、と彼は去っていった。
「いい、二人とも。遠くから、あのチャームというのを見ていようね。絶対に近づいちゃ駄目よ。ああいうのは見る方がいいんだからね」
「う? ヒースおにーちゃんはユエナやおねーちゃん達、助けてくれたいい人だよ?」
 星奈の訴え効果示さず。無知は罪だが、無垢は武器とはよくいったもんである。

 船は波の上を行く。もはや遠方にうっすらとしかみえないイギリス国家。
「さよなら、イギリス‥‥涼はお姉様と一緒に行きます」
 しみじみ切なく囁く所申し訳ないが。
 君の上の兄弟は『兄貴』じゃないのか、双海涼(ea0850)。
 本日も晴天。兄貴抹殺を心に刻む娘さんが甲板に出た目的は、チャームを楽しみにしているご婦人方をこっそり捕まえて物陰へ連行。カツアゲか、と怯えるご婦人に対して。
「素敵なお召し物の御方、一時の禁断の蜜を味わってみませんか。涎も滴る『筋肉質がっちり系青年』と『細身美青年』の素敵妄想暴走開始ストーリーの講談を格安で!」
「ちょっとまて。そこの夢見る乙女(狂)」
 禁断の道へ楚々としたご婦人を引きずり込もうとした涼を、がしっと止める手があった。つい先ほどまでレモンドと話し合っていたジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)である。
「嫌ですね、ジョーイさん。チャームの打ち合わせは済んだじゃないですか」
「なにやってんだ、あんたは」
「以前のチャームの衝撃的なワンシーンを綴る魅惑の講談を、娯楽に飢えた奥様達に提供中です。おおっぴらにして国教に喧嘩は売るつもりはないので、こっそりひっそり着実にファンを増やしていくんですよ。友情を前面に押し出しつつも萌え・妄想を多数隠したストーリーは禁欲生活のご婦人には生唾ものです」
「‥‥堂々と間違ってるな。もう始まるから早く来い」
 これからお姉様に会いに行くのにぃ、と呟きつつ涼はずるずると引きずられていった。

「もー兄貴ったら、一体何処に逃げたのよーっ!」
 自分の兄を虐め倒すうら若き乙女リーベ・フェァリーレン(ea3524)。船の上でドラマチックに美しさを演出させるべく(?)兄貴を放り込もうと虎視眈々と狙っていたリーベは、さして広くもない船で自分の兄貴に逃げられ続けていた。「金髪の長髪で、無表情、無愛想な男を見掛けなかった?」と聞いて回る酷い妹‥‥いやいやお兄さんが心配でならないリーベ。二人組の女の子から甲板で見たと教えられ、子連れの柄の悪そうな赤毛のチンピラから、さっき人を吊して何処かへ消えましたよ、と答えが返る。
「この依頼主は前にも一度、確かエルザ嬢の救出の時ねぇ」
 船の上だというのに一日一杯安酒を飲む朱華玉(ea4756)。ふらふらしていると、兄貴捜索中のリーベと耳を隠してキョロキョロしていたユラ・ティアナ(ea8769)にぶつかった。おっとっと、と軽く謝罪して言葉を交わす。
「ん、確か農場の女の子に随分入れ込んでる風に言ってたのに渡っちゃうん?」
「ちょっと行ってくるだけよ。気になることもあるし」
「そっちは生まれついての二丁目向き顔ねぇ‥‥お酒すき?」
「に、二丁目!? お酒!? ええ、えええ、わ、私は」
 雑談の末、これからチャームコンテストが始まるというので、三人揃って足を運ぶ。

「れでぃぃぃぃっす、あんど、じぇんとるめぇぇぇぇぇん」
 けたたましい爺の叫び声が聞こえる。そう、なんだなんだと集まってきた観客達のお目当ては『これ』である。
 人とは常に飽くなき探求心を持つというもの。故に我が身の美しさを極め、訴え、技を磨き、ありとあらゆる美しさで人々を魅了する、常識を凌駕する多彩な芸を持つ輝かしい勇者達の祭典。様々なチャーミングを競う『美』の境地。
 それがイギリスの『一部』に愛され受け継がれ出した『チャームコンテスト』である。
 最初は男性だけが対象だったらしいが、今は女性の姿もある。チャーム出場者は、出場後に何かを悟り、目覚めると言うが、其れが果たしてなんなのかは当人達にしか分からない。いや、観客は怖いもの見たさの興味と砕け散ってゆく出場者を見るのが快感という。
「うわー、凄い人。船にこんなに人がいたんだってあれ?」
 ユラが落ち着きなさげに見回した。先ほどまでほろ酔いでふらふらしていた華玉がいない。おかしいな、と首を傾げていると、リーベが指を指す。
 そこには不敵に微笑み立つ華玉がいた。何故か空箱があり、男性礼服の華玉が髪をオールバックにして凛々しく胸を張る。
「一番、朱華玉。磨き続けた拳と健、お魅せ致します」
 見せが、魅せになってる辺り確信犯か朱華玉。
 何をし出すかと思えば、華玉はナイフを取り出し両腿に『ぐさっ』と突き立てた。生々しい、生々しいぞ朱華玉! 会場は一瞬にして流血沙汰と化した。そのまま疾走、馬走拳で箱を派手に破壊する! これは戦場を駆け抜けた強靱さのアピールだろうか!?
 華玉は胸がきついとぼやきながら去り、怪我をしたため物陰でポーション飲み干す。
「えらく体張ったコンテストだね‥‥涼ちゃん、何をする気だろう」
 ユラが乾いた笑いで呟く。
 次なる選手は銀盤に散った騎士ヒースクリフ。彼は突如きびすを返して観客席に踏み入ると、星奈達の方へと向かう。どよめく会場。逃げようとする星奈。ミュエラとユエナは首を傾げているが、彼は年頃の娘さん達を総スカンすると幼女(ユエナ)に近づき。
「姫君よ‥‥、この才乏しき騎士を哀れと思召し下さるならば、お力添え下さい」
 なんとダンスパートナーを申し込み、抱き上げて『一人』ステップを踊り出す!
 ジャイアントと少女。身長差が激しいのでユエナの足はつかないのは自然の摂理だ。
 パートナーの意味がない、意味がない。
 そこであえて娘さんではなく『ちみっちゃい少女』を狙う辺り、司会は言葉もな‥‥
「銀盤に散りながら再び参加、性ね。今日はその筋狙いなのかしら」
 司会は爺から朱華玉に代わっていた。
 チャーム恒例、司会を乗っ取るのは早い者勝ち。
 三番手は共同演目。ジョーイと涼だ。二人とも一番下のマストの上に這い上がり、野生児宜しく、身軽さを武器に綱を掴み、叫び声を上げながら空中で大きく弧を描く!
 勿論、命綱はばっちりだ。
「涼ちゃん、主催者側に用意させた人形はダーツ打ち込む芸に使ったんだね。でもなんか」
 明らかに人形の急所を狙う、爛々と輝く眼光。あれは殺気と狂気に違いない。
 怯えるユラと観客。そうこうしていると今度はジョーイが女装したレモンドを小脇に抱えてマストの上にあがった。
 本人曰く、女の子を(彼女に対する面目がないので)使うわけには行かないらしく旧知の知人を引っ張り出した模様。
 彼女がいなけりゃ使ったのか、怪盗JJ。
「見よ! これこそ伝説の友情チャームだ!」
 いくら女顔で細身でも女装は女装。ジョーイは爽やかな声と微笑とともに、溜息が零れそうな高度のテクニックを披露するが、其れを絶妙な雰囲気で演出する『女装したクレリック』はいかなものか。現実を忘れるが吉。
「‥‥何故僕は此処にいるんだろう。後には引けない、えっと皆さん、アルテスです!」
 竪琴を手に現れたアルテス。出場前に己へかけたグッドラックがきいているのか、いないのか、疑問を口にしながら『さぁ観客よ、僕を見よ!』とばかりに大きく手を振る。
 最下位のつるし上げは勘弁願いたいからか、笑顔の裏は必死だ。
 輝かしい笑顔で美声による恋物語を披露する。勿論、舞台は豪華客船! だが。
「やがて氷の山が目の前に迫り、船は衝突! あぁ逃げまどう人々に紛れ、男と女は」
 豪華船上の身分違いの恋物語は、船の沈没で幕を閉じた。観客の表情が凍る。
 沈んでどうする。アルテス・リアレイ。
 そんなこんなで演目は続いた。
 最下位は『目に痛い』流血演目をした華玉だったが、ヒースクリフが「ご婦人を吊すくらいなら、私が身代わりに!」と叫んだため、ヒースクリフになった。英国騎士の誇りらしいが、一時間潮風の中に吊され奥様達のハートを射止めたとかなんとか。

 賑やかな船旅は、思い思いの出来事とともに幕を閉じたようである。