我と燃ゆ?
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月04日〜08月10日
リプレイ公開日:2004年08月10日
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●オープニング
「燃えるような恋を演じてみたい」
世の中危険に満ちてるかとおもいきや、平和な場所はとことん平和というものだ。
お前は正気か、おそらく知人が傍にいたら額に手でも当てられそうな発言を、恥ずかしげも無く恍惚と呟く、自称『うら若き乙女』のヴァーナさん(仮名)、キャメロット在住のおん年六十五歳。生物学上の性別は――『男性』。
皺もくっきりと刻まれたご老体の顔は、脳内で展開される妄想メロドラマにて只今危険度上昇中、いい変えると絶好調だ。「ねぇママ、あのおじいちゃん何してるの?」という子供に、「し、指差しちゃいけません」なんて見ざる聞かざるを決め込む主婦という定番場面が見れちゃったりする今日この頃。
穏やかに流れる川。その橋の上で、カマ疑惑が囁かれるヴァーナさん(仮名)は身勝手に熱いハートに鼓動を高鳴らせ、こぶしを握り締めていた。
「恋‥‥それは永遠のテーマ! 若かりし日の甘酸っぱい青春時代を胸に過ごしてきたが、やはり恋は永遠の夢! 若者の青い恋だけでなく、年寄りには年寄りの、長年熟成させた大人の恋愛はあってしかるべき!」
季節の変わり目は頭の沸いた方々が多発するようですね、なーんて通りすがりの吟遊詩人に言われても全く気づかない、自称『うら若き乙女』のヴァーナさん(仮名)は現在とっておきの企画を進行中だった。
「さて、警護の依頼をだしにいかねばな」
声が弾む。実は、しわくちゃ顔のジジババ専用茶飲み同好会と化している集まりがあるのだが、今度そのメンバーが主催で小さなパーティを開こうという話になったのだ。旅のジプシーなども招き、賑やかにすると言う。仲間内では踊りを習おうと言う話もでたりした。
身内だけではつまらないから広く参加者を募って、出会いあり、トキメキありのドラマチックなパーティにしたいらしい。
おそらく彼の脳裏には、あわよくば若いぴちぴち(死語)の青年と物語のような一夜の恋を――‥‥なんて下心丸見えだったりするのだが、とりあえず舞踏会を開くにあたって警備員を集める為、ギルドに私服――ひいては招待客に扮した警護の募集を出しに行くところだったりした。
「身分違いも素敵だが、年の差ロマンブラボー―――っっ!」
実ってもいない恋に騒ぐご老体一名。
冒険者達がこの老人の発言を聞かなかったのは幸運なことではないかと、道行く人たちは考えていた。
「――ギギィ」
子供に扮している小さな影。
人気の無い物陰からきろんと光る招かざる客の視線をのぞいて。
●リプレイ本文
夕日もくれて灯りが燈る頃。うら若き女性を壁に追い込む男が一人。
耳から染み込む甘い言葉に、大抵の女性は骨抜きにされるというもの。オーム・ローカーハ(ea3911)はここぞとばかりに好みの女性を口説き落とす。
「姉さん、この俺が思わず見蕩れる程美人だねェ。どうだい、パーティが終わったら俺と飲み直しに」
こうなりゃナンパは崖を行く。
「やっぱり口説いてるよ」
愛らしい顔立ちの少年が顔見知りを見つけて呆れ半分。こう見えても彼、ニック・ウォルフ(ea2767)はパーティーでの警護を勤めている最中だが真横に細身かつグラマーな美女を連れ歩いていた。隅に置けない。
「いいじゃありませんか。食べたり飲んだり。私達は仕事と同時に招待客だそうですし」
ニックを軽く抱きしめる金髪美女ことセレス・ブリッジ(ea4471)。近くの男が微笑みに目を奪われるほどのセレスもまた、ニックと同じく会場警備員の一人である。
「あ、え、えへへ、楽しいし料理美味しいね」
「はい。ニック君とペアでデートも楽しいです」
なんだかほのぼのカップルが出来ている。
「‥‥楽しそう‥‥ですね」
真紅の扇に落ちる溜め息。会場を眺める壁の花シスイ・レイヤード(ea1314)。
中性的な容貌故に身も知らぬ男達に「踊りませんか」とか「飲みませんか」などと言い寄られ、ほとほと困り果てていた。女に間違われてげんなりしながら他の仲間の姿を探す。
特に紅月旅団の筆頭は一体何処だと探した先は。
「はじめまして、マドモワゼル。ん、この香り‥‥ラベンダーだね、お嬢さん? こちらのお嬢さんはローズの香りがするよ。いい香りだ」
――ホストかお前は。
ベタベタな台詞を放ちながらも香水を嗅ぎ分ける嗅覚は確からしい。先日ゴールデンハンマーと呼ばれたルカ・レッドロウ(ea0127)だが、ナンパの腕は健在だ。テラスの傍で五、六人の淑女を侍らせてご満悦らしい。
果たして『警備』の役目をしている者は何人いるのかとシスイは憂鬱な思いに駆られた。
会場の隅ではホモ疑惑の主催者ヴァーナさんと、熱心に『乙女の理想論』なるモノを語り続けるフォリー・マクライアン(ea1509)の姿が映る。またジャパン人の世良北斗(ea2685)は、正装に帯刀という格好で会場内を練り歩いていた。真面目な警備態度は好印象だが異様に目立つ。
ところかわって、こちらは屋外。
鬼哭弾王(ea1980)は酒を舐め、適度な飲み食いを繰り返しながらも警備に勤しんでいた。適度という割りに空の大皿が彼の脇に積み上げられているのは気にしてはいけない
ふと視界の隅に小さな影が映る。弾王は「おっ」と注意を向けた。小さな子供ならば家に返さなければならないし、ゴブリンであるなら、即刻対処しなければならない。
「よう坊主、ここからは大人の語りの時間だからな〜、子供は家に帰ろうな」
気さくに声をかけて摘み上げた。
――ビンゴである。子供に扮装したゴブリンだった。周囲の客が混乱に陥らぬよう、弾王は細心の注意を払い、物陰でゴブリンをふんじばって会場の外に放り出す。ところが。
「え、ぁ、――やべぇ!」
彼の背後を小さな影が走り抜けていく。複数いたようで、今放り出したのは囮だった様だ。ゴブリンの癖に賢い。彼は慌てて追いかけた。
「室内、異常無し! ヴァーナさんも異常無し!」
定例報告会でフォリーが合言葉を口走った直後、ゴブリンが二体会場に侵入した。元からの区分けどおり客を安全な場所に誘導する者と、駆除する者に分かれる。今回の護衛を受けた者達は揃いも揃って強者ばかりであった為、ゴブリン如きにやられるはずがない。あっという間に終わってしまった。
つまんないので様子は省く。
記録係の職務怠慢はさておいて。問題はこの後だ。なんとゴブリンをノシた冒険者達を見たヴァーナさんが、ポッと頬を赤らめた。弾王はそそくさとゴブリンを捨てに行き、ニックは「お、お爺ちゃんの遺言で歳が離れた恋愛はするなって」などと言いながらセレス達の背後に隠れた。
「‥‥すげぇ嫌な予感がするのは気のせいかねェ、オームの兄ちゃん」
俺の嫌な予感は当たるんだ、とルカの口元が引きつっていく。
「俺はホラ‥‥し、身長が釣り合わねえと思うんだ! ガサツだし! な!」
先手必勝! とばかりにオームが逃げ出す。するとヴァーナさんは内股の『乙女走り』で猛然と向かって来るではないか!
「立ったァ! クラ×が立ったァ!」
貞操の危機を迎えて体を張ったギャグをカマしている場合ではない。ルカも逃げた。
「チィ! 爺さん恨むなら自分を恨め!」
覚悟を決めたらしい、怪しげな内股走りで向かい来るヴァーナさんに立ち向かい、ルカは狙いを定め、トリッピングで転倒を狙う。爺さんが足技をかわせるはずもなく、あっというまに倒れこむ。だが!
「――げ」
北斗とヴァーナさんが顔面衝突した。唇は無事だったが、カマ疑惑の老人と顔面をぶつけるとは不憫な男。気を失った北斗は、この世の極楽とばかりの美しい場所にいた。物語で蓬莱、なんて感じの場所だった。
あぁシフールが宙を舞っている。
妖精さんこんにちわ、ルフルン、ルフルン、ダンスが上手。
一面が蓮の花って所で、お前さっさとヤバイって気づけ、と言われそうだが、北斗はまっったく気づかない。虹色の河の向こうから人が手を振っている。
『北斗、北斗や』
北斗は神の啓示を聞いた、――――と思い込む。
『汝、カ魔(かま)を断つ剣となれ』
「イヤァァァァ! 世良さぁん! 世良北斗さぁん!」
北斗。いまだあの世から帰還せず。
叫びまくっているのはヒロインに陶酔しちゃってるフォリーだ。あの世のお迎えでもあったのか、全く意識が戻らない仰向けの北斗の胸の上で悲痛に聞こえる言葉を発している。傍から見たら運命の悪戯で引き裂かれた恋人の如し。
ちなみに彼女と少し離れた場所で、ルカとオームがヴァーナさん(無傷)と海辺を走るラマンに近い状態でイタチゴッコを繰り返す。若者二人の顔は未知の恐怖に怯えていた。
「ほっほっほ、それこっちゃこーい。照れるでない、照れるでない」
「イヤァァ! ジィさんとの一夜は避けなければ! オームの兄ぃちゃんアンタの犠牲は無駄にしない! 安らかに眠ってくれ!」
「イヤァァ! 俺を売るんじゃない! 俺はホラ、身長がつりあわない! ルカの方がお似合いだって! 臥所を共にする前に逃げ出すんだナイスメン!」
今日はちょっと気味の悪い悲鳴がよくあがる。だが爺さんを擦り付け合ってる場合ではない。依頼人なので殴れもしない。誰も助けてくれないので依然ピンチだ。
それはさておきニックの涙腺が思わず緩む。
「フォリーさん、あなた世良さんの事が」
「早すぎる、早すぎるわ! でも、貴方はもういないのね‥‥安心して! 貴方のお見舞金や財布の中身。全部私が貰ってあげるからっ!」
そっちか―――っ! と叫んだ者多数。現実的な冗談だ。
王子様に憧れ、いつでもどこでも物事は前向きに。それがフォリー。思わず状況に流されそうになったニック含む一部の人間は、哀れそうな眼差しで一向に現実へ戻ってこない北斗を眺めた。
さらば北斗、君の死は一人の女性の肥やしになるぞ。
「カ魔(かま)を断あぁ――――つ!」
北斗がカッと目を見開いた。ギラついた双眸で会場を見回し、日本刀を片手に、雄叫びを上げながら走り去っていく。公序道徳に反するような事は許せない性分。どこかキレたらしい。普通は復活を喜ぶべきだが、それまでの経緯があるので微妙な心境だ。
かくして四つどもえの追いかけっこが始まった。
北斗に背後から修羅の形相で追いかけているのに、ヴァーナさんはそ知らぬ顔でルカとオームを追いかけている。
色ボケ爺さんに奪われないようセレスに抱きしめられているニックが、被害にあっている男達を眺めて静かに泣き出した。依頼を受ける前に旅団長(ルカ)に言われた言葉が脳裏を横切る。
『ニル、俺にもしものコトがあったら‥‥―― 旅団のコト、頼んだぜ‥‥』
言っている事はカッコいいが、現状を見ていると情けない涙しか流れない。
「洒落になってないよぉルカさーん」
「ニック君、泣かないで」
そっと涙を拭いてやるセレス。
「落ち着くまで‥‥待つか‥‥」
ヴァーナさんの対象外らしいシスイは、大変な目にあっている男達を眺めながら、後で何か奢ってやって愚痴ぐらいは聞いてやろう、とのんびり考えていた。すでに男達の貞操は堕ちた物と諦めている風にも見えなくない。
「ヴァルナルドっ!」
「ごぇっ!」
知らぬ叫びと共にヴァーナさん(仮名)の首に何かが直撃。
皿だ、皿である。大皿がブーメランのように空を飛んだ。力なく倒れるご老体に近づく老いた婦人は、カンカンに怒っていた。
「全く! いくら孫にかまってもらえないからって、見知らぬ若者を追い掛け回すのはやめなさい!」
失神したヴァーナさん、ことヴァルナルドさんの返答は無い。彼の妻である老婦人はぺこぺこと冒険者達に頭を下げて色ボケ爺さんを引き摺って行った。
「紅月旅団。なんとか存続だね、シスイさん」
「珍しく‥‥三人‥‥そろって‥‥受けた‥‥依頼だったし‥‥な。無事で、良かった」
「うん。あ、僕、セレスさん待たせてるから。また後で」
離れた場所でルカとオームがソファーに座ってぐったりと頭を抱えていたが、彼らの周りには口説き落とした女性達が集まっていた。モンスターを倒したからか英雄扱いでハーレム状態。
あの後、八人は残りの時間を招待客として楽しむよう老婦人に言われた。
警備をしつつもルカとオームはナンパを再開、セレスとニックはのんびりデート、弾王は飲み食いに走り、シスイは、今度は女性に口説かれ始めて対応に困っていた。
ヴァーナことヴァルナルドさんと顔面衝突した不憫な北斗はといえば‥‥
「淑女殿。よろしければ、私と一曲、踊っていただけますか?」
そう言って白い花を一輪、フォリーに差し出す。正気に戻り意外と情熱家な北斗の一面に、彼の知らない事実を知る六人は微妙な心境で眺めたそうだが、それはそれ。
色々問題も起こったパーティーは、冒険者の活躍で無事に幕を閉じたという。