芸術家の苦悩−りふぉーむ&りふぉーむ−

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月06日〜05月11日

リプレイ公開日:2005年05月14日

●オープニング

 ギルドに一枚の依頼書が張り出されている。
 内容は襤褸家の改装手伝い、そしてモデルのようである。

 ぶちぶちぶち。
 草取りもそろそろ飽きてきた頃だ。
「たく、ウィタといい、ポワニカといい、マディールといい、みーんな出かけるんだからもぅ!」
 用事があるからと掃除のあいだ家族は逃げる。
 実際顔見知りに会いに行った者もいたようだが。
 ドレスタット近郊に、先日イギリスから海を渡ってきた芸術家の仮住まいがある。
 実は国外逃亡という、ちょっとデンジャラスな身の上だと知る者は旧知の者を除き、この地で知る者はいないだろう。芸術家は二人、名をマレア・ラスカ及びミッチェル・マディールという。他に彼女は自称執事やら妹やら昔の部下やらと様々な扶養家族を抱えている。とある旧知の貴族から貰った資金で、海外逃亡後もこうして何不自由なく暮らしている‥‥かに見えた。
「なぁーにが、家を用意した、よ。荒れ放題の家じゃないのさー!」
 庭は草が生え放題。
 天井は時々忘れた頃に一枚一枚板が剥がれて落ちてくる。
 廊下は歩けば穴があき、壁を叩くとネズミの走る音と羽虫の騒ぐ音がした。
 これで安眠しろと言うのに無理がある。
「ミスマレア。異国で家を用意するのは大変デス。頑張ってなおしていきましょう」
「まあ300Gも貰ったから宿も食い物も今の所平気だけど。いつまでもつか。みんな逃げるから人手が足りないし、助っ人たのもうか。そろそろ皆の分働かなきゃねぇ。というわけで稼ぎ手の私は地元のコンテストに出ることにしましたー」
 一枚の羊皮紙をぺらっと見せる。
 其処にはささやかな絵画コンテストに関する募集要項が描かれていた。風景画、人物画、写実や抽象などに限定されないものだ。彼女は故郷では今まで幻想画家として精霊や天使などをメインに手がけてきたが、決して普通の絵が嫌いなわけではない。
 どうせ荒れ放題の家を改装するのだ。
 ならば、この襤褸い家を重点に置き、改装ついでにモデルも募って仕事をするのも悪くない。
 幸い、商売道具は手元にある。
 一家を支える大黒柱は大変だ。
「‥‥ミスマレア。素直に融資うければよかったのに」
「あんた船で吊されてたでしょうが。誰に聞いたのよ、誰に。嫁入り前の妹抱えた冒険者のお兄ちゃんから、資金貰うなんて出来ないわよ。働かざる者食うべからず!」
「‥‥ディルス様から貰った300Gは?」
「失恋の慰謝料ってことで。さー、きりきり働く! あとでギルドいってきてよね」
 名前はどうしますか、とジャイアントのまっしぶワトソン君が問うと、マレアの名前のままでいいと答えた。どうせ異国。まして『マレア』などという名前は何処にでもいるだろうからと。
 

●今回の参加者

 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2504 サラ・ミスト(31歳・♀・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3524 リーベ・フェァリーレン(28歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4844 ジーン・グレイ(57歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)/ バニス・グレイ(ea4815

●リプレイ本文

 人間誰しも時には第六感なる感覚が働くことがある。集まった冒険者達の顔ぶれ、顔見知りの者もいれば、初見の者もいるし、なんだか悪寒が働く者もいたりする。そして。
「完成したら‥‥どうなっちゃってんのかしら‥‥この家」
 担当決めをした後のマレアの呟き。なんかもう諦め発言しつつリフォームは始まった。

「雑草むしりさせちゃってごめんなさいねー、助かるわ」
 どこかうきうきと、しかし素直に喜べないような。そんな複雑な胸中のマレアは、彼女やワトソン君に変わって雑草むしりをしてくれているサラ・ミスト(ea2504)にねぎらいの声をかけた。サラはまるごとメリーさんを着込んだまま、ふうふうと働いている。
「これくらいならな、植物の知識なら多少あるし、大方家の配置が決まれば、あとは技能のある者に任せた方が得策。まあ少ししたら見回ってくる。‥‥『それ』はどうするんだ」
 家の中から聞こえる奇声を注意しなければならないが、その前にマレアの目の前に転がっている『でっかい氷』を目で指して聞いた。中には妹に呼び出された妹命のどっかのお兄さんがアイスコフィンで凍り付けになっている。モデルと逃走防止だそうだが‥‥
「嬉しいけれどあまりにも不憫よねぇ。双海涼(ea0850)ちゃんに『ジェントル仮面の人だ』とか言われて逃げたそうだったし、‥‥お夕飯になったら煮て元に戻しましょうか」
「夕食時まではそのままなんだな。風邪をひかんと良いが」
 後に荒廃した屋敷を死後も守る騎士として描かれるが、モデルの意思があったかどうかは知らない。兄を凍りづけにするリーベ・フェァリーレン(ea3524)は非情か強者か。

 極真面目にバニスと修理に取り組むジーン・グレイ(ea4844)達に混じって、邪念を働かせる者がいた。いや、もしかしたら良心なのかもしれない、もしかしたら善意なのかもしれない、しかしそう言うところは大抵当人の顔を見れば分かろうものだ。
「あぁ、できたできた、できました! すいません、どなたか屋根上のヒックス・シアラー(ea5430)さんにお水と軽食をもっていってくださいませんか?」
 久々の家事に戸惑いながらも楽しんでいるらしいリア・アースグリム(ea3062)が誰にともなく声をかけた。涼が剥がれ落ちゆく天井と壁の修繕、壁の張り替えを希龍出雲(ea3109)が、サラは先ほどのように庭、リーベはワトソン君と同じく総指揮を分担して担当しながらスネークチャームで蛇を虜にしつつ古屋につきもののネズミ駆除に精を出し、リョウ・アスカ(ea6561)はボロボロの床のゴミを拾ったり雑務を引き受けていた。
 ヒックスは現在、雨漏りを危惧して屋根の上に這い上がり、屋根を修繕中だ。
「ああ! じゃあ俺が持っていきま‥‥ぎゃーっっ!」
 リョウの足下が抜けた。ずっぽり体がはまるリョウ。リアは悪いと思いながらもくすっと笑みを零す。知らず知らず、此処最近恋人がいない反動で良いところを見せようとしていたリョウががっくり項垂れる。リフォームの手伝いしながら「彼女が欲しいなぁ」等とつぶやきへこんでいた分、女性に笑われるのはなかなかに大打撃である。
「うぅぅぅ、なんでこんな。愛が欲しィー‥」
「床から人が生えるとは珍妙な。さて、大丈夫かな」
 バニスと修理に出ていたジーンが胸元までずっぽりはまった彼を引き上げた。腕力万歳。
「ヒックスさんの分でしたら私が持っていきますので貸してください、リアさん」
 突如響いた声は涼のものだった。天井からロープをつたいスルスルと蜘蛛の如く現れる。
「あ、あなたどこから!」
「忍者は神出鬼没なんです。やはりこうでなくては、では失礼」
 天井から降りてきて、荷物を持ち天井へ這い上がる涼。無駄に器用だ。戦友に軽食を届けに行った涼と屋根上のヒックス、ジーンに床から引き上げられたリョウ達や庭の方は良しとして、壁を修繕していたはずの出雲とワトソン君の姿がない。リアが首を傾げた。
「おかしいですね。さっきまでいたのに。こういうのはきちんと休まないと」
「私が探してこよう」
「まって。私も行くわ」
 庭から現れたサラと戻ってきたリーベが二人を捜しに屋内を歩き出す。何かあったのかと心配する者もいたのだろうが、実際の所は。
「なぁ兄弟、着替えの場所とかな。人が最も無防備になる場所に関しては外部を覗くための窓が必要だと思うんだよ。危険を察知するとかな。だから死角を教えろ!」
 ワトソン君に死角をねだる出雲。というか普通は無防備になる部屋こそ外部から見えるようでは危険と思うが、船の上で夜這いをしようとして簀巻きにあったのに懲りない男だ。
「なにやっとるか」
「面白いこと話してるのねぇ」
 サラとリーベだった。笑顔だが目が笑っていない。がしっと出雲の肩を鷲掴みにする。
「其れはいわゆる覗きか? 不純な私欲のための改装を行った者には『逆さつりでいくドレスタット空のたび』を贈呈しようと思っていた所だ。何、心配は無用。遠慮はいらん」
「おいたをする子には攻撃魔法をお見舞いするのがとある場所でしみついててね。大丈夫、遠慮はいらないわ。手加減するなんて失礼なことはしないから安心して」
 響く絶叫。しかし何故だろう。後に樹に吊された出雲を見かけたリョウやリアの証言によると、出雲は体罰ならぬお仕置きを期待していた風な発言があったようだ。世も末。
「なんだか悲鳴が聞こえませんでしたか涼さん」
「いつものことですよヒックスさん」
「そうでしたね。今時何が起きようと僕は動じなくなってきました。いやあ空が青いなぁ」
「そうですとも。あ、お姉さまに屋根上の少女の絵でも提案してみるのもいいかも」
 空の上は平和だ。

 深夜になると流石は闇の家。今まで一体何処にいたのかと言うぐらい、『でっかいネズミ』とか『でっかいコウモリ』なる獣達がわさわさと湧いて出る。マレア達と、その護衛についたサラ、この家の場合モンスターを放っておいても住民が駆逐するでしょうと経験から何か悟った様子のヒックスは『安眠させてください』と宿へ。残った皆様は大忙しだ。
「ああ! 俺の保存食! おのれネズミ、いくら痩せていようが泥棒には制裁を!」
 眠さと自宅への思いに「この一撃に全てをかける! ゆくぞ!」とネズミ相手に一刀両断狙うという当てつけ半分で剣を振るうリョウ。
 一方、生真面目なジーンは生真面目にモンスターの駆除に辺り、敵を見つければデスを繰り出すため、対象範囲に入らないようにするべく皆さん生死をかけた回避劇。
「にがさんぞモンスター共よ!」
 害が少ないように最小限で動く涼やリアは、屋内で派手に暴れる者達を眺めて、明日は始末かな、とふと掃除のことを考えていた。修繕より死体掃除が大変かもしれない。
 何故か、昼間散々下心な行動で迷惑かけまくった出雲が「あぁ壁が! 床が抜ける! おぃおぃ血で床を染めるなよ!」と珍しくまともな発言で夜の家を走り回っていた。

「サラちゃんと恋の話でしんみり一晩あけてみれば、なによこれ」
 血染めのハウスは一見、殺人事件の舞台である。退治を行い眠りについて見たものの、昼になれば夜見えなかった景色はみえてくる。結局の所、翌日マレアは絵を描く暇もなく、全員揃ってモンスター退治で破壊した部分の修理と、倒した奴らの処理に追われたそうである。
 依頼終了時に家が何処までまともになったか?
 それは、住んだ人間の溜息具合でわかるのかもしれない。コンテスト結果はまた後日に話すとしよう。