教えて! 僕らの勇者様!
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月19日〜05月24日
リプレイ公開日:2005年05月29日
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●オープニング
まずここで前置きしておく。君達はプロの冒険者である。
その冒険者ヘタレ・ンジャーダは『冒険者』というものに憧れていたという。モンスター達『人間の悪』を成敗して自活する正義の味方。
おそらくそのフレーズだけで大抵の少年少女が瞳を輝かせる。憧れを抱くとはいいことだ。しかし、ある日突然、何処にいるかも存在するかも分からない魔王を倒しに行ってきますと言い出したりしたら、色んな意味で手に負えない。
「俺の酒場になー、旧知の知り合いなんだが、毎日愚痴こぼして始末に負えない奴がいるんだよ。その辺のお客を捕まえてくだまくし、かといってきついこと言えないし、奴の憧れてる冒険者様とやらに、どうにかしてくれないかなと思ってなー」
説得相手は其処まで危険思考ではなかったが、それでもやはり、冒険者にあこがれていたのだ。
様々な難敵に出会ったのかもしれない、パーティーが平和の露と消えたのかもしれない。管を巻き始めた理由ははたして。
一体何が起きたのか。
「最初はそう、何が始めだったかな。そうだ、父親が愛人を作って蒸発して、母親が遊び人の男に騙されて貢がされ、借金が次々たまっていって生活がままならなくなり、いっそ冒険者になって順番に強くなって高額の賞金首を捕まえて借金を返そうと思ったのが始まりだったと思う」
出会って早々。依頼を受けた冒険者が相談に乗ると話しかけたところ、出だしからディープな家庭事情が飛び出した。
思わず固まる冒険者達。
「まあ其れは別に構わないんだ。世の中にはモンスターを中心に悪が無尽蔵に出現している、この時代! 冒険者としていつかは自分の名前が広がってみろ! 高き名声! 羨望の眼差し! 二つ名で呼ばれる栄光の快感! おれは其れを求めて旅立ったはずなんだ!! なのになんだ! ギルドに出向けば冒険者として登録に金が必要だわ、書類は書かされるわ、そんな紙切れと悪を排除してやる勇者の卵である俺と、どっちが大事だと聞けば『書類が大事だ』と受付はぬかす!」
‥‥かなり妄想が混じってきたが気にしてはいけない。
冒険者達は辛抱強く話を聞く。
「ああ、すまない。落ち着くよ。冒険には仲間やパートナーはかかせない、俺はパートナーを捜しに大きな酒場へ出向いた。その酒場で一番強いと有名で、パーティを組んでいない女性騎士を紹介してくれると聞いたときは胸が躍った。清く正しい育ちの神聖騎士で、とても強くパーティーはおろか恋人もいない。嬉し恥ずかしいの道中、共に戦い抜く戦場、時には恋が花咲くかもしれない。そう思っていたら目の前に現れたのは」
紅潮した顔の男が一気に真っ白に燃え尽きて、冒険者達はごくりと生唾を飲み込んだ。
「‥‥現れたのは?」
真っ白になった男は頬を涙で濡らしながら、ダンッ! とテーブルを叩く。
「浮き上がる血管、盛り上がる胸筋、亀の甲羅が如くわれた凛々しい腹筋、脚や腕は丸太が如き鋼の筋肉という鍛え抜かれた強靱な肢体の人間だった。色白の美人を想像したのに‥‥うぅうわぁぁぁぁぁ! 瞼の奥の厳つい顔が消えないー!」
強い者ほど男性的な身体能力を誇るものであり、勿論無駄な脂肪は燃焼されて筋肉へと変わるもの。
死闘を繰り広げる戦場において、最強と歌われる女性騎士に対し、平穏な暮らしをしている一般女性と同じ身体の豊満さと魅了を求めるのはお門違いだ。ついでに顔は生まれつきなので選べない。
噂の女性騎士は、噂に違わぬ実力と全身を兼ね備えた者なのだろう。例え紹介当時は華やかさのアピールに薄着で出てこられても、戦場は戦場、本気で薄着だったら死神が傍に立っているに違いない。女性騎士は当然、戦いでは全身を堅く厚い鎧に覆っていることだろう。
彼はさらに何人もの仲間を求めた。しかしことごとく理想は現実にうち砕かれていったらしい。遊び人を探せば借金地獄の奴に出会い、占い師を選べば意味もなくお前の未来は危険に満ちているだの言われ、吟遊詩人は俺の詩を買ってくれとのたまい、元暗殺者を選べばなんだかよくわからない組織と公的機関に狙われる。
ここでも夢は崩れ去り続けた。
「そして試しに一緒に戦ったパーティ達の内、筋肉ムキムキの交戦歴が長いファイターは、臑を攻撃されて地面に転がり、呻いているところを痛恨の一撃で医者送りになった」
人間どんなに頑張っても筋肉がつかない場所というものは存在する。人体の神秘を前に人間は無力だ。
「そしてまずはゴブリンと戦って、次第に強い獲物に挑戦し、次第に冒険者としての頂点を目指して魔王を倒してやろうと森の中へ踏み込んだら、現れたのはゴブリンではなくゴブリン戦士だし、逃げに逃げれば狼に出会い、しまいにはガウィッドウッドの傍にいた!」
いつのまにか魔王存在が断定型に。
そもそも何故『魔王』なんて今時十歳の子供でも笑い飛ばす存在をまともに信じている大の大人の心理根拠はなんなのだろう。
いや、それよりも。
真面目に考えるとデンジャラスな冒険記録だ。確かに都合良くひ弱なゴブリンや獣が現れるわけがない。森は神秘の世界だ。突然ラスボスクラスの敵に遭遇することだって勿論、確率的に現実ではあり得る。
この男、今生きているのが不思議でならない。
「教えてくれよ! あんたが冒険者として成功した秘訣を!」
トラウマ抱えた男にすがられて冒険者は一度離れた。
きつい、これはきつい、精神労働は肉体労働にも勝ろうもの。
どうやって男のトラウマを正すのか。一度帰った冒険者達はぼそぼそと計画を練り始めた。
●リプレイ本文
彼らは話し合った。妄想が走り抜けた彼の更生要請。そして結局の所、実に九割が『無理』という結論に辿り着く。更生方法は様々である。それでも尚チャレンジ数、実に六名。
順番に行ってみよう。果敢な第一選手は彼、メルヴィン・カーム(ea1931)。
「なぁヘタレ兄さん。僕は夢を見るのは悪い事じゃないと思うんだ。夢見たい、輝きたい、そんな気持ちはよく分かる。まずは騙されたと思ってついてきてよ」
しみじみと語り出す。冒険者達が訪れたのはヘタレ君が「俺と書類」の二者択一で砕け散ったギルド。現実を見せよう論で一番多くあがった候補がギルドと酒場だった。ユラ・ティアナ(ea8769)とマルト・ミシェ(ea7511)も同意見。メルヴィンは遠い方向を眺め。
「僕も格好良く『悪』を倒したいとか『昔』は思ってたな‥‥確か『5歳くらいの頃』に」
五歳のメルヴィンとイコールされたヘタレ君。周囲は気づくが、本人全く気づいてない。
「僕はジプシーな訳だけどこれでも師匠の元で修練を積んでる。物には順序ってもんがあるんだ。騎士やウィザード、クレリック。世の中には沢山職業があって鍛練を積んでる」
傍らでフードをすっぽり被っていたユラが「現実はドライだからね」と呟きながらメルヴィンにひそひそと耳打ちした。
「ねぇ、ギルドだし。冒険から帰ってきてボロボロの冒険者たちとかもいるかもしれないし、いたら見せてみたらどうかな。その人達には、申し訳ないけど」
「いいねそれ。丁度来たみたいだし」
その時、都合良く焦燥感と虚脱感背負った冒険者チームが現れた。
この世の終わりだ、故郷の母ちゃんゴメン、もうおしまいだ、そんな台詞を吐いて崩れ落ちている。何事だね、と後ろの方で暇をもてあましていたヴィクトル・アルビレオ(ea6738)が気紛れに話しかけると、彼らは神を見るような眼差しでヴィクトル達を眺め。
「ギルドで共に日々の糧を稼ぐ同士達よ聞いてくれ! 俺達は飲食店へかり出されたんだ。今の季節、物陰に『黒いアレ』が活動してるから駆除してくれと! そしたら『アレ』は俺達を襲い、服の下を這い回り、鼻に飛び込み凶悪さを見せつけやがった! しまいには仲間が錯乱して攻撃魔法で店が半壊‥‥あぁぁ借金が増えるーっ! おしまいだー!」
ヴィクトル沈黙。ヘタレ君はメルヴィンを眺めるがメルヴィンは笑顔で。
「‥‥つまり冒険者も楽じゃないんだ。んじゃ、現実世界に帰ってきてもらおうか」
案外非情だったメルヴィン・カーム。現実に引き戻されたヘタレ君の顎がはずれる。
「全く。そのしまりのない顔をどうにかなさい」
「キミもまた荒療治だなぁメルヴィン。ヘタレの顎がはずれてるだろう」
見かねたキラ・ジェネシコフ(ea4100)が楚々とした物腰のままヘタレ君に近づき、顎をはめて現実に戻してやる。応急処置法とはこう言うときにこそ使うべきだ(曲論)。
キラと入れ替わりに顔を出したアーディル・エグザントゥス(ea6360)は苦笑しつつもヘタレ君の肩を励ますように叩き「最初から現実を見ろってのも酷だ。魔王が居る居ないはさておき」と前置きし、なあ周囲をよく見てくれと、なんだか頼もしい背中で語り出す。
「自分はキミが主張する『魔王を倒す勇者になる』って言うのは『世界一の戦士になる』と本質的には変わりは無いんじゃないか、そう考えるんだ」
物は考え方、見方次第。そんな言葉が脳裏をよぎる観客の皆様。(此処はギルドだ)
「だがメルヴィンの言うように順序は大事だ。憧れだけじゃ世の中は渡り歩けない。卵は卵。資質を孵化させるには努力がいる。もし度胸や知識、覚悟や技術がないなら習うのが近道だな。弟子入りがイヤなら、イギリスには冒険者を養成する学校があるというし」
アドバイスになってるかわからんが、と、そんな風に格好良くキメるアーディルを尊敬の眼差しで見つめるヘタレ君(くどいようだが此処はギルドだ)だが、彼の妄想は『絵に描いたような英雄像』が染みついている。つまり楽して凄い冒険者になりたいというのが根底にあった。そうでなければ『秘訣を教えてくれ』なんぞと近道コースは選ばない。
「全く困った奴じゃのう。アーディルさんに猫なで声なんぞだしてどうするんじゃ」
困っとるじゃろ。とヘタレ君の襟首をひっつかむマルト。
アーディルに秘訣を、師匠〜、なんて情けない声を出していたヘタレ君。アーディル自身自らを振り返り、ロマン求めて学者はしても珍しい遺跡はそうないとか、額謝するより街角で軽業したほうが実入りが良いとか、護身用の短剣は当たったことが無いなぁ‥‥などと明らかに思考が下に向かう内容がこぼれ落ちるので見てられない。
まさしく傷口に塩。
「いいかの、まずお前さんがけちつけた登録料。ありゃ情報量と同じじゃ、ギルドの依頼は吟味されつくし、内容を把握でき、冒険者の得意不得意含めて合う仕事が見つけられる。何も考えずに森に突撃すりゃ、そりゃ何が出るかわからん。無知と無謀は別ものじゃ」
至極真っ当な説明だ。
「それに冒険中の食事と言えば大半が保存食、無駄金を抑えるため酒場では水だけ。スープはご馳走で、泊まりはテント。それを張る場所がなければ驢馬と一緒に星の下で、追い剥ぎと天候悪化に怯える。もうベッドと布団の感触が思いだせんわーっ!」
切ない実感篭もった老体の叫び。これには物陰で同じ苦労を経験した者達の目に涙が煌めくほどだ。ついでに三度目になるが此処はギルドの中である。ヴィクトルが咳払いした。
「私も聞こう。ヘタレよ、名声を得てどうする?」
聖職者の纏う威厳がヘタレ君に立ちはだかる。
「築いた名声が一瞬で崩れ落ちる事もある。それでも大事か?」
「うぅぅ、名声はようやくつかみ取った瞬間の喝采がいいんだ! 俺は刹那の快楽を求める! そして強くかっこいい勇者になれば永遠の喝采が待ってるに違いないんだ!」
開き直っている。かなり問題な方向へ話がずれている。酒場で出会ったムキムキ女騎士を拒否したのは何処の誰だろう。
「貴殿が求むる強さの基準は内面か外面か。大体最初の話を聞いていれば、仲間に選んだその基準がわからないが、どうやって仲間を選ぶ? もしや『かっこよさ』だけか?」
頼む、否と言ってくれ。そう思ったかはしらない。
「強そうで美人かカッチョイイ方が、絵的に華やかでイイからに決まってるじゃないか!」
あまりの短絡的且つ安直な理由に、ヴィクトルの目前に大いなる父の銀世界が現れた。
いや違う。器用に十字をきりながら貧血を起こして後ろに倒れた。さすがは聖職者。おお偉大なる父よ、これは私への試練ですか、と生真面目に自問自答したヴィクトルは薄れゆく意識の中で祈る。掠れた声の祈りを聞き取れた者はこう聞いた。
「‥‥おぉ、我が偉大なる父よ、願わくば彼に分別を与えたまえ」
おお悩める父ヴィクトルよ、周囲はヴィクトルの不憫な姿に涙を流さずにはいられない。
四人から四人なりの説教を受け影響を受けつつも改善された様子がまるでない。いい加減ギルドから立ち去らないと怖いお兄さん達に叱られそうな感じだ。残るアタック要員は物陰でただじっと見つめている。キラが立ち上がった。
「人は知識だけでは成長できません。経験が必要です。貴方が悩んで決めたことでしょうから私は口出ししませんわ。わたくしはせめて経験の一つを差し上げます」
表へお出になりなさい、とキラは言った。どうやら腕試しをやってくれるらしい。つまり言葉が駄目なら体で覚えさせろ、という系統の人間らしい。言葉って難しい。
「自分に過信しては駄目ですわ。相手が強いからと逃げるのも駄目。戦いというのは己自身の鍛錬。貴方はまず勇気と無謀の違いを体で覚えていきなさい」
その日の午後、徹底的にキラ達に冒険者の心構えがなんたるか、を体で覚え込まされたボロボロのヘタレ君。終わりの日に様子を眺めていたユラがふいに皆の前で彼に訪ねた。
「ンジャーダ君は種族とかどう思ってるのかな。冒険者は仕事柄色々な人に会うわ。異種族間の恋とか」
「けしからん! 俺なら叱るぞ!」
「そう。私はハーフエルフ。貴方たちが忌み嫌う種族で狂化もしてるわ。どう?」
滅茶苦茶気まずい。ヘタレ君硬直。
「世の中は常に厳しい現実が待っているの。私、過去に狂化したり何人も殺してるわ。ギルドの仕事は寧ろ、モンスターよりも人間相手にするほうが多いわよ。貴方が言う魔王なんかよりも、人間なんかの方がよっぽどか怖い。善悪が通じない事もある」
だから‥‥ユラの眼差しは切実さを帯びていた。本当に冒険に出るなら夢物語など追わずに前を見て、厳しいことも受け止めて生きて欲しい。ヘタレはやがて顔を上げた。
「そうか。わかったよ。貧しさに慣らし失敗を重ね、苦労すればいつか報われる。沢山の依頼をこなせば力になる。人間も魔王になる可能性があって、ある日超人的なパワーを神様が与えてくれるんだな」
わかってない。全然分かってない。
さらば我が給料、皆が本気でそう思った。
そして数日後。
「なぁあいつがさ、酒場からでてったんだよ。俺は現実をみた! 今度こそやれる気がする! まってろ、俺は百回り成長して帰ってくるぜ! とか言って」
二の舞になりそうな気配がプンプンだ。けれど進展はあったらしい。彼は一応ギルドの重要さを理解したらしく、きちんと登録料払って受付から仕事を貰いだしたらしい。
それはいい。しかし彼は此処最近帰ってこないと言う。どうしたのかというと。
「あいつ何も取り柄がないだろう? 黒いアレとか、店の掃除とか、普通に働くような仕事ばっかりで嫌気がさしたらしくてな。大きい仕事を貰うためにも知識がいるらしい、とか言って安装備で山籠もりしにいったぞ。海にも行って生態を調べ尽くすとかなんとか」
一から出直すことで成長した‥‥のかもしれない。
ほんとに、ちょびっとだけ。