芸術家の苦悩−いと小さき人よ−

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

『パーティー等の席におけるファッションをコーディネイト出来る者。礼節に関する技能を持つ者を急募。尚、恋愛に長けていると尚良し』
 訳の分からない依頼書が張り付けられていた。依頼主の元へ赴いてみれば実態は。
「‥‥という訳なのよ。もう明後日だし。イスタンシェは黒ドレスで出るそうなの。なんとか見えるようにしてやってくれない? 私は服になると無頓着でねぇ。で、大問題は告白ね。私はあんまり勧められなくてね。告白させるにしても、どうするか」

 話は数日前の口論から始まった。 
 現在、芸術家のマレア・ラスカは胃に穴が空くぐらい苦悩していた。
 彼女の周囲の悩みの種というのは無数存在している。元盗賊の子分達が回りを彷徨くわ、家に居候している連中はしょっちゅう何処かへ消えていなくなるわ、出費はかさむわ、家は構造がわけわからないわ‥‥いや、そこまでならば耐えたのだ。今までも強靱な精神力(自称)を持って大変な事柄に挑んできたのだ。その鉱石が如き強靱の神経(自称)の糸がまさしく切れようとしていた。
「はぁ‥‥あぁ今は家かな、いや市場かな」
 何かが聞こえる。
 何かが聞こえるが見ざる聞かざるを決め込んでキャンバスに向かう絵師マレア。
 しかし容赦なく声は真横から耳に忍び込む。
「あのふわふわした髪は天の恵みだ」
 夢見る乙女、という言葉は女性だけの特権と思いたい。マレアは姉妹に強烈な妄想癖抱いているんじゃないかと言うぐらいナルシーな血の繋がった妹がいるが、そんなもん比じゃあなかった。
 その破壊的なギャップ。
「あのつぶらな緑に見つめられたらボクはモゥ〜〜! あぁミスマレア、ボクは何を着ていけば」

 ぷちっ。

「だーっっっ、うざいんじゃーっっっ!!!」
 画材が飛ぶ。キャンバスが飛ぶ。あ、机が飛んだ、もったいない。
 自称執事のワトソン君、『恋』に目覚める。
 この衝撃的な実情は彼女の扶養家族に破滅的な影響をもたらしていた。正直どうしようもない家族ばかりで食い扶持を稼ぐのはマレアとワトソン君。ふらっと出ていって、ふらっと帰ってくる家族に代わり、日々の生活をなんとかせねばならない。そんな中。
「酷いデス、ミスマレア〜〜」
「煩い。外国来て恋に落ちるパターンなんぞ使い古された展開は飽き飽きじゃーっ」
「ミスマレアは失恋続きだから嫉妬じゃないデスか」
「余計なお世話よ! 大体シフールに惚れる時点で問題なんじゃーっ」
 基本的にマレアは恋愛は本人達がよければ良し的な面がある。同性愛だろうが応援するにはかまわんが、身内が異種族間恋愛、とくると素直に応援できない面がある。色々と。
「よぉーく考えてご覧なさい。相手のシフールはでっかい靴屋のお嬢様なのよ、生粋の高嶺の花よ、普通に暮らしが安定してるならまだ何も言わないわ。あんた自分の種族と経歴覚えてる!? 手を出していい訳ないでしょ、私達一応国外逃亡よ!? つーか何でまた惚れたのよ」
「あれは二週間前デシタ」
 唐突に我が世界にひたるワトソン君。
「市場へ今夜の夕食を、と出かけた先で轍にはまって盛大に転び、すりむけた膝小僧にそっとバスケットの布を差し出したのがイスタンシェでしタ」
「‥‥子供かアンタは」
 あきれるくらい単純だ。しかし呆れてもいられない。切っ掛けとともに二人はちょくちょく会うようになっていた。マレアもワトソン君が惚れたイスタンシェと何度か会っている。当初は仲のいい友人として付き合っているものと考えていたのだが、どうやらワトソン君の方は恋愛感情に発展した模様だ。イスタンシェの方はわからないが。
 厄介な問題は充分ここで揃っているというのに、さらにイスタンシェの母の誕生パーティーに招かれたという。
「ミスマレア。悔いの無いようにしたいんデス」
「まいったわねぇ。ウィタもここ数日みてないから頼れないし」
 そして助っ人募集に踏みきった。

●今回の参加者

 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3449 風歌 星奈(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4815 バニス・グレイ(60歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb0520 ルティア・アルテミス(37歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

リーベ・フェァリーレン(ea3524)/ ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

 街へ繰り出していたルティア・アルテミス(eb0520)は道を行く花売りの商品を一軒一軒見て回っていた。仲間達は今頃ジャイアント・ワトソン君の教育に必死な頃だろう。
 ジャイアントがシフールに恋した。人生経験を教え込むと意気込んでいた台所の覇者マルト・ミシェ(ea7511)曰く『ほほぅ。ジャイアントがシフールに恋をしたとな。茨道ど真ん中大行進じゃなぁ』とズバンと一発。恋するワトソン君がしなびたのはさておき、皆が教育にかまけている間、ルティアは双海涼(ea0850)とともに買い物へ出ていた。
「この花可愛い〜おばさーん、おばさーん、これいくら?」
 値段交渉を繰り返すルティアの傍らで、涼がしげしげと花を見下ろす。
「教育組はジェントル仮面さんもいることだし。それはそうと可愛いですけど、随分小さな花ですね」
「相手はシフールの女の子だよー? でっかい花束作っても渡せないと僕思うんだよね」
「名案ですがあの体格だと小さい花束ではインパクトが。いっそのこと手渡し用の花束と、体格に見栄えのする花束作って後者は彼の手で飾って貰うのはどうです?」
「ナイスアイディア! そういえばキミは仕立屋さん探してたよね。いいところありそう? あと靴はゴールドさんが『彼女のお店から選べば話のネタになるんじゃないか』って」
 今買っても花は当日に萎びてしまう。その為今の時期に何の花が咲いているか、プレゼントに適した物はあるか、調査をし、当日買う花を探していた。そして後でワトソン本人を引っ張ってゆく仕立て屋探しもかねる。流石に今からフルオーダーをパーティーに間に合わせるのは非常に難しいので、仕立て屋は厳選する必要がある。
「靴は同感ですね。服は後で無理矢理にでも連行を。靴が良くても服が駄目なんて言語道断。逆もまた然り。お招き頂いたホストの方に恥ずかしい思いをさせない、かつ個性的な格好ですらりと優雅に決めてみせます!」
 その頃の教育組は。
「わーいマレアおねーちゃーん、ひさしぶりー」
 思いっきり脱線していた。のではなく、エルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)が依頼主と遊んでいる間にも、ワトソン君は希龍出雲(ea3109)やレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)バニス・グレイ(ea4815)やマルトにせっせと作法を習っていた。はずだ。
「分かるぞ! 普段から短気短絡、即席暴風女に今回はコーディネートって柄じゃねーだろうって守銭奴までいやがる。挫けるな! 当たって砕けるんじゃねー。貫いて来い!」
 励ましになってない言葉を発する出雲に、生ぬるい眼差しが行く。
「いやねぇもう。涼ちゃんがいたら、すりつぶしてくれそうなのに」
「エルシュナーヴ殿、エルシュナーヴ殿」
「むぅーなにバニスさ‥‥マレアおねーちゃん、額に血管浮き出てるよ」
 幸いエルシュナーヴが依頼主の膝の上にいるのでマレアから物が飛ばないが、風歌星奈(ea3449)が代わりに「もうあっち側逝きたいのね?」と怒りを呟きつつ拳の骨をボキボキ鳴らしながら鉄拳(鳥爪撃)一発。出雲は逃れ誉め言葉を言いながら空に散った。
「ちょっと話があるので部屋を一つ借りるわ。『躾』てきますからご安心下さいな」
 軽傷を負った出雲を引きずって消える星奈、呆れる顔等様々だが今後どうなるか想像に難くない。すると今度は先ほど高価な羊皮紙を買ってきて一人部屋に篭もっていたレーヴェが現れた。その手に握られたる手紙。もしやラブレターなるものの代筆か!?
「相手は大商家、賊に襲われる事もあるだろう。そんな時に娘を守れん輩に、大事な娘を任せるはずがない。脳味噌筋肉は見苦しい。娘を不自由させない程度の財力は必要不可欠。以上の理由により、我が家は『娘を嫁にやる条件』として一に強く、二に賢く、三に権力もしくは財力を要する。尚、父に代わり俺が妹の連れてくる男を試す事にしている」
 熱弁も悪くはないが、他人の家と自分の家の話が混ざっている。どうする気なのか。
「従って此処に『果たし状』を代筆した。ワトソンよ、これをイスタンシェの父に叩きつけ度胸を示せ! 父に勝ってこそ娘を得る資格有り! ドゥユーあんだすたーん!?」
 呆気にとられた観衆。マレアが傍らの彼の妹に言葉を投げた。
「‥‥貴方のお兄さん見てて飽きないわね。ブラウンベア位は一人でノすから危険じゃ‥」
「果たし状取り上げてきます」
 リーベの瞳に怒りの炎が。むしろシフールVSジャイアントの体格差問題は? 妹からウォーターボムを食らった兄は軽傷を負って手当のため退場。仲が良いのか悪いのか。
「お相手はシフールなんでしょ、女の子はデリケートなんだから、壊れ物でも扱うみたいに丁寧に、心を込めて接してあげないとダメなんだよ? お話もリード出来なきゃ」
 遊んでいたエルシュナーヴがようやくまともなアドバイスを施す。それに乗じて傍らで我関せずだったバニスやマルトも重い腰を上げた。バニスは今更ながら一つ確認する。
「異種族恋愛は茨の道だぞ、それでも気持ちが変らんのか?」
「でしたら相談してまセン」
「まぁバニスさん。自分が夢中なのはかまわんではないか」
 バニスは神聖騎士だ。禁忌たる以上あまり快くは思わない。マルトは笑顔で続けた。
「ただし、お嬢さんに迷惑をかけてはいかん。身を引かねばならなくなったら、すっぱりきっぱり引くことが男をあげるんじゃ」
 そして恐怖の時間は始まる。
「たっだいまー、遅くなってゴメンね。戻ったよー! 教育は進んでる? ってアレ?」
 帰宅したルティア達が見た依頼主は仲間達とティータイムだった。教育はどうしたのかと訊ねると、紅茶片手に「あっち」と依頼主が指で指摘。涼とルティアが見た先には。
「いいかぇ『お友達でいましょう』と返されたら素直に身を引く方がいいぞえ。顔も見たく無いと嫌われるよりかーなーりマシじゃ。それからお嬢さんに恋人がいた場合は」
「そんな事ばっかり教えちゃダメー! あのね女の子は猫さんみたいに気まぐれだけど、男の子はついていく義務があるんだよ? で、実際の接し方は夜にエルが伝授して」
「‥‥おばーちゃん‥‥」
「‥‥エルさぁーん‥‥」

 初日でこんな騒ぎだったコーディネイトと恋の手ほどき。その後散々問題を発生させつつ当日を迎える。何故か星奈と出雲、バニスは別の作業に取り組んでいるようだった。
 レーヴェ達によって礼儀作法が叩き込まれワトソン君は馬子にも衣装。涼はポイントに黒をあしらったダークグリーンのローブに控えめの装飾を身につけさせ、胸につけた小さなブローチはイスタンシェにさりげなくプレゼントさせるらしい。同色で統一した帽子に、彼女の家の系列店で買った靴。ルティアが選び抜いた花束を手にすると尚映えた。
「これはお母様用、こっちは愛しの人用の花だよ。間違えちゃー駄目だからね?」
「ほーら、帽子曲がってるわよ。直してあげるから屈みなさい」
 星奈が乱れを直しているとバニスが一歩進み出て手招きした。ワトソン君に握らせたのは『誓いの指輪』。
「立場故励ましの言葉はないが、これでも持ってドーンといってこられよ、骨は拾おう」
 じわりとした優しさを握りしめ、ワトソン君はパーティーに赴いた。
「さーて次は私達の出番よ。出雲ー、バニスさん、準備はおわってるわよね」
「おう!」
「うむ!」
「へ? どういうこと?」
 首を傾げるルティア達。星奈達はこっちだと皆を招くと庭の方に食事の席が。
「実は、結果がどっちに転んでも飲み会ができるようにしておいた。出雲殿も星奈殿も同意してくれてな、待っているのも気力を使うから、というので我々の夕食を庭で、部屋に彼が帰宅した時の宴席も作ってある。」
「あんまりワトソン君に構ってないと思ったら、こういうことだったのね」
 皆への小さな心がけだ。パーティーが終了するまでの間、彼らは彼らで楽しんだようだ。

 それから数時間してワトソン君が帰ってきた。
 シフール用の胸の飾りも無ければ、花も無い。しかし重いような軽いような、何とも言い難い雰囲気をまとわりつかせているのでレーヴェ達は皆揃って首を傾げた。
「バニスに指輪を返すのか。なんだ。やはりふられたのかワトソンよ」
「其れが‥‥」
「あ、うわさのジェントル仮面さんね。こんばんわー、イスタンシェでーす」
 にょっとワトソン君の後ろから現れた見知らぬシフールの出現に、全員固まったのはいうまでもない。

「来た理由? だってワトソンがあーんな良い格好してくるはずないもの。身だしなみはきちんとしてても普段の服なんてセンスの欠片もないのよ? 絶対後ろで頑張ってくれた人がいると思って挨拶に来たの。告白? 偶然両親に見られて烈火の如く怒っちゃって」
 異種族恋愛は禁忌だ。当然だろう。
 イスタンシェは恋人にはなれない、と答えその場は事なきを得たたそうだ。花束やプレゼント等の心遣いやコーディネイトは悪くない、良い友人が娘に出来たと誉めた矢先に告白現場遭遇。普通は怒る。彼女はパーティー後、隠れて後を付けてきたらしい。
「笑っちゃうのが、気が動転した父さん『好意を寄せるぐらいなら男として娘が最高に映える格好をしてこんか』って怒って。来客としてはあれで合格でも、私が黒いドレス着てたもんだから。そうなるとベージュや白が合格でしょう? 論点違うよね。‥‥きちんとした友達だって紹介できたから、皆さんにお礼が言いたくて。ありがとうございました」
 例の宴会席でイスタンシェは頭を下げた。
 ワトソンは現在、合わせる顔が無くて玄関にいる。
「しかし何故ふった相手の家に?」
「ちょっと、出雲。あんた黙ってなさい」
 星奈が鉄拳を繰り出す様に笑いながら、イスタンシェは答えた。
「家は兄がいるし‥‥私、将来シスターになるんです。あの世界って学歴社会でしょう? 勉強積もう家を出ようと思ってて、そう言う面でも恋人のお付き合いは、無理だから」
 恋愛の対象としては見ることは出来ないが、唯一無二の親友に入ると答えたそうだ。

「理由はシスターになるから、かぁ。神に尽くそうとしてるのに恋愛、それも異種族じゃあ悩むよね。悔いはないみたいだからいいけどぉ。ルティアおねーちゃんどうー?」
「エルシュナーヴさん、暗い顔しない! そうだなぁ、嫌いじゃないし、シスターになろうと思ってなかったらフっていたか分からないって言ってたんだし。マレアさーん?」
「全く。私の扶養家族は何故、異種族恋愛に走る子が多いのかしら」
「異種族間の愛は禁忌。神に仕える身として容認は出来ぬものの、まぁ恋人ではないと言い張る以上今ぐらいは。年の功という奴ですな」
「人生長いといちいち棘を立てるのも疲れる。萌えカップルが今後どう転ぶか見物じゃな」
「萌え、とはなんだ? マルト」
「んん? 博学のレーヴェさんがしらんのか? 純粋すぎるほどの慕情を『萌え』というんじゃなかったかのぅ? それはそうと覗きに行った出雲さんと星奈さんはまだかのう」
 騒ぐ室内。
 玄関にシスターを目指すシフールと失恋したジャイアントが座っていた。
 見かけた人の話によると、仲よさげにのんびり夜空を眺めていたという。