教えて! 僕らの勇者様!−R−
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月27日〜07月02日
リプレイ公開日:2005年07月04日
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●オープニング
まずここで前置きしておく。君達はプロの冒険者である。
「あそこの隅で丸くなってるのがいるだろ? 暇があるなら依頼受けてやってくれねぇか? ついでに人生の先輩として接してやってくれ」
その冒険者ヘタレ・ンジャーダは『冒険者』というものに憧れていたという。モンスター達『人間の悪』を成敗して自活する正義の味方。
おそらくそのフレーズだけで大抵の少年少女が瞳を輝かせる。憧れを抱くとはいいことだ。しかし、ある日突然、何処にいるかも存在するかも分からない魔王を倒しに言ってきますと言い出したりしたら、色んな意味で手に負えない。
彼ヘタレ君は真実の冒険という物を知らなかった。
ギルドの受付に「魔王を退治する僕と書類どっちが大切なんだ」と食ってかかるぐらい夢見がちな人だった。
少年が聞いたらかわいげもあるが、ヘタレ君の年齢では危ない人まっしぐらである。
受付は当然「書類だ」と答えるものだ。
さて色んな意味で問題児のヘタレ君。
先日冒険者の手で更生教育が施されたが、真の勇者になるためには現場を知るべし! と野山へ向かって毒持ちモンスターに襲われ、海へ行けば巨大生物が追いかけられ、彼が鍛えたのは根性や知識ではなく『逃げ足』だという話だ。
「俺は、俺はこれでもがんばったんだ。こうみえてもモンスターや動物を一人で何処まで倒せるか挑んでみたんだ」
しかし事ある事に生物愛護団体なる集団が何処からともなく現れ、非難を飛ばすという。
熱いハートをお持ちの人々に対抗するには、家族がもう三日も何も食べていないんです! とか、こいつに妹を殺されたんだ! とか、何かしらの正当化が必要になるものだ。がヘタレ君は「勇者になるために必要なんだ」と正当化にならない理由を力説したためボコられた。
果たして動物を守る為に、人間に暴行を加えて良いのかという素朴な疑問はさておいて。
これ等の問題により、彼はろくでなしロードを再び歩み始めていた。
「俺だって、俺だって格好良くなりたいんだ! その辺のモンスターや動物を倒すだけじゃ周囲は認めてくれない。この前大蜘蛛を倒した家から薬草をもらったらお役人を呼ばれるし!」
普通、むやみやたらと殺して歩く人は変質者の烙印をおされるものだ。
加えて言うなら、泊まった家から冒険に役立つ物がないかと漁るのは、ただの泥棒行為である。
この男、一体どうやって生き残ってきているのだろう。
これまでのいきさつを語ったヘタレは拳を握りしめた。
「そこで俺は考えたんだ! 愛人作って蒸発した親父を見つけだし、母さんに謝罪させるんだ。母さんはずっと悲しんできたに違いないんだから」
母親が遊び人の男に騙されて貢がされ、借金が次々たまっていって生活がままならなくなった事実は綺麗さっぱり頭から抹消されていた。
さてさて冒険者達は、ヘタレ君の冒険者教育を受付から、ヘタレ君本人から父親探しを手伝わされることになった。ヘタレ君はようやく父親が街にいるとつきとめたそうなのだが。
きっと情報集め熟練の君達が街へ出たらすぐに見つけることになるだろう。
夜の店で若い女性を侍らせ、女物の服を着て大はしゃぎしているひげ面のオカマなとっつぁんを。
健闘を祈る。
●リプレイ本文
人は時に『悟る』という事を覚える。
異国の宗教から派生したこの言葉は、迷いを捨て真理を体得すると言うが、実際の所体得しなくても良かった『真理』を体得しちゃったりする人も現れる。不憫ここに極まれり。
「ガイアスと神哭月嬢がヘタレくんのお父さんを発見したそうだ。こっちだこっち」
男装のリュヴィア・グラナート(ea9960)の声に、同じくおやっさんを探していた冒険者達が集まって様子を見に行く。しかしそこで見たヘタレのおやっさんの姿に一同驚愕。
酒場の中で女物の衣装を身につける男、ヘタレの父‥‥にリア・アースグリム(ea3062)が気絶した。人は現実を受け入れられないと肉体と意識を切り離す兆候があるようだ。続いてクライフ・デニーロ(ea2606)が悩み出す。リュヴィアが無表情に呆然とする中、ジェラルディン・ブラウン(eb2321)は乙女の瞳を輝かせる。最初に誰が言い出したのかは知らないが、何かしら悪巧みを考えた者達は困惑を隠せない者達を引きずって一時退却。
一体、何がどうしてどうなったのか。‥‥女装勝負を持ち込む事になった模様だ。
待つこと数刻。男達は必死のサバイバルに耐えていた。理性の限界に挑戦だ。発見したおやっさんの仕掛け人になる為、相談を終えた突撃隊の紅流(ea9103)とハルカ・ヴォルティール(ea5741)、ジェラルディンがおやっさんの元へ出撃。その間、男達は『一人の例外もなく』女達のオモチャと化していた。リーン・クラトス(ea7602)が顔を出す。
「おーい、みんな。着付けとかも終わったんだけど。どうかな」
過剰に同情するのも可哀想なのでまずは明るくいってみよう! 一人目の犠牲者メルヴィン・カーム(ea1931)! 酒場のウェイトレス嬢の服を借り、紅蓮の髪を三つ編みにして皆の前でくるりと一回転。気色悪さを凌駕する為持ち前のかわいらしさをアピールだ!
「じゃーん、これで前回より説得力もあると思うんだよね。嘆いてばっかりもいられないから僕頑張るよ! ‥‥故郷の父さん、母さんゴメンなさい。き‥今日、一日だけだから」
意気揚々と飛び出したかと思えば、地面に崩れ落ちて故郷の両親に詫びるメルヴィン。これは仕事だ、これは仕事だ。ぶつぶつ小声で呟く彼の胸中をしめる救いのない感情。
どこからともなく魂の慟哭(我慢?)が聞こえる。
落ち込む人を傍らに二番手クライフいってみよう! なびく白髪、逞しき剛腕。褐色の肌を覆うひらひらの女物のロシア衣装が異様に豪華だ! 去り際の紅に与えられた簪は、無理矢理結い上げられた短髪の結び目を意味もなく飾り立てる! 双眸は地面に向く。
「おぉクライフよ! ここで変わり果てるとは情けない。ホントに僕か、いや依頼を受けたボク達はプロ! そう手段が決まった以上達成を目指さないのは好くないに違いない」
自問自答。わざわざ女装の為に身を清めたクライフは新たな門出を飾ったのだろうか?
どこからともなく魂の慟哭(暗示?)が聞こえる。
現れた三人目の被害者はサフィア・ラトグリフ(ea4600)! サフィアは前者二人に比べて平然としていた。それも無理は無かろう。彼は以前異国で『そっち系』の店で『そっち系』の服を纏ってしばらく働いていた過去を持つ。慣れ親しんだ姫袖衣装にやはり紅から借りた天使の羽根飾りを身に纏いながら、諦めた老人のような表情で窓の外を眺めやる。
「またこんな格好するなんて‥‥ナマ足商売に縁があるとしか思えないよ」
どこからともなく魂の慟哭(歓喜?)が聞こえる。
父はいつも苦悩の人。四人目の被害者ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)暦年齢106歳。厳つい顔の妻子持ち。彼もまた女装被害者の一人であった。やはり紅に借りるはめになったヴィクトルは逞しいガタイに無理のある魔法少女のローブを纏うカラフル加減に、ぴっちぴちの衣装と化粧が何とも言えない不憫さと異様さを漂わせる。正直‥‥一番怖い。
「父よ、これも試練なのですか? これを耐え忍べば、御心に叶うのですか?」
御心に叶う以前に、依頼じゃなかったら破門ロードまっしぐらに違いない。
どこからともなく神と良心と家族の慟哭(幻聴)が聞こえる。
リアが再び口から泡を吹いて失神しているが、気にしてはいけない。これはすべて依頼解決の為なのだ! ヘタレがクライフに「辛いかも知れないぞ」と心構えについて尋問されているところへ、リュヴィアが現れて男性は皆女装するのだから君も例外じゃないぞ、と笑顔で近づく。逃げるヘタレの肩を掴んだヴィクトルが後ろから揺すぶった。
「いいかヘタレよ! 冒険者は限られた手段の中で、最善の物を選ばねばならない。これが今回最善だったというだけだァァ!」
ヘタレの顔色が変化する。皆は逃がさない。前門のリュヴィア、後門のヴィクトル。右のクライフ、左のメルヴィン、出口のサフィアに窓辺のリーン。四方八方、逃げ場無し。
「例えば女好きのモンスターが居たとする。存外人間の女性が好きで生贄を要求するが、モンスター退治を請け負った冒険者はどうするか。生贄の女性の代りに男性が女装し、モンスターを討つ。分かるか? 女装は冒険者に必要な試練で」
ガコッ。物凄い音がリュヴィアの説教中に響いた。
手持ちの囲護台の角をヘタレの頭部にアタックするヴィクトル。ヘタレ失神。
「よし黙ったな。さっさと着替えさせようか」
言語道断、問答無用。あぁ父は強し。
さて女装に男装と大騒ぎしているヘタレ班とうってかわり、おやっさん誘導班の紅とハルカ、ジェラルディンはおやっさんを口車に乗せることに成功していた。
リーンが「酔わせて煽ててみてはどうか」と提案していたのを実行。さらに紅の挑発により「あなたのその華麗な姿で息子さんをぎゃふんと言わせてみたら?」とか「負けると思ってるの?」なーんて言い出すので話はエスカレートしていく。少し離れた場所でひそひそ話すジェラルディンとハルカは、片や楽しそうにしており、片やあきれかえっていた。
「女装勝負‥‥なんて素敵な響きかしら! 面白そうね、ね、ハルカさん。きっと彼らならパリでも5本の指に入るオカマになれるんじゃないかって私思うの!」
パリに変態が増えるのが嬉しいのかジェラルディン・ブラウンよ。
「ご、五本の指? あー‥‥何と言うか、みんなが可哀想な。色んな意味で修羅場になりそうですね。注意しないと。ヘタレさんのお父さん煽ててノルってあたり、メルヴィンさんの言うとおりかも」
ハルカ達が出ていく前、相談の時にメルヴィンは呟いていた。
『なんかさ、ヘタレ兄さんの現実逃避ぶりは兄さんの性格の問題だけじゃない気がするんだよ。血っていうのかな? 親子3人仲良くしてくれ‥‥というか更生できないかなぁ』
ふと思い立ったジェラルディンが再び親父さんの所へ行って、生活や身の上を訊ねてみた。女装人生には何か深い理由があるのではないか、家庭に問題があったのではないか(実際に家庭は問題だらけだが)という事を知りたかったのだ。が、しかし。
「なんとなく」
あっさり。世の中、服や食べ物、将来を選んだりする時に明確な理由が発生することは少ない。世の中の物事、実に五割が「なんとなく」「たぶん」といった言葉で構成されているのと同じ割合で「いやぁちょっと」「なんでもない」と、はぐらかされるが関の山。
何事にも深い理由を求めるのは今の人の悪い癖である。
そして女装の冒険者達とヘタレが酒場に集う。なんだろう、なんだろう、この異様な光景は。多分普通に歩いていたら通報されるか、別の冒険者が民間の方々の依頼を受けて彼らを討伐しに現れるに違いない。感動の親子の再会は、実に異様な再会となってしまった。
「親父殿。勝ったら言う事を聞いて貰う、こっちが負けたらこの子を好きにして良い」
ずばっとヘタレ君を差し出すリュヴィア。結構容赦がなかった。
「それでは。僕とハルカが今回のルールを説明するので、皆さんよく聞くように」
やはり男装した凛々しいリーンの言葉により、よくわからない勝負が始まった。
さて、指名勝負の様子は以下割愛。流石にお子さまにお見せできない!
しいていうなら男装の麗人達は拍手を勝ち得たが、男達は拍手でない物を勝ち得たと言っておこう。男性陣は何かを見失ったかも知れない。親父は新鮮みも含め負けている。
審査員のリーンやハルカ、仲間や一般客達。お店は普段いない麗人と異人に湧いた。
ジェラルディンが魔法少女ヴィクトルを指名したとか、事件は色々あるのだが気絶し続けたリアが錯乱。途中でヘタレを笑顔で攻撃し、物陰に引きずり込んで誰の所為でこうなったのかと気絶した相手に八つ当たりを続けていた。
女性陣が圧勝を飾って酒場閉店した後、酔いつぶれた親父様を確保した冒険者達は魂が抜けているヘタレに励ましの言葉を投げていた。リーンとリュヴィアは同じ事を語る。
「依頼成功のためだったら、どんなに嫌なことでもやらなきゃいけないって事覚えなよ」
「んもう! なに魂抜けてるの! しっかりしなさいよ」
紅がぐらぐら揺さぶる。ようやく意識が戻ってきたヘタレをがしっと掴む若者の手。
「ヘタレ兄さん、これからも『現実から目を逸らさないで』生き抜いてくれ。兄さんの事は‥‥一生忘れない。僕は生きる事の厳しさを学んだ気がするよ」
手を握りしめて熱弁するメルヴィンは失ったモノの大きさに嘆き、知らなくていい世界を知りつつ、プライスレスな報酬だな‥‥とただただ涙するだけだ。
クライフとサフィアが物陰で落ち込み、さらに傍らの中年ヴィクトルは一人。
「ドラ、妻が出張中で、かつ娘にも出くわさないような場所で良かったよ。単身赴任から帰ってきて即、何をしているんだろうな、私は。神の教えに沿ったのか背いたのか」
そこにはドラゴンのぬいぐるみに一人話しかける悩める女装の父の姿があった。
「理解の範疇を超えた、遠い世界は案外身近にころがっているものなんですね‥‥」
「リアさーん、リアさーん、帰ってきてください」
ハルカが必死に魂を呼び戻している。トラウマにならなければ良いのだが。
「ヘタレ君も女装好きになればいいのにぃ」
恐ろしいことをさらりというジェラルディンを最後に、ヘタレの教育と父親探しは幕を下ろす。ヘタレは親父とともに帰っていった。
きっと数年ぶりに家に帰った父親と、逃げ腰ヘタレと、家で待つ母親の間で何かしら『惨劇』が起きていそうだが、そんなことは誰も知りはしないのであった。
一部の者達に余計な心の傷を残して、めでたしめでたし?