再・ローンの休日

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月10日〜08月15日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

 かつてここに困った男がいた。貴族でもなんでもない平民のおっちゃんである。
 やはりどこでも聞くように。
 酒におぼれ女におぼれギャンブルにおぼれ。
 できた借金は天地がひっくり返ってもよっぽど働かないと返せない額に到達した。これで旦那がきちんと働くように説得してくれと奥さんに頼まれたとか、金が返せないなら体で払えと娘を連れて行かれたとか、或いは借金取りから金を取り戻すように言われたとか言うならまだ常人の常識レベルであったことだろう。
 この困ったおっちゃん、ちょっと頭が飛んでいた。
 丁寧な置き手紙残して失踪したのだ。内容はもう呆れるしかないくらいの内容だったが、冒険者達の協力によってオッちゃんは捕獲され、悪魔の角をはやした奥さんに引き渡された。その後のおっちゃんがどうなったのかは誰も知らないが、数日後、顔が分からないぐらいボコボコになっていたそうだ。
 ここに一つおめでたい話を報告する。
 奥さんとおっちゃんには年頃の娘さんがいた。突然の新事実、その娘さんが身ごもっていたというのだ。生まれるのは一ヶ月後。おっちゃんも奥さんもおじいちゃんおばあちゃんと呼ばれる世代に突入する。
 奥さんは喜んだ。
 しかし静かにしていたと思われるおっちゃんに新たなる問題が持ち上がる。其れを解決しなければ孫に顔向けできないと奥さん憤慨。というわけでギルドに依頼は流れ込む。
 尚問題のやり取りというのは以下。


「ねぇあなた。ききたいことがあるのよ」
「おぉなんだ?」

「この会計伝票『二丁目/会計:ヒナト・モアイ』ってなに?」

「おお!? 命拾いしたな。今日は靴がなかった」
「説明せんかい」
「心なくして心を否定できようか」

「土に帰れ」

●今回の参加者

 ea1083 国定 悪三太(44歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea4099 天 宵藍(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7235 ルイーゼ・ハイデヴァルト(26歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7804 ヴァイン・ケイオード(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9451 央 露蝶(25歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

朱 華玉(ea4756)/ 虞 淑芳(ea6739)/ 長谷部 桃太郎(eb2453

●リプレイ本文

 自分の夫が浮気をしている。
 其れは国によっては『離婚』の原因になるものであるし、女とデートと言うだけで激怒する女性というのは少なくないし、気持ちがわからんでもない。しかしその熱を上げている相手が『女装の男』となると嫉妬通り過ぎて複雑な物思いの沼にはまらんでもない。
「イヤァァァァ!」
 まるで悪漢に襲われた乙女のような叫び。
 しかし野太い声で発せられると奇妙な感覚を抱くものだ。怪しげな雄叫びに首を傾げながら、天宵藍(ea4099)が化粧部屋の様子を見に行く。部屋の中には友人から教えられたという化粧方法にならい、ルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)が身支度を手伝っていた。ルイーゼの傍らには何度も逃亡しようとしては捕らえられており屍のような萎びた体躯を椅子に預けたヴァイン・ケイオード(ea7804)の姿があった。口から魂が抜け出ているような幻覚が見える。
「あ、宵藍様。‥‥どうしましょう、支度は終わったんですが、この状態で覇気もなく」
「ふむ」
 宵藍が何を思ったか「虎夢ママー」と暢気な声を発して店の方へ戻り、経営者を引っ張ってくると伝票を持たせてヴァインに近づいた。すっと耳元の顔を近づけ。
「起きろシェアムママ。もう店が始まっている。虎夢ママが呼びに来たぞ、指名である」
「おおおお! 失礼しましたーっ! ‥‥あ?」
 純白のドレスを翻し、首元に水晶のペンダントと左胸元にローズブローチ、伝説を持つ簪で飾りホワイトブーツで立つ姿は遠い日に店に咲いた一輪の花――名をシェアム(仮名)。
「幻聴!? と、虎夢ママ。お久しぶりです! ええもう今回は頑張ります」
 ヴァインの顔は鍛え抜かれた営業スマイルに変貌している。悲しきかな、染みついたママの教養は消えていなかった。心で涙する男の傍らで「ふっ」とほくそ笑む『二丁目の女帝・紅梅(仮名)』改め『白蓮』もまた、髪で傷を隠すと共にヴェールで飾り、薄水と白地を基調とし蓮の刺繍の清楚な華国のロングドレス着用し麗しの女装を披露している。
「‥‥背徳、背徳と考えてしまう聖職者の性」
「ルイーゼ殿、これは女装ではなく『衣装』であるよ。別にそっちの気があるわけではないし、中には家庭を持つ立派な親もおるしな。此処は少々変わった趣向の立派な居酒屋。料理も一流、酒も厳選。詐欺無し。まかない料理は無論従業員用だが手間はおこたらんしな」
 力説する宵藍。背に花を背負い、悟りきった哀愁は面白いものがある。
「うにぃーっ! ちょっと何サボってるんですか。準備大変なんですよぅ」
 女物の衣装で着飾る男性達と異なり、借りた礼服で身を固めたスタッフ姿の央露蝶(ea9451)が、走り込んできた。困った旦那の仕置きで潜入した冒険者達であるが、其れは其れ、これはこれの論理で場所提供代わりに店の手伝いに走らされていた。お給料は出ないが、懐かしのママ二人の歓迎かねて板長ママ特製料理がまかないで出るとのこと。
「あら、露蝶様。先ほどまでローブ姿じゃありませんでしたか?」
「それはですね。ママさん達が印象が悪いから、だそうです」
「ふみゅ。わ、私は何度も仕事中は良くないと思って」
「勿論、今の間だけで、旦那さんが来たら着替えていいっていってましたよ露蝶さん」
 リノルディア・カインハーツ(eb0862)の声が脇から聞こえた。露蝶と同じく借り物の従業員用礼服で身を固めている。ハーフエルフである事を気にしてか当初ずっぽりローブを被っていた露蝶だったが、ギルドの仕事以外に裏方の仕事も手伝うならきっちりしなさい云々と説教。下準備の手伝いをするにしろ、強制的にお着替えとなった。耳が気になるなら、とママが柄物の大きな三角布で耳ごと頭部を覆ったそうだ。ヴァインが笑う。
「ははは、別に平気だろ。礼儀のない者は客であろうとママ達が叩き出すからな〜〜」
「結構、敷居が高い感じなんですね。宵藍様」
「だからルイーゼ殿、此処はしっかりした酒場と申しておろうに」
「解説ありがとうございます宵藍様。其れはさておき、お二人ほど姿が見えませんが」
 国定悪三太(ea1083)とマルト・ミシェ(ea7511)の姿がない。一時間ほどで二丁目のエンターテイナーことママに熱を上げる困った旦那の出没時間だ。リノルディアが話す。
「マルトさんと悪三太さんのお二人なら、旦那さんの奥様を迎えにいきましたよ。待ち合わせているそうで‥‥マルトさんが異様に楽しそうだったそうですが」

「ふっふっふ‥‥楽しい楽しい『二丁目』タイムじゃ」
 人は気が大きくなると妙に親切になったりする。人はとても楽しいことがあると、時折その頭部に黒い耳と知りに鏃の如き尻尾が見えるという。勿論幻覚であることは間違いないが、今まさに、悪三太の目の前にいるマルト・ミシェという老女はその状態だ。
「マルトさん。もしや背中や頭や足に見えない翼でもはえてませんか」
「いや、考えとらんよ? 奥さんを二丁目にはめて、旦那の方が泣きたくなるような状態にしてやろうなぞとはのう、ほっほっほ」
 聞いちゃいねぇ。お年寄りは聞いちゃいねぇ。
 悪巧みと私欲に脳裏を七色に染めているマルトはさておき、悪三太は奥さんを迎えに行って二丁目に来るよう説得を行った。

 さてさて再び舞台は二丁目。
 旦那はシェアムママと百連ママの二人の手腕により、がっぱがっぱと酒を流し込まれていた。男であるが故、男の真理などお手の物。ああ何やら嘆かわしいダメ亭主の様子。
 何をしているかというと旦那も知らないような超高価な酒瓶に、事前に露蝶達が安酒を詰め込み、これでもかと飲ませてゆく。べろんべろんになっていく旦那を見つめて、にやりと笑う冒険者達。これが本当に二丁目で起こったら非常に恐ろしいが。
「おーい、お嬢さんわらいなってー、俺は常連だぜー」
「金額はしめて112Gになります」
 リノルディアの言葉に旦那が狼狽する。回りの客はいぶかしげな顔で会計の方を眺めていると。奥さんが裏方から現れ横から伝票を奪い、素で仏頂面を旦那に向けた。こんな大金はらえんのかこらぁってな感じだった。
「とりあえず積もる話も色々あるでしょうが、他の方のご迷惑にならないよう、奥に行きましょうか? 奥様の方はそちらでお願いします」
「つもる話は奥で伺いますので。ああ、旦那様はこちらへどうぞ」
 にこやかな白蓮ママとシェアムママが、ルイーゼとともに旦那を連行していった。

 旦那が恐ろしい目に合っている間、奥さんもまた別室にいた。こんばんわ、と顔を出したのは露蝶、リノルディア、悪三太、マルトの四人だった。四人は今旦那が仲間にお仕置きされている事を教えた。
「ふみゅ、こっちが正しい請求書です。見ての通りがっぱがっぱ飲ませていたのは安酒も安酒。中身だけ変えておいたんですー、1G未満。ほとんど料理代金だけですね。料理も裏方で色々手を回しましたです。心配しないでくださいね」
 露蝶は先ほどリノルディアから受け取った本来の伝票を奥さんに見せる。マルトが笑った。
「ほっほっほ、旦那の所を覗きにいきたいが、行ったら台無しになるからのぅ。おっ、リノルディアさん戻ってきたか」
「皆さんノリノリで旦那さん脅してましたよ。ドアもきっちり閉めましたし、外には漏れていないはずです。奥さん、旦那をこってり絞ってあげてくださいね」
「奥さん、まけないでください負けなけりゃ明日もありますぜ」
 悪三太の励ましに奥さんは泣いたが、泣いたかと思えば莫迦亭主ーっ! と叫んで数時間後夫とともに戻っていった。こうして冒険者達により旦那は怖い思いをして帰ってきたのだった。

 さて此処で未来の苦労するご家庭へ一言。
 夫婦となる時、文字通り『富める時も病める時も二人が死を別つまで』を誓う羽目になると言うことをよく考えて結婚されたし。
 ジーザス教に離婚の文字は見あたらない。