【ゴブリン・アタック】忘却の村の悲劇
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜08月02日
リプレイ公開日:2005年08月04日
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●オープニング
「村を襲うゴブリン、倒していただけませんか」
昨今多くの事件が発生する。
その為に、ギルドは様々な依頼を請け負うが、時には人知れず終わってしまう事件というのも存在するものだ。冒険者の中には我が身の強さだけを追い求め、いつしか大切な事を見逃してしまう者もいる。
冒険者に助けを求めてきたのは、一人の女性だった。やせ細った顔はすでに諦めがちらつく。冒険者に会うまでに泣きはらしていたのだろう。ゴブリンの被害はどれほどのものなのか。女性は拳を握りしめて我が身の無力さ、悔しさから沸き上がる怒りを押さえ込みながら口を開く。
「ゴブリンが襲ってきたのは、決まって夕方でした。今までは家畜が被害に遭う事が多く、家計を支える身としては家畜の死は大変な被害でしたが、それでも細々と生きてきました」
村は街道から外れたところにあった。
その為、旅の冒険者が通りかかることなど皆無に等しかったという。時折現れた旅人に退治して欲しいと頼んでも、決まってゴブリン達は旅人が村を去るまで息を潜めたり、あるいは冒険者本人がゴブリン三体くらい男手で倒せるだろうと莫迦にして取り合ってくれなかったのだという。
「そうして解決せずに辛い毎日が続きました。その結果、私は‥‥大事な子供を死なせてしまったんです」
ゴブリン達は現れる日は決まっていなかった。
現れるのが夕方というだけで、一日開けずに村を襲うこともあれば、一ヶ月平穏な時もある。その所為で気が緩んでいたのだと彼女は話した。夕方頃、子供が馬小屋へ足を運び、馬の赤ん坊を見に行ったのを気づかなかった。
結果、翌朝になって子供は殺されてしまっていた。馬も奪われた。
「お願いです。私達の村には、ゴブリンと戦える者はいないんです。こうしている間にも、ゴブリンは夕暮れ時に現れ、村を襲っているかもしれない。村を助けてください。子供の無念を晴らしたいのです!」
ゴブリンはありふれた化け物だと、感じる者もいるかもしれない。
けれど、確実に奴らの被害を受ける無力な者達は助けを求めているのだ。
近くの森から、夕方頃になると現れる魔物達。
君達は思い思いの決意を胸に秘め、ゴブリン討伐の為に村へと向かうことになる。
●リプレイ本文
大きな事件の影に人知れず消えていく悲しい影。
無力な人間には、例え冒険者にとって雑魚同然の相手でも倒せはしない事も多い。哀れな女性に同情してか、正義感からか、仕事を請け負った冒険者達は、依頼人とともに問題の村へと足を踏み入れる。
「村には堂々と入っていいのでしたよね? 依頼人の話ではゴブリン達は相当ずるがしこい。冒険者達が来ては襲撃を控えるのであれば、俺達が堂々と入って分かるようにした方が村を襲う事も、被害も最小限で済むでしょう」
誘き寄せるよりも、これ以上被害を出さないように。
愛夏慧吏栖(ea5073)はそう言うと仲間達と共に村へ足を踏み入れた。村は一見、何処にでも見る長閑さを漂わせている。
「ねぇ、依頼人さん、あたし達を新しい被害現場につれてってくれないかな」
パラーリア・ゲラー(eb2257)の言葉に依頼人の女性はびくりと体をこわばらせた。彼女が脳裏に思い浮かべたのは、きっと我が子を無くした現場だろう。
彼女の心境を知ってか知らずか、ルディ・ヴォーロ(ea4885)が依頼人の腕を引く。
「しっかりして、見てられないよぅ。僕たちはゴブリン退治に来たんだ、僕にできること何でもやっちゃうよぅ。二度と同じことあってたまるか! しっかりするんだ!」
真摯な瞳に見つめられた依頼人は、何と答えていいのか分からないようだった。
ラシュハ・リンガ(eb2197)が、そっと寄り添うように肩を寄せ、依頼人の両手を握りしめた。水仕事に荒れた両手、子を育ててきた母の手を労るように優しく握りしめる。
「私たちが絶対ゴブリンを全部倒しますから。だから‥‥少しでも元気出して下さい。私達がゴブリンを倒すには、あなたや、村の方々の協力が必要なんです」
「せやせや。幸せな家庭作るんがうちの夢やもん、依頼人さんの気持ちめっちゃ判るで。うちらと頑張ろう。な?」
マージ・アエスタース(eb3153)は荷物を地面に下ろしてふわりと宙に浮かび上がると、依頼人の女性にそう言った。ぐすぐすと泣いているのは共感してのことだろう。シェラザード・タドゥキパ(eb3198)は言葉がマージとしか通じないが、周りの様子を敏感に察しているようだった。荷物を引きずりながら真上のマージを見上げる。
『マージさん、キミとしか話せないから、通訳してもらいたいんだけどいいかな』
『あはは、うっかりしとった。すまんシェラザードちゃん。今な‥‥』
依頼人の気持ちが持ち直し、村での情報収集が決まった一行。
明王院浄炎(eb2373)は「この母親の悲しみ痛いほど感じる。死んだ子は戻っては来ぬが、この母の想い、叶えてやりたいものだ」と一人呟いて、やはり気遣う風にしていた。しかし中に一人、無表情で何の反応も示さない者がいた。ローガン・カーティス(eb3087)である。ローガンが無言のままくるりと身を翻したのを見たラシュハは、小走りに駆け寄った。何か用かとばかりに人形のような白面が言葉を待っている。躊躇いながら疑問を口にするラシュハ。
「ねぇ、どうして声をかけてあげなかったのですか?」
不思議そうな声だった。
傍らでローガンを見上げるラシュハを、ローガンは一瞥する。ふいっと視線を逸らし心持ち、俯くように瞼を伏せた。ぐっとシルバーナイフの柄を握る手に力が入る。
「私は‥‥大切なものを、理不尽に奪われた痛みを拭い去る言葉を持っていない」
凛とした声音は続く。気休めは言いたくないと言うようにもとれる。
「私が出来ることは二度と同じ悲劇がおこらぬように力を尽くすだけだ。力を尽くして、ゴブリン達を一掃し、成功を収めて村人と依頼人に報告すること。そうして彼女の心の痛みが、和らぐのを願うしかないだろう」
自分に出来るのは、それしかないから。
そう胸の内の激情を抑えるように坦々と言葉を発しながら道を歩いていくローガンから視線を逸らしたラシュハは、随分離れた場所の依頼人の女性を振り返った。ぼんやりと冒険者達を見つめる依頼人の顔は明るくなっていたが、瞳は暗く淀んで光がない。
「そうですね、お子さんが亡くなったら、辛いですよね。村の人達の為にも倒しましょう」
か弱き命を踏み荒らすゴブリンを。
情報収集の末に昼過ぎからグループに分かれて森の探索を開始した。
ゴブリン達の塒を発見するためである。深追いはせず、確実性を取るため、二手に分かれる。
片方は慧吏栖、パラーリア、ラシュハ、ローガンの四人が。もう片方は浄炎、ルディ、シェラザード、マージの四人が。昼間の内に探索することで視界を確保し、標的を見つけやすくするのだろう。枝の隙間から差し込む木漏れ日を浴び、森の奥へ奥へと足を進める。獣道を探り、足跡や何者かが通っていないかと草木の様子を観察し。
空が茜色に染まることになって、八人は村へ帰ってきた。
慧吏栖達の班がゴブリンを発見、遠巻きに後を追って塒を見つけたらしい。逆にシェラザード達の班は砦から離れた場所に、ゴブリン達の第二の塒ならぬ倉庫のような場所を見つけたようだ。マージ達が周囲を監視し、浄炎が警戒しながら試しに積み重ねられた品物の一つを奪って森から持ち帰ったところ、村長の孫娘の指輪であることが分かった。
『僕らが見つけたのは盗まれた品物だよね。取りに行くとか』
『せやなぁ、シェラザードちゃんの言うとおり取り返せるもんは取り返したいけど』
「僕はゴブリン倒してからの方がいいと思うよ」
「確かに、危険も少ないしな。さて、パラーリア、説明を頼む」
「おっけぃ、パラーリアにお任せあれ。まず砦がこの位置にあったでしょ。それで」
ルディの言葉に浄炎が頷く。パラーリア達が入手した砦の位置を何度も確認し会うと、ラシュハのように依頼人の所へ元気づけに行く者を除き、明日に備えて眠りについた。
静まりかえっていた砦からゴブリンを誘い出す。
三体とも塒にいたのは彼らの調査の賜かも知れない。塒から飛び出してきたゴブリンをそれぞれ異なる場所にいる浄炎、慧吏栖、ラシュハの三人が声高らかに呼び寄せる。分散させて戦う段取りだ。
「プラントコントロール! 二人ともいまです!」
ラシュハに向かったゴブリンの足下から草や蔓が巻き付いて四肢の自由を奪う。地面に引きずり倒されたゴブリン目掛けて、パラーリアが何度も矢を放った。地面に縫いつけられた状態のゴブリンに、ローガンが容赦なくファイヤーボムを打ち込んだ!
一方、慧吏栖は両腕のナックルで打撃を打ち込む! 荷物の重さ故に飛べず地を走ってナイフで斬りかかったシェラザードは、起きあがったゴブリンに捕まってしまい、嬲り殺されるかと思いきや。
「くっ、シェラザードっ!」
『が、はっ』
「慧吏栖はん、シェラザードちゃん、動いたらあかんえ! サンレーザーっ!」
あまり操作や成功には確実性がないものの、マージの攻撃はゴブリンの顔を焼いた。悲鳴を上げてゴロゴロと転がるゴブリンに、拘束が解けたかの如く浄炎が打撃を叩き込む。
「子を失った母の痛みを知れ!」
憤怒と共に打ち込まれた拳は、ゴブリンのあばらを砕く。鎧すら破壊する渾身の打撃である。彼が第二の打撃を打ち込む間にルディがスリングで狙いを定めていた。
「くらえ!」
一定の攻撃を受ければゴブリンも逃げるものだが、逃げることは許さない。
冒険者達は確実に、村を荒らしていたゴブリン達を排除した。
「ありがとうございます」
首がちぎれんばかりに依頼人の女性は首を振る。
村に戻った数年ぶりの平穏。
失われた命は大きいが、依頼人の女性の心は救われたに違いない。
これでもう、悲しむ者はでることはないのだろう。
村人達が見守る中、冒険者達は依頼の成功の喜びと無くなった者達への祈りを胸に秘め、キャメロットへと帰っていった。だが、これは始まりに過ぎない。
救いを求める声は限りない。冒険者達は新たな戦いの日々へと帰って行くのだから。