教えて!僕らの勇者様!−すぺくたくる−

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月30日〜08月06日

リプレイ公開日:2005年08月09日

●オープニング

 まずここで前置きしておく。君達はプロの冒険者である。
「なんでこんな忙しい時に。ああ、そこの、良かったらこれ、うけてくれねぇか?」

 その冒険者ヘタレ・ンジャーダは『冒険者』というものに憧れていたという。モンスター達『人間の悪』を成敗して自活する正義の味方。
 おそらくそのフレーズだけで大抵の少年少女が瞳を輝かせる。憧れを抱くとはいいことだ。しかし、ある日突然、何処にいるかも存在するかも分からない魔王を倒しに言ってきますと言い出したりしたら、色んな意味で手に負えない。母親は貢がされて莫大な借金を抱え、父親は失踪したかと思えば魅惑のカマになっていたとか、彼の人生は波瀾万丈。
 彼ヘタレ君は真実の冒険という物を知らなかった。 非常に夢見がちな人だった。
 さて色んな意味で問題児のヘタレ君。
 各国を放浪する彼の最近の冒険目的は、ともかく腕を上げて人の役に立つ、というものになった。しかし頭のネジが何処かおかしい彼は思いこんだら一直線。回りは見えない。
「おやっさん、次の仕事を頼む!」
「おいおい、顔色悪いぞ。働き過ぎだろう。宿だって追い出されて今は野宿だって話じゃねぇか。これだけ働いてるのに、稼いだ金どうしたんだ?」
 今にも死にそうなヘタレ君。
 しかし金がないので薬も買えないらしい。
「俺は、いいんだ! 俺は勇者になる男だ! 俺よりも病に苦しむ人が、俺の帰りを待っているんだ。見知らぬ親子で、父親は不治の病で倒れ、娘さんは体を売り、そんな可哀想な親子を勇者たる者見過ごすわけにはいかない! ポーションを買う為にも俺は我が身を尽くすのみ!」
 いっておくがポーションは怪我に効いても病までは治せない。
 おっちゃんが言葉たくみに話を聞くと、その親子ヘタレが気づかないだけで中流家庭並のいい暮らしをしているのが分かった。
 騙されている。騙されているぞヘタレ!

 ヘタレ以外の冒険者達を呼び集めて事の次第を説明するギルドのおっちゃん。
「すまんなぁ。あれに付き合ってやってくれ。村で暴れてるのは棍棒持ったトロル一体だから人数いれば平気だろう」
 トロルは腕っ節が強い。とはいえ、そろそろ冒険になれてきた者達にとってはさほど脅威の相手というわけではあるまい。村まで往復三日。今にも死にそうなヘタレを連れて、彼らは仕事をこなさねばならない。むしろ非常にお荷物だ。
「ついでにその、ヘタレに利用されているって事に気づかせてやってくれ、最近エチゴヤによく薬を売りに来る女性がいるって話もきいてるんでな。たぶん‥‥それだ」


 純朴な彼に哀の手を。

●今回の参加者

 ea3053 ジャスパー・レニアートン(29歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4600 サフィア・ラトグリフ(28歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7467 ジゼル・キュティレイア(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7804 ヴァイン・ケイオード(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1155 チェルシー・ファリュウ(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1617 時奈 瑠兎(34歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

レイリー・ロンド(ea3982)/ セイロム・デイバック(ea5564)/ アンドリュー・カールセン(ea5936)/ ヴィエラシュカ・ジゼル・ユリシュ(ea7414)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862

●リプレイ本文

 騙されやすい人間に罪はない、と‥‥思いたい。
 冒険者一行に紛れてトロル退治に赴くヘタレ君。そのあまりに勘違い、ならぬ斜め上に一直線の正義感に振り回される一般人、計八名。彼の非常識な勇者道思考を知っている人間にも感心していいやら嘆きたいやら気持ちは複雑だ。時奈瑠兎(eb1617)が一日だけ依頼に協力してくれる仲間達へ指示を出す間、彼女を除く七人はヘタレに早くもげんなり。
「うーん。寧ろ利用されている事に気づいていないからとはいえ、ヘロヘロのボコボコになりながらも敵に向かっていく姿は、ある意味尊敬するな。真似はしたくないが」
 なんて内心感心しているジャスパー・レニアートン(ea3053)は珍しい部類の人間かも知れない。普通の人は其れを『無謀』の二文字で斬って捨てる。
 というのはさておき、ヴァイン・ケイオード(ea7804)は意気込むヘタレを着席させ、保存食を「そーれポチ」なる様子で投げ与えると、突如一枚の羊皮紙を広げ。
「なぜなにモンスター講座ぁぁ〜〜〜トロル編! いよっし、聞けよヘタレ!」
 着席したヘタレを瑠兎とリュイス・クラウディオス(ea8765)が両脇を『がっちり』固めてモンスター講座が始まった。トロル対策だが、あまりのネーミングに皆の目が白い。
 トロルは結構しぶといモンスターである。冒険慣れしている皆が頑張って取り組んでいるにも関わらず。ヘタレ君、開始『三秒』で熟睡。彼は狙いを外さぬ男!
「くーかーくーかー‥‥んぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ちゃんと聞いておけ、勇気やら信念だけで勝てるレベルじゃ無いんだからな」
 と爽やかな笑みで矢を放っていたヴァインは、村に着いてからしきりにヘタレに話しかけていた。何故か。誰かが気を取られているヘタレを気絶させてくれることを期待していたのだ。しかし! 其処に現れたるヴァインの同僚(?)サフィア・ラトグリフ(ea4600)!
「これは勇気と知恵を授けてくれる魔法の飲物! 勇気りんりん! パワー爆発ッ!」
「おお! ありがとう! 勇者の為にげばげばげば」
 サフィア。怪しい酒場で鍛えたお酒のススメを駆使して、ヘタレに考える暇もなく発泡酒を飲ませる。否、営業スマイルで口に押し込む。なんという手際の良さだろうか。そんな感心している間にもヘタレ、千鳥足になりながら「勇者はぁ〜かぁーつぅぅ」なんて譫言ほざいているのが運の尽き。彼の後ろにぬうっと立つ五人の影。
 スローで行動を追ってみる。ヘタレが酔いで潰れなかった刹那。
 サフィア、レイピアの鞘で背後から一撃。
 ジゼル・キュティレイア(ea7467)、商売道具の水晶球で後頭部一撃。
 容赦ないぞ二人とも! 二人のナイス一撃で目を回したヘタレ。
 さらにリュイスに縛り上げて転がされる。彼が親戚に似てきたという話はさておき。
 リュイスとチェルシー・ファリュウ(eb1155)が、縛り上げたヘタレをチェルシーの馬にくくりつけて固定した。まるで川から引き上げられた溺死体のようだ。
「うむ、これで死人が一人減ったのう。こやつは言っても聞かぬからのぅ」
 マルト・ミシェ(ea7511)、とても晴れやかな顔をしている。いい仕事をしたという様な表情でノびているヘタレを眺める八人。
 みんなの心は一つになった!
(とてつもなく不憫だが、考えることは皆一緒のようだ)

 というわけでヘタレを放置していざモンスター退治決行。村を脅かすトロルを退治しなければヘタレにもかまっていられない!
「きたわよ! みんな広がって!」
 遠くにいたチェルシーが吠える。全速力で仲間の方へ駆ける彼女の背後から轟く地響きと木々をなぎ倒す音。青銅色のいびつな肌をした巨人は森の奥から唸るような声を上げて現れた。二メートル以上もある巨体の片手には棍棒が握られている。大きいとは言っても、瑠兎と頭一つか二つほどしか違わない体格である。そう脅威に感じる必要もないが、知性は人とはかけ離れているし、恐るべき再生能力がある。まずは‥‥
「あたしが試しに斬りつけたけど瞬く間に治っちゃった。なんであんなに頑丈なんだろ」
「嘆くなチェルシー。最初に俺が目を潰す。射撃の腕は自信があるが確実に仕留めたい、誰かあいつの行動を」
「やれやれ、タフな野郎だな。止めるより、こっちに一直線の方が仕留めやすいだろうな」
 リュイスの表情が変わる。にぃっと仮面の下の唇が弧を描いた。言うやいなや、ムーンアローでトロルを指定し、容赦なく放つ。しかし、元々攻撃力は高くない。トロルは連続してムーンアローを放ち続ける、ヴァインの傍らのリュイス目掛けて走り出した。
「なーいす、いくぜ!」
 ヴァインの矢が、此方へ向かってくるトロルの片目を潰す。すると痛みで暴れて向かい来る相手に、リュイスは幻覚を送り込んだ。手が凍って使い物にならなくなる幻。
「だったら、幻は僕が現実にして見せようか?」
 ジャスパーのウォーターボムが巨体の腕に命中する。棍棒は空中を舞って遠くへとこぼれ落ちた。トロルは幻覚の痛みと現実の痛みに呻くのみ。叩くなら今だ。
「タフであろうと何であろうと、私は倒す!」
「あったしもー! 遅れは取らないわ!」
 瑠兎とチェルシーに続き、サフィアも走り出した。三人をリュイスとジャスパーが魔法で援護する。「さて、そろそろかのう」と呟いたマルトはウォールホールで地面をくりぬくと、ジゼルに合図を送り、油壺をサイコキネシスでトロルに浴びせた。
「準備が出来ました! こちらに誘き寄せてください!」
 ジゼルの声と同時に、もう片方の目もつぶれるトロル。冒険者達の声や足音に導かれるままトロルはウォールホールへと落下した。身動きがままならないトロルに、ジゼルは。
「サンレーザーっ!」
 炎が燃え上がる。彼らは着実にトロルの生命力を削っていった。

 しかしこれからが大忙しだった。
 トロルをなんとか始末しきった冒険者達は全員顔を見合わせてうんと頷く。やがて無言でチェルシーの馬の所へ走ると、簀巻きのヘタレをそーっと、そーっと連れだしてきて縄をほどき敵の亡骸を目の前にころがす。そこへ。
「ヘタレ兄さんしっかりするんだ!」とジャスパー。
「へっぽこだと思ったら、『駆け出しの割には』やるじゃないか? 一応上出来だぜ? ‥‥たぶんな」とリュイス。
「まぁ‥‥よく頑張った方じゃん、ヘタレ! いよっ、眠りのヘタレ!」とサフィア。
 以後、ヘタレは眠りながら強敵を倒せると思いこむ。聖なる母にヘタレの行く末を祈りたい。
 かと思いきや。ほめて落とすが説教の醍醐味。全員嘘をつきまくる。
「もう、ちゃんと食べなきゃダメだよ! あれくらいで気絶して!」と潤んだ眼差しのチェルシー。
「起きたか? お前敵から不意打ち食らって、今まで気絶してたんだぞ。あれくらいよけろ! 死にたいのか! 勇者になるんだろう」とヴァイン。
「体力無しで役に立たなかったぞえ。全く気絶するとは嘆かわしい」とマルト。
「あぁ、命が縮まるかと思いました! 冒険者は身体が資本なんですよ! 今のままでは役立たずです!」とジゼル。
「ヘタレはん、ボケ時を考えよし!」とお国言葉でつっこむ瑠兎。
 俺は、俺は、俺は一体何をしたんだぁぁ、というヘタレの叫び声が響くが皆が口々に色々というので右から左へ話の内容が抜けてゆく。とりあえずトロルは倒して報酬は手に入る、のだが。


 例の騙されていた真相が発覚すると。
「そんな、そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁ俺は人のためになってなかったのかぁぁぁ」
 人の為、ではなく、詐欺にあったというのが世の中の一般論。
 まるで路上の悪徳商売人に捕まった人のようだ。
 まるで一世代、昔の演劇を見る気分でヘタレの道端自作自演「勇者の落胆」を眺めつつ。リュイスやジゼル、瑠兎は、すでに言葉もない。食事を貪りながら絶望を表現するヘタレは器用すぎるがそれはさておき。
「食料調達してスープや食事つくって正解かなぁ。ヘタレ、本気で痩せてら〜〜」
「どうして今まで気づかないんだろうね、マルトさん」
「わざわざ食事をつくっておごってやるとは優しいのうサフィアさん、チェルシーさん。ヘタレかえ? ヘタレは‥‥躾が全く成ってないからのぅ。これだから若いものは‥‥」
 深い深〜い溜息が一行の口から落ちる中、ヘタレの傍らでは商売に長けたジャスパーが。
「いいかいヘタレ兄さん。『これだけの家』を買い生活していくには一月に『これだけの金』がかかる。あとポーションで病気は治せないんだよ。これとこれとこれの値段はこっちの〜‥‥」
 社会勉強実施中。
 何故初歩的なことも分からないのだヘタレよ。
 あわれーになったヴァインがヘタレに近づき。
「自己犠牲は立派だが、自分が死にそうになるまで尽くすな。それで死なれたら、相手側も迷惑だから‥‥いや、本当」
 ぽんぽんと肩を叩くヴァインだが、ヘタレは一人立ち上がり。
「俺は、人生の目標をみつけるんだぁぁぁぁ」
 ばたーんと飛び出した。
 まてこら。
「ヘタレ兄さーんっ!」
 ジャスパーの声が響くが、まるで息子に家出された母のような光景だ。
 ヘタレ、現実逃避にて町から姿を消した。また振り出しにでも戻ったのか。きっと一、二ヶ月したら再び世間を困らせてくれるに違いない。

 勇者を目指す、そこの君。間違ってもヘタレのようになってはいけない。