私は貴方に誓えない

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2005年08月23日

●オープニング

「可憐だ」
 きらきらきらきら。まさか悲劇を招こうとは。

 男の瞳は正しく彼女だけを見る。街角でぶつかった女の子。ある日突然花咲くこともあるなんて名言を残したのは誰だったか。男はいわゆる『ほれっぽい』タイプの男だったといえばいいだろうか。好みの銀髪青い目の女性を見つけては、口説いて回る。というより女性のことを装飾品の一つとしてしか見ていない男だった。というのも彼の祖母は。

「いいですかジーウ、男たる者、多くの女性を経験してはじめて女性に対するつき合い方を覚えてゆくのです」
 そんなありがた迷惑な言葉を残したバーちゃんは同じ孫娘にも。
「いいですかミーウ、男という者は沢山の女達を中途半端なつき合いを望む生き物だという事を肝に銘じて、決してころりと騙されてはいけません」
 おばーちゃん言ってることおかしいよ。

 そんな亡き祖母の存在に影響されて育ったキャメロットの商家のジーウ君、ナンパしては短い恋に溺れる生活を繰り返す。しかしどの女性達も遊び慣れしているわけじゃない。中には。
「どうして私と結婚してくれないの!」
「どうして私より彼女を誘ったの!」
「ちょっと私以外にまた女に手を出したわねぇぇ!」
 こうなると人生泥沼だ。
 しかし懲りないジーウ君。君との愛は誓えないんだ、などと言いつつ今度は見習いのクレリックに手を出した。花嫁修業のため見習いに来ていたお嬢様であったのが不幸中の幸いか。いや、どっちみち問題なので白の教会は騒然。当のクレリック見習いの良家の女の子と言えば、純粋な為、熱烈アプローチにころーり。疑ってもいないらしい。男の方はいつもの調子で娘を喜ばせようとあの手この手でプレゼントしたり食事に誘ったり。
 確かに誠実な男であったなら、本気であったなら、文句は出てこなかっただろうけれど。
 恋は遊び。移り気な彼の心はいずれ彼女を飽きて誰かを選ぶのだろう。
 ギルドに現れたのは彼の妹のミーウだった。
「教会のクレリック達が怖いのよぉぉぉ! しかも兄が手を出した女達が慰謝料とかいって家に押しかけてくるし! お願い、人生経験豊富な冒険者の方々、兄貴を大人しくさせてぇ〜。このままじゃ家は潰れるのぉぉぉ」
 彼のデートコースは高値の飲食店に洋服店、あとは付き合う女性の望むがままに。
 ともかく家の財産食いつぶしているようだ。

●今回の参加者

 ea2153 セレニウム・ムーングロウ(32歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7228 ザンガ・ダンガ(45歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・イギリス王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2971 リア・サーシャ(28歳・♀・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 恋に恋する乙女ならばまだ可愛かったろうに。
 一目惚れした女を口説き落としては颯爽と別の女に走っていく血も涙も無いジーウの所行に呆れかえった冒険者達。
 セレニウム・ムーングロウ(ea2153)が彼の妹から依頼を受けた者であることを証しながら、長寿院文淳(eb0711)と手分けして探し出した、過去にジーウが捨ててきた女の数は総勢『三十六』人。
「‥‥自分がした事が、どういう結果を招いているか‥‥現実を直視していない様子。この三十六人の女性達を集め、正面から‥‥お話しされたらと思います」
「やれやれ困った方ですね〜。いくらなんでも六年間で三十六人は異常でしょう」
 文淳とセレニウムは『私は捨てられたのよ女性名簿』と化した資料片手に、胃が痛くなるような感覚を覚えた。胃どころか頭も痛いに違いない。花から花へ、浮気というか元々本気じゃないので遊び同然なのであろうが、女性の数と交際期間が最短四日から最長三ヶ月というのは流石に言葉が出てこない。
「あきれた男ですな。そんな様子では神の御前で愛を誓う資格があるのかどうか。この度ジーウ殿に口説かれたお嬢さんが哀れですのう。もしもですが、嫉妬に囚われた数人の女性と同じなるならまだしも、純真なだけに刃物沙汰にもなりかねませんしの」
 私は神に仕える者としてお嬢さんとの話し合いにあたるとしましょう、そう言い出したのはザンガ・ダンガ(ea7228)であった。娘が純粋であればあるほど厄介な話であると思わざるを得ない。とはいえ文淳の言うように修羅場へ突入するにはセッティングが必要。
「誘き寄せるのであれば囮がだよね。誰が」
 レイエス・サーク(eb1811)が仲間をぐるりと見回す。男性だらけのメンツの中、唯一の紅一点。それもばっちりジーウ好みの銀髪に青い瞳の麗しき乙女。仲間達の視線が集まる中、リアナ・レジーネス(eb1421)は「え、え、私ですか」と戸惑った。
「彼の好みは銀髪に青眼、だそうですから適任と言うことですね。リアナさんには彼の出没地区を練り歩いていただきましょう。お願いします」
「わかりました。ジーウさんは、一体誰となら付き合う気があるのか聞いてみたいものですわね。睡眠薬も眠らせる魔法もありませんし、‥‥人気のない店にでも連れ込んで、気でも失わせましょうか」
 ふふふ、と優雅に笑いながら両手に掴んだマジカルワンド(注意:木の棒)に力がこもる。
 何をする気だ、リアナ・レジーネス。
「大馬鹿者と怒鳴りたいところですが、その役目は俺ではなく、もっと適任者がいますね」
「はい。女性達から‥‥直接伝えて頂ければ‥‥効果大でないかと」
「自分だけに被害が出るならまだしも、家族に迷惑がかかっていると何故理解できていないのか。愚か者に反省をさせたいところです。文淳さんと俺はふられた女性達を呼びに行きますか」
 山本修一郎(eb1293)は目にもの見せてやると言わんばかりの気合いを背負い、資料を持った文淳を連れて走っていった。ぽつーんとその場に残された仲間達も、自分達も動きましょうと、セレニウムとザンガは噂の見習いクレリックのお嬢さんの所へ、リアナはジーウが放浪している地域を練り歩き、レイエスがジーウに対して物申したいという気持ちと何かあっては、というある種護衛のような形で同行することになった。

 恋は魚釣りに似ている。というのは今回の様子に言えることだ。
 柔らかいふわふわした銀髪を風になびかせ、無防備に道を歩いていくリアナ。ジーウの特徴は聞いていても、顔は見たことがない。遠巻きに様子を見ているレイエスを視線を交えた後、リアナは微笑を浮かべて通り過ぎる人々に愛想を振りまいていた。いらぬナンパにひっかかってもいたようだが。
「そこの可憐な銀の乙女。僕は貴女の夢の香に吸い寄せられた哀れな男」
 今時そんな怪しい口上あげる奴がいるのか。イエス、時には勘違い野郎がいるものだ。
「馬車を止めたのは貴方と運命を感じてこそ。空を写した水面のような瞳で、僕を見つめては頂けませんか」
 リアナの横を通り過ぎたかと思った一台の馬車が止まっていた。扉が開いた馬車から現れた、身なりだけは一流の若者は、青い花束を片手にリアナに近づく。なんだか童話に出てくる玉の輿ストーリーを連想したレイエスの目の前で、気恥ずかしい台詞が流れるが。
「綺麗な花。貴方のお名前を聞かせてください、素敵な方」
「ジーウとお呼び下さい。この近くで商家を営んでおります」
 当たった。
 その商家潰しかけているのは何処の誰だよ、とレイエスが遠巻きにつっこむ。
「では出会えた記念にお付き合い下さいな。行きたいところがありますの」
 馬車を先に帰らせ、微笑んだリアナはジーウくんを地獄の口へ連れてゆく。

 レイエス達がジーウ捕獲に励んでいる頃、修一郎と文淳は三十六名の女性達の所へ手分けして走っていた。勿論中には不在の女性達、顔も見たくない女性達もいたのだが、夕方までに広場へ集って貰ってジーウ君本人へ憂さ晴らし‥‥いやいや、説教と復讐(語弊あり)の機会を提供しなければならない。今後のためにも。しかし過去が過去である。
「本日、貴方を裏切った商家の息子が謝ってくれるかもしれませんよ」
「あいつの謝罪なんて雲より軽いわ。態度で示して貰わなきゃ」
「場合によっては復讐するか、こき使えますよ」
「いくわ!」
 ‥‥即決。

 ザンガ達が面会を求めた相手、この度問題の種となった娘に二人は資料や家族の証言を元に言って聞かせた。本気の恋ではないこと、遊びの恋であること、深入りして良い相手ではないこと。あなたの将来のために相応しくないと何度も言って聞かせた。
 けれど。
「彼は、曖昧な言葉で惑わしたりしないわ。綺麗だとか、優しいとか、ありきたりの言葉じゃなくて。私の澄んだ瞳が、自分の暗く淀んだ部分を見通して浄化してくれるようだって、私の銀髪が光の御使いを思わせるって。ちゃんと言ってくれたのよ」
「過去に被害にあった女性達は皆、銀髪に青い瞳が特徴です」
 セレニウムがきっぱりと娘のすがる言葉を切って捨てた。ザンガは明らかに狼狽している娘に予知のような言葉を綴る。
「ジーウ殿は恋多き男性。貴女に囁いている言葉は他の方にも囁いています。いざ正式な約束をしようとすると拒否をする。この行為を繰り返した結果、多くの女性が嫉妬に囚われてしまっている‥‥遠からず貴女も同じ結果を辿るでしょうな」
「男性全てが一時の恋を求めている訳ではないですが‥‥花から花へわたる蝶のような人物も確かに居るのですよ。彼のように。貴方と愛を語れる本当に縁のある人もどこかに居るでしょうけれど‥‥其れはジーウでない事は確かです」
「私も、彼の遊び相手の一人だとおっしゃるのですか」
 怒りか、悔しさか、紅潮させた顔で絞るような声を出した。沈黙が降りた。


 日暮れの時刻、広場には仁王立ちで列をなす、過去にふられた女性達の皆さんが今か今かと餌が来るのを待っていた。裏路地の方向から『鈍器』で殴られて気絶したジーウはレイエスとリアナによって連れてこられた。修一郎が、ジーウを見た瞬間鬼のような表情に変わった女性達を宥め、文淳が持ってきた水を無造作にぶっかける。
「目が‥‥覚めました、か?」
 ようやく引っかかった事を認識したらしい。
「彼女達と妹さんに誠実に謝らなければ命はないと思いなさい」
 修一郎を初め、口々に浴びせられる言葉の数々。白熱して血の流れる騒ぎになったら、私は此処で切腹します、と釘を差した(半脅迫)文淳の目の前で、ジーウはみっちり倫理観念と道徳概念の説教を受けた。
 物陰から見習いのお嬢様が様子を見ていた。あまりのショックで言葉もないらしかったが、やがて涙をこぼしたまま、教会の方へと戻っていった。しばらくは男性のことを信用できなくなりそうです、と話して。
 時は過ぎる。
 現在ジーウ君は、慰謝料を自力で稼ぐ為にミーウの監督下で延々肉体労働に励んでいるという。