【禿の国から】頭髪に哀をこめて
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月04日〜09月09日
リプレイ公開日:2005年09月10日
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●オープニング
「うふふ、もうちょっと、もうちょっとよ」
霧深いキャメロットでは、その霧がとっても素敵な効果を生み出すせいか、時折人の道を外れた人たちが現れる。市民達を恐怖のどん底に陥れる彼らは、犯行の特徴から通り名が決まってしまう事が多い。
一気に名声を築き上げたのは、男性を愛する性癖を持った通称『カマ』。
密かに楽しんでいるのなら文句は出ない(教会は許さないが)。しかしそれがひとたび、一般市民をエモノと認識するやいなや、害虫退治さながらギルドに依頼が出ることが多いのだった。
例えば長年片思いをしていた娘がいたとする。恋の相手は一つ道の違う店の青年だったとする。何年も思い続けてついに愛の告白を行い、ふられたとしても其れは一つの美談にすぎない。
これが逆に同性に置き換えられると、例え心は純粋であろうが一方的に思いを寄せられた男性は「なんかガタイのでかい男がつきまとうんだ! 助けてくれ!」と恐怖を呷られ、叫ばれても無理はない。
なんだかよく分からない一例を示したが、この度も『変な人』が現れた。
その女の仮の名は『頭髪を愛する者』。
まんまやんけ、とかシビアにつっこまないで欲しい。その変な人は漆黒の頭髪を狙って夜な夜な町を徘徊し、すれ違いざまに素早く髪の毛を刈り取っているらしい。無差別らしいが、こと黒い髪は根こそぎ刈り取っていく。刈られた者は気絶させられていたとか。
襲われた者は傷を負ったわけではないが、心に傷を負っていた。納得。
そしてその通り魔、日本刀を持ち、必ず『成敗』のジャパン字を書いていくという。
日本刀に、ジャパン字。どうやらジャパン人ではないかと言われているが詳細は定かではない。
冒険者達よ! 頭髪を狙う怪しい人を捕まえて欲しい!
そしてジャパン人よ、通り魔の残す「禿の国から来た者よ」なんという汚名を洗いに行きたまえ!
●リプレイ本文
それはジャパンの稲を刈る作業に似ている。
一粒一粒の大切な小粒を手にいれるため、丁寧に丁寧に根元を刈り取っていく農作業は、それまさしくこの度の通り魔事件(一口に言えばだが)の被害状況を眺めた者達に光景を彷彿とさせた。被害者達は大抵がショックのあまりに口から魂が抜け出ていくような状態で、髪、髪、俺の髪、と廃人同然に追い込まれている。
「俺が思うに、これは災難だ。うん、災難だと思う。いっそ天災と考えた方が心の傷も早くふさがるかも知れないな。妖怪髪切り女って考えた方が気楽だぜ?」
被害者を眺めたエドワード・リッシュ(ea7333)が自己完結しながら言葉を並べるが、一向に被害者の魂は肉体へと戻らない。これではまるで加害者が失った愛する髪の毛を取り戻すべく夜な夜な道端を歩いている被害者の亡霊なんではと思ってしまうではないか。
「別に‥‥髪切ったくらいで‥‥死ぬ訳じゃないし‥‥すぐに‥‥生えるわよ」
その虞百花(ea9144)の言う「すぐ」は早い人なら半年あれば元通りになろうが、年を老いていくと顔に皺が増えるのと同じ要領でどんどん再生が遅くなったり、髪の毛から色が消えて「白髪かぁ!」と絶叫する人たちも出てくるかも知れない。
白髪の人に失礼だが。
「ねーむーいー‥‥ついでに言うと、あなたトドメさしてますよ百花さん」
ぼけーっと睡魔と戦っている橘木香(eb3173)が指を差すと、先ほどまで真上を向いて「髪が、髪が」と譫言を呟いていた被害者は「燃え尽きたぜ‥‥」と椅子に腰掛けて双眸をつむり、身も心も真っ白になり果てている。
戦い終了。
ってこんな所で廃人になられては仕事も進まない上、汚名も注げない。
「うわぁぁぁ、しっかりしてくださいぃぃぃ! でもほら、刈られたって事は、むしられたって事じゃないから、頭皮にダメージもかかってないし、髪の毛の切り口も綺麗だから痛みもなくて再びわさわさになる可能性の方が強いですよおぉぉ! しっかりして!」
帰ってきてぇーとばかりに被害者を揺すぶるエルマ・リジア(ea9311)。
がくがく胸ぐら掴んで揺すっていると、ついには「付け毛欲すぃー」という呻き声に変化した。被害状況は手に負えないぞ冒険者達!
「んーそんなにショックなんですかねぇ、僕もクレリックの端くれなので天辺を剃ってみた時期があるんですが、あれはあれで涼しかったなぁ。風が頭皮を撫でるんですよ」
いやぁ暑い時期は涼しくてね、とクルリン・ベーカー(ea7335)がかつての己の姿を懐かしむように窓辺を眺める。一人恍惚と「禿はいいですよ、禿は」などと語り出すので数名がクルリンを凝視した。
そんな中、凍扇雪(eb2962)は普段の暖かな微笑みを影に潜め、威圧を滲ませた恐怖の冷笑で被害者に近づくと、エルマに代わって被害者の頭をひっつかみ、指先に力を込めて押し潰さんばかりにギリギリと力を加えていく。
「フフフフフフ、さぁ吐いてください。被害にあった場所は何処ですか。フフフフフ、吐けば楽になりますよ。私はアホな同郷人のせいでこれ以上この国の人に迷惑掛けたくないんです。私も『いっぱいいっぱい』なんですよ、フフフフフ」
至近距離の雪の表情は果てしなく怖かったと、後に被害者は語っている。
そう、その時の彼の恐怖を再現するなれば、シンプルな全面マスカレードを真っ黒に塗り立て、首をもたげた蛇のような口を彫り込んで真紅に塗り、笑っているように描いた山二つを白くして不気味さを引き立ててみれば完璧である‥‥というのは言い過ぎか?
「おい。どうしてそんなに熱心なんだ? やっぱジャパン人だからか?」
エドワードが恐ろしい顔で被害者を自白させる雪に対して恐る恐る訊ねると。
「フフフフフフ当然じゃないですか。この国を何処だと思ってるんです。天下の噂を総なめする『変わり者博覧会イギリス』ですよ? カマにチャームに哀料理、今度は禿げですよ? 関係ない私たちまで変な目で見られるんで勘弁してください本当に」
「‥‥あぁ、‥‥そうかも」
納得してどうする百花。
そしてノン・ストップ・雪的事件解釈。
「大体『禿の国』ってなんですか『禿の国』って。ジャパンはただでさえ頭剃ってる人が多いんですから、本気で誤解されかねませよこれ。噂を聞いた見知らぬ人がジャパン人に『何故ジャパン人なのに禿にしないのか?』なんて言われてくださいよ。放置した私達のせいですよ、月道の先で身内の恥は勘弁願いますよ、フフフフフ」
目がマジだった。
とりあえず威圧による自白から犯人の出没地帯を絞り込んだエルマ達は現場へ向かった。さらに物陰に隠れ、怖い顔をしていた雪が囮として歩いていると、人影が。
先方はあっさり現れた!
「悪を成敗するのが正義の務め! そのキューティクルヘアーいただくわ!」
既に発言の意味がわからん。
「出ましたね、ジャパンの恥さらし。私が来たからには悪行もそれまで!」
両方黒ずくめなのでどっちが正義か悪か分からない。しかも雪は頭髪を防御するための盾は立派だからともかくとして、右手に握られたる十手はなんなのか。
「おいほら、敵だぞ! おきろって」
「ダメです‥‥もう食べられません‥‥ああ、お寿司」
がぶっ。
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!」
退治依頼が出ている通り魔に一撃食らわせるならまだしも、戦いも始まらぬうちに寝ぼけ眼の橘を揺り動かしたエドワードが噛まれて絶叫を上げる。
何をやっているんだろう。
やる気の「や」の文字もなければ、緊張感のかけらもない。
「やいあんた! なんでこんなことするんだよ!」
手に歯形を残して激痛に耐えながら叫んだエドワード。気を取り直してやはりまともな人として空気を修正する義務がある! しかし通り魔は「私はまだなにもしていないわ。ふ、所詮は悪、仲間割れとは見苦しいわね!」などと正義を気取って話し出したので「ちがーう!」と叫んだ。
話がかみ合ってないぞ冒険者達。
「ギルドから‥‥退治依頼が出てるの‥‥観念‥‥してね」
百花がようやく言葉を口にすると、やれるもんならやってみな、とばかりに戦いが始まった!
しかし開始早々プラントコントロールで応戦しようとしたらしいエドワードが、あっさりジャパンの女に頭髪を刈り取られてしまう!
とりあえず刈りやすい人から刈っている模様。
刈られた貴方の頭は眩しい。
「うわあああああ」
「エドワードさん! まだ禿じゃないですよ! アイスコフィン!」
気休めか分からない台詞を口にしながら、魔法をかますエルマ。その傍らでは。
「は! 妙案を思いつきました! 橘さん、日本刀おかりします」
「ねむぃ‥‥ふぇ、いいです‥‥けど‥‥ぐー‥」
妙案? と頭髪を奪われたショックにめげず戦う勇敢エドワードと雪を前に、クルリンは生真面目な顔で日本刀を見つめ、声高らかに思いついたことを叫ぶ。
「髪切り女とやらの恐怖から逃れる方法、其れすなわち先に刈ってしまえばよいのです!」
「え‥‥えぇーっ? それ違って、て、あ、きゃーっ! クルリンさぁん!?」
エルマ絶叫。クルリンは瞬く間におかっぱ頭を丸めてしまった。かといって理容の技術もないので、完全な禿とも行かずに、禿が見え隠れするショートヘアーと言った有様。
刈られる前に刈れ、それがクルリン。
本末転倒してるのに気づいてないぞクルリン!
「‥‥んん〜、おひたしと‥‥卵焼きと‥‥おみそ汁」
「金髪の敵〜〜!」
エドワードが敵の女の足を、捕らえる。
「そういえば便利な魔法がありました。雪さんひきつけてくださいね〜〜コアギュレイト」
橘がひたすら寝言を呟いている間に、混乱の中の討伐は終わりを告げたのであった。
さて髪の毛を収集していた女性は、捕らえられてから苦労話を口にする。
「私の彼氏は若禿げのジャパン人だった。それでもあの人を愛していたから、私はその辺を歩いていたキューティクルロングヘアーのジャパン人を『襲って』髪の毛を『貰った』の。あんなに長いんだもの、少しぐらいは平気よって。こんな素敵な髪の毛ならきっと彼にも似合うはずって。でも血の滲むような思いで手に入れて『丹誠込めて作った』付け毛をあの人は投げたのよ〜〜!? きっと気に入らなかったんだと思って『次々に種類を変えて』試してみたわ。でもあの人の好みに叶う髪は見つからなかった。そしてある日、あの人は願い通りの付け毛を作れなかった私の元から去ったのぉぉ! きっと素敵な髪をした人が彼をなじったんだわ! そう思うと可哀想で夜も眠れなかった。髪なんて見せびらかす奴が悪いのよ! だから悪を成敗するついでに私は愛を取り戻すために付け毛を作り続けたのにおしまいよぉぉぉぉ!」
えっらい長い話だったが、事情は飲み込めた。
この度の毛狩り騒動は、加害者女性の99パーセントの勘違いと妄想で織りなされた歪んだ愛であることに。とんだ話に付き合わされた彼らは、さっさと思考の危ない女性をつきだすと報酬を貰った。
刈られた二人は戦利品の中から自分にあいそうな付け毛を拾って帰ったのかどうか知らないが、エドワードの頭にはこの度事件に携わった者達が残したサインがあるとかないとか。
以上が禿げ事件の顛末である。