教えて! 僕らの勇者様!―はいぱぁ―

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月20日

リプレイ公開日:2005年10月19日

●オープニング

 長い間姿を消していた冒険者の中の冒険者を目指す男。
 その名をヘタレ・ンジャーダ。
 何の悪戯か知らないが、その名前はすでに冒険者ならぬ冒険者の宿命を彼に与えていたに違いない。名前に違わず彼の人生は波瀾万丈。
 これぞ正しく神が定めた宿命に違いない。
 その冒険者ヘタレ・ンジャーダは旅に出た当初『冒険者』というものに憧れていたという。モンスター達『人間の悪』を成敗して自活する正義の味方。
 おそらくそのフレーズだけで大抵の少年少女が瞳を輝かせる。憧れを抱くとはいいことだ。しかし、ある日突然、何処にいるかも存在するかも分からない魔王を倒しに言ってきますと言い出したりしたら、色んな意味で手に負えない。
 というか装備も皆無で、剣も振るえず、魔法も使えず、路銀もなく。
 ってこれではのたれ死ぬ確率の方が断然高いに違いない。彼の母親は貢がされて莫大な借金を抱え、父親は失踪したかと思えば魅惑のカマになっていたとか。
 彼ヘタレ君は真実の冒険という物を知らなかった。 非常に夢見がちな人だった。
 仲間を集めてギルドに行ってみれば夢を現実にうち砕かれた。
 さて色んな意味で問題児のヘタレ君。
 各国を放浪する彼の最近の冒険目的は、ともかく腕を上げて人の役に立つ、というものになった。しかし頭の思考が何処かおかしい彼は思いこんだら一直線。回りは見えない。
 数ヶ月前、人のためと活動していたら騙されていたことが発覚した。
 どこぞの国では『七転び八起き』なる言葉があると言うが、彼の場合は転び続けている。崖を転がる巨石は勢いを増して倒れてゆくという物だ。
 彼は正当な冒険者に、冒険者としての極意と一般常識を覚えさせられた。
 しばらく彼は姿をくらませていたが、この度帰ってきた。彼はキャメロットで知り合った知人を呼びだし、長期間篭もっていた成果を見せつけた。場所は彼の店。
「で、なにか成果でも得たのか」
「ああ! 俺は辛く苦しい修行に耐えた!」
 ほんとかよ、とか思ってはいけない。
「へぇ? いったいどんな?」
「俺は魔法を覚えたぞ! 火炎を操り、風を踊らせ、水も使役することが出来る!」
 言うやいなや彼は笛を吹いた。
 
 プッペポー!

「ちょっとまて」
 ヘタレ・ンジャーダ。彼は予想を裏切らぬ男。
 しかし友人の制止は遅かった。


 やってきたのは『松明抱えた放火魔』だった。

 
「イヤァァァァァァアァァァァァ! 俺の店ガァァァァ!」
 ぼうぼうと燃え上がる炎。店はバチバチと燃えてゆく。
「わはは、みたか! 炎の精霊の力を。安心しろ。今、水の精霊を呼んで炎を消す」
 ヘタレはさらに笛を吹こうとした。しかし友人は店の消火活動より先にヘタレを縛り上げた。何が起きるかわかったもんではない。他が確実なのは、現れるのは『精霊』等という物ではないと言うことだ。さらなる悲劇を恐れて失神させる。
 それはそうと『笛の音を聞いてやってきた放火魔』は世に解き放たれた。
 放火魔はヘタレを縛り上げ、大事なお店を消火している間にふらふらと町へ消えてゆく。
 やばい。放火魔を野放しにするのはヘタレ以上に危うし!

 ヘタレの友人は急いでギルドに駆け込んで助けを求めたのであった。

●今回の参加者

 ea1519 キリク・アキリ(24歳・♂・神聖騎士・パラ・ロシア王国)
 ea1916 ユエリー・ラウ(33歳・♂・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3855 ゼフィリア・リシアンサス(28歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea4600 サフィア・ラトグリフ(28歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5892 エルドリエル・エヴァンス(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea7804 ヴァイン・ケイオード(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 時に人というものは千差万別の善悪の認識を持つものである。
 依頼を受けるに当たって生活のためとか言うごく自然な理由なら特に取り上げる必要もないものの、ヘタレに至っては集まった者達全員あらぬ方向を見るか呆れるかと言っても過言ではなかった。
 キリク・アキリ(ea1519)は当初「あ、そうだ。このこアルマースって言うんだ可愛いでしょ」と肉球ぷにぷに、持ち前の無邪気さと愛らしさで周囲を和ませていたのだが、話が戻るやいなや「ヘタレさんってある意味、最凶冒険者だね」と的確な表現をした。
「あぁ『最強』だったらいいのに『最凶』だもんな。いや『最狂』でも困るんだけどさ」
 力無く呟くヴァイン・ケイオード(ea7804)の眼差しは仲間を見ていなかった。目元の涙腺を抑えたかと思えば、早朝の朝陽を望む爽やかさで明後日の方向を眺めている。その爽やかなヴァインの表情には、過ぎ去った遠い日の苦労させられた日々があった。
「正直ヘタレがまともになるとは全く思ってなかった‥‥が、悪化するとは流石に予想の範疇を斜めに飛び越えていったなぁ‥‥フフフ妖精さんこんにちわ、うふふんうふふん」
「笑い声が『二丁目』仕様ですよ、しっかりしてください。‥‥いきましょうか」
 元同僚のラディス・レイオール(ea2698)は壊れだしたヴァインに一声投げると、深い溜息とともにアルテス・リアレイ(ea5898)と捜索に赴くことにした。噂では、というか証言では、振られた腹いせに叫び回っていたと言うしすぐ見つかるだろうと思って。
「しかしまぁ、恋とはなんと残酷なんでしょうか。一つの恋が狂わせた二人の男、と」
 何故、詩人のような言葉を連ねているのだアルテスよ。
「それにしても人格や能力はともかく、笛の音一つで人を呼び寄せるなんて‥‥ある意味魔法を使うより難しいはず、そういった意味では違う意味で凄い才能かもしれませんね」
 感心してはいけません、そこの人。
 ゼフィリア・リシアンサス(ea3855)が笛で誘き寄せられた放火魔のことを考え手か短く感想を零すと「じゃぁさ、ヘタレさんに笛吹いてもらったらどうかな」とライル・フォレスト(ea9027)が笑顔で発言。残った者の凝視に気づくことなく、ライルは言葉を続け。
「もしかしたら笛の音で、再び放火魔がくるかもしれないよね!」
「可能性は非常に高いとは思いますが、私個人の考えで行くと何か別の者を呼びそうな」
 ゼフィリアの的確なつっこみに「あ、そっか」と頭を掻くライル。ヘタレは『笛の音で』放火魔を呼び寄せたのである。一体どんな取り決めなのか知らないが、さらにヘタレは放火魔を火の精霊と呼び、燃やした友人宅を『今、火を消す』と水の精霊なる者を呼ぼうとした未遂に終わった経歴がある。吹いてびっくり、何が起こるか分からない。
「そう、そうですよ! 女に振られた腹いせに放火ですか? 店を一軒建てて運営するのに、いったいどれだけの『金』! が、かかっていると思っているんですか! 莫大な金額ですよ!? 俺は依頼人さんが不憫でなりません! さぁ捕縛、放火魔の捕縛です!」
 金感情‥‥否、金勘定で物事を合理的(?)に判断していたユエリー・ラウ(ea1916)。燃やす金があるなら俺が頂きますよ! 等とかなり物を粗末にした事に対してご立腹らしく、ヘタレの所へ言って放火魔の特徴を聞いてきますと、ライルやヴァインをひっつかんでヘタレの所へ向かった。
「役立たずの無駄飯食いだけならともかく、人様に迷惑を掛けるとあってはどのように件のヘタレさんに遇したらよろしいのでしょうか?」
 ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)が生真面目な顔で呟く。「ヘタレさんは、騎士団で更正で良いんじゃないかな」とキリクがぽつんと小さく答えた。

 そして、先方はあっさり現れた。
「我こそは炎の使者! 世のカップル共め、俺の血と汗と涙の嫉妬をうけろぉぉぉ!」
 恥ずかしい。なんと恥ずかしい奴だろう。人はそれを八つ当たりという。
 放火魔を発見したヴァインの目は当初と同じように清々しく、明後日を見るように煌めいている。其処にもはや語る言葉はない。キリクはひいていたし、ラディスとアルテスの瞳は冷ややかで動きがない。バチバチ燃えゆく他人の家‥‥というか早く誰か止めれ。
「仕方有りませんね。私、先に消火活動いってきます。放火魔お願いしますね」
 燃え上がって被害総額がかさんだら元も子もない。ラディスが消火に当たるあいだ、残りは放火魔退治に向かうことになった。皆が顔をひきしめ、アルテスはきっと相手を睨み。
「そんな馬鹿なことは直ちにやめなさい! お父さんとお母さんが悲しんでいますよ」
 良心に訴えかけるような台詞を言ってみたが、効果はみられない。肩を落とすアルテス。
「だめか。あぁ、穏便にしたかったのに。あんまりグダグダ長引くと被害が広まる恐れがありますから迅速に捕らえたほうがいいかもしれませんね‥‥人の迷惑顧みないってこわいなぁ」
「愚か者は高いところに上りたがると言いますが、本当ですね。ホーリーで迎撃します。同じく、決着は早めにつけたほうがいいでしょうね、被害が広がりますから」
 ゼフィリアが魔法を唱えだした。逃げられては困るのでユエリーがマジカルミラージュで周囲に幻覚を浮かび上がらせる。とはいえ相手も魔法使い。
「あの放火魔、腕の確かな魔術師らしいのに松明って事は自分で炎は作れないのかな? なんかうちのエル姉みたい」
「あ、そうか! キリクさんありがとう、俺あいつの松明叩き落としてくる! ヴァインさん支援宜しく」
 ライルの言葉に、おぅ、とスピアを携えた。しばらくして消火を終えたラディスが加わり、ウォーターボムで転がり落ちてきた放火魔の逃げ道をアルテスが奪う。逃げ場は消えた。
「ここまでです、コアギュレイト!」
 ヴァレリアの勇ましい言葉とともに相手の動きが止まる。放火魔は魔法に屈した。
 そこへ。
「えい!」
 ごすっ。
 メイス一発。キリクの鈍器で殴られた放火魔は撃沈、地に沈んで呻くことになった。

「さぁさっさと縛ってしまいましょう」
「そうだね、俺もロープ持ってきたから手伝うよ」
 ヴァレリアとライルの二人が懐からロープを取り出した。しかし何故かヴァインが涼しげな顔で其れを押しとどめる。ヴァレリアとライルが首を傾げ、まさか逃がすのかと思いきや、ヴァインのこれ以上ない笑顔の表情には、一瞬サディズムが如き気配が漂う。
「彼女に振られたから自棄ッパチになって放火‥‥その程度で犯罪行為に走る? この阿呆がっ! そんな奴には『俺達特性二丁目ロープ』がお似合いだ。さぁ同僚よ、解説を」
 わかりました、とこれまた涼しげな微笑をたたえて現れたのはラディスであった。
「そう、これは十二月頃の事でした。リフィーナと名乗って酒場の秘境『二丁目』に潜入し、そこなシェアムママことヴァイン君と究極のロープを編み出したのは。そのロープは特異な魔法がかけられており、縛られた者は、二丁目でも名だたる肉体派ママ(ムキムキマッチョ女装男子)達のラブコールの中心で抱きしめられたような感覚に陥るという」
「嫌アァァァアァァ!」
 勿論嘘だが。
「それでしたら俺にも良いロープがあります! そう、あれは丁度一年ほど前のことです。その道のプロの村へと赴いた俺は、我が奥義を持ってしてコンテストに挑み、このロープに縛られた者は‥‥」
「助けてェェエェェェッ!」
「ちょっとちょっとちょっとちょっと! ユエリーさんまで!」
 ありもしない魔法のロープを次々と語って放火魔を恐怖のどん底に陥れるユエリー達であったが、ライルが制止した。こうして放火魔は無事に取り押さえられたのであった。

 ヘタレはどうしたのか?
 その後、散々お説教食らったのは毎度毎度の事ながら、騎士団に突き出すか、ただ働きさせるか、延々騒いだあげくにただ働き決定した模様だ。しばらく冒険に出ないで働いた方が身のためだろう。
 こうして勇者を夢見て怪しい魔法もどきを会得した冒険者の騒動は幕を閉じたのだった。ちゃんちゃん。