ブリストルの芸術祭

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:やよい雛徒

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月04日〜10月19日

リプレイ公開日:2005年10月13日

●オープニング

 この時期になると、西の大都市ブリストルでは芸術祭の準備が進んでいた。
 円卓の騎士に名を連ねるディナダン・ノワールが侯爵として治める交易都市ブリストルは、鉱泉の町バースに継いで芸術の都市としても知られる。ブリストルは芸術を頂点に、教育や文明保護が盛んで、現在技術の発展を目指し、技術者や錬金術師達が多く滞在していた。
 その頂点にある芸術に関しての熱の入りようは群を抜いており、毎年この時期になると都市を上げて新たなる才能の発掘に、都市は益々活気づく。
 芸術祭は様々な分野に枝分かれしているのだが、各分野に置いて注目を集めるのが『幻想舞台』と呼称されているものだ。これはコンテストを開き、十本指に入った作品だけが後日正式に絵画として発注、貴族様が取り合う。
 だが実はこの幻想舞台、油絵で描くのは『コンテスト後』である。
 何と言っても最大の特徴は、名高き貴族が若手の芸術家を発掘して世に出す名誉な機会である事と、若手芸術家の作品を手がけるのは『本人ではなく主催者に雇われ出場者につきそう上級バード』という点にある。
 
 幻想舞台は、その名の通り『生きた絵画』であった。

 芸術祭前に、貴族達の後押しを得て出場が決まった芸術家達は、工房に篭もって完全な下書きを行ったり、モデルや材料を集めて巨大なオブジェを建造したりする。そのままでも作品として面白い物を、今度は『完成イメージを担当のバードに伝えて記憶して貰い、当日にファンタズムで再現する』というのがお決まりだった。コンテストは発注前の完全な下書きと、それを基準に実物で絵画を表現してもらう演技も審査対象。

「ふーん『聖画を描いた絵師マレア・ラスカの愛弟子現る?!』ねぇ。私はヴィルデ以外を弟子にした覚えはないんだけど。何この知らない弟子の量産ぶりは」
 顔を隠した侍女姿で、活気に溢れる都市の様子を見てきた『もう一人のラスカリタ伯爵』は、拾ってきた羊皮紙を眺めて呆れた顔をしていた。現在ブリストルでは間近に迫った芸術祭の話で持ちきりだ。世間では死人という事になっている実の姉を見た妹のウィタエンジェ・ラスカリタは、腹を抱えて笑う。ちなみに兄のマディールは現在出かけていた。
「世間様の注目を集めるのに、宣伝は必要だろう姉さん」
「いい気はしないわよ」
 両頬を膨らませて妹を睨むマレア本人。
「我が儘だなぁ。そもそも、もう『この世にいない幻想画家』の名前ならば遠慮もなく借りるだろうさ。死人に口なしってね。で、芸術祭に出たいわけ?」
「芸術家としては出ないわよ。危険じゃない」
「でも見たいわけだ」
「遠慮ないわよね、あんたは。だってヴァルナルドのお爺さんの所だって出てるし、今年は一段と参加する貴族も多いのよ? 若い才能だって多いし、うちも募集して参加したっていいじゃないの」
「はいはいご勝手に。んじゃ、僕は別宅の秘密部屋で数日間くつろがせて貰うとするよ。仕事も宜しく〜」
「怠け者。あとは襤褸は出すなってんでしょ」
「ご名答。じゃ芸術祭楽しんできなよ、伯爵様? スィーユ〜」
 本来のラスカリタ伯爵は気楽な声を姉に投げて、手を振り、ぱたんと部屋から出ていった。溜息一つ落とすとマレアはさっさと着替えを始める。二人で一人の領主というのも楽ではないが、ご無沙汰だった芸術根性に火をともし、胸を高鳴らせつつ髪をくくり、双子の妹が私服に好んで纏う男装姿になった。
「さーて、私もキャメロットに行って募集出してきましょっか。あ‥‥拙い。『僕は』だった。おーいワトソーン」
 何処からともなくムキムキマッチョのジャイアント執事がやってくる。
「はい? 何でショウ、『ミス・ウィタエンジェ』様」
「僕の家も芸術祭にでるよ。主催者の所に行くから、ギルドの方を宜しく」

 数日後。ギルドに依頼は張り出される。
 ブリストルの芸術祭に当家からの参加者として出場を望む、若手の芸術家を求むと。
 モデルとして芸術家として名をあげたいそこの君、いざ芸術祭へ!

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 賑やかなブリストルを見下ろす人影。坂の街は芸術祭に湧いていた。芸術と錬金術を始めとした学問なども推進しつつ、港に都を構えて活気溢れるという西の都市。あちら此方に誇るような有名作品や、駆け出しの芸術家達が所狭しと大通りの軒下で小さな店を構えて作品を連ねている。
「ああいうところにいる方々は‥‥芸術祭には出ないのですか?」
 広い部屋には窓が三方向にあった。三方向にあったと言うより、建物の外周に張り出た半ばひさしのある吹き抜き部分と言うべきか。大通りを望めるバルコニーの手すりに手をかけて身を乗り出したフローラ・エリクセン(ea0110)は不思議そうな顔をしていた。
「あれかい? 仕方ないんだ‥‥貴族のパトロンをもてる庶民出の芸術家というのは、珍しいほうでね。少なくとも多くはない。でも、ああして人の目に留まろうと頑張ってる。かの聖画の画家も‥‥運良くフォルシア家の奥方に拾われるまで、ああしていたそうだよ」
 身分が高ければ高いほど、馬車で道を駆け抜けていく貴族達。目に留まるのは難しい。
 フローラ達の雇い主であるラスカリタ伯爵は、傍らに歩いてくるとウインク一つしてそう教えていた。フローラの瞳が丸くなる。物静かな少女の唇からは『ぷっ』と微笑みが零れた。同じ顔の他者を思わせる口調とは裏腹に、瞳の向こうには覚えのある人物が覗く。
 ブリストルの東にある鉱泉の街バース。その一角にある教会には、最近『聖画』と呼ばれる壁絵があった。描いた主は『謀反を起こした重罪人』。炎に焼き殺された亡き画家は、伯爵の実の姉である。ただし、事件には未来永劫他者に知られてはならぬ秘密があった。
「ウィタエンジェさんは『お姉さん』の様に絵を描かれないのですか? 見てみたいです」
「ざぁーんねん。『僕』は鑑賞するのは好きだけれど、絵を描くのが嫌いでね」
 言いながら挨拶代わりに目元にキスされたフローラ。だったが、一人黙っていなかった。あ〜〜、と指を差しながらつかつかと歩み寄るシーン・オーサカ(ea3777)はひょいっとフローラを抱え込んだ。伯爵はと言えば「みられちゃったかな」等と腕を組む。
「うちのフローラになにすんねん。‥‥はぁ、ここ外から丸見えやで。隣の窓の真下は会場やし。ウィタはんが、誤解されたらどないすんや。‥‥趣味は分かってるつもりやけど」
「いやだなシーン。芸術家を愛でる貴族も多いし、今は平気さ。ふふふ、ヤキモチなら君も一緒に僕の胸に飛び込んでおいで。奥の扉の向こうはナルキッソスもびっくりさ」
「‥‥ノリノリや」
「なんか言ったかい。僕もいっぱいいっぱいなんだよ」
 漫才じみた会話が伯爵との間にまき起こっているかと思えば、港に面した方のバルコニーにはエルマ・リジア(ea9311)が子供のようにはしゃいでいた。足下の黒い毛並みの犬が、飼い主の歓声に便乗したようにきゃんきゃんと忙しなく鳴いている。
「すごーい、すごーい、遠くに海が見えます! ねぇねぇ、大きな船がありますよ、あれどこでしょう? 意匠みても分からない‥‥さっきの大通りの街を歩いてみたいなぁ」
 手すりにしがみついて背をかがめ、頬を膨らませて悔しがる。何しろ大きな都市である。其れを考慮してか、芸術家兼モデルのエルマは、モデルに関しても耳は隠すか普通にしてくださいと注文をつけていた。
「海が珍しいかい?」
 いつの間にかエルマの傍に依頼主の伯爵がいた。シーンやフローラは大通りの見えるバルコニーで何やら話し合っている。「えっと、私、田舎者なので‥‥うるさかったですか? すみません」と頭一つ分も違う相手に覗き込まれながらエルマは呟いた。貴族と同伴、非礼は避けなければ、そんな風に考える節があったのかも知れない。
「あ、あの、大丈夫です! 此処にいるだけでも楽しいし、美味しい食事は出てくるし」
 ぽわっとした笑みとともに零れ出る言葉。裏のない素直な相手を眺めて「そうだなぁ」と伯爵はバルコニーから港の方を見やり、さらに大通りの見えるバルコニーの方を眺めやる。くるりと体を一回転させて「それじゃあこうしよう」とエルマに答えた。
「芸術祭の目玉の一つの、今回のコンテストが終わったら、全員でおしのびごっこしよう」
「お、おしのび、ごっこ?」
「そう。僕も衣装を着替えるし、どうせならガイドがいた方が町中を歩くのは楽しいだろう? 今回の報酬は早めに渡すから、それで五人でお買い物にでよう」
「えぇぇ!? いいんですか? 偉い人なのに」
「偉い人も肩の力を抜きたいわけ。気にする事じゃないさ。この顔ぶれなら護衛もいらないしねぇ」
 エルマから視線を外した伯爵は、シーンとフローラ、さらに物陰で柱のように動かない双海一刃(ea3947)を眺める。一刃は雇われた当初から、時折伯爵の顔をじっと眺めては一人物思いに耽るような顔を見せて、必要な仕事以外ではひっそりと護衛をしていた。
「随分と、信用をおいているんだな。モンスターが現れたら逃げ出すかも知れない他人に」
「それだけ今のギルド、ひいては君達を信頼していると言うことだよ。何しろ、有る意味では形の上では雇用したとはいえ来客同然の身でありながら、言われるまでもなく護衛をしている君のような生真面目な人物もいることだしね」
 伯爵の笑顔は揺るがない。自分も多少、腕の心得はあるから心配しなくて良いよと警備が聞いたら慌てそうな言葉をはいた。尤も「まぁ‥‥それもそうですね、ウィタさんの場合は」と遠巻きに呟くフローラ達は納得したように呟いていた。エルマは首を傾げる。
「もうじき開催するし、会場の見えるバルコニーの方へ行こう。椅子は‥‥ポワニカ」
 伯爵が名を呼ぶと白いふわふわした髪の十くらいの少女が「はいでしゅ」とやってきた。全員分の椅子を運んでくれと頼むと、さっさと作業をする。幼く見えるがメイドの一人だ。
「何しろモデルをした経験のある者もいるというし、君もそうだというのは驚きだけど」
「俺は‥‥大分昔に似たようなコンテストに出た。まださほど有名でなかった頃の聖画の画家に。マレア絵師の絵で以前モデルをした黒いアナイン・シーと比べてどうだろうか」
 一刃の瞳はまっすぐに伯爵を見ていた。シーン達が横目でやり取りを眺めている。伯爵は、ふっと笑んだ。双子の妹だ、似ているのは当然だ、けれど彼は思う。似すぎている。
「モチーフにアナイン・シーを用いたコンテストだったかな? 噂は聞いているよ、残念ながら僕は当時、屋敷に篭もっていたので見ていないけれど『知人』に言わせれば美しかったとか。違いは当時見ていた者に訪ねた方が良いと思うよ‥‥『朔の静夜』の一刃君」
「‥‥そうか」
 一人納得したように一刃もまた、エルマ達のように会場を見下ろした。

 会場は熱気に溢れていた。数十という芸術家達が次々と作品の幻を披露してゆく。

 一刃は単独。題名は『水にとらわるる月』。
 満月の夜に森の中の藍色に染まった沼地に腰まで水に浸かって、水面に写る月を眺める、半蛇の水妖を表現した。今回の共通テーマは水である。ちなむのは当然ながら水の中の胴体は蛇が如く、一刃は普段微動だにしない仮面に微かな愉悦を込めた微笑を浮かべている。
 驚愕すべきは、プロポーションの良い女性の肉体に幻を修正していることだ。きっと彼の妹が聞いたら嫉妬で戦いを挑むのだろう。
 シーンとフローラは合同作品。題名は『穢れ無きひとしずく』。
 副題「捨てぬ涙、涸れぬ涙」。美しかった女性の非業の人生の果てに燃え尽きようとする命を救わんとする聖女の図だ。せめてもの水をと、口移しで汚れきった女性に与えようとしている。流れる涙等で悲哀や慈愛を表現。聖女役が情を捨てない者という意味で「捨てぬ涙」、瀕死の娘は涙だけは失ってないという意味で「涸れぬ涙」と副題がついた。
 エルマも一刃と同じくひとり。題名は『微睡む蒼』。
 ハーフエルフの証たる耳を修正し、胸のあたりで色鮮やかな睡蓮を1輪抱いたエルマは水中を漂っていた。ゆるゆると沸き上がる泡。蜘蛛の切れ間から差し込む、通称『天使の架け橋』と渾名される光の現象を種意中にも取り入れ、美しく仕上げた。

 シーンとフローラの作品は、美しさとともに神聖さを売りに百を超える作品の中から三位に輝いた。エルマの作品は九位。一刃に関しては最近巷で沈没事件が起きていたことから、恐ろしくも美しい印象が仇となった。十七位に落ち着いてしまったが、作品として高い評価を得ただけに、本当に間が悪かったとしか思えない。

 喝采を浴びた四人の作品は、しばし芸術祭をにぎわせることになる。

「さー、街へ繰り出そうか。坂の街の異名をとるだけに、歩き慣れた者でも長距離に長時間歩くのは辛い街だからね。覚悟決めておきなよ」
「へーきや、うちはハードな冒険でなれとるからなー、なーフローラ」
「はい、あ、でも‥‥倒れそうだったら支えてくださいねシーン」
「同じく。修行で慣れている」
「私も普通の人よりは体力有るつもり、です、いえ、耐えて見せます。坂ぐらい。おいでグラーティア!」
 犬を呼ぶエルマ。四人と伯爵は、楽しそうに大通りへと繰り出していった。

●コミックリプレイ

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