Theチャーム−靴商人のプリンセス−
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:やよい雛徒
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月23日
リプレイ公開日:2005年10月28日
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●オープニング
その日、エレネシア子爵家には客人に加えて靴商人の娘が訪れていた。
娘の名前をイスタンシェ。
両親が異国で大商人をしており、彼女は一人クレリックを目指して、まずは学歴をとケンブリッジに在学していたのだが、何故か学校をやめて父の跡を継ぐ兄の手伝いにと事業拡大の為に海外での商売の手伝いをしている。売り物は靴だ。シフールとはいえど、注文があればどんな靴でも作ってみせる。
「ふむ、なかなか良い靴だ。感謝するぞ」
「いいえー、お気に召しまして嬉しい限りですっ」
にぱっと笑うイスタンシェ。注文していたのは当主のヴァルナルド。巷ではヴァーナさんの愛称で親しまれ『ほっほっほこっちゃこーい』の声とともに発見したナイスガイを過激にハンティングする事でも知られている。ぶっちゃけ変態爺の烙印を押されている人だが、真面目なときは真面目なもので「これなら妻も喜ぶじゃろう」と靴を眺めて満足げに笑っていた。
話のご婦人は、現在孫息子とその婚約者とともにブリストルの芸術祭へ旅行中。
ふと傍らにいた孫息子の幼なじみであり客人たる黒クレリックのレモンド・センブルグがヴァルナルドに耳打ちした。忘れていたとばかりに手を叩く爺さん。
「おおそうだ、実は孫娘に靴を贈ってやろうと思うていてな」
「あ、あの。一ヶ月ほど後でも平気でしょうか子爵様?」
「む? やはり予約が殺到しているかの」
「いいえ、そうじゃなくて。実は私、家族に彼氏を紹介したいと思っていて、一度本国に帰ろうかと思ってるんです。実はクレリックをやめたのもその人の為で」
「ほほう! 其れはめでたい」
似顔絵を描かせたのか。イスタンシェが二人に見せた小さな絵には思い人らしきシフールが描かれていた。
しかし‥‥いかつい。
シフールにあらざる厳つい顔だ。しかもなんだか見覚えがある。
「誰かを彷彿とさせますね」
嫌な予感を背中にしょったレモンドが呟く。
「実は初恋の人にそっくりなんです」
ぽっと両頬を染めるシフールのイスタンシェ。彼女の話によると故郷で出会った初恋の人はジャイアントで、初恋だったが異種族恋愛且つ自分はクレリックになるつもりで居たので、お互い話の末に恋は消えたらしい。
が、今度は元彼似の今彼に恋の花が咲いた模様。この日は何事も起きずに終えた‥‥かにみえた。
「なんか不吉な前触れの気が」
レモンドの予感に違わず、ここで余計なお節介を焼いた女性が居た。
イスタンシェの元彼疑惑があるジャイアントを召使い(自称執事)として城に仕えさせている伯爵である。ウィタエンジェというのだが、旧知のプシュケ(ヴァルナルドの孫娘)からお忍び時に話を聞きつけるやいなや、面白い遊び道具を見つけたとばかりに「僕って親切」などと言い放ち問題を起こした。
シフール便で城にお留守番している執事ジャイアントを呼び出したのである。
人はこういう人を『ちくり魔』と呼ぶ。したがって。
「いーすーたーんーしぇーえええええ」
――――元彼のジャイアント、ワトソン君襲来。
「お、お、お、落ち着いてください! プシュケさん、なんであの方に話したんですか!?」
「いや、まさかこんな事になるとは思ってなかったし。人の恋路って見てる分には面白いわねぇ」
非情である。
ワトソン君泣く泣く恋心を封印していたらしく、ショックついでに靴屋の娘のイスタンシェに詰め寄った‥‥のではなく、今彼シフールのクーデル君の所へ押し掛けた。ワトソン君曰く。
『イスタンシェのご両親に会う前に、ワタシと勝負デス! 男としての度胸を示すのデス!』
それをクーデル君も了承しちゃったから大騒ぎだ。
「普通はお嬢さんの父親が『娘が欲しけりゃ俺の屍を超えて行け』と言うと思うのですが」
「ほほほ、莫迦ね。そんなのつまらないじゃない。愛は障害が高いほど燃えるのよ」
歪んでいる。絶対、歪んでいる。
むしろ誰だ厄介事が大好きな連中を連れてきたのは。
「そう言えばワトソン君って素手で狼殴り倒すって聞いた事あるわねぇ」
素手で狼倒すジャイアントVSシフールの少年。
そんなもん、普通ぜってぇぇ勝てない。
勝負の仕方間違っているだろうとつっこまざるを得ない。
レモンドはくらくらする頭を抱えながら、靴商人のイスタンシェと彼女の思い人を不憫に思った。現在イスタンシェを取り囲んでいる者達は親身になっているように見えて、全く親身になっていないのである。女性は恋物語が好きだと言うが、純粋に楽しむならまだしもからかっているのでは話にならない。プシュケも爺も傍観決め込んでいる。
「まぁそういうわけでして」
「どんなわけですか」
レモンド君はギルドに来ていた。
元々お祭り騒ぎなエレネシア家の爺さんは、儂が相応しい舞台と相応しい勝負方法を準備してやろう! と豪語し、よくよくお世話になっている『その道のプロの村』へ開催地を決定。此処は元々暗殺者の集落だったが、村長の娘さんの手により、観光地として姿を変えている。此処最近は『秋の味覚と哀料理』で賑わっていた。
「まぁ早い話がですね。三人の決着をつける為のお手伝いをしていただきたいんですよ」
「手伝いねぇ、工作係みたいな感じか?」
「いいえ、全力でかまわないそうです。点数の操作や裏工作は一切ありません。内容は舞台上に選手二名をあげて『チャーム』を競っていただきます。今回は正しくお題が『チャーム』! 過去にダンディ、クール、ワイルド、ビューティ、フェミニンと色々部門がありましたが、今回は区切らず勝負も一度、それぞれの得点の合計で勝者を決めます。表向き賞品は『イスタンシェさんのキッス』なんですが、冒険者の皆様が勝たれた場合には何かしら賞品をお渡しします」
チャームコンテスト。
それは濃い伝説。本来美しい男達を選定するために開催されたものだったらしいのだが、何故か『主催者の企みと百八十度』道が変わってしまったコンテストであるらしい。本来肉体を磨き、美貌を磨き、技を磨き、男の美とチャームを最大限にアピールするはずのコンテストはチャームコンテストに相応しい出場者に交えて『ひと癖もふた癖もある出場者』を集めるようになってしまった。
もはやそこに男女の垣根はない。
納得できる勝敗をと言うので冒険者達参加者中に、ワトソンとクーデルの二人が混ざるらしい。
確かに直接対決したらワトソン君は素手で圧勝間違いなし。それは拙い。ということで今の形に落ち着いたようだ。
「そんなわけで宜しくお願いします。ああ、うちのお知り合いの女性達及び美少年を囲む会の皆さんが周りで応援するそうです」
以上だ。さあ、諸君。グッドラック!
●リプレイ本文
チャーム、かつてその言葉の真の魔力に魅せられて全てを捧げた勇者達がいた。
その魅惑のステージ上において、恥や常識など些細な存在。たった一度の華麗なる舞台は、ステージへ上がる者にとって人生の全てだったと言ってしまっても過言ではなかろう。美しく、華麗に、衝撃的な感動を観客に与えるのが彼らに許された永遠の使命!
チャームよ! 皆の心に永遠なれ! そう固く誓った者もいたかもしれない。
『では試合を開催しまっす! 司会は私、レモンド。第一回戦はこちら、人を攫うことに命を懸けた大泥棒ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)と、小さな恋の行く末を握るクーデル・アッサム!』
小さなシフールと大泥棒が現れた。傍らで出番を待つワトソン君に似た厳つい顔のシフールである。ごっつい顔に不似合いの小さな竪琴を手に華麗に歌う!
「ああ、キャラが被る! 俺のキャラがかぶるー!」
場外で出番待ちのヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)が同じくバードのクーデル君をみて身悶えていた。いや、彼自身は異種族間に生まれたハーフエルフだが、今回はクーデル君を応援するらしい。ひとしきり身をよじって何か呟いていると、やがてキッと顔を上げて自分の対戦相手、世界に知れ渡る英雄らしいのに何故か『葉っぱ男』の知名度が非常に高いレイジュ・カザミ(ea0448)を見えると。
「俺は勝ってみせる!」と言ってビシィッ! と指を差した。そんな彼らを眺めていた双海涼(ea0850)が懐から羊皮紙をとりだし「ふふっ、これは新たなネタですね。客受けもいいかもしれません」と笑っているのかいないのか、ブツブツ呟きながら何かを羊皮紙にしたためていく。あぁ! 若き純潔危うし!?
とまぁ試合前に炎萌え(?)たぎる傍らはさておき、クーデル君の演奏はまずまずだった。元々腕はいいらしく評価もさほど悪くはない。「あー、エルもがんばんなきゃぁ」と其れまでワトソン君と話していたエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)が呟く。ヲーク・シン(ea5984)については何やら自分のネタ仕込みで忙しい。
本日の対戦は何故か人口密度も濃い(多い)が、バードも多い。
クーデル君の後に、ジョーイは大理石のパイプをふかして小さく笑う!
「ふ、なっちゃいねぇな。‥‥真実のチャームってもんを、その身に刻んでやるぜ」
渋く呟くジョーイ! きゃージョーイ様ぁ〜、なんて黄色い声が聞こえてくるが、声の主は『美少年を囲む会』の美少年ズの皆様である。ジョーイは非乙女に軽く手を挙げた。
「帰りたいんだ。もう一度‥‥あの場所へ。そう心の中で叫ぶ何かを、無視する事が出来なくてひたすら歩いたら、いつの間にかココに来ちまってた。言わせてくれ、お帰りを!」
ぶぁっ! とパイプを握りしめた手が指さしたのは、知人の仲と言って差し支えない変態爺ヴァーナさんことヴァルナルドご一行。孫娘のプシュケが手を振っていた。
「さーて、この俺に盗まれてもらおうかな?」
いうやいなや、ジョーイはクーデル君の真後ろに回り込み、首根っこを抱えて会場を駆け抜けた! 毎回女性を攫ってきた彼は、何と男を攫う! あぁ禁断の愛の逃避行がまた一つ生まれるか!? と思いきや、ジョーイはイスタンシェ(賞品)の前で。
「ほら、着いたぜ‥‥あんたの舞台はあそこじゃない。ここ、さ。そうだろ?」
颯爽と立ち去りながら、会場への笑みは忘れない。ニクイ演出の泥棒に声が飛ぶ。
『おおお! 紳士が! 審査員の紳士の皆様が泣いております! いかがわしい(?)感動系でしめた泥棒の評価は上昇気流の如き勢いで上がっております! ‥‥あの、鼻水を審査用紙で拭かないでください。次なるチャレンジャーはネタ師と村の伝説的乙女!』
狂気的、の単語が抜けているのは司会者の自己防衛としてさっして頂きたい。
現れたのは褌に黒革の首飾りという野生児的存在感漂わせたヲークと、白装束に小面をした夢見る乙女(狂)。乙女はおなじみのダーツと藁人形に加え、その指にオーガパワーリングをはめていた! ‥‥物の価値が分かる人間には「何する気デスカ」と片言しゃべりを無言で強要させるに違いない威圧感を放っている。
「ヲー、俺はキャメロットのハードネタ師、ヲーク・シンだ、ヲーっ!」
雄叫びあげながら『エロスカリバー』を抜き放つヲーク! その呪われしピンクの刀身には、持ち主のささやかな常識すら消し、持ち主を裸にする効果があった! 最後の良心を瞬く間に脱ぎ捨て、発生した霧を払うように本能のまま腰を振る!
が、当然のこと待機していたチャームの良心、通称『黒い人』が其れを許すはずもなく。身動き不能にして退場。尚、その際、対戦相手の涼は滅多にみせない「‥‥くすっ」という微笑みでヲークが動かなくなったという。微笑みで敵の気合いも殺ぐとは恐るべき乙女。
「私が! 仕事している間! ‥‥と旅行だなんて! 許せない! この恨みはぁぁ!」
と『兄』の字を張り付けた藁人形を華麗にダーツで仕留めると、「正式実行時には人に見られないようにして下さいね。返ってしまうので」などとさらりと解説を行ってゆく。どうやらジャパンでの『危ない呪いの使い方』らしい。彼女の兄は何をしたのだろう。
『あーのー双海様、今のは正式な奴ではないんですか? こう、怨念はマジもんに見え‥』
「ああ、これはダーツですから。本来は五寸もある杭を使うんですよ」
司会もびびって様付けである。というか既に出だしに繰り広げられたチャームから、奇人変人ショーへと舞台は変わっている。このまま進めて大丈夫なのか。
第三回戦は、これ以上ない狂気マックスな乙女のネタになりかけた二人である。葉っぱ男は『何故か』服を着ていた。いや、普通人間という者は服を着ているのが当然なのだが、彼の場合は自然と『何故服を着ているのだろう』という観客の先入観が向かう!
「イギリスに葉っぱ男という名の自称英雄が生きていたという歴史を、今ここに刻み後世に残す! 観客の皆さん宜しく! 美しいジャグリングをお見せするよ!」
イギリスの自称英雄は『レイジュ』と名乗らず『葉っぱ男』と名乗りましたとさ。完。
ではなく、歴史に名を残すという志は悪くないが、せいぜいチャームで輝き後世まで刻まれるのは『村長日記』か『村年表』くらいなもんである。高い志の名を刻む場所を激しく間違っているが、当人は気づく様子がない。いや、むしろ出向いたのが此処で正解かも。
「俺はヴルー。吟遊詩人だ。高貴なる貴族と清廉なるエルフの血を引く、高貴かつ清廉なる者だ!」
これまた白馬の王子様よろしく。ヴルーロウが演奏しながら現れた! しかし彼はその確固たる異名にしたいらしい名の、名乗る場所を完全に間違えている。
何故なら、此処で名乗りを上げた者の八割以上が真面目な呼び名を得られた事がない!
こうして彼は『チャームな旋律のヴルー』と噂されるようになった。其れすなわち『魅了』ならぬ『異色』の意味合い持つ『チャーム』であるので、正直全く誇れない!
レイジュは複数の本物のナイフを天に掲げた。笑みとともに華麗に投げる!
手慣れた動きでナイフを操るレイジュ、その真面目さにほうっとご婦人達が見ほれた時! 彼はナイフを高々と頭上に投げた! 雨のように降り注ぐ剣! 悲鳴が交錯する仲で悠然と立った彼は、服を裂かれて、服という名のサナギの向こうから羽ばたいたのは最後の良心を隠す一枚の葉っぱ!
‥‥‥‥題は『葉っぱ男誕生』が相応しいだろうか。
先ほどのヲークにも似た、いやはっきり言って最後の良心は『葉っぱ一枚』という辺りに野生の限界か、天地創造を思い起こすが、何故もこんなに場の空気が違うのか。
「そういうことなら、俺にも考えがある」
おもむろに愛馬から降りたヴルーロウは、身に纏う蒼一色の装束を脱ぎ捨てた。
「見よ! 葉っぱ男、こっちもブルーフンドーシになるさ! オーラパワーっ!」
白馬の王子様的気品は何処へ消えたのだろう。吟遊詩人の証明たる楽器、手にしていたリュートすら投げ捨てたヴルーロウは、正しく魔法によって次々と手にした武器に威力を増し、行動力を増幅させた! 一体何をする気なのか。めらめらと燃えたぎる目で。
「ふっ、貴様には見切れまい」
なんと相手を倒そうと戦いを挑む! おお、これはまさしく男のチャーム!
かと思いきや『吐血』した。
「あ、赤は、だ、ダメだ」
がくっ、と倒れ伏す。燃え尽きたぜ‥‥そんな言葉が似合ってもしかたないのだが、ヴルーロウの戦いは此処であっさり潰えた。
第四回戦はエルシュナーヴである。愛らしいピンクのドレスを着ていた。今回はがんばっていくらしい。エルシュナーヴは賞品席のイスタンシェと、向かい合うワトソンを眺めて「ゴメン、ワトソンお兄ちゃん。未練はよくないよ、だから、せめて」小さな小声でブツブツと呟くと、竪琴を手に奏で始めた。
「詩を贈ろう‥‥旅立つ貴方に。
門出の祝い‥‥そして刻印。
身に刻む事を許されぬなら、せめて貴方の記憶の中へ。
私と言う者の在りし過去を、せめて忘れずいてくれたなら。
未来永劫交わらざるとも、私はそれで満たされる。
だから‥‥今この瞬間は‥‥」
切ない、切ない愛の歌に、感動の涙すら浮かべた者もいだだろうに。
その甘く切ない雰囲気を一掃する出来事が起きた。
「だから皆、エルのコト見てーーーーーー♪」
胸元の紐を引っ張って一気に服を脱いだ! 華やかな衣装が宙を舞う!
正気なのかエルシュナーヴ!?
勝負は素肌よ。そう言わんばかりの表情だったが、チャームの良心『黒い人』が瞬く間にエルシュナーヴを取り囲んだ。「あーん」なんて残念そうな声が聞こえたが、んな事を気にしている暇ではない。紳士の皆様が鼻を押さえている。会場の男性達が奥様に締め上げられている。対戦相手のワトソン君は、鼻血をふいて運ばれた。
『優勝はー、ジョーイ・ジョルディーノーっ!』
「ありがとう、みんなありがとう。俺は今日という日を。色んな意味で忘れない!」
優勝はジョーイだった。優勝したジョーイは、優勝賞品を身に纏っていた。
それすなわち『まるごとクマさん』であった。
らぶりぃな格好が哀愁に拍車をかけている。
そんなこんなで勝ちの座を冒険者がかっさらっていた影で、イスタンシェの恋には一区切りがついた。未練のあったワトソンも、負けは負けなので乗り越えたらしい。イスタンシェをお願いします、とクーデル君に話していたそうである。