【聖夜祭】天使達からの聖歌 

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2006年01月02日

●オープニング

「お! 今年も出たんだ」
 そんな声が聞こえる。

 冒険者ギルドの依頼掲示板ではなく、壁にこんなチラシが貼ってあるのを冒険者は見つけた。

【シフール飛脚&冒険者酒場合同 
 冬の特別企画 聖夜祭パーティ開催 聖なる夜をステキな仲間達と共に‥】
『常日頃、シフール飛脚をご愛顧いただきありがとうございます。
 感謝の気持ちを込めて冒険者の皆様に、シフール飛脚主催、冒険者酒場協力で聖夜祭パーティを行います。
 開会は12月24日 夜7:00より 冒険者酒場にて
 会費は0.2G
 飲み放題、食べ放題。お土産付きです。
 余興用の舞台も用意いたしますので、腕に覚えのある楽師、ダンサーの皆様はぜひ技をご披露ください。
 また、シフール飛脚からの余興としまして秋の感謝祭にて好評でしたプレゼント交換会を今回も行いたいと思っております。
 何か一つ、パーティ参加の際にプレゼントをご用意頂きます。
 ラッピングとメッセージボードを添えるのをお忘れなく。
(ラッピング用の布、メッセージ用木板などは何種類か用意いたしております。良ければご使用ください)
 皆さんがパーティ参加中にそのプレゼントをシャッフルいたしまして、後ほど皆さんに一つずつお渡しいたします。
 誰に、どのプレゼントが渡るかは解りません。完全ランダムです。
 自分にどんなプレゼントが届くか。
 自分のプレゼントを受取った誰かが、どんな顔をするか、それもまた楽しみとなることでしょう。

 聖なる夜を皆さんと共に楽しく過ごせればと考えております。
 皆さんのご参加をお待ちしております』

 今年一年間、いろいろなことがあった。
 辛いことも、悲しいことも。
 ならば最後に天使の祝福を‥‥。
 新しい年に希望と夢を込めて。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5147 クラム・イルト(24歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)/ シルフィリア・ユピオーク(eb3525

●リプレイ本文

「え〜っと、書き書き‥‥書き直し。準備に手間取っちゃった」
 小さな身体に大きなペンを持ったシフールの手によってポスターに修正が入る。
「なになに、パーティ開始時刻変更のお知らせ。12月25日? こら!」
 だが、とにもかくにも聖なる夜のパーティが始まる。
 酒場の真ん中に飾られた天井まで届きそうなツリーには、星やリボンが美しく飾り付けられている。
 厨房から聞こえてくるのは賑やかな声、香るのは暖かい湯気のと料理の匂い。
 蝋燭が灯り、道を歩く人達の吐き出す白い煙が闇に溶ける頃。
 参加者たちが、一人、また一人と集まってくる。
 天使たちの宴に‥‥。

 不思議なリズムの歌が聞こえてくる。楽しげなことはこの上ないのだが‥‥
「わーい、ルーシェと一緒にデートだ、嬉しいなったら楽しいなあー♪」
 明らかに舞い上がっている。放っておけばスキップしかねないほどに。スキップしないのは腕を組んでいる女性がいるからで‥‥
「もう、アシュレーさんったら。でも、一年以上お付き合いしてきて思えば一緒の依頼を受けるのは、初めてですよね」
 私も嬉しいです。ルーシェ・アトレリア(ea0749)はそう言って腕を組むパートナーアシュレー・ウォルサム(ea0244)を見上げて微笑んだ。
 完璧なメイクをした美男美女が仲良く歩くさまは見ているだけで熱々。周囲の雪が溶けるどころか火傷さえしそうだ。
「あ〜、お熱いな〜。あの二人なかいいから〜」
 後ろを歩きながらミリート・アーティア(ea6226)はちょっとだけ息を付いた。
「ねえ、リオンのおにーさん? あり?」
 会場について扉を開ける。‥‥少し前まで側を歩いていた筈の人物に声をかけた筈だが‥‥いない?
「可愛いお嬢さん。お一人かな?」
「はい。一人ですけど‥‥あの?」
 見れば準備に忙しそうなシフールに差し入れをしている少女がいる。
 リオン・ラーディナス(ea1458)は早速その少女に声をかけに行ったのだ。
「お名前は? ああ、俺はしがないサンタクロース。生憎今はプレゼントを詰め込んだ袋を持っていないけど、話題の引き出しならそれなりに。一緒に一笑いかがかな?」
「私はリト・フェリーユ(ea3441)と言います。貴方もパーティの参加者ですか?」
「そう、リトさんか。綺麗な名前だ。俺はリオン。そのローズブローチも良く似合って‥‥ぐはっ!」
 スパコーン!
「えいっ!」
 そんな爽快かつ鋭いツッコミ、もしくは音と同時にリオンは突然、頭を抱えた。背後には地面にのたうつリオンを冷たい目で見つめる少女の姿が。
「ミ・ミリート〜」
「ナンパばっかりしてない! それに〜女心がわかってないぞっと! ‥‥どーせ、自覚してますよ〜だ」
「い、いやっナンパじゃない、うん多分。なんて言うかホラ‥‥サンタだから‥‥」
「ミリートさん、ですか? ‥‥可愛いドレスですね。それに髪飾りもとってもステキです」
 リオンに止めをささんばかりのミリートだったがリトの素直な賛辞にふくれっ面の表情がパッと咲く。
「ホント? お世辞でもそー言ってもらえるとうれしーなあ」
「お世辞じゃないです。本当にステキですから。良かったらご一緒しませんか?」
「えっ? ホント? うん! 思いっきり楽しんじゃおっ♪ 美味しい物とかも出るのかな? 食事も楽しみだね♪ あっ、でも食べ過ぎると太っちゃうんで気をつけないと‥‥」
「ご馳走、出ますよ。多分。去年もステキなご馳走が出たんです。‥‥大丈夫ですか?」
「へえ、去年も来たんだ。うん、楽しみ楽しみ〜! あ、多分だいじょぶだから。行こう!」
「ま〜、待てよ〜。おいてくな〜」
 へなへなと、地面に突っ伏したまま手を上げるリオンの頭上を楽しそうに手を組んで歩く少女たちの影が通り過ぎていった。

「申し訳ありません。生き物はちょっと‥‥」
 そんなすまなそうな顔で係員が向かい合っていた騎士の背後で少女が薄く顔をしかめている。
「顔、ベタベタするですのぉ〜」
 そうぼやくエヴァーグリーン・シーウィンドは、それでも笑顔で二人の父を見上げた。
「綺麗にしてもらったな、お前は俺達の自慢の娘だよ」
 柔らかく微笑んだソード・エアシールド(eb3838)は右手を差し出す。反対からはイシュカ・エアシールド(eb3839)がそっとエスコートする。
 シルフィリア・ユピオークがメイクしてくれた愛娘を両方からエスコートして、彼らは幸せそうな笑顔で入場してきた。
 参加者の一人ではあるがその様子を見ていたケンイチ・ヤマモト(ea0760)は優しい似合いの聖歌をそっと彼らに贈る。
 一人、また一人と参加者が集まり賑やかになってくる酒場。楽しげなムードが広がっていく。
 だが参加者に気づかれない所で、小さなハプニングが動き出そうとしていた。
「‥‥さっき、受付にこんなものが‥‥」
 シンプルな木の板に刻まれた怪しい怪文書。
「こ・これは‥‥まさか、奴かぁ?」
 青ざめたシフール達をあざ笑うかのように、今度は会場で微かな声が上がる。
「キャアア!」
 悲鳴? 走り出した主催者達はそこで驚くものを目にする。
「な、なんだ? あれは?」
 元を正せばリトとミリートがプレゼント交換用のアイテムの中に入っていたにんぎょうらしきものに手を伸ばしたのが始まりだ。
 可愛らしい鯨のそれだった筈のものは、いきなりムクムクと動き出し、ごろんごろんと転がり出た。
 恋人や娘を背中に庇う冒険者の前で丸まっていたそれは手足を伸ばし‥‥人の姿になる。
「あれは!」
「着ぐるみエボリューション! ゲンちゃん参上! でござる!」
「や、やっぱり‥‥!」
 木の板が受付係の手からカタリと音を立てて落ちた。
 昨年のクリスマスにも出没した着ぐるみ忍者。
 噂ではキャメロットの都市伝説とさえなっているという彼は‥‥あの‥‥
【芽利ぃ区痢酢魔ぁ素! 今宵、聖夜に新たな刺激をプレゼント♪ ゲンちゃん より】
 本当に危険なものなら切って捨てようと日本刀を抜きかけていたクラム・イルト(ea5147)は息を吐き出して鞘に刀を戻す。
 奇奇怪怪ではあるが、あからさまな害は無いようだ。
 周囲の喧騒を他所に着ぐるみを脱ぎ捨て平服(?)に戻った葉霧幻蔵(ea5683)はニッコリと自分を見つめる瞳達に告げる。
「‥‥パーティの始まりでござる」

 突然の乱入に驚いて固まっていたシフールや準備係りもその声に瞬きして動き出す。
「お、おまたせいたしました。聖夜祭パーティを始めたいと思います! さあ、こちらへ」
 気を取り直した進行役が案内した先には華やかに飾り付けられたホールと、並べられたご馳走がある。
「わ〜、きっれ〜」
「ステキですね」
 少女たちの歓声がシフールたちの苦労を労う。
「お疲れ様。お邪魔するよ」
 集まってきた参加者たちはそれぞれにジョッキを手にする。エール、ミード、ミルクにジュース。
 全員の手に飲み物が渡ったのを確認して、進行役は声を上げた。
「今宵一時、ぜひ皆さんお楽しみ下さい。聖なる夜の幸せの星が皆さんの上に輝きますように‥‥。乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
 ジョッキのぶつかり合う音。鳴る喉。そして‥‥音楽的な笑い声。
 楽しさだけの存在するパーティが今、始まった。

 テーブルの上には様々な料理が並べられている。
「うわ〜、美味しそう♪」
「どれから食べましょうか? 迷っちゃいますね?」
 少女たちが切り分けたプティングとクリームにうっとりとした表情を見せる頃、
「ルーシェ。はい、あ〜んして! ほらほら、遠慮しないで‥‥」
「遠慮しているわけじゃありませんけど、なんだか恥ずかしくて‥‥、でも‥‥あーん。ん‥‥。美味しいです」
 恋人の膝の上で、甘菓子を口に入れてもらっているルーシェがいる。
 ほんのり蜂蜜の風味がするが、それよりも口の中が甘い。顔が思わず赤くなってしまう。
「アシュレーさん‥‥。じゃあ‥‥今度は私が食べさせてあげますね‥‥。はい、あ〜んして下さい」
「ありがとう。じゃあ、あ〜ん! ああ、幸せだなあ」
 この風景を見て 誰が彼をイギリス最強の一人と言われると言われるレンジャーだと思うだろうか? 
 今は完全に恋人にベタぼれの男でしか無い。
 魔法の杯を使って飲まなくても、彼の口の中で酒はきっとさぞかし甘いだろう。
 何せ、見ている自分の方が甘すぎて倒れそうなほどなのだから。
「チッ‥‥。カップルめ‥‥」
 舌を打つリオンの口調もどこか虚しい。お目当ての少女は何故か女の子同士で盛り上がっていた。
 女性は四人と一人。元々少ないのに女性同士で引っ付かれてはつまらないではないか。
 他にも女の子がいることにはいるが、彼女の側には目つき厳しい男性が寄り添っている。どう見ても保護者同伴。手を出すのは犯罪的かもしれない。
 ちなみに母親かと思った人物も男性だったらしい。少女が「パパ」「お父様」と呼んでいたっけ。
 近寄ったら騎士に睨まれたものだ。
 恋人同士の片割れルーシェは論外。
「ルーシェに手を出したりしたらアシュレーに何されることやら‥‥」
 考えるだけで滝の汗が出てくる。だから、考えない。
 会場の端で一人食事と酒に専念している女騎士は近寄りがたい。声をかけたら腹にめり込む肘鉄が返ってきた。
 かといってどっからどう見てもイロモノ属性の忍者とつるむのも‥‥
「こら〜! ツリーに上るのは止めて下さい〜。危ないですよ〜〜」
「良くぞ見破ったでござる。だが、拙者諦めないのでござる。では、またさらばじゃ!」
 面白そうではあるが、つまらない。それに彼は鳥の着ぐるみでツリーに上ろうとして今、怒られたところだ。脱兎のごとくという言葉があるがわざわざまるごとウサギさんに着替えていく当たり芸が細かいと言おうか‥‥。
 後は演奏を続ける優美なバードが一人。だが彼も男性だ。
「やっぱし、華がほしーよな。あの子んところ行こう。ミリート、機嫌直してくれっかなあ?」
 ため息をつきながらリオンは両手に皿を持った。右手には綺麗な砂糖漬け入りの甘菓子。左手には暖かいフリッター。
「お嬢さん達、暖かい料理こっちにもあるよ〜」
「うわっ! ありがと〜。なんだ結構気が利くじゃない〜い」
「ありがとうございます。リーフにもお土産もって行ってあげたいなあ」
 嬉しそうな声と笑顔が、リオンを出迎えてくれた。


「さて、皆さん、ちょっと宜しいでしょうか?」
 宴も盛り上がりを見せ始めた頃。シフールが一人、酒場の上、ツリーの側を高く、高く飛んだ。
 周囲の人々の人々を見下ろす形で声をかけるそのシフールの装束も赤い帽子と赤いポンチョだ。サンタクロースをイメージしたのだろうか?
 その彼は明るい笑顔で明るい声をかける。
「宴もたけなわですがいよいよお楽しみのプレゼント交換です。では、目を閉じて‥‥小さな天使がサンタクロースの使いとなって皆さんの下へ、プレゼントをお運びいたします」
 促された言葉に冒険者達は皆、一度皿を置き、両手を開けて目を閉じる。
 手元に触れる柔らかい感触、硬い手ごたえ。
 ただ、どれも一様に不思議なぬくもりを感じさせた。
「はい! では目を開けて下さい。そして、見てみて下さい。自分のプレゼントが誰の元に行ったのか。自分に届いたプレゼントは何か? 私達からの贈り物は皆さんの笑顔。皆さんの笑顔は私達へのプレゼントでもあります。では、どうぞ‥‥!」
 声に促され目を開ける。手の中にはそれぞれの思いに包まれた宝物がある。
 今、誰もがサンタクロースからのプレゼントを待っていた子供の心になってそっと包みに手をかけたのだった。

 少女たちは、華やかで賑やかな歓声と共に包みを抱きしめている。
 リオンはそれを柔らかく見つめていた。
「何が入っているのかしら?」
「たのしみだよね〜。なんだかワクワクしちゃう!」
 二人の持っているうちの一つが、自分の贈ったプレゼントなのが解っている。口には出さないがそれが数少ない女性参加者に渡ったことに少しホッとしていた。‥‥のだが。
「うわ〜、すっご〜〜い!」
 隣からリトの手元を覗き込んだミリートは声を上げた。どういうことだろうと好奇心を持ってリオンも同じ場所を見てみる。
「‥‥うわっ!」
 思わず出た声を口元で押さえる。リトに当たったプレゼントは暗い室内なのにビックリするほど眩しい光を放っていた。
「新緑の髪飾りに、アーモンド・ブローチ。こっちはローズリングとローズブローチだね。うわ〜真珠のかんざしまである。ご〜か〜!」
「あの‥‥こんなに沢山貰っていいんでしょうか? ひょっとしたら‥‥とっても高価なんじゃ‥‥」
 嬉しいよりも先に浮かべた笑顔は躊躇い。リトは宝石を見つめながら心配そうな目をしている。涙さえも浮かべそうな少女の様子を見つけたのだろうか?
「大丈夫だよ」
 背後から柔らかい笑い声がかかった。
「きっとさあ、自分より相応しい人に貰って欲しいと思って出したんだろうからさ。素直に喜んでもらえたほうが出した人も嬉しいと思うよ」
 それとも嬉しくなかった? 心配そうに聞いてきたレンジャーの青年の眼差しにリトはぶんぶんと首を振る。
「いいえ! いいえ‥‥これを使うのは 新しい一年が始まる時に。素敵なプレゼントを本当にありがとう‥‥」
 心からの感謝を込めた柔らかい新緑の瞳を受けて、彼は、アシュレーは照れたように頭をかいていた。
(「‥‥ちぇっ‥‥」)
 心の中で微かにリオンは舌を打つ。カッコいい所をアシュレーに取られた展開が正直悔しかった。
「じゃあ、あたしのは〜。あっ!」
 ミリートが笑顔と共に柔らかいスカーフで包まれたプレゼントを開けている。
 中に入っていたのは真珠のかんざしだ。本来なら決して悪い品では無いのだがアシュレーの後ではどうしても見劣りするような気がして贈り主であるリオンは顔を背けた。
「ふむふむ‥‥なるほどねぇ〜」
 背中から聞こえてくる声に顔を合わせない。どうも気恥ずかしい。そんな様子の彼に
「がお〜!」
 ミリートは背中から抱きついた。
「うわっ! ミリート! なんだよ!」
「どーして背中なんか向けてんの? ステキなプレゼントの贈り主がぁ!」
「あれ? バレてたのか? どうして?」
 疑問符を浮かべるリオンにそりゃあ解るよ。とミリートはメッセージプレートを閃かせる。
『可憐な婦女子の為ならば、サンタは海をも越えます』
「こんな冗談みたいなこと書くのリオンお兄さんだけだもん!」
「冗談か。ハハ‥‥そっか、そーだな。どうせ俺は思いから回りの〜フラレ〜で〜」
「こら!」
 すぱこん!
「ミリート?」
 藍染めのハリセンが落ち込みかけたリオンの頭上に飛ぶ。だが、今度はそれほど強くは無い。というかとても軽い。
「もっとしっかりする! どうしようもない自信と元気がお兄さんのとりえでしょ! ‥‥後からは邪魔しないでおいてあげるから」
 ニッコリと笑ってミリートはリオンに耳打ちした。最後にもう一つ、小さな声で囁いて。
「‥‥プレゼント、ア・リ・ガ・ト♪」
 頭を押さえながらもリオンは柔らかいサンタクロースの笑顔を浮かべた。プレゼントを喜んでもらえてよかったと言う‥‥。
「あ、俺のプレゼントはなんだったんだろ?」
 そっと布とリボンを外す。手のひらに収まるくらいの軽い、小さな包み。添えられていたボードは
「『貴方に幸せが訪れますように‥‥』?  銀のネックレスだ。誰からだろ?」
 ボードを何度もひっくり返すリオンにふんわりとした声が微笑む。
「あら、それは私のプレゼントですわ。リオンさんに当たったのですね?」
「えっ? ルーシェ!」
「なにぃ!」 
 さっきまでどこから見ても好青年を演じていたアシュレーの表情は、その一瞬、その刹那に変わった。
 オーガさえも驚き逃げ出すであろう鬼気迫るものに。
「ルーシェからのプレゼント〜。俺が欲しかったのに〜〜!」
 殺意さえ込めた声をアシュレーは隠そうとしない。それにさらに追い討ちをかける銀の歌姫。
「それ、私とお揃いなんですよ!」
「ルーシェ!」
 リオンの必死の静止より先にその言葉はアシュレーの耳に届いた。
「ルーシェと‥‥お揃い‥‥。リオンが‥‥ルーシェの‥‥プレゼント‥‥!」
 がくがく、ぶるぶる。
 下手したら梓弓に銀の矢を番えかねないアシュレーの視線からリオンは逃げられない。蛇に睨まれた蛙状態だ。
 一触即発。その空気を‥‥
「ねえ、アシュレーさん。私達のプレゼントも開けてみませんか?」
 ね? 甘えるような声が溶かした。
「うん! そうだね。ルーシェ!」
 コロッ! 蛇の視線は一瞬で天使に変わる。見ていた冒険者達の肩の力もスッと抜けた。
「私のは妖精のシャツだったんですよ。『貴殿の試練の旅の助けにならんことを‥‥』貴重な品物でしょうに嬉しいですわ‥‥」
「サンタの袋みたいにおっきいなあ。これ‥‥。よいしょっと。ああ、俺のはペンタグラムシールドだ。。『この品が貴方の助けになりますように』 う〜ん、弓を使うときはあんまり持てないけどそうでない時には役に立ちそうだ。結構ありがたいかな?」
 仲良さそうに腕を組みながらプレゼントを見せ合う二人に、やっと矢ならぬ矛先が逸れてリオンはため息を付く。
 だが‥‥
「粗末にしたらわかってるんだろうねえ。リ〜オ〜ン〜」
 最後にそう言って睨んで行ったアシュレーの眼差しは、当分夢に見そうだと知らないうちに震える肩を押さえることはできなかった。

 竪琴を置いたケンイチは自分に届けられた妙に重い品物に目をやる。
「‥‥酒?」
 遠い異国語で書かれた文字はでかでかと自己主張している。何だろうと思って開けてみると中には一本の瓶と大きなチェスボードが入っていた。
「『上質の酒を味わいながら、西洋将棋は如何? 酒ならアンリ農場。イギリスの新風の味は、ここにあり!』ほお〜。お酒ですか? ステキですね」
 早速瓶の蓋を開けてみる。漂う甘い貴腐ワインの香り。「シェリーキャンの涙」といわれる上等なワインをそっと喉に転がしてみた。
 微かで心地よい酩酊感がイギリスでのいろいろな思い出を思い出させてくれる。
「いろいろなことが‥‥ありましたね」
 今までの自分では想像もできないような戦いもいくつか体験した。
 だが、紛れも無く過ごしてきたこの時は輝かしいものだと思えるとケンイチは掲げた杯に思った。

 シュン!
 突然目の前で翻った日本刀の切っ先をクラムは表情も変えずに見つめた。
「何の真似だ?」
「いや? お礼を言おうと思ってでござるな。プレゼント。ありがたく頂いたでござる」
 刀を鞘に戻して幻蔵は忍者らしく鋭い眼差しを見せた。
 水玉模様の包装から自分が割り出されるとは思わなかったが。そんな表情のクラムに幻蔵は立てた一本指を横に振ってから腰に差した日本刀を指差す。
「‥‥なるほどな」
「拙者腹は切らぬが、これは懐かしき故郷の品。大事にするでごさるよ」
 包み布に書いた腹切の意味も解ったらしい。苦笑しながら賑やかな男から目線を逸らす。
「貴殿のプレゼントは何でござるか? おお! シルバーダガーでござるか。良いものを貰ったでござるな!」
 確かに自分の中では不用品で無いほうに入る。だが、送り主の心栄えを示すような蒼い包みも『曇り無き夜の光をアナタに』という思いも‥‥少し眩しい。
 賑やかな忍者から少し離れようと足を動かしかけたその時
「もし、宜しければ酒でも如何かな? 丁度イギリスの銘酒があるのでござるが‥‥」
 思いもかけない誘惑が聞こえてきた。思わず動きが止まり。足が戻る。
「これは、シードルと申してイギリスのリンゴ酒で甘い割になかなか強くてなあ〜」
「‥‥‥‥」
 思わずクラムは勧められるままに杯を差し出した。そこに遠慮なく幻蔵は酒を注ぐ。
 かくて思いもかけぬペアの酒盛りが始まった。

 聖夜祭というのはジーザス教の中でも白の影響が強い祭りだろう。だが、神の祈りとも関係なく人は贈り物をし合うものだ。
「プレゼントもこれとはな‥‥」
 贈られた聖書を撫でながらソードは微笑と苦笑を半々の笑顔を見せた。金の飾り文字の美しい綴り、上質な羊皮紙に皮。随分高価な品物だろう。
 贈り主はどうやら向こうで会釈するバードらしい。軽く手を振り礼を言いながらイシュカに肩を竦めて見せた。
「人から贈られるというのも悪いものではないな」
「あの子も何時かは、愛する人と一緒に聖夜祭を一緒に過ごす事になるんでしょうけどね。貴方は聖なる母の祭りに懐疑的だったのでは?」
 イシュカの言葉にソードは首を振る。
「‥‥人が幸福になるのは悪いとは思わんぜ。例えどんな口実であろうと聖夜祭は人の心にぬくもりを与えるからな‥‥」
「ええ、本当です」
 自分に贈られたプレゼントを見てイシュカは頷いた。リボンで飾られたリースは贈り主の心を表すようでとても美しい。
『受け取って下さった貴女の胸に 貴方の家の扉に 枯れない花が咲きますように』
 リースに付けられていたバラのブローチは養女のドレスの上で笑顔と共に咲いている。
「今までありがとう‥‥か。できるならもう暫く成長を見たかったんだがな」
 自分の手から離れていく娘に感じるのは多分、義父という立場であろうと変わるまい。遠くその笑顔を見つめながら思う。
 くすくすと笑いながら母のような笑顔でもう一人の父親は答える。
「冒険者やめたのは残念ですけど‥‥ソードもわかっているでしょう? あの子をいつまでも私達の事情に巻き込む事は出来ません」
「判ってる‥‥あいつまで死んだらあの二人に合わせる顔がない」
 いろいろな思いが胸を過ぎる。真顔で答えたソードの胸にも、それに頷いたイシュカの胸にも。
「聖なる母よ、大いなる父よ。どうか‥‥あの子の上にいつも光があらんことを‥‥」
 そう祈ったのはどちらだったか? きっと両方だったのかもしれない‥‥。


 プレゼント交換が終わった後は最初にも増した賑やかな宴会となった。
 ルーシェは清流のような声で詠う。静かで淑やかなその歌をアシュレーの竪琴が思いの全てを紡ぐように引き立てていた。
 今は
「二番ミリート! 歌います!」
 元気に手を上たミリートが声と音合わせをしている。
 その隙を狙ってアシュレーはそっとルーシェを外に連れ出した。
 冬の凛とした空気が細い肩を刺す。凍えないようにそっとふわふわの襟飾りを恋人の肩にかけてアシュレーは空を見上げた。
 星は残念ながら見えない。厚い雲が空を覆う。
 だが、その代わり白い雪が降り始めた。まるで天を見上げれば吸い込まれそうな不思議な空。
「‥‥綺麗ですね」
「うん、ホントだね‥‥でも、ルーシェの方がずっと綺麗だよ‥‥」
「アシュレーさんったら!」
 月並みな言葉になるが、本心からの思いで彼は愛する者の肩を抱きしめる。
 酒場の中からミリートの歌声が聞こえてくる。

『頬を撫でてく綿帽子
 優しく挨拶 手袋で

 逃げないように捕まえて
 そしてソラへと 返すんだ〜』

 この肩を逃げないように捕まえていたかった。逃げることなど無いと解っていても。
「来年もそのまた次もずうっとこうして二人で一緒に過ごせるといいね」
「‥‥ええ」
 細く白い肩は逃げずに、そっと愛する者の腕にもたれかかった。

『キミと 今だけしか会えないの
 だからちょっぴり独り占めしたい

 キミは 静かに舞い降りた 
 まるで小さな天使みたいだもん』

 自分だけの天使。誰にも渡したくは無い。
「まあ、来年の今頃にはルーシェはルーシェ・ウォルサムになってるかな」
 さりげなく思いを伝える。それを耳にした少女は真っ赤になって微笑むと。
「ええ」
 静かに頷き、答えた。
 聖夜の雪の下、天使の歌声が聞こえる中、アシュレーはそっと手を伸ばした。
 抱きしめるのは愛する者。そして‥‥
 重ねた唇は今日食べたどんな菓子よりも甘く、魔法の酒より甘く二人の心を溶かし、一つにしていった。


 ミリートの歌声が拍手と共に終る。ふと、リオンは酒場の隅でリズムを取るリトを見つけた。
「こんなところで、何をしてるんだい?」
 なるべく柔らかくとかけられた声にリトはあまり驚かず、笑顔を見せてくれる。
「オレのトークもプロの音楽には勝てないなー。良かったら、一緒に聴きに行かない?」  
「プロの方々の音楽には、叶いませんよね。でも、あんまり綺麗でステキな歌だったんで、ここで私もこっそり歌ってたんです」
「へえ、君も歌うの? なら、前に出なよ。俺、応援するからさ!」
 手を引き、リオンはリトを前に連れ出す。
「えっ‥‥、あの‥‥。‥‥はい」
 躊躇いの奥に隠れていた勇気がリオンに背中を押されて前に出てきたらしい。リトは勇気を出して前に出た。
 ミリートや冒険者達が拍手をし、ケンイチが軽くウインクをする。
 思えば去年も最後に歌わせてもらったっけ。
 小さく深呼吸して、リトは思いを歌にした。
(「今年一年私ができた事は、‥‥ほんのお節介程度の事だけれど、それでも何かが出来て沢山の笑顔を見てこられたのは本当に良かった。沢山の出会えた人にありがとうの思いを込めて」)
 
 ♪聖なる夜に舞い降る幸せ 
 溶けたりなんてしないから
 どうぞ その手でそっと包んで 

 誰の手にも 誰の元にも届く 
 ささやかな 白き幸せ
 何時か 世界を優しく包みますよう〜

(「全ての人に 優しい風が吹きますように‥‥」)
 祈りにも似た願いと共に終えた歌。
 小さく下げられた頭を拍手と歓声が迎えた。
「天使みたいな声だったよ、本当に‥‥」
「ありがとう‥‥ございます」
 一際優しい笑顔で迎えてくれたリオンにリトは、思いそのままの笑顔で答えた。
 ミリートは約束どおり、ツッコまない。
 ハリセンを置いて、甘菓子を食べながら窓の外を見つめる。
「あ! 雪。積もってきてる。綺麗だなあ〜」
 リトの歌とは違い、手に取ればきっと融けてしまう幻。それが幸せだ。
 大事にとっておこうと思えば思うほど、手から零れ落ちてしまう。
 人の人生も、行動も、思いも‥‥生きると言うことはそんなものなのかもしれない。
 でも‥‥
「雪は溶けても水は残る。きっと‥‥何かは残るんだよね」
 そう。きっと残る。
 この世のどこかに、誰かの心の中に‥‥。

 会場でまた賑やかに駆け回る幻蔵。
 壁に怪しい褌の絵をかけてシフールたちに追いかけられている。
 シードルを抱えつつそんな幻蔵を冴えた雪の瞳で見やるクラム。
 愛し子を見守る父親二人。甘い空気をまた展開する恋人たち。そして‥‥。
 大事な友達を見つめてミリートはもう一度ケンイチにウインクした。
 軽やかな調べが弾かれて‥‥ミリートは天使の歌声と思いを抱いて歌い始める。思いを込めて。

 聖なる夜に天使の歌声と、思いが広がっていく。
 願わくば、彼らに巡る夜が曇りないものであるように‥‥。

 贈り物を運んだ天使。受取った天使。
 そして‥‥この夜を生きる沢山の天使達に聖なる祝福を。
 少女の歌声に唱和するように白い天使からの音の無い聖歌が街に静かに響いて行った。


 例えどんなに時が流れようと、人が誰かの為に思う気持ち。
 変わらない願いを込めて‥‥。

 I wish you a merry Christmas and a happy new year!