【神の国探索】騎士達の戦い リーズ城防衛
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:11〜17lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 74 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月29日〜01月01日
リプレイ公開日:2006年01月09日
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●オープニング
「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。
城を見つめる黒い騎士。側に従い飛ぶシフール。
『どーしてまだ攻め込まないのですかぁ? 総攻撃であんな騎士やっちゃいましょうよ〜。なんなら姿を消せる奴を差し向けて‥‥』
『いや、あれほどの技を持つものをだまし討ちなどで倒すのは惜しい。また、敵を甘く見るのも命取りだ。倒す時は正面から、圧倒的な力で攻め落とす。そうしてこそ、人間を支配し、神の国を闇に落とす。我らの悲願も叶うのだ。お前もあ奴には恨みがあると聞いているがもう少し待て。良いな』
『‥‥解りましたぁ。兵を整えてきますぅ。‥‥‥‥まったく、頭が固ったいんだからぁ。姉様の仇、御方の命令でなければとっととやっちゃうのにぃ』
命がけで偵察の任についていた兵はそんな姿を見、そんな話を聞いたという。
冒険者ギルドに、銀鎧の槍騎士が現れる。
円卓の騎士パーシ・ヴァル。幾度目かの来訪にギルドの係員ももう驚いたりはしなかった。
「話は聞いているな? 聖杯城マビノギオンにデビルの軍勢が迫っていると言う。円卓の騎士にも出撃の檄が降りた。アーサー王は全力を持って軍を動かし、全力を持って城の死守と、聖杯の探索を行うと言う」
但し、円卓の騎士を総動員する分、王城の守護が手薄になる。イギリス騎士の多くは城に残される。
それにマビノギオンの周辺はすでにデビルの軍勢に溢れている。
まずはそこを突破しないことには城に近づくことさえできないのだ。
「無論、この探索に参加するのは我々だけではない。他の円卓の騎士も、そしてアーサー王御自らもやってくる。‥‥だから言っておく。俺と俺と戦う者の役割りは露払いだと」
マビノギオンの近くまでは王の出す高速馬車で接近し、その後街道を突っ切って、城の正門を目指す。
その正門を守る騎士を助け、城を攻め落とそうとする軍勢を蹴散らすのだ。
「俺だったら、聖杯を手に入れるための主戦力は正門からなど入れない。正門に主力を引き付け、本命の部隊を密かに裏から突入させる」
かつて、オクスフォード攻略の時にも使ったそれが戦いの基本でもある。
その場合主力をひきつけるために正門を落とすための囮部隊は囮以上の力を持つものでなくては務まらない。
現に偵察に行ったものの報告では、低級とはいえ数十を超える悪魔の軍勢が正門を落とそうとしていたという。下級悪魔に相応しくない統率の取れた動き。それを率いるのは
「黒き騎士アビゴール。側には怪しいシフールも従っていたという話だ」
迎え撃つは閃光の如き矢を放つ銀の弓騎士。
しかし、彼とその僅かな部下たちだけで、どれほど持ちこたえられるだろうか。
「聖杯騎士ゴットフリートには恩もある。それに聖杯がどんなものであれ、デビルの手に渡すわけにはいかない」
神の国への道を開くという聖杯。
それが、闇の手に落ちればかつてのオクスフォードの戦いのような、いやそれよりももっと悲惨な戦乱がまた始まることになるかもしれない。
‥‥イギリスは再び血に濡れるだろう。
だから、彼は城を守る。少なくとも中で戦う者達が余計な心配をしなくていいように。
城とそこにある命、そしてイギリスの未来を守る為に。
「あんたは聖杯を手に入れようとは思わないのか?」
聖杯を手にした者が真の騎士と言われる。そんな話があったのを係員は思い出して聞くが、返答は即答だった。
「ああ、思わない。王が立つのなら、俺はその意思を守る。俺が騎士たる理由と意味はもう見つけた。人の思いと命を踏みにじる者を倒す。こういう役割の方が俺には合っている」
言って、何かを思い出した口調で彼は肩をすくめた。
「いや、教えてもらった身、偉そうには言えないな。今度は‥‥あいつに教えてやりたいものだ」
柔らかい目線で何かを抱きしめるように彼は笑うが次の瞬間には射抜く目に変わる。
「命がけの戦いとなるだろう。だが俺は誰も死なせるつもりはない。城の者も、ゴットフリートも、そしてと主に戦う者達もだ。それが出来る奴を待っている。俺の命と背中、そして王とイギリスの命運を託すことになるからな。だから‥‥」
本気で来い。
そう言って彼は去っていった。
「厳しいようで優しいからな、あの人は‥‥」
係員は笑う。
そしていよいよ近づいた筈の聖杯への道に続きはしない、でも、その道を守る依頼を聖夜祭で賑わうキャメロットの冒険者ギルドに貼り出した。
城の正門の上から弓騎士は地上を見下ろす。
ここから一体何匹のデビルを射抜いただろうか?
だが、その数は減る様子は全く無い。いや増える一方だ。
いつか、手に負えなくなるのは解っている。
だが、彼の背後には守るべき主君と聖杯。
そして、彼の眼下には守るべき村と民がいる。
ならば、彼は覚悟を決め弓を握りなおす。
この命尽き、この弓が折れるまで戦うと。
守るべきは神の国ではない。
楽しげな笑顔。明るい笑い声。幸せな時、大切な人。
それを曇らせないために、守る為に‥‥彼らは戦う。
●リプレイ本文
冒険者達はその地に立つ。
もはや敵地となったその土地に。
「‥‥凄い。邪気が漂ってる感じ?」
知らないうちにティアイエル・エルトファーム(ea0324)は息を飲み込んでいた。
森の中から様子を伺う。ここまで漂ってくる人ならぬものの気配。
「確かに。50以上とは聞いていましたが‥‥それよりも増えているようすね。100を超えているかも?」
冷静にだが鋭い目で夜桜翠漣(ea1749)は街道を見つめる。
城の正門はここからでもはっきりと見える。距離もそれほど遠くは無い。
だが遠く見える。それは物理的な距離ではなく‥‥。
「まあ、ここまで来ちまった以上引き返すことはできねえんだよな。見送ってくれた奴らの為にも‥‥」
ルカ・レッドロウ(ea0127)は手と、肩に担いだソードを強く握りなおす。身体には出発前に組み手の相手をしてくれた燕紅狼の無言の思いが残っていた。
「‥‥そうですね‥‥。この国を、この地に暮らす人達の笑顔を‥‥守る為に‥‥」
『深雪ちゃ〜ん!』
目を閉じると浮かんでくる。藤宮深雪(ea2065)を抱きしめるように見送ってくれたヤングヴラド・ツェペシュや大切な者たちの笑顔が。
そんな仲間達を眩しそうに見つめる翠漣の背後から
「そろそろいくぞ。‥‥用意はいいか?」
状況を確認するように銀鎧の槍騎士が声をかけた。円卓の騎士パーシ・ヴァル。
彼と共にこれから自分たちはあの悪魔の海に突入して行くのだ。
「無論! 民人を守るは騎士の役目。一刻も早く正門に向かい、中で不安な思いをしている者や外で心配しているであろう民の力にならねば‥‥」
「こちらの用意はできています。合図を」
軍馬の手綱を強く引いてレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)とアレス・メルリード(ea0454)が声を上げた。
飛び込んでしまえば後はもう退く事が出来ない戦いが始まる。イギリスの命運が決まるかもしれない境界線だ。
「魔法で街道のデビルの側面に穴を開ける。そこを馬上からの突進で道を開き、一気に突破する。それでいいな?」
何度も相談して決めた方針だ。ティアイエルとロット・グレナム(ea0923)が頷く。
「私は後ろから魔法で援護します」
「俺も徒歩組を護衛しながら進む‥‥だから頼んだぞ」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)の言葉に頷き、パーシは馬上の二人を見た。
馬で敵を蹴散らす二人にも、後方で戦う者達にもそれぞれ危険はある。いや、ここから先安全な場所などないのだ。
「‥‥キット」
いざ出発。その直前にルカは肩に止まる鷹の頭を撫でている一番若い仲間、キット・ファゼータ(ea2307)に声をかけた。
「なんだ?」
陽気な旅団の団長が随分と真剣な口調をする。キットは目を見開いた。
「キット。もし俺が死んだら、旅団は頼む。お前になら‥‥任せられるからな」
大切な何かを託すような瞳。それにキットは‥‥
ごつん!
握り締められた拳で返答した。
「なにすんだ! キット! これから敵と戦いに行くってのに無駄なダメージ与えやがって!」
「お前が馬鹿なこと言うからだ! 死ぬなんてこと考えるな! 絶対に全員で生きて帰るんだからな!」
一欠けらの躊躇いもない瞳で、キットはルカを見つめる。その真っ直ぐな眼差しを受けて
「ふっ‥‥」
ルカは笑った。腕組みのまま自分達の様子を見つめているパーシに一瞬だけ目線を合わせて。
(「きっと、同じような目をしてるんだろうな」)
それは口に出さない思い。代りに口に出すものは思いっきりの軽口で。
「もちろんだ。俺だって死ぬ気は無いからな。で、もし生きて帰ってこれたら‥‥そん時ゃ、盛大な宴を開こうぜ。もちろん、旦那の奢りでな!」
「だからもし、なんて言うなって。でも、パーシの奢りで宴会ってのは賛成。思いっきり喰ってやる。円卓の騎士って金持ちなんだろう?」
「‥‥お手柔らかにな」
眉間を掻くパーシはそれでも、笑みを浮かべている。それは苦笑ではなく微笑に近い笑み‥‥。
「さて皆。そろそろよろしいか?」
今まで黙っていた黄安成(ea2253)がかけあう二人と、仲間達に声をかける。
二人の会話が張り詰めていた冒険者達の肩から程よく力を抜いたようだ。
「なあ、皆。敵が100匹いたって、1人頭10匹も倒せば十分なんだ。ほら、こう考えると結構何とかなりそうじゃないか?」
手に呪文の用意をしながらロットは笑いかける。
この数の敵。侮る者はいないが
「そうだな‥‥。俺たちなら出来る筈だ」
パーシ・ヴァルは頷き微笑する。自分と仲間を信じる。それができれば決して敗北など無い。
「行くぞ!」
彼らの眼前に風と光が弾ける。
唸り声を上げるデビル達。
開いた細い道筋を冒険者達は一気に駆け抜けていった。
彼は地上に目を下ろした。
ここから何匹のデビルを射落としたかは解らない。
だがデビルの数は減らない。いくら射落としでも減ることなく増えていく。
生まれ育ち、長い間聖杯を守り続けてきた城の門は頑丈でデビルの襲撃から良く門を守ってくれた。
部下たちも頑張って門を押さえてくれたと思う。
だが、それも限界。部下たちの殆どが倒れ、門も穴が開き始めている。
あと一度本気の襲撃が来れば終わりだ。歯を強く噛み締めてそれでも弓に矢を番える。
聖杯を守る聖杯騎士。その名を受けた以上ここから引くことなどできはしない。
「最期まで俺は‥‥ここで‥‥ん?」
今まで黒にしか見えなかった街道に白い線が見える。デビル達の背中を切り裂く光が‥‥。
『ゴットフリート卿‥‥』
聞こえない声が聞こえる。
「ゴットフリート様!」
部下が声を上げた。弦を強く引きながら彼は叫んだ。
「門を開けろ! 誰かが来る。入れるんだ。中へ」
「はい!」
動き出した門と同時、矢が地上に向けて放たれる。闇を切り裂く光に寄り添うように。
剣を振るっていた騎士が一団の最後尾を守っていた槍騎士と共に扉の隙間から身体を滑り込ませた。
「これで最後だ。門を閉じろ!」
飛び込んできた冒険者達の指示だったが、兵は素直に従って扉を閉めた。
荒い息を整えながら飛び込んできた冒険者は11人。
感心したような眼差しが中で持ちこたえていた兵達の目に浮かぶ。
希望の光と共に。
城壁の上から軽い動きで飛び降りた銀の弓兵は、入ってきた人物たちの前に立つ。
「お前たちは‥‥」
「お久しぶりです‥‥。ゴットフリート卿」
傷ついた馬を労わるように撫でながらアレスは笑いかけた。彼は冒険者達を見つめる。
見知った顔、知らない顔。そして奥に見つけた強い目の騎士の顔に彼は息を呑んだ。
「パーシ・ヴァル。と、いうことは‥‥」
ゴットフリートは青ざめた表情で城の奥を見つめる。城の奥には兄と姉が主君と聖杯を守っている。
デビルの襲撃があり、裏門や他の所から入り込んでいるものがいるかもしれないとは解っていた。
だが、今、ここに円卓の騎士がいるということはつまり‥‥。
「言いたいことは解る。だが、今、我々のすべきことも解っているだろう?」
冷静な指摘にゴットフリートの歯が鳴った。
聖杯は顕在し、誰かの手に渡る。自らの存在意義の終わりを知らせる鐘が鳴ったのだ。
「しっかりしてくれ!」
飛びかけた弓騎士の意識をキットの怒声が引き戻した。
「あんたにとって聖杯は命に代えても守るべきものだったのかもしれない。だけど今、それよりも守るべきものがあるだろう?」
彷徨っていた目と思考が現実を見る。
「この城が落ちたら城の人々や、村の明日は無い。だから『今日という今』ここで負けるわけにはいかない。そうでしょ?」
「迷うものに命と剣は預けられない。‥‥この戦いにはこの国の命運がかかっているのだ」
ティアイエルは輝く瞳で、レーヴェは強い眼差しでゴットフリートを睨んだ。それでもまだ微かに惑う弓騎士を冒険者のただ一言が完全に立たせた。
「‥‥‥‥」
「‥‥そうか。そうだな。今、本当に大切なことは‥‥」
軽やかに彼は立ち上がった。その目は冒険者達と背後に立つ槍騎士を見つめて。
「ここまで来た以上手伝ってもらうぞ。お前たちが入ってきた事で奴らも本気を出すだろうからな」
笑顔で言う彼に冒険者達は頷いた。言うまでも無いと言う様に。
「聖杯騎士ゴットフリートと円卓の騎士パーシ・ヴァル‥‥二人との、そして二人の共闘再びですか。大変ですね。でも‥‥」
ケンイチは呟いて思う。それが叶うなら負けることなどありはしない。かつての戦いのように。
本当の戦いは今、ここから始まるのだ。
『なんだと? 援軍が中に入った?』
『そのようです。それほど大人数、って訳ではないみたいですけど。どーしますぅ? 正々堂々正面から圧倒的多数で、なんて言ってるから〜』
『黙れ! ‥‥ならばもう手加減はいるまい。即刻軍を纏めよ。総攻撃だ!』
『解りました。‥‥単純馬鹿〜。でもこれはチャンスかも‥‥』
進軍が始まった。
知性低い獣のようなデビル達であるがその数は多い。圧倒的に。
「攻め込め! 門を破れ!」
背後からの檄に押されるように彼らは進んでくる。
空を飛ぶ者達もいる。彼らは今、一丸となって城を攻め滅ぼそうと動き始めたのだ。
その総攻撃にすでに破れかけた門扉など簡単に砕ける筈だった。
先行した者達がもう門に付いた。扉が開く。中になだれ込んで城を落とすのだ。と。
だが、彼らは知っていても、解ってはいなかった。
先ほど陣を突き破って城に入った冒険者達。彼らがどれほどの力を持っているかを。
「‥‥走れ雷よ!」
言葉が光となって呼び出された雷が地上を走る。
真っ直ぐなその光の斜線にいた者を焼き払いながら。そして
「ストーム!」
風がデビル達を吹き飛ばす。雷が開けた穴を広げるように。
「デビルなんかにこの城を落とさせやしないぜ!」
「我はフランクがザクセンの騎士、フェァリーレン家当主、レーヴェ・フェァリーレン。異国の者なれど、罪なき民人が蹂躙されるを善しとせず。我が誇りにかけてこれより先に通しはせん!」
魔法から逃れたデビル達を切り伏せる冒険者達。
それはある時は幼さの残る少年と、デビルスレイヤーを振るう騎士であったり、マントを被った槍使いと直刀を振るう戦士であったりした。
黒髪の女武道家に棒を振るう僧兵の隙間からダメージを与えたと思ったのに、背後に下がった直後、彼女は戻ってきた。
「この国を‥‥ここに住む人達の笑顔を守る、そう決めたんです。神の加護がありますように‥‥」
背後で祈りを捧げる少女が癒したのだろうと、思考の弱い悪魔でも解る。
逃げ出そうとする隙を見せたもの、空を飛んで潜入を試みようとしたものは門を守り続けていた聖杯騎士の矢に射落とされる。
門を守る冒険者の数は少ない。
だが門を破るのが容易いことでは無くなったと陣の奥、黒い騎士が気付くのもそう遠いことではなかった。
『人にもなかなかの戦士がいるものだな。だが、所詮は人よ‥‥』
彼は作戦変更を指示したりはしなかった。変わらずデビル達に突撃を命じる。波状攻撃が絶え間なく続く。
『我々の役目はこの門を、この城を落とすこと。力を引き付け聖杯に迫る方達が動きやすいように‥‥』
ここに強い力が集まっているのならそれで良い。その力を引き付け、疲労させ、倒すのみだ。
銀の光がアビゴールに向けて飛んだ。だが、それをまるで虫にさされた軽い傷のように気にも留めず、彼は自らの軍に向けて命令した。
『一刻も休ませるな! 続け。間断なく攻め入るのだ!』
槍を掲げたアビゴールの言葉はデビル達を逆らわせない。彼らは死に向けて突進してくる。
新たに出てきた騎士と、棒術を使う僧兵は背中合わせに立って襲撃に向かい合う。
「この門を通りたければ俺達を、そして仲間の盾となる俺を倒す事だな!」
「レーヴェ殿。いくぞ! ロット殿!」
「解ってる。射線から避けてくれよ!」
ゴウン!
雷が道を作る。その道を切り開くように守るように戦士たちは戦う。
本当に守るべき道を背中のさらに影に隠して。
「まだ‥‥気付いてないようですね。ならば、一刻も早く!」
翠漣の言葉に冒険者達は頷いた。さっきまで戦っていた戦闘の舞台。正門を今、彼らは外側から見つめている。
この地を知り尽くしたゴットフリートが示した何箇所かの裏出口。通用門。
そこから外に出て今、軍の背後に回りこむことに成功したのだ。
急ぎ足で出てきたがそれでも半刻の時間を要した。防衛の五人はまだ持ちこたえてくれている。
「一回きりのチャンスだな‥‥。急ごう。ティオさん。離れるなよ」
「ありがとう。ここからじゃあ、魔法はちょっと無理かな。やっぱり」
結びなおした髪を解いてティアイエルは敵を見つめた。正門からは200mは離れている。
「ケンイチさんの魔法が指した場所は‥‥あの辺でした。‥‥おそらく、あれですね」
アレスは指を指す。そこには周囲のデビル達の海の中、頭一つ違う高さに立つ馬上の騎士が城を真っ直ぐに見つめていた。
「やはりアビゴールか‥‥油断はできないな」
「パーシ。マント被ってろって言ったろ! あんたは目立つんだから!」
フードを落として周囲を見つめるパーシにキットは噛み付くように言った。だが、逆にパーシはローブを脱いでキットの頭に被せた。
「ここからは一気に行く。お前たちも言うとおり、一回きりのチャンスだからな」
仕方ない、というように肩をすくめ、キットも剣を握りなおした。
「孤立しないように、無茶はしないように。最悪の場合は、戻ることも考えて下さいね」
頷きながらもその瞳は戦いに向けて燃えている。
「第一の狙いはアビゴールだ。この機会を逃せないぞ!」
「解ってる。今まで経験してきた全てをぶつけてやるさ!」
パーシの手に持った槍がその答えと、同じ輝きを持つ冒険者達の瞳に嬉しそうに揺れる。
「行くぞ!」
大地を蹴った雷に寄り添う風達が共に肩を並べる仲間として疾駆した。
刃のぶつかり合う音がまるで音楽のように響き渡っていた。
雷の槍騎士対、闇の槍騎士。
その戦いは果てることなく続いている。
「指揮官を狙う。ティオちゃん。できるか?」
「やってみます。ライトニング‥‥サンダーボルト!」
一直線に放たれた雷と同時に冒険者達は突撃した。
穿たれた穴は踏み込んでいくアレスと翠漣によって道となる。
その道をキットとパーシは一気に駆け抜けていった。
指揮官を守ろうとデビル達の狙いは正門から襲撃部隊に、こちらに移っている。
次から次へ押し寄せてくる敵をオーラを纏った翠漣の拳と爪が打ち抜いていく。
「貴方達は貴方達の生を真っ当するために行動する。わたしはそれを否定しない。そして、わたしは国や人の為じゃない、わたしの我侭の為に貴方達を倒します」
デビル達の心にその言葉が届くかどうかは解らない。いや、届かないだろうと解っていたが翠漣はそれをあえて口にして拳を握り締めた。
「翠漣さん‥‥俺は‥‥」
アルマスを振るい、翠漣の背に自分の背をあわせアレスは呟いた。
「俺はただ強くなりたいと願っていた。守りたい者を守れる力が欲しいと。‥‥でも力は全てを解決してはくれない。力不足や、何かを傷つけることでしか守れない力を恨んだこともある。だけどそれでも、今はこの力に感謝してる。こうやって守れることを‥‥心からやりたいと願えることをすることが出来る、この力に」
「皆さん、強いですね‥‥。私は‥‥」
「お二人さん! 来るぜ! 早く進まないと!」
決戦の中でもこそ、見つかる何かはある。翠漣は走り抜けるパーシの背中と、仲間にそれを見つけた気がした。
「今の私の役目は仲間の戦う為の隙を作る事。その事に最善を尽くしましょう」
「何があっても挫けない、諦めない。勝機は必ずこちらにある。そう信じてるの。ストーム行きます!」
その名のとおり前を見つめて足を踏み出すティアイエルは全力最高のストームを眼前に向けて放った。
開かれる隙を冒険者達は切り開いていく。
「明日を‥‥信じて」
駆け抜けた雷と風を迎え撃ったのは漆黒の騎士の突進だった。
間一髪。正しくそのタイミングで二人は突進を転がるように交わした。
「大丈夫か? キット!」
「とりあえず。あいつが指揮官。アビゴールか‥‥」
仲間が作ってくれた隙を駆け抜けた二人は闇から抜け出たようなその騎士に息を呑んだ。
『お前たちはあの時突入して行った冒険者。なるほど、正門と城を囮にして私を討ちに来たか。その作戦‥‥見事と褒めてやろう』
馬上から彼は騎士の礼と余裕を抱いて笑う。
『だが、それもここまでだ。作戦の要は私を討つ事だろう。だが、汝らに私は討てぬ。ここで終わりだ!』
再び構えられる槍、一撃必殺、その突進の勢いは
「人間を舐めるな!」
「カムシン!」
『なんだと!! くっ!』
三方向からの攻撃に完全に殺された。
とっさに身をかわしたキットは避けざまにダーツをヘルホースに向けて打ち込んだ。同時に鷹が空から主を狙う馬に向けて目を狙った攻撃を。
そして、突進を交わさずに受け止めたパーシの槍が勢いを利用してカウンターをかける。全ての攻撃を受けたのはヘルホースだ。
がくんと折れた膝。イギリス最高の騎士の一人が全力で薙いだ槍の一閃は、突撃をかけた黒馬の足を完全に折っていた。
普通の馬であれば騎手を振り落とすところだろうが、黒馬は完全な忠誠心で、自らよりも主を優先した。また馬上の騎士も卓越なる技でダメージ無く地面に降り立つ。
『貴様ら、いや貴様‥‥何物だ‥‥』
アビゴールはキットを軽く一瞥して、その後の視線は全てパーシに注いだ。愛馬の恨みだけではない何かがその眼差しに浮かんでいる。
「‥‥円卓の騎士、パーシ・ヴァル。我が王の名においてその命、貰い受ける」
円卓の騎士の名乗りにアビゴールはさっきの不愉快な呼び声を思い出す。
「こちらには聖杯騎士と円卓の騎士、それに各地で活躍している熟達の冒険者達が揃っているんです。前に出る事も出来ない根性なしの指揮官では、太刀打ちなんてできっこないですよ〜」
『ふん、さっき門で喚いていた女の言っていたのはお前か』
「パーシ!」
止めようと駆け寄りかけたキットをパーシの無言の背中が止める。そして
「キット」
一度だけ呼ばれた名。振り向かれた眼差し。それでキットは全てを理解した。
「‥‥解った。とっとと倒せよ。そんな奴!」
「ああ。頼んだぞ」
言葉と同時、槍を握り締め、パーシは疾走した。
『お前も槍使いか。‥‥面白い。有限の命の人の子の技がどれほどのものか、見せてみるがいい!』
迎え撃つ漆黒の騎士の手に握られているのも槍。槍対槍。神速の戦いの戦端が開かれた。
やってきた冒険者達が木陰に身を隠す。
彼らがそこに辿り着いた時見たのは闇に勝利する光。膝を付いたアビゴールの喉元に槍を向けるパーシ。その瞬間だった。
一番側で彼の背中を守りながら見ていたキットでさえ、一瞬見惚れる槍技の応酬は僅かにパーシの勝ちに終った。
薙ぎ、払い。その応酬は互角。だが、勝負を決める打突のスピードは王国に右に出るもの無しと言われたパーシの素早さにアビゴールのそれは勝るものでは無かった。
先ほど息を整えたアビゴールの肩をパーシの槍が射抜いた。その前の腹部のダメージもまだ治ってはいまい。
騎士対騎士の一騎打ち。その勝敗はここについたかに見えた。
「闇の騎士よ。汝に騎士の誇りがあるのなら、敗北を認め軍を引け。お前たちの負けだ」
『確かに光の騎士よ。私の負けではある。だが‥‥我々はまだ負けてはいない。いや、私もまだ負けてはいない!』
槍が喉元に向けられているというのに、アビゴールは立ち上がり、その拳を一直線にパーシの腹にめり込ませた。
パーシが唸り声を上げる。
それは腹に受けた衝撃が理由ではない。動けば止めを刺すはずの槍の一撃。確かに放ったはずのそれがまるで空気のようにアビゴールの身体をすり抜けた事への疑問への唸りだった。
『騎士としての誇りがあるうちは使うつもりは無かった。だが‥‥誇りが敗北で打ち消されたのであれば後は悪魔として役割を果たすのみ』
「エボリューション‥‥か」
倒れたパーシの首元を掴み、立ち上がらせアビゴールは自嘲するように笑った。
『そうだ。技と技。騎士の一騎打ちには邪法ともいえる魔法。だが‥‥今の私に、騎士の誇りは無い。封印してきたこの魔法を解いた以上、勝利は我らに‥‥ぐはっ‥‥!』
「悪いな。俺に、いや俺達にとっても誇りより勝利の方が大事なんだ。‥‥すまないな。皆‥‥」
前半は、崩れ落ちるように倒れたアビゴールに、後半はその後ろに現れた冒険者達へ向けられた言葉。
「まったく、いつもながら無茶してくれるぜ。パーシの旦那はよ」
苦笑しながらルカは背後から差したブレーメンソードをアビゴールの背から抜いた。
「騎士としてあるまじき行為かもしれませんが‥‥お許しを」
歴戦の冒険者達が対デビル用に用意した武器達。パーシを救おうと前から後ろから振るわれたそれは、すでにパーシとの戦いにおいて半ば消えかけていた騎士の命を奪い取るに十分だった。
「エボリューションは、同じ武器、同じ攻撃が効かなくなる魔法。でも、俺たちは一人ではない。人の強さは合わせる力。そこにこそあるのだ」
『1対多数。卑怯者‥‥と言いたい所だが、卑怯は我ら悪魔の常套手段。誇り無き戦いを先にしたのは私の方。文句は言えぬな‥‥』
悪態が思わず口に付いたという顔で、だが騎士は微笑した。
「悪いな。この戦い。どうしても負けるわけにはいかなかったんだ‥‥」
キットは半分の敬意と、半分の哀れみを込めてアビゴールを見る。立場はどうあれ、彼もまた自らの属する者、信じるものの為に戦う騎士だったのだから。
『なるほど‥‥な。負けを認めよう‥‥。敗北は素直に悔しいが‥‥よき戦いができた。後はまた地獄で戦うとしよう』
悪魔とは思えないほどの潔さで、デビルは目を閉じた。その愛馬は先に逝って彼を待っていることだろう。
「安らかに‥‥なんて言葉を彼は望んではいないんだろうけど」
一度だけ目を閉じてティアイエルは祈った。一瞬だけ。
「さて、こっちは終ったが、まだ向こうに結構敵さんは残ってる。一刻も早く助けに戻るぜ」
ルカの言葉に目を開けて頷く。
「指揮官は倒しました。後は殲滅戦でしょうか‥‥あれ?」
何かが胸の奥に引っかかる。アビゴールは倒しただが、これで終わりだろうか。
「とにかく、怪我をしている者は治癒を。態勢が整い次第、城に戻るぞ!」
「あんたもだ。パーシ。絶対その薬飲め!」
無理やり差し出された薬瓶を、微かな笑顔で受けとって飲み干すと彼らは走り出した。
仲間の元へと全力で。
脳が溶ける様な誘惑をレーヴェは懸命に振り払っていた。
「どうしたのじゃ? レーヴェ殿!」
襲い来るデビルを安成と打ち砕くこと一刻。疲労の隙を付かれたのだということは解っている。
自分の側に来るまで気付かなかった小さなシフールが、彼の前でニッコリと天使のような笑みで微笑んでいたのだ。
「誰だ!」
『フフフ‥‥強い戦士は好きだよ。さあ、私を手伝って頂戴?』
心に囁く甘い誘惑。仲間を打ち砕いてでも従いたいと言う‥‥思い。だが‥‥
(「色香に惑わされるなんて最低っ!」)
それ以上に頭を沸騰させる思い。言葉。レーヴェは全身で誘惑を振りほどいた。
「色香になど、惑わされない! 皆! 気をつけろ。変な羽虫がいる!」
「周辺に悪魔が? レーヴェ殿に魔法をかけるほど接近していると言うのか!」
小さな釘を握り締め、何かに祈る安成の言葉を受けて
「‥‥ああ! アレか!」
「‥‥あれですか」
ロットとケンイチ、二つの魔法は示し合わせるように同時に紡がれた。先に表されたのはケンイチの月の矢。
「月の矢よ。魅了の魔法使いし小さき悪魔を討て!」
「轟け! 雷の矢よ!」
『うわああ!! ‥‥良くも! こうなったら姉さまの敵、あの聖杯騎士だけは‥‥!』
姿を隠し、冒険者達の命を刈り取ろうとした小さな悪魔は二つの魔法を受けて、悲鳴と共に姿を現した。
全身全霊の炎の魔法で自らの身体を鳥に変え飛びこんでいく。正門は結界が貼られてしまった。
ならば目指すは正門の上、怨み重なる聖杯騎士。
『聖杯騎士。覚悟!!』
聖杯騎士。その言葉を噛み締めながらゴットフリートは弦を引いた。
生まれた時からの使命。ただ、それで有る為だけに生きてきた日々。だが‥‥冒険者は言った。
『聖杯なんてどうでもいいんだ。ただ、デビルが暴れ回ってるような世界だと精霊との共存どころじゃないからな』
(「聖杯なんて‥‥そう思える者達が出てきた。囚われてきた時の流れを、今こそ捨て去る時なのかも‥‥しれないな」)
響く弓鳴り音、劈く断末魔の叫び。そして‥‥崩れ、逃げていくデビル達。
今までの統率は完全に消失していた。そうなれば、下級デビルなど手こずることはあっても負ける事はありえない。
「皆! 大丈夫か?」
闇にしか見えなかった街道の向こうから、仲間達という光が今。冒険者達の瞳に見え始めていた。
「終ったな」
聖杯城を取り巻いていた空気が変わった事を感じてゴットフリートは深く息を吐き出した。
「まったく‥‥後にも先にも、こんなドンパチ‥‥一度きりだぜ‥‥ったく‥‥」
剣を地面に差し身体を預けるように荒く呼吸するルカに、深雪はそっと静かに治癒の魔法をかけた。
「薬も、魔法の実も大分使ってしまいましたね」
「まあ、それは後でなんとかしよう。ご苦労だったな。感謝する」
パーシは苦笑交じりの笑みで言うと城の奥を見つめた。
襲撃部隊も、防衛部隊も怪我をしていない者は誰もいない。
それでも彼らはこの門と、城を守りぬいたのだ。
「今頃、王はきっと聖杯を手にされているだろう。この戦い、我々の勝ちだ」
「‥‥信じておられるのですね。アーサー王を‥‥」
翠漣の問いに言うまでも無いと、疑いの欠片も無い表情でパーシは頷いた。
「王がデビルに敗れることなど有り得ない」
(「この感情‥‥羨ましいのでしょうか? 何の躊躇いも無く、他者を信頼し、その為に命を賭けることができるパーシ卿が。‥‥いいえ、他の皆に対してもかもしれない」)
「これから‥‥どうするんです?」
アレスはふと、ゴットフリートを見た。聖杯がこの世に顕在し、新たなる主の手に渡った。
自らを忠誠と言う糸で縛っていた運命はここに消失する。
「さてな‥‥。姉上やブランシュフルール様と相談してからの事になるが、そもそも聖杯騎士以外の生き方を知らぬ。どうしたものか‥‥」
「ならば、旅に出るといい」
「えっ?」
かけられた言葉に聖杯騎士は目を瞬かせる。冒険者も同じ眼差しでそれを言った元冒険者を見つめた。
「自分が何をしたいか解らなければ、旅に出るといい。‥‥甘えることのできない世界、見知らぬ世界を見つめる時何かが変わるだろう。その中で見つけるといい。悩み、苦しみ、足掻き‥‥自分自身の生き方。そして‥‥与えられたものではない大切な何かを‥‥」
それは、自分だけにかけられた言葉ではないと解っている。
だが、確かに先達の言葉は胸に響いた。
「そうだな」
アヴァロン。開かれし神の国。
その栄光は今を生きる者にとって不可欠のものではない。
だが、死さえも覚悟した自分は生きている。そして、聖杯を守る以外の道も出来た。ならば‥‥。
「いっそ神の国とやらをこの目で見てみるのもいいか‥‥。未来というやつを‥‥お前たちのように‥‥」
冒険者と言う前を見つめる者達と出会って胸に抱いたこの熱い思いを抱いて。
ゴットフリートは、改めて弓を置き、胸に手を当て冒険者達に向けて膝を折った。
「‥‥聖杯騎士が一人、ゴットフリートの名において冒険者の助力に心からの感謝を。聖なる光が汝らの上にあり続けるように‥‥」
城内から声が上がる。それは生きる人間の歓声と呼ばれるもの。
物語の、戦いの主役では無かった者達はそれでも、自らの為した事の意味をその声に感じていた。
誰かの笑顔、誰かの笑い声、誰かの未来を守ることができたと。
アーサー王が聖杯を手にし、神の国を探す長き探索はここに終結した。
リーズ城、聖杯の間に月色の光の道が開く。
誰も知らない未来の待つ神の国への道。
その先にある未来はまだ、誰も知らないけれど。