迷子のこねこちゃん
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月07日〜08月12日
リプレイ公開日:2004年08月10日
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●オープニング
「あの‥ こちらが冒険者ギルドでしょうか?」
そんな言葉と共にお辞儀をしながら入ってきたのは優しげな表情をした女性だった。旅人風ではあるが、品のいい服装。歳は‥20代半ばから30代前に見える。
彼女は明らかにこのような場には慣れていない様子で、戸惑いながら辺りを見回す。見知った人を探す風では無かった。
と、言うことは‥
「何か、依頼なのですか?」
若い冒険者の一人が立ち上がり優しげに話しかける。暖かい笑顔に少し警戒を解いたのだろうか? 彼女は小さな声ではい。と頷いた。
「あの、私は旅のものなのですが、このキャメロットに立ち寄った今日の朝、一緒にやって来た息子と‥はぐれてしまったのです」
依頼はその息子を探してほしい。ということだと冒険者はすぐに理解した。
「多分、あの子。この街に惹かれてわざとはぐれたのですわ。遊びたくて‥」
お金はほとんど持っていない、持たせていないらしい。 探し回ったが土地勘の無い彼女にはこの街では自分の方が迷子になってしまいそうだとここにやってきたのだ。
もうすぐ昼。早く探さないと夜になってしまう。
子供を一人捜すくらいなら。軽い気持ちで依頼を受けようとした彼らに
「ま、待ってください!」
彼女は言葉を続ける。まだ依頼の続きがあるのだろうか? 冒険者達の動きはひとまず止まった。
想像通り、彼女は続ける。まだ探して欲しいものがある、と。
「それから‥猫も探してほしいんです」
「ネコ〜?」
「はい、息子と一緒に猫も‥探してください。はぐれてしまったんです。‥猫とも」
少年は5歳くらいの茶色い髪、金がかかった茶色の瞳の子で、猫はまだ両手のひらを合わせれば乗るくらいの茶色の毛並みの子猫だという。
「何か、目印は無いのか?」
冒険者の問いに彼女は自分の首元を探り首飾りを取り出した。その銀の鎖には鳥の羽をあしらったトップが着けられている。
「これと同じものを、着けています。‥息子も、猫も」
特徴的な飾り。かなり有力な目印になるだろう。と冒険者達は見つめた。
「息子か、猫。どちらか見つけたら、捕まえて‥連れて来ていただけませんか?」
? 何人かに疑問符が浮かんだ。当然‥聞かなくてはならない。
「どちらか? 本当にそれでいいのか?」
と。彼女は慌てて手と、首を同時に横に振った。
「あっ‥いえ、両方見つかったら、両方‥。お願いします」
両方見つかったら? 何か釈然としないものを感じながらも冒険者達は立ち上がった。
迷子のこねこちゃんを‥見つけ出す為に。
●リプレイ本文
彼女は普通の人間に見える。だが依頼は奇妙だとヴァージニア・レヴィン(ea2765)は思った。
(「子供か猫を捜すの? 変な依頼人ねえ」)
秘めた疑問を彼女は口に出さず微笑む。隣に立つアクア・サフィアート(ea0355)は人間、自分はエルフ。何も問題は無い。自分の思うとおりであっても‥
「その子の名前、教えてください。それからどの辺ではぐれたのかも」
「そうだな、名前を知らなければ見つけても呼びかけられない。あと好きなものと嫌いなもの、食べ物とか、趣味だな」
流石ティアイエル・エルトファーム(ea0324)と フェシス・ラズィエリ(ea0702)は依頼に慣れている。情報収集に隙がない。
「あ‥申しわけありません。息子の名前はレオンです」
おどおど、怯えたように彼女は言う。ティアイエルは優しく微笑み、ついでに自分はティオと呼んで、と仲間に語った。皆も頷く。
魚や肉が好物、音楽やダンスも好き。特徴その他をフェシスは記憶していく。
「買い物をしているうちに姿が見えなくなって‥。いつもは小さな村で暮らしていますから、きっと大きな建物や町並みが珍しくて‥」
涙ぐむ母親にフェシスはポンと肩を叩く。
「大丈夫。安心してここで待っていてくれ」
「よろしくお願いします」
さて、その頃ギルドの係員は‥詰め寄られていた。
「だから! 連絡用の笛を貸してくれ。別の依頼で借りれたのに今回は借りれないなんてズルイじゃないか。そういうのは職務怠慢だと思うぞ」
詰め寄るのはキット・ファゼータ(ea2307)彼は酒場の仲間や報告書で前例を知っている。と譲らない。
「本来ギルドにはそんなサービスは無い! 今回は備品が余ってるから貸してやるが‥でも! いつも借りれるなんて思うなよ。貸し出し中の時もあるからな」
「解った。無理を言ってすまない」
なんとか希望を叶えたキットは笛を仲間達に渡す。
「じゃあ、後は決めたとおり分担して捜そうぜ!」
「了解!」
「よろしくね。キット」
肩にシフールのミル・ファウ(ea0974)を乗せ、歩き出すキット。他の仲間達も後に続く。
母親は、その後姿を見送るように見つめていた。
‥ジュウ〜ジュウ〜
魚の油の焦げる匂い。鼻腔をくすぐる香りは忘れていた感覚を思い出させた。
「こういう事してるとお腹がすいて来るねえ。あ‥黄! まだ食べちゃダメだよ。おびき出し作戦なんだからね」
焼けた魚の一匹に手を伸ばしかけた黄安成(ea2253)の手を魚を反していた朴培音(ea5304)がパチリと叩く。
「解っておる。まあ、わしらでさえ腹がすいておるのじゃ。子供ならなおのこと‥な」
「そうだね。お金が無い以上屋台とかには‥おや?」
匂いに誘われ子供達が集まっている。ざっと見る限りそれらしい子はいない。おびき出しがまだ不発な以上、もう少し様子を見たいが‥子供好きの朴はお腹を空かせた子を放っておけなかった。
「食べる? どうぞ」
「いいの? ありがとう」
孤児が実は少なくないキャメロット。空腹の子供達は一気に朴の焼き魚に突進する。一人、二人どころではない数‥
「ちょ、ちょっとお待ちよ。火傷するよ。あ‥猫まで! 黄!」
「解っ‥っとこら! 魚はある、だから‥待てって!」
‥数えておそらく半刻も経ってはいまい。朴の魚の籠は空になり、鉄板は魚の骨と油だけとなった。
だが‥肝心要の子供は見つからない。
「ねえ、それらしいの‥いた?」
「‥いたかもしれぬが‥解らぬ」
ガックリ。
‥肩を落とす二人の影の路地で魚の骨が地面に落ちた。銀の光がキラリ胸元で踊る。
「あ〜、美味かった。行こ!」
「こういう子見なかった? 僕、友達とはぐれちゃったんだ」
王城の近辺からギルド方向をキットはミルと一緒に捜して歩いた。
ギルドや酒場近辺は冒険者が多く、それ目当ての子供も多い事を彼は知っていた。
「さあ? さっきエチゴヤの側で、ごっつい姉ちゃんが焼き魚くれたんだけど、その時いたかもな」
「でも、もう僕らもこっちに来たし、今行ってもいないと思うよ」
「そうか‥ありがとう!」
何人かの子供に聞き込みをし、王城の周辺を続けて捜すことする。
キットの肩の上で猫じゃらしを振るミルは時折飛んでは周囲の偵察をしていた。
側にいる分、気になるキットの子供ぶりっ子‥
「‥ねえ、キット‥」
「ん? なんだ」
「あのさ‥」
ピーー!
仲間の合図の笛の音が聞こえる。教会の側の橋。走り出すキットはミルに声をかけた。
「話は後で! 行くぞ!」
「オッケー!」
ピーー!
フェシスが吹いた笛は明るいヴァージニアの竪琴とアクアの童謡に楽しさを添えたような印象を観客に与えた。
演奏の仲間と思ったか? 気にする者はいない。
「(ひそひそ)あそこ、見えます?」
「(こそこそ)うん! 多分あの子だよね」
ステージに立つ者からは群衆の顔は驚くほど良く見える。
教会の側の橋で即席演奏会をしていたヴァージニアとアクアは、木の上から自分達を見つめる小さな金の目に気付いた。
いつの間にか集まったお客達を避けるように木に登った彼は、身軽で何故か目をひく。
金茶の髪、銀の首飾り。
演奏を始めた以上、終わるまでお客を捨てられない。仲間に合図をして居場所を伝えると二人は演奏を続けた。今度は元気な遊び歌。
木の上で楽しそうにリズムを取る彼は、ふと自分の横にシフールが浮かんでいることに気付く。
「あなた、この辺りでは見かけないね‥、観光?」
(「何だか騙してるみたいで、気が引けるけど‥」)
「お〜い、ミル〜! 早く遊ぼう♪」
「うん、今行く。あの子もあたしの友達なの。一緒に遊ぼう」
ミルは下からわざと子供っぽく手を振るキットを指差した。
「‥うん」
素直に頷いた少年は木から飛び降りる。音も無く地面に着地した様子はまるで猫のよう。
「僕はね、キットっていうんだ。友達になろうよ!」
差し出す手。ミルへの反応から仲良くなれる、とキットは思っていた。が‥
バリ!
「うわっ! 大丈夫?」
突然鋭い爪がキットの手を引っかいた。
「うっ!」
キットに駆け寄る仲間達の隙をついて彼は逃げようとした‥が、巨体が前を阻みひょいと、抱きあげる。
「朴さん! 黄さん!」
「放せ! 放せ〜」
演奏を終えヴァージニアとアクアも駆けつけた。朴は子供を地面に降ろした。手は掴んだままだが‥
「迷子のこねこGETかな? 大丈夫か? キット」
(「随分‥鋭い傷ね?」)
アクアは消毒しながら思う。
「大丈夫。でも‥どうして‥」
「あ、ティオさん‥」
目線を合わせるようにティオは膝を折った。子供はティオの視線から、ぷいと目を逸らす。
「悪い事をしたって解っていますね。いけないことですもの。人を傷つけるのは」
「‥だって、そいつ嘘つきだもん‥」
(「嘘つき‥」)
確かに真実の自分で接しなかった。子供だから子供口調で。それを‥見抜いた?
子供だからこそ真剣に接しなければいけないと、いつの間にか、忘れていたのかも‥。手よりその言葉が貫く心の傷がキットには痛かった。
「‥悪かった。僕、いや俺達は君を捜すためにお母さんに雇われた冒険者だよ。レオン」
ティオの横でキットは同じように膝を折る。
「ヤダ! 僕まだ帰りたくない。こんな凄い街始めてだもん。もっと見たいもん」
頬を膨らませるレオンにキットは首を振った。
「なら、改めて一緒に遊ぼう? 無理に連れ戻す気は無い。この街の楽しい所いっぱい教えてやるよ」
「遊びたいならちゃんとお母さんに断りを入れないと駄目だよ。お母さん、凄く心配してたよ?」
ミルの言葉をヴァージニアが引き継いだ。
「ですから夜まで遊んで帰りましょう。それまでお付き合いしますわ」
キットは手を差し伸べる。さっき傷ついた手をもう一度。今度伸びた手は‥優しく握りかえす。
「‥うん‥今日だけ遊ばせて。そしたら‥帰る」
キットの顔がパッと明るくなる
「よっし、じゃあ、思いっきり遊ぼう!」
「はい、これプレゼント。花冠。似合いますわよ」
「えへっ‥ありがと」
手を繋ぎ合う子供達は、元気に駆け出した。
夕暮れの冒険者ギルド。
窓を、扉を心配そうに何度も覗き込む母親を安心させる為、先に戻ってきたフェシスと黄は声をかける。
「あなた方は旅をして来られた。しかし、旅は幼い子には過酷なもの。少しの間休息を取るのもどうだろうか?」
「仲間達がちゃんと送り届ける。見つけたのは子供だけだが‥猫はいいのか?」
「はい、結構です」
母親は小さく頷く。
「私は焦りすぎていました。私には‥街も人も恐ろしいのですが、あの子にはそうあって欲しくはありません。これは良い機会だったのかも‥」
「?」
「たっだいまあ♪ 楽しかった‥あ、母さん。苦しいよ」
「レオン! 心配をかけて‥」
抱きついて涙さえ浮かべる母にレオンは‥言った。
「‥ごめんなさい」
「いい子ですね。レオン君」
「いい子は母親を心配させたりしないもんだが」
「確かにねえ」
ティオとフェシスの言葉に頷く朴の顔が何故か可笑しくて、彼らに漣のような笑顔が広がった。
翌朝、彼らは門まで親子を見送る。
キットがレオンに近づき、手を伸ばす。もう‥引っ掻かれたりしない。
「お母さんをもう心配させるんじゃないぞ」
「うん、お兄ちゃん。ごめんなさい」
いいんだ。そう笑ってキットはレオンの頭を撫でた。仲良くなった後の別れはちょっと辛い。
背を向けたキットはお詫びにと貰ったポーションをそのままカバンにしまう。
「また一緒に遊びましょうね!」
「ありがと お兄ちゃん、お姉ちゃん」
二人はお辞儀をすると霧深い街道を手を繋いで歩いていく。
「やれやれ、訳アリっぽい依頼だと思ったんだが普通の親子‥え゛?」
彼らは目を擦る。幻を‥見たのだろうか?
朝霧の中へ消えていく二人の背後に、揺れる尻尾が見えたような‥気がした。
レオンは振り返り、笑顔で手を振る。
「また遊ぼうね〜」