【ジューンブライド】虹色特急便
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:12〜18lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月16日〜06月24日
リプレイ公開日:2006年06月22日
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●オープニング
六月の花嫁は幸せになれると言う。
「だから、私は絶対に六月に結婚するの」
そう言った幼馴染の少女の顔が、目を閉じると今も思い浮かぶ‥‥。
「まだ、完成せぬのか!」
領主直々の言葉に、細工の手を止めて彼は顔を向けた。
「申し訳ありません。あと、一週間の猶予を。そうすれば、納得のゆくものができるのです‥‥。どうしてもこのままでは、花嫁を飾ることなどは‥‥」
涙ぐまんばかりの顔。領主はため息をついた。
職人のこだわりは解る。
そのこだわりがある意味シャフツベリーの名を高め、今を作ってきたのだ。だが‥‥
「時間は無いのだぞ。結婚式はまもなく。その日までに完成し、届けることが出来ねばシャフツベリーの信用は地に落ちる」
「解っております。一週間‥‥いえ六日で完成させますのでどうか‥‥」
「解った。信じよう。私は他の手配を進めておく」
「ありがとうございます!」
職人は再び火に向かい、作業に没頭する。
「お父様‥‥?」
工房から出てきた深刻な顔の父親を、少年は見上げた。
「心配する必要は無い。お前は旅の支度を進めておくのだ。出立は予定より遅れそうだが‥‥いつでも出られるように‥‥。ベルにも伝えておいてくれ。良いな?」
「はい」
素直に頷く少年の銀の髪を、父親は愛しげに撫でたのだった。
シャフツベリー領主ディナス伯より早馬が届いたのはキャメロットに久しぶりの明るいイベントの話題が告知された日の事だった。
「ジューンブライドって言葉を知ってるか? まあ、詳しい謂れとかは置いといて、六月に結婚すると幸せになれるって話さ。で、教会がそれにあやかってちょい大掛かりなイベントをやるんだとさ。なんでも相思相愛のカップルを教会が祝福し、名前を刻んでくれるとか‥‥」
それに合わせて結婚式を行うカップルも少なく無いだろう。熱い六月になりそうだと笑いながら真剣な顔で係員は依頼書を差し出す。
「で、それにちょい関連して仕事が来てる。依頼主はシャフツベリーの領主ディナス伯。緊急の荷物をキャメロットまで届けて欲しいって話だ」
「緊急の‥‥荷物?」
わざわざキャメロットの冒険者ギルドに依頼してまでの荷物とは一体なんだろうと冒険者は思う。
シャフツベリーはキャメロットの西、ウィルトシャー地方にある。
ソールズベリ、エーヴベリーと並ぶ巨石文化の遺跡の多く残る土地で、優れた彫金士が多く存在する場所としても有名だ。その細工の見事さは遠く海を越えて伝わっているとかいないとか‥‥。
だが、シャフツベリーはキャメロットからは遠い。足で歩けば急いでも丸四日はかかるだろう。
何故という疑問に、係員はその理由は三つある、と指を立てた。
「ジューンブライドのイベントに合わせて、シャフツベリーの宝飾品をキャメロットで売ろうっていう計画なんだそうだ。確かに悪い案じゃない。結婚式となれば指輪や飾りの需要は多いだろうからな」
シャフツベリーは旧年、いろいろな災いにより小さくない打撃を受けた。そのダメージから懸命に立ち直ろうとしている今、このイベントで回復に一気に弾みをつけたいというところなのだろう。既存の商人達ばかりではなく、領主自らが依頼を出している意味、その願いを彼らは感じていた。
「護衛し、届けるのは宝飾品の入った木箱が三つ。指輪と、首飾りと、ティアラやその他の宝飾品が入ったその箱はどれ一つとっても、街一つ買える位の価値がある。当然、盗賊とかに狙われやすいわけだ」
絶対安全にその宝飾品をキャメロットまで届けなければならない。腕のいい冒険者が求められる理由その一、である。
「第二に、時間制限がある。出発日から一週間後にキャメロットの教会で、貴族の娘が結婚式をあげる。その結婚式の前日までに彼女が発注した宝飾品を届けなければならない」
そこで冒険者の顔色が少し、変わった。
シャフツベリーまで通常の往復に八日。だが与えられた日数は一週間。品物を届けたり、向こうでの準備や荷物の引き受けなどのことを考えると六日で往復しなければならないというわけだ。
「でも、まあそれくらいならそう難しくはないんじゃないか? 空飛ぶ箒でも持ってる奴がいればひとっとびだぜ」
「ところが、ことはそう甘くない」
冒険者に仕事を頼む第三の理由を係員は指を立てて告げた。
「この結婚式にどうしても立ち会わなければならない者がいる。結婚するのは貴族の娘だと言ったろう? ディナス伯の親戚でもある彼女の式に、伯の娘マリーベルと息子ヴェレファングがいなくてはならない。彼女はディナス伯の名代であると同時に花嫁花婿の介添え役を務めるって話だ」
ディナス伯の奥方の血縁である今回の花嫁は『マリーベル』の古くからの友人なのだそうだ。そして結婚式にぜひ立ち会って欲しいと願っている。その為に、ケンブリッジでの勉強を一時中断しヴェルという息子もシャフツベリーにもどってきているのだそうだ。
「二人の貴族の子供を、護衛してさらに通常の日数よりも早く着かなければならない。しかも、絶対に守らなければならない荷物もある‥‥なるほどな」
高い依頼料と時間をかけてキャメロットの冒険者ギルドに頼む理由が冒険者達にもようやく解った。
「三つの条件、どれか一つ欠けてもシャフツベリーの信頼はがた落ち、勿論報酬もがた落ちだ。難しいかも知れんが引き受けてくれんか?」
少年は手の中の小箱の蓋を開けた。
そこには薄蒼の石の付いた指輪がある。
優れた細工、ではない。少年が自らの手で作ったありふれた細工の指輪だ。
貴族の娘の婚姻に相応しいものではなく、父はちゃんと高価で緻密な細工物を発注し終えている。
だが、それでもできれば自分でこれを渡したかった。
使われなくてもいい。ただ‥‥
思いを込めて彼は、静かに箱の蓋を閉じたのだった。
祈りを込めて‥‥。
●リプレイ本文
六月の太陽はまだ賑やかでは無い。それでも
「最近のイギリスはあついですね。身に堪えます」
帽子を外しながら シエラ・クライン(ea0071)は呟いた。
「強行軍で突っ走ってきたからな。休みも余り無かったし‥‥大丈夫か?」
気遣うようにギリアム・バルセイド(ea3245)は顔を横に向ける。
「失礼。別に身体がどうこう、という訳ではありません。お気になさらず。それにむしろ気遣うべきは」
あちらの方達でしょう。帽子で軽く指差した先には懸命に歩く少年と、少女の姿があった。
大きな羽根付き帽子を押さえながら歩く二人は、本当に双子のように良く似ている。
同時に体力的にも二人は同レベルということ。
朝早い出立。
セブンリーグブーツを履いているとはいえ旅慣れない子供達に片道200km近い急ぎの旅はかなり辛そうに思えた。
「大丈夫だと思いますわ。お二人ともしっかりしていますし、それに‥‥」
ニッコリとした笑顔でアクテ・シュラウヴェル(ea4137)は二人を見た。正確には、二人と、二人を。
「大丈夫ですか? ベル。辛かったら言って下さいね」
「はい、ありがとうございます」
ベルと呼ばれた少女を荒れた道から守るように手を引くレイン・シルフィス(ea2182)。
そして
「ヴェル。元気だった? 学校に行ってたんだよね。どんな感じだった?」
「そうですね。先生方も厳しくて、勉強も大変ですが、やりがいがあります。お祭り騒ぎも楽しいですよ」
「お祭りかあ。ジャパンでもね、いろいろあったんだ。この間なんかは‥‥」
歩き疲れた少年を少しでも楽しませようと隣で話しかけるティズ・ティン(ea7694)。
二組のペア、いや、カップルは見ていて微笑ましい。微笑ましいというか‥‥
「やれやれ、こちらも熱くなりそうですわ。氷がもう少し必要でしょうか?」
「そんなに疲れたのなら、もうじき昼だし休憩でも‥‥お!」
街道の向こうから聞こえてくる駿馬の嘶きとレジーナ・フォースター(ea2708)。
先行した仲間を見つけてギリアムは手を振り返す。
「この先に休憩するのによさそうな広場があるわ。そこで少し休みましょう?」
「だそうである。もう少し頑張るのであるぞ! 皆もファイトであ〜る!」
彼女の言葉を受けて『マッスル仮面』は馬の背中を励ますように叩き促す。
「マックスさ〜ん。ご迷惑をおかけして申し訳ないですぅ。でも荷物の中の水が欲しいので、少し早くお願いしますぅ〜」
「こ、こら! それはないしょであると!」
焦り顔の自称『マッスル仮面』マックス・アームストロング(ea6970)の様子もまるで意に関せずと言った風情でエリンティア・フューゲル(ea3868)は後方に向かって手招きする。
冒険者達は風のように街道を行く。楽しそうに、笑いながら‥‥。
「彫金の街と名高いシャフツベリーの品。見事なものですね‥‥」
箱の中身を見せてもらったシエラは思わず、感嘆の声を上げた。
引き出物代わりと言う量産品のアーモンドブローチでさえ、精緻さには感心させられる。
「そう言って頂けると職人さんたちも喜びます。そしてこれが特注の指輪。家宝の緑石をデザインしなおして作ったものだとか」
木箱とは別にした小さな革張りの箱を差し出して、ベルは蓋を開けた。
「うわ〜。さすがに綺麗だね〜」
「同感ですわ。石の美しさも細工の緻密さも驚くほど。鍛えられた剣とはまた別の美しさです」
クローバーが広がる緑の木陰。
管理人立会いの下、普段滅多に見られない宝飾品の数々を手にしてあれこれ、女性陣は楽しそうに談義している。
一方、男性陣は流石にその輪の中に入ることはせず
「‥‥女ってのはやっぱり光り物が好きなんだな」
「いや、なかなかいい光景である! そうは思われるぬか?」
「マックスさんも、誰かにプレゼントしたかったですかぁ?」
「わ・我が輩は別に‥‥。そもそも我が輩はマックスではなく〜〜」
そんな会話をしながら彼女達の様子を少し離れた場所から、微笑ましく見つめていた。
‥‥一人を除いて。
「これを身につけた花嫁さんをぜひ見ないとね‥‥って、どうしたのっ! ヴェル君?」
「うわっ!」
一人、話の輪から離れていた少年を見つけたレジーナは、その首に飛びついた。
再会の時の抱擁を思い出して顔を赤らめたヴェルが後ずさるそのはずみ、服のポケットから何かが転がり落ちる。
「ヴェル君? 何か落とした‥‥よ」
「だ、ダメです。これは‥‥その」
慌ててヴェルはそれを拾い上げようとする。
同じように拾おうと伸ばしたティズの手に触れて顔を赤らめるまで。
「ヴェル君?」
「‥‥女の子って、やっぱり、高価なアクセサリーとかに惹かれるんでしょうか?」
微かな呟き。俯いたままの少年に
「どうかな?」
ティズは天真爛漫な笑顔で答えた。
「確かに憧れちゃうけど、私は想いがこもっていれば高価でなくてもいいかなぁ。でも、その前に素敵な人を見つけないといけないけどね」
てへっ。小さく舌を出し、ティズは箱を拾って蓋を閉じる。
「そろそろ行こう。夜までまた強行軍だよ!」
「は・はい!」
箱を受取り、立ち上がるヴェル。
「ベルさん。こちらの確認を‥‥。って、何かお探しですか?」
「いいえ、なんでもないんです。今行きます」
そして、草原に伸ばした手を小さく握り締めたベル。
二人を良く知る冒険者達は『今は』黙って彼らの思いと行動を見守っていた。
夜。
焚き火の炎はまだ消えてはいない。
賑やかな食事が終わって、明日の為に皆が早めに身体を休めることにしたのだ。
「楽しい時間だったな」
「ええ、何度経験してもいいものですわ」
薪を火に投げ入れるギリアムの言葉にアクテは頷いた。
子供達は疲労で熟睡中。まだ当分起きては来ないだろう。
「この調子でいけば明後日の朝にはキャメロットにつけそうだな。結婚式にも間に合いそうだ」
「ジューンブライド、でしたか。幸せそうな方々を見るのはいつでも良いものですわ。それにあの方達も以前よりずっと強くなられたようで‥‥」
「ああ、色々あったが‥‥あいつらは本当の意味でいい大人になる。きっとな」
「ヒトは胸の痛みの数だけいいオトコやオンナになる機会を持っている。ってね!」
ふと、緊張が走る。かけられた声にではない。
「「レジーナ!」」
楽しげな声で、でも武装して起きてきた仲間。そして同時に気付く。周囲の張り詰めた空気に。
「おいでなすったか、アクテ!」
「解っています。‥‥お気をつけて!」
呪文を二つ、二人にかけてアクテは後方へと消える。剣を持ち直した二人は暗闇を見つめ、唾を飲み込んだ。
「時々思うが、性格、変わったんじゃないか? レジーナ」
「私は私ですよ。‥‥敵は五〜六人ってところですか?」
「護衛付きに‥‥! お代りが来るかもしれん! 油断せずいくぞ」
「了解です」
「行くぜ! 外道にかける情けはねえぞ!」
パキン! 音が鳴った。
踏み込んだ二人の足元の枝の音。そして踏み込んできた盗賊たちの剣の音。
戦いの先端が開いたのだった。
「大丈夫ですか?」
肩口から血を滲ませるギリアムとマックスが白い光に包まれる。
「ああ、大分楽になった。助かったぞ。ベル」
「マッスル仮面は不死身なのであ〜る。‥‥つっ!」
「無理してはだめですぅ〜。まだ先が有るんですからねぇ〜」
『マッスル仮面』の肩をぽん、とエリンティアは叩く。
まだ先が有るのならとつぶらな瞳が抗議しても、何処吹く風。マイペースそのものである。
「大変でしたねえぇ〜。でも魔法使いがいなかったのは助かりましたぁ〜」
「ホント。なんとか守りきれてよかったよ。皆無事だし、品物も守ったし!」
ティズの言葉に仲間達は頷く。襲ってきた盗賊達は十人弱。第一陣が囮として護衛の気を引きつけ、第二陣が本体を狙う二段構えの戦法だった。
だが、それを最初から想定に入れていた冒険者達は前衛よりも、むしろ後衛に人を集めていた。
「来ましたか‥‥邪魔はさせません!」
「ここからは行かせないよ!」
荷物と馬、そして銀の髪の貴族を守るのは二人だけ。
油断したのか森の両脇から姿を現した男達は笑って近寄ってくる。
触れ奪い、蹂躙しようとした汚れた手は
「そのようなことは許しません!」
「うわああっ!」
燃え上がる炎とそれを操る使い手に阻まれた。打ち込まれるナックル、そしてクレイモア。
有る者は月光の矢に射抜かれ、またあるものは間断ない炎にその身を焼かれた。
前衛の戦士達が援護を得て敵を打ち払った頃には、後方もまた敵を全滅に近い形まで追いやっていた。
こちらの被害はかすり傷数名。
圧倒的な勝利であった。
「準備と警戒が役にたってよかった。だが‥‥大分時間を取られたな」
微かにギリアムが空を仰いだ。空の色は黒から紫へ。休息と言える時間は大して取れなかった。
「少しでも先に進んでおくべきなんだろうが‥‥」
「無理は、しないで下さい。まだ時間は有るし、皆さんの方が‥‥大事です」
絞るような声でヴェルはそう言って、立ち上がりかけたギリアムを制した。頷くベル。
正直冒険者達も、今はそれに従う以外の選択肢は見つからなかった。
「確かに時間は少ないですけど、無理に強行軍しても良い事は無いですから。大丈夫。焦らず期間内に到着できるペースを守りましょう」
頷き息を吐いて、疲れた身体を投げ出した。
見上げた空は、紫から藍へ、そして青へと変わっていく。
それは例えようも無く美しい、空だった。
『マリーベル。いいえ、ヴェル。来てくれて嬉しいわ』
『気が付いていたのかい? ポーラ。騙していてゴメン』
『いいえ、私は誰よりも貴方に祝福して欲しかったの。大事な大事な、私のお友達‥‥』
教会に祝福の拍手と歓声が響いた。
迎えられた花嫁は、冒険者の奏でる祝福の調べと共に客に向かって手を振る。
真珠のティアラに桃色石のネックレス。掲げた花束の紅い薔薇に白い花。ほっそりとした指には銀と薄青が美しい指輪が嵌まっている。
「無事間に合って良かったですわ。あら? 緑石の指輪はどうしたのでしょう‥。でも、こちらの方が清楚でいいかもしれませんね」
純粋なトータルファッションをシエラは評価する。彼女は美しく、身につけた者は全て良く似合っている。
隣のナイトに守られた貴族の花嫁。だが‥‥最高の美しさはヴェールの下から見える虹色の笑顔だろう。
「いいなぁ〜。私もあと何年もしたら、素敵なナイトさまと素敵な結婚式をあげたいなぁ〜」
「きっとなれますぅ。ステキな花嫁にぃ〜。ヴェル君も悩みは吹っ切れたようですしねぇ〜。きっとカッコいいナイトになりますよぉ〜」
晴れやかな顔で二人に付き添う銀の少年に、ティズにエリンティアは微笑みかける。
『大事な人への贈り物や大事な人からの贈り物はぁ、モノよりもそれに込められた想いが大事ですぅ』
昨夜、レジーナと一緒にお節介を承知で、ちょっとだけ背中を押した。そのお節介の結果がどうなったのかは見れば解る。
「祝福のトスですわ!」
客の、特に女の子達の目の色が変わる。彼女は腕につけていた腕輪を外し空に投げる。腕輪は宙をくるくると舞い
「あ!」
ティズの腕の中に落ちた。
「貰っていいの‥‥かな?」
「祝福のおすそ分けだから、いいと思いますよ。良かったですね」
竪琴を抱え、戻ってきた仲間を冒険者達は優しく見つめる。
「よう! ご苦労様なのである!」
「あら、レイン様。お帰りなさいませ。あの笑顔を守れて、良かったですわ」
「この世に花嫁の笑顔ほど、美しいものはありませんね。‥‥僕もいつか‥‥」
彼は目を細め、微笑む。愛しげに、大事な者を抱きしめるように。
「レイン」
「何ですか?」
視線を花嫁達から後方に戻す。そこには
「やるべき事があるんじゃないか? さっさとしないと”また”覗くぞ」
厳しくも優しい友の眼差しがあった。くすと笑って前を向く。
「解っていますよ。ちゃんと‥‥ね」
彼は見つめた。花嫁『達』を。最高の笑顔の花嫁に負けないほどの、美しい笑顔の銀の乙女を。
人気の薄れた教会に彼は、彼女と共に立っていた。
静かで少し前の喧騒が嘘のようだ。
レインは手の中のクローバーを軽く振る。彼女から貰った幸せのお守りでリズムをとりながら歌うように言う。
「ステキな式でしたね」
「はい。ポーラさんもとってもステキな人で。ヴェルも、とっても喜んでいて‥‥」
「‥‥ベル」
祭壇を見つめる少女の手を、彼は握り締めた。手には彼がかつて贈った指輪。
久々の再会、彼女の指にそれを確認した時から、言いたい言葉があった。
レインは彼女の手を引き、胸元に抱き寄せて、しっかりと抱きしめた。
「‥‥いつか、私達も」
「‥‥はい」
顔を、目線を、心を合わせてそして‥‥
「コホン!」
「ワッ!」「キャッ!」
何時の間にかいた司祭に見事に触れる寸前の唇を邪魔された。
「あ〜。邪魔をするつもりはないのだが、ここは神聖なる神の家。控えてもらえるとありがたい」
「ごめんなさい!」
頭を下げる少女に司祭はニッコリと笑いかける。
「その代わりと言ってはなんだが、良ければここに名前を刻んでいかれると良かろう。恋人同士に神の祝福あれ」
「レインさん、良ければ、名前を刻みませんか?」
いいところを邪魔されて、呆然としていたレインは笑って目を細めた。
ここねと‥‥はしゃいで名前を書く少女の笑顔があまりにも眩しかったから‥‥。
「お姉さんは優しく見守るのであーる」
「あらあら、いいところで残念でしたこと♪」
「あの司祭殿もスカウトするかな。いいタイミングだ」
「ねえねえ、何してるの?」
「人の恋路を邪魔する奴は、駿馬に蹴られて‥‥、まあ、邪魔する訳ではないであるし」
「自分の気持ちに素直になるのは大事ですぅ〜」
「やれやれ、こちらも熱くなりそうですね」
そんな声が誰に、誰かに聞こえたかどうかは解らない。
「六月の花嫁は幸せになれるの。だから、私は六月に結婚するの!」
そう言った幼い日、大切だった少女は花嫁になった。
見送った少年は青い空を見上げた。ほんの少し、目の雫に虹が浮かんで見える。
冒険者が言っていた。
『ヒトは胸の痛みの数だけ〜』
ならば、この痛みの分、必ず成長しようと少年は誓ったのだった。
誰にも言わないけれど、心の中で。
恩人である冒険者と、六月の青空にかけて。