【ジューンブライド】−サムシング−

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月20日〜06月25日

リプレイ公開日:2006年06月26日

●オープニング

 Something Blue‥‥ Something Old‥‥
 それは、古い古いおまじない‥‥。 


 ある貴族から出されたその依頼は、基本的にはごく普通の護衛依頼だった。
「とある男爵家のご隠居がキャメロットから西に一日ほど行った田舎の小さな村に住んでいる。そのご隠居とメイドの親子をキャメロットまで呼んでくるのが今回の依頼だ」
 聞けばそのご隠居。マダム・メアリの孫娘がこのジューンブライドの月末に結婚するのだとか。
 孫娘が、自分の花嫁姿を見て欲しいと願うのは至極当然である。
 祖母もまた孫娘に自らのヴェールを贈り、結婚を祝うと子供の頃から約束していた。
 父男爵は母親の迎えに馬車を出す。その護衛が冒険者に出された依頼だった。
 だが‥‥。気をつけろと係員は言う。
「その村とキャメロットの間の街道近辺に、最近奇妙なモンスターが現れるらしいぜ」
「奇妙な‥‥モンスター?」
 冒険者達の問いに係員は頷いた。
 それを見たと言う人物の話によればそれは、深い緑色をしたゲル状の粘体生物らしい。
 ぬるぬる、ぐちゃぐちゃとしたそれは、木々や地面をずるずると這い回り、動く者を見れば襲い掛かってくると言う。
『そりゃあ酷い目にあったぜ、なんとか逃げ出したものの背中になんだか変なものを飛ばされてさ。買ったばかりのマントがダメになっちまった!』
 悔しそうに旅の商人はそう語っていた。皮のマントには中央に大きくぽっかりと開いた丸い穴が‥‥。
「どうやらスライムっぽいやつらしいな。どんなのかまでははっきりしねえが、そんなのがいたらいかに馬車に乗っているとはいえ、おちおち老人や親子連れを通す訳にはいかねえと思うぜ」
 無論、馬車の馬をやわれたら大変なことになるし、その変な攻撃がご隠居の荷物にあたってしまったら結婚式の衣装が台無しになる。
 いや、それ以前にそんな危ない怪物がいるとしたら、係員の言うとおり、女子供、老人は勿論、冒険者達でさえ危ない。
 しかも相手がスライムとなれば、戦いにくさも倍増だろう。何匹いるかもはっきりとしない。やっかいな仕事だ。
 だが‥‥。
「だがな。その娘にとっては一生に一度の結婚式だ。大事な人に見て欲しい気持ちわかってやってくれるなら、引き受けてくれないか?」
 彼の言葉は、冒険者の胸を、微かに、でも確かに揺らしていた。
 
 
 コテージの窓から歌声が聞こえる。

『古いものに 新しいもの
 借りたものに 青いもの
 花嫁のくつには 銀貨を1枚

 愛する人と、大切な家族。
 祝福してくれる友と温かな笑顔。

 そして六月の太陽が有れば、貴方は幸せな光の花嫁』


「おばあさまが、子供の頃から何度も話してくれたあのおまじないは、今もポーラにとって大切なことです」
 結婚式を間近に控えた乙女は、遠くを見つめて手を組んだ。
「神様。どうかお願いします。おばあさまが無事にキャメロットにおいでになりますように‥‥。大切な友達が無事に辿り着けますように。そして‥‥」
 祈りを捧げるように‥‥。
「誰も、傷を負うことなく戻ってこれますように‥‥」
 と‥‥。

●今回の参加者

 ea1169 朝霧 桔梗(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

ソフィア・アウスレーゼ(eb5415

●リプレイ本文

「結婚式かあ〜。おめでたい話だよね〜。花嫁さん、どんな服着るのかな〜」
 春の風の中を楽しそうに、踊るようにシャンピニオン・エウレカ(ea7984)は飛ぶ。
「きっと美しいと思いますよ」
「六月の花嫁。楽しみなことですわね。その為にもこの依頼はなんとしても成功させないと」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)やロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)、肩を並べ歩く冒険者達の声もどこか明るい。
「楽しそうですね。やはり、女性には結婚式と言うものは特別なのでしょうか」
 笑顔の女性達を眩しげに見つめながら呟くワケギ・ハルハラ(ea9957)に
「そりゃーそうさ〜。なんたって結婚式だもの〜。一生に多分一度のお祝いだよ〜」
 ケララ、陽気な笑い声が答えた。ルディ・ヴォーロ(ea4885)は手に止まらせた鷹の頭を撫でながら心からの笑顔を咲かせる。
「結婚式は一生で一番の記念日だもの! とびっきり良い日にしなくちゃね?」
「そうそう。おめでたい席に、僕たちの力で幸せを一つ増やせるなんてすごいよね! がんばろー! おー!」
 一人時間差の掛け声に
「がんばるニャアー! でござる!」
 どこからかとてつもなく可愛らしい声が重なる。だが振り返った先にいるのは紛れも無く性別男性。葉霧幻蔵(ea5683)。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
 なんとなく場を沈黙が支配する。
「ど、どうしたのでござる! ツッコむかせめて何か言ってくれないと先が続かぬではござらぬか!」
 うるうる瞳を輝かせる幻蔵にごめん、ごめんとルディは手を振った。
「いやさ、キミを見てたらギルドでのあのインパクトを思い出しちゃってさ。うん、あれはキョーレツだった」
 腕組みしたルディだけではなく、その場にいた全員が思わずこくりと首を縦に動かすあの自己紹介。
 ギルドの床に寝そべる巨大な毛玉。
 本人は丸まった猫のつもりで寝ていたのだろうが、誰もが怪しすぎて近寄れなかった謎の着ぐるみが依頼を聞くや否や、突如立ち上がって言ったのだ。
『その依頼、猫っかぶりのゲンちゃんが引き受けたでござる!』
 ひゅうう〜〜。
 初夏だと言うのに、その場に見事なまでのブリザードが吹いたものだ‥‥。
「もうすぐ村に着きますわ。少し足を早めませんか?」
 ナチュラルに話題をスルーして御門魔諭羅(eb1915)が前を指差す。
 すでに先行した馬車は村についている頃だろう。
 結婚式まであまり日も無いし、冒険者が着いて準備が出来次第出立ということになっていた筈だ。
 急がないと、というのは間違った意見ではない。ツッコミどころを奪われて惑う幻蔵もとりあえずそれを否定はしなかった。
 足を早め森を抜ける。全てはそれから‥‥と誰もが思っていた。
 だが、その日、場の冒険者全てが忘れていたことに気付くまで。
 ねちょ。
「? 何でしょう。今の感触は‥‥」
 土ではない微妙な感覚に、草履を上げて朝霧桔梗(ea1169)は足元を見る。
「う・うわああ!!」
 とっさに飛びのく桔梗。冒険者達も慌てて膝をついた桔梗の側に駆け寄った。
「あれが‥‥スライム?」
 その言葉どおり、道の上には深い緑色をしたゲル状の生物が、ねちょり、ぬらりと動いている。
 伸縮運動を繰り返す。地面から木へ。そして‥‥
「‥‥!!」
 立ち上がって獲物を襲う獣のようにスライムは倒立姿勢で冒険者に向かって襲いかかってきた。一番手近だった桔梗の元へ。
「危ない!」
「こっち!」
 とっさに手を引いたルディに引き寄せられ桔梗は後ずさる。その一瞬の後、さっきまで桔梗のいた場所に緑のゲルが取って代わる。
「‥‥‥‥‥‥アイスコフィン!」
 カチン。微かな音を立ててゲルが氷に包まれる。そして、動きを止めた。
「危ない所だったね。大丈夫?」
「大丈夫よ。助けてくれて‥‥ありがとう」
 桔梗はお尻の埃を払いながらルディに礼を言った。仲間達にも。
「忘れていました。村に行くと言う事は行きにもスライムと出会うはめになるということ、だったのですよね‥‥。でも、これで、退治できたのでしょうか?」
 小首を傾げてリースフィアが槍でここんと氷を突付く。
 アイスコフィンが溶けるまで手出しはできないが、溶けてすぐを狙えばきっと‥‥。
 だが、そんな考えは森から飛んできた『モノ』によって吹き飛ばされた。
 冒険者達の合間を縫うようにして飛ばされたそれは、木にぶつかりジュウという音を立てて消えた。
 木には親指と人差し指で作ったほどの丸い穴が開く。
 飛んできた方角は‥‥森の木々の中。敵の居場所がとっさに彼らには解らなかった。 
「とりあえずは、一時撤退でござる。村で体制を立て直して後!」
 走れ! と幻蔵が指を指す。
「そうだね、急ごう!」
 走り出した仲間の後方で幻蔵が印を組み呪文を唱える。
「‥‥! 出でよ。大ガマ! 我らが逃げるまで敵を引きつけるのでござる」
「ゲオゲオ!」
 頷くようにガマは答えて敵の前に立つ。目の前に有るのは凍ったスライムとまだ見えないスライム。
「ガマよ! 頼んだでござる!」
 走り抜けた幻蔵の横を一度だけ追うように酸が飛んだが、それ以上の攻撃は冒険者達には迫ってはこなかった。
 
「それで‥‥大丈夫なのですか? 村と街道の側の近辺と伺いましたが‥‥そろそろでは?」
 馬車に揺られながら大事そうにカバンを抱く老婦人はそう目の前の人物に問いかけた。
 通常の馬車に簡易の防壁を板で打ち付けてある為、外を伺ってもなかなか様子は知れない。
「む〜。大丈夫だよ〜。皆先に行って、少しでもスライムを減らそうとしているし、何があってもこの馬車は絶対に守るから〜。その為に僕らは来たんだしね〜」
 なるべく、婦人や子供達に不安を感じさせないようにと、馬車の中で歌や舞を披露していたシャンピニオンがふと、踊りを止めて答える。
 冗談めかした口調だが、顔つきは真剣そのものだ。
「私達のことではありません。皆さんの事です。私達を守る為に皆さんが傷つかれては‥‥」
 上品で穏やかな、だがどこか凛とした響きを持つ老婦人の声は馬車の外、御者台で外の様子に注意を払っていたロミルフォウの耳にも入る。
 自分達を心配してくれているのだと思うと、頬が緩む。
「大丈夫、ちゃんと皆揃ってお孫さんの元に馳せ参じます。六月の花嫁の頬を、悲しみの雨で濡らす事こそ、罪深いことですものね。あ、止まって下さい」
 前半は馬車の中へ。後半は隣で馬を操る御者に向けてロミルフォウは言った。御者は言葉どおり馬車を道の真ん中でとめる。
 馬車の前には、真剣な眼差しで何かを探す冒険者達の姿があった。
「どうでしたか?」
 馬車からひらりと飛び降りるロミルフォウ。馬に乗ったままリースフィアも近づいてくる。
 弓に番えた矢を外さず、警戒を抜ききらないルディはくいくい、と親指で道の端を指差した。
 そこには、氷付けになっているスライムが一匹横たえられている。
 小さな子供くらいの高さの正確には横たえられているのかどうか解らないが、とりあえずは動かない。
「なんとかね、一匹は凍らせたんだ。みんなでいろいろ牽制したりしてね。でも、ほら、行きにもう一匹いたろ? それが、どうも見つからない。この近辺にいる筈だから下手に進めなくて待ってたんだ」
「そうですか。一刻も早く馬車を通してしまった方がいいでしょうか‥‥」
 リースフィアが手綱を持ったまま考え込んだその時、
「まずい! 後ろ! いや、上、上でござる!」
 幻蔵の叫ぶような声が場に木霊した。木々の緑に紛れた深い緑色のスライムは木の枝の先から滴るように馬車の真上に落ちてくる。
 狙いは馬だろうか?
「うわあっ!」
 焦りの余り手綱を取り落としそうになる御者を
「動かないで、大丈夫ですから!」
 ロミルフォウは手を取って落ち着かせてから、その場を離れさせた。
「皆は中から出ちゃダメだよ。僕らがいいって言うまで、戸を開けないで!」
「無理をしてはいけませんよ!」
 マダムの心からの言葉に、逆に勇気を貰った気分でシャンピニオンはウインクを返した。
「まかせて。おばあちゃん! さあて、誰だい? 悪い子は。人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られちゃうんだから・ねっ!?」
 蹴り! 馬車の天井板の上にしがみつくゲル状のスライムにキックを入れた。 
 技術を会得している訳ではないし、大して効かないとは解っているが、馬や馬車に気を取られるよりはいい。
「こっちだよ〜」
 自分の方に意識を向けさせようと、シャンピニオンはスライムの頭上を飛んだ。
 まずは、馬車から引き離さないと、攻撃も何もできない。
 動くもの全てに襲い掛かろうとするスライム。馬よりも小さくて活きの良さそうな『獲物』の存在にやっと目が向いたのか馬車から身を剥がし反転しようとする。
 そこを‥‥
「ムーンアロー! かのスライムを撃て!」
 祈りの印と共に放たれた銀の矢が刺し貫いた。今の魔法攻撃は確実にダメージを与えたのだろう。
 身を震わせて、馬車の上からスライムは地面に落下した。
 それでもまだ逃げようとか、それとも戦おうとか、身を伸縮させるスライムの行く先を、風切り音と共に舞い降りた矢とナイフが。
 後方を、大ガマが遮る。
「逃がす訳にはいかないでござる!」
 知性が無いなりに、スライムにもこの絶望的状況が解ったのだろう。身体がむくむくと各所で膨れ、酸の粒が吐き出される。
 狙いはついてはいない。もうやぶれかぶれといった状況だ。
「うわっ!」「うっ!」「馬車は守ります。そいつに早く止めを!」
 冒険者達が叫び、動く中。
「弾けよ。水よ! ウォーターボム!」
 ボン! 音を立ててスライムの頭上で水が爆ぜた。酸が止まり、同時にスライムの動きも止まった。
「今でござる! 大ガマ。そいつを叩き潰すのだ!」
 一際大きな声が命令を発した。
「‥‥ガマ君に神の祝福あれ!」
「ゲオオオ!!」
 数刻後、氷に閉ざされたスライムにも止めを刺し、冒険者達は馬車と共に先に進んだ。
 とりあえず、冒険者達が退治したのは二匹。ひょっとしたら他にもいるかもしれないが、それを捜すことはしなかった。
 今、優先すべき事はスライムの殲滅ではない。
 そう、優先すべきなのは‥‥。 
 
 六月の青空に、美しい花々。
 溢れる拍手と満開の笑顔。
 華やかなドレスを身に纏ったレディは今、人々の祝福を受けて花嫁となった。
「おめでとー!」
 祝い客として招待され、冒険者達も心からの祝福を贈った。
 傷は癒えた。汚れた服は着替え、穴の開いたマントや衣服は弁償してもらった。
 引き出物のブローチとお菓子を見ながらさすが貴族の依頼、そして結婚式と思わずにいられない豪華さだった。報酬も十分。
 だが、そんなことより何よりも冒険者を喜ばせたのは、老婦人の到着を喜ぶ花嫁と花婿の姿。
「僕の摘んできた花。ブーケに入れてくれたんだ。なんかうれしーな」
 照れたようルディは微笑み、それは様子を見つめる場の冒険者全て、客全てに広がっていく。
「カシコミカシコミ、お二人に幸あれ♪」
 木の棒に白い布をつけ振る怪しげな美女(?)に桔梗は首を傾げた。
「? あれは、ジャパンの巫女様? なぜこのようなところに?」
 祝いの席の賑やかな場、それほど怪しまれることも無く、巫女は祝詞を捧げ帰っていく。
 彼女とすれ違ったある者は目を瞬かせ、ある者は不思議な寒さを感じたという。
 ちなみに魔諭羅はニッコリ笑って、後でスクロールを返しますと言ったとか言わないとか。
 やがて式が終わり、パーティとなる。
 そんな中。

『古いものに 新しいもの
 借りたものに 青いもの
 花嫁のくつには 銀貨を1枚

 愛する人と、大切な家族。
 祝福してくれる友と温かな笑顔。

 そして六月の太陽が有れば、貴方は幸せな光の花嫁』

 リズムを取りながら歌うシャンピニオンの顔をあら、とロミルフォウは覗き込んだ。
「それは、なんですの? とてもステキな歌ですけど?」
「おばあさまが教えてくれた歌だよ〜。幸せになるおまじない、なんだって」
『あの子はこのおまじないの歌が大好きで、いつかこのとおりに花嫁になるんだ、って子供の頃から言っていたんですよ』
 馬車の中で、孫娘の話をしてくれた婦人は、きっと今、一番前でその晴れ姿を見つめていることだろう。
 新しいドレスに、装飾品。青い石の入った指輪に、メイドから借りたハンカチを持ち、そして彼女は古いヴェールを被る。
 祖母のそのまた母が身につけた純白のヴェール。永い年月に僅かに色あせてもその美しさは決して損なわれることは無かった。
 むしろ花嫁の美しさと笑顔を見事なまでに引き立てる。

 吟遊詩人や、楽師に混じり向こうで新郎新婦にワケギが歌を贈っている。

『♪幸せな二人に歌声を贈る〜
 嬉しい予感が満ちてくる
 空では鳥達がダンスを踊って
 愛の歌声に応えてる〜
 
 歌おうよ 歌おうよ 皆で声を合わせ
 祝おうよ祝おうよ 愛し合う二人

 愛する力を皆は持っている
 輝く明日を信じてね〜』

 祝いの歌に、答えるように必ず彼女を、ポーラを幸せにすると花婿は人々に誓い、満場の拍手喝采を受けた。
「なんだか、憧れちゃいますね‥‥」
 きっと 人は、きっとこうして長い、長い長い間願いを運び、思いを伝え、誓いを重ねてきたのだろう。
 そして、これからもきっと‥‥何かを‥‥。    

 リースフィアが見上げた六月の空は蒼い。
 この空が落ちぬ限り、人の営みも思いも消えることは無いだろう。
 紡がれる何か。続いていく何か。大切な何か‥‥。
 自分達は、僅かでもそれを伝える助けができたかもしれない。
 そう思うことは彼女の気持ちを晴れやかにした。 

 報酬と同じくらい大切な何かを花嫁から受取って、冒険者は依頼を完遂したのだった。