お化け屋敷始めました NEXT お客様募集

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2006年08月23日

●オープニング

 今年もキャメロットの外れでホラーハウスが開かれることになったと冒険者達は聞いた。
 ギルドの壁に貼られた貼り紙を読んでみる。

『お化け屋敷 始めました。 夏の納涼の一時をお楽しみください。

 当館にようこそ。
 当館は夏の一時に涼を与えるホラーハウスです。
 お一人で、またはお友達と一緒にご参加ください。
 入館料は0.2G 友達をお呼びになられた場合には片方の方に二人分お支払い頂くことがあります。
 館の中にはいくつかの宝物が隠されております。
 発見された品はお持ち帰りくださってかまいません。
 何が、誰に見つかるかどうかは運だと、ご了承ください。
 なお、館の『幽霊』ならびに館そのものを傷つける行為は弁済の責務が発生しますのでこちらもご了承ください。
 では、おいでを心からお待ちしております。』

 ちょっと、事情を知るものの中には首を傾げるものもいる。
 噂では、あの屋敷には本当に幽霊がいて、だが、彼らは天上に昇り‥‥、だから昨年の夏が最後の夏だったと。
 だが、ここにこうしてお化け屋敷の案内は出ている。
 ならば、と貼り紙を見た者の幾人かは思う。
 楽しんでみるのも悪くないかもしれない。
 今年の夏も、なかなかに暑い。
 一人で、もしくは誰かと共に、夏の思い出を作ってみようか。と

●今回の参加者

 ea1754 ギルツ・ペルグリン(35歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2843 ルフィスリーザ・カティア(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

○思い出の始まり
 街外れ。
 人の通わぬ古ぼけた館に、この夏人々は自ら足を運ぶ。
「ここですね〜。ホラーハウス、っていうのは」
 途切れぬ程度に入っていく人々。
 耳を済ませれば中から聞こえてくる悲鳴。
 見つめれば‥‥入るお客達の瞳は緊張とトキメキに、戻ってくるお客の顔は驚きと楽しさに、輝いている。
「ホラーハウス‥‥ひんやり涼しそうですね? それにとても楽しそう。入るのが楽しみですわ」
 まだ待ち合わせの刻限には時間がある。
 なれぬ着物の裾を裁いて彼女は、入り口と出口が見える木陰に腰を下ろした。
 お客達の姿を見ているだけでも面白そうで、時間を潰せるだろう。
 ‥‥例えば向こうからやってくる、一人の少女。二人と一匹と一人の集団もいる。
 彼女達はここで一体何を見るのだろうか‥‥。

○エスナ・ウォルター(eb0752)の場合
「キャアア!」「うわああっ!」「ひえ〜っ!」
 悲鳴が響き渡る屋敷。その側に耳を押さえる少女がいた。
 彼女は自身に言い聞かせるように、呪文のように繰り返す。
「‥‥お、お化け屋敷‥‥だいじょうぶ‥‥怖くない、怖くない‥‥」
 入り口の扉を開けて、閉めても彼女の手はまだ震えたまま耳を押さえていた。
 耳を押さえているから聞こえない。背後に迫っている足音に。
 そっと伸びた手が肩を掴もうとしていることに気付かない。
「お‥‥様。お嬢‥‥ま」
「キャアアア!!」
 触れた冷たい手に、エスナは絶叫に近い声を上げた。そのまま逃げようとしたが、肩に触れた手が動くことを許してくれない。
 払おうと、手が耳から離れる。 
「お待ちくださいませ。お嬢様」
「えっ?」
 振り返ったエスナは、その時始めて息をついた。
「おばあ‥‥さん?」
「私は案内役でございます。屋敷をご案内させて頂きます」
 お辞儀する老婆にホッとしてエスナは案内されるまま後をついていく。
 それが、さらなる恐怖の始まりだと知る由も無く。

 暗闇の中をエスナは彷徨い歩く。
「うえ〜ん。お婆さんどこ〜!」
 勿論返事は無い。案内役だった老婆はいつの間にか消えてしまった。
 恐ろしい怪談をさんざん吹き込んで。
 震える足は、なかなか前に進まない。
 ガタン! 背後で音がした。思わず背筋が伸びる。
「はぅ!?」
 そっと、振り向くが誰もいない。
「怖くない、怖く‥‥はぅぅ!! あぅあぅ‥‥はぅぅ。さっきは、首なしのお化けさん出てきたから、お願いですぅ。暫く出て来ないで下さい〜」
 もう涙目だ。
 泣き虫克服の為にやってきたお化け屋敷。
 なんとか逃げ出さずここまでやってきたが、最後まで歩き続けられる自信はだんだん目減りしていく。
「でも。約束したもん。一人じゃないから。頑張るも‥‥はうぅ!」
 また、背後から音がした。今度は小さな音が、何度も。振り返っても誰もいないのに、何度も、何度も。
 前を見ると揺れる白い何か。ぼんやりと浮かぶ小さな影。首に冷たい何かが触れて‥‥。
「シフール‥‥さん?」
 チリーン! 静寂の中鈴の音が鳴った。と同時にこちらを向く小さな影は身体は確かにシフールなのに‥‥
「か・か・かお、無いいい!! キャアアー!」
 真っ白い顔のシフールと、首だけのお化けが目の前を交差している。
 ケタケタと笑い声がそこかしこから響きエスナはもう何も解らず全力疾走で屋敷を駆け抜けた。
 避難所さえも通り越し、ゴールしていたことに気がついたのは、愛犬に頬を舐められてからのこと。
「あ‥‥ただいま。ラティ」
 大丈夫? と主を心配するような犬にエスナは少し頬を膨らませてみせる。
「泣かなかったよ‥‥ちゃんと、一人で頑張れたんだから‥‥うそじゃないもん、って‥‥キャッ!」
 目尻にざらっとした温もりが触れた。全てお見通しのような愛犬の頭を撫でながら
「でも、ちょっと面白かったかな? あれ?」
 彼女はチリンという爽やかな音を耳にする。
 服にひっかかっていたそれを手に取る。
「鈴‥‥いい音」
 お化け屋敷の中で聞こえた音と同じはずなのに青空の下で、聞くと全然違って聞こえる。
 もう一度音を確かめた後、エスナはそれをそっとしまった。
 あの人に語る、お土産話と一緒に。

○シルヴィア・クロスロード(eb3671)とクリステル・シャルダン(eb3862)の場合
 友達の、友達は皆、友達だ。と言ったのは何時の時代の誰だったか。
 その言葉は事実である。今、ここにも新しい友達同士がいるのだから。
「恋人同士とかで来ている方も、結構いるようですね」
「こういうところは、やはりステキな殿方にエスコートされて来るのが格別なのかもしれませんね」
「しれませんね!」
 主の言葉尻を真似る小さなエレメンタラーフェアリーの少女の言葉に、ふと何か考え顔だったシルヴィアが笑みを浮かべた。まるで悪戯を思いついた子供のような無邪気な瞳で。
「それでは、レディ・シャルダン。お手をどうぞ?」
 そして、礼を取りクリステルに手を差し伸べる。完璧な礼儀にのっとった、ナイトのエスコート。
 一瞬、目を丸くしたクリステルだったが、彼女もまた同じ笑みを浮かべて手を取る。
「ええ、喜んで」
 と、同じように見事な礼で。
 遠めに見れば、彼女達もまた、騎士と美女の恋人同士に見えるかもしれない。
 顔を見合わせる二人。
「くすっ」「ふふっ」
 瞳と瞳が笑みを湛えて交差する。くすくすと花のような笑い声を咲かせて。
「では、行きましょうか?」
 楽しげな笑顔のまま、お化け屋敷へと入っていった。

『うらめしや〜〜』
「わあっ!!」
 勢いよく後ろに飛びずさったシルヴィア。クリステルも思わず唾を飲み込んだ。
 いきなり天井で音がしたかと思うと、白装束の女性が逆さ釣りで落下してきたのだ。
 先を歩いていたシルヴィアの顔面0距離。
 後一歩先に進んでいたら唇が触れていたかもしれない、と『彼女』の消えた方向見つめ、見送りながらシルヴィアは思った。 
 青いまでに白い顔。目は充血して真っ赤で、おまけに頭には白い三角の布がついていて
「あれは‥‥噂に聞くジャパンの幽霊でしょうか? 先ほどのイリュージョンといい、ちょっと東洋テイストですね」
「‥‥ひょっとしてクリステルさん、意外にお化けに強かったり‥‥?」
 立ち上がりながらシルヴィアは問う。その質問に
「さあ、どうでしょう? 」
 クリステルはニッコリと微笑むだけだ。
「そんな事より先に進みましょう。あちらにも何かあるようですよ」
 差し伸べられた手をさっきとは逆に握り合って、二人は前に進む。
 暑い夏、締め切られた館の中だと言うのに、何故か空気はひんやりと冷えていた。
「あ、あれ!」
 先の分かれ道にあったのは、
「なんだ。案山子だったのね」
 その通り。大きな案山子だった。ターニップヘッドが重いのか頭が俯くように下を向いている。
『彼』は案内役らしい。手に持った看板には
「『避難休憩所はこちら?』ですか。随分いたれりつくせりですね」
「ですね!」
 とりあえず、目の前の相手は動いたり、悲鳴を上げたり、頭が落ちたり、突然のっぺらぼうになったりはしないようだ。
 今まで、さんざん脅かされてきただけに、シルヴィアは少しだけ安心し、強気になった。
「こら! 人を脅かしちゃダメでしょ?」
 ぽん! と頭を叩く。
『いたいなあ〜!』
「え゛?」
 シルヴィアの強気が、安心をつれて逃げていく。
『どうしても怖い人はあっちへどうぞ〜。そうじゃない人は〜』
「ウキャー」
 揺れる案山子。動く案山子、しゃべる案山子。
 悲鳴を上げて逃げる寸前だったシルヴィアは、先に悲鳴を上げ、先に逃げ出したエレメンタラーフェアリーになんとか踏みとどまる力を貰った。
 そして
「待って! レイ」
 逃げ出した彼女を追って走り出すクリステルを
「ルヴィリア! 追って!」
 愛犬と共に追いかけたのだった。

 小さな部屋の中のタンスの隙間で、レイと呼ばれるエレメンタラーフェアリーが震えているのを二人より先にシルヴィアの愛犬ルヴェリアは見つけた。
「ルヴェリア! 噛んじゃダメ!」
 主の言葉を理解したのかぎりぎりで服の裾を噛んで、ずるずるずる小さな少女を引っ張り出す。
 自分の倍近い体の犬に、隠れ場所から引き出されたレイは暫くきょろきょろと怯えたようにしていたが
「心配したでしょう? 勝手に飛んで行ってはだめよ」
 主の優しい手にそっと抱きとめられると、心から嬉しそうに笑顔を見せる。
「でもあなたを連れてきた私もいけなかったわね。ごめんなさい」
「良かった。これで迷子騒動は解決ですね。‥‥丁度ここは夫妻の寝室っぽいから何かあるかもしれません。捜してみましょうか。ルヴィリア‥‥」
 犬に何かを言いつけている風のシルヴィア。
 彼女の優しさに微笑みながらクリステルも、手の中の小さな友を宙に放つ。
「あなたも探してくる?」「くるー!」
 その言葉どおり、くるくると回りながら飛んでいた小さなエレメンタラーフェアリーだが、
「はにゃ!」
 突然鈍い音と共に地面に落ちた。頭にはタンコブ。どうやらタンスか何かにぶつかったのかもしれない。
「レイ! 大丈夫?」
 開きかけたその瞳は大丈夫と言っていたが、
 コン! 何かが振ってくるような音と共に再び沈黙に落ちる。
 頭に二つ目のタンコブ、どうやら何かが落ちてきたらしい。見れば、それは‥‥。
「髪飾り‥‥ですね?」
 かなり古そうで、黒く変色しているが、手持ちの布で擦ってみると銀の静かな光を放ち始める。
「あら。綺麗。‥‥貴方のお陰ね。レイ」
 気絶から眠ってしまった子には聞こえない感謝を呟いて、クリステルはそっと微笑んだ。

「お化け屋敷がこんなに面白いとは思いませんでした。来年もまたあるといいですね」
 無事にゴールに辿り着き、二人は屋敷の外に出た。
 引っ掛けにひっかかり、お化けに脅かされ、でもそれも間違いなく楽しい時間だったとシルヴィアは言い、クリステルも同意するように頷いた。
「あ、そうそう。これ、ルヴェリアがさっき見つけたんです。さっき、あの子の服を噛んで怖がらせてしまったから、お詫びに貰ってくれませんか?」
 白い羽飾りをそっとシルヴィアはクリステルに差し出す。
「いえ、そんなわけには! ルヴェリアさんは何もしてないし、それに‥‥」
 断ろうとして、ふとクリステルは思い出す。さっき拾ったあの品物。あれはきっと‥‥
「では、代りにこれを受取っていただけませんか? さっき、あの子が見つけたんです。きっとお似合いですよ」
 心からの思いで銀の髪飾りを差し出すクリステルに、シルヴィアは微笑んで、頷いた。
「では、記念に交換ということで」
 お互いが見つけた宝物を交換し、それぞれ身につける。
 天使の羽飾りはクリステルの胸元で踊り、銀の髪飾りはシルヴィアの髪に溶けるように輝く。
「ステキな時間をありがとうございました」
「こちらこそ!」
 友達の友達は友達。
 宝物よりも大切なものを二人はしっかりと手の中に握りしめていた。

○優しいお化け達
 最終日の、終了間際。
 お化け屋敷の中を音も無く、静かに歩く人影があった。
 一人、ゆらゆらと彷徨うように。
『うらめしや〜〜』
「大丈夫ですか? お顔の色が悪いですが‥‥。ゆっくりされた方がいいかもしれませんよ」
『??』
 お化け屋敷だというのに、悲鳴も上げずに歩く少女。
 心配そうに自分を見つめる視線達に、無論、彼女は気付いてはいないだろうが。
「一緒に‥‥って言ったのに‥‥!」
 自分の考えの中に落ち込んでいた少女は、その時、やっと気がついた。
 足音がする。
 ぺた、ぺたぺた、ぺたぺたぺたぺた。
 自分が歩けば歩き、自分が止まれば止まる。同じリズムの足音。
「誰です!」
 振り返るが、誰もいない。誰の気配も無い。
 もう一度、前を向き歩き始める。濡れたような足音が一緒にまたついてくる。
「誰!」
 振り返る。今度はそこに、
『こんちわ』
 柔らかい笑顔で微笑む、女性がいた。墨染めの衣を纏った大人の女性。
「貴方は‥‥」
『ここの従業員や。一緒にお茶でもいかがかいな?』
「お茶‥‥ですか?」
 お化け屋敷には似合わんかもしれんけどな。おっとりと笑う彼女の誘いを、断る気にはなれなくてついていく。
 どうせ、一人だ。
『あんさんの名前は?』
「ルフィスリーザ・カティア(ea2843)です」
 静かに自分の名前を告げて。

『恋人と一緒に来るはずだったんかいな?』
 出された暖かいお茶をルフィスリーザは喉に通し頷いた。
 途中で怖くなった人の為の休憩所だと言われた場所は、お化け屋敷の中とは思えないほど、明るく緊張が緩む場所だった。
「あれもしたい、これもしたい。と‥‥思っていたのですけど」
 一人ではそれも無意味なこと。
 約束の刻限を過ぎ、日が変わっても彼は、来てはくれなかった。
 半ば自棄になってお化け屋敷に入ってみたもののお化けたちよりもお化けらしかったかもしれないと自嘲する。
 きっと理由があったのだと解っている。だが‥‥それでも彼女は一人だ。
 心が下を向く。その時
『寂しかったなあ。可愛い浴衣でおめかししてきたのになあ』
 従業員であるその女性はルフィスリーザを抱きしめたのだ。
 腕のほのかな温もりが肩に伝わる。
『でもな、きっといいこと、またあるからな。落ち込みすぎたらあかんで!』
 包み込むような優しさに胸が熱くなる。
『もうそろそろ、閉場であるが‥‥。なにしてるのでござる?』
『あ、さっきのお姉ちゃんだ!』
『おや、具合が悪かったのですか? お加減は如何ですか?』
 いつの間にか、部屋の中はお化けたちで溢れていた。大きいお化け、小さいお化け。だが一様にその笑顔は優しい。
『お姉ちゃん? だいじょうぶ?』
 足元に少女が膝をついていた。ハーフエルフの少女。心から心配そうな顔をしてくれている。
「大丈夫。なんでもないから」
 笑顔を作るルフィスリーザにそう、と立ち上がり、少女はまた膝を折った。
『これあげる。昔、曾お祖父ちゃんと曾お祖母ちゃんが持ってたんだって』
 鳥を象った小さなペンダントが二つ、紫陽花の花の上に乗った。少女の思い。ルフィスリーザはそれをしっかりと握りしめる。
「ありがとう。大事にします‥‥」
 お化け達は、目を閉じたルフィスリーザを静かに見つめていた。

 かくしてそれぞれの、夏の思い出を作り出した場は幕を下ろす。
「また‥‥来年」
 それぞれの胸の内にそんな言葉にならない約束を残して‥‥。