幽霊達からのラブソング

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月12日

●オープニング

『くすくすくす‥』
 
 酷暑、猛暑、残暑(最後のは少し違う気もするが‥)
 今年の太陽は、何故だか異様に元気いっぱいで、おかげでイギリスも異常なまでの暑さに悩まされていた。
 夏の暑さというのは、イギリスをはじめとする現在のヨーロッパでは結構深刻である。
 何故なら、暑さをしのぐ方法と言うものが殆ど存在しないからである。
 氷は貴重品。涼を取る方法は水風呂かシャワーのみ。
 しかも中にはこの暑い中、全身黒服を着てみたり、ぶ厚い鉄の鎧を纏うものもいる。
 ゆえに彼らはこう叫ぶ。
「誰でもいい、この暑さをなんとかしてくれ〜〜!」

 その声は天には届かない。だが、ある一人の人物の耳には届いた。若き、アイデアいっぱいの商人だった。
「みんな、この暑さにまいってるだな。ってことは、なんとかすれば大もうけ‥。よっし!」
 彼はある案を考えた。我ながら名案。その為に早速準備だ〜!
 そうと決めると彼の行動は早かった。何故か古い館、ボロの館の不動産を探す。
 そして、幸い郊外にいい感じに寂れた館も見つけた。交渉準備に入る。
 が、交渉をはじめるやいなや、格安で、家主は貸す、いや、売るとまでも言い出した。
「何かあるんですか?」
 彼も場数を踏んできた商人である。安いに超したことは無いが安すぎたり好条件だったりする物件には必ず訳がある‥。問い詰めると、家主は実は‥と語り始めた。あの館には幽霊がいるのだと‥
「幽霊?」
 100年以上前の貴族の幽霊。
 昔その館で家族四人が殺されたが、その霊が一番幸せだった時間のままあの館に住んでいると‥家主は言った。
「そいつらは、あの館が好きで‥しかも退屈してる。館に来る奴にちょっかいを出して楽しんでるんだ。目眩を起こしたり、落ちてきたものでケガをした奴も少なくないんだよなあ‥。それでも欲しいのかい?」
 商人は家主の言葉に、その館を見に行った。
 いくつかの包帯を身体に巻いて帰ってきた彼に、家主はまたダメだろうと諦めた。
 ところが、帰ってきてすぐに‥彼は手付けを払ったと言う。
 理由は?
「絶好!」
 正式のその館の主となった彼は、扉を見ながら考える。
 確かにいい物件が手に入ったが‥流石にこのままでは‥。
 
「と、言うわけであの館の掃除を頼みたい。物理的な意味以外の意味で、だ」
 商人は冒険者たちにそう依頼した。
「あの館には大人二人、子供二人のゴーストが住んでいる。彼らをなんとかして欲しいんだ」
 なんとか、は別段彼らを倒すことだけではない、と商人は言う。
「なんとかして欲しいって‥退治して欲しいのではないか?」
「いや、退治してもらってもいいんだが‥ちょっと考えがあってな。あそこのゴーストが人間を傷つけないと約束してくれればそれでいいんだ。だから、説得って手もありだと思う」
(「いてくれたほうが都合がいいし‥」)
 小さな彼の呟きは聞こえない。
「説得? できるのか?」
「姿は見えるし、声も聞こえる。彼らの悪戯を耐えて交渉できれば‥なんとかなると思うが‥?」
「自分でなんとかしよう、って気は‥無いんだな?」
「私は‥その‥準備があるし〜〜」
 ‥どうやら怖いからイヤというのが本音らしい。
 だが、何故ゴーストがいる屋敷を買うのか? そこで彼は何をしようとしているのか‥?
「それに、ほら! 涼しくなれるかもしれないぞ! 成功したら依頼料ははずむから」

 謎は残るが、とにかく暑い。
 この暑さにはどうせ煮詰まっていたし、やってみてもいいか?
 冒険者たちの何人かは、そう考えた。

『新しいお客さんがまた来るよ』
『楽しみだな。皆、丁重にお出迎えを』
『またおもてなしができるのですね』
『一緒にあそんでくれるかなあ‥』

『くすくすくす‥』

●今回の参加者

 ea0665 アルテリア・リシア(29歳・♀・陰陽師・エルフ・イスパニア王国)
 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0854 リディア・ペンタクルス(25歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 古い‥扉を開ける。
 中には埃と、閉じた空気の匂い。何が彼らを待っているのだろうか?

「うー‥普通の家‥の筈なんですけどやっぱり何か違いますねぇ」
 館の前に立ったルーシェ・アトレリア(ea0749)は建物を見上げるアルテリア・リシア(ea0665)の服を引く。アルテリアは礼服を着こなし優美な装いだ。
「貴族の館だもの、礼儀は尽くさないとね」
「こちらが礼儀を守っても相手が礼を返すとは限らんぞ。何せ相手は幽霊じゃ。う〜ん‥重い‥任せた」
 家主から貰った地図はシフールには重い。ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が投げたそれを、時雨桜華(ea2366)はキャッチして開いた。
「入り口中心に左右対称の建物‥部屋も右と左にある。二手に別れて調べるのがいいな」
 横から地図を覗き込んだアーウィン・ラグレス(ea0780)はそうだな、と頷き、言う。
「で‥どう分ける?」
 ‥‥‥。
「そう言えば決めて無かったですわね」
 アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は冷静だが‥ミスに変わりない。
「仕方ない。天の神様の言う通り!」
 アーウィンのコイントスで、右にアーウィンとアルテリア、アクテとリディア・ペンタクルス(ea0854)が、左に桜華とユラヴィカ、ルーシェにエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が行くことになる。
「‥不安な班分けだけど、これでって‥リディア‥装備大丈夫か?」
「あれ? 旅人らしくしたんだけど、動きづらい‥ね」
「あちゃ‥パラがそんな装備したら何もできないって。マント脱いで。鎧も‥今回は要らないわ」
 アルテリアは駆け寄ってリディアの装備を外していく。
「初仕事ですね。自分の体力と装備は考えて下さい」
「と、言うあんたも荷物持ってちゃ歩けねえぜ、ここに置いていけよ」
 リディア諌めるアクテをさらにアーウィンは諌めて、荷物整理の面倒を見る。
「ま・行くか。其れでは、幽霊屋敷探索を敢行‥んけけけぇ〜!」
 バチン!
「奇声をあげるな! 子供が怯える」
 ユラヴィカが桜華にツッコミを入れる。
 チーム分け以外にも小さくない不安を胸に残しながら、彼らは扉を開けた‥

 この館は末流の貴族が最後に住んでいたと、家主は言う。死因は財産狙いの縁者による毒殺だとか。
 その縁者は幽霊達に追い出され、以降誰もすまない荒れた館だが、周囲の評判はさして悪くない。
 彼らは生前貴族の中でも優しく気さくな者達であった事からだが、それでも来る者はない。住まう者もない。
「入っても構いませんか? 入らせてもらいま〜す」
「まずは館の主人を‥!」
『私をお呼びかな? お客人』
「げっ?」
 全員の足が凍ったように動かない。彼らの前に一つの影が現れた。
『我らの館へようこそ。歓迎しよう。冒険者よ』
 優雅にお辞儀をする彼が、館の主だという事は簡単に知れる。
「あの‥話が‥!」
『話は後ほど。私の元に辿りついた時に。それまでこの館を存分に楽しまれよ。‥待っておる』 
 影は静かに消えた。
「たどり着く事こそ試練か。行くしかないな」
「そうじゃな」
 アーウィンとユラヴィカが頷き合う。それを合図に中央の大階段から右と左、彼らは別れ闇に消えた。

 ‥テーブルの上には、たくさんの料理が並べられていた。
「こんなとこに、なんで料理?」
『お客さま、お腹はすいておられませんか?』
 くすくす‥、笑い声と共に一人の貴婦人が現れた。彼女は宙に浮かび、くるり回ってお辞儀をする。
「あら綺麗な方。このくらいの幽霊でしたら可愛いものですわ」
 彼女はニッコリと食卓を指差す。
『キドニーパイはいかが?』
「僕、食べたいなあ」
 意味深な幽霊のお誘いに、警戒気味の冒険者の中で唯一人、興味深げに近寄ったのはリディアだった。
「止めとけ。100年前のパイだぞ?」
 服を引っ張るアーウィンの言葉に、あ! リディアは立ち止まる。
「やっぱ、いらな‥」
『どうぞ召し上がれ♪』
 ヒュン! 何かが飛んできた。本来はリディアに当たる物。だがパイはパラの頭上をすり抜け吸い込まれる。アクテの‥顔に。
「キャ!」
「アクテさん!」
 二つ目、三つ目。パイは飛んでくるがアルテリアは軽く身をかわしてアクテに駆け寄る。
 倒れたアクテは自分で立ち上がったが‥アルテリアは驚いた。彼女の目つきが‥変わってる。
「‥貴方、これが貴婦人のすることですの! 事と次第ではアンデッドの専門家を呼びますわよ」
 幽霊婦人は二人の前に降りて‥微笑む。
『お口に合いませんでした? では後ほど‥』
 テーブルに布がかかり‥パチン、音と共に全てが消えた。貴婦人も料理も、アクテの顔に当たったパイも、そして‥
「あ〜! マントが無い〜」
 アルテリアの声が響く。さっき料理と共に消えた布が?
「許せない! 絶対弁償して貰うわ!」
 握り拳のアルテリアはスタスタ扉に戻る。
「早く行きましょう! 主に会いに!」
 アルテリアの様子にアクテは逆に頭が冷えた。リディアもアーウィンも後を追って走り出す。
 
『キャハハ』『くすくす‥もっと遊ぼ♪』
 ‥彼らは、子供幽霊のおもちゃと化していた。
「あ〜ん、髪の毛引っ張らないで〜」
 テレパシーの集中もできずルーシェは頭を抱えた。途端に彼らはフッと消える。
「やれやれ、これで‥」
「う・う・」
「何だ? 変な声出して」
 ルーシェを助けた桜華の前でユラヴィカが震える指を差し出した。桜華の背後に向けてお約束の‥
「後ろ後ろー!」
「へ?」
『うらめしや〜♪ な〜んてね』
「うわっ!」
 顔から0cmに現れた白い顔、触れられた手。桜華はくらり、目を回す。だが日本武士。一瞬後には‥キレた。
「おんどりゃぁ、何晒しとんじゃぁかかってこんかいぃ!」
 日本刀を振り回す。が幽霊には当然効かない。それどころか落とした荷物を彼らは探っている?
『これ美味しい? もーらい♪』
「俺の発泡酒!」
『まず〜。そっちはどう?』
『これは美味しそうよ』
「保存食まで! 返せ!」
 完全に遊ばれている。発泡酒は空になってしまったが、まだ無事な保存食を取り戻そうと桜華は手を伸がすが‥
『パス!』
『あっ! へたっぴ』
 保存食は幽霊の手を離れ、エヴァーグリーンの手元に落ちた。彼女はそれを見つめ‥
「‥ぱす!」
「『『えっ?』』」
 桜華だけでなく子供達まで驚く行為。
 投げ返したのだ。幽霊の子に向けて。
「こんなのは危険な雪合戦とか剣士ゴッコだと思えばいーの! あそびましょーよ」
 ね? 無邪気な笑みに子供達は顔を見合わせた。そして‥消える。
「あれ? なんできえたの?」
「‥さてな? だが‥罪の無い子供の遊びじゃ。ここの幽霊の悪戯は」
 首を傾げるエヴァーグリーンの肩で、ユラヴィカは呟く。
「と、とにかく早く先へ!」
 完全に怯え気味のルーシェに頷いて、彼らも部屋を出た。

 偶然か? 必然か?
 冒険者達はある部屋の前で再会した。
 館の二階中央。唯一残った未調査の部屋。
 彼らは‥扉を開けた。
『おや、早かったね』
 予想通り、最初に出会った影がそこにいた。
『楽しんで頂けたかな?』
「話の前に、私のマント弁償‥」
 アルテリアが詰め寄るのを、アーウィンは制す。
「ちょーっと質問、よろしいかな?」
『どうぞ?』
「悪いけど、さっきので全部とは‥思えないんだな、コレが?」
 悪戯はたくさん仕掛けられていた。だが、重傷に至るようなものは無い。
 アーウィンは警戒したが『彼』は首を振る。
『いや全てだ。君らは、勝利者だよ。望みは我々の浄化かね? ならば従うが‥』
(「なんか、寂しそう‥」)
「あ・あの‥」
 エヴァーグリーンは前に出ると必死で説得を始めた。
「家から離れたくないのだったら現世の人に貸したらお家壊されませんしお化け屋敷作って皆を怖さで震え上がらせようって貸してる人が考えたら契約結んで儲けの何割かもらって家の修繕も可能じゃないですか?このまんまだとお家どんどんぼろぼろになっちゃいますし怪我させたら誰も来なくなっちゃうから怪我させない程度にモノ落としたりとかして驚かす事中心に貴族はすまーとなものなんでしょう」
 拙いが一生懸命言葉を吐き出した彼女は‥
「えっ?」
 ふわり頭を撫でられた気がした。彼は‥笑っている?
『我らは‥もっと生きたかった。もっと人と関わりたかった、それだけなのだ』
(「なのに皆‥恐れる」)
「なら、ここにいるが良かろう。今の持ち主はそなた等を歓迎しておるようじゃ」
「来た人に怪我をさせないで欲しいと言うことです。私達のように‥」
 お客好きが高じた悪戯であると気付いたユラヴィカとアクテは優しく告げた。
 幽霊は恐れられる。だが‥愛しき者だと何故か今は思えた。
『そなたらのように我々を恐れない者が? ならば話を聞こう。それくらいの約束は容易いことだしな』
「ホントに〜?」
 マントを取られたアルテリアは疑い深い。そこに‥
 バサッ!
「うわっ 何?」
 マントが落ちてきた。古いが彼女の物よりも上質だ。
『詫びに進ぜよう。売るなり使うなり好きにするがよい』
「あら? ありがと」
「結構話が解るんじゃねえか?」
 桜華も金貨を貰ってご機嫌だ。
「あんたらも、この世界に生きて‥はいないが存在してる。共存できるかもな?」
『ああ、我らもそれを望む。また、遊びに来てくれ』
 彼の側にいつの間にか家族幽霊達も集まり微笑んだ。冒険者達も微笑みを返し、そして頷いたのだった。

「はー幽霊は当分、こりごりですぅ」
「でも‥結局の所、こんな化け物屋敷どうしたいんだ?」
 ルーシェの言葉に桜華は肩を竦めた。リディアにはなんとなく想像はつく。きっと‥
「面白そうだよね♪」
「‥あら?」
 エヴァーグリーンは首元に触れた。彼らがくれた宝箱に入っていた首飾り。あの子達の生きていた時の宝物‥
『ありがと、お姉ちゃん』
『また、遊んでね』
 寂しがり屋の幽霊達のラブソング
 彼らの声が聞こえたようで彼女は館を振り返り静かに見つめていた。