【見習い絵師奮戦記】薄暗闇の歌声

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月22日〜08月27日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

「あれ? 確か、ここにお弁当、置いておいたはずなのに?」
 自分の斜め後ろを手探りで探していた彼は、触れるはずのものの感覚を求めてペンを横に置き身体を捻る。
 視線を向けてもやはり、そこには求めていたものは無かった。
「おかしいなあ。まだ全然手をつけるどころか、袋から出してもいなかったのにどうして?」
 首を傾げて前を向く。
 フィールドワークの途中、いい場所を見つけてスケッチに来たのが今日の昼前のこと。
 綺麗な夏の景色に魅入って、スケッチに夢中になっていたのは事実だが、無意識に食事をしたのだろうか?
「そこまでボケていないつもりだったけどな、仕方ない水でも‥‥って、あれ?」
 帽子をかぶり立ち上がる。
 水でも飲もう、そう思った時、また彼は目を瞬かせる。
「マントが無い? あれ? 確かにここにかけておいたはずなのに? まさかどろぼう?」
 木の周りを下を見ながらぐるぐる回る。
 勿論、人はおろか動物の足跡も見えない。
「‥‥なんでだろう? 何かお化けでもいるのかなあ?」
 一人の森が急に、薄暗く気味悪いものに感じるようになってしまった。
 日が翳り、泉が薄灰色に染まる。
 ざわざわと木々を鳴らす風音さえ、何かの叫び声に聞こえるのは気のせいのはずだ。
「今日は、もう帰ろう‥‥マントは後で捜しに‥‥って‥‥え゛?」
 振り返ったリドは、『それ』と目が合った。
 漆黒の身体。闇色の頭。ぬばたまの瞳。
『それ』は見つかった。 そんな驚きの表情で彼を見つめると身体を一瞬硬直させ‥‥すぐに彼に向かって飛びかかってきた!
「うわああ!!」
 高らかな悲鳴が森に響き渡って‥‥そして‥‥

「森で僕の宝物を取られてしまったんですぅ〜」
 泣きながら若い絵師リドが冒険者ギルドにやってきたのは、その日の夕方のことだった。
「で、盗られたのは弁当と、マント。それから帽子についていた飾りブローチだな?」
「はい‥‥。あとは羽ペン。妹から貰って大事にしてたペンなんです‥‥」
 俯きながら彼は頷く。
「帽子から毟って飛んでいってしまいました‥‥。捕まえようにも方法が無かったし、空にはもう一羽つがいっぽいのがいて‥‥こっちを睨んでて‥‥」
「飛んでったって‥‥それを盗んだ奴は人間じゃなくて‥‥」
「カラスです。それも普通のカラスの二倍はあろうかっていう大きなジャイアントクロウ‥‥。あんなの見たの初めてです‥‥」
「そういえば最近、森とか街道で猟師や旅人が似たような感じで服や食べ物。あと光り物を狙われているって話を聞いたな。最近森のどっかに巣を作ったつがいのカラスがいたらしいが‥‥」
 係員は思い出すように言った。
 カラスは光り物を集めてくるのが好きだと言うから、巣を見つけられれば取られたものを取り戻すことはできるかもしれないが、問題はある。
 森のどこにいるか解らないのだ。
 被害にあった人達に話によればキャメロットの南の森の街道沿いでカラスはよく目撃されるらしいが‥‥。
「森の中じゃ、捜すの簡単じゃないですよね。マントや食べ物はどうでもいいんですけど‥‥でも、できれば、ペンとブローチは取り返したいんです。あれは、僕にとって本当に大事なものなので‥‥」
 わかったと、係員は依頼書を書く。‥‥書きながらふと顔を上げる。
 そこには、いかにも何か言いたげな顔のリドがいた。
「あんた、また一緒に行きたいか? そのカラスを見に‥‥」 
 冗談半分だったが、はい。と思ったより素直にリドは頷く。
「皆さんが、邪魔だと言うなら我慢しますが、できれば‥‥。いろいろな生き物をできれば間近で見たいんです」
 それには係員は答えない。決めるのは冒険者だから。
 とりあえず、カラス捕縛の依頼はこうして出された。

 オレンジ色の空をカラスが舞う。
 微かに‥‥声が聞こえる。
 大きな声、小さな声がまるでカノンのように、歌うように‥‥。

●今回の参加者

 ea1137 麗 蒼月(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

○四人目の仲間
「あれは‥‥なんでございましょうか?」
 御門魔諭羅(eb1915)は目を瞬かせた。無意識に手が胸の前で組まれている。
「な・なんでしょうね? 本当に」
 横でワケギ・ハルハラ(ea9957)も微かに頷く。
 あまりにも強烈で目が離せない。前では同じように青年がぽかんと口を開けている。
 あれは、目の前で手を振っても気付かないだろが‥‥無理も無い。
 冒険者ギルドのど真ん中。こぶしを利かせて歌う人物がいる。
 仮面を被り、金の冠を頭に乗せて、羽根のような服をはためかせ
「着ぐるみ一筋♪〜 うん数年〜」
 まるで、年に一度の舞台で歌うどこかの誰かのように浪々と、技術の無い歌を歌う彼はどう見ても‥‥
「忍び、忍ばぬ〜、し〜の〜〜〜び道ぃ〜♪」
 怪しい人物にしか見えないのだ。
「ふう、いい汗をかいたでござる。でも‥‥あれ?」
 歌い終わって満足げに笑う彼を、向かえた空気はどん引きで‥‥、何故か冷たかった。
 思わずは寂しい鳥は自分自身を抱きしめる。
 真夏、八月だと言うのに羽毛でも暖められない、どこまでも限り無い極寒の風が冒険者ギルドに音を立てて吹き荒れていた。

 固まっていた青年が、なんとか溶けて依頼人だと気付いてよりしばし。
 三人の冒険者達は彼を囲んでテーブルについていた。
「これは、お見苦しい所をお見せしたでござるな。ちょっとうれしいことがあったもので」
 葉霧幻蔵(ea5683)はそう言って頭を下げる。
 ちなみに衣装は変わっていない。これが平服というか彼の武装なのである。
 世間一般が持つ忍者のイメージとはあまりにもかけ離れた存在に依頼人は目を瞬かせるが。
「まあ、いろいろな方がいるということです。とにかく‥‥仕事の話をいたしましょう。リドさん、でしたか。事情を伺えますか?」
 以前共に仕事をしたことがある二人はいく分か慣れがある。 
 依頼人を上手に促して、仕事の話に場を戻していった。
「あ・はい。大体はギルドに話したとおりです」
 改めて事情を説明し、時に細かい場所や状況を補足してから彼は言う。
「基本的に、今回の依頼は退治では無いです。僕の不注意もあるし、今のところ彼らは人間にも被害を与えていないので‥‥大事なペンとブローチを取り返せれば僕は‥‥」
 それでいい、と少し声のトーンを下げて言う。
「その姿勢に異論はございません。無用な殺生はしないに越した事はございませんから。‥‥ですが‥‥」
 言葉尻を濁す魔諭羅の気持ちを代弁するように真面目な瞳でワケギは依頼人に問う。
「貴方は絵師で様々な生き物を目で見たいと望んでおられると聞いています。退治をしないなら街に連れて来る必要もありませんのでそのジャイアントクロウを見たいと思うなら、一緒に来て頂くしかありません。ですが‥‥どうしても来たいですか?」
 ワケギの目がさらに真剣みを帯びる。リドの瞳を真っ直ぐに見つめて。
「正直に言いましょう。今回、貴方の依頼に応じたのは思ったより少なくて見てのとおり三人。三人でジャイアントクロウ二匹をなんとかしなくてはならない訳です」
「はい」
 瞳を逸らしリドは下を向く。本当はもう一人いたはずだが、その人物はここに現れてはいない。
 現れていない以上、当てには出来ず、当てに出来ない以上戦うのは三人だけ、ということになる。
「できる限りのことはしますが、依頼が成功するとは限らない。貴方が同行した場合、守りきれるとも限らない訳です。僕らも奪われた品物を取り戻すのが依頼である以上、貴方の保護よりもそちらを優先するかもしれない」
 無論見捨てるつもりなどは無いが、それを表には出さず、少し厳しくワケギは続ける。
「はい」
 と答えたリドの声のトーンはさらに下がる。それをさらに抉るように
「それでも、命を賭けても一緒に来たいと望みますか?」
 問うたワケギに
「はい!」
 リドは迷いの無い視線で答えていた。
「僕は、以前、冒険者の方達と約束したんです。今のままでいいと思っちゃいけない。いろんな事を経験して成長すると。ホンモノの絵師になると。だから‥‥経験の機会を叶うなら逃したくない。自分の身は自分で守ります。だから!」
 真剣な眼差しで食い下がろうとするリドを
「はい。解りました。一緒に行きましょう」
 ワケギは微笑と共にあっさりと受け入れた。
「えっ?」
 見れば魔諭羅も幻蔵も笑っている。この展開を最初から解っていたと言うように。
「意思を確認したかっただけです。どうしても、というのであれば最初からご同行して頂くつもりでしたから。僕にも解りますからね。上を目指したいという気持ちは‥‥」
「えっ?」
 二度目の疑問符に答えず、ワケギは立ち上がる。
「行きましょう。でも無理はしないで下さい」
 彼の、彼らの思いをしっかりと受け止めて‥‥
「はい!」
 リドは彼らの後を追いかけた。

○おとり? 大作戦
 金貨を空に翳していたワケギは、ふうと大きなため息をついて手を下げた。
「どうですか?」
 魔諭羅の問いに静かに首を横に振って。
「ダメですね。ペンの位置を聞いてみたのですが、解らないと言われてしまいました。巣の中に持ち込んだりしているのならしかたないのでしょうが‥‥」
「そうですか‥‥なら、やっぱり‥‥」
「拙者の出番でござるなっ!!」
 準備万端と飛び出した幻蔵をワケギと魔諭羅は目元を手で隠して見つめる。
 あまりにも眩しすぎて直視できない。
 頭は豪奢なトルクに、真珠のティアラ。銀の髪飾りでピカピカ。
 胸元は大きなラッキースターと見事な石のついたローズ・ブローチ。
 指先には金の指輪に魔法の指輪。
 コーディネート無視のコガネムシがそこにいる。
「どうしたんです? その格好?」
 事情を知らないリドは後ろの方でぽかんと口を開けている。
「絵師殿と、ワケギ殿の調査でせっかくジャイアントクロウの餌場の当たりをつけたのでござる! そして! この! 宝飾品の数々! これだけの品を身に付けていれば、どんなに好みの煩いジャイアントクロウであろうともきっとお気に入りの逸品が見つかるでござろう」
「囮を使ってジャイアントクロウをおびき寄せ、戻るところを追跡し、巣を見つけ出す。‥‥確かにそれが一番確実かもしれませんわね」
「危険だから、できれば僕は別の方法を考えたかったのですが‥‥仕方ありませんね」
 うむと頷いて幻蔵はリドの方に向き直る。
「では、絵師殿、教えてくだされ」
「‥‥は、はい。何でしょうか?」
 眩しい物理的後光を放つ彼に少し慄いた彼に‥‥幻蔵はニッコリと笑って見せた。
「この辺で絶好のお昼寝ポイントをでござる!」

 リドが以前スケッチに訪れ、ジャイアントクロウに襲われた地点を教えてもらい、幻蔵はごろり、地面に横になった。
「ほほう。なかなか景色がいいでござるな」
 空は雲ひとつ無い快晴。
 真夏の酷暑が少し収まってきた森はなかなかに快適で本当に欠伸が出そうだった。
 仲間達は周囲で隠れてこちらを見ているはず。
 ならば動かず静かに‥‥。
 目を閉じ、身体を伸ばし息を静める。
 そのうちに、
「ふわあああ!」
 本当に大きな欠伸が口からついて出る。
 その時。眠気を払うために開いた目の真ん前に、漆黒の顔と瞳が覗いていた。
「うわあっ! い、何時の間に!」
 驚いたのは向こうも同じだったらしく、どちらとも飛び逃げるように、後ずさりお互いを睨みつける。
 幻蔵の目の前にいるのは紛れも無く烏。クロウに分類される生物だった。
 体長1m程。強い敵には思えないがその口元には‥‥
「あっ! それは!」
 頭に付けていた真珠のティアラが咥えられている。
「拙者のでござる! 返すで‥‥っと、ウテテテテ! 痛い! 痛いでござる!!」
 突然幻蔵は声を上げ頭を押さえた。前方にはまだクロウがいる。だが今、幻蔵は背後からの奇襲に頭を抱えていた。
 目の前にクロウがいるということは、こちらがもう一匹のクロウ。
 そういえば二体いたようだ。といわれていたのをここで、幻蔵は始めて思い出した。
 そしてタイミングを見計らっていたように、もう一匹も襲い掛かってくる。
 前後からの同時攻撃。
「くっ! 今、倒す訳にはいかぬ‥‥」
 あんまり欲張るな、それを持ってとっとと巣に戻れ。
 そう思いながら頭を押さえた幻蔵が呟いた時。
「月影の調よ、彼の者を眠りへと誘え」
「‥‥あれ?」
 澄んだ声とぱさりという音。それらと共にあっさりと攻撃は止んだ。
 自分ではない声の主に心当たりはある。
 幻蔵は顔を上げて周囲を良く見た。前と後ろに落ちたジャイアントクロウがいる。
 振り返り、木の影を見た。
 そこには微笑む、仲間達がいた。

○取り戻した宝物
「やっぱり‥‥」
 木の上の巣の中を覗き込んだワケギは小さくため息をついた。
「どうでござる?」
 下から上に声がかかる。ワケギは上から下に声を返した。
「子供が居ます。巣立ちまであと少しのジャイアントクロウの子です。五羽いますね」
 巣の中からぴいぴい、ちいちいとこちらに向けて嘴を向けている。
 戻ってこない親を心配しているのか、それともワケギを戻ってきた親と思っているのか。
 丸く黒い愛らしい瞳で見つめられると、正直手荒な事は極力避けたいと思ってしまう。
「さて、どうしたものでしょうか?」
 ワケギはふわふわと頼りなく浮かぶ空の上、腕を組んで呟いた。
 幻蔵の宝飾品を狙ってやってきたクロウ達に案内して貰って彼らはここに辿り着いた。
 魔諭羅のスリープで眠らせた無防備な所を、ワケギのチャームで魅了したのだ。
 襲撃場所から巣は思ったより遠く少し苦労したものの冒険者達は、なんとかジャイアントクロウの巣を見つけることができたのだ。
 あとは、巣の中から依頼の品を見つけ出すだけ。
 だが、いかに好意を持ってくれたとはいえ、自分の巣を漁らせてくれるとは思えない。
「ワケギ様! 巣の中を調べることはできますか? 眠らせたクロウ達が何時目覚めるかもしれません。できればお急ぎになって!」
「解っています。さて、決心を固めるべき‥‥ですかね」
 解っている。魔諭羅の魔法も、自分の魔法も、そう長い時間続くものではない。
 この木は高すぎて、幻蔵ですら、簡単に登って上がることはできない。
 今、巣に手を伸ばせるのは自分だけ。空を飛ぶ魔法をかけた自分だけ。
 ごくり、喉を鳴らす。
 目の前にいるのはジャイアントクロウの雛だ。雛であってもその大きさは決して普通の鳥と引けをとるものではないだろう。
 嘴は結構鋭そうに見える。
 それでも
『‥‥妹から貰った大切な品なんです』
 ワケギは唾を飲み込んだ。そして、巣の中に手を伸ばす‥‥。

 梢は高く、深く簡単には上が見えない。
「大丈夫でしょうか‥‥」
 心配そうに魔諭羅は何度も木々のそのまた上を見上げている。
 幻蔵はクロウ達を抑えながら、リドも荷物を守りながらじっと空を見つめている。
 突然!
 頭上に影が走る。ガサガサがさと言う音。落ちてくる何か!
「幻蔵様、お願いします!」
「任せるでござる。っとおお!!!」
 魔諭羅の声に反応し、忍者の素早さで幻蔵は落下してきたそれを素早く受け止めた。
「ワケギさん! 大丈夫ですか?」
 リドは幻蔵の腕の中のワケギに駆け寄る。彼の手や顔は、まるでナイフで引っかかれたような傷がそこかしこにあった。一つ一つの傷は多くは無いが、数が多い。
「絵師殿。カバンの中の薬を!」
「はい!」
 言われるまま差し出した薬をワケギの口に注ぎ込む。
 薬を飲み込んだワケギは、直ぐに目を細く開ける。
「良かった。気がつきましたのね」
「‥‥はい。すみません。最後に少し失敗してしまいました。‥‥そうだ。リドさん」
 小さく笑いながらワケギはリドを手招きする。
 そして、伸ばした手を彼の手のひらに重ねた。触れる温もりと、硬い何か。
「これは‥‥」
「なんとか見つけました。これが依頼の品に間違いありませんか?」
「はい」
 と多分リドは頷いた。その表情が答えていた。
 彼の宝物を抱きしめるその、笑顔が依頼の成功を。

○五つの子
「本当にいいのでござるか?」
 森を振り返り幻蔵はまだ心残りの口調で呟く。だが
「はい。子供の親を取る訳には行きませんし、ジャイアントクロウを街で飼うのは無理ですよ」
 そう答えたリドの口調は晴れやかだった。
「それにこの目で見ましたから。ジャイアントクロウと雛。その姿はもう、僕の胸の中にスケッチしてあります」
 強い眼差しに幻蔵ももう何も言いはしなかった。
「これに懲りておいたをしなくなれば良いのですけれど‥‥」
「納得して、くれたのでしょうか」
 心配の面持ちでワケギと魔諭羅は呟く。と同時に誰となく、示し合わせた訳でもなく全員が同じ方向を向いた。
 暮れかけた日の向こうにある今は、もう遠くて見えない小さな家族の巣を。
「悪さはもうしないで下さい。人間のモノをとると人間の恨みをかいます。それは、貴方達にとっても良くないことですよ」
 ワケギは眠りから目覚めたクロウ達にそう言って聞かせた。
 ワケギはテレパシーが使えるわけではない。動物と心を通わせるのは水の魔法使いには専門外だ。
 だから、あくまで人間の言葉で話して聞かせただけ。ちゃんと伝わっているとは自分でも正直思えていない。
 だが、できるなら祈りたかった。自分の言葉は彼らに通じていると。
 自己満足かもしれないが、そう信じたかった。
 ーー。 ァーー! クアーーッ!
「クロウ達の声?」
「子供達の声も、混じっているようですわね‥‥」
 静かな森の中で、冒険者達はしばし、彼らの歌声に耳を傾けていた。
 お互いの声を追いかけあい、答え、また追いかけるカノンのような歌声は聞きほれるほど美しくも無いが何故か心に響いた。
 ジャイアントクロウもモンスター。いずれあの子達も人に害を成すようになり、いつか冒険者が退治を依頼されることもあるかもしれない。
 でも。
 叶うならそんな時が来ないように。魔諭羅は空に向けて祈る。

 暮れる太陽と登る月の光が交じり合う宵闇はそんな冒険者達の思いと、歌声を包み込んでいった。


 街に戻ったワケギはクロウの巣の中で見つけた宝石や光り物をギルドを通し自警団に預けた。
 その中のいくつかは、持ち主の手に戻ったとか。
 彼らの笑顔が、冒険者にとって思わぬ報酬となったことは言うまでも無い。