命の水を守れ!

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜17lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月09日〜09月14日

リプレイ公開日:2006年09月16日

●オープニング

 イベントが行われると様々な経済効果が期待されると言われている。
 六月のジェーンブライドでは、ドレスや宝飾品の売り上げが目覚しかったらしい。
 そして今月、王都では園遊会が開かれていた。
 冒険者同士が酒を酌み交わし、時に高貴な者達も共に楽しき夜を過ごしたと言う。
 だがその夢の後で‥‥

「お前さんたち、酒の無い宴会なんて耐えられるか?」
 ギルドの係員は真剣な顔でそう言った。
「どういうことだ?」
 冒険者の問いに係員は今、キャメロットの街では酒が不足気味であると話してくれた。
 先の園遊会では冒険者達も、結構な酒を飲んだ。
 冒険者も、円卓の騎士も。怪しき女でさえも‥‥。
 いろいろな人達と酌み交わす酒は思いの他美味かったのだが。
「皆そうだったんだろうし、元々今度の園遊会の為に、あちこちから酒が集められていたからな。だから、夜遅くまで皆で飲んでも酒は無くならなかったろう?」
 なるほど、と冒険者は思う。商人というものは目端が効くものだ。
「で、その結果、宴会が終った今、街全体で若干酒が不足気味になっている、という訳だ‥‥。解っていたことだから補充の手はうってあったはずなんだか、ちょっと問題がおきてな‥‥」
 その言葉に冒険者達は眉根を上げもう一度問う。
「どういうことなんだ?」
「キャメロットから東に二日ほど行ったところに街がある。そこは小さいが流通の拠点で、いろんな物資が集まる所なんだ」
 大よその地図を指し示してから係員は告げた。
 そこに今、集められた沢山の酒が眠っている。キャメロットとその間の街道に酒を奪う怪物が出るため酒を動かすことができないのだと。
「この間、積荷を運ぼうとキャラバンが街を出たら、途中でその荷が空中に浮いてどこへともなく消えてしまったんだそうだ。一応護衛は二〜三人いたらしいが、姿が見えない敵に手も足も出ず、いいように翻弄されているうちにあっと言う間に荷物の酒を全部奪われてしまったらしいぜ」
『あの敵は、一匹や二匹じゃない。十、いや二十はいたはずだ。見えない上に剣も通じない恐ろしい奴らだ。‥‥くそ! キキキという甲高い声が耳に付いて離れやしない』
 というのは役に立たなかった護衛の言い分だ。彼とて、いかに敵が見えなくても気配を察知し剣を振るうくらいはやったはずだが、
『剣が触れた感覚は何度かあった。けど、ダメージがいってる感じがまったくしなかったんだ!』
 当然敵を倒したという手ごたえもなく、敵の正体は解らないという。
 だが手掛かりは一つ有る。奴らが奪っていった荷物は、酒だけなのだ。
 姿を隠し、武器が通じない敵。そして、酒を狙うということは‥‥
「で、冒険者に依頼だ。その街に行って酒運搬の護衛をしてくれ。量はかなり多いぞ。エールが10樽にミードが3樽。シードルやワインを合わせると荷車二台分以上になる」
 それらを運ぶキャラバンの護衛が今回の仕事だ。
「失敗すれば、街は暫く酒不足になるかもしれないな。それに、気の抜けたエールも『ただ』じゃあすまないかもしれないぜ」
 笑いながら言った係員は冗談のつもりだったのかもしれないが、冒険者達には実は、なかなかに笑えない話だった。

 このまま街道の怪を放置しておくならば、いずれその手は街にも迫ってくるかもしれない。
 ならばここは一つ、と冒険者達は立ち上がる。
 ‥‥命の水を守る為に。

●今回の参加者

 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035

●リプレイ本文

○気の会った仲間達
「おや!」
 集まってきた仲間の顔を見て、クスと笑いながらフレイア・ヴォルフ(ea6557)は肩を上げた。
「知り合いの多い旅になりそうだね。気心の知れた相手が多いと助かるよ」
「確かに‥‥な」
 横で尾花満(ea5322)も唇を上げている。
 友達と言えるレベルの者も多いし、依頼で一緒だったとか、顔を覚えているというくらいであればほぼ全員が顔見知りだ。
 まあ、中には‥‥
「超☆紳士、マッスル仮面! この依頼に参加するのであ〜る!」
 なんて言う怪しい顔見知りもいるのだが。
「マックス。久しぶり。そのマスク熱くないかい?」
「な、何を言われる。我が輩は超☆紳士、マッスル仮面! 断じてマックス・アームストロング(ea6970)などと言う美丈夫では無いのである!」
「はいはい、マックス。あんたがいいなら、まあいいけどね」
 笑いながらフレイアは手を振る。拙者は〜、マッスル仮面である〜、という声は聞こえないフリ。
「今回はよろしくな。丁度思い切り身体を動かしたかったから、丁度いい」
「しかし、酒がそれほど足りなくなるとは、皆園遊会でどれほどの酒を飲んだんだ?」
 ぐるりと手を回して身体を伸ばすアラン・ハリファックス(ea4295)の後ろで、閃我絶狼(ea3991)は小さく笑った。
 ふと、足元を見ると横にいた狼が、微かにだが周囲に向かって唸りを上げている。
「こら、絶っ太! 他の犬を脅かすんじゃない!」
 軽く声で制止させ、膝を折ると言い聞かせる。
「いいか? お前は敵の気配を探る事だけに集中するんだぞ、どうせ普通の攻撃は効かないんだからな。他の犬達とも仲良くする、キャラバンの馬も脅かすんじゃないぞ」
 頷いたわけでは無論無いが、絶っ太は静かに一歩下がった。主の言葉に従ったのだろう。
 尻尾を下げていた愛犬を厭うようにテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)はその背中を撫でる。
 今回は見えない敵が相手。動物達の気配感知の力を頼りにペットを連れてきたのは彼だけではない。
 だから、撫で下ろされた胸も、どうやら一つではないようだ。
「キャラバンの皆さんは、向こうで準備をしながらお待ちになっているのですわよね。では、用意ができましたら出発いたしましょうか?」
 ほんわりと笑みを浮かべるシェリル・シンクレア(ea7263)にそうだね、と頷きながらフレイアは聞いた。ほんの少し疑問に思っていた事をだ。
「でも、酒の護衛の依頼でまさかシェリルと一緒になるとはね。あんた、ミルク派だろ?」
 ええ、と頷きながらシェリルはさらにふんわりと笑う。
「お酒が高騰すると、お酒好きの皆さんが大変ですし、ミルクの注文が増えて注文数が追いつかなくなると困るので〜」
「なるほど」
 納得と言う顔で、フレイアは笑った。チリンと彼女の笑みと共に鈴の音が鳴る。
「さて、行くとするか」
 荷物の中にいつもは入れない小袋を入れて準備完了。エヴィン・アグリッド(ea3647)の声に頷いて、冒険者達は歩き始めた。

○命の水との夜
 トコトコトコトコ。
 馬車がゆっくりと道を行く。空には落ちかけた夕日。道に影が伸びる。
 馬車は二台。二台にはお酒がいっぱい。
「いい匂いだね」
「犬達にはそうも行かないようであるがな」
「私は、この匂いだけで酔ってしまいそうです。ちょっと疲れたせいでしょうか?」
 楽しげに前を行く女性陣や、謎の仮面紳士に、微かに不安の表情を浮かべた商人がいる。
「ああ、見えて彼女達も歴戦の冒険者だ。甘く見るものではないな」
 心を見透かされたように顔を赤らめて俯く青年に、アランは笑って手を振った。
「戦闘になれば解るだろう。しかし‥‥透明で、通常の武器が効かず、なおかつ酒好きな敵か‥‥」
「やはり、グレムリンだろう」
 独り言のような呟きに同じ頭の高さから返事が聞こえた。
 アランが振り返るとそこにはエヴィンがいる。
「いつ襲ってくるか解らない。姿も見えない。用心はしておいた方がいいだろう」
「敵がグレムリン程度なら、準備もしてあるし、そう問題は無いと思うのだがな。ん?」
 会話の途中でふと、気付いたという顔をしたアランの視線の先には、エヴィンの手に握られている槍がある。
「その槍は黄槍ガ・ボーか?」
「それがどうした?」
 否定ではない返事に、クッと小さくアランは笑った。
「いや、なんでもない。フレイアが言ったとおり知り合いの多い旅だと思っただけだ。人同士だけではなく、武器までもとは」
 意味が一瞬解らず首を捻ったが、しばらくして彼も気付く。
「そうか‥‥それは」
 アランの装備している武器の名を。小さく頷きアランは笑う。
「滅多にあることでは無いだろうがな‥‥っと、じき暗くなる。野営の準備が必要だな」
 見れば、もう前の方は野営の準備を始めているようだ。
 絶狼が荷物のロープを確認し、満が竈でも作るのか石を積んでいる。 
「‥‥確かに、夜から朝にかけての襲撃が一番多いようだ。気を抜く訳にはいかないからな」
 言って馬を急がせる二人。彼らの間に生まれた微かな思いをまだ知る者は無い。

 夜、静かな空気の中絶狼は空を見上げた。
 手には酒樽から分けて貰ったエールのカップが握られている。いつもは気の抜けたエールを酒場で飲むことが多い。
 あれはあれで悪くは無いが、気の抜けてないエールもなかなかのものだ。
「‥‥酒‥‥か」
 カップの中身を喉に流してふと、息をつく。
「酒、か。もうこっちの気抜けエールにすっかり慣れ親しんでしまったが、故郷の酒はどんな味がしたんだったかね?」
 夕食、満の鳥料理にどこか懐かしいものを感じてふと、そんなことを思ってしまったと、自分に笑い、絶狼はまた酒を飲む。
 酔うほどではない。底冷えし始めた秋の夜長、身体を温めるだけ。
「ん?」
 視線を前にやり、あることに気付いて絶狼は微笑んだ。
 焚き火を共に囲むシェリルの頭が前後に動いている。やがて左右に、あれはどう見ても舟をこいでいる。
「シェリル!」
「‥‥ふみ! ごめんなさい。見張りなのに、眠くなってしまいました」
「疲れているなら、先に寝ておけ。魔法使いはゆっくり休んで体力を回復しておくのも仕事だ」
 目を擦るシェリルの肩をポンと叩いてエヴィンは促す。少し、躊躇うような目を向けたシェリルだったが、エヴィンの目を見てちょっとだけ考えて‥‥小さく首を縦に動かした。
「解りました。よろしくお願いします」
 頭を下げてテントに戻るシェリルとそれを見送るエヴィンを
「優しいのであるな?」
 自称マッスル仮面が笑いながら茶々を入れる。
 返事もせずに、槍の手入れをするエヴィン。本当に優しい、というのとは意味が違うし、他者が想像するようなこととも違う。
 ただ、時折思うのだ。今はなかなか会えない自分の大事な者を‥‥。
 泣き笑いとも言えない、怪しい笑みを浮かべつつエヴィンは目を軽く閉じる。
 今は、まだデビルの気配は無い。狼や犬達も静かだ。
 このまま、夜は終るだろう。襲撃はきっと、明日。
 それは、微かに感じた確信にも似た予感だった。

 さて、そんな予感を知ってか知らずか。
 見張りを終えた者達のテントの一つに、小さな魔境が開いていた。
 テントの明かりを見つめて身悶える男が‥‥一人。
「くうう〜〜っ。まったくあいつ等は依頼中に何をしてるんだ〜」
 アランはため息をつく。早く寝なくてはならないのは解っている。
 しかし、少し離れたその場所から足は一歩も動かない。
 テントのささやかな光と共に‥‥甘い嬌声が漏れ出でてくる。
「く‥‥あっ‥‥フ‥‥レイ‥‥ア」
「気持ちいいかい? 満? もっと気持ちよくしてあげるよ。さあ、どうして欲しい?」
「拙者に、選択権は‥‥無いのであろう。ならば‥‥はう! もう少し、優しく」
「解ったよ。こう‥‥かい?」
「! ‥‥うあっ‥‥!」
「待っておいで シェリル。目を輝かせて覗きに着たじゃないか? さあ、今度はあんたを、気持よくしてあ・げ・る・か・ら♪」
「ふ・フレイアさん?」
「さあ、おいで‥‥」
「えっ? あ‥‥ふあっ! いいっ! もっと‥‥強く! ああっ!」
「まったく、あいつらは何をやってるんだああ〜」
 その夜。遅くまで響いた声は、アランを完全に寝不足にしたという。
 閑話休題。

○真実を導く、白きゆき
 翌朝。笑顔のシェリルにエヴィンは口元を手で隠しながら声をかける。
「よく眠れたか?」
「はい! フレイアさんのおかげです。ありがとうございました」
「そりゃあ良かった」
 あくびをする満の横でフレイアは満足げに笑った。
 逆にアランは目を赤く充血させているが、微かな鈴の音に一瞬で眼つき、目の色が変化した。
 槍を持ち直し動物達を見る。
 それぞれの動物達も、背筋の毛を逆立てている。
「姿は見えなくても、この気配は消しようが無いということを、どうやらおいでのようだ。そうだな? モルゲンレーテ」
 主の頷くように犬は吠える。それを合図に冒険者達は一歩前に進んだ。
 朝もやに紛れた敵の襲撃が始まる。
 怯える馬や、荷運びの商人達をアランは後退させると、
「エヴィン!」
 先頭に立とうとしていたエヴィンを呼び止めた。
「なんだ?」
 彼は答える。
「赤槍ガ・ジャルグと黄槍ガ・ボー。どっちが多く標的を沈めるか、やってみるかエヴィン?」
 それは、挑戦。勝ち目は、実は少ない。
 だが騎士として受けない訳にはいかない。
「いいだろう。勝負は何が起きるか解らない。油断は禁物だぞ」
「酒の近辺に結界を貼った。あとは、早々近寄れないだろう」
 昨夜預かったタリスマンを満に投げて絶狼は笑う。
「そして‥‥行くぞ!」
「みんな、気をつけて!」
 胸元から取り出した小さなものを満は、思いっきり空に放った。
 礫が一つ。風を切って飛び、微かな音で何かを砕いた。
 と、同時、季節外れの雪が空に舞い、見えざる敵を浮かび上がらせる。
「けっこういやがるな‥‥」
 敵の正体はやはり、想像通りのようだ。白い粉が毛むくじゃらな身体に纏わり付く。
「グレムリン、だな」
「ああ。できる限りは単独行動を控えるんだ」
 粉をかけられたテビルたちは、その意味を知らない。意図を知らない。
 身体を振るい爪を上げ、耳障りな声を上げる。
「キキーーィッ!」
 それが、敵の開始の合図。そして、冒険者の合図。
「用意はいいか? ‥‥GO!」
 街道の片隅で、冒険者対デビルの試合が、冒険者対冒険者も巻き込んで今、スタートした。

『姿の見えなかった敵』は見たところ十数体。
 こっそりと酒に忍び寄ろうとするデビル。だが、酒樽は紐で括られびくともしない。
「キキッ?」
「丸見えですよ! エイ!」
 真っ直ぐな光の矢が走り射抜いた。翼を折られ、デビルは地面に落ちるが、気付けば彼女の後方にも一匹近づいている。
「危ない!」「動くな!」
 駆け寄ったマックスと、前衛と後衛を移動するテスタメントが袈裟懸けにする。
「ありがとうございます」
 少女の礼に二人の騎士は微笑に近いものを頬に浮かべた。
「礼などいいが、悪くないなこういうのも」
「そうそう、女性を守るのは騎士の勤めである! それに‥‥心配はいらないのである」
「悪い。少し逃がしてしまったな」
 絶狼は苦笑しながら近づいて来る。
 ここは最終防衛ライン。幾重もの守りを破り、ちゃんと準備を重ねた彼らの輪を抜け、辿り着く敵など殆どいないのだ。
「この分なら、魔法に頼らずとも大丈夫そうだ」
 油断をするつもりはないが、少し肩の力が抜ける。
「しかし、凄い戦いであるな。随分と張り切っていて、出番が無いのである」
 彼らの言葉どおり、前衛で二人の戦士がその実力を発揮している。
 黄金と赤の槍の舞が、まるで競演する舞いのように一種競い合い、一種力を合わせあう。
 エヴィンとアラン。
 フレイアや満の援護。シェリル達の魔法の援護があればこそ、だが、彼らの前に、立つことができるグレムリンは、もう、いそうには無かった。
「あ、絶狼さん! 向こうに!」
 いや、まだもう少し残ってはいそうだが、それもおそらく時間の問題だろう。
 やってきた敵をまた、冒険者達が切り伏せる。
 怯えていたキャラバンの商人達もそれ理解することができた。

 小一時間ほどの後、季節外れの白い雪は積もった悪魔と共に、地面に落ちて見えなくなる。
 数えてみればグレムリンが十五匹。冒険者と商人達の安堵と共に
「今回は俺の勝ちだな」
 そんな笑みを最後に三連打突に散った敵を確認し、アランは浮かべたという。

○戻ってきた命の水
「やれやれ、なんとか無事に戻ってきたな」
 まだ身体に微かにこびりつく小麦粉をパタパタと払いながら絶狼は息を付く。
 豪快に散らした小麦粉が髪や身体にくっついて、なかなか落ちないのは唯一の誤算だが、まあ仕方ない。
 幸いこちらに被害らしいものは一切なく、酒も、運搬人達にも動物達も全て無事に辿り着いた。
「近いうちに祭りがあるんで助かりましたよ。ありがとうございます」
 と言って報酬と共に渡された酒は気持ち程度のものであるが、運んだ酒のいくらかは、じき自分たちの喉にも入るだろう。
「‥‥私は貰っても〜。どうしましょうか?」
 苦笑するシェリルは置いておき、冒険者達は思いだす。
「‥‥幸い、あいつらには場を取り仕切る統率者がいなかった。だから、簡単に済んだ感もあるが彼らが上位者の指揮の下動いていたら」
「多少は苦戦させられたかも知れんな‥‥」
 アランとエヴィンの問答を自らも敵も甘く見ない冒険者だからこそ、全員が感じていた。
「『利』が動く。次に『人』が動く。そして戦がくる。次の戦はもうすぐか‥‥」
「どちらにしても同じことだ。平和に生きるものに害を成すのであれば倒す」
 依頼中、殆ど無駄口を叩かなかったテスタメントの‥‥真実の思いに冒険者は頷き合う。
 この場にいる、いやそうでないものも、きっと同じであるはずだからだ。
「とにかく、命の水は戻った。酒場に戻って明日への活力を養うとするか!」
「いいね。そこに満の料理があるとなおいいんだけど♪」
「そういえば、空腹である。酒場に直行かの」
「その前に、着替えていかれたほうが‥‥」
 楽しげな笑い声が路地に流れ、やがて冒険者酒場に響き渡る。
 自分達の守った命の水を前に楽しい時が紡がれるのは、もう直ぐだ。

 蛇足
 帰り道、思いっきり身体を動かせたものの、疲れのいろいろな意味での溜まったと、肩と首を回すアランにシェリルが声をかける。
「疲れた顔、なさってますね。アランさん。後で、フレイアさんに肩をもんでもらったらいかがです? 夕べ私や満さんも揉んでもらったんです」
「はあ?」
 誰のせいで、と思いかけ、アランは目を瞬かせる。夕べ‥‥?
「気持ちいいんですよ〜。お陰で朝までぐっすり♪」
「えっ?」
 振り返ったアランに、フレイアが小さなウインクを一つ投げた。 
 ‥‥彼のその後の反応は、想像にお任せする。