【フェアリーキャッツ】迷い猫の選択

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2006年09月22日

●オープニング

「あのね。こねこちゃんをさがしてほしいの!」
 やってきた少女は、カウンターに背伸びをして、そう言った。
「こねこ? あんたの飼い猫か?」
「うん。あのね。おけがしてたのをひろったのよ。だけどね。いなくなちゃったの。さがして!」
 そう言う少女は7〜8歳というところだろうか?
 懸命な少女に視線を合わせようかと、目線を下げた係員の眼前、それを遮るように付き添いの女性が頭を下げた。
「飼い猫というわけではありませんが、サニーお嬢様が拾った汚らしい猫ですわ」
 付き添いの女性シーラは、サニーが資産家の娘であること。買い物に出た途中で怪我をしていた猫を見つけて館に連れ帰った事を話した。
「お嬢様に助けられ、怪我を治してもらったと言うのに、恩知らずな猫はあろうことか、窓を破り逃げ出してしまったのですわ。私は捜す必要もないと言っているのですが、お嬢様はどうしても見つけると言ってきかないものですが、私達は下町に不案内。だから冒険者に捜していただこうと思ってやってきた次第です。お引き受け下さいますわね」
 猫の捜索に、この使用人頭の婦人は乗り気では無さそうだが、口調は既に命令口調である。
 その貫禄に口を挟めなかった係員は、話の切れ目を狙って、少女に、問いかける。
「なあ、その猫はどのくらいの大きさで、どんな猫だい?」
 えっとね。と少女は自分の手の前でこう抱える仕草をした。
「このくらい。そんなにおもくなかったよ。いろはね、はいいろと、くろのしましまもよう。おめめはくろ! けがはもうなおってたよ。おくすりあげたから」
 生まれて3〜4ヶ月というところだろうか。
 聞けば怪我が治ってからは、普通に歩いたり走ったりしていたというからそのくらいかもしれない。
「あとね。おりぼんあげた! あかいおりぼん! すずがついてるの! それから‥‥あっ!」
 鈴つきなら、他の猫よりも捜しようがあるかも‥‥。
「解った。依頼として出してみよう。引き受けてくれるかどうかは、冒険者次第だけどな」
「お嬢様の依頼を受けられないと言うのですか! 猫探しとしては破格の報酬だと言うのに!」
 声を荒げる婦人はとりあえずおいておいて、依頼書を書いていた係員は、ふと、少女の様子に気付く。
「どうしたんだい? 依頼は一応受理するよ」
「あのね。ねこさん。ひょっとしたら、おおきくなっちゃってるかもしれないから‥‥おおきいねこさんもさがして?」
 何かを思い出し、考え事をしていたような顔つきの少女は、顔を上げて答える。
 だが
「はあ?」
 係員には、その意味が解らない。
「ねこさんがいなくなったときね。どん! っておとがして、まどにあなあいてたの。そしてね、そとをみたらね。おおきくなったねこさんがはしっていったのをみたのよ。おんなじはいいろと、くろのしまもようしたねこさん。たったーって」
 ようするに、猫がいなくなったとき、窓の外に同じ模様をした猫がいたらしい。
「ねこさん。よるになったらおおきくなるのかなあ? でもね。あのこねこさん、すきなの。おおきいねこさんも、きれいだったの。またいっしょにあそびたいの。だから‥‥おねがいします!」
 ペコリと少女はカウンターに頭を下げる。
 婦人は渋い顔をしたが、係員は笑顔で頷いた。

「お嬢様、冒険者が猫を見つけてきたら、今度は逃げられないように繋いでおくのがよろしいですよ」
「うん。またねこさんとあそべるといいなあ」
 そんな会話が扉の向こうから、聞こえていた。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

アルフレッド・アーツ(ea2100)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ シェリル・シンクレア(ea7263)/ トシナミ・ヨル(eb6729

●リプレイ本文

○迷い猫の置きみやげ
 その屋敷は広くて、磨き上げられていて貴族の館と言ってもそう疑われないほど良く整えられていた。
「美しいお屋敷ですわね」
 お世辞抜きでそう思ったセレナ・ザーン(ea9951)の口にした言葉に、喜んだ様子も無く、むしろ当然と言う顔で前を行く彼女は振り返る。
「それは、当然です。この屋敷はかつて貴族の館だったものを旦那様が購入、修復したものです。手入れも怠ったことはありません。お嬢様や旦那様、奥様のお住まいになる館でございますから」
「そうですね。シーラさん。失礼を申しました」
 苦笑しながらセレナは頭を下げ、解ればいいのです、とシーラと呼ばれた屋敷の使用人頭はまた前に進む。
 やがて奥まった部屋に辿り着き、ノックを二回。
「お嬢様。冒険者が参っております」
「わかった〜。はいっていいよ〜」
 幼い声が入室を許したのを確認し、シーラが扉を開ける。
「始めまして。サニー様。私セレナ・ザーンと申します。この度はサニー様の依頼をお受けしましたのですがその前に部屋の状況などを見せて頂けますでしょうか?」
「いいよ。でも、シーラ達、お掃除しちゃったからあんまり残ってないかも‥‥」
「当然です。お嬢様の部屋にいつまでも猫の毛やゴミ等残しておけません!」
「ゴミ?」
 床の上を注意深く調べながら、セレナはふと聞き流しかけた言葉の意味に気づく。
「ゴミが落ちていたのですか?」
「ええ! 木戸が破られておりその破片が窓の近辺に! せっかくの絨毯に木ゴミがついてもう!」
 明らかな苛立ちを込めたシーラの言葉に相槌を打ちながらセレナはしゃがみ込む。そして指で摘んだものをそっと手のひらにのせた。
 小さな木の欠片。さっき、外で見せてもらった壊れた木戸と同じ色の‥‥。
「サニー様。私達、一生懸命探しますわ。でも‥‥」
 膝を折って、視線を合わせたセレナの言葉の意味を、まだ幼い少女は理解してはいなかったかもしれない。

○探すべき猫は?
「と、まあ、そういう訳だ。猫が窓を破って〜、なんて話、あいつの事を知らなけりゃあ、子供の夢物語と思うところなんだけどな」
「なるほど‥‥。世の中にはまだまだ、僕たちの直ぐ近くにすら、知らない世界や、社会というものがあるのですね」
 リ・ル(ea3888)の話をワケギ・ハルハラ(ea9957)は真剣なまなざしで頷きながら聞いている。
 ここは、あの少女が猫を見つけたという場所。
 材木や、空き樽、木箱などが乱雑に並ぶ都会にぽっかりと開いた小さな広場だ。
 その空間でリルは仲間達に少し前にあった冒険譚を話して聞かせていた。
 都会の片隅に生きる猫達の思いを感じた依頼を。
 まあ真面目に話を聞く冒険者達の背後では
「わしはカメノフ、よろしくのう、お嬢さん方。さては、まずご挨拶〜風よ吹け吹け〜。風じゃ風〜」
 と女性たちを追いかけ、服のすそを風でめくるカメノフ・セーニン(eb3349)のようなものもいる。
「あの‥‥お止めくださいませ」
 慎ましやかに袈裟の裾を押さえる藤宮深雪(ea2065)だったが、赤らめた頬は逆に嗜虐心をそそるのみ!
「可愛らしいお嬢ちゃんじゃ。ぱ、ぱふぱふしてくれんかの〜! あ‥‥て!」
 リルが突っ込みの一撃を入れなければさらにエスカレートしていたかもしれない。
「老い先短い老人を、もうちょっと労わらんか〜。なあ、お嬢さん」
 抱き、泣きついたユイス・アーヴァイン(ea3179)だったが彼も
「猫探しですか〜 可愛い猫だといいですね〜。でも‥‥窓を破るような子猫って、どんなコなんでしょうね〜。だいぶやんちゃさんの予感ですが」
 と、あっさりスルー。ちなみに彼が男性だと知ったらカメノフはどうしただろうか?
 さておき話は仕事へと戻る。流石のカメノフもそれ以上脱線をしようともさせようともしなかった。
「では、そのリーダー猫さんが、小さくなっていたのでしょうか? 魔法か特殊な技を使う猫さん。‥‥そうだとしたら、本当に素敵ですわね」
 深雪は瞳を輝かせているが、現実的に考えると「探すべき子猫」と「おおきくなったねこさん」が果たして同じものなのか、疑問が残るとマナウス・ドラッケン(ea0021)は考える。
 あくまで、それは一つの可能性だ。
「あいつなら、そんなことがあっても、と思っちまうわけだが、とりあえずは鈴のついたリボンをした仔猫を探すことからだろうな」
 リルの呟きに冒険者達は同意する。
 そして、それぞれに分担と捜索方法を決めた。今回は大きな危険があるわけではない。単独行動しても大きな問題は無いだろう。
「うちは、北のほうに行ってみるわ。とりあえずの集合場所は、ここでええな?」
 確認するように藤村凪(eb3310)は羊皮紙を広げながら言う。
 街の地図は入手できなかったが、これに調べた情報を纏めながら猫探索図を作ってみようと思うのだ。
「セレナも夕方の集合時刻には戻ってくるだろうから、とりあえず、時間になったら戻ってくれ」
「やっぱり情報収集の基本は自分の足、ですからね〜」
 手伝いのアルフレッド・アーツ達と共に歩き始める冒険者達。
 その中で、マナウスはふと足を止め振り向き、路地を見つめた。路地の先には依頼人の家が見える。
 どうしたんだい? と言うフレイア・ヴォルフの呼び声になんでもない、と手を振って仲間の元に戻る。
「正しいこと、良いことが必ずしも最善じゃない、ってのはあるものなんだよな」
 それは、自分に言い聞かせるような言葉だった。

○猫の集会
 夕暮れの中、こちらを振り向く小さな影を心配そうにワケギは見送る。
「大丈夫でしょうか?」
 トシナミ・ヨルが預かってくれた緋炎を見つめた言葉だ。
「好奇心旺盛な妖精さんには猫探索は難しいですもの。仕方ありませんわ」
 慰めるような深雪の言葉にそうですね。と頷くワケギ。
 今日一日、冒険者達は街中を手分けして当たった。
 少女サニーが猫を拾ったポイントから北へ、南へと。
 この広いキャメロットで、たった一匹の猫を探し出すと言うことは、簡単なことではない。
「で・皆で調べた結果解ったのは、結局、あの猫らはこの近辺を縄張りにしてるらしいってことやな」
 書き込みが増えた猫探索図を見ながら、凪は言葉をため息と共に吐き出した。
「ああ、鈴つけた赤いリボンの猫を見たっていう証言は、大抵こっち向きだったぞ」
 こっち、とマナウスは図の中心、つまり集合場所でもある広場を指で指した。
 凪は周囲で働く主婦や、シフール便の配達屋などに聞き込みをし、マナウスはカメノフと共に子供中心に調べていった。
 遠くに行くほど目撃証言は少なくなる。
 この広場を中心にして、直径数キロ圏内にいそうだと絞り込むことはできた。
「何回か、太陽の下に出てきたようなのですが、暫くすると姿が見えなくなってしまいました。元気そうなのは良いのですが‥‥」
 ワケギはサンワードを使って猫の具体的な居場所を、何度か探してみた。
 反応は何度かあったのだがその場所に辿りつく頃には猫の姿は大抵消えている。
 完全に振り回された形になったワケギはぐったりとした顔を見せていた。
「‥‥アイツ、ヤバイ状態になってなきゃいいけどな」
「そのことなのですが、リル様、これを‥‥」
 心配そうなリルにセレナは小さな欠片を見せる。その欠片のあった場所と状態を聞いて、真剣な顔に変わったリル。彼と空を交互に見上げてユイスは仲間達に言った。
「皆さん、猫に怒られる覚悟はおありですか? 多少引っかかれたり、嫌われるかもしれませんが」
「? どういうことかいな?」
 自らの猫を抱き上げ、頭を撫でながら言うユイスに凪は問う。
「リューゲがね‥‥言うんですよ。ここに満月の晩に来てごらんと、あの子に出会えるかもと」
「私も似たようなことを聞きましたわ。月の丸い夜に集会が‥‥と猫達から」
「それは、ひょっとしてあれか?」
 マナウスは昔、聞いた伝承を思い出す。月夜の晩、猫達が集うと言う猫集会。
「そうだと良いですわね。集会を、見物できますでしょうか。ああ、ぜひ手土産も持っていきましょう」
 ワクワクの笑顔で微笑む深雪程ではないが、冒険者達も少し、胸が弾む。
 明日の夜は待ち遠しいものになりそうだった。 

○猫の選択
「そうか、やっぱりそうだったのか‥‥」
 目の前に現れた猫に、リルはまるで友達に語りかけるように声をかけた。
 鳴くでもなく攻撃するでもなく、猫はまっすぐに冒険者を見つめている。
 手の引っかき傷を押さえるカメノフやマナウスもそれを治療する深雪も見入ってしまう程、美しい立ち姿の猫。
 その足元で、小さな鈴の音がチリンとゆれて鳴っていた。

 夜の街、猫の集会。
「夜の風、夜の町、夜の猫‥‥風も町も日のある時とは大違いですね〜 さて、猫はどうなんでしょ〜?」
 歌うようなユイスの言葉に惹かれるかのように猫達は、一匹、また一匹と集まってくる。
 冒険者達はそれを路地裏から、気配を隠し見つめていた。
「おや! 居たぞ」
「どこだ?」
「ほっほっほ、『色々』と見逃さんように目は鍛えておるんじゃよ。ほれ、あの樽の上で伸びをしておる」
 カメノフが指差した先には確かに、灰色と黒の縞模様をした仔猫がいた。
 台の上に飛び乗り、木々を軽い足取りでまた渡り、好奇心で尻尾をいっぱいに膨らませて。
「集会の邪魔をするのは気がひけるんやけどね」
「これも仕事だからな。行くぞ!」
 いくつかの手に分かれて冒険者達は広場に足を踏み入れた。
 瞬間、場ののんびりした雰囲気が弾けて猫達は、右へ左へと逃亡した。
 他の猫などに用事は無い。彼らは逃げるに任せ赤いリボンの猫だけを追いかける。
 路地を押さえ、猫の退路に回り込み、前方から猫を捕まえる作戦。
 だが仔猫は駆け回る。右に左に、頭上に下に。
 回る元気な仔猫のスピードに付いていけなくなった冒険者の一人はついに魔法と言う強硬手段に出る。
「あ、ほれ!」
「ミ? フミミ〜〜!!」
 猫はなすすべなく宙に浮いた。その隙にマナウスが両手でしっかりと抱きとめた。
「リボンに鈴、間違いは無いな‥‥っと、うわっっち!」
 猫の首もとを確かめようとしたのとほぼ同時、マナウスは悲鳴を上げる。
 同時にカメノフも自分の手に走る暗い稲妻を感じた。手を弾く鋭い衝撃。
 それが、猫の爪のそれだと気づいた時にはマナウスの緩んだ手から飛び出した猫は、冒険者達の前を駆け抜け木箱に駆け上がる。
「待って!」
 うなり声を上げる仔猫と、追いかける冒険者の間に立った猫にリルとセレナは声を上げた。
「お前は‥‥」「貴方は‥‥」
 二人にそっと、ワケギは問う。
「あれが、リーダー猫ですか?」
「ああ、あの猫はあいつの子供の一匹らしいな」
 肩を竦める様にリルは笑った。何故考え付かなかったのだろう。あの猫と仔猫が親子だと。
 セレナが見つけた木の枠の欠片は、外に落ちずに室内に落ちていた。ということは、窓は外から破られたのだ。彼は、きっと人間に捕まったわが子を救いに行ったのだろう。
「ちゃんと教えてくれればいいのによ。でも‥‥まあいい。久しぶりだな。元気そうだ。そいつは、お前の子か? まあ逃げずに俺らの話を聞いてくれ」
 まだ微かにうなり声を上げていた仔猫は親猫に見つめられそれを止める。
 親に諌められるたようなあの子の頭には、こんな声が聞こえていたことだろう。
『おチビさんを治療してくれたお嬢さんが、もう一度会って遊びたいってさ』
『あんなー。偶に女の子の家に遊びに行ってくれんやろか? 君を介抱してくれた女の子が、君好きゆーねん。どうやろ?』
『あの子も待っているはずです。お願いですわ』
『「他のものや世間に失望する事はあっても、絶望だけはしてはいけない」私の友人の言葉です。もし、人間が嫌いであっても全てを嫌いにはならないで下さい。心からお願いします』
 セレナが仲介した言葉が聞こえるたびに神妙な顔をする仔猫にクスと笑いながら
『リボンをまだつけているのは。何故です? ねぇ?』
 自らもテレパシーでユイスも声をかけた。仔猫は明らかに表情を変えると、何事か鳴いた。そしてくるり、尻尾を冒険者に向ける。
「あっ!」
 去りかけた猫に深雪は手を伸ばす。だが、
「また行ってやる、だそうですよ」「照れているようですわね」
 リルとユイス、そしてセレナは仲間を止めた。
 尻尾がピンと立っている。あれは、喜びの仕草だ。
 もし人に例えるならここは少年が少女からの愛の告白を受けたような、それを照れながら受け入れたような場面。
 なら、きっとあの猫の表情も自分達と同じだろうと思える。
 親が子を見守るような親愛に満ちた眼差しを彼はずっと送っていたのだから。

○猫と、人と、冒険者
 小さな館の庭先には、笑い声が響いている。少女の音楽的な笑い声が。
「良かったです。とても幸せそう」
 少女とじゃれあうように遊ぶ仔猫を見て、深雪は手を胸の前で組んで微笑んだ。
 最初は、仔猫を『連れて』来なかったこと、捕まえられなかったことに、落ち込みを通り越して泣き顔だったサニーだが、聡い少女は冒険者の言葉に涙を拭きながらその意味に気づき頷く。
「素直な、よい子ですね」
 ワケギは呟いた。どちらも、と続けると、仲間達の首も小さく動いたのを感じる。
『あの猫さんは自由を尊ぶ方みたいですので、縛ったりするのは良くないと思いますので、猫さんの気持ちを解ってあげて下さい』
『この子だって、お父さんやお母さんが居るし、友達だって居る。君だって、そういう風に会えなくなったら悲しいだろ』
 そして、冒険者達の説得に頷いた少女と仔猫は、今、楽しそうに笑っている。
「出切れば依頼主と猫さんの意思の噛み合う所でうまく収めたいところですね〜」
 通い猫。それがあの迷い猫の選択だ。
 図らずもユイスの願いどおりになった。側で渋い顔をしている使用人はともかく、とりあえず依頼成功と、言えるだろう。正しいかどうか解らないが、これが最善だと信じられる。
「人とそうでないものも心通じ合える。例え、無理に引き寄せなくてもお互いを思い合えば。そう思いませんか?」
 深雪は誰にと向けない言葉をそっと、呟いた。微かに背後で動く気配がする。
 冒険者達は振り向く。そこに『彼』。
「あ! 大きいねこさん!」
 サニーの声に、背中を向けて走り去ろうとする彼を、
「待てよ!」
 リルは呼び止めた。
「よかったら俺の所に来ないか? もちろん出入りは自由だぜ」
 止まった足は一瞬。返事は一声。もう姿は見えない。
「返事の通訳、必要ですか?」
 セレナの問いにリルは首を横に振る。そうですか。と微笑んでセレナも彼を見送った。
「あんがとーな♪ 無理ゆーて堪忍や〜」
 手を振る凪にも、きっと冒険者全てに聞こえただろう。あの猫の心が。

『またな‥‥』
 繋ぎ止めずとも、きっと、また出会う日が来る。
 そんな鮮やかな思いと子供達の笑顔を残し『彼』は去っていった。