【Evil Shadow】炎と悪魔

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2006年10月05日

●オープニング

「モルゴースが生きていた‥‥だと?」
 報告を聞いた者、全てに言葉にならない動揺が走った。
 最初は敗残兵の戯言に過ぎぬと思われて大して重要視もされていなかった情報。
 だが、時過ぎるごとに、目撃証言は増え、ついには冒険者やキャメロットの正規兵の中にまで噂は流れつつあった。
「彼女は‥‥倒されたはずだ。確かに‥‥」
 だが、噂が立つということは、噂になる何かがあるということ。
 最近、誰もが感じつつある黒い影の動きに何か、関係があるのだろうか‥‥。
 どちらにしても、このまま捨てておくことはできないと下された王命により円卓の騎士は旅立つ。
 それが数日前の事。
 この後に起こる事件を、流石に誰も予知することはできなかった。

 秋晴れの空の下、馬を駆る一人の騎士がいる。
「ふう、いつもながら不謹慎だとは思うが、やはり旅はいいな」
 思い切り伸ばした身体。軽い鎧に心が浮き立つ気がする。
「王宮は息が詰まる。こんな時でもなければ、ゆっくりとあちこちを見て回りたいものだが」
 そうはいかないと、気持ちを引き締める。
 モルゴース復活の噂。その真相を探るべく彼パーシ・ヴァルは調査に出たのだ。
 こと、この手の調査において円卓の騎士の中でパーシに並ぶものはいないだろう。
 彼は、人々を不安にさせない巧みな聞き込みで、噂の調査を続け、やがてある場所へとたどり着く。
 そこは、古い砦。
 かつては、見張り台や兵たちの住居があったであろうそこは、今は砂と瓦礫積み重なる廃墟。
 だが、今その砦に時折人が出入りしている、と周辺の村人たちは言っていた。
 それも住処をなくしたゴロツキなどではなく、不似合いな程美しい女性だと。
「‥‥あれか‥‥」
 パーシは気配を消し、静かに様子を伺う。
 砦には確かに何かがいる気配がする。微かに覗く黒い髪。
 それを、確認しようと踏み込みかけたその時!
「! 何だ?」
 何かに呼び止められるように振り返ったパーシは唖然とした。
 背後に立ち上る灰色の煙。遠く離れてもなお感じる村人たちの悲鳴。
「くっ!」
 一瞬の逡巡。だが、決断を下して後の彼の行動は素早かった。
 近くに隠してあった愛馬に跨り、一直線に駆け抜ける。
 後ろを振り返ることなく。


 冒険者ギルドにシフール便で依頼が来たのはその翌日の事だった。
 円卓の騎士パーシ・ヴァルからの依頼だと前おいて係員は言う。
「ここから歩いて二日ほどの村で、火災が発生して大きな被害を受けた。救援の為の物資を持ってきてほしいと、言うのが表向きだ」
「表向き?」
 確認する冒険者に、係員は頷く。
「どうやらその火災にはデビルの影があると、パーシ卿は見ているようだ。最初の火災が発生して後、毎晩のように火災が続いている。どんなに警戒してもまったく火のないところから炎が上がるのでどうしようもなく、村人たちは困憊しきっているのだという」
 その中でパーシだけは、姿の見えない敵の存在を察知していた。
 だが幸いというか、今のところ人的被害は無い。無いがパーシ一人では村人の救出と、デビルの対応、両方を両立させるのは不可能だろう。
「そこで、その手助けを冒険者に頼みたいと言って来ているな。今回は、可能性ある冒険者に期待する。村人たちを怯えさせないように注意してきてくれということだ」
 救援物資の手配は、すでにパーシの部下の手で行われている。
 冒険者が最低すべきことは荷車一台ほどの荷物の運搬と配布。
 だが、そこから本当の仕事が始まるのだ。
 やるべきことは多く、簡単では無い。
 それでも、冒険者の力が必要とされている‥‥。

 建物の影、森の中で、パーシは背中を木に預けてため息をついた。
 無意識に肩に右手を添える‥‥。
 この数日眠ることさえできない。
 ほんのわずかな油断のツケはもう、その身に刻まれている。
「パーシ様!」
「今行く。待っていろ!」
 だが、それを顔に、表に出すことはしない。
 今、村人たちにとってパーシは、唯一無二の希望なのだ。
 円卓の騎士として、ゆるぎなく立っていなくては‥‥。
「我ながら、情けないか‥‥。だが」
 キャメロットの方を見つめ、パーシは空を仰ぐ。
「待っているぞ、冒険者」

 多くの人々と彼の人がその力を待っているのだ‥‥。

●今回の参加者

 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea9508 ブレイン・レオフォード(32歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

壬生 桜耶(ea0517)/ 壬生 天矢(ea0841)/ シン・バルナック(ea1450)/ ミィナ・コヅツミ(ea9128

●リプレイ本文

○託された荷物と使命
 荷車がキャメロットの城門を出る。
『お願いします。パーシ様のお力になって下さい』
 そう言って見送ってくれたパーシの部下に
「言われるまでも無い。デビルなどこの世に一匹たりとも生かしておくわけにはいかないからな」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)ははっきりと答えていた。
「悪事を為す悪魔を見逃すのは、義に反する! 俺も同感だが、なあアンタ‥‥その鉢巻恥ずかしくないのか?」
「何が? ああ、この文字か? ジャパン版勝利のルーン‥‥みたいなものらしいが恥ずかしいものなのか?」
「いや‥‥まあ、本人がいいんならいいんだけどさ」
『必勝!』 
 表情と外見と、文字の入った鉢巻があまりにもアンバランスだが、文字の意味を知る者は少ないしまあいいいか、と七神蒼汰(ea7244)は髪の毛を軽く掻いて笑った。
「あまり、最初から力が入りすぎていてはいざというとき大変ですわ。ご無理はしないで下さいね」
 優しく笑うクリステル・シャルダン(eb3862)。了解、と蒼汰はサインを切り、ナノックも冷たい対応はせずに前を行く。
「まあ、気を抜きすぎるのも問題のような気がしますが‥‥」
 苦笑するアトラス・サンセット(eb4590)の視線の先には救援物資を載せた馬車と、その上に腰を下ろしまったりと日向ぼっこをするオルロック・サンズヒート(eb2020)がいる。
「め、メシィは、まだかいのぅ」
「まだ、キャメロットを出たばかりですから。救援物資はできるだけ早く届けてあげたいですしね」
 愛犬と歩調を合わせながらディアナ・シャンティーネ(eb3412)はオルロックに笑いかける。
「おお〜。ご奉公せねばのぉ〜」
「そうそう。その意気で頼むぜ! おじいちゃん。僕らは困っている人達を絶対に助けなきゃいけないんだからさ!」
 握り締めた拳にブレイン・レオフォード(ea9508)は力を入れる。
 そんな仲間達を見ながら少し離れた所からユイス・アーヴァイン(ea3179)は空を見上げた。
「う〜ん、また風が澱んでますぅ〜。この国に染み付いた血のにおいはやっぱり簡単には消えませんかね〜」
 思わず、足が止まった。かつて聖杯戦争で戦場になった血の草原、遠くはほんのわずか前、デビルとの戦いの舞台となったオークニー城。
 そして、今回の依頼と影になるあの依頼も‥‥。近頃イギリスはどこか、おかしい。何かがおかしい。
「最近は本当に物騒ですね〜 はてさてまぁまぁ、やるべきコトはしっかりしませんと〜」
 気を抜きすぎているようで、そうではない。冒険者も解っているからユイスの言葉を真剣に受け止めている。
 やるべきコトはしっかりとやる。自分達は荷物と思いを託されたのだから。
「大丈夫、何とかなる‥‥いや、何とかしてみせる。そのために僕たちがいるんだ」
 彼らを待っている者もいる。
 知らず、冒険者達の足は、速まっていた。


「ご苦労。思ったよりも早かったな」
 到着した彼らを出迎えた人物。その存在感に、思わず冒険者達は背筋を真っ直ぐ伸ばした。
「パーシ殿。久しぶりと挨拶をしてもいいだ‥‥でしょうか? 俺の事はご記憶に?」
 少し迷って礼をとる蒼太にもちろん、と彼パーシ・ヴァルは笑って頷いた。
「七神‥‥だったか? 来てくれて感謝する。他の者達もな。‥‥自己紹介が必要なら名乗ろう。俺はパーシ・ヴァル。イギリスの騎士だ。早速で悪いが動いてくれるか?」
 言われるまでもなく。冒険者達は頷きあう。
 そして村長などと簡単な挨拶を交し合った後、冒険者達はそれぞれが自分達の役割を果たすために動き始めた。
 チームをさらに二つに分け、仕事を分担する。
「よいしょっと!」
 荷車の端に掲げられた大きな旗が勇壮に空になびく。
「パーシ・ヴァル様の依頼で参りました冒険者一行です」
「王都からの救援物資を運んで参りました」
 閃く旗と声に引き寄せられるように、村人達が集まってくる。一様に疲れきった顔、汚れた服。だがその目には輝きがまだ宿っていた。
「‥‥ねえ、お姉ちゃん達。‥‥食べ物‥‥ある?」
 最初に声をかけてきたのは子供だった。
「ん? アトラス殿」
 遠慮がちに問う少年に気付いたオルロック老は、横で荷解きをしていたアトラスに向けて首をしゃくった。
 アトラスは帽子を押さえながら膝を落とすと、握っていた手のひらをそっと開いた。
「わあっ!」
 それを見た少年の笑顔が咲く。木の実たっぷりの焼き菓子の香ばしい匂いが鼻腔を擽る。
「もちろん。たくさん食べて大きくなって下さい」
 それが皮切りとなった。好奇心の強い子供達。女性達が集い、冒険者達から食べ物や衣服を受け取っていく。
 最後まで遠慮がちだった老人達も
「良ければ、ご一緒頂けませぬかな?」
 オルロックのそんな誘いには素直に頷いて言葉通り、一緒に食事をしたりしている。
 余分な武器を持たない(隠した)物々しさの無い冒険者達に村人達は怯えず寄ってきてくれる。
「焦らないで下さいね。食べ物は沢山ありますから。皆さんにちゃんと行き渡ります。夜には暖かいものもご用意しますから! ‥‥あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます」「助かります」「嬉しいなあ。お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」
 配る荷物が一つ、一人の手に渡るたびに感謝の言葉が冒険者に返る。
「あっ! 可愛いきつねさん!」
 ディアナは思わず微笑んでいる自分に気付いた。村人の為になるべく笑顔を絶やさないようにしよう、とは思っていた。
 だが、そんな気負い無く笑みが浮かぶ。それは、仲間達も同様であるようだった。
 村人からの感謝であったり、足元ではしゃぐ子狐だったり、それを見て笑う楽しげな子供だったり。
 それだけで、疲れが消え、胸の中が暖かくなる。
 人を思いやること、感謝の気持ち。そして笑顔。
 そんな当たり前のものがどれほど人間の心を暖かくするか冒険者達は今更ながらに感じたような気がした。

 人気の無い古びた小屋の前で、冒険者達はパーシ・ヴァルと対峙していた。
「疲れている所悪いが、話を聞かせてくれないか? 情報はいくらでも欲しいからな」
 ブレインの言葉にパーシは黙って頷いた。敬語を使う必要な無いと本人が言うのでタメ口だ。
「解っている。他にも話をしなければならない奴が来ているので素早く行こう」
 彼の背後には、美しい少女騎士。会釈した少女の実力も感じるが‥‥
「ちょっとお待ち下さい」
 それより先、最初に会った時から感じていた違和感に近づき、クリステルは手を伸ばした。
「失礼をお許し下さいませ」
「‥‥っ!!」
「やっぱり」
 指がほんの少し触れただけの肩にパーシは唇を噛む。服の上からでも感じるほど、その肩は腫れ上がっていた。
「火傷に、捻挫。‥‥いいえ、骨も折れてるかも。どれだけ、ご無理をなさったのですか? お薬はお持ちにならなかったのですか?」
「持ってきた薬は、村人に使った。何とかなるかと思ったんだが、うっかりうたたねもできなくてな‥‥」
「どうか、あまりご無理をなさらないで‥‥パーシ様がお倒れになりましたら、悲しむ方が沢山おりますのよ?」
「私も、何度もそう言っているのですけどね」
 少女騎士の苦笑に頭を掻きながら、パーシは肩を回すと先ほどとは明らかに質の違う笑顔を見せた。
「生き返ったな。では、話しにいこう」
 そう言って彼は状況を説明する。この村の火災の状況。発生頻度。発生箇所など。
「デビルと断じられた理由を、とディアナが聞いていたんだが聞くまでも無いな。攻撃してくるわけだ」
 話を聞きながら蒼汰は頷く。油断していると首を狙って敵の攻撃が来るのだとパーシは語った。
「正直に言えば、1対1で倒せない相手ではないと思う。だが、向こうもそれを解っていて火事に便乗して攻撃してきたり村人の前で襲ってきたりする。村人達をこれ以上巻き込めなくてな」
 それで後手に回ったとパーシは言う。
「火が点くのは主に夜、こちらが困るところをピンポイントに狙ってくる。一人でできることは限界がある」
「解った。もともとどんな時間帯にも誰かが警戒しているから、少しは負担が減ると思う。で‥‥パーシさん」
「なんだ?」
 話題の方向変換に、パーシが瞬きする。
「放火が夜に集中しているようなら昼間の少しだけでも休んだらどうか? 疲れてるだろ?」
「そうも行くまい‥‥っておい!」
 ずるずる。黙っていた少女騎士が彼を引きずっていく。
「ご相談が、終わったのでしたら、私も話がありますので少しお借りします。ついでに必ず休ませますのであと、お願いしますね」
 肩を竦めながら引きづられてあげているパーシ。思わず手を振るクリステル。
「ごゆっくり〜」
 冒険者達はその光景を見つめながら、
「ぷっ!」
 小さく笑みを吐き出したのだった。

○狂気の『密偵』 
 昨夜も深夜、幾条かの煙が上がったというのに、村人達の声は明るかった。
 その原因はやってきた冒険者達。
 村人と冒険者の明るい笑い声が、あちらこちらにで聞かれる。
「しかし、救援物資が焼かれずに済んでよかった。これを焼かれたらもうどうにもならなかったものなあ〜」
「村の修理、手伝うよ。みんなでやれば直ぐに復興できる。材料も沢山持ってきたしね」
 そんな鮮やかで前向きな声に、
『くっ‥‥邪魔な奴らめ。いま少しで、円卓の騎士を‥‥』
 見えない姿の敵が、見えない呪いをかけようとしていた。

 さらに夜。
 村のあちらこちらにまた小さな炎が上がった。
 消そうと走る冒険者達。円卓の騎士も同様に動いているのであろう。
 そこには人影がまったく無かった。
『愚かな人間共め。お前らのちっぽけな希望など燃やしきってくれる』
 見えない所から声と手が伸びる。生まれる微かな光。その時!
 ガシャン! 何かが割れる音と飛び散る音。
 ピーッ! 響く笛の音。
 そして
「光あれ!」
 白い光が場に広がった。
『な、なんだ!』
 目元を押さえようとしたそれは、気付く。自分の手が見えている?
「友達が用意してくれた塗料と小麦粉爆弾の威力はどうだ! もうお前の姿はお見通しだ!」
「全く‥‥悪魔、とやらは本当にやっかいな相手だな。だが、義の前に討つ!」
「この世のデビルに平等なる滅びを‥‥」
 自分を取り巻く冒険者達に、デビルは始めて気がついた。
『くっ‥‥罠か?』
 村人達の避難と消火はパーシが指揮している。彼には犬で合図を送った。向こうはこちらを信じて人々を纏めてくれている筈だ。
 人々を巻き込む心配も無い今、
「一気に決めさせてもらう!」  
 前衛の戦士達は一気に踏み込んで行った。
「しゃらくさい! 立ち上がれ炎! 奴らを焼き尽くせ!」   
「うっ!!」
 冒険者達の前に炎の壁が立ちはだかる。踏み込んだ仲間達の身に炎が纏わりつく。
 だが
「火よ。消え去れ!」
 小さな木の実を飲み下し、ユイスは広げたスクロールの力を解放した。もう何度も消火に使用して使い方も慣れたプットアウトのスクロールは彼の呼び声に従い、炎を消去する。
「なに! ならばもう一度!」
「させるか!」
 憎しみで炎の苦痛を押さえ込み、ナノックはもうデビルの懐近くまで飛び込んでいた。
 一歩、二歩送れて蒼汰とブレインが切り込む。必死で後方に下がるが、もう呪文詠唱をする暇はありそうになかった。
 一手でも止まれば身体が裂かれてしまう。
「お前らごときにやられる訳にはいかぬ。俺はまだまだ、人間の苦しむ顔が見たいんだからな。俺の炎で全てを燃やし尽くしてやる」
「言いたいのはそれだけか!」
 さらにナノックは渾身の一突きをデッドorアライブで打ち込んだ。反撃の炎が腕を焼くが気にさえ留めない。
「こんな遊びで倒されるわけには‥‥まだ、命令が‥‥」
「遊びで人を苦しめるなんてこと、もうさせるものか!」
「絶対に逃がさん! ここで決める」
 デビルは黒い羽を羽ばたかせ全力で後退する。そして
『愚かな人間共よ。全てを焼き尽くしてくれるわ!』
 最大の炎の呪文を紡ごうとしたのだろう。だがそれは‥‥
『ぐあっ!!!』
 より、大きな炎にかき消された。巨大な火の鳥が頭をもたげデビルに突っ込んでいく。
 オルロック老渾身のファイヤーバード。
 止めようも無い衝撃によって生まれた隙。それを冒険者は決して見逃すことは無かった。
「今です」  
 白い光が冒険者達を包み込む。湧き立つ力に励まされて彼らは三つの刃を一つの胸へと突き立てた。
『がああっ!!』
 膝ががくんと崩れ、落ちる。
『おのれ‥‥人間ごとき‥‥に‥‥。どうか‥‥お許し‥‥を』
 最後の言葉が誰に向けられたものかは解らない。
 だが、その言葉は届かぬまま消え去った。
 デビルネルガルの命と共に。

○闇を照らす灯火 
 翌々朝、冒険者が気がつくとパーシ・ヴァルはもういなかった。
「どうか、お休みになって下さい」
 クリステルの泣き落としもどうやら効果なかったようである。
「大丈夫でしょうか?」
 うるうるとにじみかけた瞳のクリステルの肩をぽん、とナノックが叩く。
 彼は、それ以上は何も言わなかったが
「はい」
 とクリステルは小さく頷いた。
 昨日の晩、村は久しぶりに煙の立たぬ平和な夜を迎えることができた。
 あちらこちらで村人の歓喜と安堵の声が聞こえてくる。
「ありがとう」「心から感謝します」「本当に‥‥本当に‥‥」
 冒険者達を取り巻く喜びの声は、最初に救援物資を配った時の比ではない。
 本当に輝いて、冒険者の心を照らす。
「いいえ、私達こそお礼を。‥‥ありがとうございました」
 本心からの思いで言うディアナに冒険者達も追随した。
 自分達はこの笑顔のために命を賭けたのだと誇りを持てる。
 パーシは、これを冒険者に与えるために自分達を呼び、そして消えたのかもしれないと思えた。
「だが‥‥デビルどもめ。一体、何を考えている?」
 村を燃やしたデビルは単に自分の楽しみのために、火を点けていた。
 だが、デビルがこの近辺に来た真の目的は本来は別のところにあったようだ。
 それを彼らには知るすべは無い。まだ。
 ただ、一つ確かなことはある。これが決して終わりではないということだ。
 ユイスは空を仰ぎ、渋い顔をする。
 イギリスを覆う澱んだ風が完全に晴れるのは、まだ先のことだろうか。
「大丈夫だよ。今回のように力を合わせればきっとなんとかなるって!」
 不安を洗い流すように前向きな笑顔で、ブレインは笑う。
 あの風のような人がいれば。
 そして‥‥冒険者自身が風となれば、きっとこの国の穢れを洗い流せる。
「そうですね〜」
「また、ご奉公するかのぉ〜」
「頑張りましょう。この地に住まう人々の為に。」
 仲間達も確かな思いで頷いた。

 むしろここから始まる。イギリスに広がりかけた暗雲を払う戦いが。
 冒険者は全てを燃やし尽くす炎ではない、行く手を照らす明かりを胸にその戦いの待つキャメロットへと戻っていった。