【Evil Shadow】黒き貴婦人の影
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月27日〜10月04日
リプレイ公開日:2006年10月05日
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●オープニング
「モルゴースが生きていた‥‥だと?」
報告を聞いた者、全てに言葉にならない動揺が走った。
最初は敗残兵の戯言に過ぎぬと思われて大して重要視もされていなかった情報。
だが、時過ぎるごとに、目撃証言は増え、ついには冒険者やキャメロットの正規兵の中にまで噂は流れつつあった。
「彼女は‥‥倒されたはずだ。確かに‥‥」
だが、噂が立つということは、噂になる何かがあるということ。
最近、誰もが感じつつある黒い影の動きに何か、関係があるのだろうか‥‥。
どちらにしても、このまま捨てておくことはできないと下された王命により円卓の騎士は旅立つ。
それが数日前の事。
この後に起こる事件を、流石に誰も予知することはできなかった。
秋晴れの空の下、馬を駆る一人の騎士がいる。
「ふう、いつもながら不謹慎だとは思うが、やはり旅はいいな」
思い切り伸ばした身体。軽い鎧に心が浮き立つ気がする。
「王宮は息が詰まる。こんな時でもなければ、ゆっくりとあちこちを見て回りたいものだが」
そうはいかないと、気持ちを引き締める。
モルゴース復活の噂。その真相を探るべく彼パーシ・ヴァルは調査に出たのだ。
こと、この手の調査において円卓の騎士の中でパーシに並ぶものはいないだろう。
彼は、人々を不安にさせない巧みな聞き込みで、噂の調査を続け、やがてある場所へとたどり着く。
そこは、古い砦。
かつては、見張り台や兵たちの住居があったであろうそこは、今は砂と瓦礫積み重なる廃墟。
だが、今その砦に時折人が出入りしている、と周辺の村人たちは言っていた。
それも住処をなくしたゴロツキなどではなく、不似合いな程美しい女性だと。
「‥‥あれか‥‥」
パーシは気配を消し、静かに様子を伺う。
砦には確かに何かがいる気配がする。微かに覗く黒い髪。
それを、確認しようと踏み込みかけたその時!
「! 何だ?」
何かに呼び止められるように振り返ったパーシは唖然とした。
背後に立ち上る灰色の煙。遠く離れてもなお感じる村人たちの悲鳴。
「くっ!」
一瞬の逡巡。だが、決断を下して後の彼の行動は素早かった。
近くに隠してあった愛馬に跨り、一直線に駆け抜ける。
後ろを振り返ることなく。
冒険者ギルドに同じ日、二通目のシフール便が届いた。
宛名は同じ名。円卓の騎士パーシ・ヴァル。
「なんだ?」
と疑問を持ちながら依頼書を開いた係員は、しばらくの後、真剣な顔で冒険者を呼び寄せた。
「モルゴースが復活したという噂を知っているか?」
冒険者の何人かは頷き、何人かは首を振る。
ことの起こりは園遊会。酒場でモルゴースを見かけたという者がいて、その次はオクスフォードの敗残兵の証言だっただろうか?
真偽の程は定かではない、だがそのまま捨てておくにはあまりにも不吉な噂。
そして、今回の事件だ。
「彼女は円卓の騎士ガヴェインが倒したとされている。だが、最近目撃証言が増えているので、パーシ・ヴァルが調査に出たんだ。そして‥‥彼はある場所に目星をつけた」
そこは、キャメロットとオクスフォードの中間ほどに位置する古い砦。
獣以外住む者がいないという荒れ果てたその建物に、不似合いなまでに美しい女性が出入りしているらしいのだ。
「パーシ卿はそこを調べようとした。だが、その直前近くの村で火災が発生して‥‥彼は調査を一時諦め救助に向かったんだ」
その時の火災はじきに収まった。
だが、以後も毎日のように火災が続きパーシは、村を離れることができなくなる。
「火災にも何か、邪悪な気配を感じると彼は言っていたが、それはまあいい。だが、王命でもあるモルゴースの調査をこのまま放っておくことはできない。だから、冒険者にパーシ卿が戻るまで調査を引き継いで欲しいということらしい」
依頼書には砦の簡単な場所に沿えて、こんな言葉が記されていた。
『砦には只ならぬ者の気配があった。注意して調べて欲しい。深追いと無理は決してするな』
彼の言葉に従うなら、大きな危険は無いだろう。だが‥‥。
キャメロットの騒動の影にも黒き貴婦人の影があるという‥‥。
「受けるか、受けないか。そして、どうするかは、決めるのはあんたらだ」
係員は言う。
冒険者たちの脳裏に黒き婦人の、不吉な微笑が微かに浮かんで消えた。
●リプレイ本文
○陰謀の炎
砦の上から遠くに煙が見える。
「愚かな奴め。せいぜい私の計画の駒となるがいい」
黒い影は蔑むように呟いた。
目線を下ろす。森の中に人影が見える。にやりと笑う気配があった。
「人など騙すも操るも容易い。どうか‥‥ご照覧あれ‥‥」
かき消すように影は見えなくなる。
○情報と噂
幾枚もの羊皮紙を見ながら歩いている仲間がいる。
夢中になっている彼女は、このままでは木にぶつかりそうだ。だから直前に
「危ないぞ。エル。前を見て歩け」
ルシフェル・クライム(ea0673)はエル・サーディミスト(ea1743)の肩を手で押さえた。
「わっ! ゴメン。ルシフ。ありがと」
木の幹にキスする寸前、エルは感謝の笑みを浮かべると、羊皮紙の束をバックパックにしまった。
何度見ても、めぼしい情報が無いのは変わるまい。
「う〜ん、やっぱり自分達の目と足で調べるしかないかなあ」
せっかくギルツ・ペルグリンや紫城狭霧が調べてくれたのに。ちょっと不満げな表情を浮かべるエルに
「仕方ありませんよ。あくまで情報は参考でしかありません。大事なことはやはり現場に行って調べないと」
夜桜翠漣(ea1749)は冷静に告げる。彼女とエル、そして
「‥‥でも、僅かでも知っていることで、有利になることもありますから」
躊躇いがちに言うリト・フェリーユ(ea3441)、正確には彼女の友人の調べた資料でこれから向かう砦の事前情報はかなり冒険者達の頭に入っている。
だがそれでも、解らないことが多すぎる。いや、この依頼そのものが最初から不可解なものであるのだが。
「あの女が‥‥生きているだと? 奴は、俺がこの手で確かに‥‥」
握り締めた拳を見つめフレドリクス・マクシムス(eb0610)は呟く。
確かに‥‥殺した。あの太陽の騎士の眼前で、親である彼女をこの手で。
手にはまだあのときの感覚が残っているというのに‥‥。何故?
「先の戦の影にも、あの女の噂があった。戦いは傭兵にとって心躍るもの。だが‥‥不審な点が多すぎてどうも、引っかかるな」
アラン・ハリファックス(ea4295)は腕組みをしながら唸る。だが
「確かに物騒な世の中だし、物騒な依頼だよね。‥‥でもヴァ、じゃなかったパーシの依頼って言うし文句言うばっかりじゃなくて、できることは手伝ってあげなくちゃね☆」
底抜けに明るい、いや明るくしているエルの口調にふっ、とイグニス・ヴァリアント(ea4202)は微かに笑みを返した。
事と次第によっては、かなりハードな事になると覚悟していたが、こうも明るく言われると力が抜けるというものだ。‥‥いい具合に。
葉陰に石造りの塔が見えてきた。冒険者は足を止める。
「そろそろ拠点を作ろう。砦にあまり近すぎてもいるかもしれない敵を警戒させるし、村に行った彼女とも約束したしな」
「まだ明るいですから、周囲を調べて野営の準備をして、本格的な調査は明日からですね」
振り向いたルシフェルの言葉に夜桜と、アランは頷く。
「明日のうちに、なんとか調査のあたりは付けておきたいんだがな」
荷物を置いて、あたりを見回す。
森は静かで、戦争で嫌というほど感じた邪悪な気配は、今は感じられない。
あくまで今は‥‥だが。
○決意
朝焼けの中、飛ぶ白馬の上で彼女は、何度も昨夜の会話を思い出していた。
(「もう! まるで、子ども扱いじゃないですか。疲れきっていらっしゃるでしょうに‥‥」)
『俺を、足手まとい扱いするには十年早いな。もし、俺を休ませるつもりなら‥‥』
「まったく、あの方は‥‥!」
夜には戻ってくると言っていたリースフィア・エルスリード(eb2745)が仲間の下に帰って来たのは翌日の朝のこと。
羽ばたきの音に気がついたエルは空に向けて手を振り、リースフィアはその近くの広場に舞い降りた。
「お帰り! どうしたの? 珍しいね。そんなにむくれてるなんて」
エルが、顔を覗き込みながら声をかける。
その問いかけに。
「いえ! 何でもありません。調査のほうはどうですか?」
「ふ〜ん。まあ、いいけどさ」
少し頬を赤らめたリースフィアを無理に追求することはせずに、エルは朝食の仕度と状況の説明をした。
「‥‥なるほど、道はこの細い古い道が一本だけですか。女性が一人で歩くには大変そうですね」
「うん、それにね。夕べは明かりのついた様子も人の動いた気配も無かったんだ。直ぐ近くに小川があって僕達はそこで水を汲んだけど、他に誰かが来た様子も無い」
「今‥‥誰かいるのか解らないが、いたとしたらそれは人ではない、ということなんだろさ」
二人の会話に入ったイグニスを皮切りに目覚め、集まってきた冒険者達は、無言で砦を見つめる。
「人では‥‥ない。か」
その言葉は冒険者達に共通の決意を抱かせる。
「罠かもしれない。でもそれならそれで こちらに手を掛けさせれば‥‥」
「ええ、それを食い破って敵の手駒を減らせば何処かの誰かの負担を減らせます。誰かが無理をしなければならないのなら、それが私達で問題ないはずです」
リトとリースフィアは頷きあった。リースフィアは昨夜の事を思い出す。
彼の‥‥笑顔を。
「よ〜し! やろう! パーシが来たとき何も調べることが残っていないって思わせるくらいにね!」
手を空にかざすエルに、冒険者達は微笑みながら頷いた。
○炎の偵察者
砦の内部の探索に入って二日目。
今日は、二階や見張り台を中心に調査を進めている。
「だいぶ埋まってきましたね。崩れている箇所も多いから、見張り台の上に行った方が戻ってこられたら、調査は一回り終わったことになるのでは無いでしょうか?」
羊皮紙を覗き込む翠漣にそうだね。とエルは頷いた。確かに地図は埋まってきている。
だが、それと同時にもやもやと心の中に妙な感覚も生まれてきていた。
罠と敵、それを覚悟してやってきたというのに、驚くほどにこの砦には何も無かった。
人が通ると崩れる岩も、ドアを開けると飛んでくる毒針も何も無い。壁に刻まれた文様も、地面に引かれた六芒星も無い。
それどころか誰かが『生活』していたという形跡が無いのだ。
いや正確には何かいた『痕跡』はある。足の跡、衣が地面を引いた様子など。
だが、それぞれが繋がらない。
何箇所かでは、そこに来た形跡があっても帰った様子が無かったりする。どういうことなのだろうか?
「何度やってもバイブレーションセンサーにも引っかからないしね。まあ、空を飛ばれてたら仕方無いんだけど‥‥」
「? どうかしたのか? 何かあったか?」
階段から降りてきたアランはエルと翠漣に声をかける。
「いえ、何でもありません。上の方はどうでしたか?」
「特に誰かいるような気配は無いな。上まで行ったが敵らしきものもいなかった。姿を隠していた敵がいない、とは言い切らんがニヨドも何も反応しなかったからおそらくは、いないと思う」
「では、これで砦の中は一通り調べたということですね。怪しいものは潜んでいなかった‥‥パーシ卿の杞憂、でしょうか?」
「そうだと、‥‥いいのだがな。この砦は普通の建物で、怪しい魔法の術式が組まれている気配も無い」
「とりあえず、下に戻ろう。あまり長くバラバラになるのは好ましくない」
イグニスの提案に周囲を注意深く観察していたフレドリクスや翠漣も頷いた。
二階は崩れているところも多く、見張り台の上は特に階段が細い。
一階入り口と、見張り台の入り口を確保して調査していたが、三箇所に分かれるのは今回の調査では初めてだ。
早く合流したほうがいい。そんな予感に冒険者達は足を早めた。
「お帰りなさい。無事で良かったです」
外が見える入り口で待っていたリトがホッとした顔で微笑む。リースフィアやルシフェルもまた同様のようだ。
アンデッドの気配も無い、呼吸をするものの気配も無い。探査魔法を使いながらも仲間の無事が心配だった彼らがホッと安堵の思いを浮べたその時。
「あら、もうお帰りなのかしら? なんのおもてなしもしていないのに。もっとゆっくりなさって」
「!!!」
冒険者達はとっさに振り向いた。エルは指を見つめる。悪魔の訪れを知らせる石の中の蝶が狂わんばかりに羽ばたいている。
彼らは目を疑った。
ほんの今さっき。冒険者達が何もいないと調べ戻ってきた二階の、石造りの階段を、ゆっくりと降りて来る長いドレスの貴婦人。
長い黒髪。妖艶な姿。彼女は‥‥紛れも無く。
「‥‥モルゴース!」
冒険者達は身構え、武器を握り締めた。
「招かれざる客とはいえ、やってきたお客を無碍にするのも無礼。おもてなしをさせて下さいな」
彼女は微かに頬を緩めて見せた。整った顔立ち。美しいと呼ばれる部類に入る筈の笑みは、暗い。
背後にはインプが数匹、彼女を守るように飛んでいる。気付けば窓から数匹のクルードが、自分達の背後にはグレムリンが見える。
「質素な屋敷にしちゃあ、ご大層なお出迎えだな」
石の中の蝶の反応はもう限界を超えている。冒険者達はデビルに囲まれていたのだ。
「こんな所で魔女の集会か? それとも、待ち合わせでもしていたのか?」
小柄を握りなおしてイグニスが問う。背後に呪文詠唱の気配。なら少しでも時間を稼ごうと挑発するように。
「あら。お分かり? ええ、私は待っていたの。可愛い子をね。貴方達は招かれざる客だけど、貴方達が消えればあの子も決心が付くでしょう」
優雅な口調。だが、フレドリクスは微かに眉を上げた。気にしなければ見えないほど微かに。
「おもてなしも結構ですが、今日は手打ちと行きません? え〜っとほら、あれです。冥土の土産とか、このまま生かして帰せば後々面白そうだ。とかそういう遊び心というのも大事だと思いますよ?」
「そうね。でも、そうするとあの子が困るから。悲しいですけれどもこのまま、死んで頂かないと」
フフフと笑う様子は優美だが作り笑い的でアランは唇を噛んだ。
(「止めを刺したといわれるガウェイン卿め、家族の情で手でも抜いたのか」)
味方の呪文はほぼ完成している。魔法の援護と共に攻め入ればこれくらいの下級悪魔を下すのは難しいことではないが‥‥彼女が本当にモルゴースだとしたらただではすまないだろう。
様子を見ながら隙を狙う‥‥その時だ。
「俺を覚えていないのか? 俺はあの時、ガウェインと共に戦った十二人の一人だ」
一歩フレドリクスが前に出たのだ。
「あら‥‥ごめんなさい。覚えていなかったわ。私にとっては冒険者など‥‥ねぇ?」
さらに一歩前に行き、モルゴースの目を正面から見つめフレドリクスは‥‥問う。
「そうか。だが‥‥驚いたな。ガウェインの剣を胸に受け、どうやって生き延びた?」
「あの子は私を殺したフリをしただけ。そんな事にも気付かなかったの?」
同時! フレドリクスは両手に剣を握り締め、一気に踏み込んだ。渾身のダブルアタックをモルゴースに。その胸に深く、小太刀を突き立てて。
「フレドリクスさん! 何を! もし、彼女が操られている人間だとしたら!」
「こいつは偽者だ。もし、本物ならモルゴースに止めを刺したのは誰か、知っているはずだ。それは、誰であろう‥‥」
『ふん お前か?』
「?! うわあ!!」
「フレドリクス!」
冒険者は炎が燃え上がる音と、フレドリクスの悲鳴。そして笑い声を同時に聞く。
駆け寄るルシフェルは、突然立ち上がった炎に焼かれた仲間を抱き止めた。
小さな人形を地面に叩きつける。
そして冒険者はさっきまで「モルゴース」だったものを睨みつけていた。
『地獄の密偵の名は伊達ではない。‥‥まあ、思ったより気付くのが早かったな』
ゆらり、目の前の貴婦人の姿が炎に溶ける。あれは‥‥
「ネルガルか!」
『そうだ。村で遊んでいる炎狂いとは違う。私は御方の命を受け、密偵としてやってきたのだ。円卓の騎士を倒し、破壊と災厄と炎を撒き散らす為に! お前らなど今、ここで‥‥! ウッ‥‥』
楽しげに笑うように、自分の計画を語っていたネルガルは、それを全て言う前に言葉を永遠に失った。
胸を右から貫いているのは三本の爪。さっきのように自分には効かないと侮っていた武器は光を纏い、ネルガルの胸に埋まる。
左からは魔力を帯びた槍が胸を突く。
炎に手を焼かれても、肉薄した冒険者達は刃を抜かず、炎の悪魔に眼を向けた。
「お前の正体と目的が解ったのなら、もう遠慮の必要は無いな」
「彼を倒すなど‥‥許せません。消えて下さい」
自らの力に慢心した愚かでおしゃべりな『密偵』は
『お前達‥‥、そ、そん‥‥な‥‥』
自身より遥か上の実力の冒険者にわずか二刀で倒された。
「おしゃべりなデビル。結局小者‥‥かな?」
蔑むようなエルの眼差しの下、その身体は崩れるように消えていく。
前後左右の下級デビル達に動揺が走った。
それを見逃す冒険者ではない。
的確に動き出す。
‥‥数刻後、砦に残り立っていたのは勿論、冒険者のみだった。
○預けられた思い
翌朝、冒険者が気がつくとパーシ・ヴァルはもういなかった。
「もう! どこいっちゃったのかなあ? パーシは!」
イラつくように周囲を探るエルにリースフィアはきっともう帰ったのだと、告げる。
「私が村に行ったこんな感じでした。私に見張りを頼んで爆睡なさって、私がうとうとしている隙にまた仕事に戻られてしまって‥‥」
昨夜冒険者と合流し報告を受けたパーシ・ヴァルは真面目な顔で言った。
「一刻も早く戻らなくてはな」
彼の手には細かく書き込まれた砦の調査内容と、モルゴースの噂。冒険者が見たその顛末が書かれた羊皮紙。
「モルゴースは偽者だった。キャメロットの噂や、敗残兵の証言全てがこの偽者のせい、とは言い切れんが‥‥その正体がデビルというなら奴らの狙いは‥‥」
今回の件は一つの裏づけになる。
直ぐに馬に跨ろうとする真剣な顔のパーシを翠漣は真剣な顔で止めた。
「どうか、戻る前に少し休んで下さい。貴方はいつも無理をされる。苦労を、辛い事を全て自分が背負えばいいと思っておられるのかもしれませんが、誰かの為に犠牲になるというのは、救った人に心配と負担という重荷を背負わせているのです。だから役割分担。貴方は今後に備え少しでも休む」
私達が守る。キャメロットに戻れば、戦乱の影が彼を待っている。だから‥‥それは心からの思い。
「解った」
パーシはそれを受け入れて木の幹に背中を預けていたが気がつけばもういない。
本当に、雷、いや風のような人だ、と誰ともなく思った。
キャメロットの戦乱は一応の収束を向かえた。
だがこれが、終わりではない。
リトは手紙を握り締める。
それはパーシが残して行った手紙。
『感謝する。また会おう』
その手紙を持って冒険者もまたキャメロットに帰る。
むしろここから始まるのだ。イギリスに広がりかけた暗雲を払う戦いが。