【HELP!】 炎の救出者

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月10日〜08月15日

リプレイ公開日:2004年08月12日

●オープニング

「火事だ〜〜!」
 冒険者ギルドに一人の男が飛び込んできた。
 火事?
 その言葉に立ち上がった冒険者達に彼は差し出された水にさえも首を振って膝をついた。
「頼む! 手が開いてる人は助けてくれ 街外れの宿屋で火事なんだ! まだ家の中に何人か取り残されている!」
 その言葉を聞くと同時に彼らは駆け出していた。
 イギリスには石造りの家が多い。
 火事の被害が小さいうちに収まることも多いが‥一度燃え始まると消火は難しく、救出もより難しくなる事を誰もが知っている。

 炎はもう3階建ての建物の半分を包もうとしている。周囲の人々は僅かな水で付近への延焼を防ぐのが精一杯だ。
 建物の周りにはなんとか助かった人々がいる。だが、彼らの目は安堵の思いを浮かべてはいない。
「早く! 早く誰か火を消して‥中にまだ娘が!」
 今しも火の中に飛び込まんとする母がいる。
「お父さん? まさか、まだ中に?」
 周囲を必死になって探し、呼びかける男性がいる。
「妻を、妻を助けてください。まだ出て来ないんです!」
 若い男は周囲の人に必死で呼びかける。
「‥ムク〜、どこ? 早く出てきてよ‥」
 煤だらけの顔を擦りながら涙を流して友を探す少女がいる。
 そして、彼らは見つめた。炎の中に‥取り残された命を。
「お願い! 誰か‥助けて!」
 
 この火事の原因は? 何故このようなことになったのだろうか?
 それも知りたいし、知らねばならないが、今は。
 少なくとも今は、考えている時間は無い。
 残された時間はも少ない。
 そして、賭けるものは命。
 助けるものも命。

 それでも‥彼らは飛び込んでいくのだろうか。
 炎の中へ‥

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0127 ルカ・レッドロウ(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea0261 ラグファス・レフォード(33歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0514 ディスタ・クオンタム(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2685 世良 北斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マリエナ・エレクトリアム(ea0413)/ サラ・ミスト(ea2504

●リプレイ本文

 その宿は、元は白い壁が自慢の美しい建物だった。だが今は赤く炎に染まる‥
「うわっ、凄い炎。中の人は‥大丈夫でしょうか?」
 シエラ・クライン(ea0071)は建物を見上げた。一階は僅かに道が見える他は火の海だ。
「脱出してない人は解ってるの? 何人?」
 馬を駆ってやってきた騎士フローラ・タナー(ea1060)は宿の主人と周囲の人から情報を集める。
「それからそこの人! ぼさっとしていないで手伝って!」
 彼女のカリスマは人々を動かす。来る途中、声をかけてきた教会の人々なども動き始める。
「残っているは3人? 老人と子供と女性。それに‥犬ですね。大丈夫。私達が必ず助けます」
 泣きじゃくる少女の頭を撫で世良北斗(ea2685)は周囲を見る。集まる冒険者達。確かに『私達』だ。
「通りを歩いてたらいきなり火事かよ! ‥急いで救助しないと!」
「焦るなよ。できることをするだけだ」 
 駆けつけた閃我絶狼(ea3991)はラグファス・レフォード(ea0261)に解っている、と頷いた。水でロープや布を濡らす。
「マリエナ! 人の気配は解らないか?」
 ディスタ・クオンタム(ea0514)の言葉にマリエナ・エレクトリアムはブレスセンサーをかけた。だが彼女の力では一階ずつ調べるのが精一杯。
「一階の右端に一つある! でも‥後はもう少し待って」
「解った! 俺は中に入る。他も解ったら教えてくれ!」
 バサアッ!
 水を頭から被った天那岐蒼司(ea0763)は階段を睨みつけた。走り出そうとする彼をルカ・レッドロウ(ea0127)が止める。
「あんた‥皆にも言っとく。スタンドプレーはするな。生きて戻るんだ。皆で」
 全員が顔を合わせそして頷く。知っている者、知らない者。だが今は命を分ける仲間だ。
「私が階段周辺の火をコントロールします」
「俺も退路をウォーターボムで確保する。頼んだぞ!」
「私は外の指揮と一階を見るわ。纏まって行動するのよ」
 シエラとディスタの呪文詠唱の間に、フローラが男達に告げた。ああ、と首を動かした後
「‥全員が生きて帰ってこれたら、祝杯を挙げるってのはどうだい?」
「いいな。必ず」
「約束しましたよ」
「皆でパーッと行こうぜ」 
「火が消える‥GO!」
 蒼司の合図で彼らは‥炎の中に飛び込んでいった。

 一階が火元らしい。燃え方も一番激しい。だから、シエラとディスタは魔力に惜しみなく炎の鎮圧に全てを注ぐ。
「紅の魔女の名の許に炎よ、従え‥ファイヤーコントロール」
「行け! 炎を消し去れ!」
 二人は水蒸気の熱に耐え火の掌握を続けた。その靄の中を一階の捜索を担当する北斗とサラ・ミストが走る。
「どこですか? 誰か‥いませんか?」
「北斗、向こうから声!」
 炎の爆ぜる音の彼方に、サラの耳は何かを感知した。
「ここよ!」
 煙の中に白い足を見つけた北斗は全力で側に走りよった。それは女性だった。
「しっかり! 大丈夫ですか?」
「‥うん‥あ」
「気がつきましたか? 今助けます」
 予め濡らしたマントで彼女を包むと、北斗は背に背負った。
「行きますよ!」
 濃い煙の中を二人は必死に駆けた。僅かな時間だが永劫のような一時の後、新鮮な空気に包まれる。
「ミア!」
「あなた!」
 妻を、夫は強く抱きしめた。
「良かった‥でも、まだ安心はできません。皆さん、消火を手伝って下さい!」
 フローラを手伝い北斗はサラとバケツリレーの指示に回る。
 マリエナの声がまた響く。
「二階の左! 早く! 弱くなってる」
 
「左? 向こうか」 
 四人は一緒に走った。二階は火が回っているが三階はまだそれほどではない。先に火の酷い所から‥
「‥子供の荷物? 違う」
 蒼司は戸を閉め先に進む。いくつかの部屋を調べ、残るは最奥の部屋だけだ。だが‥足は止まった。
「くそっ! 触れねえ」
 扉は赤く燃え上がっている。
「よし、任せろ。はあっ!」
 呼吸を整え絶狼が力を貯める。
「バースト‥アターック!」
 ブワン!
 すでに耐久力を失っていた扉はコナゴナに飛び散った。彼等は部屋に飛び込む。
「いたぜ! 爺さんだ」
 煙を吸い込んでいた老人は、意識は無いが外傷や火傷は見当たらない。
「ラグ! この人を頼む」
 ルカの言葉にラグファスは頷いた。まだ上に行く。誰かが戻る必要がある。一番身軽なのは自分だ。
「解った。行くぜ、爺さん!」
 ラグファスは彼を背負うと一気に炎の中を駆け抜けた。ある部屋の前で一瞬。かすかな何かを感じたが、足を止めている暇は彼には無い。
 下の階で待つディスタの濡れ毛布で包まれた老人は、外までなんとか呼吸を保つ。
「お父さん、しっかり!」
「‥ここは天国か? 涼しいな」
「何を言ってるんです。助かったんですよ!」
 その頃シエラとディスタは外に出てきていた。
「魔法‥使い切りました。でも二階にまだ火が燻ってます」
「大よそ消えたが煙と、脆くなった建物は危険だ。後は三階だけか?」
「三階の中央に‥早く!」

 グラッ!
「おっと!」
 炎は小さくなったが、建物の崩壊の危険性はまだ残っている。三人は一気に階段を駆け上った。
 三階の最初の部屋で、ルカは震える小さな背中を見つけた。三人目だ!
「怯えるな。助けに来たぜ!」
 口元のタオルと帽子を外し顔を見せる。少女は立ち上がるとルカの腕へと飛び込んだ。
「怖かったよ〜」
「頑張ったな、ガッツあるぜェ」
 少女の頭を撫でる間に、絶狼は窓の外を見る。
「下でフローラ達が援護してくれる。緩んでる階段よりもここから出た方が早い。ロープで‥」
「縄梯子がある。子供もいるし。こっちの方がいい」
 ルカが投げた縄梯子を絶狼は窓辺に括りつけた。自分が一歩、降りてみる。大丈夫そうだ。
「じゃあ、この子を連れて降りてくれ。いいか? あの兄さんと一緒に行け。下で母さんが待ってる」
「うん!」
 少女はルカの腕から絶狼の首に移ると、しっかりとしがみ付いた。絶狼はゆっくり、下に降りていく。
「後は犬だけ‥って蒼司!」
 ルカは廊下で叫ぶ。同じ階にいると思っていた蒼司の気配は無い‥
「まさか‥あいつ!」
 
 その頃蒼司は二階にいた。三階にいない最後の要救助者‥
(「くそ! あの部屋だ」)
 自分が見落とし、ラグが何かを感じたあの部屋。その部屋を蒼司は再び開けた。
 どこかにいる筈。彼の耳が微かな何かを感じた。
 ハア‥
「そこか!」
 ベッドの影に、半死半生の子犬を発見し蒼司は抱きあげた。
「すまなかったな」
 廊下に出た彼は唖然とする。下への階段は火に包まれ、上への階段は半ば崩れていた。
 どちらにも動けない。燻る炎。濁った煙が喉を焼く。咳き込みながら蒼司は子犬を強く抱きしめた。
「まだ‥まだだっ!この程度で死なすかよっ!」
「当たり前だ! こっちへ来い!」
 差し出された手。蒼司は迷わずその手を掴んだ。
「ルカ!」
 部屋に飛び込み扉を閉める。炎から逃れたルカは何より先に怒鳴った。
「馬鹿野郎! スタンドプレーは止めろって言ったぞ! 死ぬ気か?」
「死ぬつもりは無い。死んだヤツには何も出来ないからナ」
 帰った答えにルカは苦笑する。
「オーケイ、落ち着こう。死はすぐそこだ‥だが、許容しない。全員で生きて帰る‥そう約束したろ?」
「ああ。後はどう脱出するかだが‥」
 二人に希望の声が聞こえた。
「早く! 顔を見せて」
 フローラ! 彼等は窓に駆け寄った。

「いたわ! 皆、力を貸して!」
 外に出た8人と人々がマントと毛布を重ねて引く。あるだけの布が重なっているがまだ薄い。でも
「私、いえ、皆が受け止めるから飛び降りて!」
「早く! 崩れるぞ」
「信じて下さい」
「大丈夫です」
「死なせない。絶対」
「さっさと来い」
 厚い心が重なっていた。

「言われるまでも無い。信じるさ」
「よし! 行くぞ」
 二人は顔を見合わせ躊躇わずに飛んだ。先に蒼司が飛び降りる。着地と同時に受身の要領で地面に転がる。
「ウッ!」
 肩を打つが胸の中の子犬は庇った。
 続いてルカがダイブする。
「大丈夫ですか?」
「なんとか‥生きてるぜ」
 衝撃に絶えルカは、身を起こした。
「全員脱出だな」
「ムク! 良かったあ。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
 少女が親友を胸に抱く。心からの笑顔で。
 最高の報酬を確認した時‥
「おい! 蒼司!」
「ルカさん!」
 二人の意識は遠ざかった。満足を胸に‥

 二人は数日立ち上がることもできなかった。
 疲労と火傷、肩と足の骨折。宿屋で缶詰の日々。
「名誉の負傷ね」
 フローラの言葉は、彼らを苦笑させた。
 その夜、北斗とラグファスそしてディスタが見舞いにやってくる。
 騎士団から報奨金を貰ったとお金を持って。
「半分は被害者にあげました。いいですよね?」
「派手な個人プレーしてくれてよ。でも、あんたらと一緒で良かったぜ」
「ま、無茶はほどほどにな」
「‥運命はなァ、勇気ある者に味方するんだよ。行動はともかくあんたには勇気があったな」
 いつか、飲みに行こう。ルカのの言葉に頷いて、蒼司も窓を見上げた。蒼い空‥
「命を大切にする事、1秒を感じ取る事、女神を味方につける事‥傷ついてよく解った。これにて任務完了!」
 
 シエラと絶狼は焼け跡を調査をしていた。言わば現場検証だ。
「火元は厨房じゃない。では何故あんな火事が?」
「シエラ、この辺一番燃え方が酷いぜ」
 倉庫だった筈の場所を絶狼は指差す。
「ホントですね‥アッシュワード」
 シエラの魔法に、灰は語る。
『4日前の放火で作られる前は、木の柱でした』
「「放火あ!?」」
 あの火事は放火だったのだ。自分達の、いくつもの命を飲み込むかもしれなかったあの火事は‥。
「犯人は? 解りませんか?」
 灰はそれ以上は語らない。 今から犯人に繋がるヒントは出てこないだろう。
 
 炎の勇者、救出者
 彼らの名声は高まった。
 だが‥また同じことが起こるかもしれない。
 二人は口の中に微かに苦い思いを噛み締めずにはいられなかった。