【伝説の始まり】『山賊』退治

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:15〜21lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 91 C

参加人数:12人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月14日〜10月19日

リプレイ公開日:2006年10月22日

●オープニング

 王宮の広間。
 居並ぶ人々を前に王妃は、まごう事なき笑顔を、見せた。
「感謝します。私を救ってくださった誇り高き騎士‥‥円卓第一の騎士よ」
 紅色の頬をさらに上気させ、王妃グィネヴィアはラーンス・ロットにその右手を差し伸べた。
「我が敬愛する気高き貴婦人グィネヴィア。御身の上に栄光と祝福あれ」
 親愛を誓った王と、騎士達の眼前でラーンス・ロットはその手を取り微かな、触れるだけの接吻を捧ぐ。
 花が綻ぶような、星が歌うような、光り輝く貴婦人の笑顔を、参加者達は見つめていた。
 デビルと悪魔による王妃襲撃事件。
 血と死、溢れる城から王妃を奪還したのは冒険者達と彼らを指揮するラーンス・ロットだった。
 国と王妃を守った騎士は、栄光と褒賞で十重二十重に彩られても不思議は無い。
 だがラーンス・ロットが望んだ褒美はこれだけ。
 ‥‥人々は、彼を褒め称えた。
「清廉なる理想の騎士」「まさに王国第一の騎士よ」
 と。
 だが、それをただ一人氷の眼差しで見つめる者がいる。
「ふん! 何が王国第一の騎士だ。清廉が聞いてあきれる。不義の志を抱く恥知らずめが!」
 アグラヴェイン・オークニー。
 ラーンス・ロットの栄光の影に隠れたこの騎士は、だが不敵に笑う。
「‥‥見ているがいい。正義は我にありだ!」
 手には、握り締めた一枚の羊皮紙を持って。


 その日、冒険者ギルドにやってきたアグラヴェインは以前とは違い、きちんと依頼を出した。
「山賊退治に行く! 手伝え。冒険者!」
 口調と態度は相変わらずだったとしても‥‥。
「山賊退治ですか? アグラヴェイン卿、御自ら?」
 円卓の騎士が出すにしては、あまりにも普通の依頼内容に係員は確認を入れた。
「無論だ! この賊、悔しいが只者ではない。腕が立つ上に、このイギリスという国を狙う極悪不義の魂を持つ者なのだ。まあ‥‥俺一人でも決して倒せぬ相手ではないが、確実に捕らえ、王の御前に引き出すためにお前達に協力を要請する」
 場所はキャメロット外れの森の奥、その川沿いにある目立たない小屋。
 賊は普段からそこに住んでいるわけではないが、攻め入るその日には確実にやってくるはずだから出発もアグラヴェインが指定した時刻に全員揃って集まれとまで言われた。
 つまり、先行偵察はするな、と言っているのだ。
「先行調査できないと、地の利が確保できなくなるのでは?」
「下手に警戒されては元も子もない。何より賊の悪事の証拠をつかまねばならんのだ! 情報はある。奴は必ず来るだろう。小さな小屋のようだし、部屋の中に入ったところを踏み込めば、そんなに地の利など気にする必要はない!」
「?」
 ‥‥首を捻る係員に、アグラヴェインはさらに続け指示をする。
「賊が部下を連れてくる可能性は少ないが、待ち伏せはされるかもしれぬ。だから、俺がまず先に賊の行動を確かめ小屋に踏み込む。お前達は賊を逃がさぬように小屋を取り囲み、万が一部下がいた場合にはそれを倒すのだ。賊そのものは、この俺が直々に討ち取ってやるゆえ心配はいらぬ!」
 その言葉は『手柄は俺のもの』。その眼差しは『邪魔はするな』。と言外に告げていた。
 求められているのはイギリス最高ランクの冒険者、用意されたのは驚くほどの報酬。
 どれほど手ごわい『山賊』相手かは知らないが、この依頼には卿の本気が示されている。
「正義は我らにある。我こそはと思うものはついて来い! 待っているぞ」
 そう言って帰って行ったアグラヴェイン・オークニー。
 掲示板に向かう係員の手が止まっている。依頼書を見つめて。
「‥‥まさか‥‥な」
「どうしたんだ?」
係員の不振な様子に、腕をまくりかけた冒険者は軽く声をかけた。
 明るい彼の声とは正反対に、係員は暗く呟く。
 この依頼。貼り出せば、興味を持つ者も多かろう。だが‥‥
「‥‥大したことじゃないんだが、貼り出していいもんか、と迷うんだ。‥‥多くの依頼を見てきた者のカンと言ったら笑われるかもしれんが‥‥」
「笑いやしないが‥‥なんで?」
「この依頼は、不自然な事が多い。なぜ山賊退治ごときに経験の高い熟練した冒険者を望むのか? なぜ、アグラヴェイン卿は自分の部下を連れて行かないのか‥‥。出発時間もはっきりせず、アグラヴェイン卿が決めるという。事前調査も禁止。何か、裏があるんじゃ無いか、とそう思える」
「裏?」
「単なるカンだから、根拠は無い。‥‥まあ気のせいだと‥‥思うんだがな」
 依頼を貼り出し係員は思う。
 本当に‥‥気のせいならいい。と。
 イギリスを包む澱んだ風も、この依頼を受ける時、ほんの微かに感じた何かも‥‥。
 だが、胸の奥の不安はどうしても消えてくれない。
 何かが起こると告げている。

 形にならず、言葉にできない不安。
 これを古来から‥‥人は予感と呼んでいた。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

マギー・フランシスカ(ea5985)/ シェリル・シンクレア(ea7263)/ レイル・セレイン(ea9938)/ 日高 瑞雲(eb5295

●リプレイ本文

○始まりの手紙
 始まりは数日前。『二通』の手紙がある人物の手に届いた事に端を発する。
 そのうちの一人。
『彼』はその手紙を握り締め、目を輝かせた。
「ついに、俺の正義が証明されるときが来たのだ。真実を知るものはちゃんと知っている。この世の善が何で、悪が何か、ということを!」

 もう一通の手紙を受け取った『彼』はその手紙を握り締め、震える声で呟いた。
「‥‥何故、今なのか? グィネヴィア。我が心の貴婦人よ‥‥」

 そして運命の輪は回り始める。

「本当に行かれるのですか? そのような手紙をお信じにならない方が‥‥」
「煩い! 臆病風に吹かれた愚かな部下に用は無い。‥‥見ているがいい。俺が戻ったとき、万人が知るだろう。真の騎士が誰であるかを!」

「本当に行かれるのですか? その手紙は本当に‥‥」
「あの方が私を呼ぶのであれば、私はそれに従うのみだ。だが‥‥案じるな。私は私の信義を捨てることはしない」

 二人の騎士の旅立ちと共に。

○予感抱く始まり
 見送りに来た者達はその張り詰めた空気に、思わず足を止め、言葉を失った。
「ああ、見送りに来てくれたのか。すまないな。シェリル」
 知らず堅くなっていた表情をできるだけ緩めて愛娘にマナウス・ドラッケン(ea0021)は声をかけた。
「はい‥‥。」
 と頷くシェリル・シンクレア。だが胸の中で広がる暗雲はまだ消えることは無い。
 時間ぎりぎりまで検討に検討を重ねるリ・ル(ea3888)やシエラ・クライン(ea0071)を始め養父を含む参加者は全て実力ある冒険者ばかり。
 だが、彼らをして、油断できぬと警戒させる依頼なのだ。今回は。
「アグラヴェイン卿と山賊退治‥‥怪しすぎです」
 独り言のようにリースフィア・エルスリード(eb2745)は呟く。
「まあな。円卓の騎士がワザワザ出張るくせに部下を連れず我々にお供が回ってきたのは何か理由があるのかな?」
「あるに決まってるでしょ。ギルドの人も不安げな顔してたし、兎に角無茶だけはするんじゃないわよ」
 レイル・セレインの心配半分入りのツッコミに照れた様に閃我絶狼(ea3991)は頬を掻いた。
 そう、冒険者達を緊迫させている原因は、依頼内容そのもの、ではない。
「アグラヴェイン卿ほどの騎士が山賊退治に冒険者を雇う‥‥手ごわい相手。それに噂の話‥‥いやな予感はするんだが万が一当たっていると厄介だな」
「ただの賊を、何故『王の御前に引き出す』必要があるのか? 一番腑に落ちない点はそれだ。『イギリスを狙う極悪不義の魂を持つ者』というのならば、何故討伐団を編成しないのか?」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)。ルシフェル・クライム(ea0673)二人の騎士達も、結果を言葉にはっきりと出す事はできないでいた。
 かくして、冒険者達の結論は元に戻る。
『この依頼は、怪しい‥‥』と。
「んなこと、関係ないだろ。騎士だの国だの、興味がない。冒険者は依頼を成功させるだけだ。違うのか?」
 迷い無くキット・ファゼータ(ea2307)は断言する。
「そうですねぇ〜」
 笑いながらエリンティア・フューゲル(ea3868)はキットの顔を見る。顔を背ける少年。彼もきっと感じているのだ。いや、冒険者全員が察しているはず。
「ラで始まる円卓の騎士の事を『王妃をたぶらかして王国に害を成す奴』、要するに不義を働く奴と言っている様なモノですよねえ。依頼主さんは話に聞く通りの方ですねぇ。ホント」
「ほお? どのような、話を聞いている? 聞かせてもらおうか?」
 ピン! 少し緩んでいた冒険者達の間の空気がまた張り詰めたものに変わる。
 依頼主。円卓の騎士の登場である。
「なるほど、少しは役に立ちそうな者達だな。見知った顔もある。‥‥だが、なんだ? その仮面の者は。依頼主の前に顔を晒す事もできんのか?」
「ゆえあって‥‥家庭の事情で本名は名乗れませんが、黒の神聖騎士エスとお呼びください。イギリスの危機だというのに、顔を隠し、名を名乗れないのでは信頼していただけるかわかりませんが‥‥」
「ギルドが依頼を預ける相手だ。俺達も保証する。信じては貰えないか?」
 アグラヴェインから庇うように『エス』の前にリルは立つ。
 冒険者達の纏め役のような彼の言葉にアグラヴェインはふん、と鼻を鳴らした。
「まあいい。今はそれどころではないからな。‥‥用意はできているのか? 刻限は今日の夜だ。それまでに布陣を整えなければならん。直ぐにでも出発できるのだろうな?」
 愚問であるというように、冒険者達は頷く。今まで無言だったテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)も静かに頷く。
「よし! ならば出発だ。正義は我らと共にある!」
「正義‥‥か」
 小さくイグニス・ヴァリアント(ea4202)は苦笑を吐き出す。そんな言葉で自らを奮い立たせねばならない彼は、一体何を考えているのか? と。
「おっと、そんな詮索もなしか? 覚悟はしていった方がいいかな?」
 何の覚悟か、は、正直今はまだ自分にも解らないが。
「我らが母国の為に、と。さて、それじゃ行くか」
 歩き出す冒険者達。
「家出少年も、皆も、無事に戻っておいで」
 黒の神聖騎士『エス』いや、シクル・ザーン(ea2350)から預かった手紙をマギー・フランシスカは手で撫でながら門を潜り抜ける冒険者達を見つめる。
 優しい眼差しと祈りと願いが、その姿見えなくなるまで、冒険者達を見送っていた。
 
○オークニーの鬼子
 事前調査も禁止。だから、冒険者達がその森に入るのは初めてだった。
 キャメロットの街からそれほど遠くない。今の時期、さして危険な獣も存在しない。
 穏やかで美しい秋の夕暮れ時の森は、こんな時でなければゆっくりと散策したい気分にさせられる。
 小さな小川の側に、目的地と言われる小屋があった。
 女子供の足でも半日ほどで辿り着くであろうそこは薄暗がりの中ですら、小さいながらも美しく、手入れが行き届いているように見えた。
 少なくとも荒れ果てたボロ小屋、などではない。
「あれは‥‥狩小屋か? 狩猟か何かの為の‥‥? 山賊は、あそこを根城にしているのか‥‥でも、それにしては‥‥ん? どうした? エリンティア?」
 周囲の偵察に出ていたイグニスは、何事か呪文を唱えて後。急に、押し黙ってしまったエリンティアの顔を覗き込む。
「何か、気になることでもあったのか?」
 珍しく、エリンティアの顔は真剣だ。魔法によって磨かれた感覚を、さらに集中して研ぎ澄ます。
「‥‥小屋の中に誰かがいますぅ。静かな呼吸が一つ‥‥。女性、でしょうか? ま‥‥まさか?」
「‥‥下手な手出しは卿に怒られるでしょう。ここは、ひとまず戻って皆と話をするのが良いと思います」
 ルーウェンの提案に冒険者は頷き、小屋から少し離れた場所に軽い、陣をとった仲間の下へ帰る。 
 そこでは‥‥
「俺は間違った事は言ってないし、頼んでもいない。賊の正体を知っているなら話してくれと言っただけだ。」
「うるさい! 子供が黙っておれ! お前達は余計な事を考える必要は無い。大人しく俺の言う事を聞いていればいいのだ!」
 森を揺らすほどの怒声が鳴り響いていた。
「卿。お声が‥‥。例の小屋は、ここからそう遠くは無いのでしょう?」
 シエラが止めなければそのまま、キットを攻撃していたかもしれない。
 胸倉を掴んでいた手を離して草の上に突き飛ばす。
 ‥‥流石に自分の行動が作戦に支障をきたすと気付いたのか、声のトーンを落とすが横柄な態度は変わらない。
 一方、怒鳴られた方のキットは、別に怒ったようす見せてはいない。ただ、身体についた草を払うとほんの少し呆れた様に肩を竦めて依頼人に向けて冒険者としての問いをかける。
「別にあんたが何を思っているかは知らないし知る必要もないと思ってはいる。だが、それとこれとは話は別だ。俺達は依頼を受けるとき、命を張っている。成功させるためにな。地位や名誉なんかはいらない。必要なのは依頼を達成するための正確な情報だ」
「確かに‥‥可能な分だけで構わないので、賊に対する情報を教えてもらいたいな。相手の事を知る事は兵法の基本だからな」
 テスタメントもキットに援護射撃を出す。
 文句の付けようの無い正論。悔しさに歯軋りする音が聞こえそうなほど渋い顔をした後、アグラヴェインは
「‥‥おそらく、腕の立つ騎‥‥戦士が一人、だろう。状況からして部下を連れてくることはまずないと、思っている。ただ‥‥女連れである可能性は高い」
「女連れ? 相手は山賊なのでしょう? どうして‥‥」
 リースフィアの問いに返事は返らない。
 それが意味するものを、もう冒険者も十分に理解していた。
「アグラヴェイン卿。お答え頂けぬか? なぜただの賊を、何故『王の御前に引き出す』必要があるのか。『イギリスを狙う極悪不義の魂を持つ者』というのならば、何故討伐団を編成しないのか? ‥‥その賊は一体誰なのか?」
 アグラヴェインの激昂を覚悟の上で、ルシフェルは問うた。
 だが、返ってきたのは沈黙。アグラヴェインは握り締めた拳を、肩を、全身をただひたすらに震わせていた。
「‥‥お前達も、俺に逆らうか? 俺は本来こんな位置で、こんな役割を受けるものではないのに‥‥何故それを皆解ろうとせぬのだ!」
 彼は、表現の仕方はともかく国への忠誠心は本物の思いを持っていると解っている。
「皆、そうだ。俺を尊重する事も無く、いや見下げ笑う。イギリスの魂を知る俺を差し置いてノルマンの田舎騎士を仰ぐのは何故だ! 王どころか、兄上までが俺よりも‥‥!」
 だが、それ以上に深く胸に抱いているものがあったのだと冒険者は始めて気付いた。それは‥‥。
「オークニーの城での戦いでもそうだ。前線に立ち、突入の突破口を開き、敵を打ち破ったのは誰だ? だのに、人々はあいつを褒め称える。何故だ! 何故、皆があの男を」
 シエラはずっと胸の中で考えていた。依頼の裏。アグラヴェインが言う『賊』が内敵であるならば、指し示すのは外れて欲しい予想ただ一人。
 彼がこれほどまでの劣等感を抱くその人物とは‥‥
「あの男? 賊とはまさか‥‥?」
「だが! 俺の行動に間違いは無かった。見るがいい! ついに、俺は奴の本性を白昼に知らしめるチャンスを得たのだ。もう、誰にも邪魔はさせぬ。そう、誰にも‥‥な!」
 そう言ってアグラヴェインは笑う。手に羊皮紙を握り締めて。
「その羊皮紙はなんなんだ?」
 キットが手を伸ばしかけたその時だ。
「皆! 来たぞ!」
 声を潜めながらも鋭い声でマナウスは仲間を呼ぶ。
 視線の先に、確かに人の動きがある。人たちの動きが。
 冒険者達は息を潜める。アグラヴェインも手にしたものを荷の中に乱暴に押入れ、それに並ぶ。
「ちっ‥‥、一人じゃないな」
 闇に紛れ、ランタン一つで道を行くのはフード付きマントに身を隠した複数の男達。
 この闇の中で迷い無く馬を操る姿はそれなりの訓練を受けたものであると、その場にいた者達に直感させた。丸腰では勿論無い。
 彼らは、惑うことなく小屋へとたどり着き、馬から下った。
 やがて、一人が小屋の中へと入っていき、他の男達はその周辺を警戒するように小屋の周囲に立つ。
「卿! どうするのです‥‥か?」
 指示を仰ぐ為に振り返って、シエラは自分の背筋が凍りつくのを感じた。
 そこには両目をぎらつかせた男がいる。
「ついにこの時が来たか。‥‥冒険者。よく聞くがいい。この一戦にわが国の運命がかかっている。抜かりなく動き、敵を捕らえるのだ!」
 人を動かす円卓の騎士の激に、だが冒険者は心震わせはしない。
「突撃する。ついてこい!」
「皆‥‥計画通り実行だ。散開!」
 アグラヴェインの荷から羊皮紙がひらりと落ちる。
 絶狼の手がそれを拾い上げた。
「卿‥‥落し‥‥。まあ、後でにするか」
 今は、暗く、その文字を読む事はできないと、服に隠して。
 リルとアグラヴェインの号令を合図に、冒険者は動く。
 小屋は、まだ静まり返っていた。
 数瞬後の喧騒を知る筈も無く。

○運命の罠
「見たか! 冒険者。こやつこそが国を狙う山賊。これこそが動かぬ証拠だ!」
 開かれた扉から飛び込んだアグラヴェインは、勝利の声を上げた。
 静かな森に響き渡るその声に、周囲で見張りと剣を合わせていた冒険者達も一瞬、その動きを止めてしまう。
 どこまでも続く高笑いに狂気さえも感じつつ、だが、冒険者達は動きと、言葉を失っていた。
「あんたは‥‥」
「ラーンス・ロット卿 まさか‥‥、本当に貴方が‥‥」
 リルは自分らしくも無く、手が震えているのを感じていた。横のシエラもルシフェルもこの状況に殆ど言葉を発する事さえできずにいる。
 冒険者を照らすのは月明かりと僅かなカンテラのみ。
 だが見間違えようが無かった。小屋の中には一組の男女がいる。
 男はまごう事なき湖の騎士ラーンス・ロット。鎧を纏わぬ平服。マントを脱ぎ寝台の横に立っている。
 彼がいるのは、ある意味、冒険者も理解していた。だが、まさかここに彼女がいようとは。
 寝台に腰をかけラーンスに手を差し伸べる女。
 自らの上衣を足元に落とし、肩に乗るは、マント一枚。
 遊女のごとく豊満な胸をさらけ出しているその女は‥‥
「ラーンスだけでなく、お前もついに本性を表したようだな? グィネヴィア!」
 冒険者達でさえ、顔を知るイギリス王妃グィネヴィアその人だったのだ。

「ついに本性を表したようだな。グィネヴィア!」
「なんだと!」
 アグラヴェインの声は、小屋の外周。見張りの騎士と剣を交わす冒険者達の耳にも届いた。
「あっ! くそっ!」
 一瞬の油断の隙に、剣を弾き小屋へと駆け抜けたその騎士をキットは舌打ちして、追いかけた。
「陰に生きし邪なるものよ‥‥その身をもって裁きを受けよ」
 走り出す騎士の眼前で魔法がはじけた。大したダメージにはならないが、その隙にシクルの伸びた手が足を掴んで転ばせる。
「くっ! ラーンス様‥‥」
 苦しげな顔で、それでもまだ彼は主の下へ駆け寄ろうと手を伸ばす。
「‥‥ラーンス? なっ、なぜ円卓の騎士の方が‥‥」
「一体、何がおきてやがるんだよ!」
 キットの問いは、その場、その時にいた者達にもきっと同じであったろう。

 数名が入ればまともな身動きはできなくなるであろう小さな小屋で、彼らは対峙していた。
「違う! 話を聞いてくれ!」
「逆賊の話を聞く必要など無い。服を脱ぎ、男女が出会っている事が不義の証拠以外の、何だと言うのだ? この姿を見ればアーサーももはや俺の正しさを疑う事はできまい!」
 二人の円卓の騎士はお互いの姿をその瞳に映し、睨みあっていた。
 勝者と敗者の眼差しで。
「やはり、そうでしたか?」
 あまり驚きの表情を見せないルーウェンとは違い、リースフィアの声は思いと正比例して強く、上がる。
「何故貴方達は‥‥! 第一の部下と妻に裏切られた王は誰を信じたら良いのですか!?」
 アグラヴェインは今や絶対の正義を前に、勝利を確信している。もはや、誰の言葉も耳には入らぬ程自らに酔いきって。
 だから、だろうか? 
「理想を見つめる娘」
 狼狽するラーンス・ロットの前に立ちふさがったグィネヴィアはその眼差しを惑わせることなくリースフィアに、そして冒険者達に向けて微笑んだのだった。
「‥‥貴女は男と女の‥‥愛の真実を、まだ知ってはいないのですね。私も、ラーンスも王を裏切ってなどいません。私は王を心から愛しています。王も私を愛してくださる。しかし‥‥それは男と女の愛では無いのです」
(「解りますか? 貴女に、その苦しみが、悲しみが‥‥」)
 諭すように語るグィネヴィア。リースフィアは強く、唇を噛んだ。
 姿など魔法でいくらでも変えられる。彼女は本物でないかもしれないと心のどこかで思っていた。
 いや、そうであって欲しいと願っていた。だが、その願いは叶わない。
 彼女はその言葉を自らの名と地位に相応しき凛々しさで彼女は朗々と言い放つ。
 彼女は紛れも泣く、国の母であり、第一の女性である王妃。
「‥‥私に無償の愛を与えてくれるのはこの方だけ。私を女として見て下さるのはこの方だけなのです。私は‥‥何があろうともこの愛を、手放す事はできない」
 そして、自らを愛を望む女であると告げるグィネヴィア、なのだ。
「ふん! 何を言おうともう言い逃れはできんわ! 王妃の冠を穢れた遊女の頭に乗せる事など俺は許さぬし、気高き衣を脱ぎ捨てたお前には自らの心の悪を隠す術はもう無いのだ!」
 長剣を抜き放ってアグラヴェインは剣を掲げた。
「大人しく我が前にひれ伏すせ。逆賊! そして、王の名の下その裏切りの罪を自らの命によって償いがいい!」
 その剣を振り下さんと踏み込んでいく。
 だが‥‥!
「グィネヴィアに‥‥触れるなあっ!!!」
「何!」
「危ない!」
 正直、その時、その場で、その動きに反応できたものは、僅か。
 ‥‥止められるものなど誰もいなかった。

 冒険者は思っていた。アグラヴェイン卿とて騎士、ラーンス卿との一騎打ちを果たすのであればそれは、依頼でもある。邪魔の必要はすまいと。
 魔法の援護もかけてある。オーラの技も使えるというし、そうやすやすとやられはしまいと。
 アグラヴェインは思っていた。
 勝利を確信していた。
 入り口も、小屋の周囲も冒険者が固めている。背後の憂いは心配ない。
 そして目の前にいるのは裏切りの騎士と王妃。
 閨の中の彼らは武器を帯びているはずも無く、抵抗は無い。いかに相手が強かろうと剣も鎧も持たぬ相手を恐れる必要は無い。
 正義の前に彼らは降伏し、王の前で罪を明るみにされ、処刑‥‥されるだろうと。
 だからこそ、冒険者に邪魔をするなと伝え、一人小屋の中に入ってきたのだ。
 ‥‥彼の目は夢を見る。
 アーサー王が彼を円卓の第一位の席に自ら招きいれる。敬愛する兄も弟も、貴婦人達もその勇気と正義を賞賛する。
 誰もがもう彼を無視できない。栄光の光の中にいる自分を。
 しかし‥‥!
「アグラヴェイン卿!」
「‥‥あ‥‥‥‥が‥‥」
 今、自分が見ているのは何であろう? 
 額の前にあるのは冷たく、黒い板。流れ落ちる命の雫。
 冷えていく身体で、唯一熱い‥‥心臓。
 全ての感覚が消えていく中で、自分に呼びかける冒険者の声と、その熱だけが彼を僅かにこの世に留めていた。

「大丈夫か? エス!」
 崩れ落ちるように膝を付いたエス‥‥シクルをキットは背中から抱き寄せた。
「‥‥あ‥‥うっ‥‥」
 唸り声をあげるシクル。彼の両手首はからは血が噴き出している。
 傷口は骨さえも砕けて、パックリと開いている。
 膝を付き、自分より大きな身体を支え、必死の形相でポーションを彼の喉に流し込む。
「‥‥これも使うといい」
「!」
 キットは強い目でその薬を差し出した相手を睨んだ。
 この状況を作った、仲間を傷つけた張本人が差し出したポーション。
 だが、今は一刻を争う。ひったくるように奪って、キットはそれをシクルに使う。
「すまない。加減する事ができなかった‥‥」
「薬はどうも。‥‥だがな、アンタ。この状況をどう考えてるんだ? 先にもっと言う事、することがあるんじゃないか?」
 リルの目線の先には、倒れるアグラヴェインに治療をかけ続けるルシフェルと、
「死んではいけません。しっかりしてください。アグラヴェイン卿! 貴方が死んだら誰が国を護る!!」
 必死で呼びかけ続けるリースフィアがいる。
 そして、それ以外の人物は全て、目の前に立つ騎士を見つめていた。
 騎士は応えない。
「答えろ! ラーンス・ロット! あんた、自分のした事がわかってるのか!?」
 流石に笑みは浮べられない。リルは一歩、前と歩みだす。
 その前にいるのは湖の騎士ラーンス・ロット。
 手に持った長剣はアグラヴェインの血で真紅に濡れている。
 彼は感じているはずだ。自分を取り囲んでいる冒険者達の弓が、魔法が、剣が全て自分を向いているであろう事を。
 だが、それから逃げようとはしない。
 それは‥‥彼の背中の後ろには、守るべき者がいる。
「ああ‥‥解っている。こうなることは、解っていたが、止める事は‥‥できなかった」
 事はまさに一瞬だった。
 王妃と、ラーンス・ロットに向かって真っ直ぐに向かってきたアグラヴェインの剣。それを自らの愛剣アロンダイトでラーンスロットは弾き返したのだ。
「なに!」
 丸腰の相手に向けた筈のアグラヴェインの剣は驚きと共に、天井を向き、その胴体はがら空きとなる。
 そして、稲妻の如き一閃。
 銀鎧さえも皮布のごとく裂くオーラの力篭った一撃は、その攻撃を受ける瞬間まで覚醒していたであろうアグラヴェインをして、何もさせることはできなかった。
「ぐっ‥‥あっ‥‥」
 崩れ落ちるアグラヴェイン。
 その心臓を一撃で永久に使用不能とする筈だった斬檄は、後退し倒れるという行動をアグラヴェインにとらせても、まだその機能を保っていた。
 生と死、紙一重の差を分けたのは二本の腕。
 死角から伸びてアグラヴェインを庇おうとした腕が、自らと引き換えにほんの僅か、剣を止め、彼の命を保たせたのだ。 

 王妃を背後に庇うように立つとラーンスは冒険者達の方を見回した。そして一人の魔法使いに目を留める。
「お前か? アグラヴェインがいると囁いたのは?」
 女の魔法使いもいるが、あれは男の声のイメージだった。目で言うラーンスの言葉にエリンティアは笑みで、肯定した。
「アグラヴェインがここで待ち伏せしているであろうこと、お前に言われるまでも無く‥‥俺は解っていた。だが‥‥来ないわけには、逃げるわけにはいかなかったのだ。信義を守るためには‥‥」
「何の、信義です!? 王を、不義の子との噂で苦しんでいる王を、まだこれ以上苦しめるつもりですか? まだ王と国への忠誠が残っているなら縛につきなさい!」
 泣き出しそうな顔で、リースフィアは思いを叩き付けた。
 アグラヴェインに正義は無い。騎士としての誇りを失った行動だったと彼女ですら思う。
 だが、それでも彼女には目の前の人物達の行動は許せなかった。
 今のイギリスがどんな状態が解っていない筈はないのに。
 それでも、止める事ができなかったという彼が。
 そして、王妃であるより女である事を望むと言った、彼女が。
「縛につく‥‥か‥‥! グィネヴィア!!」
 リースフィアの言葉に剣を落としかけたのかもしれない、ラーンスが上げた声。
 そしてその先に見たものに冒険者達は驚愕した。
 いつの間にか裏木戸が風に揺れている。そして、漆黒の闇の中、馬を駆る人影。
「王妃が‥‥逃げた?」
 ルーウィンとイグニスは外へ飛び出し、マナウスは弓を引き絞る。
 だが、捕らえる事も矢を撃つこともできなかった。一つは暗闇に溶けた馬の姿が探せなかったこと。もう一つはこの闇の中、万が一、馬が傷つけば乗り手の命に関わるという事。そして
「?」
 マナウスが携帯していたあるものに気づいた事。それに意識を向けたとき、
「ラーンス様!」
 今まで、立合いどころか剣を交える事さえも避け、小屋に駆け寄っていた賊の部下、いやラーンスの部下である騎士たちが声と剣の切っ先を上げたのだ。
 表情を失い、立ち尽くしていたラーンスの顔に力が戻る。
「お逃げ下さい!」「王妃様をどうか!」
「くっ!」
 死兵のごとく、必死の形相で剣を振るう騎士たちの攻撃に、絶狼とテスタメントは足止めを余儀なくされた。
 微かな逡巡の後、剣を握りなおしたラーンスは裏木戸の方へと駆け出していく。
「逃げるつもりですか! 自らの罪を償わず!」
 声をからしながら叫ぶリースフィアの呼び声に、ラーンスは振り返らずに足を止めた。
「‥‥信じては貰えぬかもしれぬが、私は、騎士の誇りに恥じることを今は‥‥何もしていない。この身とグィネヴィアの潔白を証明し、罪を償うために私は‥‥彼女を追う!」
「‥‥勝手にしな」
 飛び掛らんばかりのリースフィアを手で押さえてリルはラーンスに言い放った。
「リルさん!」
「今は、卿とエスの手当てが先だ。ルシフェルの魔法で少しでも容態が落ち着いたら‥‥戻るぞ」
「そちらが来なければ、俺達も何もしない。俺達は部下を相手にするように言われているからな」
「すまぬ!」
 走り出すラーンスの侘びは、誰に向けたものだったのか?
 数瞬後、小屋の裏から走り出したそれは馬首を闇に向け、消えていく。
 魔法か矢なら、まだ彼を追えたかもしれない。
 だが、それができる絶狼とテスタメントは部下と剣を交え動けず、エリンティアにはその意思がなく、マナウスは自らの言葉通り矢を弓に番えなかった。
 そしてシエラは
「なんですか? これは‥‥まさか‥‥」
 呆然とある物を見つめていた。
 意識をまったく向けていなかったある携帯品。今は、静かなそれをずっと見つめていた。  

○伝説への勝利
 夜明け、無人となった小屋で、絶狼は自らの思考を再生するように目を閉じている。
 あの場の中でいくつか気になった事があった。
 ラーンス卿の言葉、王妃の格好。そして‥‥イグニスが拾ったあの羊皮紙。
「絶狼さ〜ん。何を考えているんですかぁ〜?」
 気の抜けるような声に、気を抜かず絶狼は声の方を向いた。
 そこにはイグニスとルーウェン、そして声の主であるエリンティアがいた。
「お前達こそ、何をしている?」  
「少しぃ〜、やっておきたいことがあったんですぅ〜。お二人には付き添いをお願いしましたぁ〜」
 言いながらエリンティアはスクロールを広げ、小さく呪文を呟いた。
 光に包まれた彼は眼を閉じ‥‥やがて開く。
「ラーンス卿が言った騎士の誇りに恥じる事はしていない、と言うのは本当みたいですねぇ〜」
 今のところは。と付け加えエリンティアは仲間に微笑んで見せた。
 そして、ラーンス卿が落としていき、イグニスが拾ったあの羊皮紙を広げる。
『この夜、貴方をお待ちしています。私の心からの感謝を、受け取りに来てください。 貴方を愛する者より』
 添えてあった時間と場所を確認してエリンティアは頷く。
「この手紙に呼び出されたラーンス卿はぁ、グィネヴィア王妃に迫られたけどそれを、断った‥‥と、どうしたんですぅ。絶狼さん?」
「ちょっと、その手紙見せてくれ!」
 奪うように手紙を借りると絶狼は取り出した一つ目の手紙を照らしあわせる。
 一つは、ラーンス・ロットが、もう一つはアグラヴェインが落としていった手紙。
「まさか‥‥。本当に?」
「だから、どうしたというのですか? 絶狼さん?」
 ルーウェンの問いに、絶狼は無言で二枚の手紙を差し出した。
「あれえ? なんだか筆跡似てますねぇ〜」
『この日、この夜、来られたし。ラーンス・ロットとグィネヴィアの不義密会を貴方は目撃できるだろう。 イギリスの未来を憂える貴方に敬意を持つ者より』
 絶狼に筆跡鑑定の技はない。ただ優美で美しいその文字は女性の手に見える。
 それを確かめた時‥‥思ったのだ。ポケットの中の指輪に触れる。
 シエラとマナウスがあの夜、気付いたという‥‥この蝶の動きを。
「まさか‥‥な」
 証拠は何もない。だが「そう」であれば全てに辻褄が合うと、あの夜を記憶した絶狼の心が言っていた。
 事件はこれで終わりでは在り得ない。
 これから、何かが始まるのだと‥‥。

「とりあえず、アグラヴェイン卿の命は繋ぎとめた。後は教会の司祭殿に任せたが‥‥これからどうなるかは、彼の体力次第だ」
 ルシフェルの言葉に冒険者達はホッと胸をなでおろす。
 シクルの腕も教会に運ばれ治療を受けた。
 もう完全に回復したようだ。
 これで、少しは‥‥安心できる。
 あくまで少しに過ぎないが‥‥。
「これからどうなるか‥‥か」
 呟いたリルの言葉に冒険者達は無言だった。
 全ては、ギルドに報告が済んでいる。
 おそらく、これから大きな騒ぎが、起きるだろう。
 ‥‥円卓第一の騎士と、イギリス王妃がキャメロットから消え、円卓の騎士が一人、生死の境を彷徨っている。
 一枚岩程に強固と思われた円卓に、ついにヒビが入ったのだ。
 あまりにも大きく、深い、不信感というヒビが。
 ラーンス・ロットの部下である騎士は幾人か捕らえられたが、彼らはラーンスの行く先を言わず、また知らないと思われる。
 二人の行方は捜索の動きはあるが、今もってようとして知れない。
 いや、万が一、王妃とラーンス・ロットが今すぐに戻ってきたとしても、このヒビが完全に埋まる事は無いだろう。
 アーサー王と騎士たち、そして国民の心のヒビは、けして簡単に埋まるものでは在り得ない。
 イギリスの未来を思うと冒険者には依頼成功と笑いあう事はできなかった。
 
 だが、彼らはまだ知らない。
 彼らは伝説の一つに勝利した。
 未来へ続く、手がかりを手に入れて‥‥。

 運命の輪はからからと回る。留まる事を知らないように‥‥。