帰って来た大きな蕪?

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月24日〜10月31日

リプレイ公開日:2006年10月31日

●オープニング

おじいさんは畑に蕪の種を撒きました。
「大きくなあれ、甘くて大きな蕪になれ‥‥」
 甘くて、元気の良い、とてつもなく大きな蕪ができました。
 
 ‥‥それは、元気の良すぎる、本当にとてつもなく大きな蕪でした。

「なんじゃああ〜。ワシの畑は呪われとるんかあ〜」
 おじいさんの絶叫が空に響きました。


「近くの農家からな。大きな蕪を退治してくれという依頼が来てる」
 係員は複雑そうな顔で、その依頼書を読み上げた。
「大きな蕪の退治?」
 大きな蕪、という言葉と退治という言葉の接続に意味が通じず冒険者達は首を捻った。
「本当に大きな蕪で、しかも、それはどうやら生きてるらしい。蕪のお化けってことらしいな‥‥」
 体長約2.5m。葉っぱを入れれば4mはいきそうなその蕪は夜な夜な畑の中をごろごろと転がっているのだという。
 聞けば、去年もこの畑では巨大な蕪のお化けが出て近くのケンブリッジの冒険者ギルドに退治を依頼したとか。
 だが、今年の蕪は前回に増して巨大化&凶暴化している。
 子供達に任せるには危険だろうと、キャメロットに依頼が回ってきたわけだ。
「その蕪がいる限り、周囲の畑に近づけない。近づくと突進してくるから冬野菜の準備も収穫もできない。だから、退治して欲しい、っていうのがその農家からの依頼だ。あと、ついでにいいことを教えてやろう」
 係員は笑みを浮かべて言った。
「もうじき、ハロウィンだろう? 去年の大きな蕪は倒した後、ケンブリッジが高く引き取ったそうだ。ジャック・オ・ランタンにするのにな。今年のはさらに大きい。ケンブリッジが引き取らなくても、好事家や商人達が欲しがるから多分、高く売れるぜ。勿論、焼かず、壊さず、手に入れた場合のみ、だけどな」
 植物系モンスターに炎はとても有効なことは周知の事実。
 だが、それをしないでどう倒すかが、冒険者の腕の見せ所、ということだろうか?
「まあ、もし失敗しても皆で食えば、無駄にはならんだろう。滞在している間は農家が食事と宿は負担するというし、これからの冬野菜の価格高騰を防ぐためにも、行って来てくれないか?」
 

 そろそろ、気の早い商人などはハロウィンの準備を始めているものもある。
 ここのところ、嫌な依頼、事件が続いた。
 のんびりと気分転換するのも悪くない。

 冒険者の前に、そんな少し楽しそうな依頼が張り出された。 
 ‥‥まあ、畑の主には楽しいどころでは無いのだろうが。


●今回の参加者

 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3173 橘 木香(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

○楽しみな仕事
 ずん。ずしん!
「でっかいねえ。あんたよりおっきいよ。塗坊?」
『??』
 土を鳴らしていた音が止まり、そんな会話が畑の横に響いた。
 声を潜めつつフレイア・ヴォルフ(ea6557)は横にいるペットに語りかける。
 ペットは無言で主に擦り寄る。
「こら、あんまり寄ってくるんじゃないよ。潰されちゃうだろ?」
 冗談めかした声に起こる風情は無い。だが歴戦の冒険者。
 真剣な眼差しで場の状況を計算し始める。
 自分達の手数を考えながら。
「あの辺に落とし穴掘れるかな? で、あっちで追い詰めると。少し畑が荒れちゃうかな」
 目の前の蕪にフレイアは微笑みかける。
「悪いね。あんたにゃあうらみは無いんだけど、冬野菜が高騰すると満も皆も困るんだ。その代わりちゃんと美味しく食べてあげるからさ。塗坊、あんたはここで待っておいで。あんたを見ると農家の爺様とか腰を抜かしかねない。いいね?」
 フレイアは振り返り、無言(?)で佇むペットに待ちを言い聞かせていた。

 街道を行く冒険者達。
 依頼に向かう彼らに‥‥
「今回はアレですね、『祝・秋の味覚、カブ食べ放題ツアー』ですよね」
「大きな蕪ですか〜 おいしそうですね〜」
 緊張感はあまりない。
 楽しげな橘木香(eb3173)やユイス・アーヴァイン(ea3179)に肩を軽く竦めながら
「蕪が畑を占拠して人を襲うとはまた奇妙な‥‥だが、放置していては冬野菜が品薄になってしまう。それは料理人として見過ごせぬな」
 呟く尾花満(ea5322)もあまり、深刻な表情を纏っていなかった。
「ねえねえ、満ちゃん? 料理人なんでしょ? 蕪のお料理作れる?」
 ひらひらと笑顔でシャンピニオン・エウレカ(ea7984)は満の上を飛びながら聞いた。
 くすと笑うラディス・レイオール(ea2698)。
「ああ。レパートリーはいくつかある。ぜひとも料理してみたいものだ」
「あの‥‥お話を‥‥伺っていたのですが」
 二人の会話に遠慮しがちに御門魔諭羅(eb1915)
「できましたら和風にお料理して頂けませんか? 満さんは、ジャパンの方とお見受けしますので、できれば、でよろしいのですが」
「んー、漬物食べたいですねぃ‥‥」
「漬物か。糠漬けは無理でも塩で揉む浅漬け程度なら‥‥。他には味噌汁。いかん‥‥味噌の手持ちは無かったな。肉と合わせて」
「まずは無傷で倒してから、にして下さいね。食べるのは。‥‥で、満さん。そのちゃぶ台は一体?」
 ほお、という顔で満はワケギ・ハルハラ(ea9957)を見た。視線の先には満が背負う大きな木の板(小さな柱付き)がある。
「これがちゃぶ台と解るか? 何に使うかは‥‥まぁ、追々わかる」
 笑う満の言葉に、ワケギはそれ以上追求はしなかった。
 蕪頭。仮称ターニップ・ヘッドは友人タケシ・ダイワが調べてくれたが、ケンブリッジ近辺以外に出現事例の無い謎のモンスター。
 以前の出現事例の時には依頼に参加できなかった。
 それを目に見れることを少し楽しみにしつつ、ワケギは背中に力を入れていた。

○大きな蕪
「ふわぁ〜 これだけおっきい蕪なら、何人分の煮物が作れるかな〜♪ あ、蕪ステーキとかもいいよね、ヘルシーで!」
「本当に大きな蕪ですね〜。うん、おいしそうです〜」
 畑を遠巻きに眺めながら、冒険者達はすでに舌なめずり状態。
「さっきも言いましたけど、まずは無傷で倒す事。忘れないでくださいね」
「あら、丸ごと食べちゃいけないんですか〜? 残念ですね〜」
 冒険者達に釘を刺しつつ、ワケギは待っていた畑の主人に挨拶をする。
「おお、やっと来てくれたか」
 冒険者を出迎えてくれた老人は
「陰陽師の御門・魔諭羅と申します。此方に来るのは2回目ですわ。その節はお世話になりました」
「お前さんは! なら安心かのお。とにかく早く頼む。何せあの蕪は畑の栄養を全て吸い取ってしまうのじゃ」
 喜びと困り顔、入り混じった顔で畑を指差す。
 そこには畑の中央、我が物顔でどでん! と居座る蕪の姿があった。
「今年の蕪は全滅。このままでは周囲のほかの畑も‥‥ってなんじゃあれは〜〜!」
 畑の横に無言で佇む石の壁。ゆらゆらと身体を動かす妖怪は通常イギリスでは見ないものだ。
 老人の顔が歪む。
「あんなもんまでワシの畑に? どうしたら‥‥」
「ああ、ごめん心配しないで。あれは‥‥あたしのペットみたいなものだから。畑を荒らさせたりしないし邪魔もさせないから」
「フレイアさん!」
「少し先に来て様子を見てたんだ。それにあいつを見られたら、やっぱり普通の人は腰抜かすだろうしね。ごめん」
「ご苦労だったな。フレイア」
 先行していたフレイアは仲間の到着を確認すると、笑いながら輪の中、満の隣にそっと入り立つ。
「それよりもおじいさん。ちょっといいかな。蕪の捕縛にあたり畑と、周囲の畦とか荒らしちゃうかもしれないこと許してもらえる?」
「畑の周辺で大き目の穴を掘ってもいい場所があれば教えて頂きたく‥‥なるべく畑に害が及ばないように気をつけますので」
「他の野菜が植わっていないところなら、かまわんぞ。こっちじ‥‥。こら! おぬし、何をしておる!」
 慌てた顔の老人の目線の先を見て、冒険者達は青ざめた。
「うぉぅ、想像以上にでっかいですねぃ‥‥。つんつんっとな」
「木香さん! 危ないですわ。その蕪は畑に入ると!」
 魔諭羅の忠告は最後まで言う必要無かった。
 ごろ、ごろごろ、ごろごろごろごろ!!!
 大きな雪だまのように自分自身を蕪は転がしてくる。木香に向けて。
「わ・わわわっ! ほんとに動いた。すごいー」
 達人の回避で逃げる木香。あの調子なら大丈夫だろうと思いつつ魔諭羅はなんとなく感じたデ・ジャヴに頭を抱える。
 木香が畑からぴょんと飛び出すと蕪は静かに回転を止め、今度は逆回転で定位置に戻った。どうやらあそこが落ち着くらしい。
「これはなかなかおもしろいのです」
「遊んでないで! 依頼を忘れないでくださいよ。木香さん」
 生真面目なワケギが少し角を立てるが
「あれ? 依頼ってなんでしたっけ?」
 ほえ? 首を傾げる木香に皆の脱力が唱和する。
「ほら! 行きますよ。本格的に動き出すという夜までに作戦の準備を整えないと!」
「わ〜ん。カブ〜〜」
 強引に引きづられていく木香と先を行く仲間達の背中を見つめながら、ふと満は足元に当たったそれを拾い上げた。
 しなびて、指の爪ほどもない蕪の株。
 それを握り締めながら満は心配そうに足を止めるフレイアと仲間達の後を、追ったのだった。

○蕪退治
 作戦はとにかくシンプルに行くことに決めた。
 なるべく傷をつけずに捕獲するために以前参加した魔諭羅の意見を聞きつつ実際の場所を確認しながら作戦を詰める。
 そして、月の輝く深夜。
「はてさて〜 どんな風になっているんでしょうか〜? ふ〜む」
 空の上から箒に跨って下を見つめるユイスがいた。
 斜め上の空の上から見てみると畑の真ん中で身体を揺らす様子は踊っているようにも見える。
「なかなかに楽しそうですね〜。でも〜」
 ちらと下を見る。用意もできたようだ。
「そろそろ美味しく頂かせて下さいね〜」
 少しふらつきながらユイスはスクロールを広げた。
 コントロールが上手くいかないがなんとか、呪文を詠唱する。
 突然、ぶん! ユイスの周囲の風が揺れた。
 葉っぱといううちわがおこした風に巻き込まれながらもユイスはなんとか呪文を完成させた。だが
「うわあ〜〜。落ちる。落ちるぅ〜」
 必死でコントロールを取り直すユイス。 
 ‥‥良い子はフライングブルームの手放し運転は止めましょう。

「みんな〜。用意はいい?」
 全員にグッドラックの魔法をかけたシャンピニオンの声に、前に動いた首が応える。
「じゃあ、行くよ! 援護頼む!」
 言うと同時、フレイアは畑に踏み込んだ。そして素早く矢を射掛ける。
 蕪がこちらの方を、向いたように見えた。
 そこに魔諭羅のムーンアローが同じ方向から飛ぶ。フレイアの丁度背中から来た様な光の矢に蕪は反応した。
 蕪が大きく身体を揺らす。
「危ない!」 
 ラディスは葉に向けてウォーターボムを放つ。これで足止めと葉を無効化できれば、と。
 だが。
「うわっ!」
 悲鳴と足を止めたのはフレイアだった。ウォーターボムで葉に付いた水が、蕪の羽ばたきでフレイアに豪雨となって襲い掛かったのだ。
「フレイア!」
 そこにやってくる葉の一閃。打撃攻撃。
「くっ!」
 際どい所でフレイアはなんとかそれをかわす事ができた。彼女が祝福を受け、蕪の行動が鈍っていなければこうはいかなかっただろう。
 だが、安心している暇は無い。
 身体にまとわり付く濡れた服を気力で無視してフレイアは背中を蕪に向けて全速力で走った。
 蕪は追いかけてくる。ごろごろごろ、と全速力で。
「来たよ。満! 塗坊! 皆、頼む!」
 ぎりぎりまでひきつけた蕪のコースからフレイアはその声と同時、横に飛んだ。
 ドン! 鈍い音が畑に響く。
「くっ!」
 満は微かに顔を顰めた。ちゃぶ台を持つ手に響いてくる衝撃は予想以上に大きく重い。彼と塗坊が蕪の動きを止めているが長くは持ちそうに無い。
「早く‥‥頼む!」
 昨年も効果があったという呪文を、シャンピニオンは大急ぎで紡いだ。
 そして大暴れ、このままだと後退してまた突進しかねない蕪に向けて 
「ワケギちゃん。あと、頼んだよ! ‥‥コアギュレイト!」
 放つ! 唐突に蕪の動きは止まった。
 シャンピニオンが肩の力を落とした瞬間。
「何!」
 唐突に蕪の上に飛び乗った者がいたのだ。木香が。
「やあっ!!」
 掛け声と共に刀を蕪の頂頭部。葉の付け根に思いっきり差し込む。
 微かな手ごたえを感じつつ刀は抵抗無く沈み込んでいく。
「木香さん! 避けて!」
 ワケギの声に木香の足が葉から離れた直後。
 蕪は青白い氷の棺に包まれた。木香の日本刀と共に。
「危ないじゃないか! どうしてあんなことしたんだい!」
 フレイアは駆け寄り大きな声で木香を叱り付ける。
「ハハ、すみません〜。いえ、なんとなくやってみたかったのですよ〜」
「なんとなく? なんで!」
「だって、あそこってほら。なんというか、いかにも弱点ですよ〜なオーラが漂ってませんか?」
「はあ?」
 解るような解らないような言い訳にフレイアをまあまあ、と満がなだめた。
「夜のうちに穴に運んで準備をするぞ。フレイア。皆、急ごう。氷が解けぬうちにな」
 隠してあった馬達を魔諭羅やワケギが連れて来ている。
 フレイアは木香に手を差し伸べる。
「ほら! あんたも手伝う! 蕪食べるんだろ?」
「はい。もちろん〜〜」
 木香はその手をしっかりと握り返した。

○野菜の幸せ
 朝の光と共に、氷は解けて消えていく。
「蕪、動かないね‥‥」
 シャンピニオンが葉っぱを引っ張るが、反応は無い。
「やっぱりあそこが弱点だったですかね? 良かった」
 一応氷が解ける時に攻撃魔法もかけておいた為か蕪の反応は消失していた。
 あそこが弱点と言う確証は無い。だが一応目的は果たせたようだ。
「でも! 勝手な行動は危ないから今度からは気をつけるんだよ!」
 軽く叩かれた頭を撫でながらは〜いと木香はフレイアに答え蕪から刀を抜く。
「で、これどうする? おじいさん。くれるって言ってたけど」
 満は無言で荷の中の包丁を取り出すと、ちゃきと構えた。
 穴に落としてあるので、目の前に蕪の付け根。
「どいていてくれ。包丁侍。腕の見せ所だ‥‥てやああっ!」
 一刀両断、とは流石にいかなかったが蕪の根元は葉っぱと共に見事に切れて横に倒れる。
 まるで木が倒れるように。
「では皆。その中身くりぬいて貰えぬか? さすれば拙者。調理して進ぜよう」
 わあ、と歓声が上がる。
「やるやる。このままじゃあ、どっちみち重くて引き上げられないもんね」
「蕪料理ですか〜。待っていました〜」
「私もお手伝いいたしますわ」
「蕪〜。食べたいですぅ〜」
「料理をお任せする以上、少しは労働しないといけませんね」
 蕪に集まる冒険者に背を向けるようにフレイアは近くの森に向けて足を進める。
「フレイア。食べないのか?」
 火を熾し、腕まくりする満にとんでもない! フレイアはそう言って笑う。
「あんたの料理をあたしが食べないとでも? 鴨、鹿、猪‥‥蕪と煮込んで。うん。楽しみだ。いいかい? 今すぐ獲ってくるから作れっ!」
 逞しい妻の後姿を見つめながら、満は嬉しそうに頷いた。

 そして、始まる蕪パーティ。
 蕪のステーキ。煮物。みぞれ鍋。シチューに浅漬け。
「和洋折衷、葉は漬物と煮物に添えてみた。いかがかな?」
 料理人の声に
「美味しい!」
 笑顔が答えた。
「蕪のステーキ、焼いただけなのに美味しい!」
「煮物も鳥の味を蕪が吸い込んで‥‥とても美味しいです。懐かしい味が致しますわ」
「鍋も肉がとてもさっぱりと食べられますね〜。なかなかです」
「はふはふ‥‥」
 ひたすら食べているものもいる。ほんの今まで動いていた怪物をと、気の進まない顔だった老人までが。
「ふむ、このシチューは旨い。蕪が柔らかくて口の中で蕩けるわい。絶品じゃ」
 と嬉しそうである。
 満足げに嬉しげに。微笑みながら満は隣を見る。
「フレイア。どうだ?」
 妻は答える。
「‥‥言葉が必要かい?」
 満は首を振った。口の中に甘酸っぱい快感が広がっていくようだ。
「でも〜どうして蕪が動き出したんだろうね〜」
 シャンピニオンは少し早く食事を終え、横に置かれた蕪の周りをくるくると飛んだ。
「もしかしたら、他所へ売りに出されるのが嫌で、蕪ちゃん自己主張してるんだったりしてね‥‥それにしても、どーやったら普通に育ててたハズの物が動き出すかなあ? そっちの方が不思議かも」
「これが俗に言うハロウィンマジックというヤツなんでしょうか〜 普段の“事件”もこれくらい“可愛らしい”といいんですけれどね〜 まぁ、今日はそんな事は置いておきませんと〜」
 料理が冷めます。ユイスはまた鍋へと向かい合った。
「でも」
 ワケギは真面目な顔で蕪を見つめる。
「これが最後の蕪とは思えません。いつの日か第3、第4の蕪が‥‥」
「止めてくれ。もうこんなのはこりごりじゃあ!」
 老人の魂の叫びが畑に響く。同時にくすくすと、冒険者達の笑みも。
「大丈夫ですわ。その時はまた、退治に伺います」
「美味しく料理してやるよ‥‥満がね」
「うむ。任されよ」
 秋の夜風に蕪が揺れる。
 葉を無くして、顔も無い。
 けれども蕪が彼らを見つめているように感じられたのだ。
 食べられてこそ本望だと。

 翌日。
 キャメロットに運ばれた大蕪はある商人に高値で引き取られた。
 半額を老人に渡してもまだ纏まった額が冒険者に追加で与えられたという。
 そしてハロウィンの夜。
 冒険者は見る。
 白い顔に笑顔を浮かべるターニップヘッドの顔を。

 彼(?)が戻ってきた理由。
 それはまた人々の笑顔に出会いたかったからなのかもしれない。