【ラーンス追撃】『モンスター』退治?
|
■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:14〜20lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 0 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月06日〜11月13日
リプレイ公開日:2006年11月14日
|
●オープニング
「‥‥グィネヴィアよ、何処へ行ってしまったのだ」
キャメロットの王――アーサーは『あの知らせ』から塞ぎ込んだままだった。
――王妃グィネヴィアと円卓の騎士ラーンス・ロットの密会。
アグラヴェインが山賊狩りと称して行ったギルドへの依頼は、アーサー王が証拠無くば信じないという二人の密会現場を取り押さえる事が目的だったのである。
ラーンス・ロットはアグラヴェインと刃を交え、その間にグィネヴィアは森へと馬を走らせて逃げたと聞いた。ラーンスもアグラヴェインに痛手を負わせた後に森へ逃げたとの話だ。
それ以上に、アグラヴェインから聞いた密会現場でのグィネヴィアの『姿』がアーサーを失意に陥れていた。
それから数日が経過しても、愛しき妃と信頼していた勇敢な騎士は戻って来ない。
――私は裏切られたのか? 最愛の者と最強の円卓の騎士に‥‥。
『アーサー王よ、いつまでそうしているつもりですか?』
アーサーの耳に飛び込んだのは、鈴を転がしたような少女の声だ。聞き覚えのある声に、王は項垂れたまま視線を流す。
「マーリンか‥‥私はどうすればいいのか分からぬのだ。証拠を突き付けられても信じることが出来ない!」
再び眼差しを落とすと、アーサーは両手で頭を抱えて困惑の色を浮かべた。もはや威厳すら失った王に、白の装束を身に纏った金髪の少女は、試すような冷めた視線を向ける。
「ならばするべき事は決まっているでしょう。何を恐れているのですか?」
「恐れるだと? この私が恐れているというのか?」
流石にアーサーは精悍な眉を戦慄かせて少女を鋭い眼光で射抜く。しかし、マーリンの向ける眼差しは変わらない。
「信じておられるなら王妃を探し出すのが賢明ではありませんか? ここでこうしていても何も変わりません」
――恐れている? 連れ戻したグィネヴィアの口から事実を聞く事を私は恐れているのか?
戸惑う王に少女は口を開く。
「こんな噂が流れています‥‥森でモンスターに襲われた村娘がたった一人の剣士に救って貰ったと。剣士は名前も告げずに再び森の中へ消えたそうです。誰と思われますか?」
確かに、二人で逃げたのなら安全やもしれぬが、もし森を彷徨っているとしたら? モンスターや山賊に襲われるやもしれん。グィネヴィアが一人でおるなら、あの男も捜している筈だ。
アーサーは椅子から立ち上がると、威厳の篭った声を響かせ、騎士を呼んだ。
「円卓の騎士を呼び集めるのだ!」
こうして集いし円卓の騎士をグィネヴィア捜索とラーンス・ロットの追撃に分ける命が告げられた。
王妃捜索は民に不安を与えぬよう円卓の騎士のみに託され、ラーンス・ロット追撃は冒険者と共に行う事となる。
「騎士道を汚し、罪を犯したラーンス・ロットの追撃を命じる。見事捕らえた者には褒美を遣わそう! 冒険者ギルドに依頼して冒険者を雇っても構わぬ! 罪人ラーンス・ロットとして民に知られるも構わぬ! 一刻も早くあの男を捕らえよ!!」
――颯爽と森に現れては優麗な剣捌きで人々の窮地を救い、名も告げずに森へ消える凄腕の剣士。
その噂はキャメロットまで広がり囁かれるようになっていた。
どうやらキャメロットから2日程度の広大な森に凄腕の剣士は現れるらしい。
しかし、光輝の噂に彩られる剣士には不穏な噂も流れるものである。
――その人物とは何者だろう?
彼の来訪に冒険者ギルドの係員は珍しく、緊張の顔を見せた。
銀の鎧を纏った円卓の騎士。
「パーシ殿。公式のご依頼ですか?」
ああ、と円卓の騎士パーシ・ヴァルは頷いた。
彼がギルドに来るのも依頼を出すのも決して珍しい事ではないが、先日の『事件』の直後だ。
少し、緊張もする。
イギリスの王宮は円卓第一の騎士と王妃を失って混乱していると聞く。
その時期の依頼だ。思わず身構えてしまうのだが、そんな彼の様子を気にした風も無く
「さて、冒険者。俺に付き合ってくれないか? モンスター退治だ」
まるで、ちょっとそこまで散歩に行くぞ。という風な軽い口調でパーシ・ヴァルは依頼書を差し出した。
「モンスター退治、ですか?」
「ああ、ここから2日ほど行った小さな村の側にモンスターの集団が住みついたらしい。オーガに属するモンスターが10体前後、という話だが詳細がよく解らない。大きなオーガが指揮していた、という話もあるし、これから冬になって村を襲わないとも限らないので俺が退治しに行く事にした。騎士隊は動かせないんだが部下が一人では行くな、というもんでな‥‥」
心配性でいかん、と腕組みしため息を付くパーシ。
彼の今までの行いからして、気の毒なのは部下の方だと思うが、係員はあえて、それをツッコむのは止めにした。
無論、彼が言う以外の理由はあるだろう。
今、イギリスは、特に王城は混乱の中にある。下手に騎士団を動かすのは大事になり、民の不安を煽る事にもなるだろう。
「しかし、今、円卓の騎士がモンスター退治なんて出てよろしいので? 確か円卓の騎士には‥‥」
「いいんだ。俺には俺なりの考えもあるしな。で、モンスター退治の方なんだが‥‥」
周囲の様子は彼もよく解らない、という。まずは行ってみての調査から始まることになりそうだ。
「俺も同行はするが、別に指揮を取るわけではない。冒険者は俺の部下、というわけじゃないからな。良い方法は皆で考えて行ければいいと思っている」
(「しかし、どこかの誰かとは正反対の態度だな」)
思いは口に出さず、真面目にパーシ・ヴァルの依頼を受理した係員は‥‥
「ん?」
見直した書類の隅に書いてあった文章に、ふと、目を留めた。
「パーシ殿。この補足。『同時に周囲の治安維持調査も行う予定。場合によっては‥‥山賊捜索を行うかもしれない』 これは、どういうことでしょうか?」
「ああ、それか?」
「えっ?」
忘れていたというように彼は付け加える。
「その近辺には古い遺跡や、洞窟があってな、今までも何度か山賊や盗賊が住み着いたとか、街を追われた者が山奥に逃げ込んだ、という噂がある。どうせ、オーグラとかでもないかぎり10数体のオーガなら苦戦する事も無いだろう。だから時間を作って、今後のためにも調べておきたいと思う」
それに、と言葉を繋げる。
「妙な噂もあってな。知っているか? 凄腕の剣士の話。‥‥凄腕の剣士が近隣で悪事を働いているらしい。かの噂にあがる剣士と同一人物か悪く見せようと企てた何者かの仕業か‥‥。山賊かもしれん。その村の平安の為には、モンスターを退治してそれで終わり、ではすまないだろうな。その剣士、山賊かもしれない相手の正体も突き止めなければならないだろうな」
笑って良ければ手伝ってくれ、とパーシは言って去っていった。
「あの人‥‥、まさか‥‥」
見送り、依頼を受理しながら係員はあの笑顔に隠された底知れなさを見たような気がした。
●リプレイ本文
○冒険者試しの騎士
ジークリンデ・ケリン(eb3225)は若い猫を抱き上げ軽く口付けた。
「いい子にしていて下さいね。大丈夫。直ぐに戻りますから」
「‥‥用意ができたのだったら行くぞ。先行偵察を頼む」
急かす様だが、口調は優しい。
ジークリンデはその促しにはい、と答えてペット達に別れを告げて雇い主の下へ戻る。
心からの敬意のお辞儀と共に。
「では、お先に進ませて頂きます。明朝には、皆様お着きになりますわね。それまで情報収集を」
「ああ、無理はするなよ」
「解りました。ありがとうございます」
一人先行く彼女を心配してだろうか。
遠ざかる姿が見えなくなるまで空を見つめる騎士を、少し離れた所からガイン・ハイリロード(ea7487)は見据える。
彼の眼差しは睨んでいるようにさえ見えるほどに強い 。
「あの人が噂の冒険者試し人パーシ・ヴァルか。‥‥きっと今回も色々一人で抱え込んで無茶しといて人には説教垂れるんだろうな」
「おいおい、それは偏見ってもんだ‥‥っていってやれないのが辛いとこだな」
「あいつの行いからすれば自業自得だろ。ガインの言ってる事は間違いの無い事実だ」
独り言のような呟きに返った返事。ガインは瞬きして前に立つ仲間を見た。
腕組みをして首を振るリ・ル(ea3888)よりも容赦なくキット・ファゼータ(ea2307)はツッコむ。
「よっ! おひさ」
サインを軽くきりながら言う。
わざと、皆に聞こえるように。
苦笑の笑みを浮かべる依頼人の騎士にも勿論聞こえているはずだ。
「試してるつもりはないんだがな‥‥」
「嘘だ」「嘘だな」「嘘っだよね〜」
一つ増えた間髪入れないツッコミはかくのごとく容赦がない。
軽く頭を押さえて苦笑する円卓の騎士の姿に
「そうなのですか?」
リアナ・レジーネス(eb1421)は隣で踊るボルジャー・タックワイズ(ea3970)に真顔で問う。
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ〜。うん、そうらしいよ〜。よくリルやキットが酒場で愚痴ってる〜」
「‥‥俺にも色々と都合があるもんでな。まあ、冒険者に迷惑をかけるのは悪いと思ってるが‥‥」
「そう思うなら、もちっと早く依頼出せって。‥‥まあ、いろいろあるのは解ってるけどな。とにかく話は行きながらの方がいいだろうそろそろ出発しないか?」
「そうでござるな。天雷斗。行くでござるよ」
駿馬を引く黒畑緑朗(ea6426)の言葉に頷くと靴を履きなおし、冒険者たちは出発し始める。
目的地は遠くないが、オーガの脅威があるというのならその恐怖の時間が短ければ短いほど価値がある。
それに‥‥。
「‥‥本当に、あの人‥‥なのかな‥‥」
何かを大切そうに荷物に入れて馬に跨る騎士の背中を見ながらアルフレッド・アーツ(ea2100)は呟く。
前を行く騎士は気づかないほどに小さな声で。
「貴殿もそう思うか?」
隣を行く騎士には聞こえたようだ。うんと小さく首を縦に振るアルフレッドにだが‥‥とルシフェル・クライム(ea0673)は続けて告げる。
「そうだとするならば、悪事を働くはずなどない‥‥真偽の程、しかと確かめねば、な」
まだ見ぬ敵の姿を見据え、冒険者たちはキャメロットの門を潜って旅立ったのだった。
○揺れる円卓
「オークニーの箱入り息子殿も厄介を起こしますな」
先頭に立つ円卓の騎士と馬首を並べたアラン・ハリファックス(ea4295)は自分よりわずかに年下の彼に敬語を使ってそう切り出した。
村への道行き。
タイミングを見計らっていたのだろう。アランの言葉にそうだな。とパーシは相槌をうった。
「まあ、確かに今回の件は、国を守る盾であり、剣であるべき円卓の騎士としては褒められた行動とは言えないな。あいつも人の思いや外の世界を知らないから‥‥」
できるだけ速くと馬を駆る者達も、魔法の靴で歩を進める冒険者たちもそのスピードを少し緩めた。
「ですが、あまり怒ってはいらっしゃらないようですね? どうしてですか?」
リアナも駿馬の歩を仲間たちに合わせ問う。パーシは肩を竦め微苦笑を頬に乗せていた。
「ああいうタイプは周りが幾ら言っても聞かないものなんだ。自らの過ちは自らの心と身体に刻む。これで、少しは懲りてくれるといいのだが」
「だが、その結果のツケを支払うのは結局彼だけでは無いでしょう。アーサー王、ラーンス卿、パーシ殿、そしてイギリス国民に我々冒険者」
アランは冷静に指摘してくる。
「国益勘定してみましょう。最後まであの不倫が発覚せずラーンス卿が英国の為戦い続けるのと、今の悪魔騒動の最中に円卓を無闇に割るのとを。箱入り息子殿が国の血を憂うのは結構ですが、国の力を徒に弱めて国難を招いてるのは、果たしてどっちでしょうなぁ」
「‥‥俺は、ある意味こうなって良かったのではないかと思うことがある。溜まった膿はいずれ切り開いて流し落とさない限り、身体を蝕んでいく。今なら確かに国は揺れ、円卓も割れてはいるが致命傷になる前に治療が可能だと思うからな」
「パーシ殿。あんたはこの傷が治ると信じているんだな? あの小屋での話は全部話した。それでも‥‥この傷は治りイギリスは健康を取り戻すと?」
確認するようにリルはパーシの顔を見つめる。
彼の返事はゆるぎない信念篭った眼差しと頷きだった。
「ああ。あの場でラーンス卿を逃がしたことも俺は正しかったと思う。‥‥王の心労は確かにいかばかりかと思うと憂いを隠せないがこのまま膿を溜め込んでいつか取り返しのつかないことになるよりは‥‥な」
その答えの前提にはラーンスやアグラヴェイン、そしてイギリスや何より主君であるアーサー王がこの試練を乗り越えられると信じる揺ぎ無い信頼があるのだ。
「‥‥だけどその為の汚れ役や、大変なところは全部自分が引き受けるつもりなんだろう? いつもながら損な役を買うヤツだな。もっと楽に生きられるだろうに」
微かに笑いながらキットはパーシを見つめる。その眼差しに秋枯れの森の色ではない。変わらぬ新緑の瞳が微笑み答える。
「俺は貧乏性でな。自分にできることをしないでおくのは我慢できないんだ」
お前達もそうだろう? 無言で瞳が問う。
くすと笑ってリルは背筋を伸ばした。気合も入った。彼の考えも解った。
「さあて、それなら本気を出させて貰うかなっと。パーシ殿少し先に行ってるぜ。ジークリンデが一人で不安してるかもしれん」
「解った。とりあえず村をベースキャンプにしつつ調査、だな。俺達もすぐに追いつく」
頷いてリルやガイン等魔法の靴組は走り出す。
「人をその気にさせるのが上手い人だな。あの人は」
横で呟くガインにリルやキットは顔を見合わせ、微笑む。
それは微笑と苦笑が入り混じったものではあったけれども同時に、それ以上の深い思いも込められていたようにガインには思えたのだった。
○オーガ退治と凄腕の剣士
冒険者達全員が、村に揃ったのは出発した次の日の朝の事。
「ご苦労様。ゆっくり休んでいてね」
リネアは馬の背中をぽぽん、と叩いて気遣うように木に手綱を結び仲間の下へ走り寄る。
村のはずれの人目につかないところで
「皆様のおいでをお待ちしておりました。村人達がなかなか信用をして下さらなくて‥‥」
先行していたジークリンデはやってきた仲間に困り顔で告げたのだった。
「確かにな。あんまりいい雰囲気じゃなかった。ちょっと心配でライアもとてもじゃないが出してやれなかったよ」
遅れやってきた冒険者と、円卓の騎士を見て警戒を解いたものの不審げな表情を隠そうともしない。
「何があったんだ? オーガ退治をギルドに依頼してきたのは村人なんだろうに?」
腕組みして言うアランにジークリンデは
「それは、『凄腕の剣士』様のせいですわ」
とはっきりと告げた。
「凄腕の剣士のせい? どういうことだ?」
仲間達に促されて昨日村人から聞いた話をジークリンデは思い出す。
なんでも、イギリスのあちらこちらをうろつく凄腕の剣士がいるという噂はこの村にも流れてきていたそうだ。
その数日後、この近辺でオーガの襲来がおきる。
村人達では、オーガが本格的に襲ってくるまで持ちこたえるのが精一杯だ。
だから村人は王都に助けを求めた。
そして依頼を出した翌日。その騎士、いや剣士はやってきたのだという。
依頼を出した翌日、村人の何人かがどうしてもの事情で森に入り、案の定オーガに襲われた。
そこを通りすがりの剣士が助けてくれたのだが‥‥
『助けて下さり、ありがとうございます。貴方が噂の剣士様ですか?』
『ちっ! ここも違うのか? いや、でも噂の剣士の話を聞きつければ、ひょっとして‥‥』
「敵を切り伏せ助けてくれた後その剣士は彼は礼を言う村人を無視し、そんなことを呟くとまた森へ戻って行かれたそうです。しかも、それ以後は一切村を助けてくれない。何かを探すように周囲をうろつくのみ、だとか」
オーガ退治をしてくれないどころか、目の前でオーガが人を襲っていても助けさえしなくなった。
ある時などは遠巻きに村人が襲われるのを見ていたという話さえある。
最初は彼こそがキャメロットから派遣された村を守る為の騎士か、冒険者だと思い期待していた村人達はその行動に失望する。
そして、彼憎さがやがて冒険者憎さと変わっていったのだ。
幸いまだ死者は出ておらず、冒険者は間に合った形になるのだが、もし取り返しの付かない事になっていたら‥‥。
「流石の彼もこの状況で村に世話になろうとはせず、周囲の洞窟に拠点を構えているようですが、その行動は村の近辺周囲をうろつくだけ‥‥」
事情を聞いていた冒険者達は暫し、沈黙した。
誰もが考えていた「凄腕の剣士」の正体への推察はひょっとしたら、違うのだろうか?
「あの人が、そんな非道をするはずないし‥‥な」
それぞれが、それぞれに思考を巡らせて出した結論は
「まずは、オーガ退治を先に片付けよう。剣士を捕まえて話を聞くのはそれからでいい」
「オーガがいるぞ、剣士もいるぞ、パラの戦士は負けないぞ〜」
頷き動き始めた彼らの行動だった。
「いたぞ。オーガだ」
「‥‥ジークリンデさんの、索敵図は‥‥間違っていなかったよう‥‥ですね」
偵察に出ていたキットとアルフレッドはそれ以降は言葉を発せず、敵の様子をその目でしっかりと見定めていた。
そして、静かに後退、仲間の元へと戻る。
「どうだった?」
出迎えたアランの言葉に、キットは手に持っていた図を広げ指で何箇所かを指し示した。
「殆どのオーガはここに集まっている。ここが奴らの集団としても集落のようだな。ここにいる連中を潰せれば、後は残っていたとしても単体レベルだと思う」
「数は?」
「情報どおり十数体ってところだろうと思う」
「そうか。なら予定通り行けるな」
「‥‥あの‥‥いいですか?」
会話を遮るのを遠慮するそぶりでアルフレッドが告げる。無論会話を遮られたと怒るものはいない。
「なんだ?」
「ざっと‥‥森を見たとき‥‥ここ。‥‥この集落の側に‥‥少し、開けた場所を‥‥見つけたんだ。ここに‥‥誘い込めれば」
「リル達が火魔法が使える場所がいい、と言っていたっけ。解った。挟撃の時、俺達は後退するように見せかけてここに誘い込むのを目指す! いいよな? パーシ!」
振り返りキットは円卓の騎士に声をかける。
「異論は無い。この短い時間に良く纏めたものだ。この戦い。侮るべきではないが恐れる必要は無いだろう」
「よし。そろそろA班の方も場所に着くはずだ。俺達も最初の場所に戻ろう。一気に行くぞ」
皆動き出し位置に固める。その時‥‥
「お待ち下され。パーシ殿」
前を行く騎士を緑朗は呼び止めた。
「? なんだ?」
「早朝、どちらに行っておられたのか、お伺いしてもよろしいか?」
「‥‥気づいていたのか?」
苦笑するパーシは足を止め振り返る。だが、答えてはくれなかった。
「貴方を放っておくと、一人でとんでもない事をやりそうな気がするでござる。昨夜は撒かれたが二度と単独行動は控えて頂きたいのでござる」
同じことを言って心配してくれた娘もいる。大事なお守りを渡して見送ってくれた子も似たようなことを言っていた。
「種は、もう撒いてきた。出歩くかどうかはその結果次第だが‥‥」
「約束は頂けないのであろうか‥‥。それに‥‥種?」
続きの返事を受け取るより早く、光の線が地面に走った。リアナからの合図だ。
「話は後だ。行くぞ!」
パーシが走る。その背中を見ながら、緑朗は息を吐き出す。
「いつもの事ながら、奥の深い方、奥深い依頼でござる。その分、やり甲斐はあるでござるな。行くでござるよ。十六!」
そして、敵と仲間待つ戦場へ走って行ったのである
オーガとの戦闘は終始、冒険者が先手を取る形で進んだ。
「パーシ様! その木の影にオーガがおります! ご注意を」
「解った!」
リアナとジークリンデが仲間達の目となり、敵の位置を正確に伝える。
どんな敵であろうとも、それが目に見え、把握できる限りは今回の参加者達にとって脅威ではない。
「危ないぞ!」
前衛で剣を振るっているうちに、前に踏み込みすぎたか。ルシフェルの右と左からオーガの攻撃が迫ってくる。
「‥‥頭を下げてくれ。ルシフェル! ‥‥はあっ!!」
ガインの声と同時に気合が彼の手元で弾ける。ルシフェルはとっさに膝を折って身体を下げる。
と、同時ほんの少し前までルシフェルの頭を狙っていた棍棒がうめき声と共に地面に落ちた。もう一匹も足を止める。
その隙を見逃すようなルシフェルではない。武器を落としたオーガを袈裟懸けにした。
迫るもう一匹は盾で押して地面に転がす。
「ぐわっ!」
光の矢が起き上がろうとするオーガの喉を射抜き、絶息する。念のため確実に止めをさすとルシフェルはガインに向けて軽く感謝のサインをきった。
「ショット一本槍にも限界があるかなあ?」
「いいえ。鋭く、早い一射でしたわ。ある意味魔法よりも汎用性が高いかもしれません」
魔法の名手に言われて苦笑するガイン。戦闘中にそんな風に笑いあえるほど、冒険者達には余裕があった。
「向こうの数も減ってきているな。後少しだ」
B班の方をガインは見る。秋枯れの草地に赤い炎が見える。
魔法を使って敵にダメージを与えつつ、キットやアラン、緑朗、パーシなどが敵を切り崩していく。
あの様子なら心配はいるまい。だがそこに
「‥‥あ、いた。‥‥良かった。少し、いいですか? リルさんと‥‥ボルジャーさんが、ちょっと‥‥苦戦しそうかも‥‥」
木の上から声が降りてきた。囁くような声にガインとリアナは頷き葉知りだした。
いくつかのオーガの死体を飛び越した向こうで、リルとボルジャーが息を切らせている。
前に立つのはオーガ。転がっているオーガ達よりもやや大柄で体格もいい。
見るからに、群れのボスクラスだと解る。
「流石に‥‥てこずらせてくれるぜ。だが、あいつももうかなり消耗してるはずだ。一気に行くぜ。師匠!」
「よっし! ーガが強いかパラの戦士が強いか勝負だ!!」
二人、同時に踏み込む。身体は小さいが一瞬ボルジャーの方が早く、敵の懐に潜り込んだ。
短刀で一閃! 足元を切り崩す。
腱を切られ倒れるオーガ。だが、その足で決死の攻撃をボルジャーに向けた。
「うわっち!」
直撃は避けたものの胸元に食い込むオーガのつま先にボルジャーは声を上げる。
「師匠! 後は任せとけ」
「‥‥任せた!」
彼の頭上を飛び越えるようにリルは崩れたオーガに肉薄し、その胸元に剣を入れた。
深く貫かれた心臓に、今度こそオーガは悲鳴も上げず地面に倒れた。
「援護の必要は、無かったようですね」
「大丈夫か? 二人とも!」
駆けつけたリアナとガインに、ボルジャーを助け起こしたリルはなんとかな、と苦笑する。
ボルジャーのほうも大きな怪我ではないようだ。
「こいつが、ボスなら‥‥そろそろ終わりかな」
リルの見つめた先では、もう炎も喧騒も消えようとしていた。
戦闘開始から数刻。
この村近辺に位置していたオーガ達はほぼ一掃された。
リアナとジークリンデが魔法で確認しても、周囲にオーガの気配は無い。
「完全に、と断言はできませんが遺恨が残るような事は、多分、無いと思われますわ」
疲れから腰を下ろしていた冒険者達はホッと安堵する。これで、依頼の一つは終了だ。
だが肩の荷が下りたわけではない。
もう一つの依頼が残っているのだ。
昨日の晩から周辺の調査をして怪しい場所には目星は付けてある。
「‥‥ジークリンデさんの‥‥地図は、かなり正確で‥‥昨夜‥‥見えた煙と、洞窟の位置からして‥‥この辺とかが怪しいかもしれません」
「確かにこの辺に人影が通ったって木々も言ってたらしいからな」
アルフレッドとガインの言葉を真剣に聞き、頷く。
「じゃあ、皆で手分けして探そうぜ。なるべく‥‥単独行動はしないよう‥‥!」
立ち上がったリルは言葉をそこで止める。冒険者達も一瞬遅れてそれに気づいた。
驚きの顔をしていないのは少し離れた木に身体を預けていたパーシのみ。
「何故、オーガを退治した。僕は待っていたのに!」
叩きつけられる怒りの感情。
‥‥大降りの剣を持った若い騎士が襲い掛かってくる。
まさか、自分から出てきて、突然襲い掛かってくるとは。
虚を付かれた冒険者達は次の瞬間、さらなる展開に驚き呆然とする。
若い騎士の剣を止めて弾いた蒼い瞳の円卓の騎士と、
「パーシ!」
その剣をさらに槍で弾いたもう一人の円卓の騎士に。
○『会話』
目の前で繰り広げられる戦いに、冒険者達は助けどころか言葉さえも挟めずにいた。
「‥‥ちっ!」
横で唇を噛む音が聞こえる。横でキットがどんな表情をしているか解るから、あえてリルはそれを覗こうとしなかった。
「これが、円卓の騎士と呼ばれる戦士同士の戦いか‥‥」
アランの呟きが冒険者達の思いを代弁する。
二人の騎士。いや戦士はお互いに本気で刃を交えている。
その剣に、槍に手加減は無い。
流れるような剣の捌き、疾風、いや雷の如く放たれる高速の打突の美しさに思わず見惚れてしまうほどその連撃には人を魅了させるものがあった。
先ほど、冒険者に攻撃をしかけてきた若い剣士ですらそれは同様のようだった。
「ラーンス様‥‥」
その一言で冒険者の何人かは、若い剣士の正体に気づく。彼の行動の意図もなんとなく解った。
目の前で繰り広げられる鋼の歌。
それは、始まった時と同じく唐突に終わりを告げた。
先に刃を向けた騎士が、その身を後退させ跪いたからだ。一瞬前まで敵に向かって閃いていた槍は地面の上に置かれて。
「お久しぶりです。ラーンス・ロット卿。お元気そうで何よりでした」
「パーシ・ヴァル。卿が‥‥出てきておいでだったか。冒険者が来ているとは聞いていたがよもやそれに混じっていようとはな」
追撃はせず、目の前の人物も剣を鞘に剣を入れる。
「ラーンス様! お探ししておりました」
目の前に現れた人物に駆け寄ろうとする若い騎士。それを
「待ってもらおうか!」
「‥‥止まって下さい」
頭上から礫が降る。前後、左右、さらに後方からは魔法の気配さえする。
相手を押し留める布陣を布いて冒険者はその騎士の動きを阻んだ。
「積もる話もあろうが、確認させてもらう。この村に現れた凄腕の剣士、ってのはあんただな?」
リルの言葉に若い騎士はそうだ! と声を上げる。
「僕は、ラーンス様に仕える騎士の一人。あの恥知らずの騎士に罪を被せられたであろうラーンス様を見つけ、そのお手伝いをする為に探していた。折しも凄腕の剣士が各地でンモンスターに苦しむ人々を助けているという話を聞いた。ラーンス様がモンスターに苦しむ人々を見捨てるはずが無い。だからモンスターの襲撃のあるところで待てばラーンス様に会えると思ったのだ!」
「だから、まだここにラーンス様が来ていないと知った後はモンスターを倒そうとしなかったのですね。人々を助けようと言う気は無かったのですか?」
ジークリンデの声は追求するものではない。だが、微かな苛立ちは孕んでいた。
「今のイギリスの混乱を救う為にはラーンス様に一刻も戻ってもらわねばならないのが解るだろう。村が滅ぶわけでなしどちらが大事か自明の理だ!」
微かに手のひらを握り締める音がする。それが誰のものか、一人か複数かは解らないけれど。
「夜のうちに荷物が無くなっていて‥‥、補給の為に村に出てきたら冒険者がやってきたという話が。モンスター退治されてしまったらラーンス様への手がかりが無くなってしまうと思ったけれど‥‥やっとお会いする事ができた。ラーンス様、どうか王宮へお戻り下さい」
再び駆け寄ろうとする騎士。だが、冒険者の壁はまだ消えず、一歩も動く事はできない。
さらに、
「それはできぬ。私は自らの真実の証を立てぬ限り王宮に戻ることはできぬのだ」
主の声が彼を言葉で突き放す。
「では、せめて僕もお連れ下さい。お力になりたいのです」
「ならぬ。罪をかぶるのは私だけで十分だ。これ以上お前達を巻き込む事はできぬ」
さらなる言葉。
「今、罪と言ったな。自らの行いを罪と認めるのか? 騎士として恥じない行為をしているんじゃなかったのか?」
「‥‥私の行為は決して王への信義、王妃への忠節、この国への忠義を裏切るものではない」
その言葉にガインは反応した。胸の中に何か押しとどめていたものが溢れてくる。
「騎士として恥じない行動を取ってるつもりなら何故逃げる? あんた騎士なんだろ! あんたにとって騎士ってなんだ?」
「王と王妃を苦しめ、故あるとはいえ他者を傷つけた。それから逃れるつもりは無い。だが、私には今、それ以上に大事な事があるのだ」
彼の言葉に澱みは無く、彼の瞳に惑いは無い。
「我が騎士としての誇りと真実を守ること。騎士とは人の理想の姿だ。至高の夢。光であらなくてはならない。そして、私はその理想を汚す事も顔を背けることもしない」
ガインは反論したいと思ったが、言葉が探せない。その時、一歩前に出たアランはラーンスに告げた。
「ラーンス卿、興味深い話があります。ご存知ですか? アグラヴェインと踏み込んでいた友人の石の中の蝶が、王妃に反応した模様。何か、裏があるとは思いませんか?」
その言葉に彼の瞳が反応する。光、放つように。そして‥‥。
「なるほど‥‥。なれば尚のこと。今、王宮に戻るわけにはいかぬと答えよう。真実を証明せねばならない。我が名誉にかけて‥‥」
騎士は冒険者に背を向け立ち去ろうとする。
「‥‥待っ‥‥!」
止めようとするアルフレッドの前に手が伸びた。それは槍持つ手。
強制力のあるものではなかったがアルフレッドの動きは、心と共に封じられた。
「ちょっと待ってくれ」「お待ち下さい」
それとは別に二つの声が動く。
振り返る騎士にどちらも動かず、その場から投げた。
アランは白い布に包まれた小さな品物を。
「何か使えるかもしれません、どうぞ。返品はせめて中身だけに」
品物をキャッチして開くと騎士は頷いて懐へとしまう。
リルが投げたのは言葉、いや問いだった。
「あの時、聞き忘れたことでもある。王に伝えるべき言葉はあるかい?」
「‥‥いずれ、我が行動にて全てを明かし、償うと‥‥」
「ラーンス様!」
若い剣士の呼びかけには振り向く事もせず、騎士は歩み去り、やがて馬の嘶きと共に遠ざかっていった。
それを追うものは誰も‥‥いなかった。
○騎士を救う医師
「ずっこい! ずっこいぞ! パーシさん。俺だってラーンスさんと戦いたかったのに!」
帰り道、歌を歌うのも忘れて頬を膨らませるボルジャーに、すまないな、と言いつつもパーシは微かに頬を緩ませている。
「パーシ殿。ホントはあんたもラーンス殿と戦うのが目的だったんじゃないか? あの騎士と同じ考えで‥‥彼があそこに来ると思って‥‥」
強さを求める戦士なら誰であろうと、自分より強い相手と戦ってみたいという欲求を持っている。
冒険者の心を持つものなら、なおのこと。
「同じ円卓に座っている間はできなかったからな。まあ、王国一の騎士だ。チャンスがあれば逃がそうとは思わんさ」
リルの言葉をあっさりと肯定し、彼は少し真顔になる。
「それに言葉は嘘をついても太刀筋は嘘をつかない。百の言葉を尽くしても伝わらない事が、ただの一合で伝わる事もある。あの人の剣に嘘や迷いは無かった。それを確かめられたからな‥‥」
お前達の誰かが一騎打ちを望むなら、譲ってやっても良かったが。
笑うパーシを見てリルはため息をつく。
まあ、この逃亡癖激しい迷子戦士がバックレることもせず冒険者と帰路を歩いているのはそれを黙っていた事への侘びでもあるのだろうから、彼はそれ以上責めはしない。
彼ら円卓の騎士に、ラーンス捕縛の命が下っているのは知っている。それを堂々と拒み、今回逃がしたとあれば今後も楽なことにはならないだろうから。
だが、と後ろを見る。師匠はそうもいかないだろう、と。
予想通りパーシの言葉にさらにボルジャーの頬が丸く膨らんでいる。
ならば戦いたかった。例え勝機が薄かったとしても、と今も顔にはっきりと書いてあるのだから。
「相変わらず、勝手な事ばっかり言って、勝手な事ばっかりしやがる。いいか? いつまでも俺達がお前の手のひらの上にいるなんて思うなよ!」
指は真っ直ぐ、視線を逸らさず、逃がさず見据えてキットはパーシに宣言する。
「それは誤解だな。冒険者は俺にとって大事な友であり、仲間だと思っているのに」
「ならば、卿。もう少し我らを信じて頂きたい。貴方を慕うもの、心配するものは多いのですよ。あの娘のように」
アランの言葉に思い出したようにパーシは荷の中から大事に布で包んでいたものを取り出すと、アランに渡した。
「知り合いのようだから返しておいてくれ。気持ちは十分に受け取らせてもらったと」
その品物を受け取りアランはしまう。シルヴィア・クロスロードと刻まれた証書に込められた意味、受け取った側の意味は彼の知るところではない。
自分があの手紙に託した思いを他の誰も知る必要が無いように。
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ!! パラッパパラッパ!! おいらはファイター!! あ〜〜。もう悔しい、悔しい悔しいぞ〜」
半ばやけくそのように歌うボルジャーの頭上ではアルフレッドは小さく呟く。
「‥‥逃がして‥‥よかったのかな。これで‥‥本当に良かったのかな‥‥。捕まえないと‥‥何も始まらない気がするんだけど‥‥」
ラーンスと部下。
どちらも目の前で、捕まえられる状況にありながら捕らえることなくパーシは逃がした。
彼に迷いは無いようだが、アルフレッドにはそこまで揺るがず、ラーンスを信じることはできなかった。
「良いとも、悪いとも‥‥今は断ずることはできない。だが、間違ってはいなかったと思う」
ルシフェルはそう答える。
「いずれ、あの人は帰ってくる。必ず、真実を見つけて。その時こそ本当の始まりだ」
直接出会えて、感じた。
今は、まだ信じても良いと思う。
この国に影を導く本当の敵は、彼などではないのだから。
「騎士とは至高の夢。光であらなくてはならない。そして、私はその理想を汚す事も顔を背けることもしない‥‥か。勝手だよな」
ラーンスの言葉を幾度と無く反芻しながらガインは思う。
あの人もまた世間知らずの理想主義者なのかもしれない。
国の為、誰かの為ではなく自分自身の理想を信じて戦う、心囚われた妖精郷の騎士‥‥。
「彼が正しき理想を追い求めると言うのなら、少なくとも敵に与したり、悪意を持って敵対することはないだろう。もう少し様子を見てやろうぜ」
「そうだな。そして、彼自身が自らの理想を裏切るときには‥‥」
その時には、止める事になるだろう。必ず。
「いいか? 今回はあまり余裕がなさそうだから次に回すがその時はちゃんと直に見せてやる、今の俺をな」
向こうではキットがパーシに向かって宣戦布告をしていた。
「楽しみにさせてもらおう。どれほど腕を上げたか。なかなか楽しみだ」
「こら〜! 馬鹿にするなよ! 見てろ! あんな奴との戦い以上に本気ださせてやる!」
‥‥冒険者達は思う。
パーシは最初に言っていた。過ちでおった傷は自らの心に刻んで前に進むべきだと。
理想の騎士は、心折れたことが無く、オークニーの鬼子は傷の無い手で自らは傷だらけだと、他者を傷つける。
だが今回彼らの心に確実に刻まれた傷は、パーシが信じるとおり溜まった膿を流し出し国をより強いものにしてくれるかもしれない。
それを助けるのが、自分達、冒険者の役割かもしれないと。
国を、騎士を救う医師。
それは、あまりにも大きすぎる理想かもしれないけれど‥‥。
『王が貴殿と王妃の捕捉に本腰を入れました。貴殿の所在も噂で広まっています。
今は忍ぶ事に専念し、王妃の所在が分かった時、疾く動き王妃に憑いた影を払うべきです
‥‥貴殿の万日の武がここで終わらぬことを。 アラン・ハリファックス』
小さな瓶と手紙。
あの手合わせと、冒険者達との会話。
それは忍ぶ日々に微かに磨耗しかけていた彼の心を蘇らせる。
自分を信じる部下、信じてくれた友。そして彼ら冒険者に報いる為に。
彼は馬首を向ける。
自らの信じる道に向かって。