郵便屋さんのおとしもの

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2004年08月19日

●オープニング

 最近シフール飛脚が実装されて手紙のやり取りが盛んになっている。
 冒険者同士、異国への手紙もさることながら遠くに住んでいる友人同士。家族同士の手紙も配達される。
 手紙は、心を伝える手段なのだ。
 だが‥運ぶのはシフールである。

「うわ〜〜ん! 助けて〜〜」
 
 このエリアに配属されたばかりの新米シフールの悲鳴が響き渡った。
 配達の途中に犬に追いかけられているのだ。
「なんとか助かったあ。あと早く配達を‥。え゛?」

「なに? 手紙を落としたあ?」 
 うなだれた彼女はエリア責任者の前で小さく頷く。
「解っているのか? 配達は信用だ。一件の信用が次の依頼に繋がる。逆に一件の失敗が次と次の信頼を失うことになるんだぞ!」
「え〜ん、ごめんなさ〜〜い」
 頭を抱えて怯える彼女に、責任者はふうとため息をついた。
 説教だけしていても仕方ない。
「で、手紙を無くしたのはどこだ?」
「エチゴヤの前あたりです。だけど‥犬が持っていったかも‥」
「あて先は?」
「‥覚えてません」
「! 差出人は?」
「‥‥忘れました」
「!! で、無くしたのはいつだ‥?」
「‥‥‥昨日です‥」
「!!! 何でもっと早く言わない!」
「だって、だって、自分でなんとか早く探そうと思って〜〜」
「こうなったら、お前一人では無理だ。冒険者の方に頼んで一緒に探してもらえ。見つかるまで帰ってくるな!」
 彼女は半ば蹴りとばされるように外に追い出された。
「わ、解りました。でも‥一つだけ聞かせてください」
「ん? なんだ?」
「依頼料、私持ちですか?」
 BANN!!
 扉は完全に閉じられ、もう二度と開かなかった。

「と、言うわけなんです。酷い話でしょ。(ぐっすん)」
 そのシフールはテーブルの上でシナを作った。同情を誘うように、だろうが、見る冒険者達の顔は同情よりもむしろ呆れ顔‥。

 この娘だけのことなら放って置いても良いが(シフール:放っておかないで〜)ことはシフール飛脚の信用、そして手紙の差出人と受取人の思いがかかっている。
「手紙を探すのを手伝ってください。どうか、どうかお願いします〜」

 これからシフール飛脚には世話になりそうだし、少し早い恩返しでもしておくか。
 彼らはそう思いながら立ち上がった。

  

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0974 ミル・ファウ(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1755 アーシャ・レイレン(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5210 ケイ・ヴォーン(26歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea5510 シーン・イスパル(36歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●リプレイ本文

 ドサッ! 何かが落ちた音がする。
 気付いたチップ・エイオータ(ea0061)が拾うと、それはカバンだった。
 パラである彼にさえ小さな、黒いカバン。隅に小さく名前が書いてあった。
「えっとリティ‥?」
「あっ! それあたしのです。ありがとうございます」
 駆け寄ったのは、依頼人のシフールの少女。なら、とチップは素直にカバンを返す。
「あらいいカバン。ねえ、シフール飛脚って制服は無いの?」
 リティが受取ったカバンを見てシーン・イスパル(ea5510)は微笑みかけた。カバンは新品ではないが上質な皮で丁寧に作られている。古物好きの彼女の目に留まるほどに。
「制服はありません。このカバンは先輩がくれたもので服装は自由です」
 リティの答えにシーンはなあんだ、と残念そうでさえある。
「私も、同じシフールとして協力するね」
「はじめまして、深き森所属の楽士ケイと申します。よろしく。同じシフールとして犬の怖さは解ります。人間で言うならば、暴れ馬に追いかけられるようなものですから」
 優しく慰めるアーシャ・レイレン(ea1755)の言葉にケイ・ヴォーン(ea5210)はうんうん、と頷いた。だが一方
「でもね、お金を貰って仕事をしてる以上、プロとしての自覚は絶対に必要よ」
 厳しい意見もある。ミル・ファウ(ea0974)もシフールだが甘やかしはしない。
「特に、現場で何か問題があった時は自分だけで解決を図ろうとしないで、上司に報告するとか。作業は予めしっかりと段取りを組んで、迅速且つ正確に‥とか。客商売なら、接客時の対応もあったりするわよね」
 場数を踏んできただけあって、説得力がある。
「手紙は贈る方と受け取る方の心を繋ぐ大切な物。きちんと届けて差し上げたい物ですわ」
 李彩鳳(ea4965)も口調は優しいがはっきりと辛い事を言う。
「ま、やっちゃったものは仕方ないから、これから減らせるようにしないとね♪ ‥って事で貴方も一緒に手伝ってくれないかしら?」
「も、勿論」
 指をパチンと鳴らしたディーネ・ノート(ea1542)にリティは頷いた。本人も捜さなければお話にならない。
「私達も協力しますわ。早くお手紙を探してあげましょう」
 アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は街の地図を広げた。
「よっし! 頑張ろうよ♪」
 元気なチップの声にみんな気持ちを微笑ませながら、捜索と配置の相談を始めたのだった。

 彩鳳は城の前で待つ仲間達に首を振る。
「お城には届いていないそうですわ」
 城の詰め所に届いてはいないか? まず確認してみたのだが、届いていなかった。
「捜してみるしかないよね。っとじゃあ、手分けして捜そっか」
 シフール飛脚の責任者から貰った配置地図と、街の地図を重ね合わせ分担を決める。アクテとケイがエチゴ屋〜商店街付近。城周辺をチップと彩鳳が捜す。
「私は犬さんを捜してみようと思うの。いいかな?」
 アーシャの言葉に頷いたのはシーンだった。
「ちょ〜っと、やってみたい事があるのよ。だからあなたも一緒に来て!」
 見かけによらず強い手に引っ張られリティの同行も決定。
「私はさっき聞いた彼女の歩いたコースを捜してみるね」
「あ! ディーネさん、そっち違うよ」
 歩き出そうとしたディーネはミルの呼び声に足を止めた。
(「しまった‥」)
 でも顔に出さず、口にも出さない。そんなディーネの肩にミルはふわりと舞い降りる。
「えっ?」
「一緒に行こう」
 ミルの微笑みにうん、とディーネは答え彼女達も受け持ちの方へ歩いていった。

「へえ、ホントの犬かと思った」
 周囲を通る人たちは蜃気楼に手を伸ばしてみる。占い屋を開いたシーンの側にはマジカルミラージュで作った犬。動かない上に大きいが遠くから見るほど本物に見える。
「こんな犬、知りません?」
 占い師として店を構えたシーンはお客に聞いてみる。占いを求めてきた女の子が殆どだ。
「橋の方で見たかしら‥ねえ、私の恋愛運は?」
 最初の人に今日はタダですよ。と言ったことをシーンは後悔した。
 ひっきりなしに訪れるお客。もう動く事もできない。
「情報は手に入ったのに〜!」

 シーンを置き去りにしたその頃のリティとアーシャ
「アーシャさん、何で飛ばないんですか?」
「‥飛べないんです。何で‥?」
「そんな重い装備してたら無理ですよ。荷物降ろして‥? ってどっちに行くんです?」
「あれ? こっちじゃありませんでしたっけ? さっき聞いた犬のいたっていう方向」
「違いますよ、こっちです!」
 前途多難である‥ 

「また方向違うよ。ひょっとして‥?」
 ミルのナビに、ディーネは慌てて方向を変える。道や草の影を何度も捜しながら通った道だが何度来ても、何故か間違えてしまう。
「‥私、方向音痴なんです」
 決心したようにディーネは打ち明けた。
 方向音痴が捜し物依頼に入るの? そう当てこすられるかと思った。だが、ミルはそんなことはしない。
「大丈夫。私が一緒にいるから」
 優しい仲間。だからこそディーネはグッと手を握りしめる。
(「こんな事で足引っ張ってらんない。絶対に‥注意する‥」)

 待ち合わせは王城横の橋、アクテとケイ、チップと彩鳳は合流した。
「エチゴヤの周りの人にも聞いてみたんですけど‥どうしても‥」
「木の上とか可能な限り探して見ましたが、今のところ見つかりません」
 冷静調査コンビの言葉に、二つの首も横に振られる。
「お買い物のおば様や、露天の方々はお城の方にあの犬は住んでいるらしいとおっしゃっていましたけど‥」
「で、城の人らはエチゴヤの方じゃないか、って言うんだよね。おいらも草の中とか捜してみたけど見つからなかったよ。お〜い! 手紙さ〜ん、出ておいで〜!」
 チップは大声で手紙を呼んだ。半ばヤケである、が
「ワン!」
 ‥返事が返った。
「「「「え゛?」」」」
 3人は橋の下を覗き込み、ケイは一人空を飛ぶ。足元の橋の袂を、野良犬が寝床にしているのが見えた。そして‥
「橋の袂の下、見てみて下さい。何か白いものが!」
 声と同時にチップは橋から飛び降りた。持ち前の身軽さでケイの差す先に駆け寄った彼は捜していたもの、犬、そして彼が寝床に持ちこんでいた手紙を‥見つけた。

「これです! 良かったあ〜」
 手紙にリティは頬擦りする。
「ほら、皺になるよ」
 苦笑しながら、ミルはリティの肩をぽん。慌てて皺を伸ばし彼女は冒険者達に頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「お礼はまだ早い。さあ仕事を済ませましょう、ここからは貴女の出番よ」
 シーンはウインクしてリティに笑いかける。護衛として最後まで見届けるつもりなのだ。他の仲間も頷く。
「依頼は手紙を探し出す所までだから、最後まで見届ける必要はない気もするけど‥」
「まあ、ここまできたことだし。ね!」
 ちょっと考えミルもディーネの誘いに従った。
「よっし、出発〜!」
 オー! 彼等は一日郵便屋となった。

 エチゴヤから少し南に下った一件の家。
「シフール飛脚です。お手紙を届けに来ました〜」
 リティの声は大きくは無い。だが‥部屋の中から走る足音‥そして
「おてがみ! おてがみきたの?」
 開かれた扉から声と一緒に、小さな頭が飛び出した。
「は、はい‥これです。どうぞ」
 シフールとサイズはほぼ同じ。5〜6歳くらいだろうか。少女は渡された手紙を嬉しそうに抱きしめ、その場で封を破る。
「これは他所に働きに行っているこの子の父からの手紙なんですよ。ずっと待ってたんです」
 出てきた婦人は、9人の訪問者に少し驚いたようだが微笑んで、手紙に夢中の娘の頭を撫でる。
「ママ! パパ、あきのおまつりにかえってくるって、おみやげいっぱいもってくるって♪」
 花が咲くような少女の笑顔は、見るものの心を暖かくした。
「すぐパパにおへんじのおてがみかく!」
 絶対待っててね。彼らにそう言って少女は部屋に戻った。
「ごめんなさい。あの子ったら」
 母親は苦笑するがリティも、冒険者達も首を振る。イヤでは無かった。不思議と‥
 
「お手紙の配達って風みたいなものだね」
 帰り際、リティの横でアーシャはそう話しかけた。
「風‥ですか?」
「そっ。吟遊詩人はね。想いを歌声や旋律にして、風さんに運んで貰って色んな人に聴いて貰うんだよ‥風さんが居ないと、詩人の想いも届かないの。あなたの届ける想いを待っている人達がいるから一つ一つの言葉をちゃんと届けて上げてね」
「手紙は心を伝える大切な物です。忘れないで下さい。手紙が持つ意味の重さを。愛や喜びを、時には悲しみを記した想いが託されるのです。そして貴女は手紙を届けるという大切な使命を負う事を、貴女が自ら選択したという事を」
 もう、言うまでも無いでしょうが、ケイの言葉にリティはふと空を見た、何かを思い出すように‥
「私も昔、手紙を貰うのが嬉しかった。だから、この仕事に就いたんです。もうドジしません。頑張りますっ!」
(「もうちゃんと解っておいでですわね」)
 握り拳で誓うリティを彩鳳は微笑んだ。チップもなんとなくホッとする。もう、彼女は大丈夫だろう。
「でもこの仕事を受けて、シフールには人間に合わせて作られた街がいかに大変かよく解りましたわ」
「そうなんだよねえ。一度改善要求出してみようかな? あ〜今回なんか柄にもないことばっか喋ってるかも」
「でも、改善要求はいいですね。シフール用アイテム欲しいです!」
 アクテとミルの言葉にシフール達の目は真剣で、他のメンバーはついつい笑ってしまう。
 楽しく明るい笑顔が、笑い声が、落ちゆく太陽よりも輝いてキャメロットの街に響いていた。

 ディーネが手紙を「自分が落とした」と庇ったので、シフール飛脚の信用は大きく落ち込むことは無かった。
 彼女は今日も空を飛ぶ。大きなカバンを下げて笑顔で。
「こんにちは、シフール飛脚です!」
 教えて貰った大切な思いを届けるために‥