【死の十字架 表】恨みの炎、呪いの歌

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月28日〜12月03日

リプレイ公開日:2006年12月05日

●オープニング

 夜の空を赤く染めるもの。
 それは燃え盛る炎。
 今、一軒の家が業火に包まれ、焼け落ちようとしていた。
「消火を急げ! 中に取り残されているものはいないか?!」
 王宮からやってきた騎士団が消火の指揮を始める。
 周囲の人々も、少しでも出来る事を、と桶を運び極寒のテムズから水を汲んでいた。
 炎を引き裂く声がする。
「誰か! 娘がまだ中に!!」
 母親の悲鳴の先、二階の窓に子供の姿が見える。
「あっ!」
 その姿が消えた瞬間。
「パーシ様!」
 止める間も無く金色の雷が炎へと飛び込んでいた。
 実際はほんの僅かの時間だろう。だが見守るものにとって永劫にも似た一瞬の後。
「子供を落とす。受け止めてくれ!」
 窓から希望の声がした。広げられた布に受け止められる子供。
 湧き上がる歓声。
 その中で、煤まみれの騎士は一人、炎を見つめていた。

『デス クロス』
 それは一時期、恐怖と共に囁かれることが多かった盗賊団である。
 彼らはその名の示すとおり、中心となる四人の盗賊とその部下から成り立っていた。
 剣を得意とする戦士アドウィン 通称アド
 炎の魔法を使う魔法使いイード 通称イド
 端麗な容姿と魔歌を操る吟遊詩人オルディン 通称オド
 そして天性の鍵開けの才を持つ盗賊 エドアルド 通称エド
 オドが周囲に聞き込み下調べをしてターゲットを決めて、エドが戸締りを破り中に潜入する。
 目撃者は全てアドが切り倒し、最後にイドが炎で全てを焼き尽くす。
 彼らの通った後に残るのは全てを奪いつくされた焼け跡と黒い十字架のみ。
 各地に小さくない被害をもたらした彼らの快進撃は、王都キャメロットで静止した。
 理由は、十字架の一角エドが捕らえられたこと。
 彼を奪い返そうとした盗賊達は、騎士団の待ち伏せにあってほぼ壊滅することになる。
 戦士アドは騎士団を率いたパーシとの戦いで敗北し、死亡。
 魔法使いイドは片腕を落とされ、オドは乱戦の中で顔に深い傷を負った。
 部下達も殆どが捕らえられた中、二人は、二人だけはその魔力で必死に逃亡したのだ。
「王家の飼い犬! このままで済むと思うな! いつか必ず貴様らに思い知らせてやるからな!」
「この恨みは‥‥決して忘れません。‥‥仲間の仇に呪いあれ」
 そういい残して消えた二人の行方はキャメロット中を調べた捜索にもようとして知れることはなかった。
 そして、その後、キャメロットに死の十字架が立つ事は無かったのだが‥‥。

「どうやら奴らが戻ってきたらしいな。しかも、今度は円卓の騎士パーシ・ヴァルを狙っているらしい」
 まるで世間話でもするように言った戦士の言葉に係員は思わず強く机を叩いた。
 カウンターの上に置かれた黒塗りの十字架が跳ねる。
「って! なにを他人事のようにおっしゃっているんです? 魔法使いに狙われているのでしょう? パーシ様!」
「正確には魔法使いと彼が集めた盗賊達に、だ。時々街を歩いてるとナイフが飛んでくると言ってたぞ」
「だから!」
「俺はヴァル。ただの冒険者だ。パーシ・ヴァルからの伝言を頼まれて依頼を出しに来ただけだ」
 しれっとした顔で彼は言うと、腕を組み、笑った。
 ‥‥確かに銀鎧纏う輝かしい円卓の騎士しか知らない者であれば、このありふれた武装の若者が円卓の騎士の一人だとはあまり思わないだろう。
 ‥‥冒険者ギルドでは公然の秘密であったとしても‥‥。
「‥‥で、パーシ卿からの依頼はどのようなものなのですか? ヴァル殿」
 深いため息をついて問う係員にああ、とパーシは依頼書を差し出した。
「依頼は二つ。パーシの私邸の護衛。そしてパーシと一緒にその魔法使いの一味を捕らえることだ。パーシはこれから一週間ほど城に詰める事になっているらしい。なにやら城の中も騒がしくて大変だと愚痴っていたようだが‥‥その城詰めの帰り道がいいチャンスじゃないか、と言っていたな」
 さらに、深いため息が落ちる。要するに、自分が囮になるからその隙に賊を捕まえろと言っているのだ。
「相変わらず無茶と言うか、危険な真似を‥‥」
「このまま放っておくと関係の無い一般人まで巻き込まれる可能性がある。いや、実際すでに奴らの宣戦布告と思われる火災が先日発生した。盗賊だけあって、潜入潜伏に長けており、なかなか尻尾が掴めないのだ。時間をかけている暇は無い! と、言っていた」
 敵の数は不明。主犯となる火の魔法使いと月魔法を使うバードと、彼らが集めてきたチンピラが数名から十数名というところだろう。
「決行日までに奴らの動きを調べてくれたらなおいいとのことだ。あと、パーシの私邸には使用人が数名いるので彼らにも危険が無いように頼みたいということだ。では、よろしく」
 そう言って、ヴァルは帰っていった。

「まったく、あの人は‥‥」
 彼の背中を見つめ、ため息を吐き出したのは誰だったか。
「とにかく依頼だ。十分、気をつけろよ」
 言いながら係員は依頼を張り出した。

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

鹿角 椛(ea6333)/ カルル・ゲラー(eb3530

●リプレイ本文

○人の調べ
「まったく! いつもながら無茶やらかしてくれるよ。あの人はさ。一度ガツン! と言ってやったほうがいいかもしれないねえ」
 やれやれと、息を吐き出しながら道を歩くフレイア・ヴォルフ(ea6557)の隣でくすくすと笑う声が聞こえる。
「本当にそう思っておられるのですか? なにやら楽しそうと言うか嬉しそうに見受けられますけど」
 上品で丁寧に、だがしっかりと図星をついたジークリンデ・ケリン(eb3225)にまあね、とフレイアは笑みを見せた。
「そういうところがさ、しょうもないと思ってもあの人の、多分‥‥良い所だからさ少しでも力になりたいと思う‥‥」
 頭をかくフレイア。横を歩くイグニス・ヴァリアント(ea4202)の頬にも微笑が浮かんでいた。
「『パーシ・ヴァル ファンクラブ』というところか? 俺の知り合いにもそんな事を言って心配しているやつがいたが」
「あ・それって面白そうかも。あればあたしも入りたいねえ」
 明るい笑い声。
 穏やかな昼下がり、のんきな冒険者達のそれは楽しげな会話に聞こえる。
 だが、本当にそう見えるならそれは観察眼の無い証拠。
 彼らの目と、意識は常に周囲の様子を油断無く伺っていた。
「‥‥さて、まずは動いて流れを掴むか」
「城から、パーシ卿の館まではけっこうありますね。民家の多い通りもけっこうありますし‥‥」
 さっき、城から観察し今実際に歩いているコースを頭の中で反復しながら、ジークリンデは考えていた。
 なるべく人の少ない、戦闘になっても被害が少なそうで、それでいて敵も隠れる所が多く、油断しやすい場所はどこだろうと計算しながら。 
 イグニスもそれはまったく同感だ。
 敵がどの程度の戦力で、どう動くかは解らないが、なるべくならこちらのペースで戦いを進めたい。
 勿論、敵もそう思っているだろうから、どちらが敵の戦力を読み、どちらが準備を整えて敵をおびき寄せるかで戦いが決まるだろう。
「あ。ちょっと待って。あそこのリンゴ安い。ちょっと見てくるからさ」
 食料品の出店に走るフレイア。確かに甘い香りが鼻腔を擽っている。
 ホントなら肩を竦めるところなのだろうが、丁度お腹がすいていたところだから彼らも足を止めて店を覗く。
「おじさん。そのリンゴ見せて。う〜ん、少し傷あるからまけて欲しいんだけど。これくらいにさ」
「ちょっと待ってくれよ。それじゃあ商売にならないよ。これくらいだな」
「う〜ん。じゃあ、それでいいよ。3個貰うからね」
 軽く会話してリンゴを手に取る。なるべくいいものを。
「生鮮食品は大量買いできないからね。少しの値段の差がけっこう家計に響くんだよ。これが」
 ハハハと笑って店の店主はリンゴを一つおまけしてくれた。
「しっかりもんの奥さんだね。旦那さんも果報者だ」
「あら。そんな褒められると照れるね。もう少し沢山買いたいんだけどうちは二人暮らしだからねえ」
「いや、別にいいさ。最近多めに買い物をしていく、いいお客もいるしな」
「へえ。それはどんな人?」
 ただの世間話に聞こえるが、これも立派な情報収集。店の店員や子供、女性の持つ情報はなかなか侮れないのだ。
「そういえば、うちの子が片腕の怖い人を見たって言ってたわ。裏路地の方は危ないから近寄っちゃいけない、って言ってるのに困ったものよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。確かにあんまり変な人がいるのも怖いからねえ」
「でも、この国は王様や騎士隊がしっかりしているから」
「円卓の騎士もステキな方が多いしね」
「私はパーシ様なんかステキだと思うけど」
「そうそう、この間も火事の時に‥‥」
 いつの間にか井戸端会議が始まっているが、これも情報収集の筈‥‥である。多分。
「あらあら、楽しそうですわね。私も参加してみたいですわ。その為には結婚しないといけませんかしら」
「おいおい‥‥」
 遠巻きに見つめる二人にフレイアは小さくウインクした。

 ほのぼのとした奥様冒険者の情報収集とは違い、こちらはいつも油断できない緊張感が漂っている。
(「‥‥ちっ、やな視線を感じるな」)
 軽く舌を打ってリ・ル(ea3888)は、だが振り返らずに路地の曲がり角に近い、奥まった一軒の店を覗き、入った。 
 行商人が日用品などを売っている店だ。
「よう、旦那。商売の景気はどうだい?」
 背後の気配が遠ざかっていくのが感じられる。
 ‥‥諦めたのか、単に気になっただけなのか、それとも‥‥。
(「まあ、ここは師匠に任せるとするか」)
「お客さん。何かお探しですか?」
 店員が声をかけてくる。買い物をする気で入ったつもりではなかったが‥‥。
 軽く頭をかきながら周囲を見やり
「ちょっと話と、頼みがあるんだがいいかな?」
 彼はそう切り出した。

(「あいつはだれかな〜♪ デスクロス〜? あんまりつよそじゃないけれど〜」)
 心の中で歌を歌いながら、代わりに口笛のように軽くリズムをとりながらボルジャー・タックワイズ(ea3970)は一人の男の後を付けて来た。
 裏路地の人気の少ないところなので足を止めないように、敵に悟られないように、通りすがりを装ってだ。
 買い物の振りをして情報収集をしていた自分達をなんだか嫌な目で見ていた男がいたのだ。
 だから、リルとさりげなく別れて後を付けてみた。
 彼は、本気で自分達を気にしていた訳でもないのか、じきに観察を止めるといくつかの店を梯子して買い物をするとどこかへと向かう。
 足を止め、扉を開けた男に気付かれないように通り過ぎる。
 小さな酒場があった。
 冒険者酒場ほど明るくは無い。酔っ払いが管を巻き、酌婦が無表情で酒を酌む、本当に場末の酒場という風情だ。
 そこから歌声が聞こえた。声はとても素晴らしいし、歌唱力もある。
「ちょっぴり悔しいぞ〜」
 思わず声に出しまだ閉じられない扉の隙間から、店の中を覗いた。
「? あれは?」
 そこには顔の半面をマスカレードで隠した男が一人、静かに竪琴を奏でていた。 

○それぞれの決意
「そっか。とりあえず元気そうで何よりだ」
「その節はお世話になりました」
 頭を下げる初老の男性にキット・ファゼータ(ea2307)は小さく頷いて、小さな笑みを浮かべた。
 彼はこの前に引き受けた依頼の依頼人。そして、ここにはその依頼で助けた恋人達。今は夫婦が共に働いている。
 ほんの少しだが気になっていたことだから、それは安心できた。
「家令さん。この屋敷の間取りはこんな感じなのですね?」
「はい。使用人は料理人を含めて五人。お嬢様は今、お出かけでございますし、そうでなくても今は教会にて学ばれておりますので家にはおいでにはなりません」
「解りました。‥‥貴族の館としては慎ましいと思われますが、パーシ様のお人柄が感じられるようないい家ですね」
 羊皮紙を見つめながらユリアル・カートライト(ea1249)は頷いた。
「そう言えば、パーシ様には初めてお会いするのですよね。ええと‥‥。ちょっと緊張します」
 円卓の騎士に対する普通の人の反応はこんなものなのだろうが、キットは腰に手を当ててふんと少し顔を背けた。
「そんな、緊張するようなもんじゃないと思うぞ。わがままで、自分勝手な奴だからな。スタイン。あんたもそう思うだろ?」
「‥‥私にはなんともお答えしかねますが‥‥」
「我儘で、自分勝手かどうかはともかく、いろいろと考えて欲しい事はありますが、今はそれよりも依頼を果たす事が先ですから」
 静かに思考をめぐらせていた夜桜翠漣(ea1749)は顔を上げた。ある意味キットよりも手厳しい事を言っているのだが、それは、今は置いておく事にする。
「私も屋敷内の様子は大体把握しました。後は外で見張りをしている人たちと交替して共通理解を図りましょう。あ、それから‥‥スタインさん、でよろしかったですか?」
「はい」
 突然名前を呼ばれても表情を変えず、家令は答えた。
「事件解決までどうしてもの用事以外はなるべく外出しないように、と伝えて頂けますか? もし、外出されるときは私か、仲間に相談を。可能な限り付いて行きますから」
 翠漣の提案に家令は解りました。とまた丁寧に頭を下げる。
「いろいろご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「勿論だ。あいつに連なる者の悲劇などこれ以上起こさせるか」
 力を入れるキットと仲間達の思いは一緒だった。

 パーシの館には広大ではないが手入れされた庭がある。以前は家令が、今はメイドの女性が庭を手入れしていると聞く。
 その庭を犬は嬉しそうに駆け回っていた。
「十六! あまりはしゃぎすぎてはいかんでござるよ。庭の木々を痛めるような事もしてはならんでござる!」
 飼い主黒畑緑朗(ea6426)の言葉に嬉しそうに十六と呼ばれた犬は尻尾を振った。
 そして、また駆け出す。木々を痛めるような事は無さそうだ。
「元気な犬さんですね。見ていると元気になる気がしますよ。なんだか久しぶりにお会いできた方も多いですし、この家も懐かしいし。これは頑張らないと」
 ふふ、と笑って楽しげな犬を見ているアルテス・リアレイ(ea5898)はふと、横を見た。
 俯き加減だったワケギ・ハルハラ(ea9957)はその声にハッと顔を上げた。見れば心配そうな仲間の顔。
「あ! 申し訳ありません。ちょっといろいろ考える事があって‥‥それで、その‥‥」
 毛糸の手袋を嵌めた手を大慌てで振るワケギを見る仲間達の表情は暖かい。だから
「デスクロスの話を聞いてから、ちょっと‥‥思ったんです。人を殺め、火を放つ。そんな事の為に魔法を使うなんて、僕には許せないって」
 正直な気持ちを吐露した。
「魔法は人を殺める為でなく人を幸せにする為にある、ボクはそう信じています。‥‥なのに‥‥」
「ならば、奴らを捨て置くわけにはゆかぬだろう? キャメロットの平穏を乱す不埒者ども。魔法使い相手とは少々厄介だが‥‥やらねばなるまい。譲れぬ思いを守る為にもな」
「満さん‥‥」
 ワケギに尾花満(ea5322)は笑って言う。それは、ワケギだけでなく、仲間達。そして、自分自身にも言った言葉だ。
「はい!」
 真っ直ぐにワケギの顔が上がった。
「僕も、皆さんと比べると、あまり戦闘は得意ではないですが‥‥持てる力と身体で精一杯やりますね。だから‥‥」
 白い手がワケギの前に差し出された。
「頑張りましょう。一緒に」
「はい!」
 もう一度答えてワケギはその手をしっかりと握り締める。
 その頭上を祝福するように羽根を広げた鷹が飛んでいった。

「よう! あんた達! 久しぶりだな。元気だったかい?」   
 やってきた仲間達に、似つかわしくない呼びかけでリルは仲間達をテーブルに招いた。
 不審な人物の入りにくい冒険者酒場で、しかも初対面を装っている。
「今のところは尾行されたり、あんまり怪しまれている様子も無いけど念のためな」
 集まった五人はそっと頷いた。
 正確には情報収集班五人と一羽だが。
「向こうは時々、怪しい人物が近づいてくるが、警備を警戒してか近寄ってくる様子は無い。今は泳がせているが決行日になってもいるようだったら捕縛する。だそうだ」
 リルはキットの連れている鷹が持ってきた手紙を読み上げた。
「こっちはね。あんまりつけられてる気配は無かったよ。女が多いから油断したのかな?」
「ただな。時々、あちこちで小火のような放火があった。幸い大事には至らなかったが、おそらく奴らの陽動だろう。まぁ連中にしてみれば、騒ぎにさえなれば何処でも構わないんだよな‥‥」
「火災が多いので、騎士団から防災意識の向上を声かけされているそうですわ。あちらこちらに水桶も用意されていて」
「そのおかげで、初期消火できたんだよね。騎士団や円卓の騎士の人気はけっこう高いみたいだ。ホントにファンクラブでもあれば面白いのに。まあ、そうも言ってられないけどね今の状況は‥‥」
 表的情報収集班の楽しげな会話は、一応そこで切れる。
 冒険者の目が真剣みを帯びた。
 さっきまでいた鹿角椛も調べてくれたが、裏路地の方に怪しい集団がいるという話はあちらこちらで聞かれた。そして
「師匠が裏酒場で見た吟遊詩人が、多分例の奴‥‥なんだろうな。そこから先は警戒きつくてつけられなかったらしいが‥‥」
「うん! でも、あの近辺にねぐらがあるのは間違いないと思うよ。あの重い荷物をそうそう遠くへは持っていかないと思うしね!」
 そうして、作戦が手短にだが密度濃く話される。油断は許されない。
「‥‥解った。あとは、当日までなるべくその話をばら撒いとくよ。奥様情報網も使ってね」
「私も騎士団の方々と、これ以上火災の被害が広がらないように注意して待機しますわ」
「館の警護の方には俺が連絡しておく。‥‥あいつらが先に行動に出なければ、おそらく行ける筈だ。‥‥油断はするなよ!」
 潜めたリルの声に、冒険者達は、鷹も静かに頷いた。

○死十字との戦い。
 ユリアルは目を閉じて呪文を唱える。空気の震え、人の動きを身体全体で感じられるように‥‥。
「かなり‥‥多いですね。六人‥‥七人? 表に二人。裏に五人。使用人の方たちはみんな屋敷の中にいてくださる筈ですから、全て敵とみなして構わないでしょう」
「解りました。私と尾花さん、それから黒畑さん。裏の方を片付けに行きましょう。‥‥キットさんたちは前の方を片付けて‥‥決行して下さい」
 翠漣の言葉に満と緑朗は黙って頷いた。
「僕らも行って大丈夫ですか? 回復役や魔法の援護は‥‥」
「これくらいなら、拙者達だけでもなんとかなろう。こちらの様子が整い次第拙者達も後を追う。そちらを‥‥頼んだぞ」
 心配そうなアルテスに満が笑みを向ける。ユリアルもいるし、歴戦の戦士達だ。
 若い冒険者達は手を強く握り締めた。
「‥‥解りました。向こうで、お待ちしています」
 ワケギの言葉に答えるように犬が吼える。それが冒険者達への心の合図になった。
「行くぞ!」
 前後に駆け出す冒険者達。
「こちらに来たのは半分から、三分の一、というところか? ボスはいないようであるから、早く片付けるとしよう」
「敵は我らをここで足止めし、さらに近所で放火して、それに駆けつけたパーシ卿を襲うような気がするでござる。彼はそういう場合、止めても聞いてくれないでござるからな。放っておくと、一人でとんでもない事をやりそうな気がするでござる」
「騎士としては困ったものですがね。‥‥でもキットさんたちが付いていますし、今回は大丈夫でしょう。大丈夫にしてみせます。‥‥!」
 翠漣は言いながら迷い無く前方、たいまつのようなものを掲げる男に全力のバックアタックを見舞った。
 唸り声を上げて倒れる男。
「あとは‥‥お願いしますよ」
 攻撃に気付き男達が剣を構え始める。剣を強く握り締めた緑朗の足元から犬が飛び込んだ。
 前方となった敵に満がスタンアタックで不意打ちをかけた時。
屋敷の攻防、そして死十字との戦いは幕をきったのだった。

 ガシャーン!
 吹き飛ばされるように大柄男は路地の端に積み重ねられていた木箱を背中で崩した。
「さぁ、今度こそ決着をつけてやるぞ!! 立てよ。それとももう終わりか!」
 立ち上がって胸をそらして言うのは小柄な、子供にも見えるパラ。
「ちっ! えらそうに何をぬかしやがる!」
 突然始まった酔っ払いの乱闘を、周囲の者達は遠巻きに見つめている。
 そこに
「待て! 街中で何をしている?」
 人ごみを割って入ってきた者がいた。
「パーシ様だ!」「あ、円卓の騎士様だ!」
 周囲がざわめく。後ろに数名の騎士。横に若い青年達を連れて円卓の騎士がやってきたのだ。
 自然と、道が開かれる。
「こんなところで何をしている? 酔っ払うにはまだ日が高すぎるぞ!」
「ふん! 酒に酔うのに時間が関係あるかい? 余計なお世話だっていうんだよ!」
「そうそう。すっこんでなって! ほら、近寄ると怪我するぞ」
 長柄のハルバードがブンと風を切る。人々の鼻先を掠め、小さな悲鳴が上がった。
「おっとー。流石にこれをここで振り回すのはやばいよね〜。よーし、あっちで勝負だ!」
「望むところだ! 待て!」
 駆け出して行くボルジャーとリル。
「おい! お前達!」
 パーシが後を追おうとする。その時、
「大変です。パーシ様! 向こうの方で火の手が! かなり強く炎が上がっているようです」
 後方から従騎士が指を刺す。人々の輪もケンカからそちらに意識が向かった。
「! 解った。お前達は火災の消火に当たってくれ。俺もあいつ等を止めたら直ぐに行く」
「解りました!」
「僕もお手伝いに!」
「頼む!」
 青年の一人が騎士たちと同じ方向に走り、残りの二人はパーシと一緒に路地裏の方へと駆けていく。
 別れた二手を楽しそうに見つめていた影達は、そっと人ごみに紛れ消えていった。

 自分達の倍以上の人数に取り囲まれた形になった若者。そして、それを庇うように立つ騎士。
「どのくらいぶりかな? 円卓の騎士殿。あの日から、一日だって忘れたことはねえぜ! その面と、恨みをな!」
 片腕を抑えた男が一歩前に出る。
「イド‥‥だったな。戻ってきていたのか。キャメロットに」
 呟くパーシは怯むことなく男を見つめていた。
 帰り間際だったせいか。パーシが持っているのは愛用の槍一本のみ。鎧さえも着ていない。
「仲間達の仇だ。その命頂くぜ。俺達の恨みはそんなもんじゃ足りないがお前の命で足りない分は後で、お前の娘や、屋敷から頂くってことで許してやるよ」
 ひねた笑いを浮かべるとイドと呼ばれた男は後ろの人物達をあざ笑うかのように鼻を鳴らす。
「城に篭っていやがったから、ずっと待っていたんだぜ。お前が出てくる、今日と言う日をな! こんな日に居合わせたお前らも運が無いな。だが、仕方がねえと諦めな。ここで、パーシと一緒に死んでもらう!」
 イドは手を挙げ、周囲の男達は剣を抜く。
 状況に怯えたように震える筈の者達にまずは魔法を打ち込もうとしてイドは気付いた。
「?」
 何故、奴らは笑っている?
「よし来た、かかった盗賊が〜、かかった獲物はですくろす〜」
 楽しげに歌いながらライトハルバードを構える小柄な男。酔っ払っていた筈の大男も、パーシの後ろに控えていた青年たちまで剣を抜く。
「どういうことだ?」
「解っていなかったのか? 誘い出され、おびき寄せられたのはお前達の方だ、ということがだ!」
 槍を握りなおしたパーシが小さく笑う。
「なんだと!」
 同時に一気に踏み込んでくる男達。
「行くぞ。冒険者!」
 パーシの激に
「行くぜ! 迷子騎士殿?」
「デスクロスが強いか、パラの戦士が強いか勝負だ!!」
「約束だ! 今の俺をしっかり見せてやる!」
「逃げられてはまた同じ事の繰り返し。だから‥‥絶対に逃がしません!」
 冒険者達の決意と信念が答え、踏み込んだ。

 戦いは混戦、乱戦となった。キットは敵に目標をつけさせず右、左とフットワークを生かして動き回る。
 その様子を見つめる魔法使いは小さく舌を打っていた。
 ファイヤーボムを打ち込んでやろうと思っているのに狙いが定まらないのだ。
 同じように小柄を利用した敏捷さでボルジャーも敵、イドにとっての仲間を次々に倒していた。
「うわあっ!」
 足元を払われた盗賊は、そのまま転げるように倒れた。
 パーシの槍の範囲内に入ってまともに立っていられたものは無く、リルの両刀は左右に僅かな隙さえ見せずに敵を崩していく。
「くっ!」
 じりじりと、自分の足が後ろに下がっていくのを感じた。このまま奴らを置いて逃げてやろうとか、タイミングさえ計っているようなイドに
「インビジブルランス! ‥‥させるかあ!」
 前に立ちはだかる敵を鋭い刃で討ち取ると、間を詰めていたキットが踏み込んできた。
「えええい! 喰らえ!」
 片腕で、だが高速で結んだ印が魔法を紡ぎだす。
「うわあっ!」
 足元から炎の壁が舞い上がり踏み込み、イドに迫ろうとしていたキットを炎に包む。
 服に、髪に炎が赤い蛇のように絡みついた。
 地面に転がるキット。きらせた息で止めを刺そうとイドが迫るが熱さと痛さに気が遠くなる。だが、その時。
「キットさん!」
「キット、動くんじゃないよ!」
 二つの声が、彼に希望を与えた。
 突然、熱さが彼の身体から遠ざかり
「うぎゃああ!」
 悲鳴が頭上で上がったのだ。
 顔を上げる。見えるのはナイフを振り上げた肩に矢が刺さり唸るイド。遠くに自分に向かって手を翳すワケギが。そして振り返れば屋根の上。長弓を構えるフレイアの姿が。
「く‥‥そっ、おのれぇ‥‥!」
 ナイフを落とした手がそれでもまだ印を紡ごうとする。だが
「皆さん、下がって!」
 頭上から容赦なく落とされた炎が、魔法使いの反撃もそして、全ての行動さえも封印する。
「うがああ!!」
 炎を纏い踊る魔法使い。
「みんな‥‥」
「遅くなってすみません。大丈夫‥‥です‥‥!?」
 走りよろうとするワケギの肩に白い、手が伸びた。
「ワケギ!」
 それはほんの瞬く間。
「私達の裏をかき誘き出してきましたか。狡猾な‥‥。でも、このままでは済ましませんよ」
「あ‥‥っ」
 強引に振り返らせられたワケギは仮面の奥の瞳に目を縛られてしまう。
 リュートを持った男の深い、濃い色の瞳に。
 心が混乱する。まるで酒を飲んだような酩酊感がワケギを襲う。
 ムーンアローで攻撃されると思っていただけにこれは不意打ちだった。
「さあ、貴方の思うとおりにしなさい!」
 魔法が紡がれる。まずは火の魔法使いを包んでいた炎が消え、また別の呪文が結ばれる。
 ワケギの指先は仮面の男でもなく、敵の盗賊でもなく
「えっ?」
 目の前のキットへと‥‥。
「危ない!」
 上空から声を上げるジークリンデ。だがその箒に狙いを済まし光の矢が奔った。
 アルテスとフレイアの声が弾ける。
「ワケギさん!」
「ジークリンデ!」
 駆け込んだアルテスが彼を盾ごと突き飛ばす。
「くそっ!」
「キャアア!」
 魔法は完成し、キットを氷の棺に縛るが、倒された衝撃で心の混乱はかき消された。
 ジークリンデの方も箒から落下しそうなところをなんとか、踏みとどまったようだ。
「大丈夫かい? ジークリンデ! くそっ、ここからじゃ仲間達に当たる‥‥。よしっ!」
 悔しそうにフレイアは番えた矢を弓から外し向こうを見た。
 震えるワケギを白い光が包んだ。アルテスの魔法‥‥。
「あ・僕は‥‥」
「大丈夫ですから、落ち着いて‥‥」
 ワケギは震える手を握り締めて立ち上がり、アルテスと仮面の男を見る。
 火の魔法使いに近づこうとした彼は、そのタイミングを逸し立ち尽くす。
 進路を塞ぎ自分を狙う矢。突進してくるボルジャー。頭上と前方の魔法使い。
 遠くに見える円卓の騎士。
「‥‥もうデスクロスは終わりかもしれません。だが、私は絶対に貴方達を許しません!」
「うっ!」
 足元の影が爆発する。アルテスとワケギ、そして盗賊たちをかわし迫ろうとするボルジャーやリル、パーシたちの足も止まった。
 頭上から振るフレイアの矢を交わして走り出そうとするイドを。
「あっ‥‥」
「‥‥悪いな、逃がすわけにはいかないんだ。双撃の刃、その身に刻め!」
 完全に気配を断っていた伏兵。イグニスの二本の短刀が襲った。
 右と左から腕ごと彼の身体に十字を刻む。
 からん‥‥。
 声も無く膝を崩した男の顔から、音を立てて仮面が落ちる。
 目を背けたくなるような火傷の跡が隠すことも出来ずにさらされていた。
 瞬間、広がる沈黙。暗い思い。だが膝が崩れ倒れる音と
「大丈夫ですか!?」
「おとなしく道をあけろ! それとも剣の露となるか!?」
「皆! 無事でござるか?」
 それさえもを吹き飛ばす声がする。
 路地の向こうから仲間。さらに後方からは騎士の銀鎧が光を弾いた。守備隊達がやってきたのだ。
「まだ、敵は多い! 一気に行くぞ」
 イグニスの促しに、ワケギやアルテスも立ち上がる。
 凍ったキットの魔法は今は‥‥まだ解除できない。
「すみません、後でちゃんと治して貰いますから」
「行きましょう!」
 向こうでは盗賊たちの集団が、地面に叩きつけられて唸るような悲鳴を上げていた。
 一度だけ立ち止まり、イグニスは呟く。
「さらばだ。死の十字架よ」
 そして走り、仲間達を助け戦闘に加わる。
 冒険者の援軍。騎士団の到着と自分達を指揮する魔法使い達の死亡。
 もう、まともに立っていられることができる者達さえ少なくなっていた盗賊たちは、それを知り。やがて剣を落とし投降を始める。
 戦闘開始から数刻。
 勝敗はここに決した。
  
○デスクロスの消滅
「まったくもう! こんな怪我したまんま走ってきたっていうのかい! まったく無茶して!」
「いや。屋敷を襲ってきた敵が思いのほか強敵でな。弱力ではあるが魔法使いもいたのが盲点でちょっとな‥‥っ! 拙者怪我人なのだからもう少し優しくだな」
 肩や足などに焼け焦げや傷をいくつも作っている夫にフレイアはぶつぶつと文句を言いながらも手当てをしている。
 怪我など薬を飲めば、と言いかけたユリアルだったが、慌てて口を押さえた。こういう口出しは馬に蹴られかねないと気付いて。
「火傷はなさっていませんか? 大丈夫ですか?」
 ジークリンデは解けた氷から出てきたキットの顔をうかがうように覗き込む。
 大丈夫。そうサインをきるとキットはぐるりと手を回した。 
「ふう。やっと動けるようになった。ビックリしたぜ」
「すみません。自分の考えと行動が反対に向かってしまって」
「いいんだ。あんたのおかげで助かったんでもあるしな」
 心からの笑顔で、今もすまなそうな顔を浮かべるワケギに笑いかける。
「レジストマジックも覚えるべきでしたかね」
「よっ! 水も滴るいい男!」
「やっかいな依頼でござったな。まあ、その分やり甲斐もあったでござるが、拙者、もう少し早く来て高レベル魔法使いとも戦ってみたかったでござるよ」
 仲間達の傷の手当てをしながら二人を見るアルテスや、フレイア。緑朗の笑顔とは裏腹に、
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ!! パラッパパラッパ!! おいらはファイター!!」
 大好きな歌を歌って踊りながらもボルジャーの顔は不機嫌そうだ。
「どしたんだ? 師匠。ご機嫌斜めのようだが?」
 リルは問う。
「むー! ちょっぴり悔しいぞ! パーシさんお城に帰っちゃったから手合わせできなかったんだぞ!」
「おや。ホントだ。気付けばもういない。流石は迷子騎士。あの壊れた店の修理代の請求書、ちゃんと受けてくれるかな?」
 口で茶化すがリルもボルジャーも解っていた。
 部下に呼ばれ、冒険者への礼もそこそこに彼が城に向かったのは、おそらくただ事ではない何かがおきているのだと。
「今度、お会いできる事があったら、もっとお役に立ちたいですね。あの言葉のお礼も言いたいですし」
 ワケギは遠く去った今は見えない円卓の騎士の背中を思い出して言った。
 彼と街を歩くとき自分がした質問。
 決戦直前の緊迫した時間。それどころではないと怒られても仕方なかったのに彼は、真剣に考え答えてくれた。
『ホンモノの魔法使いとは、なんだと思われますか?』
 パーシは少し目を閉じ、そして微笑んで言った。
『君が目指す魔法使いの姿だろう。自らの思い描き願う真実の姿に、嘘偽りはあるのかな?』
 未だはっきりとは見えないが、こうしていろいろな人々と真実の欠片に出会うことで形になっていくものなのかもしれない。
 思いや理想。未来というものは。
「次? 次にあったら今度こそ絶対に勝負してもらうぞ! 絶対だ!」
 そんな楽しそうな笑い声に背を向け
「‥‥」
 騎士たちに縛られ、連れて行かれるデスクロスの盗賊たち。彼らを翠漣は無言で見つめていた。
 先を行く生者に置いていかれ、いくつかの屍は残されている。
 歩み、近寄り下を見る。
 布を被せられた死体の一つがそこにあった。
 直接まみえることは今回はなかったのだが。
 翠漣は思う。自分達が戦った者、屋敷の放火犯や街で火をつけた者。そして生き残った者たちなど。
 捕らえられた『デスクロスを名乗る盗賊たちの』殆どは今回の襲撃の為に雇われたものだったらしい。
 だが、ただ二人。二人だけは、信念を持っていたのだという。仲間達の仇を討つという。
 黒く焦げた手が白い布の下から覗いた。
 向こうには壊れたリュートと血に染まった仮面がある。
 翠漣は感情を出さず、それらを見つめ呟いた。
「行動がどうあれ貴方達も仲間を思っていたのでしょうね。ただ、私達とは立場として対立しただけ」
 無論、返事は返らない。返事など期待はしていない。
「ただ‥‥」
 情けをかける必要の無い盗賊相手。しかももはやそんな事を口にしても仕方ないと解っていてもそれを翠漣は小さく告げた。
「私は貴方方の思い、そんなに嫌いじゃないですよ。嫌いじゃないだけで、同情するほど出来た人間ではありませんけど」
 ぽん。
 軽く肩を叩いたイグニス。
 翠漣は静かに頷いて、盗賊たちに背中を向けた。
 今頃、最後の一人も同じように旅立っているだろう。
 自分の行動に迷わず前へと。
 歩き出す。
 自らの信念と共に、前へと。

 かくして盗賊団「デスクロス」はこの地上から消滅する。

 冒険者がデスクロスの最後の一人の旅立ちを知るのはこの少し後の事だった