【揺れる王国】雷の使者

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月07日〜12月17日

リプレイ公開日:2006年12月14日

●オープニング

「王妃が見つからないのはラーンスといるからに違いない。あやつはグィネヴィアを余から奪ったのだ。騎士道を踏みにじるとは円卓の騎士としてあるまじき行為!」
 戦の決意を高めるアーサー王に、ラーンス派は釈然としない面持ちだった。
 王が本気で勢力を募れば、近隣から多くの騎士や公爵、伯爵が集まる事だろう。
 しかし、ラーンスは本当に罪人なのか? 様々な憶測が流れるものの、未だ深い霧の如く全容は見えていない‥‥。

「私達はラーンス・ロット様が無実だと信じている!」
「あぁ、ラーンス様は我々を引き連れて従えたまま王妃とお会いしていたんだ。王妃とラーンス様は一線を踏み越えてはいない!」
「それよりもアーサー王だ。一線を踏み越えた確証もなくラーンス様を罪人扱いとは!」
「そうだ! ラーンス様にのみ怒りの矛先を向けるのは、どうかしている!」
 ラーンスを支持する勢力は、王妃と騎士は一線を踏み越えてはいなかったと主張すると共に、ラーンス・ロットへ怒りを露に向けるアーサーへの不信感を募らせていた。
 この問題は王宮内に注ぎ込まれた濁流の如き勢いで、瞬く間に広がったのである。
 ――仕えるべき王を信じるか?
 ――無実の罪を着せられたラーンス・ロットを信じるか?
 森を彷徨う凄腕の剣士も予想通り、かの騎士だった。
 ――私の行為は決して王への信義、王妃への忠節、この国への忠義を裏切るものではない。
 私は、私の信念に基づき、真実を証明するまでは王宮には戻らぬ――――。
 ラーンスは冒険者にそう答えたという。
「しかし‥‥ラーンス様は騎士を切り殺したとも聞いたぞ?」
「否、あれは騎士として卑怯にも不意打ちを行った故、咄嗟の対応だろう。ラーンス様は責められる者ではない」
 事態は深刻な状況へ向かっていた。
 ラーンス・ロット派は王宮から離れ、信じる者が退いたと噂される『喜びの砦』へ向かおうと準備を始めたのである。
 喜びの砦へは10日以上の日数が掛かるらしいが、彼らの意思は固いものだった。 
 このままでは王国は二つの勢力に分断されてしまう。この事態を鎮められるのは――――。

「大変だ! 冒険者! 力を貸してくれ」
 転がるように走ってきたその戦士は、息を切らせながら係員のいるカウンターの前に立った。
「一体どうしたというんですか! その慌てようは一体? ‥‥って!」
 言って係員は瞬きする。
 誰かと思えばパーシ・ヴァル‥‥。つい先日盗賊退治の依頼を終えたばかりだというのに何を、と言いかけて係員は口を押さえた。
 彼は今、戦士の姿をしている。それは、つまり、冒険者としての依頼なのだ。
「急ぎの用なんだ! つい先ほどアーサー王の命令で王都を出た騎士達の荷物の中に、大事で重要な文書が紛れ込んでしまったようなんだ。一刻も早く追いかけて、その騎士達を呼び戻して欲しい!」
 そう真剣な顔で言う彼はそれ以上の事を何も言わず、何も語らなかった。
「出かけた部下は四人。今は円卓の騎士、パーシの部下で北のほうに情報収集の命を受けて出かけたらしい。情報収集だから急いで進んだりはしていないだろうし、ひょっとしたら変装とかもしているかもしれない。そして、やっかいなのは誰の荷物にその文書が入っているか解らないことだ。だから、全員を見つけ出し荷物と共に連れ帰ってくれ」
 騎士団も派遣の用意をしているが、冒険者の方が身軽に、動く事ができる。
 遠くまで早く移動する手段を持っているだろう。
 それに、変装して旅をする相手を見つけ捕らえるのも得意のはずだ。と彼は言う。
「キャメロットまで北に八日の場所に大きな街がある。北に向かうにはそこが重要な拠点になる。逆に言えばそこから先に進まれると消息が掴みにくくなるということだ。そして文書は最低でも聖夜祭前にその文書を取り戻さないと大変な事になる! それまでになんとしても彼らを見つけ戻らせなければならないから」
 だから、今回はベテランの冒険者。特に馬よりも早く移動する手段を持っている者に頼むというのだ。
 そして
「今回は俺も同行する。冒険者達は彼らの顔が解らないだろうから確認の為に。‥‥だが、俺が姿を出したら彼らは警戒するだろうし、仕事熱心な彼らは、戻ることを恥と思って嫌がるかもしれない。だから、できるなら冒険者達が説得して欲しい。一刻も早くキャメロットに戻るように‥‥と」
 文書を取り戻せ、ではなくキャメロットに戻れと説得して欲しい?
 彼の言葉で、係員も依頼を聞いた冒険者も、この依頼の真意を理解した。
 ひょっとしたら、‥‥文書など口実に過ぎないのかもしれない。
「これが‥‥最後のチャンスだ。これを超えたらもう、間に合わない。だから‥‥頼む!」
 最後の、今までの話と文脈繋がらぬ言葉が何を意味するのか。

 解った者は、解った者だけは、ただ、黙って頷いた。
 

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

イレクトラ・マグニフィセント(eb5549

●リプレイ本文

○逃亡者 追跡者
 キャメロットの門を出て北へ。
 目立たないように静かに街を出た彼らは、門が見えなくなった所で周囲を確認し立ち止まる。
「捜索の前に詳しい話を教えて下さいませんか。ヴァルさん」
 ワケギ・ハルハラ(ea9957)は真面目な顔で振り返り最後尾、馬上から自分達を見つめる戦士に問いかけた。
「俺も同感だ。そろそろいいだろう? パーシ。詳しく、しっかり、きりきりと情報を話してもらおうか? 特に連中の顔と特徴をな」
 腰に手を当て睨むキット・ファゼータ(ea2307)呼びかけにワケギは目を瞬かせた。
「キット。もちっと遠慮してやったらどうだ? 一応、隠してるつもりなんだろ? ヴァルの旦那はさ」
 遠慮の無い少年は見ているほうがどこか気恥ずかしくなる。リ・ル(ea3888)は悪いなと戦士に笑いかけた。
「あれ〜? 今回の依頼人のお名前はヴァルさんではなかったんでしたっけ〜。まあ、どっちでもいいですけど〜。今回の依頼は人探し、これは間違いないですよね〜 あら〜? 何ですか、皆さん神妙そうな顔をして〜?」
「くっ」
「何か間違ってましたかあ〜?」
 マイペースなユイス・アーヴァイン(ea3179)に覗き込まれた男は無言で首を横に振る。
 般若の面の下に隠れた表情は伺う事ができないが、きっと皆と同じなのだろうとルーウィン・ルクレール(ea1364)は思う。ユイス自身でさえそうだから。
 それは‥‥真剣な眼差し。
「そうだね! 詳しい特徴は必要だと思うぞ! 教えて欲しいな。パーシさん!」
「人を見抜く技も基本があってこそ、ですから」
 ボルジャー・タックワイズ(ea3970)と話をしていた大宗院透(ea0050)もお願いしますと、頭を下げる。
「そうだな」
 馬から降り、冒険者の眼差しを見つめた『ヴァル』。
 いや、もう彼は円卓の騎士パーシ・ヴァルだった。
「まず最初に謝っておかなければならないことがある。彼らが文書を持ち去ったというのは依頼を怪しまれないようにする方便だ。許してくれ」
 だが彼らは笑って手を振る。
「そんなこと最初から解っていたさ」
「本当の依頼は北に向かう騎士の方々を何としてでも連れ戻す、で宜しいですね?」
 確かめるような言葉に一度、目を見開いたがパーシは満足そうに頷いて話を続けた。
「ああ、どんな手段を使ってもいい。連れ戻してくれ。旅立った騎士は四名。うち二人は騎士としては新米だが実力のある青年だ。また一人は若い従騎士。彼はきっと聖騎士である彼と一緒にいるだろう」
 言いながら彼は説明を始める。騎士達の容貌、服装、そして旅立った時の装備も含めて。
「聖騎士は俺達よりも年上だ。ラーンス卿の側近で騎士の纏め役でもあった。彼の信用を得られなかった俺は主としてまだ役者不足という事なのだろうな」
「あんな奴らに主と認められるのを喜ぶ必要は無いと思うがな」
「困った人達ですよ〜。本当に〜」
 呟きに本心が被さる。  
「『どんな手段を使っても連れ戻すこと』ね。最初から捕縛が目的ならもっと楽なんだがな。まあ、信念を持って行動している人間なら仕方ない事か」
 吐き出された思いは皆も同じ。これからの行動も。
「急ぎましょう。四手、いや三手に分かれて。騎士として生まれ育った方ならそう凝った変装はなさってはいないはずですよ」
 透の言葉に頷き、冒険者達は動き出した。
 追われる騎士、追う冒険者。
 先を行く騎士達に勝るのは時間だけだと信じて。

○発見、追跡、そして
 キャメロットから北上しもう数日。
 冷えた空気が背筋を凍らせた。ここからの北方行はかなりな覚悟が必要となるだろう。
 だからこそ、あえてそれをする者はここで立ち止まらねばならなくなるのだ。
 人々の交差する街中で
「夜叉さんが、言っていたのはあれですね」
 二人連れの様子をそっと見ていたルーウィンは振り向かず後ろに声をかけた。
「彼ら、ですか?」
 頷く気配がする。そうですか。と透と共に彼は前を向いて二人から目を離さぬように見つめる。
「変装と言うほどの事をしていませんね。育ちのいい人は考える事も甘い甘い」
 なかなか辛辣で、穿った意見を透は口にする。
 彼らの買い物は防寒具に食料、それから弓矢。
「明らかに戦いの用意ですね。やる気、と言うことでしょうか?」
「そうかもしれないな。やれやれ。どう思う?」
「どう思う〜?」
 一歩前に出て、彼らと並んだ騎士の肩口で明るい声が言葉尻を真似る。大きな手が軽くその頭を撫でて黙らせると二人は頷いた。
「彼らが最後のようです。落ち合えば、いよいよ動き出すでしょう」
「その時に。すでにリルさん達も用意を整えているでしょうから」
 解った。頷きながら彼らは白い布を肩に巻く。
 視線の先で同じように白い布が動いているのが見える。
「もう少し待っていろ。主人の所に戻れるからな」
「はーい!」
 小さな少女の元気な返事に微笑みながら、冒険者達は人ごみに紛れる影を追っていった。

「あ〜。なんだか最近ミスが多い気がします〜」
 酒場で頭を抱えるワケギの肩をまあまあ、とボルジャーは慰めるように叩いた。
「フライングブルームの使い方は難しいですからね〜。以前私も落っこちそうになりましたから気にする事無いですよ〜」
 ユイスの言葉にはい、とワケギは頷いた。
 エレメンタラーフェアリーを胸に入れたままフライングブルームで飛ぼうとして、ワケギは見事に彼女を落っことしたのだ。
「うきゅ〜」
 急な発進に懐から転がり落ちた小さな妖精は仲間が拾ってくれた筈だが、大丈夫だろうか?
「確か噂で聞いたな。フライングブルームで『乗る』効果を発揮できるのは乗り手だけだから二人乗りは命に関わるとか‥‥」
「そういうのは先に誰か教えて下さい‥‥」
 机に突っ伏すワケギの側でキットは、エールに口をつけ飲む振りをして周囲を見回す。
 そして、わざと大きな声を上げた。
「噂で思い出したが、この街の近くでも凄腕の騎士が目撃されたそうだな。あちこちで話を聞くけど誰なんだろうな? そいつ」
「それなら俺も聞いた。一人で何かを探しているようだってあれだろう? この寒いのによくやるよな〜」
 リルの言葉に異口同音で仲間達も頷く。
「でも、そろそろ彼もまた移動するのでは? 聖夜祭を過ぎたら本格的に雪が降り始めますよ。野宿は命取りです」
「そうだな。まあ、俺らには関係ないけど」
「凄腕の剣士を探せって依頼出てなかったっけか? 見つけたら大金もらえるかもよ」
「後で少し探してみます?」
 そんな会話は出来立てのシチューに遮られた。暖かい料理を食べながら、たわいも無い雑談に入る、フリをする。
 だから誰も彼らを不審には思わなかった。
 彼らの背後で食事していた騎士が立ち上がり出て行くまで、そして騎士を一つのテーブルを囲んでいた者達が全員で追いかけるまで。

 そしてその夜のある宿での会話。
「お待ちしていました。四人揃いましたね」
「うむ、別ルートで向かう者達も何人かいるということだ。我々が思った以上に人々のアーサー王への不満は大きいらしい」
「今こそ、ラーンス様をお助けしてその潔白を証明せねば!」
「この近くでラーンス様らしい人物を見かけたという情報もあります。一度、喜びの砦に向かう前に、そこを調べてみましょう」
 彼らは話に夢中になっていて気付かなかったようだ。洋装の青年、夜枝月奏(ea4319)が部屋の前を通り過ぎたのも、彼が話を確認し外へ出て行ったのも。

○剣戟の彼方
 その夜、暗闇に紛れて宿を出た一団があった。
 微かな月明かりとカンテラが周囲を照らす中、静寂を守って歩いていた彼らは、だが
「誰だ!」
 静寂を自ら破って一人が剣を抜いた。カンテラに明かりを入れて前に出る。
「‥‥お前は!」
 騎士の一人が何人かの冒険者を見て声を上げた。彼らもまた見覚えのある顔を四人の中に見つけた。
「あんたは‥‥そうか。あの後パーシに預けられたのか。だが、お前にはラーンス卿の意思は伝わらなかったようだな」
 肩を落としため息をつくリル。その態度は若い騎士の頭を沸騰させた。
「何を言う! お前も聞いただろう! ラーンス様は王も、国も、王妃でさえ裏切っていないと言った。なのに王は裏切ったんだ。ラーンス様を信じずに追っ手を差し向ける。だから、俺達はラーンス様を助ける。その邪魔はさせない!」
 剣を握り走り出す。
 その突進を
 キン!
 鋼の音と
「パラの戦士が強いか、湖の騎士の部下の人が強いか勝負だ!!」
 元気で大きな声が止めた。
「ボルジャー!」
「解ってる。止めればいいんだよね!! よーし、止めるぞ!!」
 そんな思いが篭った一言にボルジャーは全身で答え向かっていった。
 鍛えられた正しい剣筋にボルジャーの捌きはなかなか通じないが、‥‥直ぐに騎士の方こそが苛立ち始める。
(「何故、こんな小柄な戦士が自分の攻撃を止める!)」
 彼の援護をしようと騎士が走る。だがそれは
「わっ!」
 足元に走った風の魔法と踏み込んできたキットと『夜叉』の剣で止められた。
「怪我をさせたいわけじゃありませんけれど〜 まぁ、足止め役くらいにはなりますよ〜」
「お前達の行動をラーンス卿は喜ばない。いや、迷惑に思うだろう。なんで一人で言ったか考えてみろ!」
「そもそもあんた達が今起こしている行動がどんな結果を生むか理解してるか?」
 騎士の足は止まる。それが言葉ではなく、三対一の迫力にだったとしても。
 後方のさらに若い騎士は、隣の騎士に顔を向ける。囁かれた言葉がどうしましょう。助けを求めるような声に冒険者達は知る。
 彼がリーダーだと。
「うわっ!!」
 彼の横、突き飛ばされるような音と共に、透が尻餅をついた。
 疾走の術で彼の足元に迫り、牽制しようとしたのを突き飛ばされたのだろう。
 最奥にいる彼は、纏う空気も感じさせる気配も全然違う格を感じさせる。
 だが、それでも冒険者は前に出た。
 怯むことなく。
「あんたがリーダーか? 今ならまだパーシが穏便にすませてくれる。素直に戻ってくれる気は無いか?」
「何故だ? 我らはラーンス様に忠誠を捧げた。王の、イギリスの騎士である前にラーンス様の騎士だ。主の苦境をこれ以上見過ごすわけにはいかぬ!」
「だから! 貴方方の行動こそがラーンス卿を窮地に陥れる、と言っているのです!」
 ワケギは、珍しく大きな声を出した。リルも誰もそれを止めようとはしない
「ラーンス卿は『陛下には剣は向けない』と仰ったと聞きます‥‥。でも貴方方が卿の下に馳せ参じたら、世間は『ラーンス卿は陛下に剣を向けた』と見なすでしょう‥‥つまり貴方方の行動が、卿の言葉と想いを嘘にしてしまうと云う事です!」
 無言と言う返答に、ワケギの握り締められた拳が下を向く。
 その時、一際高い剣戟と共に声が響いた。
「部下の人はオーガを放っておいてラーンスさんを待ったり、戦争を従ったりするんだね!! 弱い人は守らないのか!!」
「そんな事が‥‥ボクにでも解る事が、貴方方には解らないのですか!?」
 宙に飛んだ剣が、敗北と心を表すように地面に突き刺さる。
「誰も望んでいない内乱を起こして、守るべき民衆を戦火に晒すのか? 貴様らが持っているのは誰を倒す剣だ! 誰を守る盾だ! ‥‥落ち着けよ。卿を信じ、卿の代わりに皆をまとめて、卿の代わりに王に尽くす。それこそが今、お前達が本当にすべき事じゃないのか?」
 激しく‥‥だが諭すようなリルの言葉に、手首を押さえる騎士だけではない、三人の若い騎士達全員が下を向いた。
「騎士は王の為に、王は国の為に国は‥‥民の‥‥そこに生きるモノの為にある。守るモノを見失わないでくれ、今は卿を信じ耐える時と判ってくれ」
 仮面を外し膝を付く『秦』。
 彼の願いと、冒険者達の真摯な眼差し。
 そして‥‥
「! ‥‥そうか」
 彼は冒険者の背後を見つめ、目を伏せた。
「解った。戻ろう。確かに此度の事、我らを庇ってくれた方の面子を潰す事にもなるな。我らが浅慮であった‥‥」
「ですが!」
 馬から降り頭を下げる騎士に、若い騎士達はまだ食い下がろうとする。
 だが
「戻るぞ。戻り、我らはラーンス様のお帰りを待つ。いいな?」
「‥‥はい」
 強い命令の口調に最後には、三つの頭が下げられた。
 冒険者とその彼方に向けて。

○迷い騎士の帰還
「うわっち!」
 この日、二度目の尻餅をついたボルジャーは素早く立ち上がった。
「やっぱり、ラーンスさんの部下は強いぞ。もう一回!」
 帰路、一度の約束で始まった聖騎士との模擬戦は今日三回目となる。
 最初は一方的に負けることも多かったが、最近は数本に一本はボルジャーが勝利するようになった。
「凄いなあ。あの方と互角に戦えるなんてラーンス様とか円卓の騎士の方だけかと思った」
 感心した表情の従騎士にふん、とキットは鼻を鳴らす。
「冒険者をなめるなよ。まったく余計な手間とらせてくれてさ」
「そうですよ。もしこれが依頼でなかったら、あなた方を囮にラーンス卿を誘き出し、アーサー王に突き出したいところです。主の居場所を守るという重要な任務を放棄してはいけませんよ」
「別件でラーンス卿にお会いしましたけれど〜 信じてもいいのか? と言う質問に対して、肯定の意を示されたんですよね〜 何故部下であるはずの方々が、信じて待つことが出来ないんでしょ〜? 今は待つことですよ〜」
 諌める冒険者達の言葉に、従騎士の少年は比較的素直に頷いてくれた。
 残りの二人も、不満そうな表情をしながらもついてくる。
 ふと、リルは後ろを振り向いた。
 横には手合わせを終えたボルジャーと聖騎士が立って、同じ方向を向いている。
「ま〜た逃げられたぞ〜。仕方ないけどさ」
 頬を膨らませるボルジャーにそうだな、とリルは頷いた。
 騎士達を見つけて直ぐ、冒険者達が気付いたときには、パーシの姿は消えていった。
 唯一見送ったルーウィンの伝言を聞いて、より真剣な顔で駆けていった彼は今頃、故郷に向かっているのだろうか。
「我々の体面を守って下さったのか。申し訳ないことをした」
「そう思うなら、もう同じ事はしないで下さいね」
「下さいね!」
 俯く聖騎士に二つの言葉が念を押す。
 頷いた彼を見てワケギは嬉しそうに肩の上で舞う少女と微笑み、そして空を見上げる。
 今頃、彼はどこにいるのだろうか?
「いつもながら気苦労の多いやつだ」
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ!!
 パラッパパラッパ!! おいらはファイター!!
 は〜やく戻ってこいよ〜 パーシさん!!」
 踊るボルジャーと、笑う仲間達。
 それにいつの間にか騎士達の声も加わって、冬の青空に響いていった。

 戻った騎士達が、今回の件について追及されることは無かった。
 何故ならパーシ卿の外出と聖夜祭の準備で、騎士達は猫の手も借りたいほど忙しくなったからだ。
 それまで見越してパーシが出かけたかどうかは、定かではないが‥‥。