ボーイ(?)ミーツ・ア・ガール

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2007年02月22日

●オープニング

『兄ちゃん』
 彼は里帰りからの帰り道。
 ふと、誰かに呼び止められたような気がして振り向いた。
 何故だろうと、疑問に思いながら。
 だってそこは深い、深い森。人などいるはずもないのに。
「やっぱり、誰もいないな。気のせいか‥‥」
 首を前に戻し歩き始めようとした彼は‥‥
『兄ちゃんってば!』
「うわっっち!」
 ビタン!
 地面と真っ直ぐキスをした。
「な、なんだ一体? ってえっ?」
 鼻を押さえながら立ち上がりかけた彼は、膝を折ったその視線の先に緑り瞳を見つけた。
『さっきからひとが呼んでるってってのに無視するなよな!』
「こ・子供?」
 彼は信じられない気分で目の前に立つ少年を見つめた。
 この真冬。コートもない薄着の少年が、何故こんなところに一人でいるのだろう。
「君、一体どうしてこんなところに?」
 だが、少年は彼の質問には答えずにその丸い瞳で、彼の顔を見つめる。
『兄ちゃん、街の人間だろ? ちょっと、頼みがあるんだよ。女の子を‥‥連れてきて欲しいんだ』
 街の人間。自分をそう呼ぶ不思議なイントネーションが少し気になったが、彼はそれよりも思わず自分の頬が緩むのを感じ肩を上げた。
「女の子って、君の好きな子かい?」
『好きって‥‥、そんなじゃないけど‥‥もう一度会いたいんだ。一度しか会ってないんだけど、とってもキレイな女の子だったんだよ。でも、僕は森から出られないからさ‥‥』 
(「それの気持ちを好きっていうんだよ‥‥。でも、この年じゃまだ解らないかな?」)
 言いたい気持ちを抑えて笑いう彼に少年はさらに頬を上気させて怒鳴る。
『だーーっ! もういいだろ? 聞けばあんたらはこの時期にバレンタンとかで恋人に愛を告白したり、みんなで遊んだりするんだろ! いっつも僕の森から花とか取ってくんだから少しくらい恩返ししろって!』
「いいよ」
 彼は頷いた。思わぬ素直な返答に、少年の表情に笑顔が咲く。
『ホント? ホントに?』
「僕は人探しはそんなに得意じゃないけど、そういうのが得意な人を知っているから頼んであげるよ」
『ありがとう! その子の名前はリーフィアって言うんだ。キャメロットの子だと思う。この森に連れてきてくれればいいからさ。頼むよ!』
 その時、足元がふと、軽くなった。
 足にからみついていた草が取れたのだと気づくとほぼ同時、彼は少年の姿を見失った。
 でも、驚きはしない。
「‥‥これが報酬ってことかな?」
 さっきまで彼が立っていた場所にはいくつかの、小さな木の実が転がっていた。

 そうして若いギルドの係員は冒険者に依頼を出した。
「バレンタインデーももうじきですからね。小さな恋の物語に手を貸してやりたいんですが‥‥ちょっと問題がありまして」
 下調べをしてくれた係員が指を折る問題点は3つ。
 その1、リーフィアという少女は貴族の流れを汲む娘で、しかも病弱である事。今は容態は落ち着いているが少し前までは余命後わずかと言われていたらしい。冬の森へ連れ出すのは家族の抵抗があるだろう。
 つまり彼らを説得しなくてはならない。
 その2、もし連れ出せた場合、病弱な少女を少なくとも目的地までの行き来の間、護衛をしなければならない。これは、モンスターや獣からだけではなく、彼女の安全を守るという意味合いもある。
 病弱な少女だから、彼女のペースに合わせ、もし何か合った時には看護をする必要もあるのだ。
 そして、その3
「依頼人の子はですね。多分人間じゃないんですよ。森の精霊かなんかじゃないかと。女の子は、多分それを理由に相手を嫌うような事はしないでしょうけど‥‥あの子がどこまで本気か、ちょっと心配でね」
 彼女を森まで連れて行き、無事連れ帰るまでが依頼。
 もし、万が一彼が、少女と一緒にいたいと望んでも、彼女は絶対に連れ帰らなくてはならない。
「少し難しい仕事かもしれませんが、もし良ければよろしくお願いします。これが預かってきた報酬です」
 カウンターに転がったのは人数分のどんぐり。いや‥‥ソルフの実だ。

 本来ならば親しいもの同士がお互いの思いを確かめ合う、楽しい時を生むはずのバレンタインデー。
 だが、今年はどうも騒がしい。
 冒険者には落ち着いて愛を語り合う暇も無さそうだ。
 ならばせめて小さな人たちに、暖かい出会いと優しい思い出を‥‥。
 そう願うのは、きっと自分だけではない、と彼は信じていた。

●今回の参加者

 ea5521 蒼月 潮(23歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2473 ユーニ・ユーニ(17歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb5381 セーレフィン・ファルコナー(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb7051 ゴータマ・シダルタ(44歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ec0764 ルナ・ルフェ(40歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

エスナ・ウォルター(eb0752)/ モウ・ホルスタイン(eb9054)/ 流菜 流笛(eb9218

●リプレイ本文

○森の少年
 少年は一人、森に立つ。
「リーフィア‥‥」
 今まで感じたことがなかった、自分自身の心に戸惑いながら‥‥。

 ほんの少し、乱れた息を整えながら彼女は深く深呼吸をした。
「ここが、精霊の住まう森、ですわね」
 魔法が指し示した道のりはここで終わり。
 ならば、探し人はきっと個々にいる筈だ。
「もう、気付いているのでしょう? 私はギルドから貴方の手伝いの為にやってきた冒険者です。姿を見せてくれないかしら?」
 回りくどい説得はいらない。精霊と接するには誠実あるのみ。
『僕の手伝い? 手伝い頼んだのは男だったはずなんだけど‥‥』
 ほらほら、出てきた。誰かさん。木陰から首を傾ける。小さな頭が、丸い瞳がこちらを見つめている。
『おばさん、誰?』
 眉間に微かに走りかけた何かを笑顔で隠して、彼女は膝を折った。
「お・ね・え・さ・んの名前はルナ・ルフェ(ec0764)。貴方が頼んだお兄さんがギルドに依頼を出したのよ。貴方を助けて欲しいってね」
『じゃあさ! リーフィアを連れてきてくれたの!』
 瞳を輝かせる少年にそれは、まだ。と彼女は首を横に振る。シュンと下を向く少年を見て思わす笑みが零れた。
(「カワイイ♪」)
 思いはとりあえず口には出さない。この年頃の少年と言うのはなかなかナイーブなものなのだ。
 彼が少年に分類されるかどうかは、また別としても。
 目線を少年に合わせて彼女はニッコリと微笑んで、そして告げた。
「でもね。女の子をデートに誘うということは、なかなか難しい事なのです。だから、ね。貴方の素直な気持ちでお手紙を書いてくれませんか? ラブレター、というより招待状、かしら」
『手紙? ってなに?』
(「あらら」)
 そこからか。とルナは自分の提案に苦笑する。まあ、考えてみれば当たり前か。
 森の精霊に人の言葉の読み書き習慣の知識を期待するのは無理な話だ。
「では、こうしましょうか」
 そして数刻後、彼は思いを込めて見送った。自分の思いを持って走る『人』の姿を。

○ピクニックのお誘い
「ん〜っとね〜。だから〜。リドさん。解ってくれたかなあ?」
「ゴメン。全然解らないんだけど」
 真面目な顔で答える青年リドにやれやれ、という顔でわざとらしく、ユーニ・ユーニ(eb2473)は溜息をついた。
 ここはある家の応接室。ここで、かれこれ数刻。屋敷の住人であるリドは行きつ戻りつ迷走するユー二の話につき合わされていた。
 結論と、望みはまだ一向に見えてこない。
(「本当は溜息をつきたいのはこちらでしょうね」)
 リドを見つめるセーレフィン・ファルコナー(eb5381)は自分は同情の眼差しをしているだろう、と分析理解した
 だがここはある意味チャンス。説得は何より勢いが肝心なのである。
「つまりはある森の精霊さんと思われる方がリーフィアさんと会いたい、と望んでおられるのですわ。話に聞くところによるとリーフィアさんは最近森に向われた事があるとか。その時に見初められたのだと思います」
「ああ、あの時‥‥」
 思い出したようにリドは手を叩く。かつて、リド自身も森で精霊らしきものと出あった事がある。
 望みを叶えて貰う為に力を貸してくれた彼は不思議な少年の姿をした者だったが‥‥。
「人の幸福を願うバレンタインの祭りに、心惹かれる少女と再会を望む少年。その思いの成就にお力をお貸し願えないでしょうか?」
「‥‥ですが‥‥」
 扉の向こうを見つめるリドの口は思い。
「自分は!」
「わあっ!」
 突然、ぬぼっと目の前に現れたジャイアントに、思わずリドは首を後ろに逸らした。
「依頼期間中、リーフィアちゃんを小さな王女様にように大事に扱うであります。彼女に不埒な真似を仕掛けようというならず者も、モンスターも全部まとめて粉々にするでありますっ!! ですからなにとぞっ!!」
 力こぶしにマッチョポーズで『お願い』するゴータマ・シダルタ(eb7051)にリドは慌てて手を振る。
「わっ、解っています! そっちを、そっちを心配しているんじゃないんですってば!」
「では! なにを!?」
 慌てるリドは横で聞いていた母親と視線を合わせる。そして彼女は静かに告げた。
「あの子の容態はあまり良いとは言えないのです」
 医者に何度も見せ、今は流菜流笛なども見てくれているが、リーフィアの体調は目立って快癒しているわけではない。
「今は幸い、奇跡的に容態が安定しているのですが冬の森で何かあったらと考えると、やはり」
 拒絶の言葉が示される直前。
「‥‥お母さん。私、行きたい‥‥」
 鈴の根のような声がそれを止めた。
「「リーフィア」」
 微かな音と共に開かれた扉の向こうにはリーフィアと呼ばれた少女と、それに付き添うように立つルナの姿がある。
「森で、助けてくれた精霊さん、なんでしょう? お手紙、貰ったし、私も会いたいし、ちゃんとお礼を言いたいの。だから‥‥行きたい」
 静かにだが、自分の足で歩いた彼女は母と兄を、その澄んだ瞳で見つめる。
「下調べも十分にしてあります。危険もなるべく押えられるようにコースの選定にも、護衛にも十分に注意を払いますから」
 蒼月潮(ea5521)は手書きの図を指し示し、冷静に説明する。
 それを
「可愛い子には旅をさせろと言いますし、なんとかお願いできないでしょうか」
「旅の安全は私どもが保障いたしますわ」
 と感情と理論の両面からセーレフィンやエスナ・ウォルターが援護する。
 ‥‥本人は行く気で、ちゃんとサポートも付いている。
 今でこそ容態は安定しているとはいえ、いつ命が消えてもおかしくは無いと言われた少女。
 家の中で安全に、という思いと共に少しでも多くの思い出を作って欲しいと言う思いも同じくらい存在する。
「でも‥‥」
 それでも、まだ歯切れの悪いリドに
「んにゅ!」
 今まで仲間の頭の上を飛び歩いていたユーニはぴょ〜〜ん! 大ジャンプでリーフィアの胸に飛び込んだ。
「そんなに心配ならリドさんも一緒に行くの〜☆ 皆で森にピクニックなの〜☆」
 ここまで言われればもう拒絶の理由は無い。
「解りました。僕も一緒に行きます。リーフィア。それでいいな?」
「リド!」
「お兄ちゃん‥‥うん!」
 眉を上げる母親に少し、済まなそうな顔をしながらもリドは冒険者と手を取り合い、心から嬉しそうに笑う妹の姿に、自分の判断は間違っていなかったろうと思うことにしたのだった。

○純白のステージ
 冬の馬車を借りるという案も出たが、結局森の中に入れば邪魔になる。
「ユーニのパトリシアちゃん、貸してあげようかぁ?」
 ユーニは言ったが乗馬の経験の無いリドやリーフィアには乗馬は無理。 
 その他いろいろな理由があって、冒険者達は結局一番古風、かつ簡単な手段で行く事になった。
 曰く、徒歩である。
「お兄ちゃん‥‥、リーフィア、重いでしょ? 大丈夫?」
 ゴータマの大きな背中に背負われたリーフィアは気遣うように声をかける。
(「うおおお!! こんな可憐な少女にお兄ちゃん!! 来た! 来たのであります青い鳥がぁああ!」)
『他人に施した善行は、きっとお前に返ってくるよ』
 母親の言葉が胸に染みる。
「なんのぉお!! これくらいらくしょーであるっス! いやマジで。軽いッスよリーフィアちゃん!」
 よいせぇ〜! と声と気合を上げてゴータマはリーフィアを背負いなおした。
 その様子に周囲も思わず道を開ける。
 非力な本家お兄ちゃん絵師以外は微笑みながら‥‥。
「ふむ、動物達の気配は沢山あるのに、近寄ってきませんね。襲ってくる気配も無い。これは一体‥‥」
 一番前方で、道を確認しながら歩いていた潮はふむ、と唸った。
 周囲に感じるウサギやリスなど小動物の気配。大きな動物もいるようなのに襲っては来ない。
 この視線のあり方に、覚えがあった。これは‥‥多分‥‥。
「さ、寒いですわね。リーフィアさん、大丈夫? 寒かったらすぐに言ってくださいましね。でも、森に入って、だいぶたちますが‥‥まだ、でしょうか?」
 少し身を震わせるセーレフィンを肩に乗せたまま、ルナは周囲に首を回す。
 目印を見つけた。
「木が指差してる。こっちよ」
 良く見れば、確かに木々が不自然にある方向を指していた。
 迷いの森と言われていた以前と反対。木々が導く先に進んでいくと‥‥。
「うわああっ! キレイなの〜」
 突然、森が開けた純白の世界が広がった。
 木々のカーテンが取り囲む。円形舞台。足元には一面の雪と小さく風に揺れるスノードロップ。
 その中央に、一人の少年が立っていた。
「リーフィアちゃん。あの子が依頼人なのよ」
 ルナに促されてリーフィアはゴータマの背から降りると、振り返った。兄を見る。
 そっと頷きリドはリーフィアの肩を押した。勇気を出して前に進み出て、彼女は『彼』の前に立つ。
 冒険者も、何も言わない。邪魔はしない。
「貴方が、あの時‥‥リーフィアを助けてくれた精霊‥‥さん。よね? ありがとう‥‥助けてくれて‥‥雪の妖精さん‥‥見せてくれて。本当にありがとう」
『僕、君にもう一度会いたかったんだ。君は‥‥とってもキレイだったから。この花よりも、ずっと‥‥キレイだから!!』
 差し出されたのはスノードロップの花束。俯き、でも顔を朱に染めた告白に、少年の手に自分の手を重ね
「ありがとう‥‥」
 少女は花よりも美しい笑顔で答えた。
「ねえ、ね〜え。せっかくなんだから、いっしょにあそびましょ〜♪」
 明るく笑うユーニはくるり、クルンと楽しげに空で踊った。
 小さな溜息。それが誰から漏れたものか。安堵か、苦悩かも解らない。
 だが、確かにきっかけになった。
「遊んで‥‥くれる?」
『うん!』
 静かな森に、響く笑い声への。
 見守る者達へも降り注ぐ、温かい太陽の輝きへの。

○ボーイ(?)・ミーツ・ア・ガール
 翌日リーフィアは腕一杯に花を抱えて森に向け手を振った。
 少年の姿はもう見えないのに、いつまでも。いつまでも。
「とっても、優しい方ですね。私、知らなかった。精霊さんって、人間と何にも変わりが無いんだって」
 愛しげに花を抱きしめる少女に、そうね。そうですね。冒険者達は頷いて森を振り返った。
 リーフィアは知らない。
 最後の一幕が昨夜おそく、少年と冒険者と、彼女自身の間にあったことを。

「気持ちはわかるけど、‥‥ダメよ。リーフィアさんは、まだここでは暮らせないわ」
 薬を飲み、モウ・ホルスタインの指示通り薬を飲んだリーフィアは幸せそうな笑顔で眠っている。
 その頬に手を伸ばす少年が一人。
 彼の背中に、ルナは静かに呼びかけた。
 ビクンと揺れる肩。止まる足。振り返ったその顔には人と同じ涙が浮かんでいた。
『どうして? 僕は、一緒にいたいんだ。できれば、彼女とずっと‥‥ここに』
「リーフィアさんはお体があまり丈夫ではございませんの。ここで無理をして、ご病気になるのは貴方にとても悲しいことでは無いですか」」
「我侭はだめですよ。英国では、それは紳士的ではないそうですよから」
『紳士だなんて、僕は知らない。ただ‥‥、僕は‥‥』
「相手の事を考えないで一方的に好きって気持ちを押し付けるのはめー! なのよ。好き好きなら、相手の事もちゃんと考えなきゃだめなのー!」
 ピン! 少年の額に軽くユーニの手が触れた。
 それは彼女の言葉と同じように、微かに痛く、微かに温かい。
「好きな子を困らせては36年経っても、彼女などはできないっス。焦ってはダメっス」
『僕は多分あんた達より年上だけどね。ずっと‥‥この森で一人だったから‥‥』
 寂しげに笑って、少年は後ろに下がった。
『でもそれは‥‥良くない事だって言うんだね』
 それぞれに前に動いた冒険者達の首に、少年は静かに息を吐き出した。そして、また数歩後ろへと下がる。
『あ〜あ。一人の時には気付かなかったのになあ。こんな思い』
 寂しそうに振り向いた少年の顔は見えない。
 こんな時、思い知らされる。同じ外見をしていても違う『生き物』がいるということを。
 同じ時を過ごしても、決して結ばれる事のない者同士。
「確かに障害の多い恋よね。‥‥でも、出会わないほうが良かった?」
 ルナは問う。
「ううん」
 少年は答える。
『人間って好きじゃなかったけど、今は嫌いじゃない。この気持ちも、嫌いじゃない』
「君は、紳士ですね。僕はそういう君が好きですよ」
「ユーニも大好きだよ♪ リーフィアちゃんも、きみも、みんなも〜☆ 春になって、暖かくなったらまた会いにくればいいの〜。その時はリーフィアちゃんももっと元気だと思うのよ〜☆」
 柔らかく笑う潮。頭の上にぴょん、と飛び乗って踊るシフール。そして自分を見つめる眼差しの温かさに気付いて少年は頷いた。
『うん。待ってる。僕は、この森で待ってるから。ずっと‥‥』
 眠る少女の髪をそっと撫でて、少年は祈るようにそう言った。

 森の雪はもう解け始めている。
 春はきっともう間近。腕一杯のスノードロップの花もそろそろ最後だろうか?
「でも、きっと次はもっと沢山の花が咲きますわ。春の森はきっともっと美しいでしょう。その時また一緒に来ましょう」 
 セーレフィンの言葉にリーフィアは小さく頷いた。
「また、遊びに来るね。今度は、ニルスやみんなと‥‥」
 振り返る森にもう少年の姿は見えない。
 だが、揺れた木々のざわめきが
『待っているよ』
 そう聞こえた気がしたのは、気のせいでは無いだろう。

 ‥‥きっと。