【捜索】幻の美しき花

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月15日〜02月22日

リプレイ公開日:2007年02月23日

●オープニング

「つまりグィネヴィアはあの男の許にはいなかったと言うのだな?」
 アーサー王は喜びの砦に潜入を果たした一人の密偵からの報告を聞き、思わず腰をあげた。
 先の物資補給阻止の際、巧く紛れ込んだ者がいたのである。日数の経過から察しても砦が遠方にある事が容易に理解できた。新たにもたらされた情報に、円卓の騎士が口を開く。
「もしかすると、隠し部屋や他に隠れ家があるのでは?」
 しかし、男は首を横に振る。いかにラーンスとは言え、隠し部屋か他の隠れ家があれば向かわぬ訳がない。そんな素振りもなかったとの事だ。
 ――ならば、グィネヴィアは何処にいるのか?
 ――ラーンスは何ゆえ篭城なぞ‥‥!?
「否‥‥違う」
 アーサーは顎に手を運び思案するとポツリと独り言を続ける。
「ラーンスは森を彷徨っていたのだ。喜びの砦は集った騎士らの為‥‥ならば」
 ――グィネヴィアは見つかっていない。
 同じ答えを導き出した円卓の騎士の声も重なった。王妃は発見されていない可能性が高い。
 アーサーは円卓の騎士や選りすぐりの王宮騎士へ告げる。
「冒険者と共に『グィネヴィア再捜索』を命じる! 但し、王妃捜索という目的は伏せねばならん! ギルドへの依頼内容は任せる! 頼んだぞ!」
 新たな神聖暦を迎えたキャメロットで、刻は動き出そうとしていた――――。

 その少し前、パーシ・ヴァルは仕事の山に囲まれていた。
 溜息と共に何通目かの報告書を取る。
 元々彼はデスクワーク向きではない。こういう仕事は嫌いの部類に入るのだ。
 揺れる王国の余波はこんなところにも出る。人材不足と、混乱という。
 思わず愚痴が口からついて出る。
「できるなら、直接捜索に出たいのだがな‥‥」
 だが、理由も無く適当に仕事を逃げ出す器用さは彼には無い。
 せめて書類全てを処理するか、彼自身が出なければならない理由があれば‥‥
「やれやれ、次は‥‥ん? これは?」
 何通目かの書類を手に取った時、彼の表情は明らかに変わった。瞳が輝きを放つ。
 それは、ある旅の商人からの報告書。
 冒険者時代に知り合った旧知の存在で、円卓の騎士となり地位と責任と引き換えに自由を失った(‥‥いや、けっこう自由にしていると思うが、というツッコミはおいておいて)パーシに各地の情報をもたらしてくれる存在だ。
「‥‥本当なのか? これは‥‥」
 彼からもたらされた情報でなければ疑ったろう。あまりにもタイミングがいい。罠、という言葉が頭を過ぎる。
 だが‥‥
「面白い。これが真実ならば‥‥今の王国の状況を‥‥変えられるかもしれん」
 今の王宮の、いやイギリスの暗雲を払えるかもしれない。
 誰もが避けたいと願い、だがもう時間の問題と思われていた『あの事態』もひょっとしたら‥‥。
「だが、これも時間との競争だな。‥‥よし!」
 決断は彼の槍の如く雷だった。
「パーシ様? 王がお呼びですが‥‥ってあれ?」
 その後、部下達は主を探すのにとても、とても、とっても! 苦労したと言う。
 ‥‥理由があれば彼の逃げ足は実に速いのであった。


 そして、冒険者ギルドは一人の戦士の依頼を受ける。
「えっと、お名前は?」
「ヴァルと呼んでくれ」
 まだ若手の係員は、素直に頷いてヴァルと書く。
 その声に気付いて慌てる別の係員を彼は手で静止して
「で? 依頼の内容は?」
 と聞く係員の問いに答えた。
「‥‥薬、探しだな。目的地はここから北に二〜三日ほど行った森だ。深い森で、いろいろ獣もいるようだ」
「この冬に、薬、ですか? 特別な薬草かなんかですか?」
 依頼書から顔を上げず書き込む係員の言葉にその戦士は笑みを浮かべた。
「まあ‥‥な。俺の主は今、ちょっとやっかいな病に苦しめられているんだ。治療にはあるイギリスに二つとないと言われる美しい花が必要で‥‥一度は手にしていたその花は、何者かに奪われてしまった。それを探し得るために今も多くの人手が費やされている」
 彼の笑みが、微笑というよりも、苦笑に近い事を口述筆記に夢中な係員は気付かない。
「行方不明になって以降、所在も知れなかったその花の手がかりらしきものを俺は最近やっと掴んだんだが‥‥」
「なるほど、でその病の治療に必要な薬草が、この森にあるというのですね。でも、森の探索に何故、高レベルの冒険者を? 森にいるのはそんなに危険な獣なのですか?」
 ふとペンを止める係員にまあな、と彼は頷く。
「森には獣が出るのは当たり前だが、それよりもやっかいなモンスターがいるらしいんだ。だが噂ばかり先行していて‥‥正体がはっきりとしていなくてな。何か迷いを残したゴーストとかかもと思っているんだが‥‥。まあ、どちらにしてもモンスターがいる限り森の中を自由に探索できないだろう」
「なるほど。正体の知れないモンスターに警戒しながらその薬草を探さなければならないと‥‥」
「ああ、冬だから狼の群れや、熊などもうろついているかもしれないしな」
「大丈夫ですか? 危険な仕事になりそうですね?」
 真面目な眼差しで心配する係員の頭を、ヴァルはくしゃくしゃ、と撫でた。
「えっ?」
 ニッコリ。心惹かれるような優しい笑みを受けて、照れたように戸惑う係員に大丈夫、と彼は答える。
「危険を恐れていちゃ冒険はできないしな。それにその危険を少しでも減らすためにここに来たんだ」
 一人では無理でも、皆でなら‥‥。
「正直薬草探しだけでなく、モンスター退治も手がかり0のところから始めなきゃならん。戦いと捜索両方でかなり難しい依頼になりそうだ。小回りの効くシフールとかがいればベストだが、そうでなくても捜索や戦闘に秀でた物が欲しい。だから、報酬も少し高めにしておいた」
「解りました。なんだか最近物騒なので応じて来る人がいるかどうかは解りませんが、一応出しておきます」
「頼むぞ」
 笑う新緑の瞳。柔らかい金の髪を見送りながら依頼書を仕上げる係員の後ろで、それを見つめるベテラン係員は
「‥‥なるほど、な」
 依頼に秘められた暗号に頷きながら

「しかし、こいつが本当ならまた‥‥揺れるかもな‥‥」

 誰にも言えず、聞こえない思いをそっと吐き出した。 

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

○冬の『花』探し
 依頼を文面だけで見るものがいれば驚くだろう。
 確か今日出発する筈の依頼は『花探し』
 なのに何だ。この物々しい様子は、と。
 だがこの依頼を受けたものの中に『花』の意味を読み違えるものなどいない。
 だから表情が硬くなるのも無理ならざる事だ。
「花、ね。きっと唯一の花なんだろうな。この国で」
「確かに、これが俺の想像通りだったら何らかの方向に向かうだろうな」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)、そしてクロック・ランベリー(eb3776)の肩をぽん、ぽぽんと叩く手がある。
「確かにそうだが今からあまり硬くなるな。向こうに行けばイヤでも忙しくなるんだからな」
 振り返ると槍を肩に担いで笑う戦士がいる。
 依頼人本人。何よりも花の存在を求めている筈の彼の柔らかい笑顔に
「そうだな」
 頷きながら冒険者は気付く。少しだが肩の力が抜けていることに。
「さすがってことかな?」
 準備に回る『ヴァル』の背中を見つめるマナウスの横。すっと、音を立てずにすり抜けるものがいた。
「ねえ、ヴァルさん?」
「ん? なんだ?」
 タイミングを探していたのだろうか? 
 ずっと周囲をくるくる空を飛んでいたシャンピニオン・エウレカ(ea7984)はふわり、彼の肩に降りた。
「ねえ、聞いていい?」
「答えられることならな」
 彼が答えてくれることかどうか。答えられることかどうか。自分の質問をシャンピニオンは少し考える。
「探してる花って、やっぱり‥‥」
 口から出しかけた質問を彼女は喉の奥に飲み込みこんだ。
「どうした?」
 そして首を左右に振る。
 これはやっぱり彼には聞いてはいけないこと。今はきっと答えられないことだ。
 ましてキャメロットの街中では。
 森で少なくとも『花』を見つけるまでは。
「ううん、いいよね、今はそんな事。そういえば、“ヴァルさん”とちゃんとお話しするのってこれが初めてかも。張り切ってお手伝いしちゃうよ〜よろしくね♪」
「ああ、頼むぞ。期待している」
 そんな笑いあう二人を離れた所から優しく見守る瞳もある。
「おやおや、随分と楽しそうだ。そんなに気を張らなくてもよかったのかね?」
 ほんの少し肩を上げたフレイア・ヴォルフ(ea6557)はふと横で呟く夫の言葉に顔色を変えた。
「美しく、そして可憐な花か‥‥失いたくない気持ちはわかる。微力ながら一肌脱がせて貰おうか」
「おや、満。随分ロマンチストだね。ヴァルは美しい花とは言ってたけど、可憐なんて言ってたっけ?」
「あ、いや? そ、それは‥‥っつ! 痛いぞ。フレイア!」
 手の甲を軽く抓る妻に尾花満(ea5322)は小さく悲鳴を上げる。
「どんなに美しい花でも、心奪われるなんて事はなしにしておくれよ」
「無論だ。拙者には何より美しい花が在るゆえ。だが、だからこそ、花を求めるヴァルの主の気持ちも解るのでな」
 さりげないパートナーの思いはフレイアの心を安らがせる。真剣に思うが故に張り詰めてしまった心に余裕を与えてくれる。
「OK。じゃあ、気合入れて行くとしようか! ‥‥信じてるからね」
 彼女が最後の言葉を贈ったのは、満ではない。
「?」
 突然の言葉に少し目を瞬かせながらもアルヴィン・アトウッド(ea5541)はそれを受け取り、歩みだす。
 返事は今はしない。いらない。
 言うだけの事は言った。後は行動で示すのみだ。
 時は二月。だいぶ緩んできたとはいえ、まだ冬の寒さが確かにある季節。
 この冬に咲くと言う美しき『花』を探すために、冒険者達は歩き出した。

○花と蟲
 森から入って直ぐの場所に彼らは野営の為のキャンプ地を定めた。
 ここは初日の野営地となる。初日のみの。
「思った以上に深い森だな。そして広い‥‥これは一日や二日で捜索しきれるか‥‥」
 ルシフェル・クライム(ea0673)は馬を木に繋ぎながらふとそんな呟きを漏らした。
「ああ‥‥確かに、森の規模は甘く見ていた。来て見なければ解らなかった。だが‥‥ここに来て解った一番の問題は捜索しきれるか、じゃない。‥‥ヴァル、少なくともあんたは解っていた筈だな」
 組んでいた腕を解いてアラン・ハリファックス(ea4295)はざくざく、雪を踏んで近づいていく。
 当たり前のようにテントを張り、てきぱきと野営の準備をする戦士へと。
「ヴァル。いや、パーシ卿。あんたこの森のどこに『花』があると思っている。この森に、この深い森に女が一人で暮らしていけると思うのか?」
 女。はっきりとアランは口にした。そのまま掴みかかっていきかねないアランを軽く手で制し黒畑緑朗(ea6426)はヴァル、いや円卓の騎士パーシ・ヴァルに話しかけた。
「いつもの事だが、貴公の依頼は奥が深くて厄介な依頼でござる。‥‥パーシ卿。『花』の正体はかの姫のようでござるな。『ゴースト』に取り付かれているとでも考えているでござるか? それとも‥‥。全部は無理でも、ある程度の事情は我々にも教えて欲しいでござる」
 二人の呼びかけにも彼は仕事の手を止めない。
「パーシ殿!」
「『蟲』‥‥かな?」
「蟲? 何を言っているのでござる‥‥マナウス殿‥‥っ!」
 冗談か何かかと思っていた緑朗は思わず唾を飲み込んだ。
 動きを止め、振り返った彼の様子に慣れているつもりでも思わず冷や汗が出る。
 そこにあるのは今までの軽快で親しみやすい笑顔の彼ではなく、円卓の騎士の彼だ。
「何故そう思う?」
「いや、なんとなく。『花』は人を惹き付けるものだし、蟲も付き物だろ」
 言いながらマナウス自身も少し驚いていた。
「確かにな。‥‥まあ、俺は『花』が一人でいるなど言った覚えは無いが」
 くっ‥‥。アランは言葉を飲み込んだ。 
 ‥‥冒険者の多くが不思議に思いながらも、考えていなかった事がある。
 アランの問いの意味でもある見落とし、先入観。それは、実は彼だけの話ではなかった。
 例えば、捜索の合図を提案していた仮面の戦士『夜叉』が出した合図案は彼女が一人の時か、モンスターと一緒の時の二種類だけ。
 そう多くの者が『花』は単独行動をしていると思っていたのだ。
「‥‥おかしいと思ってたんだよ。ここの森はかなり深いって話で、モンスターが徘徊し人も滅多に近づかない場所、狩りに行くよりも命が大事と近くの村人も言っていた森なんだ」
『止めておおき! あの森に女一人で踏み込むなんて死にに行くようなものだよ! ゴーストやモンスターが屯しているんだから!』
 聞き込みに行き、心配してくれた近くの村人の言葉をフレイアは反芻していた。
「女一人で踏み来むなんて死にに行くようなもの。ならば、彼女は死にに行ったのか?」
 そんな筈は無い。ならば答えは一つ。
「パーシ。『花』は誰かと一緒なのかい? あの人ではない誰かに‥‥」
「見つけ出せばはっきりする。今の俺には、それ以上は何も言えん」
「パーシ卿!」
 アランは声を荒げるが、口を閉ざし背中を向けた彼からはもう何も聞くことは出来ないだろうと、冒険者達は経験的に知っていた。
「‥‥仕方ない。とりあえずは彼の言うとおり、花探しに全力を尽くそう。花が見つかれば彼が言うとおり自ずと解るだろうさ。花と共に在るのは誰かも‥‥」
「そうだな」
 促すマナウスにアランは悔しそうに同意する。
 見上げるような高い木々に囲まれた空は暗く、導きの星さえも顔を覗かせてはくれなかった。

○森の黒き主
 思った以上に森での探索は困難を極めていた。
 街ひとつより遥かに広いその森は樹海と呼ぶに近く、旅慣れ捜索に慣れた冒険者でさえその探索を困難にさせていた。
「くそっ! 迷わないようにするのが精一杯だな」
 木の枝を悔しげに払うマナウスにフレイアも唇を噛み締める。
「すまないね。ここまで広いとは計算外だった。犬達も探しあぐねてるみたいだ‥‥」
 森が深すぎて暗すぎて‥‥思うように捜索を進めることが出来ないのだ。
 犬達は気配を感じ、何度と無く危険を吠えて知らせてくれていた。
 だが、その全てがモンスターや獣の気配。
 そして、殆どが何故か荒ぶり冒険者に襲い掛かってくるのだ。
「随分、気がたっているような気がする。何故だ‥‥。何故これほどまでに襲ってくるのだ」
「むやみな殺生はしたくないんだがな‥‥」
 幾度目か襲ってきた狼を、マナウスは切り捨てながら息を吐き出した。
 そうは言っても襲ってくる相手に躊躇う事はできない。
「ふむ‥‥。それかもしれん」
 満の呟きにフレイアは何? という表情を向けた。マナウスははっきりと言葉で問う。
「何だ? どういう意味だ?」
「むやみな殺生、という奴だ。モンスターはともかく襲い掛かってくる獣達。奴らは食料が足りないから我々を襲ってくるのではないか? そして、つまりこの森には食料を不足させる何かがある‥‥」
「そう言えば周囲の森で獣を乱獲した人のせいで、モンスターが人里を襲うという話はたまに聞くな」
「最近も、似たような話があった気がするよ」
 フレイアの言葉を噛み締めマナウスはふむ、と頷く。
 ならば『むやみな殺生』をする何かが近くにいる、もしくは、それを為す何かがあるのかもしれない。
 とりあえず、もうだいぶ時間も過ぎた。一度仲間の元へ戻って体制を立て直した方がいいだろう。
「フレイア。戻りの道は大丈夫か?」
 マナウスの意図を読み取って満は聞く。勿論と彼女は犬達の頭を撫でた。
「印もつけてきたし、仲間の下に戻るならこの子達も迷わないよ。きっと‥‥。えっと、こっちかな?」
 バックパックから緑朗の手ぬぐいを取り出して、犬に嗅がせた。
「頼んだよ!」
 首を上げて走り出す犬達。追おうと駆け出す直前!
 ピイ、ピイ、ピー!
「何だ?」
 高い呼子の音が響いた。
 何か発見の合図。それも‥‥これは緊急に助けを求めている!
 音が呼ぶ方向は、反響を計算に入れても犬が走る方向と同じ。顔を見合わせ彼らは頷き合うと一直線に音と、犬の後を追いかけていった。

「危ない! シャンピニオン!」
 ブン!
 勢い良く振られた小太刀からシフールの小さな身体を庇うとアランは後ろに向けてほおり投げた。
「キャアア!」
 それをルシフェルはキャッチして、そっと空へと放つ。
「ありがと。でも!」
「前に出るな! 嬢ちゃんは大物が釣れた場合の有効なオフェンスになる。それに、恋もまだのような娘っ子が目の前で傷物になるのは気に食わんのでな。しかし‥‥何故あいつが‥‥」
 転がった身体を回転させて体勢を立て直すアラン。視線は目の前の『夜叉』から離さずに。
『この森は‥‥我の森‥‥誰にも‥‥渡さぬ‥‥』
 面の下から震えるような声が響く。
「だって! だってだって。その人!」
 怯えるようなシャンピニオンの声。震える指の意味を勿論冒険者は知っている。
「解ってる。憑かれたか。ゴーストに」
「『夜叉』殿は昨夜、フライングブルームでの偵察時、森の奥に何かあったようだと言っていたのでござる。暗くはっきりしなかったのでもう一度と言っていた矢先!」
 くっ! 悔やむように緑朗は呟いた。
 黒い影が彼にまとわり付いた時、それを切り払う剣を緑朗は持ち合わせていなかった。
 だから笛で仲間を呼んだのだ。
 だがのんびり会話などしている暇は無い。無論、後悔する間もだ。
 恐ろしいスピードで『夜叉』いや、彼の身体に憑いたゴーストは襲い掛かってくるのだから。
 相手は手加減せずに冒険者に襲い掛かってくる。こちらは仲間の身体に入った相手に下手に攻撃できない。
 だから、今、彼らは必死で攻撃を避けながらその為の突破口を探していた。
「しかし、余程強いゴーストのようだな。あいつに取り憑くなんて」
「ああ。こうしているだけでも恩讐が伝わってきて吐き気がしそうだ」
 迷いの無いスマッシュの一撃を、右と左と真ん中に避けた冒険者達は木々を盾にやっと『夜叉』を取り囲む状況へと持ってくることができた。
 ここから一気に攻撃をかければ、多分彼を倒せる。止められる。
 だができるなら『夜叉』に与えるダメージは最小限にしたかった。
「‥‥そうだ。シャンピニオン殿!」
 ルシフェルは、肩上のシャンピニオンを見た。 
「解った。合図してね。貴方に‥‥幸運を」
 白い光を落としてシャンピニオンは木々の陰に隠れる。それを確かめて視線をルシフェルは仲間と合わせた。
 意図は多分解ってくれている筈だ。だから後はタイミング。そのタイミングを完全に読みきったように
「夜枝月奏(ea4319)!」 
 鋭い声が森に響いた。それは強い、意思の篭った声。脳に直接響き渡るような。
 震えるように『夜叉』のいや、奏の動きが止まった。
「振り払え! ゴーストなどに心の隙を付かれるな!」
 もう一度揺れる体。そこに白い光と緑の風が足止めした。
 光に自らの中の、誰かが悲鳴を上げるのを感じ、秦は僅かなその隙に全力で抵抗した。
「くそっ!! 離れろ!」
 そこに仲間達の攻撃が飛ぶ。寸止めに近く、だが鋭い三方向からの力で地面に倒された。
「ぐあああっう!」
 と、同時。黒い靄が秦の体から沸き上がる。膝を付く秦にリカバーをかけに駆け寄るルシフェルとシャンピニオン以外は、その影を真っ直ぐに睨み付けた。
「すまん! 遅れて‥‥。どうやら、こいつは、どっからどう見ても‥‥化け物だな」
 自分の甘さに苦笑しながらマナウスはダガーを握り締めた。
『この森は‥‥我の物だ。‥‥誰にも、誰にも渡さぬ!』
 秦は自らの小太刀を投げ牽制する。冒険者達その隙を見逃さず向かい合った。
「そいつに触れられるな! 力を‥‥吸い取られるぞ!」 
「じっとしているんだ。仲間を信じろ。姿を現した敵に負ける筈など無い」
 叫ぶ秦の手当てをしながらルシフェルは、小さく笑って仲間達を信じる眼差しで見つめていた。

 どれほどの時間が経ったか。
『がううっ!』
 獣のような咆哮を上げ動きを止めたゴーストは驚くほど、急激に、萎むように縮んで行った。
「強敵だったな。生前こいつは名のある戦士だったのかもしれない‥‥」
 頬の汚れと汗と、血を拭いながらクロックは呟いた。
『この森は、我が物だ‥‥。渡さぬ。決して‥‥誰にも‥‥』
 妄執は消えることは無いが、もう何もできまい。
 冒険者達も疲労した身体に深い呼吸をやっと与える事ができた。
「やれやれ。イキモノ相手なら無敵だと思ってたんだが、まさかゴーストとガチの勝負になるとは思ってなかったからな」
「モンスターを退治しなければ、森を自由に捜索できないかもしれない、と言っておいただろう。危機感が少し足りないぞ」
「ああ、それは言葉も無い。すまなかった‥‥。ちょっと軽く見すぎたか」
 冒険者達を諌めながらもパーシでさえ勝利に口調と笑顔は軽い。
 だがその空気を
『お前らにも、あの者達にも‥‥渡さぬ』
 一瞬でたった一言が凍りつかせた。
「あの者達?」
 駆け寄ったパーシはゴーストに目を剥いた。もしゴーストが掴めるなら首を掴んで振りかねない程の勢いだった。
「やはり、いるんだな。どこだ? 奴らはどこにいる!」
『‥‥いつか、必ず取り戻す。あの‥‥者達にも、お前らにも‥‥この森は‥‥渡さ‥‥ぬ‥‥』
 消滅の直前、ゴーストはにやりと笑ったような印象を残した。
『この森の‥‥全ては‥‥我の‥‥も‥‥の』
 どこを指差す事もパーシの問いに答えることも無く、森の黒にゴーストは溶けて消える。
 だが最期の一瞬。
 ゴーストがその視線で示した一方向があったことに冒険者は気付いた。
 森のさらに奥を指し示すその方角をパーシは、長い事、本当に長い事‥‥見つめていた。
  
○囚われの美しき花
「確かに情報があったり発端が森であれば散策するべきではあると思うが、‥‥環境などを考えればすでに森から出ているのではあるまいか?」
 翌日。キャンプを畳んだ冒険者達はあえて分裂行動を避け、全員で行動を共にする事にした。
 昨日のゴーストが指し示した方向。森の奥に進むパーシを追って。
「野営の跡はどこにもない。川で水を汲んだ痕跡もない。人の形をしたものも殆ど通ってはいない」
 魔法で確かめた情報をアルヴィンは幾度と無くパーシに告げた。
 それでも‥‥彼は進んでいくのだ。
「パーシ殿。皆も、何故そこまで行く。森の奥に何があるというのだ!」
「パーシが何かあるって言うんならね。まあ、あたし達にも心当たりが少しあるし、一緒に行かないかい?」
 無言で付いていく仲間達にも微かな苛立ちを抱えながら、アルヴィンは無言で足を止め、スクロールを広げた。
「確かめて見せよう。この森に、我ら以外の人間はもうおらぬ‥‥は‥‥ず。な、何! な、何故!!」
 呪文を完成させたアルヴィンの表情を、確認しパーシはさらに足を進めた。
 結果など解っていたというように、驚愕の顔のアルヴィンを置いて‥‥。
「何故、こんな森の中で人の気配がする? しかも‥‥こんなに沢山」
「しっ! 静かにするんだよ。お前達」
 足元の犬達の口を押えながらフレイアは声を潜め、周囲を見る。
 ここまで来て、やっと冒険者達はいくつかの痕跡を発見する事ができた。
 踏みつけられた雪、荷物を運んだ跡。
「俺達が来たのとは違う道があるのか?」
「この森は広い‥‥。違う道筋があっても不思議は‥‥!」
 そして、冒険者は息を呑んだ。
 突然冒険者の前に現れたもの。
 木々に隠され間近に来るまで見えなかった‥‥それは不思議な、決して小さくはない城だった。
「これが‥‥あの時見えた光の正体か‥‥」
 秦は初日の夜に見えたものが錯覚で無かった事を知った。
 一時はゴーストに惑わされたあれは幻ではないかとさえ思ったのだが。
「ここは喜びの砦、ではないよな。では何故‥‥こんなところに城が‥‥誰が‥‥何の為に‥‥!」
 吐き出すようにアランは呟く。
「本当に在ったのか。ならば‥‥彼はここに?」
「『彼』? パーシ卿。あんた‥‥」
 誰もが抱いた疑問。だがそれに答えたのはパーシではなく‥‥
「皆! 隠れるんだ!」 
 気配を木陰に隠した彼らの前を通り過ぎ、城へ入っていく一人の騎士、だった。
「ラーンス卿でなない。あれは‥‥誰だ?」
「やはり‥‥マレアガンス!」
 吐き出すようにパーシはそう呟いた。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
 マレアガンス。
 その名を直接知る冒険者は少ないだろう。円卓に名を連ねる騎士でも無いのだから。
 取り立てて武勲もない、血筋と、家力に優れたのみの温室育ちの傲慢な騎士だ。
 だがある一つの理由によって、彼の名を知る者はいる。
 パーシの声に憎しげなものが混じったのはそれが理由だ。
「パーシ卿。彼が‥‥まさか‥‥花に取り付く蟲だと‥‥」
 マナウスにパーシは小さく答えた。
「彼はずっと王妃に思いを寄せていた。無論、あの方の眼中に彼は無かっただろうが、な」 
『王妃』
 ついにその名を口にしたパーシ。その『意味』を冒険者達は悟った。
 同時にこの冒険の始まりに彼が言った言葉、見つかれば、全てが解るとの意味も。
「ヴァルさ‥‥、ううんパーシさん。この城って本当にそのマレアガンスさんの城なの?」
 シャンピニオンの問いにパーシは首を、縦にも、横にも振らない。
「解らん。彼の領地はここでないし‥‥この城は王宮どころか、近くの村の者さえ存在を知らない隠し城だ。俺がこの城の情報を掴んだのさえ偶然に近い。まさか‥‥奴にこれほどの事ができるとは‥‥」
 パーシは思い出していた。
 知人の商人が教えてくれた情報。
「いずこかの森の奥に貴人の住まう城があるという話。その城の最奥、最上階にてある者が高貴な方の注文を賜った」と。
 注文を受けた商人も目隠しをされていてその城のあった場所も解らなかったという。
 開放された場所と地形、そして僅かな手がかりからパーシはこの森とこの場所を割り出したのだ。
 だが危険で広い森。ゴーストの噂。
 冒険者がどれだけ調べても、その痕跡さえ殆ど見つけられず、旅慣れたパーシでさえ一人ではたどり着けなかったこの森に、どうしてあのマレアガンスが『城』を構えられるのか。
 そもそも、本当にここに王妃はいるのだろうか? 
 城を冒険者達は見つめる。見上げた城は思う以上に大きい。
 そして、何かを隠す物々しさを冒険者に感じさせた。
 情報が正しいなら、王妃がいるのは最上階。格子に閉ざされた扉の向こうに、今も人の気配を感じる。
 できるなら、彼女を確保したいと誰もが思っていた。
 だが、今の状況ではそれが不可能である事も、誰もが解っていた。
 ざっと見てみただけでも冒険者とパーシ、全て合わせた数よりも遥かに多い兵士が、人間が城を守っているのだ。
 彼女を助け出し、確保したいなら出直す必要がある。人手を集め、準備を整えて。
 さもなくば返り討ちになりかねなかった。
 不法侵入という罪を犯す以上、事は慎重を要する。
 だが、その前にどうしても手に入れなければならないことがあった。
「証拠、だな」
 ああ、とパーシは頷いた。
 証拠が要る。王妃が間違いなく、ここにいるという証拠が。
 できるなら物証。最低でも確かめなければならない。少なくとも、誰かの目で。 
「フライングブルームで空を飛んで確かめようか?」
「ダメだ。危険すぎるし、何より目立ちすぎる」
 パーシは首を横に振った。
 秦がゴーストに取り憑かれたのも(運やその他、いくつか要因はあったとしても)フライングブルームでの探索と言う目立つ行動が、ゴーストの目視を引いた理由の一つだったであろうから。
「でも、そうなったら城の中に進入でもしないと」
「それこそ、危険だ、もし奴らにバレたら元も子もないぞ!」
「なら、ここはやっぱり僕の出番だね!」
「待て、シャンピニオン! 本当に危険だ」
 止めようと手を伸ばしたパーシの腕の間をするり、シャンピニオンはすり抜けた。
「大丈夫。カッコよくて優しいおにーさんの為に、頑張っちゃうからね。ま〜かせて♪」
「シャンピニオン!」
 止める間もなく飛び上がったシャンピニオンは、木々の間をすり抜けてあっという間に上空へと上がっていく。
 もう姿は見えない。
 かつての苦い記憶がパーシの喉を過ぎていく。だが冒険者の誰も声をかけられない。
 こうなったら冒険者にできることは、ただ待つことだけなのだから。

 身を戸口や壁の隙間に隠しながら、シャンピニオンは慎重に、慎重に城の外を上がっていった。
 見れば城の周辺にはかなりな人が見える。あれは見張りの兵士だろうか?
 窓を覗けば、城の中にもあちらこちらに武装した兵士の影も見える。
 彼らに見つかったら只事ではすまないだろう。
 それでも。勇気を出してシャンピニオンは最上階の窓へと身を翻したのだ。
「人の、気配はするみたい‥‥誰か、いるのかな?」
 頑丈に閉ざされた嵌めごろしの格子の奥に動く影があった。
 椅子に腰掛け下を向いていた『彼女』はついと顔を上げた。
 指を撫で左手から右手へと、スッ。何かを移動させる。
 そして、窓際へと‥‥
「あれは? 何をしているのかな?」
 隠れながら様子を伺う身では見えないが、太陽の光が美しくその髪に反射いている。
 手の中の何かにも、光が弾く‥‥。
「!」
 ふと。弾みだろうか。彼女が手の中に持っていた何かが床に落ち、木板に跳ね転がった。
 そして‥‥
「うわっ! こっち来る」
 格子扉の隙間に落ち込んだ指輪はシャンピニオンの横で止まる。
 指輪を拾いに手が伸びる! 見つかる!!
 彼女は身を固くし壁に背をつけ気配を隠したが‥‥手はいつまでも降りて来る事は無かった。
 気になりそっと、格子の隙間から中を覗く。
 そこには喜びとも悲しみとも、どうとも形容しがたい笑みを浮かべる美しい女性の顔が確かに見てとれた。
「あの人は‥‥まさか」
 彼女とて確信を持って言い切れるほどパーシが探す『花』を知るわけではない。
 だが一目見て何故か確信できてしまった。彼女こそがパーシが捜し求め、多くの人が愛し請う『花』であると。
 部屋の奥で扉が開く気配がする。
 扉の向こうから現れた騎士は彼女に礼をとる。
 暫く指輪を見つめていた彼女は、やがてその眼差しを逸らすと騎士の方へと向かい合った。
 木戸を静かに閉めて。
 だからシャンピニオンはその先、部屋の中の様子を伺う事ができなかった。
 その後騎士と彼女がどんな話をしたのかも解らない。
 暫くそこで佇んだ後、強く決心したように頷いたシャンピニオンは足元に転がった指輪を拾い、抱き上げる。
「早くパーシさんに届けよう。長居はきっと危ない、危ない!」
 そして静かに屋根を踏み切って飛んだ。
 飛び降りる瞬間、一度だけあの緑の瞳が浮かべた寂しげな眼差しが、彼女の頭を過ぎっていった。

○祈り願う麗しの花
「ん? ヴァル殿はどこだ?」
 キャメロットへの帰路を歩む冒険者はふとルシフェルの声に足を止めた。 
「また消えた? でも、さっきまで、ホントにさっきまでここにいたんだよ」
 シャンピニオンが右に左にと首を動かす。
 彼一人ならともかく、この街道で馬も一緒なのにそう簡単に消える筈も無い。
「ん! 見て!」
 道の端、森の一角に人が踏み込んだような痕跡がある。
 一番新しいものはほんの、今。古いものは数日か一日前と言うところだろう。
「何か、見つけたのか? まったくあの人は!」
 舌を打ちフレイアは犬を放つ。そして冒険者達もその跡を辿る事にした。
 先を行くパーシの姿を見つけ駆け寄った冒険者は足を止める。
 響くのは犬の声、そして静かで、優しく、だが強い声。
「ボールス卿‥‥君も花を探しに行ったものと思っていたが」
 その声が示す先、冒険者は予想外のものを見付けた。
 冒険者と円卓の騎士ボールス。
 いや、それだけではない。
 それこそが一番予想外だった。金の髪の‥‥誰もが捜し求めていた‥‥三人目の円卓の騎士の姿を。

「‥‥パーシ卿‥‥!? 何故、ここに‥‥」
 口元を押える女騎士に、軽く笑みを向けるとパーシは同僚と対峙する金髪の騎士に軽く会釈した。
 その瞳を真っ直ぐに見据えて。
「ええ、そのつもりだったのですが‥‥。パーシさ‥‥いや、パーシ卿、そちらは?」
 ボールスの問いに、パーシはラーンスに視線を据えたまま答えた。
「ああ、有力な情報を掴んだ」
 ラーンスが僅かに眉を動かす。
 その、何かを問いたげな視線に応えるように微笑むと、パーシは続けた。
「北の森でマレアガンスの城を見つけた。最上階には探していた花もな」
「‥‥見付かったのですか!?」
 ラーンスにもその意味がわかったのだろう、瞳を大きく見開き、頬を僅かに紅潮させている。
「証拠もある。だが、城を取り囲む部下の数は多く、辺りにはモンスターも徘徊している。一旦引き返して報告が先だと判断した」
 心は既に森に向うラーンスに、だが瞳と身体をパーシは縛る。
 釘を刺しているのだ。
「今踏み込んで勝てる数ではない」
 と。
「‥‥では、早急に戻って作戦を立てる必要がありますね」
 ボールスは再びラーンスに向き直った。
「ラーンス‥‥あなたは、どうしますか?」
「‥‥今はまだ戻れない。その、マレアガンスの城を落とす時は助太刀も考えよう。だが、今は‥‥」
 予想通りの答えに、ボールスはどうする、と、パーシにも目で問うてきた。
「俺の依頼はモンスター退治と花探しだ。卿の捕縛ではない‥‥そうだな?」
 と、冒険者達を見渡す。
 確かに依頼は解決済み、そしてラーンスについては仕事の範疇ではない。
 このまま見逃す事に抵抗はあるが、円卓の騎士がそう判断したなら自分達はそれに従うまでだ。
「‥‥すまない」
 ラーンスは2人の円卓の騎士と冒険者達に頭を下げると、配下を連れて森の東へと消えた。
 その後ろ姿を黙って見送ったボールスの肩を、パーシが軽く叩いていた。
「先に戻るぞ」
「‥‥はい、陛下に一刻も早く吉報を。私達はもう一仕事ありますので‥‥」
 丁寧にお辞儀をして見送る騎士にパーシは軽く手を振って、仲間の所へと戻ってくる。
 冒険者達は、躊躇わずその後を追った。
「ヴァル殿、いつの間にか消えるのは如何なものかと思う。せめて一言声をかけては頂けぬか?」
「すまない。只事ではない気配を感じたものでな‥‥。だが‥‥間に合うだろうか」
 彼の視線の先は森の東。
 消えたもう一人の円卓の騎士を見つめている。
「おそらくは、大丈夫でしょう。あの方は北へは向わなかった。少なくとも最悪の状態はこれで回避される筈です」
 もし、彼がなおも北へ向うつもりならば止めるつもりだったがそうではなかった。
 アランは少しホッとした自分と、少し笑みを浮べている自分に気が付いた。
「そうか‥‥これで、少なくとも最悪の状態は回避できる筈だ」
「ああ。これで病は治せるかもしれない。後は間に合うか、取り戻せるか‥‥かだな」
「間に合わせてみせる。取り戻してみせる。王の為に。国の為に、皆の為に。勝手な貴族の思惑でこれ以上、混乱は起こさせない!」
 手と、手の中の指輪を強く握り締めるパーシ。その思いにアルヴィンは小さく微笑んだ。
「なら急ぐとしようか」
 頷き、駆け出す冒険者。
 その中で、一人。一瞬だけ足を、いや心を振り向かせた者がいた。
「‥‥花は、彼の人を安堵させる大事なもの。もう直ぐ帰れる。愛する人の下へ。それは、きっと正しい事」
 それでも、シャンピニオンには忘れられなかった。
 窓の隙間から垣間見えた『花』の眼差しが。思いが。
 長い間その行方をくらましていたその真意は? 
 そして‥‥何より戻ったとして花は、以前と同じように再び、彼の人の元で咲けるのだろうか。
「もし、もう一度があるのなら、確かめたいな。花にだって想いがある筈だから、貴女の‥‥その思いの真実を。僕は、貴女の‥‥花の為に‥‥」
「シャンピニオン!」
 仲間の呼び声に従って、彼女は前を向き、真っ直ぐに飛んでいく。

 今はもう見えず遠い、花に誓って‥‥。