七つ葉のクローバー

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜05月31日

リプレイ公開日:2007年06月02日

●オープニング

 それは古くからの言い伝え。

 四つ葉は愛と幸せを、五つ葉は満ち足りた生活と金運を、六つ葉は地位と名声を貴方に贈る。
 そして七つ葉のクローバーそれは貴方に奇跡を与えるだろう。
 クローバーと貴方の祈りがあれば、きっとどんな願いも叶うはず。

「お願いがあるの」
 小さな、まだ10歳に満たないだろうという少女はそう言って銀貨を8枚差し出した。
 横にはさらに小さなこれも女の子。
 幼い姉妹はまっすぐ見上げるようにカウンターの係員を見つめた。
「なんだい?」
 と問う係員に少女は告げる。
「私エミ。あのね私とリアを近くの森に連れて行って!」
「森?」
 頷く彼女が言ったのはキャメロットの裏手の森。大人の足なら半日で往復できる小さな森だ。
 だが、森である以上獣やゴブリンの危険は皆無ではない。
「どうしてだか、聞いてもいいかな?」
「クローバーを探しに行くの。七つ葉のクローバー」
「七?」
 四つ葉のクローバーなら良く聞く。幸運のお守りでエチゴヤの福袋にも入っている品物だ。
 だが七つとは、聞いたことが無い。
「昔ね、おばあちゃんがお話してくれたの。クローバーは神様の守ってくれる葉っぱなんだって。四つ葉は愛と幸せを、五つ葉はお金を、六つ葉は地位と名誉をくれるって。その森はね、広場にクローバーが一杯生えてて、前おばあちゃんやおとうさんとクローバー探ししたことあるんだよ」
 少女エミは身振り手振りで告げる。その時、そこで四つ葉と五つ葉、六つ葉までは見つけたと。
「でもね。七つ葉は見つからなかったの。今度の春に一緒に探しに行こうねって約束したのに‥‥おばあちゃん病気になっちゃって‥‥」
 母親は既に無く、父親と祖母とそして妹との四人暮らし。
 そして今、父は病の祖母の看病に付ききりだという。
「今は、もうおばあちゃん、エミやリアのことも解らないの。そのとき思い出したの。おばあちゃんが言ってたこと。七つ葉のクローバーがあれば奇跡が起きる。どんな願いでも叶う、って」
「なるほど」
 係員は頷く。
 だから、その葉っぱを探して祖母に見せたいと言うのだ。
「お父さんにはないしょ。心配するから。だから、どうかお願いします!」
「おねがいます!」
 下げられた二つの頭に、係員は笑顔でもう一度頷いた。

 割りのいい仕事では勿論無い。
 報酬などあって無きに等しい。
 またクローバーを見つけたとしても、あの子らの望みが叶う可能性は低いだろう。
 それでも。
 どんな小さな依頼でも依頼人の思いが篭った仕事だから。
 係員は無言でそれを貼り出した。

●今回の参加者

 ea2158 ライム・ミントリーフ(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea3132 クラウディ・トゥエルブ(28歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb9760 華 月下(29歳・♂・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2872 オルヴィア・アーツェル(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

○しろつめくさの花が咲いたら
 日差しは暖かく晴れやか。
 春の日差しに、少し夏を織り込んだ明るい朝。
「ねえ、エミと、リア、だっけ? あんた達。本当に一緒に来るつもりなの?」
 目の前でひらり、羽根を羽ばたかせ目線を合わせるライム・ミントリーフ(ea2158)に建物の足元に咲くしろつめくさを撫でていた少女達はこっくり、首を前に動かした。
「危ないかもしれないよ。ちゃんと探しておいてあげるから、おばあちゃんと一緒に留守番してない?」
「イヤ!! だって、私達がクローバー見つけるんだもん!」
「もん!」
 少女と女の子。二人の真っ直ぐな視線と思いから逃げるようにライムは飛びあがると、
「どうしましょ〜か〜?」
 仲間に問いかけた。
 相談を受けて、竪琴を爪弾いていたクラウディ・トゥエルブ(ea3132)は手を止め‥‥くす。微笑み頷く。
「大丈夫ですわ。最初からそうなる予感はできていましたから」
 そして、静かに少しだけ膝を折る。子供達の目線と同じ位置まで。
「お二人とも。七つ葉のクローバーを見つければ、お婆さんが喜んで元気になると考えたのですね?」
 問いかけに少女達の頷きを確認し、微笑んだ。
「良い事ですわ。ご協力いたします。一緒に参りましょう?」
「「うん!」」
 一瞬の戸惑いも躊躇の無い純粋な思いが、そこに輝いていた。
「連れて行くの?」
「ええ、それが一番安全ですわ」
 クラウディの言葉に少し考えて、ライムも頷き丸く、飛ぶ。
「解ったわ。でも無理しちゃ駄目よ」
「では、出発しましょう。馬には乗ったことがありますか?」
「えっ?」「おねえちゃん!?」
 横から差し出された手が、脇の下からひょいとリアを持ち上げる。
 驚き顔のエミ。今度は彼女をそっと華月下(eb9760)抱き上げて自分の馬の背に乗せる。
 視線の上がった子供達の縋るような眼差しに月下は笑顔で答える。
「高くて怖いですか? でも大丈夫。この子、風竜は大人しい子ですし私達が付いています。安心して下さいね」
 主の思いに答えるように馬は嘶く。
 その優しさに満ちた答えに、子供達も頷いて冒険者と共に旅立っていった。
 旅と呼ぶにはあまりにもささやかなものだったけれど。 

○一面のクローバー
「あっ!」
 声を上げてライムは今、視線の先に見つけたものを指でそっと摘み取った。
 期待していた訳では無いが、やはりちょっと期待して、持ち上げる。
「あ〜、また四つ葉と三つ葉がくっついてたんだ〜。残念」
 細い指で二つのクローバーを剥がして四つ葉は袋に入れ、三つ葉は地面に返す。
 これで何度目か解らない事を繰り返しながらライムはため息をついた。
 四つ葉はけっこうあるのに、七つ葉は見つからない。
 眼前に広がるのは一面の緑の絨毯。
 クローバーの野は萌える緑が目と心を癒してくれる光景だが、今はそれが疎ましく思える。
「まだまだ全然進んでないなあ」
 一向に進まない目印の布に少し閉口するようなライム。だがエミはただひたすらに下を見つめ探している。
 逆にリアは、と言えばそろそろ飽きてきたようだ。逃げ出したり遊んだりはしていないものの、身体と頭を左右に振っている。手は完全に止まっていた。
「リア! サボっちゃ駄目でしょ! しっかり探すの!」
 ビクン!
 エミの怒鳴り声が響いた。肩を揺らしたリアは
「サボってなんかないよ。ちょっとやすんでるだけだもん」
 と反論するが、エミもイラついているのだろう。
「それがサボってるっていうの! おばあちゃんが死んじゃってもいいの!」
 責めるような口調で妹を追い詰めていた。
「そんなことないもん! おねえちゃんのいじわる!」
「リア!」
 今にも始まりそうな姉妹ケンカ。それを‥‥
「少し、休憩にしましょうか?」
「ええ、お弁当を食べましょう」
 さりげなく、立ち上がったクラウディは同じように動く月下に目配せをした。
「えっ? でも‥‥」
「根の詰め過ぎは良くないですからね。休憩は必要ですよ」
 二人の間に割って入り、引き離すように持ってきた弁当を広げる。
 冒険者が広げた弁当を囲んで探索の終わったクローバーの絨毯の上に座る。
「食べない? 美味しいわよ」
「いらない! 今、お腹すいてな‥‥」
 グュルルル〜。
 顔を背け合った二人だがお腹の音は心よりも正直に合唱する。
「お腹すいたでしょう? はい」
 差し出された料理は顔を左右からの伸びた手に摘まれて口に運ばれる。
「美味しい!」「おいしいよ。これ!」
「それは良かった。もっとどうぞ」
 月下は嬉しそうに笑って料理を差し出す。
 料理は瞬く間にそれぞれの腹の中へと消えていった。
「ごちそうさまでした。美味しかったです!」
「おいしかったね。おねえちゃん?」
「そうね‥‥って、あっ!」
 慌てて口を押さえて顔を背けるエミの肩に乗りライムは微笑みながら
「ねえ、二人とも、ケンカしながら七つ葉のクローバー見つけてもおばあちゃんは喜ぶかな?」
 そう問いかけた。
「‥‥あっ」「‥‥うっ」
 俯く子供達。自分達の非にちゃんと気付ける聡い子供達だ。
「いい子ですね」
 頭を撫でながらクラウディは告げる。
「草花はいつでもそこにあります。あとはそれを見つけるだけ。見つけるんだとしゃかりきにならず、心を落ち着けて周囲を見つめるのです」
「うん‥‥」
「大丈夫。人が願えば、森の恵みは応えてくれるでしょう」
「仲直りできますね?」
 エミの右手とリアの左手を月下は重ね、握らせた。
 触れ合うぬくもりに少女達は頷き合うと‥‥
「ごめんね。リア」「ごめんね。おねえちゃん」
 そう言って謝りあったのだった。その光景を見つめる冒険者の頬に安堵の笑みが浮かんだのは言うまでもない。

○百万分の一の奇跡
 これで四日目。
 ライムが立てた目印の布はもう半分以上のところまでやってきている。
 逆に言えば、まだ半分。半分以上がまだ探索されていないということでもあるのだが。
「これは、思ったより大変かもね」
 人手が少ない上に、子供達の父親を心配させないために、毎日送迎する時間的ロスもあって冒険者達は目的のものである七つ葉のクローバーを見つけられずにいた。
「絶対、絶対見つけるの!」
 今までに無いほどのエミの真剣さにひきずられるようにリアも冒険者も下を見つめる。
 その背後で
「ぐあああっっ!」
 いきなりの怒号にも似た声が鳴った。大きな‥‥熊。
「危ない!」「下がって!」
 月下とライムが子供達二人を庇い、クラウディが魔法を紡ぐ。
「ぐ‥‥あっ?」
 崩れ落ちるように眠った熊に怪我は無い。クラウディは敵が出たらこうしようと最初から決めていた。
 クローバーの野を血で汚したくも、子供達に見せたくは無かったからだ。
「もう春ですからね。獣たちがいても不思議ではありません。‥‥大丈夫ですか」
 前半は脇で目を丸くしている子供達に、後半は母親をいきなり眠らさ、驚く小熊にクラウディはもう一度呪文をかける。
 母親の横で小熊はすやすやと寝息を立て始めた。彼らが目を覚まさないうちに探索の再開をしようと思った矢先、ふとライムは気付き
「ちょっとごめんね!」
 小熊の足元のクローバーを手折り手に乗せる。
「あああっ!!」
 ライムが声を上げた。
「1・2‥‥」
 震える手でライムは手に取りもう一度、葉を数える。
「6・7‥‥あった。あったよ〜!」
「ホントですか?」
 駆け寄ってきたリアに頷いてライムはそれを差し出した。
 受け取るリアの手のひら。そこには確かに奇跡があった。
「ありがとうございます!」
 胸に抱きしめて少女は頭を下げる。
 千、万、いやその数百倍の中のたった一つの奇跡。
 七つ葉のクローバーがそこにはあった。

○奇跡を運ぶ四つ葉達
 優しい調べが部屋中に広がる中。
「おばあちゃん。私達を思い出して?」
 そう言ってエミは冠を祖母の布団の上に乗せた。
 空中をただ呆然と見つめる老婆の膝の上に置かれた、クローバーだけで編まれたそれには探索で見つけた四つ葉、五つ葉も組み込んであった。
 そして中央に飾られたのは、七つ葉のクローバー。
 緑の野の香りが少し離れた場所にいる冒険者達の鼻腔までも擽る。
「ねえ、元気になってよ。また一緒にクローバー探そう!」
「おばあちゃん。‥‥だいすき」
 二つの願いが心からの思いで七つ葉にかけられた時
「月下さん! ライムさん! エミさんたちも見て下さい!」
 クラウディは竪琴の手を止めて声を上げた。
 ぴくっ。微かに老婆の手が跳ねた。そして、瞬きが一回。再び開かれた瞳にはさっきまでとは明らかに色が変わっている。
「エ‥‥ミ? リア‥‥?」
「「おばあちゃん!!」」
 ‥‥冒険者達はその場をそっとあとにする。
 自分達が見届けていいのはこの奇跡の瞬間まで。
 あとは、家族だけのものだから。

「あっ!」
 家を出て、ライムは小さく口を押さえた。
「どうか、したんですか?」
 月下の問いかけにすぐになんでもないと首を振るライム。
「報酬ですか?」
 お見通しの風情の月下にライムは小さく頷いた。
「元々、貰う気なんか無かったけどね」
 と。
「そうですね。それにもう十分な報酬は頂きましたから」
 クラウディは手の平に乗る小さな四つ葉のクローバーを見つめ微笑んだ。
 これはあの子達が冠を作った残り。彼女達が自ら手渡してくれた幸せの小さなおすそ分け。
「大事なものに、なりそうですわ」
「私も!」
「僕もです。今回来られなかった方にも、あとでお届けしましょう」
 そして、一度だけ振り返る。
 子供達の、そして愛すべき家族達の家を。

 四つ葉は愛と幸せを、五つ葉は満ち足りた生活と金運を、六つ葉は地位と名声を貴方に贈る。
 そして七つ葉のクローバーそれは貴方に奇跡を与えるだろう。
 それは、古い言い伝え。
 
 ならば奇跡はどうか彼らの上に‥‥。
 冒険者達は自らの四つ葉のクローバーにそう願いをかけて三つ葉、いや子供達に幸せと奇跡を運んだ四つ葉達は静かに岐路についたのだった。