薔薇の下の秘密
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月17日〜06月22日
リプレイ公開日:2007年06月25日
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●オープニング
Under the rose.
それは『秘密』ということ。
薔薇はその下にさまざまな秘密を隠している。
「はあ、はあ‥‥。お前が、悪いんだ。俺の‥‥俺の気持ちを解かってくれないから‥‥」
ここにまた埋もれた秘密が一つ。
だが、この『秘密』は目覚め‥‥そして彷徨っている。
帰る場所を求めて、仲間を求めて。
薔薇の下でのことは秘密。
けれども薔薇は風に揺れてそよぎ、動き出す。
その『秘密』を救うために。
「最初は、喜んでいたんですよ。新しい館。丁度庭には薔薇が満開ですごく綺麗だってね」
言葉とは裏腹に若い商人は苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
彼はつい先日、古い館を庭と、従業員ごと買い取った。
結婚を期に独立し新しい家族と共に暮らす為だ。
妻との関係も良く、もうすぐ子供も生まれる、そんな幸せの絶頂にいたはずなのに何故、こんなことになってしまったのだろうか。
「最初は妻が庭の薔薇の木の側に、不思議な女の子の姿を見たって言うのが始まりでした。話をするわけでもなく、ただ立っているだけですが薄桃色の髪をした笑顔のかわいい女の子で、妻は友達か子供ができた気分だったらしいんです。けれど、やがて彼女を見るのが辛い、と言う様になりました。その子があまりにも‥‥悲しそうな目でこちらを見つめるので‥‥」
『どうしたの? 貴方は何を言いたいの?』
婦人は少女に語りかける。けれども少女は無言で佇むのみで‥‥、そして悲劇が起こる。
「先日、妻はナイフを持ち出して館の従業員の一人に斬りつけたんです。幸い相手の傷は軽症でしたが、妻はどうしてそんなことになったのかまったく覚えていない、と言って‥‥。しかもそれが何度も何度も繰り返されるのです。同じ人物を‥‥」
奥方は今、どうしてそんなことになったのかと落ち込み臥せっている。
彼女に従業員を傷つけたいと言う意志などまったく無い。
なのに、何故か夜になるとナイフを握って彼を刺したい、殺したいと思うのだと夫に泣きじゃくる妻を見て彼は決心した。
恥を承知で依頼を出すことを。
「このままでは、妻がいつか殺人者になってしまうかもしれません。被害を受けた従業員は庭師ですし、その少女を見たことから不思議な事が始まった気がするんです。だから、お願いです。調べていただけませんか? 少女の正体と何故妻が奇行に走るようになってしまったのかを‥‥」
臨月間近の奥方が安心して出産に望めるように。
花を、薔薇を心から愛でる事ができるように祈りを込めて‥‥。
Under the rose
薔薇の下には秘密が眠る。
『少女』は願い祈る。
できるならこの秘密の開放を。
あの彷徨う魂と共に‥‥と。
●リプレイ本文
○薔薇と秘密
イギリスの六月は一年で一番美しい季節。
「これは‥‥見事な薔薇ですわね」
柊静夜(eb8942)は心からの賛辞をその象徴たる目の前の薔薇達に贈る。
「うん、よく手入れされてる。特にあの大きな薔薇なんか桃色に赤が混じって、なんとも言えないな〜」
注意深く花々を観察していた空木怜(ec1783)も頷く。
園の花。特にこの大きな薔薇は葉の一筋にも乱れが無い
「自慢の庭ですから褒めて頂けると庭師も喜ぶことでしょう」
依頼人でもある若い商人は冒険者達に屋敷の案内をしながら、そう言った。
「僕にとってこの庭は子供の頃からの憧れだったんです」
「子供の頃から、ということは商人殿は昔からこの館や館の住人をご存知だったのか?」
「ルロイと及びください。妻の名はユナ。私は子供の頃、この近くに住んでいたのですよ。美しい館や庭。そして家族は憧れであり、生きる目標でした」
なるほど、とオルロック・サンズヒート(eb2020)は頷いた。
いかに金持ちであろうと家を一件。それも従業員ごと買い取ると言うのは珍しい。
だが、それもそんな理由を聞けば納得がいく。
「だからこの家に何か悪いことがあるとは思いたくは無いのですが‥‥」
ルロイ氏は誠実な商人と評判だった。夫人にも何も悪い噂は出てこない。
祝福された結婚。喜ばしい新生活。望まれて、愛されて生まれてくる子供。
「新しい生活が安定したものになるよう不安要素を取り除こう。生まれてくる子供の為に早めに解決したいものだな」
本心からラーイ・カナン(eb7636)は思っている。仲間達もきっと同じ思いだろう。
「そうだね」
怜は手をパンパン、と軽く叩いて仲間のほうに向き合った。
「大体、館の様子も解かったし、あとは奥方のほうへ行ってみようか? 診察するからさ」
「今頃ユーリ君の歌も終わっているだろう。‥‥案内してくれるかな? ご主人?」
「解かりました。どうぞ」
促されて歩きかけたアレクセイ・ルード(eb5450)はふと、足を止め振り返った。
「どうしたね? シアくん?」
薔薇の周囲を今も飛び回っているシア・シーシア(eb7628)に声をかける為に。
「‥‥いや少し、確かめたいことがある。先に行っていてくれないか?」
「‥‥解った。では、先に行っていよう。何か解ったら後で話してくれたまえよ」
アレクセイの背中を見送ると、
「やはり、ここかな? 少女は一体何者だろう。亡霊? それとも‥‥」
大きなあの薔薇の木を前にシアは目を閉じた。
『‥‥聞こえるかい?』
呪文を、いや思いを紡ぐ。
『薄桃色の髪をした笑顔の可愛い女の子。姿を見せてくれないか。話がしたい、話が聞きたい‥‥』
目に見えない誰かに向かって。
○見えない願い
「上手です〜ぅ。じゃあ最初からも一回。さん、はい!
空に太陽 闇に月
花びらに夜露 軒に雫〜」
「空に太陽 闇に月
花びらに夜露 軒に雫〜」
「おや。随分と楽しそうだね。ユナ」
「あら、あなた。ユーリさんはとっても歌が上手で楽しい方で、私も楽しい気分になりましたの」
「えっへん。お歌は人の心を暖かくするです。生まれてくる赤ちゃんもきっとお歌が好きになるですよ!」
「ええ、そうなってくれると嬉しいわ」
ユーリユーラス・リグリット(ea3071)の言葉に夫人もニコニコと楽しそうに笑った。
顔を見合わせあって頷く二人。
本当に仲のよい幸せそうな家族だと夫人の手をとりながら怜は思った。
妊娠中後期。現時点では母体は健康そのもの。お腹の子も安定しているようだが無理は禁物だ。
「ところで奥さん。聞かせてもらえるかな。女の子の事と事件のこと」
怜にはい、と夫人は頷いて向かい合った。
「と、言っても私、本当に何も覚えていませんの。あの子と会って薔薇の木の下でめまいがして‥‥それから夜毎、彼に対する憎しみが、悲しみが溢れてきて‥‥」
少女の外見などを説明した後、
「こんな、自分の事も解らぬ私が本当に親になって良いのでしょうか?」
項垂れる夫人を
「大丈夫ですわ。お気持ちを明るく持って下さい。セーラ様はいつも私達を見守っています」
友、フィーレ・アルティースの言葉を伝え静夜は彼女をそっと抱きしめた。その時
トントン。
扉を叩く音がする。アレクセイは絵を描く手を止め顔を上げた。
「皆さん、宜しいでしょうか?」
「ロッドくん‥‥。解った。失礼するよ。ユーリくん、静夜くん。後を頼んだね」
「解りましたわ。そうですわ‥‥ユナ様。一升もちという風習をご存知?」
「いっしょーもち? なにそれ?」
楽しげな女性達を部屋に残して男性は依頼人も含めて廊下へと出た。そこには情報収集に出ていたロッド・エルメロイ(eb9943)が真剣な表情で立っている。
「何か例の少女について解ったのかね? ロッド君?」
アレクセイの問いにロッドは首を縦にも横にも振らなかった。
「いいえ。ですがある意味この事件の真相かもしれないと思われることが‥‥」
「ほお」
冒険者達の表情がロッドの話と共に鋭さを帯びる。
そして‥‥彼らは一つの作戦を決定する。
「いかに隠そうとしてもよぉく目をこらすとの、そこにある心の足跡が見つかるはずじゃ」
「あの少女はきっとその足跡を僕達に知らせたいのかもしれません」
「よし、今夜決めちまおう!」
少しでも早く『彼女達』の憂いを晴らしてあげられるように。
笑顔の花を咲かせてあげられるように‥‥。
○薔薇の下の真実
深夜の薔薇園に話し声とランプの明かりが動く。
「怪我の様子は、もう良いみたいだね」
笑う怜とは正反対に横を歩く庭師の顔は重く、暗い。
「何の用です?」
横で張り付くラーイが居なければ逃げ出していそうな彼をまあまあ、と怜は宥めた。
「夜の薔薇園もいいね。随分丹精しているみたいだし。あ、あの薔薇なんか特に見事だし」
「‥‥この薔薇園は私の命ですから」
「うん、聞いてる。薔薇を本当に大切に長く育てているって、愛着があるんだね」
ニッコリと笑顔を作る怜。けれど‥‥一際大きなあの薔薇の木にたどり着き
「ですが噂に聞きました。この薔薇園にはもう一人女性の庭師がおられたと。引越しのドサクサで姿が見なくなったそうですがご存知ないですか?」
目的地について仲間を確認した瞬間。怜はラーイと共に彼の手をがっちりと両方から掴み止めた。
「な、なんですか? 一体? 貴方方は!」
明らかに動揺を見せた庭師にもう一押し。とばかりにオルロックはロッドと場所を交換し指を薔薇に向ける。
「のお。あの薔薇の下。掘ってみんかの? いや友人のスイフリィ・ハーミットがの、その女性庭師とお主が恋仲じゃった、と聞いての。まさかとは思うんじゃが‥‥」
「! そんな! 私が丹精した薔薇が台無しになってしまう! 旦那様! あの薔薇がどうなっていいというのですか?」
暴れ狂う庭師の様子にもう、その場にいる全ての者が事の真実を察していた。
「館の主として認める。冒険者。そこを掘り起こしてくれ」
「了解!」
スコップを握り締めアレクセイと怜、ロッドも手伝い始める。
「やめろ! 止めるんだ!」
手を伸ばす庭師。だがラーイは彼を離しはしない。そしてすぐ
「! やっぱり‥‥か」
スコップに当たったものに冒険者達は顔を顰めた。出てきたのは白骨化した‥‥骨。
「ペイジ‥‥お前」
「私は! 私は知らない! そんな‥‥!」
『ペイジ‥‥』
背後からの声に振り返った庭師は驚愕の声を上げた。
そこに立っているのはユーリと静夜。夫人とそして‥‥
「リーサ!」
黒い、自らに指差す黒い影だった。
『私の薔薇を‥‥許さない。貴方も‥‥一緒に』
「許してくれ! 俺はこんなところで終わりたくなかったんだ! ここの薔薇を足がかりにもっと上に行きたかった!」
頭を抱き、怯えるように蹲る庭師に影は寄ろうとするが‥‥動きを止めた。
『彼女』の動きを止めたものは
「罪を他の誰かに背負わせてはいけないよ。薔薇の秘密は明かされて君は自由だ」
そう微笑んで手を差し伸べたアレクセイであり
「隠れる想い 薔薇に託し〜♪ 君を光の中に連れて行きたいです。だからもう止めるです。自分を辛くするのは」
竪琴と共に思いを歌に乗せるユーリでもあった。
「彼もずっと後悔していたのでしょう。許してあげられませんか?」
庭師を守るように静夜は怜も『彼女』の前に立つ。
魂さえも癒したいという願いを込めて立つのは彼らだけではなかった。
『!』
ユーリの竪琴に和するように歌うシアの横に立つ『存在」に彼女は目を細め‥‥頷いた。
「あっ! リーサさん?」
気がつくと『彼女』はもうそこにはいなかった。
夜の薔薇園、冒険者は泣きじゃくる庭師を、若き夫妻と少女と共に見つめていた。
○薔薇の笑顔
女庭師の墓は薔薇園の片隅に作られた。彼女が愛した薔薇を見守るように。
「これが君の望みだったのだろう? 薔薇の姫」
シアの言葉に少女は静かに頷いた。
冒険者達の情報収集に確証を与えたのはシアに少女が『語った』思いだった。
『彼女達を助けて‥‥』
彼女達。それは夫人の他にもう一人助けを求める女性がいるということ。
それが解った時、冒険者達は集めた情報から忘れられた女庭師の存在に容易に気付けた。
無論、犯人も隠し場所も。
「君は薔薇の精かい? それとも?」
テレパシーではない言葉でシアは告げる。答えが返らないのを承知の上で。
少女は答える。
美しい薔薇の笑みで。
リロイは言っていた。
幼い頃、この館と庭、家族に憧れた。
庭を守る庭師とそれを見守る幻の少女の笑顔にも夢を見た。と。
それは遠い日の恋心。
「ありがとうございます。守ってくれて、取り戻してくれて‥‥」
今、彼は大事なものを腕に抱き微笑む。
自分が憧れた笑顔を自分の家族共に作っていくと。
少女は、きっと見守ってくれるだろう。
そう、冒険者は取り戻したのだ。
幸せな家族の未来と、夢。
そして‥‥薔薇の少女の微笑みを。