【ジューン・ブライド】駆け落ち指南?

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月25日〜06月30日

リプレイ公開日:2007年07月03日

●オープニング

 荘厳で美しい神の家は命が芽生え、育ち育まれるこの季節。小鳥のように笑いさざめく恋人達の幸せな笑顔に溢れていた。
「神の家の扉はいつも開かれております。 さあ‥‥中へ」
 招き入れられた青年と少女は嬉しそうに手をとり、中に入っていく。
 その笑顔とは正反対に、受付の少女の表情は寂しげにだ。
「‥‥いいなあ」
 幸せそうな恋人同士が、手に手を取りあって中に入っていく様は、神に仕える身として嬉しくある反面、一人の少女としては少し、寂しくもある。
 それが思わず表情に出てしまうのだろう。きっと。
「私も、あの人と‥‥できたらいいのに‥‥?」
 視線をふと下に下ろす。
 気付けば少女は、服のすそをくいくい、と引っ張る女の子がいる。
「どうしたの? ベル? なんか浮かない顔してるけど」
「ヴィアンカ‥‥。勉強は終わったの?」
 気遣うような血縁の子の言葉に、ベルと呼ばれた少女はなんでもない、と首を横に振った。
 本当はなんでもなくはないのだが、
「終わったよ! お仕事終わったら遊びに行こう! ね?」
 聞かれたくないことなのだろうと察してヴィアンカもそれ以上は聞こうとしない。
 甘えるように大好きな従姉妹の手に甘えた。
「そうね」
 ベルがヴィアンカに微笑みかけたとき
「‥‥! そんな!」
「!?」
 教会の奥が急に慌しさを帯びた。 
 涙ぐみながら駆け出していく少女。その後を追いかけていく青年。
「どうしたのかな? ‥‥ベル!?」
 止める間もなく二人の追って走るベルを、ヴィアンカはなんとか追いかけるのが精一杯だった。

「駆け落ち!?」
「ダメ!」「声が大きいです!」
 冒険者ギルドの係員が上げかけた大声を二人の少女が慌てて制止させる。
 本人も、気付いたのだろう。
 声と驚きを飲み込んで彼は、依頼人の代理であるという少女達を見つめた。
 どういうことだ? と問う瞳にベルと名乗った少女が事情を説明する。
 街の裕福な商人の娘と、旅の吟遊詩人が恋に落ちた。
 娘は心からの愛で孤独な吟遊詩人を包み込み、吟遊詩人もまた誠実な思いでその愛に答えた。
 二人はきっと、幸せな恋人同士になれたろう。
 吟遊詩人がエルフで無ければ‥‥。
「二人は知らなかったのだそうです。エルフと人間の愛が神に認められないものだと。家族にも話していなくて、愛し合って‥‥結婚式をあげる前に教会に刻印を刻みにいこうとして始めてそのことを知ったと言っていました」
「最初はね、凄かったんだよ‥‥『私のお腹の中には子供が居るの! 認めてもらえないのならこの子と一緒に私も死ぬ!』って大騒ぎ。ロビンお兄さん、あ、吟遊詩人のお兄さんがね、説得して、今は家に帰っているけど本当に死んじゃうんじゃないかって思った!」
 事情を知った娘レティの家族に二人は現在引き離されている。
 無論、家族は二人の恋を認める事はできないだろう。
「子供が生まれるまでレティさんとロビンさんを引き離しし、子供が生まれた後ロビンさんが子供を連れてキャメロットを去る、という流れになりそうです。‥‥このままだと」
 このままだと。
 その言葉に係員は最初の言葉への繋がりを理解し、納得した。
「けれども、私にはそれが正しいこととは思えません。人とエルフの時間は確かに違う。けれどもだからこそ、愛し合った人と少しでも共にいたいと思うのでは無いですか?」
 ベルの目には涙さえ浮かんでいる。係員は知っていた。
 彼女には誰より二人の気持ちが解かるのだろう‥‥と。
「ロビンさんは今、監視されています。でも、レティさんを愛する心は変わらない。子供も守りたい。二人で新しい土地で生活したいそうなんです」
 つまりは二人で駆け落ちしたいと望んでいる、ということだ。その為の準備も進めているようだが、警戒されている今、彼一人では彼女を助け出すことは難しいだろう。
「でね、お父さんに相談したら、冒険者の力を借りたらどうだって。確かに私達二人だけじゃ助けにはならないけど、冒険者のお兄さん、お姉さんが一緒なら何でもできるかなって思って」
 依頼内容は家の中に閉じ込められている娘レティを救い出し、恋人ロビンと共に逃がすこと。
 かけられるであろう追跡を振り切り、キャメロットから逃がせばそこから先は、彼らの問題になる。
「お二人とも、家を出て厳しくとも二人で暮らす覚悟はできているそうです。当座の資金も多少あるようですから、ちゃんと報酬も払います。どうか、二人の駆け落ちにお力をお貸しください」

 この依頼は危険だ、と係員は思う。
 一歩間違えば誘拐犯と言われかねないこの依頼を引き受ける冒険者は果たしているだろうか?

 愛する人と、少しでも一緒に。その気持ちは痛いほど解かるから。
 彼は依頼書を貼り出した。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3132 クラウディ・トゥエルブ(28歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

クリステル・シャルダン(eb3862

●リプレイ本文

○始まりの前に
 深く、深呼吸。
「さあ、行きましょう」
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)の言葉に促され、クラウディ・トゥエルブ(ea3132)はノックをした。
「おや、お前さん達は‥‥」
「あの‥‥娘さんの問題に関してお話が。お取次ぎを頂けますか?」
 出てきた冒険者は、驚くほど優しく微笑むと、不思議と素直に取り次いでくれた。
「妨害を心配していたのですが‥‥」
「彼は、話の解る人です。最初から協力を頼めばよかったのかもしれませんが‥‥」
 待つこと暫し、やってきたのは憔悴した顔の男性と女性に二人はお辞儀をした。
「お話とお願いがございます。聞いて‥‥下さいますか?」
 静かに頷く彼らにクラウディはもう一度深呼吸し
「実は‥‥」
 話し始めたのだった。

 〜♪〜♪〜♪♪〜。
「あら、随分と下手。ですわね」
 フィーナ・ウィンスレット(ea5556)は率直すぎる感想を述べた。
「あ、あの‥‥フィーナさん。それは言いすぎじゃ」
 止めようとするエスナ・ウォルター(eb0752)の言葉も力ない。
 それは、同意と同じ意味を持っていたからだ。
 深夜の酒場。冒険者はここで歌う旅の吟遊詩人ロビンの歌を聴いていた。
「技術は悪くありません、多分私より上でしょう。でも音が揺れています。心も揺れているのだと思います」
「おそらく‥‥そういう事なのですね」
 彼は迷っている。
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)とカノン・レイウイング(ea6284)はこの依頼の要であろう青年の本質をそう理解した。
「‥‥ちょっと話をして見ましょうか‥‥おや?」
 歌の切れ目。立ち上がったフィーナは一歩早く、立ち上がり彼に近づいた二人の冒険者を見つけ足を止めた。
 彼らは冒険者ギルドの旧知。何の含みもなくニッコリと会釈する。
 反対に顔色を変えてフィーナの背に隠れたのはエスナ。
 向こうの冒険者もこちらに気付いたようだ。
 一言二言言葉を交わして後、後ろに下がりながら彼らはすっと右手を差し出した。微笑んで。
「‥‥ありがとう‥‥」
 エスナと向こうの冒険者を交互に見て‥‥カノンは用意しかけたスリープの魔法を手放し前を向く。
「ロビンさんですね」
 丁寧に、優雅に頭を下げる彼らに
「‥‥貴方、冒険者ですね。貴方方も駆け落ちを止めろ‥‥と?」
 警戒した顔で竪琴を抱くロビン。
 だがいいえ、とフィーナは首を横に振って微笑んだ。
「私達は貴方達を助けになる為に呼ばれた者です。貴方のお手伝いを致しますわ」
 そして、依頼主二人の少女達の名を告げる。詩人の顔にパッと輝きが戻った。
「彼女達の! ありがとうございます。どうしたらいいかと悩んでいたんです。僕一人ではなにも‥‥」
「ただし!」
「えっ?」
 縋るような顔つきの駒鳥をフィーナは遠慮なく言葉で突き飛ばす。
「貴方にその覚悟があるなら‥‥です」
「覚悟‥‥ですか?」
「そうです。私もエルフですから解りますがエルフが他種族を愛する時は覚悟がいることを、解っているでしょう? どんな種族の誰であれ相手がエルフでない限り結婚したとしても配偶者は確実に自分より先に天寿をまっとうしてしまいます」
「‥‥それは」
「それでも彼女と共にいたいか。そして駆け落ちしたいか、よく考えて下さい」
「‥‥‥‥」
 彼の返事は止まった。
「もし覚悟ができたのなら‥‥お待ちしてますわ」
 少し時間が必要かもしれない。日時と場所の指定をしてフィーナは仲間達を促す。
 即答の返事が返らなかったことがいい事か悪いことか解らないが、彼の人生。決めるのは彼。
 冒険者は彼の返事を待つことにしたのだった。

○決意と思い
 返事は以外に早かった。
 翌日、やってきたロビンにシルヴィアは問う。
「ご両親は今のあの男に何も話す事は無いし娘を渡すつもりも、会わせるつもりも無い、とおっしゃっていました。状況は厳しいですがそれでも、ですか?」
 返った返事は『はい』
「やはり、僕には彼女しかいません。どうか、お力をお貸しください」
 強い視線で答えたロビンに、既に屋敷に潜入しているティズ・ティン(ea7694)ともう一人以外の冒険者達は全員が勿論、と頷いた。
 そこに
 BANN!
 扉が勢いよく開かれ残りの、もう一人が現れる。
「良くぞ言ったでござる。拙者こそ未来の“おしどりふうふ”の守護者。恋人同士のらぶ! を守るでござるぅ〜」
 ひゅるる〜。
「それで? どうしましょうか? どういう手順でレティさんを連れ出すかが重要ですよね」
 夏とは思えぬ冷たい風が吹き抜ける。オーガとコマドリの着ぐるみを重ね着して汗だくであるのに冷たいフィーナの態度にさすがの葉霧幻蔵(ea5683)も冷や汗だらりだ。
「既に向こうも、駆け落ちを察して冒険者に阻止を依頼しているようですね」
「今、ティズさんが家の方に潜入しています。彼女の合図を待って決行するのがいいでしょう。私がテレパシーで仲介します」
「なるべくなら、戦いにはしたくないですね。まあ、模擬戦闘と思いますか?」
「お〜〜い。誰かツッコんでくれでござるよ〜」
 完全にスルーという名の無視をされ、‥‥それでも幻蔵は着ぐるみのまま相談に加わった。
 依頼人の少女達は今回の騒動に例え失敗したとしても無関係でいられるように離れた場所での馬の見張りに付かせると決め、細かい役割分担を決定した。
「‥‥では、最終的な避難先はキエフを目指すということでいいのですね」
 そしてロビンにカレンはチケットを手渡す。
「これを‥‥。いざという時には私達を気にせずこれで二人で逃げて下さいね」
 差し出されたチケットを受け取ってロビンは頷く。
「決行は‥‥夜明け。私達は先に行って準備をしましょう。ロビンさん、後で‥‥」
 歩き出した冒険者の最後尾で、
「?」
 ロビンは足を止めた。
 小さな声が聞こえた。言葉か、それとも‥‥魔法か。
『後先は考えず自分の思いを彼女にぶつけなさい。情熱は言葉にしてこそ伝わる物』
 胸に響いた言葉の意味を、それから暫くロビンは考えていた。
 一歩も動くことなく。

○運命の朝
 目を閉じていたカノンは溜息と一緒に顔を上げた。
「ダメです。ティズさんは正体がバレてしまったようですね。捕まっていると思われます」
 中から陽動のきっかけを作るはずだったティズ。
 彼女に危害が加えられることはまず無いだろうが、作戦の大幅変更を冒険者は余儀なくされた。
「時間がありません。位置に付きますので‥‥幻蔵さん。お願いします」
「五分後でござるな。‥‥‥‥よし、行くでござる! 出でよ。大ガマ!」
 ゲゲロゲロ!
「うわっ! なんだ? なんだ?」
 外で見張りをしてた冒険者や手伝いの使用人は、突然現れた異様な物体に、目を大きく見開いた。
 巨大な人の乗るガマがえるに、ド派手な着ぐるみの忍者。その名も
「妖怪“鬼鳥ふうふ”なのであるぅ〜。冒険者、覚悟であるぅ〜〜」
 巨大な体格に似合わぬ素早さで庭を飛び跳ねる大ガマと幻蔵に正面を任せて、冒険者達は裏口から侵入した。
 二階建てとはいえ、ここは商人の家、それほど大きな建物でもないので、何事も無ければ直ぐに二階へたどり着けるはずだった。何事も無ければ。
「よう! おいでなさったな?」
「!」
 忍び足で近づいたつもりだったがと、冒険者達は唇を噛む。そこには短槍を持つ戦士と神聖騎士、そして杖を持った戦士が立っていた。
「すまんがここから先はとおさんよ」
「先に進むと言うのなら手加減はしないぜ」
「二人の思いは解るが、ご両親の気持ちも解る。悪く思うな」
 邪笑を湛えて立つ彼らに、シルヴィアは決心の表情で一歩、前へと進み出た。
「私が、足止めします。どうぞ、先へ!」
「でも‥‥」
「躊躇っている暇はありません! さあ!」
 押し出すようにシルヴィアはロビン達を先に進ませて、前に立つ冒険者を見つめた。
「直接対決をすることになるとは思わなかった。でも逃がしはしない」
 心底楽しそうな戦士に向かいシルヴィアは、邪笑で返す。
「貴方達に実力で叶うとは思っていませんよ。だから‥‥今回は援軍を呼びます」
「援軍?」
「ルヴィリア!」
 突然! 主の呼び声に物陰から隠れていた毛玉が一気に戦士へ飛びついていく。
「犬? わっ! こらっ! 止めろ!!」
 噛み付くでなく、足元にじゃれつき顔に飛びつく犬に目の前の戦士は明らかに動揺していた。
「これが猫だったら完璧だったのでしょうが。貴方が動物を傷付けられる人だとは思いませんから」
 懸笑いをこらえている戦士と騎士。
 だが彼らとシルヴィアはすぐに武器を構えた。
『先に進ませるわけには!』
 同じ思いで向かい合った彼らの眼前に突然! 大きな穴が床に開いた。
「!」「?」「!?」
 二人は背後に、シルヴィアは前に飛びのいた。
「大丈夫ですか?」
「エスナさん!」
 援護をしてくれた仲間の顔を見つけ、驚きの声を上げ感謝する。
「‥‥手伝います。とにかく時間を‥‥」
「ええ」
 犬をやっとのことで捕まえ、近くの部屋に放り込んだ戦士は穴を見つめながら微笑んだ。
「呪文が終わるまで五分ってところか。それまでに結果が出るかな?」
「結果?」
 苦笑する仲間と共に彼女達と『ある方向』を見つめて‥‥。

「ティズさん!」
 二階最奥。やっとたどり着いた部屋で冒険者とロビンは待ち構える女騎士と戦士縛られるティズ。そして窓際に立つレティと対峙した。
 騎士は剣を構え言い放つ。
「こんなことはしたくは無かったのですが、侵入者には心からのおもてなしを」
「面子や世間体ばかり考えて、片親のいない子供がどんな気持ちなのかを考えての行動じゃないよ。妊婦さんに負担は絶対かけちゃダメ!」
「貴方にそのセリフお返しします。私は侵入者を撃退するだけです」
 彼女の目は厳しく、真剣。
 カノンはこっそりと用意した呪文を女戦士に向けて放つが‥‥
「効かない? 何故?」
 動揺するように目を瞬かせた。
「女性を無理やり眠らせるのは趣味悪いよ?」
 ニッコリ笑った戦士の手はナイフの刃で紅く濡れていた。
「なんという‥‥」
 目の前に立つ強い意志に呆然とするロビンに
「‥‥私が‥‥の間に‥‥」
「えっ?」
 小声で囁いたクラウディは彼女達の眼前に立った。持つものは何もなし。
 そしてクラウディは目を瞑り手を合わせる。完全に無抵抗。驚いた表情でクラウディを見つめる二人。
 完全に意表をつかれた一瞬の隙。そこを狙ってティズは窓際のレティを
「行って!」
 身体で押し出した。
「ロビンさん! 彼女を連れて! 早く!」
「ロビン!」
 愛する人を恋人は抱きしめる。だが、彼の足は止まった。このまま逃げていいのか、と。
「逃げるのか?」
 背後から声が聞こえた。振り返るロビン。そこには仮面の騎士がいる。白い髪のハーフエルフも彼を見つめている。。
「何かから逃げた先に幸福なんて無い。それでも‥‥」
「逃げるのか?」
「お行きなさい。早く!」
 味方の冒険者達は促す。だが、ロビンの足は動かなかった。
「ロビン?」
 恐れでなく、恐怖でなく‥‥。
「お屋敷の冒険者さん。お願いがあります」 
「なんですか?」
 女騎士は問う。
「どうか、取り次いで下さい。ご両親に話がある。と」
 言った彼は、足元に落ちたクラウディの竪琴を拾い奏でた。
 朝靄の中、室内外に響くその音を聞いた者は戦いを止めた。そして感じたという。
 彼の、心からの決意を。 
 
○遠い目標
 駆け落ちを思いとどまったロビンは寄り添うレティと共に運命と立ち向かおうとしていた。
 二人の眼前にはレティの両親。
 その間にエスナとカノンは立ち懸命の言葉を紡ぐ。
 心からの思いを。
「生まれてくる子供や愛するロビンさんを引き離すことによってレティさんを不幸にして良いのですか? それが親のすることなのですか?」
「私も‥‥生まれてから今まで‥‥色々迫害されてきました‥‥でも‥‥」
 恋人達と、花嫁奪還とは別の形で二人の恋を助ける冒険者を少女達は少し離れたところから俯きながら見つめていた。
「私達のした事は、余計な事だったのでしょうか?」
「余計‥‥、とは思いませんが余分だったかもしれませんね。結局のところ彼らの運命を決めるのは彼らだけ、私達にできるのは結局その手伝いだけなのですよ」
 ニッコリと、フィーナは優しく、だが鋭く二人の甘さを指摘する。
「結局私達は世間知らずだったんですね。恋人同士が一緒に暮らすことが幸せだと思い込んでいました」
「何が幸せかなどというのは人によって違います。それは人が押し付けるものでもないのですよ」
 さらに頭が下がるベルとヴィアンカ。今回の依頼でまったく役に立たず、しかも勘違いを指摘され見るもかわいそうなほど落ち込んでいた。
 そんな二人の背中を笑ってティズは、パン! 大きく叩いた。背筋をまっすぐと伸ばすように。
「でもね。余分だったとしても無駄じゃなかったよ。きっと。この依頼が無くて二人だけだったらきっと彼らは決断を下せなかった‥‥それにね」
 ティズが指差す先で二人はエスナの話を真剣に聞いている。いつか生まれてくるかもしれない未来の我が子の言葉。
「でも‥‥こんな私でも必要としてくれる人が居る‥‥愛してくれる人が居る‥‥。だから‥‥今、私は幸せです‥‥」
「どんなに悔いても“時は戻らぬ”それを気付かぬものは多いが、もう彼らにその心配は無かろうと思う。それは確かな功績でござるよ」
 外見とは合わぬ静かな声で告げる幻蔵の言葉を、少女達ははい、と素直に聞き頷いた。
「レティさんの子供だって‥‥きっと幸せになれる。だって‥‥二人の愛があったから‥‥愛に包まれて生まれてくるんだから‥‥」
「僕はもう逃げません。必ず、レティとその子を幸せにしてみせます。だから‥‥どうか!」
 恋人達の手は冒険者の思いという後押しを受けて、今、強く、しっかりと握られていた。
「もう大丈夫ですね。ご両親も‥‥もう既に話を聞く体勢には入っておられた。私達のした事は彼らの決意の為の後押しだけ」
「恋人達に決心を固めさせ、両親にその決意を知らせ、さらに二人の味方を作る‥‥。向こうの依頼人が誰かは知らないが‥‥どうしたのかな?」
 手を握り締めるシルヴィアにルーウィンはクラウディとの会話を止めて顔を覗き込む。
「なんでもありません」
 そう言いながらシルヴィアはまた敗北感に打ちひしがれていた。
 思っていたのとは違うハッピーエンド。それを仕組んだのは冒険者と一人の騎士。
(「あの方は一体どこまで考えて‥‥」)
 目指す背中の遠さに眩暈がしそうだ。
 だが、下を向いている暇など無い。
 ロビンは言った。
「護符は頂いてもいいですか? 使うことは多分ありません。お守りとして大事にします。‥‥もう逃げません。運命さえも変えてみせます」
 そう、逃げてはいけないのだ。
 目標から、願いから。

 そして彼らは歩き出す。
 目指すものは遠くても一人ではないのなら、歩き続けるなら思いはいつか叶うと信じて‥‥。