【星の彼方】ふしぎな双子

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月29日

リプレイ公開日:2007年07月31日

●オープニング

 誰でも一度はある筈だ。
 空にまたたく星を掴もうと思ったことは。
 どんなに手を伸ばしても届かないと解っている。
 でも、だからこそ心から憧れだけを持って見上げる事ができるのだ。
 だからその日も仕事帰り、夜空を見上げ、遠い自分の夢を星に重ねる‥‥。

「丁度、今頃の季節じゃったか? 異国の星合の夜、とか言われるのは」
 流れる星が落ちる前に願いをかけるとか、なんとか聞きかじりの話がいくつか混ざっているような気がするが気にしない。
「なんだか、今日は流れ星が随分多いのお。でも願い事をするには‥‥よい‥‥か‥‥!!!?」
 彼は足を止めた。
 見上げた夜空に違和感を感じ、凝視すること数秒‥‥‥‥間違いない。星が、大きくなっている!?

 先ほどまで、夜空に在する無数の星と同じ大きさだった光はどんどんその大きさを増していく。
 やがて目を覆わんばかりに大きくなったその光は‥‥。

『ズウゥウウゥウウン!!』

 轟音と大きな地響きを残してキャメロットの外れ、森の奥に落ちていった‥‥。
 そして‥‥
 翌日、キャメロットの街では久しぶりに同じ一つの話題が人々の口に上ることとなる。


「‥‥よいか? 大人しくしているのじゃぞ」
「おや、図書館長殿」
 係員は嬉しそうに、楽しそうに来客を迎えた。
 宮廷図書館長エリファス・ウッドマン。彼がギルドにやってくるのは久しぶりだ。
 しかも、一人ではない。
 この暑いのに長いフード付きマントを被った人物を連れている。
 ‥‥二人。随分と小柄な体格をしているようだ。子供だろうか?
 それ以外は、解らないのだが‥‥。
「どうしたんです? その子達は?」
「あ‥‥あの、この子達はその、わしの知り合いでじゃな‥‥。ちょっとギルドマスターと話してくるのでな」
 本当にどうしたんだろう?
 奥へと走り去った彼を見送り、思いながらも冒険者は仲間同士の話を戻した。
 昨日、キャメロットに落ちた巨大流れ星についての話だ。
「キャメロットの外れの森に大きな穴が開いていたんだってさ」
「昨日落っこちた流れ星だって、話だろ。でも、調査に出た騎士たちはその穴以外、何も見つけられなかったって言ってたじゃないか?」
「足跡らしいものがあったって話だけど‥‥ん? なんだ?」
 ふと、冒険者達は振り返る。さっき図書館長が連れてきた子供の一人が、いつの間にか後ろに立って‥‥いる?
「ジャーン! その秘密について教えてあげましょう!」
「ヒコボシ! 静かに待ってろって言われたのに!」
 静止の声を振り払い、彼女はマントを投げ飛ばす。そこには不思議な服装をした紫の髪の少女が立っていた。
「黙ってなさいよ。オリヒメ。私達はね、何を隠そう星の世界から‥‥」
「これ! ヒコボシ、オリヒメ。なにやっているのじゃ!」
 奥から戻ってきた図書館長は慌ててマントを拾い、ヒコボシの肩にかける。
「ごめんなさい。僕らの話が聞こえてきて、そのうちヒコボシ、止まらなくなってしまって‥‥」
 頭を下げるもう一人の子供。その首からフードがぱさり、と落ちた。
 顔を現したのは少年。それも少女とよく似た顔立ちの少年だった。
「‥‥まあ、よい。仕方ない。それに、丁度良かったのかも知れないからの」
 溜息をつきながら図書館長は二人の肩をくるりと冒険者の方に向けた。
「頼みがある。この子達は遠い国からやってきたんじゃ。イギリスのいろいろなところを見せてやってもらえんかの?」
「いろいろな所?」
「ええ、海や森、山や、いろんな、このイギリスのいい所を見せてやって欲しいのじゃ。一ヶ月しか、この国には滞在できない、と言うのでな‥‥せっかくなら良い思い出を作ってやりたいのじゃよ」
 仕事が忙しく休みがとれないと言う図書館長。
「この子達の面倒にかかった必要経費は、あんまり高額でない限りワシが持とう」
「最初は、キャメロットの街を案内して欲しいなあ。あ、あたしはヒコボシ。よろしくね」
「僕はオリヒメと言います。あの‥‥ご迷惑かもしれませんが‥‥よろしくお願いします」
 三人は冒険者に向けて頭を下げた。
 ヒコボシはペコンと、オリヒメは丁寧に。

 正式な依頼として出された子供達との夏の始まり。
 可愛らしい二人の正体を、まだ彼らは知らない‥‥。

●今回の参加者

 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec3458 風見 聖十郎(24歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

○キャメロット探検記
 待ち合わせは朝、ギルドの前で。
「あれ〜? お時間まちがえたデスかぁ〜?」
 上下左右をくるくると飛びながら首を捻るエンデール・ハディハディ(eb0207)に
「いいえ。間違えてはいないはずですけど‥‥、いらっしゃいませんね?」
 クリステル・シャルダン(eb3862)は答え周囲を見た。
 あの目立つ双子だ。いれば直ぐ解ると思うのだが‥‥。
「やれやれ。朝メシはぁ、まだかいのぅ〜」
 ギルドから出てきてからずーっとこの調子のオルロック・サンズヒート(eb2020)はともかく
「どこかで迷子になってるのかなあ。大丈夫かなあ?」
「道に迷ってるんかもしれんなあ。ちょいと迎えにいこか?」
 流石にカルル・ゲラー(eb3530)や風見聖十郎(ec3458)も心配そうだ。
「大丈夫ですよ。でもそんなに心配なら魔法ででも‥‥」
 マリエッタ・ミモザ(ec1110)が杖を握りかけたその時。
「あっ! 来たよ。来た来た」
 高く空を飛んでいたエンデールが急降下。仲間達に通りの向こうを指差して見せた。
 見れば言葉の通り少女と少年が駆けて来る。
 息を切らせる少年を少女が引っ張るように。
「もう! 遅いんだから。オリヒメは!」
「元は‥‥と、いえば‥‥ヒコボシが‥‥寝坊した‥‥から‥‥?」
 ケンカしかけていた二人は瞬きする。目の前で小さなフェアリー達が
「きたね」「キタキタ〜」
 自分達を見て笑っている?
「ジェイド。ルビー。失礼をしてはいけませんわよ。ヒコボシさんとオリヒメさん。お待ちしておりましたわ」
 くすくす、と笑いながらお辞儀をするクリステル。
 他の冒険者達も
「にゃっす!ぼく、カルルっていいます。んと、よろしくよろしくなのっ!」  
「あたしエンデデスぅ。こっちはホルス、こっちはたまたまごデスぅ。よろしくデスぅ」
「マリエッタです。外国の方とお聞きしましたが、いろいろお話を聞かせて下さいね」
「風見聖十郎や。よろしくな!」
「はぁ、何ですかのぅ‥‥」
 ‥‥‥‥最後に変なものが混ざっていたような気がするが、丁寧に、そして笑顔で挨拶をしてくれる。
 ヒコボシとオリヒメ。二人の子供達は顔を見合わせ、そして背筋を伸ばした。
「「今日は、よろしくおねがいします!」」
 その素直でまっすぐな瞳と笑みに、冒険者達の顔には笑顔の花が咲いた。

○キャメロット探訪記?
「ナウでヤングな事は、若いのに任せるかぃのぅ」
 と言うオルロックの言葉に従い、案内役は若い冒険者達が勤めた。
「キャメロットと言えばまずは、なんといってもお城でしょ〜」
「そうですね。やはりお城は外せないと思いますわ」
 案内役のカルルとマリエッタに従って冒険者達は王城への門をくぐった。
「うわ〜。おっきい家ね〜」
「全部石でできてるんだ。すごいな〜」
「王城というのはやなあ、この国で一番偉い人がいてはるところや。と、言ってもうちはまだあんまし良くはしらんけど」
 目を丸くする二人に聖十郎が説明し
「王は国の要。それを騎士の方々が守っているのですわ」
「素敵な王様と王妃様がいらっしゃるのですよ」
 クリステルとマリエッタが補足する。ついでにイギリスの人や今までの出来事についても軽く話をする。
 ヒコボシは周囲を面白そうに見ているだけだが、オリヒメは興味があるようだ。真剣に聞いている。
「イギリスには円卓と言うシステムがあって優れた騎士の皆さんが身分訳隔てなく取り立てられてこの国を守っておられるのです」
「わたしがこちらに来る前に、大変な戦があったようです。‥‥戦いは嫌ですね」
「ええ。本当は誰も戦いなど望んでいないと思いますよ。例え騎士であろうと‥‥」
 静かに語る二人につられたように周囲も静かになる。それはそれでいいのだが‥‥
「あ〜、ほら見てみて、あのコユイ顔のおぢさんがこの国のおうさまのアーサーおうなんだよ〜☆」
「コユ‥‥」
 空気を換えるように指差したカルルの言葉に今度は爆笑が広がる。
 周囲の騎士や当の本人は首を捻りクリステルは苦笑していた。
 シリアスな話も悪くない。だがどうせなら思いっきり楽しもうと、楽しませてあげようと、冒険者達は思い、決めていた。

 王城から商店街などを回り、冒険者達は次にエチゴヤを覗く。
「うわ〜。これが地上のお店? 珍しいものいっぱ〜い!」
「ヒコボシ! 勝手に触っちゃダメだよ!」
 マントやアクセサリーと何にでも興味津々、キラキラの顔で見つめるヒコボシと対照的にオリヒメは一歩引いたように、でも興味深そうに品々を見ている。
「オリヒメさんとヒコボシさんの国にもエチゴヤさんはございますか?」
「あたし達のとこにはエチゴヤってあったかなあ? だってあたし達は星から‥‥」
「星から?」
「あ! なんでもないない。この首飾りステキ〜」
 首を傾げるカルルにヒコボシは口を押さえると賑やかに陳列棚に向かいなおす。
 一方オリヒメはといえば
「ぅむ、ぅむ、せっかく遊びに出たんじゃ、この小遣いで、好きな物を食って、欲しい物を買って、たんと楽しむじゃよ」
 とオルロックが渡したお小遣いにも手をつけてはいないようだった。
「オリヒメさんは、何か興味をお持ちになったものはありませんの?」
「‥‥あ、いえ。いいんです」
「これ、いいデ‥‥うわあっ」
「あら?」
 ヒコボシの頭から落ちかけたエンデをクリステルは受け止める。
 手に取っていたものを置いて走り出る少年と、彼が置いたものをクリステルはエンデと共に優しい微笑で見つめていた。

 お城と買い物を終えた昼下がり。
「ヒコボシさん、オリヒメさん、リコリスのクッキー、あげるデスぅ」
 と言ってエンデからもらったクッキーもみんなであらかた食べてしまったので。それでもお腹が減ったので
「キャメロット名物といえば、冒険者酒場だよ〜」
 冒険者酒場で昼食となった。
「お口に合えばよろしいのですが、お好きなものを召しがって下さいね」
「何が、何でどんな味するのかなあ? ね、全部頼んでいい?」
 今日はおごる。そう言ったマリエッタの顔が白くなる。‥‥流石に全種類頼まれたりすると泣けるが
「ダメ! お腹壊すよ」
 ヒコボシの静止に少しホッとしてマリエッタもメニューを見た。
「エンデのおすすめはデスね〜」
「ここでの慣わしはまず、『気の抜けたエール』を頼むことなんだって!! 女将さんの熱い視線は愛! だよ」
「食事の後はコロセウムに行こうや」
「その後は、冒険者街に行きましょう。面白いものが見られますわ」
 楽しげに食事をする冒険者達。その賑やかさの中。
「昼メシはまだかの〜」
 気の抜けたエールを煽り呟く老人の姿があった。

○ほんの少しのホームシック
「もう! どこに行ったんです!」
「いくら動物好きでも確かにいきなりグリフォンに吠えたてられたら驚くデス〜」
 マリエッタは溜息をつきながら空から下を見つめた。
 探しているのはオリヒメ。
 クリステル提案の冒険者街珍獣探索ツアーで、いきなりグリフォンに吠え立てられて逃げ出してしまったのだ。
「動物はお好きと聞いていたのですが、驚かせてしまったようですね」
 反省気味のクリステルはヒコボシと一緒に街の中を探している。他の皆も同様だろう。
「お姉さんから逃れようとしても、簡単にはさせませんよ」
 でも、もうじき日が暮れる。一番星が輝きだした。
「あ! いたデス」
「ホント?」
 エンデが指差した先の路地裏に確かに見覚えのある紫の髪が揺れていた。
「オリヒメさ〜ん!」
 手を振るマリエッタに気付いたのだろう。オリヒメは足を止め川辺で彼女らを待っていた。
「もう! びっくりしましたよ」
 駆け寄るマリエッタに
「ごめんなさい」
 オリヒメは頭を下げる。
「でも‥‥地上は怖いものもいろいろあるんだって思うと少し、怖くなっちゃって‥‥」
「確かに‥‥。でもどこも怖いものが無いところなんてないでしょう?」
「怖くて‥‥この街嫌いになったデスかぁ?」
 二人の問いにオリヒメは力いっぱい、首を横に振った。微笑む二人。
「なら、良かったデスぅ〜。皆のところに戻りましょうデスぅ〜」
 冒険者達はオリヒメを促しながら、ゆっくりと空に瞬く星の下キャメロットの街を歩いていった。


○今日の日記
 楽しい一日が終わり双子達は家へと帰っていった。
『とっても楽しかったよ!』
『今日のことは絶対に忘れません。お土産も大事にします』
 そういい残して。
「僕も、今日のことは絶対に忘れないようにしようと思いました。まる」
 カルルは羊皮紙に思い出を書きとめている。
「思ったよりも素直なお二人でしたわ」
「年齢の事も聞かれないでよかったです」
 冒険者達もおおむね楽しい一日を過ごしたようだ。
「でも、あのお二人はどこから来たんデスかねぇ〜。ジャパンの服に似てたデスけど〜」
「ジャパン風ではあっても、あれは多分ジャパンのものではないと‥‥」
 思い出話に花を咲かせる仲間の横で、オルロックは一人、いつの間にかポケットに入っていた小さなものを手の中で転がした。
 それは、小さな星型の水晶。光を弾きキラキラ輝く。
 双子達の笑顔のように。
「また、来るんじゃよ〜‥‥」
 酒場の片隅で窓を開けながら、星を見ながらオルロックはそう静かに呟いた。

「やっほー! きょうもよろしくね〜」
「はい?」
 翌日元気に冒険者酒場にやってきた存在に、彼らは目を丸くする。
「ヒコボシ?」
「帰ったんじゃ‥‥なかったの?」
 カルルの呟きにヒコボシはなんで? と首を傾げる。
「まだ少し時間があるもん。もっと遊ぶの! さ! 行こう行こう!」
 呆然とする冒険者達を引っ張って外に行くヒコボシ。後ろでオリヒメは謝るように頭を下げた。
 その服の腰には昨日クリステルに貰ったお土産のナイフが‥‥。
「仕方ありませんわね」「もう少しつきあってあげましょうか!」「わーい。もっと遊べるデスぅ〜」
 楽しげに笑いながら冒険者達は立ち上がる。

 夏の蜜月はまだ、もう少し続きそうである。