占い師の見る未来

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2004年09月01日

●オープニング

 教会横の橋のたもとで時々店を開いている占い師がいる。
 水晶玉、タロット占い、星占い。どれをとってもよく当たると評判だった。だが‥
「あれ? 今日も休業? つまらないなあ」
 その頃、彼女は一人悩み、涙に暮れていた。
「私は‥どうしたら‥いいの?」

 彼女が冒険者ギルドを訪れたのは、その日の夜更けだった。
 人目を憚るように、顔を隠してこっそりとやってきた彼女は、その場にいた冒険者達に小さな声で告げる。
「‥お願いが、あります。一人の人を‥守ってください」
 今にも消え入りそうな小さな声だが、その声にある冒険者は気付いた。以前聞いたことがある。
「あんた、橋のところの占い師シャーラじゃ‥?」
 その言葉に、彼女は覚悟を決めたのだろうか? 顔を隠していた布を取り、シャーラは彼らに頭を下げた。
「そのとおりです。ですが、女占い師としてではなく、一人の女として依頼をしたいのです」
「‥ってことは、守って欲しい人ってのは、あんたの恋人かい?」
 冒険者の問いに、首を縦に振りかけながらも、いいえ、と彼女は告げた。
「恋人ではないのです‥実は‥」

「また、おいでくださったのですね」
「占いもしないのに、しょっちゅう押しかけてすみません」
 シャーラの言葉に、彼は照れたように頭を掻いた。彼は近頃よく来る近くの村の青年だった。
 派手ではないが、誠実で優しい彼は占いを願いはしなかったが、月に数度訪れてはシャーラに笑いかけた。時に花を贈り、時にはこの街に住むという友人を連れて来ることもあった。貴族の館に仕えるという彼の出世運や、恋人の恋占いをシャーラに頼み、それを見守っていた。いつも、優しい笑顔で。
 いつの間にか、シャーラも彼が来てくれるのを心待ちにするようにさえなっていた。
 そんなある日、いつもと違う顔つきで彼はやってきた。そして、言ったのだ。
「占いを、お願いできますか? 僕がこれからやろうとしていることが‥叶うかどうか‥」
「? はい」
 不思議に思いながらもシャーラは札を並べ‥、そして捲る。
「えっ? まさか‥?」
 間違っているのだろうかともう一度。だが変わらない結果に強張ったシャーラの顔を見て、彼は苦笑する。
「やはり‥失敗ですか?」
「どうして‥ どうしてこんな結果が?」
「いえ、いいんですよ。覚悟はしていましたから」
「そんな! 止めてください。危険です!」
 必死にシャーラは止めた。だが、彼は首を振る。
「そうも、いかないんです‥。ありがとうございます。決心がつきましたよ」
 彼は微笑んで、シャーラに小さな皮袋を二つ渡した。
 一つは黒いリボンで、もう一つはピンクのリボンで結ばれている。
「もし、僕が‥あなたの占いの結果どおりになったとしたら、黒いリボンの品をお城の衛兵に預けてください。もう一つは、あなたへのお礼です。今までとても楽しかったですよ」
 シャーラは追う事も、止める事も出来なかった。彼女のテーブルの上から一枚の札が落ちる。
 『死神』の札が‥

「あの方は、死ぬ覚悟なのです」
 そう言うと彼女は黒いリボンの袋をそっと解いてテーブルに転がす。そこには銀のロザリオが入っていた。赤黒い何かがこびりついた‥
「私も、キャメロットで長いこと仕事をしております。これが意味するものも解ります。」
 数日前、ある路地で女性の遺体が発見された。腹を刺され、金目の物を取られていたから物取りに襲われたと言われていたが‥。
 彼が、どういう理由と状況でこの証拠を手にしたかは解らない。ただ‥袋の中にはこう書かれたメモが入っていた。
『物取りの犯行ではありません』
「もちろん、あの方は犯人ではありません。おそらく‥」
 口を濁した彼女の意図は冒険者達にも伝わった。
「これは、本来占い師としてはやってはいけないことなのです。未来を変えようとすることも、依頼人のことを他人に話すのも‥」
 顔を明かした時点で、彼女はもうある決意をしているようだった。 
「ですが、運命に逆らっても、私はこの占いを外したいのです。彼は、おそらくこのままだと数日中に目的を果たせず死に至ります。その前に彼を見つけ、止めてください。お願いします」

 運命は決して変わることなく、占い師はその断片をカードを通して知るだけだと、師匠は言った。
 だが‥
 彼女は前を向いた。涙に濡れてはいるが、揺ぎ無き強い瞳で冒険者達を見て‥

「どうか‥お願いします」

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1134 フィアンナ・ハーン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea1350 オフィーリア・ベアトリクス(28歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1745 高葉 龍介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3140 ラルフ・クイーンズベリー(20歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5510 シーン・イスパル(36歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5884 セレス・ハイゼンベルク(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 とにかく、時間が無かった。
「もっと、時間が‥、いえ、言っても仕方ないことです」
 シエラ・クライン(ea0071)は頭を振った。考えを切り替える。
「シャーラさんは、酒場に待機して頂けないですか?」
「俺はシャーラが同行して一緒に探すと思ったんだがな」
「私は彼女に、彼の居場所を占って貰おうと‥」
 シャーラの行動一つをとってもシエラ、高葉龍介(ea1745)、フィアンナ・ハーン(ea1134)の考えも三様。どこかかみ合わない。
 だが
「迷っている場合じゃないわよ、とにかく行動を決めましょう」
 シーン・イスパル(ea5510)の真剣な瞳に仲間達も頷く。
「私は貴族の館を回ってみる。貴族に仕える友人ってのを捜してみるつもりだ」
 ナイトのスニア・ロランド(ea5929)は礼服を着こなしていた。近場から貴族の館を回ってみようと思っているらしい。
「俺は女性の事件を調べてみる。事件の被害者なら身元も解っているだろうから‥」
「なら私も。話を聞くには女がいたほうがいいでしょ?」
 『彼』は殺人事件の犯人と接触しようとしている。それは全員の共通見解だった。故に犯人に近づければ彼にも近づく。セレス・ハイゼンベルク(ea5884)はそう考えた。シーンも同行を決めたらしい。
「手分けするなら拠点は必要です。‥フィアンナさん、酒場で彼女といてくださいませんか? 高葉さんは捜索を‥」
「解りました」
「了解。捜索は得意ではないが貴族の館を中心に捜そう」
 シエラの提案に二人は頷く。反対する理由は無い。
「とにかく行動あるのみ。急ぎましょう!」
 運命との競争が今、始まる。

 フィアンナはシャーラに彼をもっと占い、捜そうと声をかけるがシャーラは首を横に振る。
「居場所は占ったのになぜ?」
「‥貴方は占えますか? 愛する人を‥自分の運命を‥」
「あ‥」
 フィアンナは目を地面に落とす。そこに
「‥ロザリオを見せて頂けますか?」
 遅れてきたオフィーリア・ベアトリクス(ea1350)がおずおずと問いかけた。
「‥どうぞ」
 シャラ‥
 オフィーリアの手にロザリオが移る。それ自体はエチゴヤでも売っている普通の装飾品だ。
 だが‥赤黒くこびりついているもの。これは、間違いなく血‥
「細工とか無い? どこか開くとかメッセージが入っているとか?」
 丹念にロザリオを調べるオフィーリアの手元をラルフ・クイーンズベリー(ea3140)も覗き込む。
「‥仕掛けは‥無いですわね。私も‥あるのではないかと‥ん?」
 手が止まる。十字架の裏に、小さく文字が彫ってあったのだ。
「A to M?」
「AからMへ、Aが男の頭文字、Mが恋人の頭文字じゃないかな? 殺された女性がMなら周囲の人がAを知っているかも‥とにかく捜そう!」
 先に事件を調べに行った二人の所に行って、情報を交換を、オフィーリアとラルフは立ち上がる。
「あ、そうだ‥シャーラさん、聞いていい?」
「はい」
「その友人が頼んだ占いって何? 言ってはいけないんだろうけど?」
 口ごもりながらもシャーラはラルフの問いに答える。
「恋占いと、運勢です。出世できるか‥」
「結果は?」
 流石の彼女も首を横に振る。言えない‥と。
「解った。とにかく急ごう、オフィーリアさん」
「そうですね‥行きましょう」
 シャーラは冒険者を見送る。ピンクの袋を胸に抱いて。
 フィアンナは彼女を献身的に励ましていた。

「皆に相談しないと‥」
 スニアは見込みの甘さを悔いていた。
 貴族の使用人に落し物を届けるふりをして彼の友人を捜す。その行動は思う結果を彼女に与えてくれなかった。
「今、忙しいんだ。出直しな!」
 身分の違う貴族の館に、ナイトとはいえ冒険者が行って簡単に取り次がれる筈は無い。
 取り次がれても名前も解らない人物を多くの使用人の中から探し出すことも難しかった。
 似顔絵はシャーラに聞いて自分が描いたが、絵など貴族の嗜みの一端でかじっただけ、はっきり言って下手。蒼い瞳、金の髪が美しい青年、程度の役にしか立たないと思われた。
 二日で調べたられた貴族の館はわずか三件、全て空振り。今日行った館などは結婚式が近いと門前払いだった。
 彼女は苦い思いを口の中に噛んで酒場へと戻っていった。

 逆にこの二日間、四人で調べた殺人事件の方は有力な情報がいくつもあった。
「殺されたのはマリアだよ。母親と二人暮しで仕立て屋をしてたんだ」
「美人で腕がよくってさ、いくつも貴族の館に出入りが許されてたよ」
「恋人? いたよ。確か?」
「美男美女でお似合いだったけど、少し前には教会で泣いてるマリアを見たわ。振られたのかしら?」
「そこにあの事件でしょ。可哀想よね。残されたお母さん、もう憔悴しきっててさあ‥」
 シーンとセレスは、マリアの母親にまでたどり着き話を聞くことが出来た。
「‥あの子は、ある館で知り合った若者と恋に落ち結婚の約束をしていたのです。指輪や装身具を贈られとても大事にしていました。ですが急に結婚の約束を破棄され、そのせいで‥正気を失ない、夜もふらふら彷徨って‥だから‥だから‥」
「あの‥その恋人の名前ご存知ありませんか?」
 涙に暮れる母に、酷だと思いながらもシーンは聞く。
「‥一度だけ顔を見ました。金髪の美しい男で‥友人らしい人がアベル‥と」
 二人は頷きあった。
 アベル オフィーリアの見つけたロザリオの刻印『A to M』と繋がった!
 二人は母親に彼女の出入りの貴族の館を聞いて直ぐ家を出た。仲間の元に駆け出す。
 時間はもう僅かだ。  

「本当ですか?」
 宿屋の主人の言葉にシエラは耳を疑った。ほんの数刻前まで『彼』らしい人がここにいた、と主人は言う。
 たった一人でいないかもしれない人物を探すのは用意ではなかった。シャーラの占いで場所を絞り、いくつもの酒場、いくつもの宿屋を捜してやっとたどり着いたのだ。
「ああ、クラウスさんだろ? 常連さんでね、いつも泊まってくれたよ」
 彼は近くの村から来たようだとシャーラは言っていたではないか? キャメロットで泊まる宿があった筈。
 真っ先に宿屋を探す。なぜそれに至らなかったのか?
「何か‥荷物とか残していませんか?」
「ん? 戻ってくるだろ? 普段着で出て行ったぜ。彼。真剣な顔はしてたけどよ」
「お願いです! 部屋を見せて下さい! 人の命がかかってるんです!」
 本来なら断るところだが、シエラの迫力に押される形で主人は部屋に案内した。
 部屋は綺麗に整頓され、手紙が一通机の上に置かれている。
『宿の主人様』
 そう書かれた封筒を、彼は手に取り、開き‥そして取り落とす。
「なんだって!?」
 拾って読んだシエラの顔も蒼白になる。
「この手紙を酒場の私の仲間に! 急いで! まだ間に合うかも‥」
 それだけ言うと彼女は駆け出した。仲間を待つ時間も今は惜しい。
 頭の中には彼の、手紙、いや遺書が渦をまいて消えなかった。

『私には、同郷の友人がおります。
 彼は魅力的な人で、多くの人に愛され幸せに暮らしていました。ですが‥その魅力が仇になったのでしょうか?
 彼は、罪を犯しそしてそれを隠したまま偽りの幸せを掴もうとしています。
 私はそれを止めるために来ましたが、力及ばず倒れる運命だそうです。エチゴヤ裏の森で、私が死んで見つかった時には、その時はどうか、この手紙を冒険者ギルドかお城に持っていって再調査を依頼してください。
 彼の故郷の木の根元に証拠が埋まっています。
 私の荷物と全財産を残します。それを宿代と調査の依頼料に。
 よろしくお願いします。 クラウス』 

(「お願い! 間に合って!」)

 シエラがその森に足を踏み入れた時、影が飛び出すのが見えた。一つ、二つ、三つ?
 彼女はそれを放置した。彼を見つけ出すのが先!
「どこです? 返事をして下さい!」
「‥う‥」
「クラウスさん!」
 それは奇跡に近かった。シエラは彼を見つけ出したのだ。
 全身が切り傷と血にまみれ‥足は魔法の氷で繋がれて、身体はどんどん冷えていく。まだ生きているのが不思議なほどに‥
「しっかりして! シャーラさんが待っています!」
 ポーションを惜しまず使い、応急手当の技術も必死に駆使し彼女は彼の命を繋ぎとめようとした。
(「早く教会に‥。でも私一人じゃ運べない‥誰か! 早く!」)
「シエラ! 彼は?」 
「龍介さん! 手を貸して。早く!」
 悲痛なまでの叫びが森に木霊した‥

 聖堂で彼等は結果を待っていた。
 彼らに今できるのは自らを責めることだけ‥
「くそっ! 犯人捜しにかまけて、肝心の彼の保護にどうして頭が回らなかったんだ!」
 セレスの叫びは、事件調査組全員の心情だった。
 彼をちゃんと捜したのはシエラ一人だったのだから‥
「俺達は‥最優先事項を取り違えた。言い訳の仕様が無い‥」
「犯人が解っても‥なんの意味があるでしょうか?」
 かちゃ‥
 扉が開きシエラが出てきた。表情は暗い‥
「どうでしたか?」
 フィアンナの言葉にシエラは顔を上げた。
「命はなんとか‥でも意識が戻りません。‥今は、シャーラさんが付き添っています」
 死の運命からは、ぎりぎり彼を守れた。だが助けることができたとは‥とても言えない。
「彼の怪我は私達の責任です。時間が無かった。そんなのは理由になりません。本当に大切な事を見誤り成すべき事ができなかった、これが結果です」
 静かだが厳しいシエラの言葉から、彼等は逃げなかった。

 占い師シーンは語る。自らに言い聞かせるように
「私達は運命の流れに勝てなかった。でも、努力と対策そして信念があれば別の流れ違う未来が見えるようになると私は信じています」
「ええ、このままでは終われない‥ 運命の神とやらにいつか、リベンジよ」
 聖堂を取り巻く蒼い光が彼らを包み込む。

 過ちは決して消えない。消さない。繰り返さない。
 彼らの何人かは、いや、全員かもしれない。
 
 そう誓っていた‥