【お化け屋敷始めました?】従業員募集

■ショートシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月23日〜08月28日

リプレイ公開日:2007年08月30日

●オープニング

 毎年、夏恒例となったそのイベント。
 今年、その依頼を持ってきたのは子供達だった。
「おじさん! この依頼出してよ」
 背伸びする少年から依頼書を受け取って内容を確認する。

【ホラーハウス 従業員募集。 
 面白い人求む。 薄給冷遇。
 雇用条件
 1、子供と協力して仕事を行ってくれること。
 2、お化け屋敷に来るお客や従業員に、決して危害を与えないこと。
 3、屋敷の中をなるべく壊さないこと。
 4、ハーフエルフに対して偏見を持たないこと】

「おい! これ誤字ってないか?」
「間違いじゃないよ。今年のお化け屋敷はさ、俺達だけでやるんだ!」
 心配そうに問う係員に子供達は胸をはる。
「俺達の住んでる古い家、毎年夏になるとお化け屋敷やってるんだ。で、今年は商人のおっさんが、俺達が好きにやっていいって言ってくれたんだ」
『君達がやりたいのなら、今年のホラーハウスの運営は君達に任せよう。私は手助けはしない。力やアイデアを借りるなら自分達で冒険者を頼みなさい。その代わり、収入は君達のものだ』
 街の元浮浪児達を保護している商人はそう笑ったて言ったという。
「だから、薄給冷遇なのか?」
「そういうこと。俺達の財布から出るから、あんまり報酬は出せないと思う。でも、もし儲けが出たらその分はちゃんと分配するよ」 
 勿論、冒険者の指示には従うし、できることはちゃんとやって働くと言う。
「毎年、これを楽しみにしてくれている人も、いるんだってさ。だから、頼んだぜ」

 頷き、笑い、係員は依頼書を受取り、貼り出す。

 もう一枚の羊皮紙と一緒に。

●今回の参加者

 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb7109 李 黎鳳(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

○やってきた先生達
「いらっしゃい! 来てくれてありがとう!」
 依頼に応じてくれた冒険者達を子供達は全快の笑顔で出迎えた。
 そのお化け屋敷とは縁遠い出迎えに
「あらあら、ありがとう。可愛い子達ですわね」
 フィーナ・ウィンスレット(ea5556)は優しい笑顔を向ける。
「お久しぶりです。ふむ、掃除はちゃんとやっているようですね? 今回も宜しく御願いしますね」
「お久しぶりだね。レン君。皆、元気だった?」
 見知った顔である陰守森写歩朗(eb7208)に李黎鳳(eb7109)だけでなく沢山の冒険者が来てくれた事に、少し驚いたり緊張していた子供達もその笑顔に表情を緩めた。
「ふむ、お化け屋敷か‥‥拙者も一肌脱がせて貰おう」
「みんなでお化け屋敷を盛り上げるなの〜♪」
 尾花満(ea5322)やガブリエル・シヴァレイド(eb0379)も気兼ねなく笑いかけてくれる。
 嘘や偽りの無い本当の優しい笑顔の冒険者達に子供達はもうすっかり懐いていた。
「楽しそう。‥‥混ぜて貰えるかしら。蛇はイヤではない? ほら、ククル。ご挨拶‥‥」
 気遣うサリ(ec2813)の蛇どころか森写歩朗のゴーレムやエレメンタラーフェアリー、満の埴輪さえも子供達にはもう友達だ。
「これは‥‥お化け屋敷っていうより、人外魔境だねぇ」
「飛炎、あまり悪戯はダメですからね。でも、どのようなものにしましょうか? 皆さんはどうしたいですか?」
 いつの間にか友達を見つけ輪に入ってじゃれ合うエレメンタラーフェアリーの額を小突きながらワケギ・ハルハラ(ea9957)は問いかける。
「そうだね。思いっきり悲鳴を上げさせたいなあ」
「でも、どんなのだったら驚いてくれるかなあ?」
「普通の人だったらともかく冒険者はなかなか驚いてくれないよね〜」
 なかなか具体的なイメージは出てこないようだ。
「昨年はどうでしたっけ?」
 子供達からの意見をワケギは引き出し
「では、少しお願いがありますの。お鍋を貸して頂けないかしら?」
 フィーナが助け舟ならぬ、助け鍋を出す。
「お鍋? 大きいのならあるよ」
「あら、理想的♪」
「お鍋から煙出る? その煙で前の人が見えないほうがいいよね〜」
「んじゃ、魔法使ってあげる。霧あたりが屋敷にも被害を与えないかも、なの!」
「飾りつけと、仕掛けを手伝ってもらえますか? 大丈夫。この子は怖くありませんので」
「ねえねえ、そいつに乗れるかなあ?」
 一度動き始めると、子供達のやる気もアイデアもくるくると回り始める。
 まるで先生になった気分だ。ケンブリッジの教師もこんな感じだったのかと思いつつ、ワケギも、皆も真剣に子供達と向かい合っていた。
 そして、中でも熱心な葉霧幻蔵(ea5683)は
「フフフ‥‥今年もゲンちゃんレボリューション開始なのである」
 フィーナに負けぬ邪笑で仲間達と自分の計画を見つめていたのだった。

○仕掛けと準備
 天上から幾重にも紐を吊って
「これを、その子の手に結んでもらえますか?」
 森写歩朗は下で待つ子供達に声と紐を投げた。
「はーい」
 良い返事と共に子供達が指示に結んでいく。
 なかなか器用で仕事が速かった。
 ここにいる子供達は仕掛け準備係。中年齢の子達がメインだ。
 小さい子達は
「見てみて〜。お着物着せてもらった〜」
 嬉しそうに向こうから走ってくる。後ろには見守るように微笑むサリの姿があった。
「一緒に座敷童子しましょうね。そうやってワーッと脅かすんですよ」
「「はーい!」」
 元気のいい返事にサリもすっかり優しいお姉さんモードだ。
「開店までもう少しです。用意はよろしいですか?」
 黒衣の魔女が静かに足音をたてながらやってきた。
「はーい‥‥」
 そこで返事は止まった。彼女の足元には黒猫と背中に隠れた少女がいる
「どう‥‥かな?」
 お揃いの衣装を着せてもらった小さな魔女。
「うわ〜っ! 可愛いリンちゃん♪」
 手を広げて駆け寄る黎鳳にリンと呼ばれた少女は顔をりんごのように真っ赤にして下を向いた。
「やっぱり可愛い女の子はいいですねえ〜。おしゃれのさせがいがあります。一緒に受付お願いしますね」
「でも‥‥私‥‥」
 口ごもる少女。その気遣いの意味をちゃんと解っているから
「大丈夫。ここはお化け屋敷だし、誰も気にしないわ。皆お友達なんでしょ? 私もお友達に加えてくれるかしら? ほら、耳もよく似ているし背はあまり変わらないけれど、れっきとした大人なのよ」
 サリはリンの手を取り優しく笑いかけた。満も同意の顔で頷く。
「いろいろな人物がいて当たり前、気にする必要などないぞ」
「ね? レン君もそう思うでしょ」
「えっ‥‥? あの‥‥?」
 突然黎鳳に話題を振られて焦ったのだろうか? 子供達とお化け屋敷を指揮する最年長の少年は
「うん、似合ってる‥‥」
 一言だけ、頬を紅くしてそう頷いた。互いの顔が鏡に映したように紅くなり‥‥
「おやおや‥‥」「あらあら」
 経験豊かな冒険者達は小さく笑みを浮かべる。そして
「さて、そろそろ用意を始めるとしよう。お客さんも集まってきているようだ」
 という森写歩朗の声に促されて散っていく者達の中で黎鳳は、小さく、本当に小さな溜息をついた。
「黎鳳さん、行きましょう!」
 自分を元気よく呼ぶ少年の背中に向けて。

○優しいお化けたち
 お化け屋敷というのは涼を呼ぶ企画である。
 怖くないと勤まらない。
 その点で、今回のお化け屋敷も良くできていたと評判だった。
「何が一番怖かった?」
 と聞かれた時、一番多かったのは
「血まみれの鬼!」「真っ暗闇の魔女」
 という答えだったと言う。
 ハート怪人や、ゴーレムの小道。ターニップヘッドのダンス。消える美女。
 それぞれが評判になって繰り返し入る人物も数多く見られた。
 だが、そんな中で不思議な人気を得たのは‥‥悪戯好きの座敷童子だった。
 ある日、黒いマントの冒険者が一人、お化け屋敷に入ってきた。
 全てのお化けに悲鳴をあげ、思いっきり楽しんでいたように見えた彼女に
「皆? ククル?」
 座敷童子と蛇は予定よりも早く集まり、
「わっ!」
 驚く彼女の周りに顔を集めた。
「どうしたの?」「何か泣きたい事があるの?」
「どうして、そう思うんですか?」
 彼女は気丈そうに笑うが、子供達は首を振る。
「だって、泣きたそうな顔をしてたから」
 図星をさされた言葉に、彼女は目を閉じて静かに首を振る。
「泣きたかった訳では無いです。少し、寂しかっただけだから‥‥」
「じゃあさ、遊ぼうよ。ねっ!」
 手を握り、子供達は彼女の手を引いた。
「えっ? あの?」
 子供達に引っ張られ、引き起こされた彼女はそれから
「あら? お待ちしていましたわ」
「貴方は!」
 さらなるフルコースホラーハウスショーを体験させられ、もとい楽しまされたという。
 悲しい思いは恐怖の悲鳴と一緒に追い出し、楽しい思い出だけ残す。
 そんな評判が広がって、ホラーハウスはさらに客を集めたのだ。
 お客のノリもいいから、お化けたちもさらにノッて楽しむ。
「く〜る、く〜る。犠牲者がまた一人〜」
「中で拙者を見た? 気のせいでござろう? 拙者、お化け役をずっとしてたでござるが?」
「ほら、油断大敵だよ?」
 冒険者達と子供達の努力でホラーハウスは今年も大成功に終わったのであった。

○祭りの終わりと夢の始まり
 依頼期間の最終日。
「ホラーハウスの大成功を祝って、かんぱーい! なのでござる」
「乾杯!!」
 ガチン。ジョッキが、カップが楽しげな音を立てた。
 広間のテーブルには満の手作り料理や森写歩朗のお菓子が並び、差し入れのエールにワインも用意されていた。
「俺達も飲んでいい?」
 ワインに手を伸ばす子供達の手を黎鳳はペチと叩いた。
「だーめ。子供はミルクだよ」
「けちー」
 賑やかで楽しげな笑い声が少し前まで悲鳴の響いていた屋敷に広がっていく。
「もう少し‥‥あの阿鼻叫喚の余韻が‥‥欲しかったところでしょうか? ‥‥ククク」
「フィーナ姉さん、こわすぎなの〜。でもちょっと同感かな。もう少し遊びたかったかもなの」
 顔を見合わせあったフィーナとガブリエルは同じ思いでカップを合わせあう。
 二人、いや皆の共通の思いが祭りの終わりの寂しさだ。
「でも、皆さんよく頑張りましたね」
「ええ、私も楽しかったですよ」
 子供達は照れたように顔を、頬を紅くする。サリの素直な賛辞が嬉しかったようだ。
 それが微笑ましくてワケギは
「ですよー♪」
 言葉尻を捕らえる緋炎の口を押さえ食べ物を放り込んだ。そして
「あの子達は幸運です。努力次第できっと光の中を歩いていける」
「そうですね」
 森写歩朗の言葉に頷く。
 料理を覚え手伝うものもいる。テーブルの食器のいくつかも子供達の手作りだという。
 そして今回の成功。それは彼らの大きな自信となってくれる筈だ。
「此度の件、楽しませて貰った。それに加え子等の自立の手助けになったのならこれ以上嬉しい事は無い」
「そうであるな」
 呟き
「あ、伯父さん!」
「見てくれよ! 大成功だったぜ」
 笑う子供達を見つめる冒険者の目は優しさに満ち溢れていた。

 翌朝、冒険者達は館を後にする
 報酬は正直多くはない。でも沢山のお土産を冒険者達は持たされていた。
 それは子供達が揃えた心づくしと楽しい思い出を。
「ちょっとしたお茶会が開けそうですね」
「子供達の思いが嬉しいです!」
 頷きあいながら歩く仲間達の最後尾で黎鳳はもう一つのお土産を抱きしめる。
 それはスプーンと
『そういえば、レン君は好きな人って居るの?』
『好きな子はいる。でも‥‥そいつは別な人が好きなんだ‥‥』
 自分とあの子がそれぞれに抱く少し切ない思い。
 手作りのスプーン。これは愛や思いも掬ってくれるだろうか? 

 振り返り見送る子供達を見つめる。
 その顔は一つ残らず晴れやかだ。
 冒険者達は願う。あの子らの未来に光あれと。
 祭りは終わった。
 けれども子供達の未来と夢はこれから始まっていくのだから。