【お化け屋敷始めました?】お客様募集
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月23日〜08月28日
リプレイ公開日:2007年08月30日
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●オープニング
今年の夏は酷暑と言ってもいいくらい暑かった。
少しでも寒くなるんならなんでもいいから、やって欲しいと誰かがそんな事を呟いたある日。
毎年、夏の終わりごろ張り出される張り紙が、今年もギルドや酒場の壁に貼られていた。
『お化け屋敷 始めました。 夏の納涼の一時をお楽しみください。
当館にようこそ。
当館は夏の一時に涼を与えるホラーハウスです。
お一人で、またはお友達と一緒にご参加ください。
入館料は0.2G 友達をお呼びになられた場合には片方の方に二人分お支払い頂くことがあります。
館の中にはいくつかの宝物が隠されております。
発見された品はお持ち帰りくださってかまいません。
何が、誰に何が見つかるかどうかは運です。
見つからないことも勿論ありますのでご了承下さい。
なお、館の『幽霊』ならびに館そのものを傷つける行為は弁済の責務が発生しますのでこちらもご了承ください。
では、おいでを心からお待ちしております。』
今年は子供っぽい手描きのモンスターの絵なども添えられている。
冒険者にとってはゴーストやモンスターとの出会いは日常茶飯事。
でも、たまには、たまには楽しいお化けたちを思いっきり怖がってみるのもいいかもしれない。
本当に怖いことがあるかもしれないけれど、それもまた一興。
少しでも涼しくなるのならこの酷暑も乗り切れるだろう。
大好きな誰かを誘って、大切な誰かと共に夏のひと時を思いっきり楽しんでみようかと。
誰かがそう思って扉を開けるとき、ホラーハウスの幕が開く。
夏の終わりを告げる‥‥夢の幕が。
●リプレイ本文
○待ち人来たりて?
「さあいらっしゃい。涼を招くホラーハウスの始まりだよ!」
「だよっ!」
棒を回して道化師がポーズを決める。側を飛ぶのはオーガ衣装のフェアリーだ。
「すご〜い」「可愛いね」
客達の歓声と拍手が響いた。
街外れの期間限定ホラーハウス
楽しい呼び声に背を押されてお客達が次々と並び始める。
「ひと〜り、ふた〜り‥‥ククク」
「おねーさん? お客さん」
慌てた受付嬢が代金と引き換えに木板を渡していく。
「楽しみやなあ」
「来てくれて嬉しい!」
「‥‥さすがに、緊張しますわね」
「今日は宜しくお願い致しますわ」
「俺こそよろしく」
「まあ、楽しむとしよう」
「今日は貴方をエスコートします」
楽しげなお客達を数えながら、
「おや?」
受付嬢はふと目線を前にやる。そこには一人木に背を預ける女性が。
「どうしたのでしょう?」
呟きながらも、やがて彼女は闇に消える。
ゴーストハウス開幕である。
○本多空矢(eb1476)の場合
お化け屋敷は何処の国でも夏の風物詩だな。と空矢は思った。
「ジャパンの物とどのように違うか興味深いのう」
キョロキョロ視線を動かす相方は楽しんでいる。
だが、悲鳴を上げる彼女というお化け屋敷の定番図は相方が架神ひじりでは期待できまい。
「さて、何が出てくるやら」
自嘲風味の笑いを浮かべ空矢は一歩後ろから歩く。
さっきのはしょぼかったと思う。濡れ布巾が釣竿で吊る下げられていたチャチなもの。
「まあ、我々を動じさせるものなど‥‥ん?」
ふと、身体に何か当たった。見れば足を止めた相方。
「どうした‥‥?」
言いかけて空矢も気付く。前が見えない。霧で視界が遮られている。
そして! 突然の目の前に魔女が現れた。大鍋をかき回す魔女が手招きした。
「おいでなさ〜い」
声に足が止まった。油断したと思う。足が動かない。
魔女は二人をあざ笑うように近づき‥‥
「グワアッ!!」
二人に覆いかぶさった。
「ひえっ!」
突然の出現に身を引く相方。
庇うように空矢は手近なものを掴み身構える。
顔面を腫らした魔女はそれを見ると
「ケケケ‥‥」
笑いを残して消えていった。
「大丈夫か?」
「ああ。驚いた」
手を差し伸べながら空矢も驚く。
目の前にレアな光景が展開されている。彼女の動揺する顔が。
(「外に出たらこれでいっぱいやるか。‥‥いい肴もできたしな」)
手にしたワインの瓶をしまい
「行くぞ!」
彼は歩き出した。彼女の前を。
○ティズ・ティン(ea7694)の場合
銀の髪の少年と白い髪の少女が手を繋ぎ歩いている。
「来てくれるか心配だったの!」
「用事があって来たのですが、僕も嬉しいです」
「ありがと。ヴェル」
照れたように少女は下を向く。無敵のメイド戦士もとい騎士見習いは少しお休みだ。
「どんな仕掛けかな? あの人がいたから凄いよ。きっと」
『あ、皆さんもここに?』
さっき出会った忍者を思い出しティズはくすと笑う。
「ま、大丈夫。危なくなったら私が守ってあげるから」
「はい」
やがて案内の妖精も消えた暗闇の中で、そいつは現れた。
「あ! あれなに?」
食堂の中でべちゃべちゃと何かを舐めるそれは巨大なハートマーク?
「み・た・な〜!」
「ワーッ!」
髪を振り乱しながら怪物はティズの足元に飛び込むと
「ケケケー!」
奇声を上げ恐るべき素早さで走り去っていった。
「何‥‥あっ! ゴメン!」
ティズは手を離す。しがみついていた少年の腕から。
「お化けとかは怖くないんだけど、唐突に来るのはちょっとびっくりするね」
「大丈夫です。ティズさんは僕が守りますから」
力強く言い今度は少年が手を差し伸べる。
「うん」
ティズは暖かい少年の手をしっかりと握り締めた。
○ロッド・エルメロイ(eb9943)の場合
「ミス・木下。大丈夫ですか?」
振り向いたロッドに木下茜ははい、と答えた。
彼女を守るべくロッドは誠実なイギリス紳士の完璧なエスコートで彼女の手を取り一歩前を歩く。
真面目な二人。しゃべりながらだと恐怖がまぎれる事もあり、会話はお化け論から故郷の話、人間の価値観までに及んだ。
「生前そのままのゴーストと出会う事はまず有りません。そんな思いが我々にモンスター以外にゴーストと言う存在へ思いを巡らせ、お化け屋敷を作り出すのでしょう。その意味で言えばお化け屋敷を作り出す人がいる限り人間の本質というものは‥‥」
「ロッドさん!」
突然二人の前に、スーっ。音も無くの女性の影が現れた。
「何でしょう? 人?」
白いヴェールの女性はロッドが手を伸ばし手を触れた瞬間
「あっ!」
まるで砂が崩れるように消え去った。
「実体はあった‥‥ん?」
指に触れた灰を叩いてからロッドは灰の中から広いあげたものをそっと、茜の髪に付ける。
「ミス木下。お似合いです」
微笑む彼女を見てロッドは思った。きっと人の本質はいつの時代の誰も変わりはしないと。
大事な人の笑顔を望む思いは、きっと。
○九紋竜桃化(ea8553)とクロック・ランベリー(eb3776)の場合
これも一種のデートであるかもしれない。
「故郷では肝試しとして夜中への神社へのお参りや、古びた家屋を楽しんだ物ですわ」
「冒険者として夜を恐れてはいられないからな」
豊満な桃化の身体が触れるたび、見えるたび鼓動が上がるが騎士として冷静さを作ってクロックは答えた。騎士としての自分から学びたいというのだから、恥ずかしい所など見せられない。
「私もいずれ騎士として自らを高めたいと思っています。どのような事を気をつければ良いでしょうか?」
彼女の問いに体験談を交えてクロックはいろいろ学んだ事を話した。
「でも結局のところ‥‥ん!」
足と言葉を止めクロックは桃化を手で押さえた。
見れば大広間をくるくると不思議な影が回っている。
何だろうと思った瞬間
「‥‥!!」
彼らの背後で聳え立つ気配があった。荒れた髪、血のついた鬼面。そして振りかざされた金棒。
「鬼!」
驚く桃化を庇いクロックは手を握ると
「あっ!」
走り出した。暫く走った所で手を離す。
「故郷の鬼とそっくりでした。びっくりしましたわ」
桃化はだが、何かを懐かしむような表情を見せる。だからクロックは
「故郷を離れ、新たな道を歩むには決心が要るだろう」
今あえてそんな彼女に心からのアドバイスを送ることにした。
「慎重に考えるといい。どんな時でも後悔しないように」
と心からの思いを込めて。
○藤村凪(eb3310)の場合
この屋敷の事は裏も表も知っている。
「何せ去年は従業員やったしなあ? あ、魔女さん。おつかれさん!」
受付係に軽い挨拶をして凪は一人軽やかにお化け屋敷に入って行った。
一歩入ると立ち込める霧。
「おぉー♪ ええ感じに霧がでとるな。あかん、どきどきしてきたわ〜」
言いながらも実に楽しげである。
そんな彼女を可愛い子供お化けが出迎える。
「こっちへおいで」「おいでよ‥‥」
「埴輪さん、おらんかな? ん、あれは座敷童子さんかいな」
なじみあるジャパンのお化けだからか‥‥凪は引き寄せられるように近づいていき
「あぎゃ!」
バチン!
床とキスをした。見れば足元に、闇に紛れ紐が仕掛けられてあったのだ。
「イテテ‥‥ひやあっ!」
顔を上げた所で凪は首を竦める。ちょろと首筋に走る小さな寒気。恐る恐る振り返ると
「うわっ! 蛇?」
紅い舌と黒い瞳が0距離でこんにちわする。
だが同時に
「大丈夫?」「怪我は無い?」
心配そうな顔達が周囲に集まってきた。脅かすよりも先に転んだ人が心配になってしまった可愛い童子達。
「大丈夫や。ありがとな。かわええな♪ あんたら。そーやな、飴いるか〜?」
「わ〜い!」
いつの間にかピクニックになってしまった子供達を凪と蛇を連れた少女は苦笑しながら見つめ、ウインクを交わしていた。
○セレナ・ザーン(ea9951)の場合
ガラガラ、ガッシャン!
二人の少女は突然響いた音に、二人で抱き合い首を竦めた。
さっきはターニップヘッドに脅かされ、今度はゴーレムの列から大音響。
「暗い所なんかこわくないもん!」
そう言っていた少女も今は、自分の服の袖をしっかりと握り締めている。
「大丈夫ですか? ヴィアンカ様」
「う、うん。平気」
「さぁ、参りましょうか」
少女の信頼を守るように、セレナは小さな手に自分の手を重ね、心も重ねた。
彼女には闇を恐れて欲しい、人を信じて欲しい。悲しい目にあってきたこの小さな少女の自分は無条件の味方でいたい。その思うからだ。
「!」
手は握り返される。
感じた小さな喜びを胸にしまいセレナは銀の少女と共に歩き出した。
○シルヴィア・クロスロード(eb3671)の場合
「あー楽しかった。面白いものも拾ったね。今度読んでくれる?」
「良かったですわね。ええ、勿論」
同行者の笑みに頷いたセレナは、
「あっ!」
木の前に佇む女性に顔を翳らせる。自分達よりも早く来ていた彼女。
自分達が入った時のまま通りを見つめている。
通り過ぎる人影に一喜一憂する彼女が誰を待っているかは解っているつもりだ。
だが彼は
『仕事がある。悪いな』
といい娘をセレナに託した。
なればここには来ないだろうと思う。
来てあげて欲しいという気持ちと他の思いも絡み合う中、お化け屋敷の閉場時間がやってきていた。
「やっぱり、無理ですか‥‥」
呟いて木から離れたシルヴィアの背中にふわり、マントが降りる。
「えっ?」
「夕刻は冷え込んで来た。風邪は引くなよ」
「パーシ様!」
「お父さん!」
駆け寄ってきた少女を抱き上げ、彼は微笑を娘に向ける。
彼は娘を迎えに来ただけかもしれない。けれど
「ありがとうございました‥‥」
シルヴィアは頭を下げた。
鼻腔を甘い香りが擽る。その意味も彼の心も彼女には伝わっていたから。
夕闇に吹く風は秋の気配。
夏の終わりと夢の終わりを告げるようにやがてホラーハウスの扉は静かに閉じた。
いくつかの思い出と夢を残して。