迷子の迷子の月妖精
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月22日〜09月27日
リプレイ公開日:2007年09月29日
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●オープニング
それは、今から一月ほど前の満月になる筈の夜。
「やれやれ、今日は雲が多いのお。せっかくの月夜が台無しじゃ。さっきまで、少しは見えておったのに‥‥」
宮廷図書館長エリファス・ウッドマンはそう呟きながら開けかけた窓を閉めようとした。
「まあ、来月は東洋で言うところの年に一度の美しき月夜と聞く。それを楽しみにすると‥‥ん?」
見上げた空。雲に覆われた高いところから
「なんじゃ? あれは‥‥」
小さな何かが‥‥落ちてくる?
「危ない!!」
彼はとっさの魔法で庭の木々を動かす。
生い茂った葉がクッションになってそれは、なんとか受け止められた。
庭に飛び出した彼は、それを見て呆然とする。
「この子は‥‥」
銀の光を宿したそれは、小さな月の子供だった。
「その月のエレメンタラーフェアリーが迷子になったから探して欲しい、とおっしゃるのですか? 図書館長様」
確認するように問うた係員に、ああ、とエリファスは頷いた。
「今から丁度一月前の事じゃ。ワシの家の庭にその小さな月妖精が空からおっこちて来たのだ」
「空から?」
そう、ともう一度エリファスは頷く。
「聞けばお願いがあるから、お月様に会いに行こうとしたら落っこちた、と。そのお願いは、何じゃ? と聞いたら忘れたと言うのじゃ。まあ、エレメンタラーフェアリーに整合性のある会話を望んではならんとは解っておるのじゃが」
『おいていかれた〜』『光の中に消えちゃった〜』
そう言って泣くフェアリーをエリファスは結局家に置く事に決めた。
面倒見が良いのは彼の性分である。
丁度ひと夏を共に過ごした子供達がいなくなって寂しかったから、というのも勿論あるのだが。
「そして、その子が一昨日からまた消えてしまった。家に帰ったというのならば良いのじゃがワシのところに来たときが来たときじゃからな。心配なのじゃ」
だから、探して欲しい。それが今回の依頼だった。
「月の、ということは銀の髪に銀の蝶の羽、ですね。男の子? 女の子?」
「女の子。じゃ。主は女である、と言っておった。一ヵ月後、一ヵ月後と繰り返し言っておったので何かあるのかもしれん。その日に主が戻ってくるとか‥‥」
「では、その主を探して歩いているのかもしれない、ということですね」
「おそらくキャメロットから出ているという事は無いじゃろう。主のところに戻った、というのならそれはそれでよい。だが万が一、ということもある。なんとか見つけ出してくれんか?」
そう告げるエリファスの瞳が微かに伏せられたのを、係員は見ないフリをした。
そして依頼をそっと貼り出したのだった。
「いない? いない?」
『一ヵ月後、ここに来るのです! いいですね?』
「どこ? どこ?」
飛び回る小さな妖精は、ふと空を見上げた。
「あそこ! たかい! たかい! 街で、一番! きっと見つかる。きっと!」
空を蹴り、飛び上がる。直後
「一体、どこに行ったの? あの子は‥‥」
心配げに建物の周りを回る女性の姿を見ることなく‥‥。
●リプレイ本文
○月のなぞなぞ
それはお月様からのなぞかけだったのかもしれない。
「まるで何かの掛詞か、なぞかけのようですわね。一ヵ月後、光の中。置いていかれた小さな月の子供‥‥」
確かに変わりかけた秋の空気の中サリ(ec2813)はそう呟いて空を見上げた。
あと少しで月は真円を形作る。
「なぞかけか。言いえて妙だな‥‥」
小さく笑ってジョン・トールボット(ec3466)は腕を組み答える。
「ならば、答えは『月道』と見るが皆はどう思う?」
「私も同感です。おそらく主と一緒に月道を渡る筈だったのが何らかの手違いではぐれてしまったのでしょう。時期的も合います」
ジョンの言葉にアルトリオ・アルフハイム(ea1302)も同意する。
「なるほど! なら、えれめんたらーふぇありーのお願い事って言うのは『月道を開けて欲しい』か『ご主人様に会わせて』かで、1ヶ月前にお城の塔からお月様に向けて飛んでって‥‥疲れて図書館におっこちた。うん! それならつじつまが合うね! ジョンくん冴えてるぅ〜」
アネカ・グラムランド(ec3769)に褒められて照れた様子をジョンは見せたが‥‥直ぐに真顔になって仲間と、そして依頼人エリファス・ウッドマンに向かい合う。
「ならば、捜索場所は絞られる。主人と待ち合わせしたと思われる月道の塔と‥‥」
「あとはお城の塔、という可能性もあるのではないでしょうか?」
「それじゃあ、二手に分かれればいいね。でも、まずは皆で図書館長さんと月道へ行って、ご主人さん、探そー!」
反対するものはいない。
全員の足が動く前、
「やれやれ。まったく人騒がせな妖精じゃ。大人しく待っておればよいものを、世話をやかせおって。いい迷惑じゃ。世話をかけるのぉ。皆」
肩を竦めエリファスは冒険者達に言葉をかけた。
「お気になさらないで下さい。図書館長様。微力ながらお手伝いができれば私達も嬉しいのです」
サリの言葉にすまないと、繰り返しエリファスは心配そうに空を見上げる。
空には丸さを帯びた月が昇り始めた。
「もう五日。腹をすかせておらねばよいが‥‥」
「大丈夫よ。エリファス館長様」
口では迷惑と言いながらも心から妖精を心配しているであろうエリファスにエルティア・ファーワールド(ec3256)は自分のバスケットを開いて見せた。
中にはジャムや野菜を挟んだパンが、飲み物の入った小瓶が詰められている。
「早く見つけて、皆でお月見致しましょう」
「うわ〜。美味しそう! よし、やるぞ〜! 目指せ、お月見パーティ!」
美味しいものの香りにテンションが上がったのか、アネカは明るく腕を空に上げる。
「一ヵ月後と判ってはいても、ただ待つというのは妖精さんの性に合わなかったのかもしれませんね」
明るく、そして優しい。
エリファスは囁いて先を歩いて行ったアルトリオの後ろを、静かに歩いて行った。
冒険者の思いを胸に感じながら。
○歌の呼び声
〜♪〜〜♪〜♪
柔らかい調べが夕闇の広場に響き渡った。
これが日の精霊とかであれば陽気で楽しい音楽の方も、と思ったが月妖精にはこちらの方が似合いだろうと考えながらアルトリオは竪琴を爪弾いていた。
(「図書館長様も子守唄などが好きだ、とおっしゃっていましたしね」)
月道の塔の周りには家もあるし、冒険酒場も近い。
まだいくらかの人通りのある宵に、まったく顔も知らぬ。いないかもしれない相手を探す為。まずは気をひきつける事を彼は選んだのだ。
(「この音楽を聴いて妖精さんがやってきてくれれば一番いいのですが‥‥」)
今頃は仲間達が周囲の聞き込みに懸命だろう。彼らと、そしてどこか寂しげな表情をした図書館長を慰める意味も込めてアルトリオは音楽を奏で続けていた‥‥。
「フェアリーの主人はいないか? 火の‥‥ん?」
大きな声をあげ続けていたジョンは音楽に気付き声のトーンを少し落とした。
「あら、アルトリオさんの竪琴。ステキですわね」
「そうだな。心に染みる‥‥ん?」
ふと、足を止めジョンは目をある人物に留めた。一人の黒髪の女性にだ。
さっきも捜索中に見かけた彼女は、今、音楽に足を止めている。そして、あれは‥‥歌を歌っている?
「サリ殿。確かこの間の月道で戻ってきた女性が、はぐれた妖精を探していたようだったと職員が言っていたのだな?」
「ええ‥‥ジャパンの女性らしい‥‥と‥‥あら?」
サリも気がついたのだろう。
頷きあった二人は二手に別れた。サリは仲間を呼びにいきジョンは‥‥
「失礼。何かお探しなのかな?」
騎士らしい礼儀をもって、女性に話しかけた。
「歌のお邪魔をして申し訳ない。先ほどまで人探し顔であったな? 私も人を探していたもので、気になってしまった」
「フェアリーの主を、とおっしゃっていましたね? 私も、大事なフェアリーの友達を探しているのです。あの子は歌も好きだったので、歌を聴いて出てきてくれないかと」
「フェアリーの友達? では、何故‥‥」
「あの子は月のエレメンタラーフェアリーなので‥‥」
女性は悲しげに顔を伏せる。その彼女の前に立ち
「お探ししていたのは貴方だ」
「えっ?」
ジョンは手を差し伸べた。
その時図書館長とアルトリオをサリが連れて走ってくる。
「どういうことですか?」
「それは‥‥ん?」
走ってくる仲間達の様子を見て、ジョンは瞬きした。
「どうしたんだ? そんなに慌てて‥‥それにアネカ殿達は‥‥」
「大変です。お城の塔の上に‥‥あの子が!」
息を切らせながらサリは答える。
「「えっ?」」
驚いた声は二つ同時だった。ミヤと名乗った女性と、ジョンと。
「空を見上げたら塔の端の方に、銀の羽が見えたのです」
「ゆらゆらとよろめいて、また落っこちやしないかと‥‥今、アネカさんとエルティアさんが向かっています!」
「解った。私も向かおう。詳しい話は彼らに‥‥」
「お願いします!」
駆け出したジョンを見送ったサリは事態が解らず呆然とする女性に
「はじめまして。私はサリと申します。そして‥‥」
仲間達と、自らの依頼人を紹介し、事情を説明したのだった。
○助けに来たお月様
夜中の城を、二人は駆け抜けていた。
心配そうにアネカはまだ遠い塔を見上げる。雲に月が隠れて上は見えない。
「間に合うかな? 大丈夫かな?」
「大丈夫よ。きっと!」
エルティアの言葉に頷いてアネカはスピードを上げた。
深夜、塔の上の銀の光に気付けたのは月光と偶然に助けられたとしか言いようが無いが‥‥、見えた様子はどうみても普通では無いとエルティアは気付いた。
「縦にふらふらしているのよ。あの光は‥‥まさか!」
宮廷図書館長の家に落ちてきた時と同じパターンかもしれないと、思った瞬間二人は駆け出していた。
「あっ! あれは!」
後少し。そう思った時、エルティアは空を指差した。手からバスケットが落ちる。
風が陰っていた雲を吹き飛ばし、月を呼び出す。
導く美しい光湛える十四夜の月に手を伸ばすように高い塔の天辺から銀の光が飛び立った。
「危ない!」
アネカが走り出す。あまりに高い塔の上からの飛行。
瞬間、光はまっさかさまに地上に落下してきたのだ。
バックパックを投げ、身軽になったアネカはさらにスピードと目算をつけて落下地点に入る。
「キャッチ‥‥できるか!」
踏み込んだアネカ。手に伝わる衝撃を覚悟し彼女の無事を心配したのだが‥‥
ぽすっ。
「あり?」
思ったよりもずっと軽い手の感触に瞬きする。
手の中に包まれた小さな月の妖精は‥‥
「たべもの〜、たべもの! おつきさま。いただきま〜す」
一目散に向かって飛んでく。助けた筈のアネカの手を蹴って脱出する。
落ちたバスケット。そこに散った食べ物に向けて。
「ハハ‥‥ハハハ。お腹、すいてたのかな?」
「フフフ。可愛いわね。良いわよ。全部食べても」
許可など待たずにバスケットにもぐりこんだ妖精は、助けてくれたお月様。
冒険者の笑い声が二つから三つになった時。
ぴょこん、と顔を上げて首を傾げたのだった。
○お月様にお願い
「もう! 心配をかけて」
こつん! 指で小突かれた頭を
「うきゅ!」
小さな月妖精は大きな仕草で押さえた。
「ハハハハハ」
周囲から柔らかで優しい笑い声がいくつも響いた。
図書館長の家の庭。その庭の思い思いの場所に腰を下ろして彼らは同じものを見つめていた。
美しい、満月の月を。
「よい月夜じゃの‥‥」
「ジャパンでは、中秋の満月を十五夜、と呼ぶのです。月の美しさはどの国でも変わりませんね。この子と出会ったのもこんな夜だったかしら‥‥」
戻ってきた友達を、ミヤは大事そうに見つめ、妖精も
「だいすき♪ ミヤ。だいすき。ごしゅじん♪」
と身体を摺り寄せた。
主人と呼ぶが、お互い信頼しあった友人同士。
再会を喜ぶ気持ちと半分、冒険者は複雑な思いもある。
だからこの場を用意し、彼らを誘ったのだ。
この月見の場に。せめて思い出を作れるように‥‥。
「ジャパンの料理も作りたかったのですが‥‥材料が高くて」
「言って下されば持参したのですが、この子を探して下さったお礼がこんなものですみません」
「いえいえ、なかなか小粋でよいですよ。この香り袋。よい匂いですね」
「このパンも料理も、ワインもお茶もみんな美味しい!」
楽しげな笑顔。暖かな時間。
それを一歩退いて見ている図書館長に、ジョンはワインとカップを差し出した。
「遠慮はなさらず。貴方の提供だ」
「そうじゃの」
頷き彼はカップをとる。
「置いていかれる寂しさはいつになっても慣れぬな」
「けれど、また出会いもある。また良い出会いもあろう」
苦笑するエリファスとカップを合わせ、ジョンは空にそっと杯を掲げた。
「月夜に乾杯だな‥‥」
「ごしゅじんにあえますように」
「あの子が無事でいますように」
「胸がぺったんこじゃなくなりますように」(?)
月は今日も美しく輝く。
人と妖精と多くの思いを、願いを受け止めて‥‥。