大きな蕪の逆襲?
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■ショートシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月12日〜10月19日
リプレイ公開日:2007年10月20日
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●オープニング
おじいさんは畑に蕪の種を撒きました。
「甘い、あま〜い蕪になれ。大きな‥‥いや、大きくはならんでいい。元気の良い蕪になれ‥‥」
そして大事に大事に育てました。
蕪はその愛情に応えるように、ぐんぐん、ぐんぐん育って‥‥
とても大きく、そして元気の良い蕪になりました♪
「なんじゃああ〜。ワシの畑は呪われとるんかあ〜、かあ〜(リピート)」
おじいさんの絶叫が今年もまた空に、畑に響いたのでありました。
「近くの農家から、今年も大きな蕪を退治してくれという依頼が来てる」
係員は複雑そうな顔で、その依頼書を読み上げた。
「大きな蕪の退治? 今年も?」
若い冒険者の中には去年の事情を知らないものも多いだろう。
係員は説明をする。
去年、そして一昨年とこの畑では秋になると大きな、大きな蕪が何故か生まれるのだと。
そして、例年退治の依頼が出される。もうこれは風物詩にもなっていた。
「本当に大きな蕪なんだ。しかも、生きて、動く。蕪のお化けってことだな‥‥」
体長約2.0m。葉っぱを入れれば3mは超えそうなその蕪は夜な夜な畑の中をごろごろと転がっているのだという。
去年に比べればやや小ぶり。だが、元気のよさはすこぶる付きでごろごろ、ごろごろと畑の中を転がっている。勢いあまって畑を囲む柵に体当たりをしているので、いずれ柵を破って外に逃げ出してしまうかもしれない。
「もし、蕪に逃げられれば周囲の畑にも被害が及ぶ。その前になんとかして欲しい、ってのが依頼だ。で、もう一つ。これも恒例なんだがな」
係員は笑みを浮かべて言った。
「もうじき、ハロウィンだ。この時期の蕪はジャック・オ・ランタンにするのに高く売れる。実際、昨年までもケンブリッジや好事家にけっこうな値段で売れたらしい。今年も、大きな蕪ができた、ってんで楽しみにしている奴もいる。引き取り手には困らないぜ。まあ、壊さず、形を保って退治できた場合に限り、だけどな」
植物系モンスターを倒すのは比較的簡単だ。火をつけて燃やしてしまえばいい。
だが、それをしないで倒せるかどうか。冒険者の工夫が試される、というわけだ。
相手は農家なので保存食は支給され、宿と食べ物の心配も無い。
「焼き蕪にエール、なんてのも乙な話だ‥‥。ああ、焼いちゃまずいんだったな。まあ、ハロウィン前だし、祭りを盛り上げる意味でも協力してくれないか?」
ハロウィンの祭りにはジャック・オ・ランタンが欠かせない。
祭りを楽しいものにするために、そして畑の主の苦労を少しでも減らすための依頼に、冒険者はどこか頬がほころぶのを隠すことはできなかった。
●リプレイ本文
○呼ばれてきた冒険者
一番初めの異変はもう数年前の事と老人は思い返す。
畑に巨大なカビの玉ができてしまい、その駆除に冒険者の手を借りた。
そう、あの時が最初だ。巨大な蕪が畑にできたのは。
それ以来、まともな収穫が望めないこの畑。
でも‥‥今年も現れた巨大蕪を見つめながら思う。
‥‥何故だろう。この畑に蕪以外のものを植える気になれないのは‥‥。
冒険者達はその日、揃って畑の縁に立ち、違う声で同じ意味の言葉を、同じ気持ちで吐き出した。
「でっかい蕪じゃのお〜」
「大きい蕪ねえ」
「本当にでかい蕪だなぁー」
「ううむ、これはまた大きくて‥‥美味しそうな蕪じゃのう‥‥ん?」
突然、今まで動かなかった蕪が冒険者の方へと転がってくる。
「わああ!!」
慌てて柵を飛び越え畑の外へ。
ドガン! 大きな音を数回立てて蕪はやがて静かに動きを止めた。
「ふむ、美味しそう、と言ったのが聞こえたのじゃろうか?」
顎に手を当てて考えるような仕草の朱鈴麗(eb5463)にサラン・ヘリオドール(eb2357)はどうかしら? と肩を竦めた。
「耳が無いから違うと思うけど‥‥何かを感じたのかもしれないわね。でも私、こんなに元気に動き回る蕪さんは初めて見たわ」
「蕪が動く自体、この畑以外ではあんまり見ないと思うんだけどね」
軽くツッコみを入れるセティア・ルナリード(eb7226)。彼女の口調もどこか楽しげだ。
「こんなのが毎年出るなんて、じいさんも大変だな。つーかなんでこの畑だけで出てくるんだろうなぁ‥‥」
「はっきりとは解らないけど。呪いとか魔法の介入とかは無い様だから、おじいさんの畑がお気に入りなのかもしれないわね‥‥あら? 何をしているの」
ふと、気付いたという顔でサランは横を見る。気がつけば青柳燕(eb1165)がペンを銜えているのだ。
「いや、なに。珍しい植物ぢゃからの、記録しとくに越したことはないとおもってのお」
羊皮紙を広げてシコシコ。本当にスケッチ中のようだ。
「へえ、なかなか上手だね。でも、比較物がなくて動かないと普通の蕪に見える」
セティアの言葉に燕も頷く。
こうして、側で暴れ、転がる様子を見ているとそうは絶対見えないのだが。
「ついでじゃ。この絵で打ち合わせでもしようかの。今回の作戦はじゃな‥‥」
「そうね。木の板を利用して‥‥ここを、こう‥‥で、逃げないようにセティアさんに‥‥」
自分の絵が思わぬ役立ち方をしていることに苦笑しながらも燕も、話に加わり大きなかぶ捕獲大作戦は動き出したのだった。
○元気なかぶ?
じゃくじゃく、ざくざく。
「おーい、これでよいのか?」
「おお! かたじけない。これでかなり楽になる」
老人が納屋から引き出してきた農作業用の鋤を自分の馬につけて燕は頷いた。
声は若干静かに。
蕪に耳があるとは思わないが、それでも知られたらやっかいなことになる。
木の板を担いで運ぶ、女性陣も同じようにやや慎重に静かに作業を進めている。
畑の敷地内に入ると蕪が起きるので、ここは柵の外側。あぜ道と収穫が終わった休耕地を冒険者たちは老人から借り受けていた。とりあえずは蕪を捕獲する為の仕掛け作りだ。
「昨年と違って人手がないからの、上手くいくといいのぢゃが‥‥」
「大丈夫。足りない人数は知恵でかばーじゃ! この作戦に自信あり!」
胸を貼る鈴麗ほど楽観はできないが、冒険者達はそのまま準備を続ける。
とにかくはどんな依頼も一緒。やれることをやるしかないのだ。
「それで、そちらの準備の具合はどうじゃ」
鈴麗の問いに燕は腕を組む。
「この調子なら明日昼過ぎにはなんとかなるとおもうのぢゃが‥‥」
「解った。明日は孫やばあさまにも手伝わせよう。無論、わしも力を貸すぞ」
「では、決行は明日の明け方。その頃が多分、一番寒くなると思うから‥‥」
空を見上げるサラン。そろそろ日焼けの心配もいらなくなってきた。
代わりにどんなに汗を流しても吹き始めた秋風に冷えてしまう仲間の身体の為に暖かいものでも用意しようと‥‥。
夜になると、蕪はなぜかごろごろと畑内を転がり回る。
ゴンゴン、ガンガンと柵にぶつかる音がする。
本当に今年の蕪は元気がよい。
見張りとして見つめながらもう一枚。燕は蕪の姿をスケッチした。
作戦が上手くいけば、おそらくこれが見納めになるだろうから。
○大きなかぶ捕獲作戦
基本的には、今年の作戦もシンプルだ。
けれど
「うわああっ!」
「燕さん!」
サランはあわてて燕に向けて駆け寄った。そして、大きな葉の第二攻撃が来る前に、数歩後退する。
「蕪の葉というのはもともと少し硬いものじゃが、あそこまで大きいと立派な凶器じゃのお」
感心したように鈴麗は言う。確かに鞭のようにしなるあの大きな葉に叩かれたら、ただでは済むまい。
けれども、近寄らないわけにはいかないのだ。
「なんとかこっちまでおびき出してほしいのじゃ! 頼んだぞ!」
「そうは言っても‥‥な!!」
ごろごろごろ!
今度は突進、体当たり攻撃。まっすぐやってくる白い怪物をとっさに燕は避けて膝を着いた。
ゴン! 柵がゆれる鈍い音。
見かけによらず敏捷な蕪に、攻撃している余裕もない。
「まあ、予想していたことじゃがな‥‥。よし! そろそろ行くぞ! 閃!」
「ワン!」
頷きあった一人と一匹は、タイミングを合わせて、蕪の右と左に駆け出し蕪の後方(? 突進してきたのとは反対方向)に回り込んだ。
「ほれほれ、こっちぢゃよ」「ワンワン」
挑発するように声を上げ、蕪の下部を蹴る。
と、同時、蕪は微かに勢いをつけるように揺れると今まで以上の勢いでの突進を始める。
ほんの僅かのタイムロスに助けられ、先行できた燕達はある場所まで全速力で走った。
そして、その場所に来た次の瞬間、背後ほぼ0距離まで近づいた蕪から
「閃!」
必死に横に飛びのいたのだ。
グワン! という大きな音と バリン! 何かが裂ける音が同時に聞こえた。そして‥‥もうひとつ。
バシャン!
水の弾ける音が。
「やったかい?」
心配そうに見るセティアの目の前で、蕪はゆらゆらと揺れ‥‥まっさかさまに近い形で緩やかな坂を下っていく。
「よしっ! 大成功なのじゃ。水で濡れた氷は滑る! 晴れた朝、氷で滑って何度も転んだ事が役に立ったのじゃ!」
嬉しそうに胸を張る鈴麗。なんともコメントしづらい、という表情のサランは肘でまだ笑い続ける鈴麗に合図をする。
「おお! いかんいかん!」
我に返った鈴麗は慌てて坂の下まで走っていく。落とし穴のさらに奥、じたばたじたばたともがくように葉と身体を動かす蕪の姿があった。
ほぼぴったりと、穴に填まり、石のふたをされている。
「う〜ん、やっぱりダメだな。一瞬なら動きを止められるけど、抵抗されてはじき返されてるのが解る」
一足先に来てプラントコントロールの呪文を試していたというセティアは悔しげに呟いて手を握った。
やはり呪文でモンスターを操るのは難しいようだ。
「上手くいけば、蕪に自分から出てきて貰えるかと思ったんだけど、やっぱりダメみたいだね」
「例年通り、地道にやるしかないようぢゃの。‥‥では、頼む、皆の衆」
日本刀「霞刀」を抜いた燕の言葉に、魔法の使い手二人は頷いて、それぞれ呪文をかけた。
コアギュレイトとシャドウバインディング。
二つの呪文にまだ微かに揺れて暴れていた蕪の動きは完全に止められた。
それを確かめて燕は蕪の上に飛び降りて、その根元に刃を突き立てる。
断末魔の悲鳴、は起きなかった。
皮が若干堅かったものの、ほとんど抵抗もなく、包丁で蕪を切るように刃はすんなりと食い込まれていく。
「大丈夫。美味しく頂くから心配せんで安らかにな‥‥」
鈴麗の祈りのような手向けの言葉が聞こえたか、聞こえなかったかは解らない。
だが、それから後この大きな蕪が動くことはなかった。
○美味しいかぶ
「いただきます! う〜ん。やはり新鮮な蕪はうまいのお!」
満面の笑みで出来立てのシチューとその中の蕪を頬ばる鈴麗を笑みで見つめながらも、仲間たちは同感の思いで
「美味しいですか?」
そう問うた老婆に頷いて見せた。
「折り入ってお願いがあるのじゃが‥‥」
蕪の退治が終わり、土の中から落とし穴に落とした蕪を掘り出した後、大真面目な顔で言った鈴麗の言葉は蕪が食べたい、だった。
いいですよと、微笑んだ老婆に渡した材料と、農家の取れたて野菜と大きな蕪で、この夜の晩餐はできていた。
サランも手伝い蕪のシチューに、煮物。去年冒険者に教わったという蕪のステーキをはじめとするちょっと変わった料理もが並び、労をねぎらう宴会は今、かなりの盛り上がりを見せていた。
「愛情こめて育てると蕪も巨大化するものなのじゃのお。いや、名人技じゃ」
「よしてくれ。もうこんなのはこりごりじゃよ」
「いやいやこれが最後の蕪とはかぎらぬ。いつの日か第3、第4の蕪が‥‥」
「やめてくれ。ほんとうになあ〜」
頭を抱える老人に
「でも、本当は寂しいだろ?」
セティアは優しく微笑み問う。
「ん?」
「蕪さんも、おじいさんの畑が好きなのですよ。私はまた来年も元気な蕪さんに会えると嬉しいわ」
「これは昨年ここに来た友人からあずかったもの。これを使い、いつまでも息災で仕事をして欲しいとのことぢゃ」
祝福された魔法の鋤を渡し、燕は微笑む。
「まぁあれだ、懲りずにまた来年も蕪の栽培がんばって。たぶんまた出るだろうけど、そのときは冒険者がなんとかするからさ」
冒険者達の励ましに
「そうじゃの。がんばってみるとするか‥‥」
老人は窓の外、そこに立つ白い顔を見つめて頷いたのだった。
その後大蕪は好事家に高値で引き取られた。
お礼の甘菓子と共にその値の一部は冒険者にも贈られた。
今年も彼はハロウィンの夜。
きっとどこかで笑っていることだろう。
また来年。そんな言葉にならない約束と共に。